サイコバグなお兄ちゃん、Vtuberになる。 作:にいるあらと
感想くれた方感謝っ!
〈映画化決定〉
〈カプ厨じゃないけどうさねこてぇてぇ〉
〈末永くいちゃいちゃして〉
〈今のあざみんヒロインだよ!〉
〈^^〉
〈うさねこー〉
〈うさねこていてい〉
〈こんないい相手いないよあざみん!〉
〈あーきゅんきゅんするんじゃー〉
〈逃げ足早いけど黒兎逃すなよあざみん〉
〈さっきの出撃のラストは完全にヒロインのそれ〉
〈絵描ける人ファンアート頼むわ〉
脱出してからというもの、ずっとコメント欄が騒がしい。勢いが衰えない。
ろくに読めない量のコメントが流れているし、悪い内容のコメントがあるわけでもない。なので盛り上がっているリスナーたちは放っておいて、私は次の出撃の準備をしていた。〈うさねこ〉という文字は見えたけど、それはいい。〈はふ猫〉は処罰の対象だけど〈うさねこ〉はいい。対象外だ。べつに他意はない。
マップを脱出する前も、脱出してからもジン・ラースがずっと話しかけてくるせいでちっとも進まなかった出撃準備をようやく終わらせ、私はマップ『市街地』の出撃待機画面に向かう。
ADZは出撃待機してからが長い。他のプレイヤーのマッチング状況もあるし、マップのグラフィックは繊細だし、アイテムの配置や敵兵の湧きなんかもあるんだろう。それらの読み込みに時間がかかる。
出撃の度に動きのない長いロード待ちの時間があると、次第に黙ることも多くなる。いつもの配信だと一人なのだ。リスナーに話すネタなんて尽きている。私はあまり雑談が得意なタイプじゃないし、リスナーとプロレスみたいなやり取りができる配信者でもない。
だが、ジン・ラースは私とはまったく違うようだ。
ずっと喋っている。手も頭も私以上に動かしているはずなのに、なぜ口もそれだけ動かせるのかわからないが、もうほんとに、ずっと喋っている。それだけ喋り続けられるのも配信者としての才能だ。
しかも一人でのべつまくなしに喋り続けるんじゃなく、機を見て私にも話を振ってきてくれる。
話を切り出して、まずはジン・ラースが話を膨らませて、いいタイミングで私にトスしてくる。打ちやすく上げられた会話のボールを私が返せば、ジン・ラースは綺麗に拾ってさらに広げてくれる。おかげで口下手で話下手な私でも楽しく話ができている。
ジン・ラースはお喋り好きであると同時に聞き上手でもあるのだろう。
なんだこいつ、絶対モテるじゃん。偏見だけど、変な女に付き纏われてそう。
『僕はだいたい十九時くらいから配信することが多いんですけど、美座さんはいつも早い時間から配信されているんですか?』
「わりとまちまちかな。今日みたいに昼過ぎから夕方をまたいでっていう時もあるし、深夜に配信することもあるし」
『夜の浅い時間とか、浅い時間っていう言い方も変ですけど、十九時とか二十時くらいにはあまりされてないんですか?』
「ううん、ふつうにやってることもあるよ。私は気が向いたら配信つけるって感じなんだよね。配信始める時間にばらつきが多くて、たまにリスナーから言われるもん。〈リアタイできない〉って」
『あははっ、たしかにリスナーさんからすれば配信を始める時間帯がばらばらだと大変そうですよね』
「まぁ、そんな文句受けつけないで好き勝手やってるけどね。一時間二時間前にSNSで『今日何時からやる』とかって通知してるだけマシだと思ってほしい」
〈黒兎健全な時間にやってんなw〉
〈めっちゃちゃんとしてて草〉
〈SNSみたら前日から通知してんぞ〉
〈ここではありえないな……〉
〈まじでリアタイさせる気ないでしょw〉
〈注意してやってくれ黒兎〉
『何時から配信するかは配信者の自由ですからね。僕だって、配信を始める時間をおおよそ固定しているのは、自分の生活リズム的にその時間がやりやすいと思った結果ですし』
