サイコバグなお兄ちゃん、Vtuberになる。   作:にいるあらと

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この出逢いはきっと、運命だったんだ。

 

『SFAKとジェネレーターは残念でしたけど、とりあえず一番終わらせておきたかったワークはできたのでよかったですね』

 

「ん、よかった。まさかあんな狩り方があるなんて思わなかったよ。隣の建物の屋上からグレ投げるなんて、よく見つけたね」

 

〈一人じゃ厳しいの終わらせられたのでかい〉

〈レビンソン56しの匠がおったw〉

〈納品アイテムは沼る時は沼るから〉

〈あんなやり方初めて見たわ〉

〈兎ならではだったw〉

〈あれはいろんな意味ですごかったなw〉

 

『遠くから眺めた時に、高さ的に届くかも、と思ったんですよ。それで何度か試したらうまくできました。狙撃銃を構えている場所が固定というのが一番大きいですね。今回役に立ってよかったです、あのやり方を発見するまでに何回も屍をあそこに置いてきたので』

 

「そんなに何回も死んでたの?」

 

『ええ。兎のハイジャンプの仕様が頭頂部を向けた方向に跳ぶというのはご存知ですよね?』

 

「うん。ピッカーで何度か使ったし」

 

 兎のハイジャンプといい、虎のウォールジャンプといい、妙に非感覚的なUIになっているのがこのゲームだ。

 

 まぁそのあたりの操作感は今に始まったことじゃないし気にしたってしょうがないけど。ミニマップさえ表示してくれないんだし。

 

『グレネードの投げる角度を意識するあまりにハイジャンプを使う前に投げる角度に向いちゃったんですよ。そんなものだからハイジャンプを使った途端に真後ろにぴょーん、と……』

 

「あはははっ、あははっ、くふっ……ふっ、あはははっ」

 

〈草〉

〈草〉

〈www〉

〈そんな事故があったのかw〉

〈あざみんの笑いつられるw〉

 

『あの時は僕も呆然としました。建物の高さもあいまってすごい滞空時間でした。昔の人が兎を鳥と同じように数えていた理由は空を飛んでいる僕を見たからなんじゃないかって思いました。そのくらい、僕も頭が働いていませんでしたね』

 

「あははははっ、ふくっ……んふっ、あははっ」

 

『どうにかウォールランでリカバリーしようと思ったんですけど、使うタイミングすらもらえずにそのまま地面までノンストップでしたよ。着地のキャラコンなんてあの高さの前では無力でした。他には投げる角度を間違えて真上に投げてしまって、降ってきたグレネードで自分を木っ端微塵にしたり』

 

「痛いっ、お腹痛いっ……もうやめて……っ」

 

『そうですか? まあそんな感じで、か弱い兎の命を積み重ねて見つけたのがあの方法だったのです。なので役に立ってよかったです。兎のハイジャンプを前提にしたやり方なので、今のところ情報サイトにも兎のページにしか載せてないんですよ』

 

「はぁっ、はぁっ……はぁ、はふ。うん、くふふっ……あれはたしかに、兎にしかできない芸当だった。兎を使っている人がいるパーティなら助かるかも」

 

〈悪いけどくっそおもろいわw〉

〈苦労があったんやなw〉

〈どうにかしようとしたのはすごいけどw〉

〈腹いてぇw〉

〈トッププレイヤーの努力のおかげで情報が充実してるんだなw〉

〈黒兎ありがとうw〉

〈腹痛くなるくらい笑うADZはほかで観たことないw〉

〈こんなに笑ってるあざみん初めて見るなぁw〉

 

 声フェチな女の子ならジン・ラースの声だけでファンになるくらいかっこいい声をしてるのに、そのままの声で失敗談を披露するのはずるい。

 

 話の内容によって抑揚をつけたり、かと思えば今みたいに淡々とした口調でその時の苦労を語ってみたり、どれだけ器用なのこいつ。

 

『さっきのやり方を試すにも、練習はしておいたほうがいいですけどね。ジャンプの際のキャラコン、グレネードの投げる角度、投げた後に着地のキャラコン。三つも続けて行わないといけませんから。特に着地のキャラコンは失敗すれば死が待っていますから注意が必要です』

 

「ふふっ、あははっ、ダメだ、思い出して笑っちゃうっ。ジン・ラースがネームドを爆殺して、私すごいって感動してたら、ジン・ラース足の骨を折ってたのっ。あれ思い出したらじわじわくるっ、ふふっ……」

 

 着地のキャラコンの話であの光景を思い出してしまった。

 

 建物の屋上で真上にとんでもない速度で大跳躍をして、空中でグレネードを投じる。ネームドボス・レビンソンのいる場所にグレネードが到達するのが起爆時間ぴったりという、計算し尽くされた調整。

 

 感動してジン・ラースを見たら、倒れ込みながら足の骨折を治療していた。神業スーパープレイからの情けなさ、あの落差は完全にギャグだった。

 

『直上ハイジャンプは着地に成功しても骨折を免れる術がありませんからね。不思議ですね。跳び上がるだけの力はあるのに、着地の衝撃を完全に吸収する力はないなんて』

 

「自傷アビリティだったね。でも、私がジン・ラースを見た時にはもう治療始めてたのは笑っちゃうって。仕事早すぎるよ」

 

〈くそ笑ったわw〉

〈振り返ったら足折ってんの草だった〉

 

『骨折することはわかってましたからショートカットキーに設定して準備してました。骨折することが前提の倒し方ですけど、レビンソン氏と堂々と真正面から戦うよりかは安全なんですよね』

 

「あのネームドを倒そうと思ったら、射線を避けるように迂回して、廃墟マンションに近づいて屋上まで上るくらいしかないかな? スナイパーライフル対決なんて話にもならないし」

 

