サイコバグなお兄ちゃん、Vtuberになる。   作:にいるあらと

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前回の話のラストの描写を若干書き直しました。とはいえ、話の大筋に影響があるわけではないので気にされなくても大丈夫です。
感想で教えてくれた方、ありがとうございました!


二章 『Noble bullet』『Practice of evolution』
『貴弾お散歩配信です!』


 

 予定している配信開始時間の三十分前に、ロロさんが用意しておいてくれたコミュニケーションアプリ内のサーバーに入る。

 

 サーバー内にいるメンバーの欄を確認すると、すでに今日のメンバーは集まっていた。

 

「お疲れ様です。すみません。お待たせしてしまいましたか?」

 

『いえ! 大丈夫ですよ! 先に壊斗くんと話してただけなので!』

 

『三十分前って伝えた時間通りだ。謝る必要もないぞ。遅れてないしな』

 

「お気遣いありがとうございます。ロロさんは、こうして通話するのはお久しぶりですね。今日はお誘いいただいてありがとうございます」

 

 ロロさんと、今日初めてお会いする──というかお話する壊斗(かいと)さん。この二人が、今日のコラボ配信のお相手だ。

 

 思い返すと、三人でのコラボ配信というのは今日が初めてになる。礼ちゃんと少年少女さんと僕の三人で貴弾配信をすることはあったけれど、少年少女さんはコミュニケーションアプリの通話には入っていないのだ。いつもチャットでの参戦だし、そもそも少年少女さんは配信者でもない。

 

『いやいや、こちらこそきていただいてありがとうございますって感じです。ジンさんにきてもらえなかったら壊斗くんに(なじ)られるとこでした』

 

『詰らねぇよ。使えないなって言うだけで』

 

『詰ってるじゃんっ! いや詰ってるよりひどいよそれっ!』

 

 壊斗さんはロロさんに対して遠慮がないし、ロロさんも壊斗さんに当たりが強い。それだけ親しい仲なのだろう。

 

 今日のコラボ相手の壊斗さんのことを調べてみたけれど、アーカイブを観た限り壊斗さんはロロさんと三年前から交流があった。ゲームの好みが違うので頻繁にコラボ配信をするということは少なかったみたいだけど、半年に一回くらいはパーティゲームや雑談などの企画を立ててコラボをしている。

 

 人との繋がりというのは、繋がりを保つ努力をしないと意外とすぐに切れるもの。ゲームの趣味が違ってもこうして二人の交流が続いているのは、互いが互いに繋がりを切らさないように努力した証左でもある。

 

「あははっ、仲良いんですね。壊斗さんとは初めましてですね。お招きいただきありがとうございます」

 

『お、おう……』

 

「どうかされましたか?」

 

『そのキャラ、配信中だけかと思ったら配信外でもそんな感じなんだな……』

 

『そうだよー。ジンさんは表でも裏でも礼儀正し……裏なら礼儀正しいんだよ』

 

「ロロさん? どうして表の礼儀正しさは省いてしまったんです?」

 

『いや、だって……ジンさん、配信中だと礼儀正しさより悪ふざけが勝つから……』

 

「んふっ……ふふっ、否定できない」

 

『あー、観たわ。ロロとのコラボ配信。ジン・ラースが喋り倒してたやつな。くっそ笑った』

 

『笑うなぁっ! すごく楽しかったけど質問コーナーはまったく進まなかったんだからぁっ!』

 

『ふだん喋り倒してるロロが喋り倒されてて、いい気味だって笑ってた』

 

『最低だっ! 最低な人がいますここにっ! 今日セッティングしたのロロなのに! 敬意がたりない!』

 

『おいやめろ。その話やめろ』

 

『喋ったことない人にコラボ誘えないとかコミュ障発揮してたからロロがジンさん呼んできたのに!』

 

『ばっ、おまっ! やめろ! 言うなって言っただろうが! 事務所は違うけど配信者歴で言えば俺はジン・ラースの先輩なんだぞ! 威厳がなくなったらどうしてくれんだ!』

 

