サイコバグなお兄ちゃん、Vtuberになる。   作:にいるあらと

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戦況を変える一手

 

『がんばれジンさーんっ!』

 

『だーっ! くそっ、わりぃ! ショットガン(SG)! コートは剥いでる!』

 

「はい、了解です」

 

 ロロさんと壊斗さんがダウンして、残るは僕一人。

 

 相手のパーティの一人はロロさんと壊斗さんがダウンさせた。残りはほぼ無傷が一人と、外部装甲であるエナジーコートを失った敵の計二人。

 

 僕が牽制し続けていた敵の一人は常に飛来する銃弾に怯み、一度岩陰に隠れた。

 

 そこを見逃さずにグレネードを投げ、敵がすぐには顔を出せないようにしておく。

 

 その間に僕はロロさんと壊斗さんが削ってくれていた敵に向かう。

 

 岩の裏へと追いやった敵が戦線に戻れば一対二になる。このマッチに参加しているプレイヤーのレベルを考えると、真正面から一対二で戦って勝てる道理はない。

 

 ここは多少無理を押してでも倒し切る。

 

 ショットガン持ちの敵と目が合った瞬間、横にスライディング。数瞬前まで僕がいた場所に複数の弾丸が通過した。

 

 即座にエイムを敵に合わせてスウィングワンの引き金を引く。

 

「っ……避け切れはしないか」

 

 頭、胴体と撃ってダウンを取ったけど、ダウンする寸前にショットガンを撃たれた。照準を合わされにくくするために小刻みに動いてはいたが、拡散する子弾全てを回避することはできなかった。弾が体の末端を掠め、そのダメージで損傷していた僕のエナジーコートは耐久値を全損し、効力を失った。

 

『わぁっ! ジンさんないすぅっ!』

 

『あと一人! 一対一(ワンブイワン)!』

 

 最後の一人。岩陰に隠れている敵を倒すため、岩に接近する。

 

 さっきまでいた場所では遮蔽物がなかったのだ。相手は体力がほぼフル、対してこちらはコートを失って本体にまでダメージが入っている。

 

 そんな状況で遮蔽物なしで撃ち合うなんて自分で自分の首を絞めるのと同じこと。

 

 体力が削れているため接近するのは抵抗があるけれど、勝つためにあえて肉薄する。

 

「っ……」

 

 グレネードを放り込んだ岩の反対側から回って出てくるかと思ったけれど、この敵はグレネードの爆発から距離を取ってやり過ごしてから、同じところから出ようとしてきていた。予想が外れた。

 

 ただ、相手も僕がこんなに間近まで近寄っているとは思っていなかったようだ。エイムが乱れていた。

 

『ひぁっ……』

 

『こっちから出んのかよっ』

 

 残弾の心許ないスウィングワンから、近距離では圧倒的な威力を誇るショットガン──ビースウィーパーに持ち替え、まず一発。散らばった弾の全てが当たったわけではないけれど、この距離だ。相手のコートにそこそこダメージが入った。なので良し。

 

 そのまま撃ち合えばエナジーコートと本体のヒットポイントで差がある分、僕が撃ち負ける。なので一度エイムを振り払うため、スライディングからジャンプして岩を蹴る。

 

 ところで、この周辺には岩や切り立った岩壁がたくさんある。切り立った岩壁はそのままではどうキャラコンを駆使しようと登れないのだけど、その岩壁の向こう側に行くためにところどころ地面から上方向にワイヤーが張られている。ワイヤーを掴めば、キャラクターは自動的に勢いよく上へと運ばれる。

 

 この動きを利用した。

 

 遮蔽物に使っていた岩を蹴ってジャンプ、ワイヤーを掴み、追いかけてくる敵のエイムから逃げつつ、高度を稼ぐ。十分高さを確保できればワイヤーからジャンプする。

 

 すると敵は、遮蔽に使っていた岩に乗るつもりだ、と思い込む。実際そうしたほうが安全で確実だ。高所は有利。常識である。

 

 でもこのマッチに入ってきている猛者たちであれば、僕が岩の上を取ろうとしたところをしっかりとエイムを合わせて撃ってこれるかもしれない。

 

