サイコバグなお兄ちゃん、Vtuberになる。 作:にいるあらと
礼ちゃんは夢結さんの後ろに回り、ぐいぐいと背中を押していく。クレーンゲームは入り口付近に並んでいたので、そちらに移動するのだろう。
クレーンゲーム機が並ぶ一画にくると礼ちゃんは夢結さんと僕の前に立って腰に手をあてた。
そして宣言する。
「協力プレイがない。なら競争すればいいじゃない!」
よくわからなかった。
「競、争? クレーンゲームには対人戦モードがあるの?」
「ないです」
きっぱりと夢結さんに否定される。ないんだ。
礼ちゃんの口振り的に、一つのプライズを二つのクレーンで奪い合うようなモードがあるのかと思った。
「予算二千円でより多くの商品を取った人の勝ち! 勝者には敗者に公序良俗に反しない範囲でなんでも命令できる権利を進呈!」
僕と夢結さんは強制参加っぽいのに参加者に一切許可を取らないでそんな権利を渡しちゃうのか。夢結さんはそれでいいのかな、と反応を窺おうとしたら、こくりと生唾を呑み込むような音がこの騒々しい空間でも聞こえた。
「な、なんでもっ……命令、だとっ。今なんでも命令できると言ったのか?!」
夢結さんは乗り気らしい。
男性女性混合でこの手のゲームが開催された場合、女性は難色を示すのがセオリーではないのか。これがジェンダーレスの時代か。
「公序良俗に反しない範囲で、とも言ってたね。つまり無茶なお願いはしちゃだめだよ、ということだね」
「あたりまえだよね。えっちなことは命令できません。あしからず」
「ししいししないがっ?! そんな、
「そのわりには声が震えてるけど、夢結」
「不埒を口語で使ってる人初めて見たかもしれない。それにしても、不埒で破廉恥。テンポ感が気持ちいいね」
「が、がんばるぞっ……」
急にきりっと真剣な顔になった夢結さん。礼ちゃんの企画にやる気になってくれているのは嬉しいけれど、そのやる気はそれだけ強く命令権を欲しているという裏返しなので、何を命令されるかわからない僕にとっては恐怖と背中合わせだ。
とりあえず僕への注意が初めて逸れたので、この隙をついて両替機へ。
戻ってくると、とあるクレーンゲームのぬいぐるみに狙いを定めたのか夢結さんはミニハンドバッグからお財布を取り出そうとしているところだった。
それを横から制止する。
「えっ?」
「夢結さん。手、出して」
「え、やっ、あ……あのっ、あたし……。……法に触れるような命令なんてするつもりはなくてっ……ちょ、ちょっと考えちゃっただけでっ……。すいませんでした……」
そう言って項垂れながら夢結さんは両手の手首をくっつけるように近づけて僕に差し出した。
「いや逮捕じゃないよ」
とんでもなくキレのある冗談だ。たまにすごいボケを打ち込んでくれるから夢結さんとお喋りするのは癖になる。
「夢結……あんたってやつは……」
「や、やめてよ……礼愛。そんな目で見ないで……」
「レギュレーションの予算二千円分。両替してきたから渡したかっただけなんだ」
「ひはぁっ……」
「なんちゅう声出してんのよ」
手のひらを内側に向けていた夢結さんの手を掴み、上方向へと向きを変えて両替してきたお金を乗せる。
「って、え?! いや、さすがにもらえませんっ!」
「でもレギュレーションだから」
「『レギュレーションだから』で押し通せると思われてますかあたし?」
「この企画の協賛は僕だから企画にかかる費用を出すのは当然なんだよね」
「そうだよ。お兄ちゃんプレゼンツなんだよ」
「ええ……。礼愛のこの企画、参加人数二人しかいないのにスポンサーついてんの……」
僕が折れないと察したのか、夢結さんは渋々といった様子だけれど諦めて受け取ってくれた。仕方ないね、レギュレーションなんだもの。
「ねえ、夢結さん。僕クレーンゲーム初めてやるんだけど、何かコツみたいなのってあるの?」
「あれ? これ競争だったはずじゃ……。いや、いいんですけどね」
さっそく企画の趣旨から逸脱し始めた僕に夢結さんは動揺していたけれど、クレーンゲームで見るべきポイントはしっかり教えてくれるようだ。そうなんだよね、僕と夢結さん、企画の対戦相手なんだよね、本当なら。