『ほかの事務所の配信者に先輩風吹かす気だったの? めんどくさい先輩の典型じゃん、そんなの』

 

『てっめ……。ん……ま、たしかに……』

 

「ふふっ、くくっ……ふふふっ。論破されてるっ」

 

『ジン・ラース! 笑ってんじゃねー!』

 

『壊斗くんは威厳なんて初めから持ってないんだから諦めなよ。無理だよ』

 

『お前がたった今ぶち壊したんだよ!』

 

「あははっ」

 

 今日配信前に集まろうと言っていたのは、僕と壊斗さんが初めましてだからだ。いきなり集まって『はい、配信開始』では不安が残るので、念のために集まって話すことにしていた。

 

 でもこの調子なら配信前に集まっていなくてもよかったかもしれない。三人が集まった瞬間から配信を開始していても、この二人のトークスキルなら十分リスナーさんにも観てもらえる内容になるだろう。

 

『くっそ……もしかして俺は今日、ロロに頭が上がらないのか……』

 

『ふっはっは! ほれ壊斗くん、こうべを垂れよ!』

 

『こいつに貸し作ったのは間違いだったか……』

 

「やはり付き合いが長いからか、ロロさんは壊斗さんに心を開いてるんですね」

 

『心を開いてるって言われると、無性に拒絶反応が出るんですけど……』

 

『俺だって嫌だわそんなん。ジン・ラース。俺とロロが付き合い長いって言っても、年に一回二回コラボするとかそんなもんだぞ』

 

「年に数回でこれだけ親しいというのも、それはそれですごいですけどね。ロロさんはまだ僕には壁を作ってますし、羨ましいです」

 

『びゃっ! 壁って言い方やめてください?! 壁じゃないです!』

 

『そういやロロはジン・ラースには敬語使ってんな。言葉も丸いし。なに猫被ってんだお前。いまさらヨゴレ系脱却は無理があんぞ』

 

『ヨゴレなんて自認した覚えはないよ! 口が裂けても清楚なんて言えないけどヨゴレを担当したつもりもないから!』

 

「僕にはこんなふうに話してくれないんですよね、ロロさんは。未だに僕のこと『さん』付けですし」

 

『あ、そういやそうだわ。ジン・ラースお前気をつけろよ、ロロに狙われてんぞ』

 

『壊斗くん? おい壊斗? お前いい加減にしろ?』

 

「そういえば前、オフでカラオケ行こうとかって……」

 

『狙われてるそれジン・ラース狙われてるって!』

 

『やめてやめてやめてーっ! あの時のコラボ配信でロロいろいろジンさんに言っちゃったけど、カラオケオフ会の件だけはほんとにDMきたんだからぁっ!』

 

「あははっ、DMくるかもってロロさんが怖がってたやつっ……ふっ、ふふっ」

 

『だっはははっ! ほんとにきたのかよ! だははっ!』

 

『笑いごとじゃないよっ! もちろん収益化とかメンバーシップについて触れてくれてありがとうのDMもきたけどっ、感謝DMくれる人でさえカラオケの件は許してくれてなかったんだよぉっ!』

 

「あはははっ、ロロさん……か、可哀想っ……あははっ」

 

『だははっ! そりゃそうだろうなぁっ!』

 

『笑いすぎだからぁっ!』

 

 しばらく笑い続けたり、(へそ)を曲げてしまったロロさんを慰めて、一度落ち着く。

 

「ふふっ……はあ。このままだと配信する前に疲れてしまいます」

 

『ほんとですよ、もう。声嗄れちゃいますって』

 

『ロロは叫ぶからだろ。自業自得だ。にしたって、三十分も前に集まるんじゃなかったな。途中でバテるぞ、これ』

 

 リスナーさんが観ていて楽しい配信をするため、かつ僕らもやっていて楽しい配信をするために事前に集まって挨拶の場を設けたけれど、まるで必要なかった。

 

 でも壊斗さんに訊いておきたいことが一つあったので、今のうちに訊いておくことにしよう。配信で言っていいかもわからないことだし。

 