 相手は発射レートの高いサブマシンガンを構えている。今の僕のヒットポイントでは岩の上を取る前に削り切られる恐れがある。

 

 だから、その裏をかく。相手が猛者だからこそ意表をつける。

 

 ワイヤーからジャンプして、遮蔽の岩から真逆へと方向転換。自由落下しながら敵をショットガンで撃ち据える。

 

「っ……エイムがいい」

 

 予想していた動きと反したことでエイムが振られた敵はしかし()る者、抜群の反応速度で以って再度捕捉してくる。

 

 勝敗は武器が分けた。

 

 サブマシンガンが僕のヒットポイントを削り取る前に、一発一発が重いビースウィーパーが敵のヒットポイントを吹き飛ばした。

 

 敵が全員ダウンしたので、全員が一斉に箱になる。ぽんっ、と一度上に跳ねてから地面に落ちる箱の動きにはユーモアを感じて結構好きだったりする。

 

「……はあっ。なんとか勝てた……。強かった……めちゃくちゃ強かった……」

 

〈おおおお〉

〈うおおおお!〉

〈勝ったー!〉

〈つよおおおお〉

〈キャラコンやっば!〉

〈エイムびたびたやったな〉

〈強すぎいいい!〉

〈ワイヤー使うの頭柔らけええ!〉

〈ワイヤーは痺れたまじで!〉

〈お嬢との貴弾ではこんなにキャラコンしてないよな〉

〈こんなに空中機動使えたんかよ!〉

〈もっと貴弾やれよw〉

 

 息の詰まる戦いだった。相手のパーティも三人全員が強かった。今回は僕らのパーティが勝利を掴み取ったけれど、もう一度やったら次はどうなるかわからない。ふつうにぼろ負けしてもおかしくない。なんなら、よーいどんで戦えば確実にぼろ負けする。

 

 そんな強い相手が、まだ十パーティ以上残ってる。目を背けたくなる現実だ。

 

『わああぁぁっ! ジンさん強おおぉぉっ!』

 

『うおおぉぉっ! 強すぎいいぃぃっ! 嘘だろ?! 勝てんのかよ! ほとんど一対二(ワンブイツー)じゃねぇか! このマッチでワンブイツー返せんの?! 強すぎだろ!? 貴弾やれよ!!』

 

〈盛り上がりやばいw〉

〈強すぎいい!〉

〈勝つんかい!〉

〈コートない状態からひっくり返したもんなー〉

〈壊斗w〉

〈壊斗さん荒ぶってんなぁw〉

 

 味方のダウンを回復させる前に、先に敵の棺桶からコートを拝借して交換しておく。今のままだと漁夫にこられたら銃を構える暇もなく地面の染みにされてしまう。体力も回復させておきたいところだけれど、こちらを回復させようと思うと時間がかかるので後回しだ。

 

 壊斗さんよりも前に倒れていたロロさんを先に回復し、ロロさんに壊斗さんのダウンを回復してもらう。その間に僕は本体ダメージの回復をしたり、敵の棺桶を漁って物資を整えて漁夫警戒だ。

 

「……戦ってる時、全然喋れませんでした。配信者としてあるまじき姿です」

 

『志高すぎだろお前! あんな限界バトルで喋れるやつはどうかしてるぞ!』

 

『ほんとだよっ! 強かったよジンさん! かっこよかった! すっごいかっこよかった! ロロなんか壊斗くんと二人でかかってもすぐやられちゃったのに!』

 

「僕だけの勝利ではありません、チームの勝利ですよ? 僕らは三人で一つのパーティなんですから。みんな自分のやるべきことをやった結果です。誇りましょう。……こんなに強い相手がこれからも続くのかと思うとぞっとしますけどね、さすがに」

 

『それはそう。やっぱ最高位帯のプレイヤーって強いんだな。エイムめちゃくちゃよかったわ。動きやべぇし。ロロと二人で挟んでなかったらマジで一人も落とせてなかったぞ』

 