 相手は『ホーミングチート』の異名を取る化け物だ。ネームドボス・レビンソンとの正面対決なんて勝ち目がない。挑むほうが悪い。それで勝てるのは同じ怪物のジン・ラースくらいだ。

 

 かといって廃墟マンションに忍び込んでこっそりレビンソンを殺そうにも、廃墟マンションの中にだって大量の兵士が詰まっている。マンションという構造ゆえに死角が多いし、急に出てこられて殺されるというパターンも多い。それにマンションに侵入して敵兵に見つかると無線かなにかで連絡が入るのか、レビンソンは屋上から移動して他のモブ兵士と協力しながらプレイヤーを奇襲してくるらしい。

 

 ネタみたいになっているけど、ジン・ラースが考案したレビンソン狩りの手法は間違いなく画期的だ。

 

『ただでさえ彼は化け物です。相手の土俵に立つのは自殺行為ですね。廃墟マンション侵入も悪くはないと思いますがなかなか安定しないので、あのグレネード爆撃は便利だと思いますよ。あとは兎以外でも使えるといいんですけどね。僕がハイジャンプグレネードをやった場所からグレネードランチャーを屋上に撃ち込めれば同じようなことはできるんじゃないかな、とは考えているんですけど……』

 

「あ、たしかに。使う機会がないからまったく思いつかなかったけど、たしかにできそうかも」

 

 グレネードランチャーはたしか拾ったことがある。記憶が正しければ、拾ってからバッグに入れて倉庫に保管してそのままのはず。使う機会がない、というか使い所がわからなくて放置している。

 

『武器のスロットを一つ埋めることにはなりますが、それなら他の種族でもできそうですよね』

 

「そっちは試してないの?」

 

『兎はグレネードランチャー使えないので……。ピッカーで試そうにも、ピッカーでは銃種の持ち込みはできませんし試せてないんです』

 

〈グレランも持てないのか〉

〈兎……〉

〈制限きっつ〉

 

「あぁ、なるほど。それなら代わりに私が試すよ。虎なら持てるしね、グレネードランチャー」

 

 ジン・ラースの研究のおかげで私のワークも終わったのだし、ジン・ラースのお手伝いをするくらいわけはない。

 

 というかジン・ラースのお手伝いをできる機会がこんなことくらいしかない。私にできることならなんでもする所存。

 

『いいんですか? 僕はとても助かりますけど』

 

「隣の建物の屋上まで行くのがまず大変だからジン・ラースも付き添ってほしいけど、試すこと自体はぜんぜんいいよ。きっとあのワークを終わらせられなくて困っている人もいるだろうしね」

 

『ありがとうございます。もちろん、その時は喜んで同行しますよ。……ふふ』

 

「ん? なに、急に笑って……怖いんだけど。なにか企んでんの?」

 

『何も企んでなんていませんよ。ただ、なんだかいいなあ、と思いまして。こうして誰かと一緒にゲームするの。もちろんソロでもADZは楽しいんですが、友人と「こういうこと試してみたい」とか「これ手伝って」とかってお喋りしながらやるのはそれ以上に楽しいです。とても……なんでしょう、こう……気持ちが高揚するというか浮き足立つというか……そう、わくわくするんです。僕、とてもわくわくしています。楽しいです、とっても』

 

〈なんやこのかわいい悪魔w〉

〈かわいいw〉

〈ピュア悪魔やんw〉

〈かわいい〉

〈属性多すぎだろw〉

〈かわいすぎw〉

〈かわいい〉

 

「なにそれ。ふふっ、そんなにめずらしいこと? あははっ。ほんともう、なに? 狙ってやってんの? コメント欄〈かわいい〉弾幕ですごいことなってるよ」

 

『ただの本心なんですけど……〈かわいい〉とは……。「可愛い」という言葉の概念は近年多様化され過ぎていますからね。何にでも使える便利な単語なのでしょう』

 

「たしかになんにでも『かわいい』って使われがちだけど、今回の『かわいい』は本来の使い方をされてると思うよ」

 

『だとするなら誤解されているかもしれませんね。当方、単純に友人が少ないだけの男です。……おっと、脱出地点こちらです』

 

「え……へ、へぇ。とも、友だち……い、いることはいるんだね……」

 

 これだけ社交性があるんだからジン・ラースに友だちがいないわけがない。ないんだけど、でもぼっち仲間だと思ってた分、動揺が大きい。

 

 私は友だちって呼べる相手はジン・ラースしかいないのに、ジン・ラースは私だけじゃないんだ。

 

『さすがにゼロではありません。……なんて、大きな顔をしながら言いましたけど、ちょっと前までゼロだったんですよね。それにあまりゲームをするタイプの友人ではありませんし、もう片方の友人はFPSは全然触っていなくて基本格ゲーになりますし』

 

〈なんでこんだけおもろいのに友だちは少ねぇんだよ〉

〈これで友だち少ないは嘘でしょw〉

〈こんな友だちほしいわ俺なら〉

〈あざみんショック受けてて草〉

〈格ゲーは同期のヤンキーかw〉

 

「趣味がちがうのに友だちなの?」

 

『趣味が違うと友だちになれないのですか?』

 

「……たしかに、関係ないか。ゲームやるやらない、外に出かける出かけない。趣味が違ってても、友だちにはなれるよね。……それもそうだ」

 

『それに自分と趣味が違うと、その人の持ってる知識や物事の捉え方、考え方も自分と違っているんです。自分とは違う立ち位置から自分とは違う景色を見ている人とのお喋りはとても有意義で興味深いです』

 

「……話してて楽しい、ってことでいいんだよね?」

 

『はい。そう言いました』

 

「いや、言ってないんだよね。なんかこう……あんたの言い方っていうか、言い回しっていうか、表現がどうにも人間味がないのよ」

 

『当方、悪魔です』

 

「そうだった……」

 

『ハラスメントの』

 

「憤怒の悪魔でしょうが。肩書き忘れるな」

 