「クレーンゲームもいくつか種類があるんです。景品の形だったり、クレーンの形だったり」
「あ、本当だ。たくさん種類があるね」
「景品の形によっても取りやすい取りにくいがありますし、クレーンのアームや、景品が置かれている台にも違いがあります」
「おお、たしかに。……ん?」
たくさん並んでいるクレーンゲーム機を一つ一つ見比べてみると、それぞれ違いが見えてきた。クレーンのアームと呼ばれているのだろう部位、その先端にゴムのような素材がこちらではあるのに、あちらのクレーンではなかったりする。
「どうかしました?」
「アーム? っていうのかな? それの先端の色が違ってるのは、ただのカラーバリエーションなのかな、って思って」
「着眼点が天才ですお兄さん」
「褒めて伸ばすタイプの先生だ」
「安直に爪とかって呼ばれてるんですけど、爪にゴムっぽい滑り止めがあるのと、ついてないのとがあるんです。ちなみに台にもそういうのがあります。アームに滑り止めがついているほうがもちろん取りやすいですし、台に滑り止めがついていると景品をずらしにくいので取りにくいんです。ちらっと見ただけでよく気づきましたね!」
「この先生とっても気分が良くなるなあ」
「他には景品を落とすところかな。プラスチックのカバーがついてるものもあるんですけど、カバーがないものだとアームの閉じる動作を利用して景品を移動させて落とす、なんてこともできます。アームの開く角度を把握したり、爪の形にも違いがあるので景品のどの部分にアームを持っていけば取れやすいか考えたりします」
「先生詳しいですね。頼りになります」
「先生ですからね! 大事なところがもう一つありまして、アームの強さもそれぞれ違うことが多いんです。アームがあまりにも貧弱だとどうにもならないので、そういう時は諦めて違う台を狙ったほうがいいです。…………まぁ、今は確率機なんてものもあるけど……」
先生が暗い顔でぼそりと呟いた。何か嫌な経験がフラッシュバックしたのだろうか。
「……確率機?」
「いえ、それは気にしてもしょうがないので気にしないでください! いいとこにアーム持って行ってもぜんぜん動かない、ってなったら見切りをつけるのが吉です!」
「なるほど……ありがとう、夢結さん。あとは試してみることにするよ」
「はい! お役に立てたならよかったです! やっぱり実際にやってみるのが一番わかりやすいですからね」
クレーンゲームと一口に言っても、筐体ごとに違いがたくさんある。それもそのはず、プライズがまず違うのだ。大きいものだと幼稚園児と同じくらいのサイズのぬいぐるみがあったり、小さいものだとキーホルダーくらいのものもある。お菓子がたくさん流れているものも一応ジャンル分けすればクレーンゲームに分類されるだろう。
夢結さんに教えてもらったことで、この企画のルール、勝敗条件設定の
「……礼ちゃんはより多くの商品、って言ってたけど数だけが勝敗の基準なのかな? 大きいプライズ、ぬいぐるみとかのほうが難易度は高そうだけど」
「……そう、ですね。ぬいぐるみとかフィギュアとかのほうが取りがいがあるんですけど、この企画のルールだと数さえ取れればいいみたいになりますよね。それは盛り上がりに欠けるというか……一度主催者に確認を取らないといけませんね。礼愛はどこに……」
「あ、夢結さん。礼ちゃん向こうでクレーンゲームやってるよ」
「主催者……」
主催者も主催者でゲームを人一倍楽しんでいた。みんな楽しめる企画だ。なんて素晴らしいのだろう。
夢結さんと連れ立って礼ちゃんの下までルールの確認に行く。
僕たちの接近に気づいた礼ちゃんは、いいところにきた、とばかりにぱぁっと表情を明るくした。
「れ……」
「ねえねえ! 見て! 『
クレーンゲームの透明な板に指をつけるようにして主張していた。うん、めっちゃかわいい。礼ちゃんが。
「わあ、クレーンゲームのプライズにもなってるんだ。すごいね。とてもよくできてるし」
「『
とても真剣な目をしながら夢結さんがフィギュアの評価を下していた。やはり芸術分野に携わっている人は目のつけ所が僕みたいな素人とは違う。