「だよね。やっぱり自分のやりやすい時間にやるのが安定して続けられる秘訣なんじゃないかなって私は思ってる」
『僕も礼ちゃん……配信者の先輩に「やりたくないことはやらなくてもいい」と教えられていますし、もしかしたらそういう側面もあるのかもしれません』
「ほら、聴いてた? リスナー。ジン・ラースもこう言ってるんだよ」
『でも十九時くらいからでも配信できるのなら時間は合いそうですね。美座さんさえよければなんですけど、また今度コラボしてくれませんか? 一緒にやるADZがとても楽しくて』
なるほど、ふだん何時くらいから配信をしているかという質問は、コラボの話に繋げたかったから出した質問だったのか。たしかに今日みたいな時間からいつも始めていたのだとしたら、ジン・ラースの配信時間には合わない。コラボできそうかどうかの確認だったわけだ。
私もソロでやるADZとは比べ物にならないくらい楽しかったし、ジン・ラースとまた遊ぶ機会があればいいなぁ、なんて考えていた。
でも頭の中で『楽しかったな』『また一緒に遊びたいな』と思うことと、それを実際に相手に伝えることはハードルの高さがだいぶ違う。
ジン・ラースには気後れするような感情とか、素直に打ち明けることへの羞恥心とかないのだろうか。まぁ、なさそうではあるか、ジン・ラースだし。
「えぁ……お、あ、うん……お、おけ。や、やろうよ。私もADZの、なっ、仲間が増えるのは……うれ、うれし……よ」
〈テンパってて草〉
〈うさねこー〉
〈かわいい〉
〈かわいいw〉
〈いいやんいいやん!〉
〈てぇてぇ〉
〈末永く仲良くしてくれ〉
〈リアタイもしやすくなるしうさねこコラボ観れるかもだし最高だ!〉
〈どんどんやってけ〉
ジン・ラースも私とやってて楽しいと思ってくれてたんだ、っていう喜びやら嬉しさやら照れやら、面と向かって言われた気恥ずかしさで舌が急に動かなくなった。しどろもどろもいいところだ。
『本当ですか? わあ、嬉しいな。僕コラボする人って、だいたい同じ事務所の妹か、格ゲーが好きな同期くらいしかいないんです。一緒に配信でADZしてくれる人ができて嬉しいです』
「そ、そうなんだ。少ないんだね。まぁ、私も基本はソロ配信だけど」
〈わあ草〉
〈黒兎配信もソロなんか〉
〈草〉
〈黒兎かわいいw〉
〈反応かわええなw〉
〈うさねこてぇてぇ〉
〈配信でADZやってなかったのか〉
〈ええやん〉
〈黒兎今配信つけてねぇのかよw〉
〈あざみん相手いないしちょうどいいじゃん〉
〈うさねこー!〉
これだけ一人でも話せるし、私みたいな口下手相手にも話を振って盛り上げられるのだから、ジン・ラースは友だちが多くていろんなグループからコラボの誘いなんて引っ切りなしにあるだろうと先入観を抱いていた。単にADZを一緒にやる相手がいないだけだと思っていた。
相手に友だちが多いと『私みたいなぼっちがコラボ誘っていいのかな……』っていう後ろめたさがあるけど、ジン・ラースも私と同じくらいぼっちなら誘いやすい。いいことを聞いた。
『気軽に声をかけてくださいね。ここ最近は午後に時間を持て余すことも多いですし、妹もお勉強が忙しくて僕一人で配信してることも多いので夜でも大丈夫ですから。深夜となると少々難しいですけど』
「へぇ……生活リズム整ってるタイプの配信者なんだ。めずらしい」
『夜寝て朝起きるだけでめずらしいと言われる配信者界隈ってやっぱりすごいですよね。おっと、始まりましたね』
「もう湧いたんだ。はやいね」
ジン・ラースと話しているうちに長いはずのロード時間が終わり、マップに送り出された。