『ふふっ、そうでした。ロジハラもセクハラもしないタイプの憤怒の悪魔です』

 

「悪魔の中にはするタイプがいるみたいな風評被害やめなよ。やなんだけど、そんな悪魔」

 

『でもパワハラするタイプの悪魔には人間社会でお会いしましたよ。大声で叱責したり怒鳴りつけたりしていたあの方は、きっと人間の皮を被った悪魔だったのでしょうね』

 

「やめてやめてやめて。なによりも人間の心が悪魔だった、みたいなオチはやめて。一番こわい」

 

『ちょっとした怪談のようですね。この季節には良いかもしれません。……ここ、この岩場に発煙筒があったら脱出できるというのはご存知ですか?』

 

「あ、それは知ってる。不確定なんだよね。ここは煙のありなしが遠くからでも見えるから、今回は脱出に使えるかどうかすぐ判断できて助かる。他の不確定の脱出地点だと近寄らないと使えるかわからなくて困るし」

 

〈一生雑談してるなw〉

〈こんな騒がしいADZも珍しいw〉

〈黒兎ずっと喋ってて草〉

〈コントかよw〉

〈怖い話までストックあんのかw〉

〈引き出し多いなw〉

〈兄悪魔は過労で倒れたことがあります〉

〈結局人間が一番怖いってわけ〉

〈マップの理解度もちゃんと高いな〉

 

 マップには確定で脱出できる地点の他にも、不確定で脱出できるようになっている脱出地点がある。今回は発煙筒がないので脱出に使えないけど、煙が立ち上ってなかったから使えないことはわかっていた。その分、精神的にショックはない。

 

 他のポイント、例えば地下鉄の入り口みたいな不確定脱出地点もあるけど、そこは実際に向かって入り口を見るまで使えるかどうかがわからない。命からがら脱出地点に向かったのにいざ着いてみれば入り口に鉄格子が下ろされていて今回は使えなかった、みたいなこともよくある。スナック菓子感覚で絶望を味わえるのがADZのいいところだ。ストレス耐性が身につく。

 

『そうなんです。不確定だった(・・・)んです』

 

「……だった? 変わったの?」

 

『このシーズンにいくつかアイテムが追加されたんです。そのうちの一つがこちら』

 

 テレビショッピングのような段取りでジン・ラースが取り出したのは、二十センチあるかないかくらいの棒だった。

 

「これってあれ? 車とかに載ってる……」

 

『それは炎と書くほうの発炎筒ですね。こちらは煙と書くほうの発煙筒です』

 

「えっ、車に載ってるのって煙じゃないの?」

 

『あ、そっちが気になっちゃうんですね。そうですよ、煙ではなく炎のほうです』

 

「火が出るのって危ないと思うんだけど、そんなのが車に載ってていいのかな」

 

『マッチのように擦って着火するので誤って火が出るようなことはほぼないと思いますよ。煙が出るほうだと視界が悪くなって二次被害の恐れがありますから、炎のほうじゃないといけないんです』

 

「ほぁ……詳しい」

 

〈なんでも知ってんのな〉

〈ゲーム以外でも博識だ〉

〈質問したらなんでも答えてくれるやん〉

 

『普段から車を使ってますからね、一応このあたりは知っておかないと。ということで、いざ発煙筒使ってみますね』

 

「もしかしてこれ使ったら」

 

『はい。この脱出地点で帰れるようになります。ちなみに他のマップの不確定脱出地点でも、発煙筒の有無で判断されているところなら使えます。見つけたら念のため拾っておくのも良いと思いますよ。屋内とかだと煙の広がりの悪いスモークグレネードのように使えないこともないですから』

 

「へー……すごい。初めて知った」

 

『地味に更新されてますからね。新しい情報に目を光らせておかないとおそらく気づけないです。ちなみに発煙筒を使うと敵が寄ってきやすいという統計データも出てるので、付近の警戒しましょうか』

 

「一番最初にそれ言ってっ……っ」

 

 ジン・ラースの背後、木陰から銃を構えていた敵兵がいることに気づき、すぐさま照準を合わせてその勢いのまま発砲。

 

『わあ、頼りになるなあ』

 

「のんきなっ……」

 

〈兵士きとるうう!〉

〈あぶねぇ!〉

〈黒兎w〉

 

 二発命中したが、まだ生きている。当たったのが腕と腹部だったので殺しきれなかった。

 

 腕を負傷した敵兵はサブマシンガンで応戦してくるも、あらぬ方向へと弾をばら撒いていた。被弾した衝撃もあるだろうけど、あのエイムの乱れ具合だともしかしたら骨折も入っているかもしれない。

 

『美座さん』

 

 近づいて一気に攻めかかろうとした私を、ジン・ラースが呼び止めた。

 

「なに? あいつが回復する前に仕留めたいんだけど」

 

『そのAP弾は、たいていの木材なら貫通できるんですよ』

 

 キルを取ることに躍起になった私を優しく(たしな)めるようなジン・ラースの言葉だった。

 

 木の真ん中の分厚いところだとさすがに貫通しないかもしれないけど、敵兵が隠れているのは体を横にしてもギリギリ隠れるか隠れないかというくらいの細い木だ。木の幹の端のほうを狙えば、たとえ当たる場所が末端部分だったとしてもさっき与えたダメージと合わせて削り切れる。

 

 この場所から動かなくてもいいよ、とジン・ラースは教えてくれたのだ。

 

 岩陰から離れてしまえば脱出のカウントダウンは止まってしまうし、離れて時間が経ち過ぎれば脱出までの待機時間がリセットされてしまう。それに発煙筒によって他にも敵兵が近くにきているかもしれないのだ。射線管理の容易な岩陰から出るのはリスクが勝ちすぎている。

 

 ジン・ラースの言っていた『目的』を忘れてしまっていた。勝利条件を履き違えるところだった。

 