「そういえば壊斗さん、どうして僕をコラボに誘ってくれたんです? 絡みもありませんでしたし、僕の名前のイメージは悪いままでしょうし」

 

『あ、それロロも気になってた。ロロとジンさんのコラボ配信を観てくれてたのかと思ったけど、たしかその日って壊斗くんの配信と時間かぶってたよね?』

 

『あー、それな。リアルタイムでは観てないな。実は、妹がそのコラボ配信観てたんだよ』

 

「壊斗さん、妹さんがいらっしゃるんですね」

 

『ジンさんジンさん。壊斗くんの妹さんはですね、とってもいい子なんですよ。壊斗くんのご飯作ったり、身の回りのお世話してくれてるらしいです』

 

「本当にいい子ですね! 壊斗さんとしては自慢の妹さんなのでは?」

 

『いや、べつに……助かってはいるけど、その分の小遣いも渡してるしな。バイトみたいなもんだぞ?』

 

「お小遣いを渡しているとしても、ですよ。誰かの手料理を食べられるというのはとても幸せなことです。料理を作るのは想像以上に労力のかかることですから」

 

『いつもレイラちゃんにご飯を作っているジンさんが言うと説得力がちがいますね!』

 

『そういやコラボの時にそんな話してたな。……って、今はその話はいいんだよ。妹がロロとジン・ラースのコラボ配信観てて、おもしろい人がいるからコラボしたら? ってせっつかれたってわけ。ジン・ラースは貴弾もやってるみたいだし? 貴弾しっかりやってるやつが俺の身近にあんまいねーからさ。貴弾わりとやってて、それでおまけにおもしろいってんなら一度誘ってみようかなってな』

 

「それでは壊斗さんの妹さんと、橋渡し役を担ってくださったロロさんのおかげで今回のコラボが実現したということなんですね。壊斗さん、妹さんへ僕が感謝していたことを伝えていただいていいですか? ロロさんもありがとうございます」

 

『おー……まぁ、一応言っとくわ。……あいつはあいつで企んでたんだけどな……』

 

『いえいえ、えへへ……そんなそんな。ジンさんが言うことじゃないですから! 本来なら壊斗くんが言うべきことで……というか壊斗くんっ! なんかまるで自分で誘ったみたいな言い方してた! ロロに丸投げしたくせにっ』

 

『うるせーな。細けーよ。はいはい。ロロに頼んで誘ってもらいました。これで満足か?』

 

『敬意がたりない! 誠意もたりない!』

 

「そういえば今日やるゲームは貴弾ですけど、ロロさんって貴弾されてたんですか?」

 

『へぁっ?! え、えぇと……最近、ちょくちょく触ってまして……えと、えと……』

 

『ほぼこいつは素人だ。だからクラスマッチには行けねー。今日はカジュアル回すだけになる。悪いな』

 

「いえいえ。カジュアルでも楽しいですからね。ポイントを気にしなくていいのも気が楽ですし」

 

『うぅー……ごめんなさい。あんまりFPSゲームってやったことなくて慣れてないんです……』

 

「いいんですいいんです。一緒にゲームできるだけで楽しいんですから。ロロさんは始めたばっかりなんですか?」

 

『こいつはジン・ラースとのコラボでは貴弾やりたいって俺が言った日に始めたからな。始めたばっかだ』

 

「ということは今日のコラボのために? ありがとうございます、ロロさん。教えられるところは教えていきますから、ゆっくり楽しんでやっていきましょうね」

 

『う、うん……ジンさんありがとっ。壊斗くん! こういうところだよ! 見習いなよ!』

 

『俺だって感謝はしてるって。サンキュ』

 

『軽いなぁっ! 言葉がさぁっ!』

 

「ふふっ。これからパーティ組むんですよー、仲良くしてくださいねー。っと、そろそろ時間ですね。配信開始しましょうか」

 

『ん? おお。もう時間か。配信開始っと』

 

『はーい。ロロも配信始めまーすっ』

 

 

 貴弾──正式名称『Noble(ノーブル) bullet(バレット)』のコラボ配信が始まった。

 