待ち時間の多いADZなのにジン・ラースとやっていると退屈しない。それは些細なきっかけからでも話を拾って、繋げて、広げられるジン・ラースのトークスキルがあってこそだろう。その内容も人の気分を害するものではなく、過度に他人をいじったり煽ったりしないでこんなにも続けられるのはすごい。
きっと、こういう配信者が人気になって、長く続けていけるのだろう。
それは私の配信でさえ数字として表れている。
ジン・ラースとやってからというもの、コメント欄がいつになく盛況だ。敵兵との戦闘前とかレアなアイテムを拾った時とかは一時的にコメントが増えることもあるけれど、今はコンスタントにコメントが投稿されている。
同時接続数もふだんより多い。あんまり観る人がいない時間帯にやることが多いという理由もあるけど、いつもなら三桁くらいが通常で、千人に乗ることも稀だ。でも今はいつもの五倍近い。SNSかなにかでジン・ラースが私の配信にいることが伝わって、ジン・ラースのリスナーが流入しているのかもしれない。
でもそのわりには、ジン・ラースリスナーであることをアピールするようなコメントは見当たらないのが不思議だ。急に同時接続数が増える理由なんてジン・ラース以外ないのに。これはジン・ラースのリスナーの民度がいいのか、それともジン・ラースがリスナーを躾けているのか、どちらだろう。
『美座さん、こっちに移動してもらっていいですか?』
「ふぁっ……あ、うん」
コメント欄を見ながら、この中にジン・ラースのリスナーもいるのかな、などとぼんやりと考えている時に声をかけられたので変な声が出た。気を抜いている時に耳に忍び込んでくるジン・ラースの声は心臓に悪い。名前を呼ばれるとなお悪い。
『ふふっ、すみません。驚かせてしまって』
「ちょ、ちょっと考え事してただけだからっ」
〈かわいいw〉
〈草〉
〈驚きかたw〉
〈かわいい〉
ジン・ラースについて行って、岩の影に隠れる。ここなら射線が限られるので安全だ。
そういえばメインアームを持ってこないように言われていたので、私は丸腰だったわけだ。いくらマップに湧いたばかりだったとはいえ、気を抜きすぎていた。
『くくっ、ふふっ……そうですね、失礼しました。ではさっそくお渡ししますね。まずこちらです。カスタムはしてますけど、使いづらい部分もあるかもしれないので確認しておいてください』
そう言いながらジン・ラースが落としたのは銃だった。
アサルトライフルだが、しかしこの形状は。
「CR4U1……い、いいのっ?」
『どうぞ、受け取ってください』
「えっ、だって、これ……めっちゃ強いやつ……」
『どうせ僕には使えない銃なので』
拾って確認すると、やっぱり最強格とされているアサルトライフルだった。しかもカスタムまでガチガチに施されている。アタッチメントを全部買ってここまで仕上げようと思ったらいくら費用が
〈最強ARやんけ!〉
〈いやそりゃ兎だと満足に使えないだろうけど〉
〈CR4U1は売っても結構するのに売らんかったんか〉
〈よくこれあげれるな……〉
〈カスタムガチすぎて草〉
〈使えないのにカスタムしてるのなんでよw〉
〈こんなん俺もほしいわ〉
〈全部一から揃えたらあほほど金かかるぞこんなん〉
〈これ以外の銃いらん〉
〈もうほかの銃いらないなw〉
「使えないのになんで売らずに置いてんの。しかもここまでカスタムして」
『最初は妹が始めた時用に保管してたんです。でも忙しいですしADZやる機会もなさそうなので、それなら倉庫で埃被らせるよりも美座さんに使ってもらったほうが有意義だな、と。カスタムはですね、やってると楽しくなってきちゃいまして……銃のデザインも格好いいので』
〈わかるw〉
〈黒兎しすこん?〉
〈カスタム楽しいよなw〉
〈しっかり男の子で草〉
〈ジンラスはシスコンだぞ〉
〈かっこいいもんなわかるぞ!〉