 私にとっての勝利は、今この場でキル一つぽっちを上げるためにリスクを背負うことではない。納品ワークで使うアイテムを持ったまま、ジン・ラースと二人で生還することだ。

 

 勝利条件に敵兵のキルなんて含まれていない。それなら、身の安全を脅かす存在を振り払うくらいでいい。振り払って逃げ切れれば、それで私たちの勝利になる。

 

「……ふふっ。了解」

 

 ひとまず木の影に潜んだ敵兵を、ジン・ラースからもらった高価な弾を使って始末する。敵兵は死んだ時に呻き声を出して死ぬので、声が届く範囲なら死亡確認は取りやすい。あいつら、急に伏せたりすることもあるのでぱっと見では死んだかどうか分かりにくいのだ。声を聞くまでは安心できない。

 

 死亡確認を取った後は、もちろん漁りにも行かずに他に敵が寄ってきていないか周囲を警戒する。

 

 木と木の間で草が風で揺れたりしているだけで体がびくっとする。敵兵が出てきたら、少しでも撃ち始めが遅れればそのまま殺されかねないのだ。先に発見できれば御の字、せめてほぼ同時くらいじゃないとふつうに撃ち負ける。否応にも緊張が走る。

 

『良い判断ですね。このあたりはノイズが多くて「超聴覚」も精度が落ちますが……うん、近くにはいないようです。このまま出れそうですね。良かった良かった』

 

 さっきのはタイミング的に結構危なかったのに、ジン・ラースはほのぼのとした調子で言ってのける。

 

 こいつ今日、真剣に戦っていた時あったかな。建物の一室で私のサブマシンガンを全弾回避した時と、ネームドボス・レビンソンと戦った時くらいかもしれない。妙だな、敵と味方で一対一だ。

 

「……よし。ってか、ジン・ラース絶対に後ろにいた敵気づいてたよね。なんで私にやらせたの? ジン・ラースのほうが敵に近かったし、私が反応遅れてたらきっとやられてたよ?」

 

『いえいえそんなそんな。僕は美座さんの背後に集中していたので、気づいてませんでしたよ。ありがとうございました、助かりました』

 

「……ほんとかなぁ?」

 

〈絶対気づいてただろw〉

〈あの距離で気づかん黒兎じゃない〉

〈あれで兵士に気づかん奴がレベル五十とか行くわけないんだよね〉

〈疑っとるw〉

 

 怪しいだけ怪しい。

 

 可聴範囲や音の正確性に補正がかかる兎で、かつ本人も耳がいい。この付近は草が生い茂っていて、足音以外にも草むらに接触するような異音も発生しやすい。これだけ条件が整っていて十メートル程度まで近づいた敵を捕捉できないなんてことあるのか、ジン・ラースに。怪しい。

 

『ふふっ、本当ですよ? 僕の背後は美座さんが守ってくれていると信じてますので、僕は美座さんの背後にだけ警戒してました』

 

「うぉあ……あぅ」

 

〈口がうまいなぁw〉

〈あざみんw〉

〈うろたえんなw〉

〈照れてて草〉

〈かわいいw〉

 

『美座さん、知ってますか? 仲間って背中を預け合うものだそうですよ? 僕、ADZでそういう戦友に憧れてたんです。なので僕の背後は美座さんにお任せします。その代わり、美座さんの背後は僕に任せてくださいね』

 

「ん、んぁっ……わか、わかったからっ。わ、私のことは任せるっ。だから、あ、あんたのことは……わ、私に任せて……っ」

 

〈てぇてぇ〉

〈最高やん……〉

〈うさねこー〉

〈うさねこてぇてぇ〉

〈俺は決してカプ厨じゃないけどこれはいいもの〉

〈あーいっすね……〉

〈うさねこてぇてぇ〉

〈っぱうさねこっすよ!〉

〈いいやんいいやんw〉

〈かわいい〉

〈あざみん輝いてる!〉

〈今最高にヒロインやってるよw〉

 

 私に恥ずかしい思いをさせようとそんなことを言っているのか、本心から仲間を求めているのか、どちらなのかわからない。冗談で言ってきそうな気もするし、でも雰囲気からは冗談めかした感じがしないのだ。

 

 結局は私が恥ずかしいというか、照れくさいというか、なんだかもぞもぞとして落ち着かない気持ちにさせられるだけで終わる。

 

 不公平だ。ジン・ラースにも私と同じくらいに恥ずかしい思いを味わわせてやりたい。

 

 だが、羞恥心とかそういう人間らしい感情、こいつにあるのだろうか。仮にあったとして、ジン・ラースの羞恥心を刺激するまでに私は倍くらい恥ずかしい思いをする羽目になりそう。諦めたほうが傷は浅いかもしれない。諦めよう。先に私が恥ずか死する。

 

『いいですね。街を守る同志、仲間、戦友。良い響きです。わくわくします。おや、戻れましたね』

 

 脱出待機時間のカウントダウンがゼロになり、私たちは帰宅した。二人とも生還できたというのに、私の心拍数は戦闘時よりも上がっている。顔が熱い。いや、顔どころか全身が熱い。

 

「あんたはほんと、恥ずかしげもなくそういうことを……。まぁ、いいか……生きて帰ってこれたし」

 

『一つレベルが上がりました。やはりネームド討伐はポイントが大きいですね。美味です』

 

〈仲間に憧れがあんのかw〉

〈かわいいw〉

〈なんだこのかわいい二人〉

〈レベ五十三は草〉

〈確実にトップや〉

〈黒兎成長中〉

 

「え……てことは五十三? やっば……まだ上がるんだ」

 

『レベルによるパラメータの向上が最も直接的に筋力の向上に繋がりますからね。最初のほうは特に持ち帰れる量が少なくて大変でした』

 

「アビリティの数とか装備の整えやすさとか兎のメリットはあるけど、うまくいった時でも持ち帰れる量少ないっていうデメリットはきついよね」

 