〈謙虚だなぁおい!〉

〈ぜんぜんテンション変わらんの草〉

〈こういうとこお嬢と似てるわw〉

〈まじでデュマ帯やばすぎ〉

〈あんだけ動いてんのにあててくんのバケモンだろ〉

 

『だよね。ロロ、たぶん五十か六十くらいしか入れれてないよ、ダメージ』

 

『いや、ロロはよくやった。マジでよくやった。ロロの削りのおかげですぐに一人落とせたから、もう一人コート剥ぐまでいけたんだよ』

 

「そうですね。削ってもらえてなかったら、僕は二人に囲まれてたでしょうから絶対に負けてました。ロロさん、お手柄です」

 

『そっ、そんなこと、ないけど……えへへっ。FPSって楽しいね!』

 

〈ロロさんがんばったな〉

〈新兵働いた〉

〈ムーブについていけてるだけで偉いわ〉

〈始めたばっかとは思えんくらい強いよw〉

〈照れとるw〉

〈照れてて草〉

〈かわいい〉

〈ゲーム楽しいねぇw〉

 

『単純かよ! でもわかる。楽しい。フルパでやるのが一番楽しいわ』

 

『一人でやってる時はこんなに楽しくなかったもん。友だちとやったらこんなに楽しいんだね』

 

「これはFPS、というよりは貴弾の魅力でしょうか。全員で連携を取って勝てた時は面白さががくんと増しますよね」

 

『んお、おお……「がくん」って効果音は下がる時のやつ!』

 

『くふっ、ふふ、ジンさんの独特な感性出てるっ』

 

 さっきの戦いでも、まともにぶつかればひとたまりもないと判断したので策を講じた。

 

 敵パーティの内の一人が離れていたので、そちらを壊斗さんとロロさんにやってもらった。残った二人に回り込まれて射線を作られたり挟まれたりしないよう、僕は足止めに徹して時間を稼いでいた。僕らは敵パーティよりも総合力では劣っていたかもしれないけれど、作戦と報告とフォーカス、連携で力の差を補った。

 

 こういうチームプレイはソロでマッチに入っているとそうそう経験できない。フルパ──フルパーティでやっているからこそである。

 

『あー……だめだ。さっきのバトルの熱冷めねぇよ。最後のジン・ラースのキャラコンやばかっただろ! 弾除けスラジャン、壁ジャンからのワイヤー、高所取ると見せかけて空中機動でフェイント! どうなってんだよ! 脳みそ何個ついてんだよ!』

 

「右と左で二個ですね」

 

『ぐっ、ふふっく……くっそ、こんなのでっ……だあははっ、悔しいっ』

 

『ふっ、んふっ……なんでジンさんっ、平然とそんな冗談言えるの? ふふっ。壊斗くんとのテンションの落差っ、すごすぎるっ、あははっ』

 

〈やっぱフルパよ〉

〈フルパやるフレがいねぇんだよ!〉

〈はやくクリップ見たいわ〉

〈キャラコンえぐかったからな〉

〈草〉

〈右脳と左脳やそれ〉

〈草〉

〈持ちネタかよw〉

〈お嬢の時も言うとったなw〉

 

「まだ一回勝っただけですからね。気を引き締めて行きましょう。目指すはもちろん、一位なんですから」

 

『お……おっしゃあ! 一対一で勝てる気はしねぇけどやったらぁ!』

 

『うん! せっかくだし一位取ろうよ! ロロが役に立つとは思えないけど!』

 

「気合の入り方と言ってる内容が噛み合ってないんですよね」

 

〈強気かと思ったらぜんぜんネガティブで草〉

〈勢いはいいw〉

〈言ってることネガティブなんだよなw〉

〈声のテンションで勘違いするわw〉

 

 とても明るい元気な声でネガティブなことを言っている。思わず聞き流しそうになった。

 

 自信はないけど、弱気だと勝てるものも勝てなくなるから声を張っている、という感じだ。相手は全員が僕らよりも圧倒的に格上なので仕方がない。

 

