サイコバグなお兄ちゃん、Vtuberになる。 作:にいるあらと
映画を観に行く日
「礼ちゃん、準備できた?」
「できたー。いつでも行けるよー」
「それじゃ玄関で待っててね。車出してくるから」
「はーい」
礼ちゃんの間延びした返答を背中で聞きながら、僕は玄関を出て車庫に向かう。
今日はめずらしく外出だ。
なんでも、礼ちゃんと夢結さんが観ていたアニメの劇場版が封切りされたのだとか。その話を礼ちゃんからされた時、僕は『そうなんだね。夢結さんとお出かけするの久しぶりだろうし、楽しんできてね』と送り出す気百パーセントでいたのだけれど、礼ちゃんは笑顔で頷いて『うん、だから一緒に行こ』と打ち返してきた。その眩ゆいばかりの笑顔には強制力が働いており、僕に断るという択は存在していなかった。もはやニュアンスとしては『一緒に行こ』というよりも『一緒にこい』に近しいものがあった。
まあ、別にいいのだけれども。僕も礼ちゃんや夢結さんと遊びに行けるのは嬉しいし。
そして今日、映画を観に行く日がやってきたのであった。この日のためにアニメ放映版のほうも予習してきた僕に抜かりはない。
そのアニメ自体はタイトルは知っていたけれど観たことはなかったが、夢結さんがはまり、礼ちゃんがおもしろいよと僕におすすめしてきた理由がよくわかった。たしかに、とても良かった。作画はもちろん綺麗だったし、キャラクターも魅力的だった。ストーリーも深く作り込まれていて考えさせられる内容となっており、放映版を観終わった頃には僕も劇場版が楽しみになるほどだった。
礼ちゃんが助手席に座ってシートベルトを装着したことを確認してから車を出す。
ここから夢結さんのお宅へと向かって夢結さんを拾ってから目的の映画館が入っている大型複合商業施設に行く。おそらく夢結さんを拾った時にでも後部座席に移るのだろう。夢結さんを迎えに行くまでは助手席に着き、僕とのお喋りに付き合ってくれるようだ。
最近はお勉強のほうに集中していた分、礼ちゃんは今日はゆっくり羽を伸ばすつもりらしい。今日の礼ちゃんの装いはとても夏らしくて華やかだ。ふわりとしてボリューム感のあるオフショルダーのブラウスとデニムのショートパンツ、ヒールの高めなウェッジソールのサンダルで涼やかさもある。ボトムスで締まりはあるけれど普段と比較すれば甘めのコーディネートだ。日頃から運動している成果が脚線美に表れている。礼ちゃんの魅力が如実に出ていた。
「ねえ、お兄ちゃん。昨日配信、一緒にしてたでしょ?」
「うん。やったね。とても楽しかったよ。やっぱり礼ちゃんは美的センスがあるよね。僕は礼ちゃんみたいにオリジナルで建築できないから、ああいった創作技術とか芸術面のセンスは本当に尊敬するよ」
信号待ちをしている間に昨日礼ちゃんとやったアイクリのコラボ配信を思い返しつつ、冷房を調節する。車はガレージに停めているので直射日光には晒されていないけれど、それでもこの時期だと車内は暑くなる。エンジンをかけてすぐでは空調も効きづらい。せっかくのお出かけの日に礼ちゃんの体調に支障があっては台無しだ。冷房が効き始めるまで強めに設定しておこう。
「切り抜き観たんだけど」
「ん? 切り抜き?」
「『
「……………………」
急に冷房効き始めたな。肌が粟立つどころか心胆まで寒くなってきた。おそらくこれは冷房の影響ではないと思うけれど。
「コメントでも〈てぇてぇ〉っていっぱいあったよ。『うさねこ』っていうカップリング名までついてた。よかったね? 美座さんと一緒に配信して仲良くなれて。同棲中のカップルみたいな会話までするくらい、仲良くなれたんだもんね?」
礼ちゃんの言った『昨日配信を一緒にした』というのは僕と礼ちゃんのコラボ配信のことではなくて、その前に美座さんの配信に僕がお邪魔した時のことだったのか。たしかに礼ちゃんは『コラボ配信』なんて一言も言ってない。僕は配信していなかったけれど、美座さんは配信していたのでたしかに『配信を一緒にした』とは言える。