腕を組みながらうんうんと礼ちゃんは頷いた。
「やっぱり『End Zero』くらい人気高いとこういう展開も多いよね。スマホゲームのコラボとか、商品のパッケージとか、中にはCMに起用されてる人もいるし」
「礼ちゃんもそういうの憧れたりする?」
「んー、私はいいかな。あんまり忙しいとやりたいことやれなくなっちゃうし。『New Tale』にはお世話になってるからお願いされたらなるべく引き受けたいけど、自分から率先して『企業案件ほしいです!』みたいなのはないや」
「あははっ、礼愛らしいなぁ」
「でもグッズとか、こんなふうにフィギュアとかは作ってほしい。お兄ちゃんの部屋にたくさん置くんだ」
「どんな野望よ……。お兄さん、部屋にお客さん呼べなくなっちゃうよ」
「礼ちゃん……レイラ・エンヴィのフィギュアかあ。それはほしいね」
「お兄さんも望んでたんだ……ならいっか。いや違くて。企画の勝敗条件について主催者に聞きにきたんだけど」
「えー? なに?」
「勝敗を決めるのは取ったプライズの数で決まるの? さっき夢結さんと話してたんだけど、お菓子とかなら比較的簡単にたくさん取れちゃうし、ぬいぐるみとかだと難しい。でもお菓子の数で勝敗が決まるのは盛り上がりに欠けるね、って」
「や、べつに配信映えとか撮れ高とかを気にするところでもないから、もっとゆるく取り組んでくれてもよかったんだけど……うーん、そうだなあ。それじゃこうしよう。二人が取ってきた景品の数や質を総合的に評価して、私が独断と偏見で白黒つけるよ。ぬいぐるみなら高評価、おっきかったらもっと高評価、みたいな感じ」
「……その評価って、公平にされるんだよね? 私情が入ったりしないよね?」
「ちょっ……審判は公正公平に下すよ! べつにお兄ちゃんに甘く採点したりしないから! あたりまえでしょ!」
「礼愛の場合万が一があるから……。でも、そうよね。いくら礼愛でも、こういうゲームの時はちゃんとフラットに判断するよね」
「礼ちゃんはこういう勝負で不公平なジャッジをするのが一番つまらないって知ってるもんね」
「そうだよっ。心配しなくて大丈夫! ……ところで夢結。このフィギュア取れたりしない? 照先輩も好きだけどルカちゃんも好きなの」
「さっそく主催者の私情が……あーでも、ちょうどいいか。お兄さんに実地でどういうものか見せられるし。礼愛、これ取れても取れなくてもノーカンってことでいい?」
「うん。それはもちろん」
「夢結さんがやって見せてくれるの? それは嬉しいね。エキシビションみたいなものかな」
「いやー、そんなに大層なものじゃないです……」
アームの調子もわかんないですし、と弱気なことを呟きつつ、夢結さんはコイン投入口に硬貨を入れる。
「ああ、なるほど。順番に押していくんだね」
「そうですね。基本的にボタン操作はそれぞれ一回までで、今回のクレーン機の場合だと、横に動くボタンを押すとボタンから指を離すまで横に動き続けます。もし指が滑ったとかで狙ったところとは違う場所でボタンを離してしまってもやり直しはできないので注意してください」
「まずクレーンを横に移動させる、と」
「はい、次に奥に動かすボタンです。基本的には景品の真上に移動させることを意識すればいいです。これも押したら離すまで動き続けますから気をつけてくださいね」
「奥に動かす……横移動の時よりもプライズに合わせるのが難しそうだね。奥だと距離感が測りにくそうで」
「そうですね。一番狙いとずれてしまいやすいのがここかもしれません。あと、このクレーンにはついてるんですけど、アームを回転させるボタンで景品の傾きに合わせます」
「たしかに、フィギュアの箱が真正面じゃなくて向きをずらして置かれてるね。それで調節するんだ」
「見た感じしっかりアームが閉じそうだったので正攻法で挑戦してみます。お兄さん、フィギュアが入ってる箱、よく見たらてっぺんの蓋と側面の境目の隙間を透明なテープを貼って封じられてるの、わかりますか?」
「本当だ。でも……」
「そうなんです。全部きっちり貼られてないんです。その隙間にアームの爪が入るように狙います」