〈めっちゃわかるわw〉
〈俺もカスタムしてモデル見てる〉
〈時間かけちゃうよねw〉
〈時間も金もかけてる〉
〈正直わかるw〉
「かっこいい、って……。そんな理由でここまでやる? ……あ、リスナーもわかるんだ。そういうものなの?」
『ロマンとはそういうものです。あとこちらマガジンです』
「わ、マガジンまで……。しかも弾も入って……こっちも高い弾っ」
三十発入りのマガジンを三つ、しかも全部に高貫通高威力のAP弾が入っていた。
ADZは銃や弾薬、アタッチメント、マガジンに至るまでぜんぶ拾うなり購入するなりしなければいけない。扱う装備すべてに費用がかかってくるのだ。言及しているリスナーもいたけれど、これらすべてを揃えようと思えばとんでもない額が必要になる。私のふだんの出撃四回分くらいの収入が吹き飛ぶ値段にはなると思う。
揃えるのは大変だし費用もかかるのに、死んでロストしてしまえばそれまでなのだ。
どうしよう。この銃、私の命よりも価値が重い。
『資金も余っていたので、ここまできたらとことんまでこだわろうと思って弾薬もいいのを選んでおきました。どうせなので使い倒してもらえたら嬉しいです』
「こ、これ、私には重いよ……。こんなの使えない……」
『え? 筋力足りてませんでしたか?』
「所持重量的に重いって意味じゃないよっ。わかるでしょっ。こんなにいいものもらっても死んだらなくなっちゃう……荷が重いってことっ。なんでわからないのっ」
〈草〉
〈わかるやろw〉
〈たしかにこれはロストできないなぁw〉
〈筋力足りないは草〉
〈悪魔には人の心がわからないw〉
『ああ、そういう……これは失礼しました。でも、失くしてしまっても大丈夫ですよ。カスタムはできてませんけどもう一挺予備があるので、ロストしたらそちらを差し上げます』
「もらえるわけないでしょっ、ばかっ。返せるものないよ私っ。今回のこれだってお返しになるかならないかギリギリのラインなのにっ」
『別にお返しがほしくて美座さんにお渡しするわけじゃないですし。気持ちです』
「気持ちの問題だったら私だって気持ちの問題で受け取らないっ。なにかお返しが用意できたらその時にもらうからっ。物々交換っ」
『僕がアサルトライフルを使えないから美座さんに使ってもらおうとしているだけなんですけど……。無理に押しつけるのも悪いので、そう仰るのなら交換ということにしますけど』
「そうして。まったくもう……。えっと、私からは……これ」
なにかにつけて尽くそうとしてくるジン・ラースを押しとどめて、私は持ってきたハンドガンを落とす。
ジン・ラースの甘い囁きに乗ってしまうと自分がダメ人間になる気がする。
いや、確実になる。
ジン・ラースには妹がいるみたいだし、甘やかしスキルのレベルがかなり高い。あるいは悪魔としてのアビリティかもしれない。人を堕落させるのがうますぎる。こんなにドロドロに甘やかされては遠くない未来にダメ人間の烙印を押されることになる。
能力的にはジン・ラースのほうが圧倒的に格上だけど、あくまで対等な関係を望んでいる。私は戦友になりたいのであって、お姫様扱いされるつもりはない。
なのでお返しをする。お返しするにしてももらったものに対して見合っているとは言い難いけど、今の私にはこれが精一杯だ。
私が落とした銃を、ジン・ラースが拾った。
『わっ、これRCh-50じゃないですか。ほしいなってずっと思ってたんですけど見つけられなかったんですよ。いただいていいんですか?』
〈前に拾ったって言ってたやつか〉
〈黒兎にはベストのハンドガンだな〉
〈ネックは弾代くらい〉
〈プレゼント交換会みたいw〉
〈ほのぼのするわw〉
〈てぇてぇやん……〉