 ノリとテンションでどうにかなるような甘い戦いではないけれど、腰が引けてしまうと勝てるものも勝てない。虚勢でも強気なほうがいい。弱気になって投げ出してしまうよりよほど健全だ。

 

「敵のボックス漁ったらまた移動しますよ。安地が遠いので」

 

『おっけ』

 

『はーい!』

 

 僕らが飛行機からの降下で降り立ったのはマップの右上の端。

 

 安全地帯の第一収縮はマップ中央から少し南西寄りといったところ。一回目の収縮だと安全地帯外のダメージはそれほど重くはないので、回復アイテムに余裕があれば気にする必要もないけれど、二回目の収縮以降は話が変わってくる。安全地帯外のダメージを受けながら戦闘とか絶対にしたくないので、なるべくなら安全地帯内に入っておきたい。

 

 順調に移動を続けていたけれど、視線の先に大きな川が見えるエリアでとうとう行く手を阻まれた。

 

『あーっ! うぜーっ! ちくちくちくちくとスナイパーがよぉっ!』

 

「彼らの狙い、いいですね。弾道をよく理解されてます」

 

『いやジンさん、相手を褒めるのはいいですけど……ここからどうするんです?』

 

〈壊斗さんご乱心〉

〈やらしいポジション取ってるな〉

〈SOがなんでそんなにあたる?〉

〈兄悪魔スウィングワンうますぎだろ〉

〈一人でダメージ返してるw〉

 

 このマップは西から中央を経由して南東へと川が流れている。その川には橋が架けられているのだけど、その橋まで遮蔽に使えそうなものがない。

 

 しかも川には河港水門と呼ばれる建物が設置されており、そこに敵が陣取っていた。河港水門は身を隠せるブロックがあり、しかも位置が高くなっているので橋周辺を見渡せるのだ。そこに敵パーティは立て篭り、橋を渡らせまいとスナイパーライフルで牽制してきている。下手に顔を出すとダウンどころか確キルまで取られかねない。

 

 僕らは決断を余儀なくされていた。

 

 安全地帯の収縮が背後に迫っているので移動しないと安全地帯外ダメージで焼け死んでしまう。けれど、遮蔽物から乗り出して無計画に橋に向かえばスナイパーライフルに風穴を開けられる。

 

 僕の遠距離用の武器は倍率の低いスコープが載ったスウィングワン。スナイパーライフルを持った猛者相手にピストルは厳しい。ダメージトレードは良くてもとんとんだろう。待ち構えているパーティはスナイパー二人だけだけれど、一気に撃ってこられたら簡単にダウンまで運ばれかねない。

 

 はてさて、どうしたものだろうか。

 

『お、救援物資だ』

 

「救援物資……あれ(・・)、入ってたりしないですかね」

 

『ここであれ(・・)入ってたらシチュエーションは完璧だな』

 

『ん? あれってなに?』

 

『救援物資の中にはたまに化け物みたいなスナイパーライフルが入ってんだよ。相手の防具にもよるけど、頭に入れれば一発でダウン取れるくらいのやっばいのがな』

 

「それが入っていればこの状況を打破するきっかけになるかもしれません」

 

〈入ってたらひっくり返せるかも〉

〈化け物対物ライフル〉

〈対化け物ライフルだ〉

〈草〉

 

『そうなんだ! ならぜったい取らなきゃ! ロロ見てくるよ!』

 

『待て待て待て! ロロ、待て。救援物資が落ちてくるとこ、スナイパーライフルの射線がぎり通ってる。だからあれが落ちてくるまで待ってろ』

 

「僕とロロさんで牽制しておきますから、壊斗さんが回避行動を取りながら救援物資を見に行きましょう。スナイパーライフルが入っていた時のためにここに武器一本置いていったほうがいいです」

 

『おっけ』

 

「ロロさんは僕と一緒に牽制しましょう。体を出しすぎないように注意しましょうね。あの人たち上手なので」

 

『むぅ……わかった』

 

〈新兵!〉

〈自分から動くのはいいこと〉

〈ロロさんえらい!〉

〈危ないからねw〉

〈新兵お留守番〉

〈フォローするのも大事だから〉

 