 各々自己紹介して、今回のコラボが決まった経緯の説明を壊斗さんがした。説明自体は配信前に話してくれたものと大差はなかった。

 

『コミュ障の壊斗くんに無理矢理コラボのセッティングさせられたけどロロは貴弾始めたばっかりでクソザコです! なのでカジュアルにしか行けません! 今日はお散歩です! 貴弾お散歩配信です! よろしくおねがいします!』

 

〈兄悪魔の貴弾ひさしぶりだ〉

〈ロロさん貴弾やってたのか〉

〈やってなかったw〉

〈お散歩配信きたー〉

〈コミュ障呼ばわりで草〉

 

『悪いって! すまんて! 配信前にも言っただろうが!』

 

 ロロさんはしっかりと配信前に僕たちに言っていたことを配信にも載せていた。自分のことは卑下するけれど、それでも壊斗さんにも文句を言って道連れにするあたりロロさんである。

 

「お散歩しながらゆっくり操作に慣れていきましょう。……そういえば配信前に集まったわりに、エイム調整とかやってませんでしたね」

 

『だはは、ほんとそれな。ただくっちゃべってただけだったわ』

 

〈配信前のお喋りも配信して〉

〈この三人の雑談はふつうに見てーわw〉

〈GGの壊斗とやるほど兄悪魔でかくなったんやな〉

 

『ロロはエイム調整いらないかな』

 

〈初心者w〉

〈始めたばっかのやつのセリフじゃないw〉

〈強気で草〉

 

『一番の初心者が一番口がでけぇ』

 

『どの銃持ってもエイム悪いからっ! 変わらない!』

 

「無敵の人がいますね」

 

『ほんとに散歩になっちまうぞ……。ジン・ラース、どうすんだこいつ』

 

〈今日はお散歩日和だなw〉

〈カジュアル雑談か〉

〈ロロさん開き直っとるw〉

〈無敵草〉

 

 このゲームは他のFPSタイトルと比べると操作も比較的直感でわかるのでやりやすいほうではある。でもそれは他のタイトルと比べれば、という話であって、ロロさんのように貴弾からFPSを始めたのであれば要領を掴めない部分もあるだろう。

 

 銃の種類も多いし、銃によって使用する弾薬の種類も違うし、アタッチメントも複数ある。装弾数やリコイルの癖もそれぞれ違いがある。いきなりそれら全部を頭に入れろ、などというのは酷な話だ。一つずつ進めていったほうがわかりやすいし憶えやすいだろう。

 

「えー、そうですね。まず新兵ロロさんは得意な武器、使いやすい武器を作っていきましょうか。それから覚えて、使える武器を増やしていきましょう」

 

『はいっ! まかせてくださいっ!』

 

〈かわいいw〉

〈新兵w〉

〈新兵返事はいいなw〉

〈かわいい〉

〈活きがいい新兵だw〉

 

 射撃訓練場に並べられている銃を見ながら、初めてFPSを触る人でも使いやすそうな物を見繕う。

 

 練習中には落ち着いて狙えるけれど戦闘が始まると慌てたりもするだろうし、なるべく装弾数の多い銃がいいだろう。あとはリコイルが控え目なものが望ましい。

 

 お勧めの銃と、それに使う弾薬をわかりやすいところに置いておく。壊斗さんも運ぶのを手伝ってくれた。まずはアタッチメントなしで使ってもらい、その後にアタッチメントありの銃を使ってもらったほうがアタッチメントの恩恵と重要性を肌で感じやすいだろう。

 

〈優しい〉

〈先輩たちやさしいな〉

〈準備してあげとる〉

〈新兵こないな〉

 

「……ロロさん、今どこにいます?」

 

『へ? カジュアルの出撃待機画面で待ってますよ?』

 

 元気よく返事してくれたものの、待っていてもロロさんは射撃訓練場に入ってこなかった。

 

 何をしているのだろうと訊ねてみれば、ロロさんはもう戦いに行く気でいるらしい。なんて強気なのだ。

 