「ん。引率してくれてるお礼と、CR4U1くれたお返し。……でも、あの……ごめん。弾は装填済みのぶんしか用意できなくて……。私はフルカスタムもらったのに、それカスタムもできてないし……」
ここまでたくさん助けてくれたジン・ラースへのプレゼントなのでできればカスタムもしておきたかったのだけど、ここ最近は例のビルのワークのせいで何度かロストもあったし、配信外でも何回か死んだせいでお金も装備も底を尽きかけていた。前回の出撃分のアイテムでいらないものを売り払ってどうにか弾は用意できたけど、すぐに工面できたお金では装填分の五発が限界だった。
RCh-50の弾はハンドガンの中では間違いなくトップクラスの破壊力を有しているけれど、お値段まで破壊的な価格をしているのだ。消費者にとって悪い意味で価格破壊を起こしている。
くそう、配信外で死んでいなければ予備の弾も一リロード分くらいは買える余裕があったのに。
『僕がカスタムしてたのは個人的にロマンを追い求めて楽しんでいたからなんです。なので全然気にされなくていいんですよ。それよりもほしいと思っていたハンドガンをいただけてとても嬉しいです。でも、本当にいただいていいんですか? 僕はアサルトライフルを使えないので美座さんにお渡ししましたけど、美座さんはサブとしてハンドガン使えるのに』
「いいの。ジン・ラースのほうが有効利用できるでしょ。それに……RChを日常的に使えるほど、私は資金的な体力がないから……」
『ああ……。これの弾、とても強力ではあるんですけど、フリーマーケットで買おうとすると高いですからね……。セーフハウスの機能を使うと多少はましになりますけど』
「そ。だからジン・ラースが使って。反動が強すぎて連射は難しいみたいだけど、ヘッドショット連発できるくらいエイムがいいジン・ラースならそのハンドガン使えばもっと楽になると思う。並のアーマーならぶち抜いて一撃で倒せるらしいし、無理に頭狙わなくてもよくなるよ」
『わあ……プレゼント、嬉しいな。絶対失くせないや。……セーフティバッグに入れとこっと』
「ん? ちょ、ちょっと待って? ぼそっと、セーフティバッグに入れとこう、みたいな声が聞こえたんだけど?」
『はい。ADZで初めて、しかも美座さんからいただいたものですからね。絶対ロストできません。何があろうとも持って帰って倉庫に大事にしまっておきます』
「いや、使ってよ。私はあんたみたいに予備持ってないけど、見つけたらまた渡すから。耐久値すり減って壊れるくらい使って。せっかくあげたのに使わなかったらもったいないでしょ」
『RCh-50が大事なんじゃないんです。美座さんからもらったこの銃が大事なんです』
「ぁぅ……あの、ちょっ……あのさぁ、恥ずかしくなること言わないで? 顔熱くなる……」
〈黒兎ピュアw〉
〈あ〜^^〉
〈うさねこー!〉
〈これはこれはw〉
〈照れとるw〉
〈かわいいw〉
〈これは誰でも照れるわなw〉
〈うさねこてぇてぇ〉
〈新たなコンテンツの誕生だ〉
〈うさねこー〉
〈うさねこ!〉
『初めてもらったんです。絶対失くせません。このシーズンが終わるまで倉庫で保管して、たまに取り出して眺めます』
「もっ……やめ、やめてっ。そんな辱め受けるくらいなら渡さないっ。返してっ」
『返しません。もう僕がいただきました』
「返せっ」
『返しません』
〈黒兎w〉
〈てぇてぇ〉
〈宝物だもんなw〉
〈草〉
〈あ〜うさねこ〜^^〉
〈うさねこ〜〉
〈うさねこてぇてぇ〉
〈どんどんいちゃついてもろて〉
〈これ今日が初対面ってマ?〉
〈コミュ力はんぱねーw〉
〈黒兎かわいいw〉
〈うさねこー!〉
銃なんて使ってなんぼの代物だ。お気に入りの銃を持って出撃して、敵を倒して、敵に倒されて、ロストする。ロストするまでの流れを含めてADZだ。銃はおしゃれの道具じゃない。倉庫に飾るインテリアじゃない。