そう言って、フィギュアの箱の向きとアームの向きが合わさったタイミングで、アームを回転させているボタンから手を離す。するとアームは回転が止まり、同時に降下していった。アームの回転と下がるボタンは連動しているようだ。
フィギュアの箱の向きとアームの角度は驚くほどぴったり合っていた。しかもアームが降りた位置もフィギュアの箱のど真ん中。アームが動き、蓋と側面の境目のテープが貼られていないわずかな隙間に爪を差し込む。
「おー、ここいいお店だなぁ。アームが強いや」
二本のアームはしっかりとフィギュアの重さを支えて持ち上げる。前後に揺れながらプライズを運ぶクレーンに僕と礼ちゃんはひやひやしていたけれど、アームはそんな心配をよそにしっかりと獲得口まで運んだ。
アームが開かれ、フィギュアの箱ががたごとと音を立てて落ちる。
取り出し口から取り出してプライズを手に取った夢結さんは、そのまま礼ちゃんに向いた。
「運がよかったね。はい、礼愛」
「わー! ゆゆーっ、ありがとーっ!」
「すごい、夢結さん格好いい。一発で取れちゃうんだ」
「あはっ、いやっ、そんなっ、た、たまたまですよぉ……。ここのクレーンの設定がよかっただけで……えへへ、そんな大したもんじゃないんでっ」
「やっぱり夢結うまいなあっ! 私じゃぜんぜんだめだったのに! 夢結は空間認識能力とかが高いのかな?」
「それはありそうだね。夢結さんは貴弾やっても伸びそうだ。空間認識能力と、あとは遮蔽の位置とか高さとかを頭に入れれば射線管理が得意になりそう」
周囲の遮蔽物や、自分と他のプレイヤーのいる位置、高度を把握して俯瞰的にマップを認識することで、どの位置ならどこからも射線が通らなくて安全だとか、どの遮蔽物に隠れているとどこから射線が何本通るかが理解できるようになる。これは射線管理と呼ばれるテクニック、というよりは心得に近い感覚で、この感覚が鋭いと立ち回りの安定に繋がるのだ。
普段のプレイ中での意識であったり、訓練次第で感覚を磨けるようにもなるけれど、人によってはどれだけやってもその感覚が掴めないという人もいる。空間認識能力の有無ではなく強弱の差なのだろうけれど、できない人はとことんできない。
その点、夢結さんは大本の空間認識能力が発達しているようだ。
「えっ?! しゃ、しゃせ……管理……。いや、あたしきっと、そういうのは……できないかも。どちらかというと甘い性格ですし……無理に我慢させるのは、ちょっと……」
「…………ん?」
甘い性格、無理に我慢とは何の話だろう。
どういうことか夢結さんに説明を求めようと開いた僕の口を礼ちゃんが手で塞いだ。そのままずいっと礼ちゃんは一歩前に出る。
「『
「…………あっ?! うああぁぁっ、そういう……うあぁっ……。……もしかして、あれ? FPSの?」
「そう。FPSでよく使われる言葉。専門用語使ったお兄ちゃんもお兄ちゃんだけどさ、すぐソッチに変換する夢結も夢結じゃない?」
「いや、だって……っ、聞き馴染みなくて……っ」
「ソッチの専門用語には聞き馴染みあるって自白してるようなもんだけど」
「うぐぅっ……」
「なんで夢結は上げた評価をすぐ下げるかなあ……。好感度が必ずプラスマイナスゼロになるみたいな呪いにでもかかってるの?」
「わがんない゛っ……たぶんぞぅっ……ぐすっ。お
「祓えるのかなあ……この呪い」
礼ちゃんと夢結さんのリアクションから察するに、おそらく夢結さんがセンシティブなワードを口走ってしまったのだろう。
「だ、大丈夫だよ。どのワードがいけなかったのかわからなかったけど、誰も嫌な思いしてないんだし、迷惑かかってるわけでもないし。うん」
顔を覆って小さくなる夢結さんの姿があまりにも憐憫を誘うので、何がライン越えだったのか理解できていないけれど理解できていないなりにフォローを入れる。僕の発言にも原因があったみたいだし、責任は僕と夢結さんで折半だ。
「お兄さん、知らなかったんだ……っ!」
「おい、お前なんか閃いただろ。ぴこんって、お兄ちゃんで閃いたなあっ! 電球マークついたなあっ!」
「ち、ちがっ……。思ってないっ、閃いてないっ!」