『いやほんとに訓練場で練習しねぇのかよ! 大物かよお前は! だははっ』

 

『え、え、えっ?! なに?! 二人とも訓練場いるの?!』

 

〈新兵さぁw〉

〈これは死亡フラグ〉

〈確実にやられるやつやw〉

〈やる気だけはだれよりもあって草〉

〈一番弱いはずなのにw〉

 

「行くのはカジュアルマッチですからね。クラスポイントがかかってるわけじゃありませんし、もう行っちゃいますか」

 

『だな。一回やったほうがなにが足りねーとかもわかるだろ。よっしゃ行くぞー!』

 

 射撃訓練場を出て、カジュアルマッチに向かう。

 

 三人並んだ待機画面でマッチングを開始する。

 

 この三人だと実力差、クラス差がかなり開いているけれど、貴弾はADZと違ってプレイ人口の多いゲームだ。きっとすぐにマッチングするだろう。

 

『訓練場行くなら行くって言っといてよぉっ!』

 

「いや、さすがにすぐに戦いに行くのは不安だろうし、訓練場にくるだろうなって思ったんですよ。まさかすでに待機所で仁王立ちしてるだなんて思わなくて」

 

『だははっ、に……仁王立ちっ、たしかに自信満々で立ってたな!』

 

『だ、だってぇ……リスナーも〈やりゃあわかる〉って言ってたし……』

 

『おお? リスナーのせいか?』

 

『そうだよ! ロロの背中を押したリスナーが悪い!』

 

『最低なこと言ってんなこいつ!』

 

「あははっ、ロロさん。またリスナーさんから厳しく言われてしまいますよ。それにいいことですよ、バトルに前向きなのは。戦うことを怖がって尻込みしてしまうよりもよっぽどいいんですから」

 

『わあぁぁっ……ジンさんっ』

 

『おいこらジン・ラース! あんま甘やかすな! ふつうは座学をしてから実戦だろうが!』

 

〈仁王立ちは草〉

〈またコメ欄で叩かれるぞw〉

〈教官優しい〉

〈楽しくやりゃいいのよ〉

〈お散歩しながらおぼえよっかw〉

〈草〉

〈新米兵士にいっぱい言ってもね〉

〈お散歩しましょ〉

 

「ふふっ、意外と壊斗さんって慎重派ですよね」

 

『意外とってなんだ! 俺は基礎とかちゃんと固めてからやりたい性分なんだよ』

 

「僕もそのほうが結果的にいいとは思いますが、FPSを始めたばかりの人に基礎練習や座学ばかりさせるのも可哀想かなあ、と。やはりFPSの醍醐味といえば撃ち合いですからね。まずは楽しみを知ってもらって、何も知らないままだとこの先勝てないな、ってなってからでも、基礎練習や座学は遅くないと思いますよ」

 

『ロロのことあんまりちゃんと育てる気ないのかと思ったら、しっかりFPS沼に沈める気だったわ……』

 

『ひ、ひぇ……』

 

〈教官の教育学〉

〈楽しさ知ってからやね〉

〈はまったら自分で勉強するしな〉

〈沼に引きずり込むつもりで草〉

〈あわよくばADZまで連れてく気かw〉

 

「沼に沈めるだなんて、そんなそんな。僕はただ、ロロさんに楽しんでもらいたいだけですよ」

 

『やっべ……。よかれと思ってやってるタイプだ。人を駄目にするタイプだわ、これ。さよなら、ロロ。達者でな』

 

『見捨てるまで早すぎるよ! 少しは迷いなよ!』

 

「沼に沈むで言うのなら、貴弾をやり込んでる壊斗さんはすでに沈んでしまっているのでは?」

 

『暴言と銃弾が飛び交うクソッタレな世界へようこそ。これからよろしくな』

 

『言ってること変わりすぎじゃない?! ま、まずい……この二人、相性がよすぎる……。ロロばっかり疲れるやつだ……。こんなのおかしいよ。今日はジンさんの相手は壊斗くんに任せようと思ってたのに……』

 