なによりジン・ラースの倉庫でずっと晒し首のように安置されるなんて恥ずかしすぎる。
「むっ……返さないならここで処してでも取り返す。それが嫌なら使え」
『……さすがにここで全弾避けるのは難しいか……』
「ジン・ラースが死ななきゃいいだけの話でしょ。そうだよ、毎回死なずに持って帰ればいいの。だから、ちゃんと使って。わかった?」
『………………仕方ありませんね』
「すごい不服そう……」
〈すっごい長い沈黙だったなw〉
〈草〉
〈草〉
〈めっちゃ嫌そうで草〉
〈さすがに壁もないとこでは逃げきれんかw〉
『わかりました。そうですね、死ななければいいだけの話なのですから。……このゲームで死なないってほぼ不可能に近いんですけど』
「それはジン・ラースの努力次第だね。はい、そろそろワークやりに行こ。えーと、ここは……」
ジン・ラースの言い分を強引に押し流し、私は今回の目的へと話を移す。
メインがワークの消化、サブがキャラコンについてで、サブのサブが効率的な漁る場所だ。今回のワークの最大の難所はもちろん廃墟マンション屋上のネームドになる。
さしものジン・ラースといえど毎回オリジンでキルするのは難しいらしいけど、ネームドの安全な倒し方には当てがあるみたいなのでそれに期待しよう。
とにもかくにも、まずは移動だ。
ここは山の麓っぽい地形で遠くに川も見えるので、マップの南西にあるランドマーク、俗に吊り橋と呼ばれている地帯、その周辺だ。ただこの吊り橋付近はどこも似たような景色なので、現在地がマップの南なのか西南西なのか判断がつかない。
きょろきょろとあたりを見渡していると、すっとジン・ラースが動いた。
『行きましょうか。まずは北上します』
「ここ、南か西南西かわかるの?」
『はい。西南西に湧いたら川の音が聞こえます。向こうは川が近いですから。聞こえないので南ですね』
「……聞こえたっけ?」
マップ南西の吊り橋からは川が流れていて、西のほうまで続いている。なのでたしかに西南西の湧きポイントは川が近いけど、水の流れる音なんて聞いた記憶がない。種族の違いによる可聴範囲の差だろうか。
『他には西南西は木が少なめの代わりに、伏せていると身を隠してくれるくらい背の高い草が多く生えている印象ですね。南は大きな岩や木が比較的多くて、草はそこまで伸びていない感じです。そのあたりを意識して景色を眺めると違いがわかってきますよ』
「へぁー……なにか目印になるものとかじゃなくて、全体的な風景で判断してるんだ」
『目立つ目印などがあればそれが一番ですけどね。そんなものをADZは用意してくれないのでこちらで判別するしかありません。頑張りましょう、慣れです、これは』
「そういうもんだもんね、このゲーム」
『そういうもんです』
〈そういうもん〉
〈そういうもんだもんなぁ〉
〈一番方角間違えるわここ〉
〈吊り橋で二回迷子になったことある〉
〈わかりにくいんだよ〉
〈マップほしいほんとに〉
〈悪いなそういうもんなんだ〉
〈一般獣たくさんいます〉
「南だったら……キャンプ施設は遠いね」
『SFAKはあそこ以外にも落ちてますので、いつかどこかで拾えるでしょう。ついでくらいでいいのです。そのうち出てきます』
「それもそっか。あんまり探してると物欲センサーで出てこないしね」
『そういうことです』
「RBARは廃墟マンションだから置いとくとして……ジェネレーターってあんまり見た記憶ない、かも。どこらへんに多いの?」
『ジェネレーターは西の加工場か、北の自然公園横の駐車場あたりが一番見かけますが、西だとかなり遠回りすることになりますし、北には移動範囲の桁違いなネームドボス、オウロさんがいますからね。
「ああ……あの蛇ね。あいつ嫌い……」