「ロロさんのことを信用していないということじゃありませんからね? 被弾を少なくするためのテクニックがあって、それをまだロロさんには教えられていないので、今回は壊斗さんに救援物資を見に行ってもらうんです」

 

『こんなことでいじけんなよ、ロロ。適材適所ってやつだぞ。牽制するのはエイムがいいジン・ラースがやったほうがいいし、救援物資を見に行くならキャラコン知ってる俺のほうがいいってこった。ロロはジン・ラースと一緒に、俺がやられないように牽制手伝っててくれ』

 

『うん……。ただ、ロロは……武器取りに行って壊斗くんがキル取られる可能性があるんなら、代わりにロロが行ったほうがいいんじゃないかなって思っただけ。一番弱いから、キル取られてもここからの戦闘に影響ほとんど出ないだろうし……』

 

「何を言ってるんですか? このゲームは三人一組で動くゲームですよ。三人生存しているというのはそれだけで強いんです。三人いるってだけで相手に圧力をかけることができますし、射線が一本増えるだけで戦闘は有利になります。いなくてもいいパーティメンバーなんていません。ロロさんには、いてもらわなければなりません」

 

『っ……うん』

 

「今はまだできることが少なくて、それで思うところもあるかもしれませんけど、始めたばっかりなんですから仕方ないんです。これだけオーダーを聞いて動けているだけでとてもすごいんです。ロロさんはとても頑張っています。だから焦らないで、できることを一緒にゆっくり増やしていきましょうね」

 

『うんっ……ぐすっ。……ごめんなさい、がんばるっ!』

 

『気にすんなロロ! こんなバケモンの巣窟みたいなマッチだったら俺も大して変わんねーから! ジンが強いだけなのに、俺なんか腕組んでどや顔してんだぞ。俺つえーって! 向上心あるだけ俺よかましだ!』

 

『うんっ、ぐすっ。もうっ、わかったってばぁっ……。二人してやさしくしないで……泣いちゃいそう』

 

〈新兵……〉

〈ロロさんもできること頑張ろうとしてんだよな〉

〈やさしすぎ〉

〈ロロさんいい子すぎて泣きそう〉

〈味方を犠牲にして勝ったってしゃあないんだから〉

〈もっと気楽に楽しんだらええのよ!〉

〈自分だけなんもできなかったら悔しいよなぁ〉

〈ロロさん十分働いとる〉

〈始めたばっかでこんだけできてりゃすげぇよ〉

 

「あはは、泣いちゃだめですよ。泣くならこのマッチが終わった後です」

 

『だははっ! いーや、泣け! わんわん泣け! 向こう一年はそれでいじってやる!』

 

『泣かないっ、ぜぇったい泣かないっ!』

 

「ふふっ、人間様もロロさんのこと応援してくれてますよ。〈いい子すぎ〉とか〈十分働いてる〉〈始めたばっかりなのにすごい〉って」

 

『だははっ! ちなみに俺んとこのリスナーも言ってんぞ! 〈がんばってんじゃん〉〈よくやってる〉〈見直した〉だってよ!』

 

『やめ、やめてぇ……っ、やっと引っ込んだのにっ……また涙出てくるからぁっ……』

 

『はっは! よっしゃ、救援物資見てくるわ。牽制頼むぞ』

 

「ええ。お任せください。ロロさん?」

 

『ぐすっ……うんっ、大丈夫! 壊斗くんがやられちゃわないように、でも自分もやられちゃわないようにあんまり体を出しすぎない!』

 

「完璧です」

 

 僕は遠距離にも対応できるスウィングワンで、ロロさんはマークスマンライフルのEヘヴンクラウドで、河港水門の上に陣取るスナイパーに攻撃していく。

 

『やったやった! どっちも一発あたったよ!』

 

「ナイスです。一人はコートを剥いで肉まで入りましたけど……どちらも遮蔽に隠れましたね。やはり距離があるので立て直されてしまいますか。ですがこれでしばらくは安全が確保されました」

 