〈デメリット少ないけどメリットも少ないのか〉

〈アイテム持てないのつらいな〉

〈目の前のアイテム諦めなきゃいけない時が一番苦しい〉

 

『そうなんですよね。いくら敵兵を倒しても奪える量には限界があるので。近くにプレイヤーがいれば代わりに拾ってもらうんですけど』

 

「……ん? 代わりに拾ってもらってもジン・ラースに得はないでしょ?」

 

『拾ったプレイヤーがアイテムを有効活用してもいいですし、持ち帰って不要なアイテムはフリーマーケットで流せば、そのアイテムを必要としている他のプレイヤーの手に渡ることになりますよね? それは我々獣人兵士勢の戦力向上に繋がって、敵兵の排除や防衛力の充実にもなります。なので間接的に僕にも利益があるんです。安全が確保できていれば他のプレイヤーに漁ってもらえるように誘導したりしてますよ』

 

〈黒兎に譲ってもらったことあります〉

〈前に黒兎見かけた時は建物の中で三、四人倒してたぞw〉

〈マークスマンライフルもらったことあるわ俺〉

〈他のプレイヤーの装備まで考えてんのか〉

〈悪魔なのか聖人なのかわかんねぇよ……〉

〈街の守護神だ〉

〈最後の砦黒兎〉

 

「……一兵士としての視点じゃないでしょ。幹部クラスだよ、考え方が」

 

『「防衛作戦」などのイベントとかでもそうです。たとえ志半ばで僕が死んだとしても、最終的に僕たちが勝てば、その時は僕たちの勝利です。言葉を交わしたことがなくても街を守る同志ですからね。敵を倒すだけではなく、同志に有益になるよう動いたほうがいいかなあ、と』

 

「いつでもそんなことしてるんだね。コメント欄でもちょくちょく見かけたよ、黒兎に助けられたって言ってたリスナー」

 

『お役に立てていたのなら何よりです。助け合いですからね。あ、美座さんもレベル上がってますね』

 

「ん。今回は私もちゃんと戦えたし、けっこう経験値入ってた。銃が強いし」

 

 前回と比べて今回の出撃は私に任せてくれる場面が多かった。とはいえその戦闘で活躍できたのは銃によるところが大きい。

 

 フルオートで撃っても反動は控えめで、弾の強さもあって敵兵も簡単に倒せる。精度もよくて、狙ったところにちゃんと飛んでちゃんと当たるというのは気持ちがいい。エルゴノミクスの数値も高いおかげですぐに精密な射撃に移れるし、スタミナも減りにくいので戦闘が長引いたり敵の増援がきても対処しやすい。

 

 ジン・ラースがプレゼントしてくれたCR4U1の力だ。これ以上いじる必要がないくらいにフルカスタムされているおかげで実戦で使ってもすぐに手に馴染んだ。

 

 こればかり使っていたら他の銃が使えなくなりそうなくらい高性能だ。こんなにも高い下駄を履かせてもらっているのだから、これで活躍できなければただのお荷物でしかない。よかった、少しは役に立てて。

 

『銃を使いこなせる美座さんが強いんですよ。剣豪が使えば(なまくら)も名刀になります。剣豪が名刀を振るえばもちろん良い結果が出るでしょう。技術のある人が良い物を使えば、結果がついてくるのは当たり前です』

 

 使いこなすだけの技術がある、と言ってもらえて一瞬喜びそうになったけれど、よくよく考えてみると単純に喜んでもいられない。

 

 剣豪が使えば鈍も名刀。それは裏を返せば、未熟者が使えば名刀も鈍になるということに他ならない。

 

 索敵もして、囮もして、カバーまでこなした上で片っ端から敵の頭を弾いて回るジン・ラース。その影に隠れながら、高性能な銃に頼って撃ちやすい敵ばかりを狙って狩る私。

 

 だめだ。こんな戦い方に慣れては間違いなく腕が落ちる。ぬるま湯に浸かっているようではいけない。

 

「っ……ん。銃が強いからって言われないように、がんばる。強い銃を強い私が使ってるから強いんだって言えるくらいにがんばる」

 

『素晴らしい向上心です。羨ましくすら思える。人間、進歩する意志を失えば、それは退化と同義ですからね』

 

「ジン・ラースは向上心ないの? いや、こっからさらに成長されるのも困るっちゃ困るけど」

 

『向上心……僕がそれを感じた記憶はありませんね。知的好奇心は旺盛なほうだと自己分析はしていますけど』

 

「ジン・ラースの場合は知的好奇心が結果的に自分の向上に繋がってるのかもね。うん、きっとそうだ。知的好奇心は強そうだし。……ん? くふっ……」

 

『どうかされました?』

 

「いや、あー、ちょっとコメント欄が……」

 

〈その好奇心が人間に向かなくてよかった〉

〈「人間の内臓、どんな感触なのか気になりますね」〉

〈黒兎「頭の中、覗いてみたいですねえ……」〉

〈「心臓がどういうふうに動いているのか、見せていただいていいですか?」〉

〈ガチ悪魔シリーズやめろw〉

〈「あなたの目、とても綺麗ですね。部屋に飾らせてもらっても?」〉

〈ガチ悪魔w〉

〈黒兎が言いそうで言わなそうなセリフw〉

〈言わねぇだろw〉

 

『コメント欄……なんだかとてもステレオタイプな悪魔に仕立て上げられてますね……。そのような軽率な発言をしていいのですか、リスナーさん。僕はSNSに投稿されている文章や写真から投稿者の住んでいる地域を特定できるタイプの悪魔ですよ?』

 

「こっわ……」

 

〈ひぇっ〉

〈怖すぎて草〉

〈すんませんでした〉

〈やっぱ悪魔か〉

〈現代日本に適応した悪魔や……〉

〈ごめんなさい〉

 