〈手のひらぐるぐるで草〉

〈変わり身がはやすぎるw〉

〈仲良!〉

〈これロロさんはさばくの大変だなw〉

 

 ロロさんがまだ始まったばかりの配信に戦慄しているうちにマッチングが終わった。

 

 マップの上空を横断する飛行機から降り立つ。

 

「ロロさんは一応何回かはプレイしたんですよね?」

 

『うん。しましたよ。最高で五位くらい。だいたい二桁順位で死んでるけど……』

 

「飛行機から降下してからの動きがわかっているのならよかったです。まずは武器やアイテムをそろえましょう」

 

『はいっ! わかりましたっ!』

 

『そんじゃあ降下はジン・ラースに任せて……ちょっ! 降下軌道えげつねぇって! 最上位帯かよ!』

 

「うわあ……」

 

〈やばw〉

〈公侯帯じゃん〉

〈マッチングどうなってんだ〉

〈ほぼデュマ帯とか終わっとる〉

〈最低でもアールとか草枯れるわ〉

〈カジュアルじゃないじゃないですかやだー〉

 

 プレイヤーが飛行機からマップへと降下していく際、体の後方から光の尾を発しながら降りるように設定できる。その光を降下軌道と呼ぶのだけど、その降下軌道の光の色を見れば、そのプレイヤーがどのくらいの実力を有しているかをある程度判別できる。降下軌道の光はそのプレイヤーの到達したクラスによって違うからだ。

 

 ゲーム内最高位である公爵(デューク)だと血のような赤黒い禍々しい色、次点の侯爵(マークィス)だと青みがかった金色というように差別化が図られている。

 

 マッチの一番最初、スタートの時点で『あのプレイヤーは上位のクラスなんだな』と見ればすぐに違いがわかるので、他のプレイヤーはそういった特別さに憧れて上位のクラスを目指しているのだ。

 

 実力のあるプレイヤーしか持てない降下軌道が、今まさに僕らが降りた飛行機から続々とマップの各地へと散らばっている。

 

 おかしいなあ。なんでこんなに強い人たちばかりいるマッチに放り込まれたんだろう。

 

『ちょっとぉっ! あの赤くて黒い軌道って一番強いクラスの人じゃない?! なんで初心者がそんなマッチに入れられてるの?! 振り分けおかしいよ!』

 

『……まぁ、デュークとか俺も相手にならんから、初心者がどうとか気にせんでいいぞ。俺とロロで違いなんかない。変わらずに踏み潰されるだけだ』

 

 貴弾のカジュアルマッチに参加するプレイヤーの振り分けの基準は、実は詳細な部分は明かされていない。だが有志の方々が繰り返しプレイと検証を重ねて『たぶんだけど、このあたりの成績を参照してるんじゃない?』という、ある程度信頼性のある検証結果を公表してくれている。

 

 その検証結果によると、直近の数試合、あるいは十数試合で出したダメージ数やキル数、ヘッドショット率、順位などの成績をスコア化して、そのスコアに近いプレイヤーをマッチングしている。とのこと。

 

「おかしいですね……。近い実力の人があたるは──」

 

 あれ。もしやこれ、原因は僕なのでは。

 

 いや、まだ壊斗さんが不均等なマッチングの原因の一端を担っている可能性は残されている。

 

『これもしかして、原因はジン・ラースなんじゃね?』

 

 駄目そう。

 

「……どうして僕なんですか? 僕のクラスは最高で伯爵(アール)ですよ? 真ん中よりも少し高いくらいなのにこんな……」

 

 言い訳を口からつらつらと垂れ流しながら、どうにか猛者を避けてマップに降り立つ。あんまり物資のおいしいエリアではないけれど、初動から猛者と戦うよりかはよほどいい。

 

『ロロのところには〈あの悪魔は貴弾やってないだけ〉ってコメントがきてますね』

 

『俺がジン・ラースの配信のアーカイブ観た時は、ふつうに俺より上手かったぞ。内部レートばかほど上がってるんじゃないのか?』

 