〈この距離でどんだけあてんだよ……〉

〈スウィングワンあてすぎいいい!〉

〈ダウン取れそうでくさ〉

〈ダウン取れても隠れられて回復されるからなぁ〉

〈新兵がんばってる!〉

〈ロロさんナイス!〉

〈新兵やるやんけ!〉

〈すごいぞ!〉

 

 できればこの隙をついて橋を渡りたいところだけど、僕らがいる遮蔽から、橋の遮蔽まではかなり距離がある。

 

 今みたいに削って一度引っ込めさせても、河港水門の敵は受けたダメージをゆっくり回復させてから狙撃してくる。対して僕らは回復する暇もなく移動しなければいけないので、移動途中に狙撃されたらダウンする可能性が高い。

 

 違うパーティが河港水門のパーティに攻めかかってくれないかと期待していたけど、それより先に安地収縮がきてしまいそうだ。

 

 やはり状況を大きく変える一打が必要だ。

 

『おらぁっ、喜べ! 今日の俺たちはついてるぞ!』

 

 ぴこん、とシグナルが発された音がした。

 

 そのシグナルが示しているのは、武器がここにあるよ、という情報共有だ。報告のログには、『「ブレイカー」を発見』とあった。

 

「願った通りの銃がきましたね。ナイスです」

 

『この「ブレイカー」っていうのが、さっき言ってたすっごい強い銃?』

 

「そうですよ。発射レートは低いですし、マガジンにもあまり弾は入りませんし、用意されている弾も少ないですけど、当てさえすればほぼ瀕死に追い込めます」

 

『よっし。水門のところは大丈夫そうだな。他のパーティが寄ってきてないかも見といてくれ』

 

『んー、大丈夫そうだよ。見えない』

 

「ここは安地の際も際ですからね。他のパーティは先に安地内に入っているのかもしれません。はい、おかえりなさい」

 

『うい。ただいまっと。そんじゃジン・ラース、一発ぱこんと頭撃ち抜いてやれ』

 

『ジンさんやったれー!』

 

「そんなに簡単に当てられるものでもないんですけどね……」

 

〈きたー!〉

〈ブレイカーきちゃ!〉

〈あとは当てるだけ〉

〈当てれたら最強なんだから!〉

〈あたらんやんけ!で捨てるまでがワンセット〉

〈ブレイカーは強いけど弾道がなぁ〉

〈弾遅いんだよこれ〉

〈強い(あたったら)〉

 

 壊斗さんからゲーム中最高威力を誇るスナイパーライフル、ブレイカーを譲り受ける。代わりに僕の相棒スウィングワンとはここでお別れだ。ブレイカーとスウィングワンでは武器構成が悪くなってしまう。

 

『そんじゃ、どうする? ジン・ラースが一枚落としたら逆に水門のとこ襲いに行っちまうか?』

 

『あそこのパーティの人は一人落ちてるみたいだしね』

 

「いえ、やめておきましょう。河港水門までは距離があるので乗り込む前にダウンの回復が間に合います。それに、川を越えた向こう側からなら水門の近くにも遮蔽がいくつかあるんですが、こちら側には遮蔽が少ないんですよ。投げ物で簡単に返されてしまうので、僕らから水門に攻めに行くのは控えましょう。三人同時に橋に向かって走って、相手の狙いが散ったところを僕が一枚落とします。相手はダウンの回復に専念するかもしれませんし、たとえさらに撃ってきたとしても射線が一本だけなら、みんなで撃ちながら進めば橋までは到達できます」

 

『橋についたら回復して仕切り直しだな。おっけ』

 

『うー……こっち、けっこうポジション的に不利なんだね……』

 

「僕らのポジションが不利なのはもちろんですけど、河港水門が川のこちら側、北東側に対してかなり有利なんです。高さもありますしね。でも川のあちら側、南西側に対してはわりと不利なポジションではあるんです。南西側には高さのある建物が多くて射線も開いてますから。なのでバランスは取れてますね」

 

『へー、そうなんだ!』

 

〈へーそうなんだ〉

〈そうなんだ〉

〈へー知らんかった〉

〈新兵と同じリアクションで草〉

 