完全に早とちりした。とんでもないミスリードを埋伏させたものである。
「……同棲中のカップル、だなんて表現は不適切だね。悪意のある切り抜きかもしれない。そんなシーンがあったなんて、僕は記憶にないなあ……」
「と思って美座さんのアーカイブ観に行ったら該当のシーンはノーカットだったよ。そっくりそのまま切り抜きの通りに同棲中のカップルみたいな会話だった」
「ん……ううん……」
「なにか思いつく? 弁解」
なるほど、これは逃げられない。言い逃れする隙間はすべて塞がれていると考えたほうがいい。
こういう時は早々に白旗を振ったほうが傷が浅くなることを、僕は知っている。
「……人とやるADZが、楽しくて……」
仕方ない。そう、仕方ない。
とても楽しかったのだ。
パーティを組んでいると出撃前の長いロード時間も気にならなくなるし、広大なマップの移動も喋りながらだとお散歩みたいな感覚になる。敵と遭遇しても仲間がいると心強いし、敵が強かったり多かったりしても射線がもう一つあるととても崩しやすくなる。倉庫で眠っていた武器を交換した時は仲間、戦友、同志との絆の暖かさを感じた。良き。
ADZというゲームの面白さ、楽しさが倍増していたと言っても過言ではない。
「それでテンション上がっちゃって、ってこと?」
「うん。一緒に出撃できたのは二回だけだったけど、とても楽しかった。テンション上がってた」
「まあ、楽しそうにやってるなあ、とは思ったよ。……私は今新しくゲーム始めるとかできないし……仕方ないか。お兄ちゃんにはしっかりと貴弾に打ち込んでほしいところだけど」
「貴弾もたまに触ってるよ。心配しないで」
「お兄ちゃんの言う『たまに触ってる』って、それエイムの感覚忘れないようにしてるだけのやつでしょ? ほんとに触ってるだけじゃん。射撃訓練場行って帰ってくるだけだもん。クラスマッチやるとかじゃないんだもん」
「やるとしたらカジュアルマッチをやるくらいだね。クラスマッチ行き過ぎたら礼ちゃんとパーティ組んでクラスマッチ行けなくなっちゃうし」
「いいの、それでも。お兄ちゃんが実力相応のクラスに行くほうが健全でしょ。お兄ちゃんが行けなくなったらutacoさん誘ったり少年少女さん誘って貴弾やるから」
「え、その場合は僕も一緒にやりたいよ」
「お兄ちゃんは実力に見合ったクラスにどうぞ」
「見合ったクラス、って言われても。僕は上のクラスに行った経験もないんだから、今いるクラスが適正クラスなんだけど」
「ぜんぜん適正じゃないよ。やってないだけじゃん、お兄ちゃんは。『絶望圏』やってる時間の半分でも貴弾に割いたら絶対クラス上がるよ」
「僕の中でのゲームの優先順位は貴弾よりもADZだからそれはできないなあ」
クラスだったりランクだったりゲームタイトルによってそれぞれ呼び方は違うけれど、貴弾以外でも対人戦闘要素のあるFPSゲームの多くではプレイヤー同士の等級が離れすぎているとパーティを組めなくなる。ブースティングと呼ばれる、極端に強い人と弱い人がパーティを組んで不当に等級を上げる行為を防止するためである。
なので僕がクラスを上げる時は、そのシーズンの礼ちゃんのクラスに合わせて上げている。単純に対人系のFPSにそこまで熱中していないだけとも言えるけれど。
「なんでそこまで『絶望圏』に夢中なのかなあ……。PvEゲーのほうが好きなのは知ってるけど、でもいくらやってたゲームが『絶望圏』だったからって、お兄ちゃんが知らない人に
「うーん……コメント打ったら一緒に出撃しましょうって誘われただけなんだけどね」
「いつものお兄ちゃんならそもそもコメントも打たなそうだよね。なのに女性配信者にあれだけ積極的に行くなんて……。相手のリスナーさんが寛容で私、安心したよ」
「あー……それはそうだったね。たしかに不用意すぎたかもしれない」
美座さんが在籍している事務所である『Next Princess』は『Princess』の名の通り女性しか所属していない。