『謝れるのは偉いですね。ありがとうとごめんなさい、謝意はコミュニケーションにとって重要な役割を占めていますからね。助けてもらったらありがとう。悪いことをしたらごめんなさい。ちゃんと言えるリスナーさんは偉いです。良い子ですね』

 

〈まま……〉

〈母性がすごいw〉

〈ママやん……〉

 

「騙されてる……みんな騙されてるよ。典型的な飴と鞭なのに……」

 

『騙すだなんて人聞きの悪い。こうしたほうが良くなるよ、とリスナーさんに伝えているだけです』

 

「手口がDV彼氏みたいな……」

 

『なんて酷いことを言うのですか。僕はあなたのために言っているのです。悪い子は殴りますよ』

 

「ふふっ、DV彼氏っ……寄せにいってるっ、くふふっ」

 

『まずいです。僕の印象がまずいことになります。冗談ですからね、リスナーさん。冗談ですよ?』

 

「ふふっ、ジン・ラースが言うと妙なリアリティがあるよね。もしかしたらやってそう、みたいな。あははっ」

 

『やめてください。これ以上不名誉な肩書きが増えたら困ります』

 

「あははっ」

 

〈草〉

〈草〉

〈DV彼氏w〉

〈ボケないと気が済まないのかw〉

〈草〉

〈ハラスメント兼DV兼憤怒の悪魔〉

〈アクママ〉

 

 敬語口調で物腰柔らかなジン・ラースだからこそ、裏で悪いことしてるかもみたいな想像がおもしろい。

 

 実際、ジン・ラースはDVしそうにない。独占欲や支配欲も乏しそうだし、腹を立てて暴力や暴言というのも想像できない。すぐにキレるような奴なら炎上した時にどうにかなってしまうだろう。

 

 ただ、そんな独占欲や支配欲のなさそうな印象のジン・ラースだからこそ、いじめられたいとか束縛されたいと思う女が出てきてもおかしくはない。いや、すでにいるかもしれない。いるんだろうな、きっと、表に出てきてないだけで。

 

『こんな誤解されそうなムーブをしてすぐに言うとリアル感が増してしまうんですけど、そろそろ僕はお暇させていただきますね。晩御飯の準備をしなくてはいけませんので』

 

「あ、そっか。もう時間……晩ご飯、ジン・ラースが作ってるの? 配信の時間、間に合う?」

 

『仕込みは済ませてます。後は仕上げるだけなのでさほど手間はかかりません。大丈夫ですよ。ご心配ありがとうございます』

 

〈そういや黒兎はこれから配信あるんだもんな〉

〈晩ご飯大事やね〉

〈飯も作れるのか……〉

〈配信前に付き合ってくれてんだからとんでもないな〉

〈そういや黒兎は今配信してないんだったか〉

 

「そう、なんだ。……それなら、うん。……よかった」

 

『美座さん、短い時間でしたがありがとうございました。とても楽しかったです。美座さんのチャンネルのリスナーさんも、急にお邪魔してすみませんでした。暖かいコメント、とても助かりました』

 

「ん、私も楽しかったよ。いろいろありがとね」

 

『こちらこそです。ありがとうございました。それでは失礼します』

 

〈おつー!〉

〈ありがとう黒兎〉

〈楽しかったぞ!〉

〈観に行くからな!〉

〈配信がんばって〉

〈またあざみんとコラボしてくれよ〉

〈最高に笑ったわありがとう〉

〈黒兎おつかれさまです!〉

〈二人でまたADZやってほしい〉

 

 わりと時間的にギリギリだったのか、ジン・ラースはぱぱっと別れの挨拶をし始めた。早口になったりはしていないけれど、必要な挨拶を淡々とこなしているといった雰囲気だ。これまで無駄話が多かったぶん、味気なく感じてしまった。

 

「ぁ、っ……あ、あの」

 

 これからジン・ラースは晩御飯を食べて、配信の準備もしないといけない。忙しいのはわかっている。時間がないことは理解している。

 

 なのに、意思に反してジン・ラースを呼び止めてしまった。

 

『……っとと、はい? 美座さん、何かありましたか? あ、そうだ。ジェネレーターを取りに行くのなら検問所は一人では少々危険なので、西の加工場を狙ったほうが安全だと思います。加工場の大きな作業機械がたくさん並んでいるところの近くの箱に出やすいので』

 

「う、うん。ありがとう。で、でもそうじゃなくて……」

 

『おや、それではどういった……』

 

「ま、また……遊ぼうね。また一緒にADZ……しよ」

 

 ジン・ラースが楽しそうにしていたのはきっと演技ではなかったと思う。私と同じように、初めてパーティを組んでADZをプレイして、人と一緒にやる楽しさを心から堪能していたと、そう思う。

 

 重々わかっているけれど、確かめてしまった。

 

 不安、だったのだ。

 

 ジン・ラースはデビュー直後に(つまず)いただけで、本来ならもっとたくさんの人に知ってもらって、人気になっていてもおかしくない。なにかきっかけが、些細なきっかけ一つあれば、これまで興味がなかったり悪いイメージを抱いていたリスナーからも支持される。

 

 それは視聴しているリスナーからはもちろん、同業者である配信者からの人気もそうだ。他の配信者からも気に入られて加速度的に人気を増していくだろう。

 

 私みたいな話下手のつまらない配信者が相手でもこれだけ盛り上げられるジン・ラースなら、コラボの相手に呼びたいと思う人は多くいるはず。私よりもよほど数字を持っている人からも誘いがくる。

 

 きっとこれから、ジン・ラースの周りにはたくさんの人が集まるようになるんだろう。

 

 きっとこれから、ジン・ラースは遠い存在になっていくんだろう。

 

 今はその魅力が知れ渡っておらず、実力のわりに数字が伸びていないけれど、ジン・ラースはこれから絶対に伸びていく。

 