「『男女逆での無知シチュか……いいな』ってお前閃いたよなあっ!」
「あたしのこと理解しすぎだよ礼愛っ! なんであの一瞬だけでわかるのっ?! 怖いよっ!」
礼ちゃんはフィギュアの箱を持っているほうとは逆の手で、縮こまった夢結さんの頭をわしわしと掻き回す。
二人より長く生きていても知らないことってやっぱりあるみたいだ。どうやら僕が触れてこなかった界隈で使われている単語らしい。
置いてけぼりになってるけど、僕としては二人が仲良く戯れているところを見られるだけで満足だ。
*
場がかなり混沌としたので飲み物休憩を挟んでコンディションを回復させてから企画を再開してしばらく。
残りの軍資金は、あとプレイ一回分。現時点での僕の成果は大きめのぬいぐるみが二つ。
どのクレーンゲームにしようか悩んで歩き回っている時に、夢結さんがプライズを入れるために店側で用意されている大きな袋を二つ提げていたのを目撃したので、今のところは五分五分。引き分けに近い状況だろう。
仮に夢結さんの成果が大きなぬいぐるみ二つだった場合、最終的な判断は主催者に委ねられる。同点だった場合、オーバータイムみたいな制度はあるのかな。
この最後のワンプレイで駄目押しの加点があれば、僕の勝利は近くなる。別に命令権がどうしてもほしいというわけではないけれど、どうせ勝負するなら勝って終わりたい。
「あ、山積みのやつ……」
小さなぬいぐるみとかが山積みになっているクレーンゲームは、うまくやれば一回で複数個取ることもできる。獲得口のカバーが低ければ取れる可能性も上がる、と夢結さんが言っていた。この筐体はそのシチュエーションに近いかもしれない。
ここで複数、たとえ二個でも取れれば、勝ちの目はとても大きくなるだろう。これにしよう。
このプライズは小さなぬいぐるみ。それがキーホルダーになっているみたいだ。海洋生物がモデルのようだけれど、なぜかモデルのラインナップが全て深海生物という尖り具合。製作者のセンスが光るぬいぐるみである。
僕がやろうとしているクレーン、その隣も同一のクレーン機になっている。ちょうどプレイしている人がいたので夢結さんからの教え通り、その人のプレイからアームの動きを把握し、僕のラストチャンスの糧にさせてもらう。
アームの動きを確認し終えて、いざトライ。
獲得口から近めで、拾い上げやすそうなぬいぐるみ山の頂上近くにアームを移動させる。
狙ったところへうまい具合にアームの爪が刺さった。アームは二体の、なんだろう、細長いウナギとダンゴムシを拾い上げる。ダンゴムシは深海生物だったのかな。まあ取れればいいのである。
「あ……」
取れればいい、とか考えていると、その推定ダンゴムシがアームからこぼれ落ちた。ウナギのほうはちょうど真ん中にアームがきているので奇跡的なくらいにバランスが取れている。こっちは大丈夫そう。
とりあえず一つは確保できそうなのでよし、と頭を切り替えていたら、その落下した推定ダンゴムシがぬいぐるみの山の中腹あたりでバウンドし、ひとりでに獲得口へと落ちていった。ついでに、なんだろう、
アームで運ばれているウナギは何事もなく獲得口まで届けられ、結果的に三体が手に入った。ワンショットスリーキルだ。配信中であればクリップになるスーパープレイである。
取り出し口から三体のぬいぐるみ、細ウナギとダンゴムシと帽子のゆるキャラを取り出す。
「……カオスだなあ」
獲得したぬいぐるみたちを見下ろしながら
「うぅ、うぅ……」
幾つくらいだろうか。中学生ほど大きくはなさそうだから、小学校の高学年といったところか。そのくらいの年齢の女の子がクレーンゲームに挑戦するも苦戦していた。
「お姉ちゃんにプレゼントしたいのに……」
聞こえよがし、なんて言ってしまうと皮肉が過ぎるだろう。独り言だ。深海生物どころか海洋生物でもない、さらには生物の枠すら超越した謎ラインナップの小さなぬいぐるみキーホルダーを求めて、この少女は必死になっているのだ。必死になるあまり、頭で考えたことがそのまま口からこぼれてしまっている。
「…………」
隣の少女を見て、手の中にあるぬいぐるみを見て、再び少女を見た。
「まあ、いいか……」