その『Next Princess』のグループの一つである『Now I Won』の人たちは男性女性関係なく配信者の人たちと頻繁にコラボしてるみたいだけど、僕の場合は何がきっかけで荒れるかわからないし、後で調べたら美座さんはこれまで同性の配信者さんとしかコラボしていなかった。自己責任だし自業自得なので僕はどうなってもいいけれど、リスナーさんの考え方や美座さんの配信スタイル次第では美座さんにまで迷惑をかけるところだった。
それに迷惑をかけてしまうのは美座さんだけではない。今日の朝には美影さんからも『今後は念の為、コラボの前に一報入れるように』という内容をかなり遠回しにして可能な限り柔らかい言葉に変換されたメッセージも届いていた。なにか問題が発生してしまった場合、美影さんの負担にもなってしまうのだ。
しかも美影さんは美座さんの所属する事務所『Next Princess』に連絡を取って話を付けてくれていたらしく、僕が今後も美座さんとコラボできるように取り計らってくれていた。なんともはや、美影さんには頭が上がらない。
いくら僕にコラボのつもりがなかったとしても、やっていたことはコラボと遜色がなかったわけだ。他事務所のライバーさんと行う初めてのコラボならそれ相応の手続きというものが必要になるし、しかも相手が何かにつけて厄介事を引き寄せる僕ともなれば尚のこと事情の説明も必要になる。
ADZをやっている同業者がいて舞い上がってしまっていたが、僕は悪い意味で多くの人に注目されているのだから軽率な行動は慎まないといけない。今回何事もなかったのはただ運が良かっただけだ。
「そのあたりちょっと気にしたほうがいいかもだけど、向こうのリスナーさんも楽しめてるみたいだったから今回はよかったんじゃないかな。なによりお兄ちゃんも楽しそうだったしね」
「うん、本当に楽しかった。同じVtuberで、しかも上手い人とADZできる機会があるなんて思わなかったからさ。期待してなかった分、余計に嬉しいよね」
「声だけでお兄ちゃんが頬を緩ませながらやってるのが伝わってきたよ。……ところで、美座さんとは昨日の配信での絡みがほんとに初めましてだったんだよね?」
「そうだよ。SNSも相互フォローしてなかったくらいだし」
「なのに最後のほうはあんなに仲良くなってるって……ほんとコミュ力すごいなあ」
「コミュ力どうこうじゃなくて、ともに街を守っている同志だからっていう部分が大きかったと思うね」
ADZは
その助け合いの精神が美座さんの中にも根付いて芽吹いており、お互いへのリスペクトが根底に確固としてあったからこそ、短時間で戦友と呼べるほど親しくなれたのだと僕は思っている。仲間、戦友、同志。良き。
「お兄ちゃんの『絶望圏』の同志に対する厚い信頼はなんなの……。正直さあ……お兄ちゃんが入ったばっかりのほうとか、美座さんの態度悪くなかった?」
「あの時はその少し前にコメント欄が慌ただしくなってたから、それでちょっとだけ気が立ってたんだと思うよ。実際、少し時間が経ったらすぐに態度は軟化して打ち解けられたしね」
「きっかけは時間じゃなくて遠距離ヘッショでしょ。あれで見る目が変わったんだと思うよ。いや、それにしたって距離縮まるの早すぎるけどね」
「あの配信を観てADZを始める人が少しでも増えたらいいなあ。兎を使ってくれる人が増えたらもっといいんだけど」
「あれを観て兎の種族を使う人が増えても、数日後には扱いの難しさに気づいてきっとやめちゃうだろうから長期的に見れば変わんないよ」
「なんてことを言うんだ。きっと中には兎のトリッキーさに夢中になってくれる人だって……いる、はずだよ」
「言ってるお兄ちゃんですら、駄目そうだな、って思っちゃってるじゃん。きっとすぐやめちゃうだろうなあ、って。なんなら兎以外の種族を使っても大して変わんないんだよ。他の種族だって簡単じゃない。『絶望圏』自体が難しいんだから」