 その時、数字も実力も圧倒的に劣る私とまた一緒に遊んでくれるか、不安になってしまった。

 

 べつに一緒に配信ができなくてもいい。コラボ配信じゃなくてもいい。私のチャンネルの数字が増えようが減ろうが関係ない。

 

 ただ、私は、ジン・ラースと一緒に遊びたいだけだ。

 

 人と一緒にやるゲームは楽しいんだと教えてくれたジン・ラースと、もっと遊びたい。

 

 ジン・ラースはまた今度コラボしようと誘ってくれていたのに、私は疑心暗鬼になって確かめるようなことを口に出してしまった。

 

 なにもジン・ラースが早く終わりたがっているタイミングでこんな面倒くさい女ムーブなんてしなくてもよかっただろうに、言わなくてもいいことを口にしてしまった。

 

 こんな面倒な性格をしていたらジン・ラースに嫌われてしまうかもしれない。そう考えただけで涙が溢れそうになる。泣かないように、声が震えないように、でもマイクには音が入らないようにゆっくり静かに深呼吸する。

 

 気持ちが沈みそうになった私に、ジン・ラースは言う。

 

『まだまだ行きたいマップもやりたいワークも残っていますし、「市街地」のネームドの一翼であるオウロさんからナイフを掻っ払いに行く約束もあります。中央区のワークビルの調査だってやらなければいけません。美座さんが嫌だと言っても引き摺って行きますので覚悟しておいてくださいね』

 

 言葉に滲んだ私の不安と後悔を拭い去るような、ジン・ラースの強引さと明るさだった。

 

 これまで一度だって、ジン・ラースは自分の都合を押しつけるような言い方はしてこなかった。なのにここにきて初めてそういう強引な言い方をしたのは、私を安心させるためなのだろう。心細そうな、弱気な声になってしまった私を元気づけるために。

 

 人の考えていることは悪魔のようにわかるくせに、悪魔と自称するには無理があるほどに優しい。

 

「ふふっ、うん……うんっ。覚悟しとく」

 

『次の出撃が今から楽しみです。それでは僕はこのあたりで失礼します』

 

「ん。おつかれ。いや、ジン・ラースはこのあとに配信があるんだから、がんばってね、だね」

 

『ありがとうございます。リスナーさんも、急にやってきた僕を暖かく迎え入れてくださりありがとうございました。おかげでとても楽しい時間を過ごせました。またお会いできる時を心待ちにしております。それでは』

 

 一拍ほど間を置いて、コミュニケーションアプリの電子音が鳴る。ジン・ラースがアプリのサーバーを抜けた音だ。

 

 一人、抜けただけ。

 

 一人でやっていた配信に戻っただけ。

 

 それだけなのに、どうしてこんなに物悲しい気持ちになるんだろう。

 

「……お喋りの悪魔がいなくなっただけで、すごく静かになっちゃうね。どれだけ一人でうるさかったかがよくわかるよ」

 

〈あ〜効く〜^^〉

〈うさねk〉

〈うさねこてぇてぇ〉

〈うさねこー!〉

〈うさねこてぇt〉

〈てぇてぇ〉

〈末永く仲良くしろください〉

〈一般獣何匹か成仏してないか?w〉

〈おつかれやで〉

〈おつかれー〉

〈配信観に行くぞ〉

〈ほんとにありがとうな黒兎〉

〈お喋りの悪魔草〉

〈声寂しそうw〉

〈強がっててくさ〉

〈寂しそうやんけ〉

 

「……寂しくないし。もともと一人でやってたし、それにまたやるって言ってたし」

 

〈めっちゃ悲しそうな声してたくせにw〉

〈黒兎いい奴だった〉

〈おもしろかった〉

〈またコラボみたい〉

 

「そうだね。またコラボ……今回のこれ、コラボじゃないんだけど。私よりDOC上なら証明しろって言って呼んだらジン・ラースだったっていうだけで」

 

〈そうだったんだ〉

〈そういやそうだったw〉

〈忘れてたわw〉

〈ある意味奇跡w〉

〈偶然二位の黒兎が観てるの草〉

〈コラボっていう通知もなかったしねw〉

 

 思えば、とんでもない数奇な巡り合わせである。

 

 切羽詰まって精神的にいっぱいいっぱいになっていたあのタイミングでしか私だってリスナーをパーティに誘うなんていう暴挙はしなかっただろうし、ジン・ラースだって頻繁に私の配信なんて観てないだろう。私のプレイングを観ても得るものなんてないし、おそらく暇だったから偶然開いたとかそんな感じなんじゃないかな。まさしく奇跡のようなタイミングで噛み合った。

 

 いろんな偶然とたくさんの奇跡が重なった。

 

 それなら。

 

 この出逢いはきっと、運命だったんだ。

 

 胸に灯るぽやぽやとした不定形の感情はとてももどかしいけど、不思議と不快感はなくて、なにより暖かくて心地いい。視界が開けたような、心に絡みついていた重りが外されたような、どこかふわふわとした気分。

 

 まぁ、うん、そうだね。悪い気分ではないかな。

 

「……ふふっ。ま、ジン・ラースはおいといて……最後に一回出撃して終わろうかな。ジェネレーターを拾いに行かなくちゃ」

 

 ジン・ラースが入ってくる前から私は配信していて、かれこれもう五時間くらいは経っている。きりもいいしここで終わってもいいんだけど、ジン・ラースが抜けてすぐに私も終わるというのは、なんとなく決まりが悪い。

 

 納品ワークで持ってこいと言われているジェネレーターをジン・ラースのオススメ通りに西の加工場へ取りに行って、それで今回は配信を終えるとしよう。

 

 装備をつけ替えて、使った回復アイテムなども補充して、水分ゲージとカロリーゲージも回復して、マップの待機列に並ぶ。

 