〈あざみんのトラウマやんw〉
〈マウスぶん投げるくらい驚いたやつw〉
〈あれ以降自然公園に近づいてないの草〉
〈実際つえぇしなぁ〉
一度だけ、奴と戦いに行ったことがある。
北は自然公園のようになっていて、木々や草が鬱蒼としているエリアだ。そんなエリアなものだから視界が悪く、しかもネームドは迷彩のような服装をしていて、とても敵の姿を視認しづらい。気がついたら音もなく隣で高威力の拳銃を構えられていて、私は至近距離で撃たれた。驚きのあまり悲鳴を上げて半泣きになってからはあのエリアに足を踏み入れていない。わかりやすくトラウマだ。
『障害物も多くて、彼自身、動きも機敏で当てづらいですしね。強化兵士側から見る僕もあのような感じなのかもしれません』
「あははっ、それはそうかも。ちょこまか動いてハンドガンでズドン、だもんね」
『ちょこまかとは失礼な。生き残るための必死の抵抗なのです。きっとオウロさんも同じなのでしょう。シンパシーを感じます。ネームドの中ではもっとも装甲が薄いですし、彼』
「感じなくていいから。その二つの他に出やすいところってあるの?」
〈強化兵士版黒兎〉
〈なんならオウロより厄介〉
〈ピストルでスナイプするような奴はもっと嫌だわw〉
〈強化兵士がトラウマになるぞ〉
〈生き別れの兄弟かもしれんw〉
〈戦い方同じで草〉
『そうですね、検問所の車庫のほうを探しに行きましょうか。あそこのボックスに湧くことがあります。そこに賭けましょう』
「検問所、検問所かぁ……。あそこもあそこで危ないところだよね」
『はい、ソロなら近づかないよう努めるべきエリアです。でも他のエリアはもっと危険ですからね。危ないことに変わりはありませんが、危ない中では一番危なくないです。他のワークとの兼ね合いもありますからね』
〈検問所か〉
〈たしかに出てきたことある〉
〈詳しすぎやろw〉
〈なんでも知ってんな〉
〈きいたらなんでも答えてくれるやんw〉
〈頭に情報サイト入ってる〉
〈あざみんかわいいw〉
〈もらった銃眺めとる〉
〈大事にしないとなw〉
ジン・ラースの話を聞く
私はこの銃を使ったことがないので他のアサルトライフルとの使用感の違いはわからない。こればかりは実戦で撃ってみないことにはどうしようもない。使い勝手がよくても悪くても、感覚の微調整は必要になる。
でも気のせいかもしれないけど、サイトを覗いた感じも、エイムのしやすさも、他の銃よりいい気がする。早く使ってみたい。新しい銃にはこういうワクワク感があって、とても気分がいい。
「そうだよね。マンションのネームドにも用があるし。……よし、行こっか」
すっ、とアサルトライフルを背中に回し、代わりにナイフを握りしめる。
さっきの出撃でジン・ラースの言っていた小技を試すべく、倉庫の片隅に眠っていたナイフを持ってきていたのだ。
ふだんまったく使わない、マップにすら持ち込まないのになぜナイフが保管されていたのかというと、おそらく交換か納品ワークの時に集めた余りものだ。もしかしたらまたどこかで使うかも、と思って倉庫に置いてそのままだったんだと思う。もう記憶にも残ってないけど、たぶんそんなところだろう。
『ナイフ持ってきたんですね。僕も今回違うの持ってきたんです』
ハンドガンをしまったジン・ラースが取り出したのは、一つ前の出撃とは違うコンバットナイフだった。
それは、ナイフなんてどれも同じでしょ、などと考えていた私には革新的なものだった。
「わーっ、かわいいっ。いいねそれっ」
とてもオシャレなデザインだったのだ。全体的に細身で、刃の真ん中あたりが鋸状になっているのか、ウエストが締まっているようなシルエットになっている。余計なものを削ぎ落としたような素朴な美しさ、綺麗でかわいい。