「……FPSのライトユーザーが熱中できるようなタイトルかと問われたら、口が裂けてもイエスとは言えないしね……」
これまで長い期間にわたってFPSに触れてきた僕でさえ、生還率が八十パーセントを少し超えるくらいだ。どれだけ調子が良かったシーズンでも九十パーセントには届かなかった。それがADZというゲームだ。
「私、美座さんの配信を観てびっくりしたよ。女の子であんなゲームにのめり込める人いるんだって思って」
「あんなゲームとは何さ、あんなゲームとは。僕も驚いたけど。でも、これからきっと……きっと、増えていくはずなんだ。前と比べればプレイしやすくなっているのは確かなんだし……」
「プレイしやすくなっても、未だに『絶望圏』と呼ばれている事実から目を背けないでほしいね。UIがよくなっても、根本的なゲームシステムが鬼畜すぎるってことに変化はないんだから」
「これから、これからなんだ……。これから僕と美座さんが配信で楽しくADZをプレイしていれば、きっと街を守る同志は増えるんだ……」
「その新兵から順番に死んでいくんだろうね。はたして何人が生き残ることやら」
「戦場は過酷だ……」
美座さんの配信にお邪魔した時のことを話したり、昨日やった僕と礼ちゃんのアイクリコラボ配信のことを話したり、今やっている建築物が完成したら次はこういうのを作りたいね、なんて雑談をしているうちに夢結さんが住んでいるマンションの近くまでやってきた。
マンションの前に停車し、礼ちゃんから夢結さんに連絡を取ってもらう。
ここ最近はずっと暑いし、今日は雲一つない快晴。夢結さんを外で待たせてしまったら日に焼けてしまうだろうし熱中症にもなりかねない。なので、着いたら連絡するのでそれまではマンションの中で待っているように、と伝えていたのだ。
「すぐ行く、ってさ。そういえば、学校の帰りとかでは会ってたけど、それ以外で夢結と会うのってお兄ちゃん初めてじゃない?」
「あ、そういえばそうだね」
夏休みに入る前などは礼ちゃんを迎えに行くと夢結さんも一緒にいて、夢結さんをお家まで送っていた。ちょくちょく顔は合わせていたしお喋りもしていたけれど、それ以外で会うという機会はこれまでなかったし、学校帰りということもあって常に制服姿だった。思えば夢結さんとは何回も会っているのに、私服姿を拝見するのは今日が初めてだ。
「きっと制服姿とは印象も違って見えるんじゃないかな。夢結はセンスいいし、楽しみにしてていいよ」
「あはは。夢結さん本人がこの場にいたら、無駄にハードル上げないで、って怒りそうだ」
「うん。だから、いないうちに言っとくの!」
にぱっと悪戯っぽく笑って、礼ちゃんは車から降りた。
あついー、と夏の日差しに文句をつける礼ちゃんはマンションのエントランスまで軽やかに駆けていく。わざわざマンションまで迎えに行かずとも、何度もこの車には乗っているのだから夢結さんだってすぐに気づけるだろうに。
マンションの方へと目を向ければ、今まさにオートロックの扉から出てきた夢結さんに礼ちゃんが抱きついていた。
ハグから始まる熱烈な挨拶が終わると、礼ちゃんは一歩下がって上から下まで夢結さんの姿を眺め、なにやらすごい勢いで夢結さんへと言葉を投げかけている。そんな礼ちゃんに夢結さんは慌てた様子で口を塞ごうとしていたので、きっとお洒落な装いをしている夢結さんを褒めちぎったりなどしたのだろう。
「……ふふっ、なるほどね」
車を降りる前に礼ちゃんが夢結さんの服装について言っていたのは、きっとこういうことなのだろう。でも、直前にわざわざ念押ししなくても夢結さんと会った時に褒めるのになあ。
一通り夢結さんを褒め倒して満足したのか、礼ちゃんは夢結さんと手を繋ぎながら車へと近づいてくる。
車に乗ってしまえば夢結さんは後部座席に座るので、姿もちゃんと見れないしお話もしづらくなる。挨拶をするなら乗る前のほうがいいだろう。
運転席から降りて歩道側へと近寄った。
「お兄ちゃんっ、ほらっ! 夢結っ、めっちゃ可愛いでしょっ?!」