〈すくなくともアールの腕じゃないな〉

〈やってないだけや〉

〈内部レートだいぶ反映されてそう〉

〈なんか今日マッチングおかしいって話はあるんだよな〉

〈だからってこんなマッチはひどすぎる〉

〈こっちには新兵が一人いるんですよ?!〉

 

「ぐっ……。リークされている……」

 

『逆に貴弾やってないのになんであんな上手いんだよ。いつもFPSなにやってんだ?』

 

「ADZですね。貴弾は妹とやる時くらいしかやってません」

 

『……ADZ?』

 

『あー……たしか「Absolute(アブソリュート) defense(ディフェンス) zone(ゾーン)」……でした?』

 

「はい。それです。おそらくADZの同志以外には『絶望圏』と言ったほうが伝わりやすいかと思います」

 

『あー! 「絶望圏」か! なるほどな。貴弾やれよ』

 

「ADZが好きなんですよ」

 

〈ADZ草〉

〈貴弾やれw〉

〈ロロさん覚えてくれてたんだ〉

〈貴弾やれはそうw〉

〈ADZも貴弾もやれ〉

〈またコラボして〉

〈うさねこまた観たいぞ〉

〈ADZのネームドを貴弾に連れて行かないでください……〉

〈自枠でも配信してくれよw〉

〈あの街には黒兎が必要なんです……〉

〈同志の腰が低いw〉

 

『なんか……おそらくADZやってるリスナーだと思うんですけど〈同志を連れて行かないで〉って懇願されてます……。どんなゲームなんですか』

 

『俺んとこじゃ〈ADZのプロやぞ〉とか言われてんだけど……。「絶望圏」にプロとかあんの?』

 

「いいえ? ランキングに名前があるというだけです」

 

『ランカーかよっ! どんだけやってんだよ! 貴弾やれよ!』

 

〈ADZプロ()〉

〈プロシーンはないなぁw〉

〈でもまだランク二位なんだよね〉

〈どんだけやってんだw〉

〈配信でもやってよ!〉

〈ADZやってるおかげで貴弾うまいまである〉

 

「そう言われましても……貴弾はそこまで熱が入らないんですよね。さて、武器揃いましたか? 移動しますよ」

 

 建物やボックスを漁り、銃とアイテムを拾って装備を整える。

 

 この降り立った地点からだと、安全地帯内の有利なポジションを確保するには相当急がなければならない。ロロさんという初心者もいることだし、安地の(きわ)からこそこそと進むことも候補に入れておくべきか。

 

『んー、もうちょい』

 

『あっ……』

 

〈漁りはえー〉

〈ちょこちょこキャラコン挟んでんな〉

〈壁ジャンでどんだけ飛ぶんだよ〉

〈シンプルに動きが速い〉

 

「なんですか? ロロさん? そうだ、得意だったりよく使ってる銃があるのなら教えてもらっても……」

 

『あの、えっと……お喋りに夢中で拾ってなかっ、た……』

 

『ロローっ! 散歩しにきてんじゃねぇんだぞーっ!』

 

『ごめんなさいぃっ!』

 

〈草〉

〈安地遠いな〉

〈草〉

〈草〉

〈草〉

〈新兵w〉

〈新兵お散歩で草〉

〈お喋りに夢中www〉

 

「んー……よし。安地先入りは諦めて安地の端からこそこそ行きましょう」

 

『大丈夫そうか?』

 

「……大丈夫です。どうせ先に入ってようと周りは強い人たちばっかりです。大して変わりません。それなら端っこでハイドしつつ漁夫を狙ったほうが勝ちの目が見えます」

 

『おー! ジンさん頼りになるっ!』

 

『その頼りになるジン・ラースのIGLを初手から潰したのがお前な?』

 

『ひどいっ! 初心者に向かって言う言葉じゃないよ! 初心者をバカにするようなコンテンツは廃れるのが常なんだよっ?!』

 

『やめろ、おい。急に深いこと言うな』

 

「もう、すぐ喧嘩する。はいはい、やめてください。壊斗さんもそんな言い方をしてはいけません。誰だって最初は初心者なんですから」

 