〈銃使わんの?〉

〈せっかく強い銃があんのに〉

〈プレゼント使わんのかい〉

〈使ってあげてよ〉

〈倉庫の肥やしにするのか〉

 

 待機中暇なのでコメント欄に目をやれば、リスナーがなんだかんだと(くちばし)()れてくる。

 

 まったくわかっていないリスナーどもである。

 

「うるさいうるさい。あんなに強い銃使ってたらなにも学べないでしょ。あれはジン・ラースとやる時まで置いといて、それ以外は修行としてこれまでと同じレベルの銃を使うの。銃だけ強くても私が強くなれなきゃ意味ないの。ふっ、これだから一般獣は」

 

〈フルカスタムCR4U1ここに眠る〉

〈まぁ銃に頼りきりになるのもな〉

〈プレイヤースキル上げるのも大事か〉

〈立ち回り勉強しないと先にも行けないしね〉

〈一般獣エリートがうるせぇこと言ってるw〉

〈ネームドにも虎にもなれない猫がよぉw〉

〈黒兎が言うならわかるけどはふ猫に言われるのはちょっと……〉

〈一般獣草〉

〈口のでかい猫だな〉

〈黒兎からもらった大事な銃をロストしたくないだけだよこのはふ猫〉

 

「これからはただ戦うんじゃないの。立ち回りを見直して、余計な戦闘は避けて、必要な勝負にだけ力を入れるわけ。教えてもらったキャラコンもアビリティも練習したいしね。ちなみにはふ猫とか言ってる奴をタイムアウトにするのは変わんないから。五分間の懲役刑どうぞ」

 

〈まぁ通らんわなw〉

〈はふ猫チャレンジ失敗〉

〈出撃待ちだったら見る余裕あるんだからw〉

〈さよなら同志〉

〈いい奴だったよ〉

 

「仕方ないよね。罪には罰。ジン・ラースも言ってた。謝っても許されないことはある。そういうこと」

 

〈うさねこは通るのに〉

〈ちょっとこの裁判官恣意的では?〉

〈そらうさねこは別よ〉

〈うさねこてぇてぇ〉

 

「うるさい。あとわかってると思うけど、他の配信で話も出てないのにその単語出したらダメだからね。ここでならともかく、他の配信者に迷惑かけるのだけはダメ」

 

〈うさねこー〉

〈うさね了解です〉

〈うす〉

〈リスナーのマナーやね〉

〈一般獣の躾も大事〉

〈馬鹿な獣には鞭も必要だ〉

 

 こういうことを言うと(わずら)わしく思うリスナーもいるかもしれないけど、それでも一言注意はしておかないといけない。他のチャンネルでも無駄に騒がしくして、そのチャンネルを視聴しているリスナーに(うと)ましく思われたくない。厄介なリスナーを抱えているというイメージがつくのはマイナスにしかならないのだ。コラボを見送られることだけは避けたい。口うるさく言って私の配信を観るリスナーが減ったとしても、他の配信者に迷惑をかけるよりずっといい。

 

 リスナーだって、無法地帯のようになるくらいなら小うるさく注意されても治安が維持されているほうがいいだろう。ファンからすれば、他のマナーの悪いリスナーと一括りにされて『あそこのチャンネルのリスナーは民度が悪い』などと言われるほうが嫌なはずだ。

 

「言わなくてもわかってるリスナーのほうが多いとは思うけど、一応ね」

 

〈これでコラボが遠のいたらいやだしな〉

〈また観たいならリスナーも努力せんとね〉

〈注意するのは大事よ〉

〈あざみんなんだか頼もしくなった〉

〈あざみんかっこいいよあざみん〉

 

「ふふっ。はいはい。わかったわかった」

 

〈笑顔増えたね〉

〈かわいい〉

〈かわいい〉

〈黒兎ありがとう〉

〈あざみんかわいいよあざみん!〉

〈笑った顔かわいいわね!〉

 

出撃待機が終わり、マップに湧いた。湧いた場所は今回のワークにお(あつら)え向きにマップの西南西『吊り橋』だ。目的地の加工場はマップの西なので近い位置に湧いた。ラッキーだ。

 

「さ、ラストがんばろっかな」

 

 いつになく騒がしいコメント欄を軽くいなしながら、ワークビルの休憩室で拾ったサブマシンガンに弾を装填する。

 

 男がいなくなった途端に強化兵士に撃ち負けていては、キャリー女の(そし)りを免れない。きっちり依頼の品を確保して、しっかり生還してやる。

 

 ジン・ラースの戦友として、情けない姿は晒せないのだから。

 




これにてADZ配信終了です。
とりあえずやりたいこと全部やっとくか、の精神で書いたらばかみたいに長くなってしまいました。これでも投稿する前の推敲で冗長になりそうなところやくどくなりそうな説明を削ったんですが、この長さでした。わお。
お付き合いいただきありがとうございます。
僕が二章を書き始めたそもそもの理由が、お兄ちゃんが楽しくゲームしているところを書きたいというのが一つと、もう一つはこのADZ配信を書きたいがためでした。一章の時点で設定だけはあって、ちょくちょく雑談の中でも話題に上がってはいたものの、結局一章ではADZ配信をやる隙間がなくて見送ったんです。
もともとかなりクセのある拙作ですが、その中でもかなりクセの強めな配信になったような気がします。
今回しっかりと描写できて個人的にはとても満足ですが、読んでくれた方的にはどうなのか、正直なところ少々不安ではあります。楽しんでもらえていたら嬉しいんですが。
ともあれ長きにわたってお付き合いいただきありがとうございました。
よかったら感想や評価などしてもらえると嬉しいです。



なんだかこういう書き方をするとここで更新が終わるみたいな感じですが、ぜんぜん続きます。ただの一区切りです。ADZ配信のお話が終わっただけです。

次はお兄ちゃん視点です。二章に入ってからは少なかった配信外のお話になります。
これからもよろしくお願いします!
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