「ちょっ、ちょっと礼愛っ……」
僕の姿を視認した途端、礼ちゃんの背中に隠れようとしていた夢結さんを礼ちゃんは引っ張って前に押し出した。
印象も違って見える、なんて礼ちゃんは言っていたけれど、まさしくその通りに全然違って見えた。
いつもはサイドに結っている髪を下ろしているだけでも、かなり雰囲気が違うように感じる。トップスはTシャツかタンクトップかまでは見えないけれど、その上から薄手のジャケット。ボトムスはサロペットパンツで、足元はヒールが高めのスクエアトゥストラップサンダル。
紫外線対策もあるのかもしれないけれど、これまで見ていた制服姿よりよっぽど肌の露出を抑えたコーディネートになっていた。私服のほうが控えめなパターンというのもあるのか。制服の時は心配になるほど足を晒していたが、今日は全然肌を出していない。肌色の面積で言えば、礼ちゃんと夢結さんで普段の真逆になっている。
夢結さんも礼ちゃんとは違った意味でスタイルが良いのでとある一部分には視線を向けられないけれど、とても魅力的な装いだ。
「おはよう、夢結さん。うん、とっても可愛いね。でもそれ以上にどことなく大人っぽい落ち着きがあるよ。髪を下ろしてるところも初めて見た。とても似合ってる。綺麗だね」
「へぁっ、ひぇ……ぁ、あ、りがと、ござぃまひゅ……」
「あははっ、夢結顔真っ赤だよ! 大丈夫ー? 今からその調子だと、こっからもたないよー?」
「む、むりかも……しんぞう、はれつするかも……」
「んー、まあ喋れてるうちは大丈夫でしょ」
「あ、あたしには、まだ、はやかったんだっ……」
「体調不良、って感じじゃなさそうだね。照れてるのかな? ふふっ、夢結さんだったら褒められ慣れてるだろうに」
「ひや、そんなっ、あたしなんてぜんぜん……」
「二人で遊びに行ってたらよく声かけられるしね。やっぱり夢結は可愛いんだよ。おっぱい大きいし」
「そこかい」
「そこかいって言うけど、女の魅力を評価する要素の一つは確実に占めてるよね。だから夢結だってハイウエストで絞って強調させてるんでしょ? ずるいなー」
「黙って。あたしの戦略を事細かに説明しないで。……てか、お兄さんの前でそういうこと言わないでもらえないかなっ? ……お兄さんの顔見れなくなったでしょうがっ」
「もとから見れてないんだから変わんないじゃん」
「うるさいなあんたはっ! その通りだよ!」
「はい、続きを話すなら車の中でどうぞ。この炎天下はお喋りには向かないよ。早く乗ってね」
スタイルの話に移った瞬間から僕は目を逸らしていた。僕がどのように言葉を選ぼうと、発言してしまえば行き着く先は非難しか待ち受けていないからだ。
ちなみに言うと礼ちゃんだってスタイルはいいし、決して胸元に乏しいわけでもない。このくらいの年齢の女の子の平均くらいはあるとかなんとか、まるで自分に言い聞かせるように僕に熱弁していたのを憶えている。
それでも礼ちゃんと夢結さんが並ぶと、少し言葉の響きが悪くなってしまうけれど貧相に見えてしまう。しかしそれは隣に立つ夢結さんが平均値から大きく逸脱しているからに他ならない。強調されやすいようなデザインでもない一般的なブレザータイプの制服でさえかなり目立っていた夢結さんのスタイルが、ハイウエストのサロペットパンツによって強調されればそれはもう、さもありなんという感じになる。羽織っているタイトなシルエットのジャケットはちゃんとボタンを留められるのか怪しいくらい、立派な山が
そのあたりに言及するとまず間違いなくセクハラの
服装までならまだしも、女性の体型の、しかも特定の部位に焦点を当てた話となれば僕に生き残る道はない。撤退するか、存在を消すか、選択肢はそのどちらかだ。運転席に戻ったら、話題が移るまで存在感を消しておくことにしよう。
二章に入ってからは配信が多かったのですが、これからしばらく日常回です。だいぶ前にちょろっと出てきていた映画の話です。
お兄ちゃん視点が続きます。