『んぐっ……』

 

『やーい! 壊斗くん怒られてるーっ! ぷふふっ』

 

「はい。ロロさんもすぐ煽り返さない。始めたばかりでムーブがどうしても遅れてしまうのは仕方ないですけど『お喋りに夢中で漁るの忘れてた』は擁護できませんよ」

 

『ふぐぅっ……』

 

〈まわりガチ勢ばっかだしなw〉

〈カジュアルだしみんな戦いに行くんじゃね?〉

〈IGLがんばれ〉

〈草〉

〈新参を排除する界隈は実際そう〉

〈草〉

〈ロロさんw〉

〈新兵レスバトルは強いw〉

〈草〉

〈漁るの忘れてたやつが煽るのは草〉

 

『くっ、くははっ。漁るの忘れてたとか聞いたことねぇよ』

 

『むっ……ぐぬぬっ』

 

「ロロさん」

 

『びゃっ?! は、はいっ! 怒りません! ロロはいい子です!』

 

「いや、あの……違います。使いやすい銃は見つけられたのかなって思いまして」

 

〈教官は大変だなぁw〉

〈いい子です!〉

〈ロロいい子です!〉

〈かわいすぎw〉

〈喧嘩しちゃダメって言われたもんなw〉

 

『あぅ……あの、はい……一個ありました』

 

「そうですか。それならよかったです。欲しいのがあったら気にせず言ってくださいね?」

 

『だははっ! びゃっーはっは! 「ロロはいい子です!」ってぶっふぁっ』

 

『ジンさーんっ!? 壊斗くんが! 壊斗くんがばかにしてくるぅっ!』

 

『いや、だってっ……だははっ』

 

「壊斗さん?」

 

『ごめんなさい』

 

「そうですよね? だめですよね? ロロさんは今学んでるところなんですからね?」

 

『はい。すんませんした』

 

『誠意がないー!』

 

〈壊斗さんw〉

〈くそ笑っとるw〉

〈草〉

〈年の近い兄妹を持った親みたいだなw〉

〈パパ悪魔〉

〈壊斗のほうが圧倒的に先輩なのにw〉

〈パパ悪魔草〉

〈クソガキがおるw〉

 

「はい。それではみなさん移動しますよー。……そういえばIGLは僕でいいんですか? クラス的には壊斗さんのほうが高いですけど」

 

『ジンさんがやって! ロロ、こんなやつの指示には従えない!』

 

『こんなやつってなんだよ! でもジン・ラースがやってくれ。俺は前に出がちだし、なによりこんな環境でオーダー出せる気がしない』

 

〈IGLできるのいいよな〉

〈オーダーうまいんだよ〉

〈ロロさんw〉

〈ロロさん草〉

〈こんなやつ呼ばわりw〉

〈喧嘩しかしないw〉

〈壊斗にはバトル任せとけばいいよ〉

〈このマッチでIGLはやりたくないわな〉

 

「あはは、わかりました。それでは僕がさせてもらいますね」

 

『はい! まずはなにをしたらいいですか!』

 

「何かできることを探そうとするその姿勢、ロロさん素晴らしいですね」

 

『えへへっ』

 

『おい大丈夫か。この教官甘いかもしれないぞ』

 

「まずは安全地帯が途方もなく遠いので走りましょう。ついてこれなかった場合は置いていきますのでご注意ください」

 

〈新兵声出てる〉

〈ロロさんやる気だけはあるからw〉

〈教官優しい〉

〈パパ悪魔やさしいw〉

〈やっぱり悪魔で草〉

〈軍曹だった〉

 

『えっ……じ、ジンさん? 冗談……ですよね?』

 

『あ、大丈夫だわ。鬼教官だ』

 

「鬼じゃないです、悪魔です」

 




壊斗さんもロロさんも喋りまくってて草。お喋りばっかりが集まっちゃったので止まらないです。

ということで、このお話から壊斗さんとロロさんとの三人コラボのお話になります。よろしくお願いします。

次もお兄ちゃん視点です。
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