前回持ってきていたもっさりしたナイフとは大違いだ。いいなぁ。
『でしょう? きっと美座さんにはラバックよりエムツーベルガーのほうが好みに合うんじゃないかなと思ったんです』
〈え?〉
〈おしゃれ……〉
〈かわいいか?〉
〈けっこう残虐とか言われてるナイフ……〉
〈綺麗だとは思うけども〉
〈残虐性と表裏一体の美しさはあるか〉
〈あざみんのセンス……〉
〈女の好みまでわかるのか〉
〈黒兎モテます〉
「うんっ、これならほしくなるっ。……なんで一般獣はこの子のよさがわかんないの? かわいいでしょ」
『ま、まあ……好みは人によって異なりますから』
「ねぇ、ジン・ラース。このナイフってどこで手に入るの? 店売り?」
『先程話にも出てきたオウロさんの私物です』
「……この子は私とは縁がなかったみたいだね……」
〈前回の無骨なナイフのほうがかっちょいいのに〉
〈女受けはこっちなのか……〉
〈残念だが店では売ってない〉
〈草〉
〈私物w〉
〈たしかにそうだけどw〉
〈私物をかっぱらわないといけんからなw〉
〈あざみん取りに行けない……〉
〈もらうか〉
〈たぶん黒兎は何本も持っとるだろ〉
ほろりと涙がこぼれそうになる。こんなことなら、美人でかわいいこの
ネームドボス、オウロの私物。ということは、奴のドロップ品だ。私にトラウマを植えつけた奴を始末しなければこのナイフは手に入らない。つまり奴を倒せない私は手に入れられない。悲劇だ。
『そんなに気に入ったのでしたら、僕は倉庫にあと二本ありますし、これと美座さんが今持っているナイフと交換しましょうか?』
いいの、と口を衝いて出そうになった言葉を必死に呑み込む。
ジン・ラースの気遣いはもちろん嬉しい。しかし、その優しさに甘えてばかりでは私はダメになる。戦友になるためには、もらってばかりではいけないのだ。
「っ……いい。ありがと。自分でっ、がんばるっ……」
『そんなに歯を食い縛るように言わなくても……』
「いいのっ……いつか、リベンジするつもりだったからっ……。また今度、リベンジしに行く」
〈えらい〉
〈えらいな〉
〈えらいんだけど苦しそうw〉
〈せやなw〉
〈リベンジしようなw〉
『ふふっ、そうですか。自分で頑張ろうとする姿勢はとても良いことですね。応援しています』
「でも、あの……私、あいつがトラウマで……。リベンジの時、ついてきてもらって……いい?」
『ええ、もちろん。ぜひご一緒させてください』
「あ……あり、ありがと……」
〈かわいい〉
〈黒兎が優しすぎる〉
〈うさねこてぇてぇ〉
〈こんなん甘えてまうって〉
〈あざみんかわいい〉
〈かわいいw〉
〈背中がデケェのよ〉
〈ばかかわいいやんけ!〉
〈黒兎の安心感ぱねぇ……〉
〈うさねこー〉
甘えてばかりではいけないけれど、あのネームドがトラウマなのは事実なのだ。自然公園に入った途端に私がパニックにならないとも限らない。だから、精神安定剤としてジン・ラースを側に置いておくくらいは許してほしい。
自分の持つナイフ然としたナイフに目を落として、やっぱりこれはかわいくない、などと思いながら目的地のある方角へと視線を上げる。
私の数メートル先にジン・ラースが立っていた。
周囲に目を走らせると安全だと確信したのか、後ろに──私に振り向いた。
『それでは行きましょうか。中央区、検問所付近まではそこまで危険ではないにしても、絶対に安全な場所なんてこの戦場にはありません。気を引き締めて向かいましょう』
通話を繋いでいるのだから、ゲーム内でわざわざこちらに視線を向ける必要なんてない。それなのに、ジン・ラースは私のキャラクターを見て、それから話し始めた。律儀というか生真面目というか、プレイングの怪物っぷりとのギャップに笑いそうになる。
「んっ。行こっ」