『詳しすぎだろ。なんで貴弾やってないのにそんなマップ構造詳しいんだよ』

 

「まったくやっていないわけではありませんから。エイムの感覚を錆びつかせないように気まぐれにカジュアルマッチやってます」

 

『クラスマッチやれ。そんで適正クラスに行け。そんで俺と一緒にクラスマッチしろ』

 

「最後のが本音のような……。安地きてるんでそろそろ出ます」

 

『はいっ!』

 

「いい返事」

 

〈ほんとマップ理解度高いな〉

〈貴弾やれw〉

〈なぜカジュアル〉

〈クラスマやれ〉

〈壊斗さんw〉

〈壊斗さんと組んで今シーズンマークィス狙えよw〉

〈がんばれー〉

〈新兵元気いい!〉

〈ロロさん返事はデュマ帯あるw〉

 

 一斉に遮蔽から飛び出し、橋へと向かう。

 

 やはり予想通り、河港水門のパーティは顔を出してきた。

 

 狙われたのは一足分出るのが早かった壊斗さんだった。

 

 全力疾走していても、弾道や偏差を考慮してエイムを合わせてきている。少しでも壊斗さんのスライディングが遅ければ当たっていた軌道だった。

 

 このマッチ、本当に強い人しかいない。

 

 僕の狙撃が当たらなくても三人で同時に出ていれば、橋の遮蔽まで一人か二人は辿り着くだろうと予想していたけれど、運が悪ければ三人全員撃ち抜かれかねない。

 

 やっぱり僕が一人は確実に落としておかないといけない。

 

 スライディングで地面を滑りながらブレイカーを構え、スコープを覗く。

 

 偶然にも、水門の敵は二人ともさっきまで同じ遮蔽物に隠れていて、二人とも同じ遮蔽物の左側から体を出して撃ってきていた。僕からの視点だと、手前の敵と奥の敵で体が重なっていた。

 

 この機を逃さず、手前の敵の頭を狙う。スライディングが終わって体が止まった瞬間に引き金を引く。

 

 ブレイカーが火を噴いた。他の銃とは異なる独特な重厚感のある発砲音を轟かせる。

 

 思い描いていた弾道をなぞるように、弾丸は空気を引き裂きながら飛翔して手前の敵の頭に吸い込まれる。血に飢えた弾丸は一人食い破っただけでは飽き足らず、貫通して後ろの敵の胴体にもヒットした。

 

 手前の敵はヘッドショット一発でダウン。奥の敵も、エナジーコートをやすやすと引き裂いて本体にもダメージが食い込んだ。

 

 望外の成果だ。予定とは違うけれど、ここで方をつけるべきである。

 

「二枚抜き。一人ダウン。奥の敵肉ダメ。足止めて撃っていいです」

 

『うおおぉぉっはっは! ナイスぅぅっ!』

 

『に、二枚抜き? え? ……あ、ふぉーかす、ふぉーかす……』

 

〈あたれー〉

〈うおおおお!〉

〈やりよったw〉

〈ないすううう!〉

〈二枚抜き草〉

〈店主! クリップもう一丁!〉

 

 二人に指示を送り、僕はブレイカーの次弾装填だ。

 

 ブレイカーは一発撃ったらコッキングして再装填するというモーションが入る。しかもADS──スコープを覗いたままだと装填してくれないという聞かん坊の問題児だ。威力だけは高いが、威力以外の部分があまりにもお粗末である。

 

 でも、戦況を変える一手にはなるんだよね、これ。攻める時の起点作りにもなる。

 

 今の僕たちのように周りが格上相手ばかりだと、一手で盤上を覆す強力な銃はたとえ取り回しに難があろうと手放せない。

 

 ブレイカーを再装填してスコープを覗いた時には、すでに生き残りのもう一人の敵は壊斗さんとロロさんに撃たれて倒されていた。お見事だ。

 

「ナイス。やっぱり水門は一欠けでしたね」

 

『いやナイスううぅぅっ! ブレイカーうますぎだろ! ここで二枚抜きかよ! SRも使えんのかお前は!』

 

「ふふっ、二枚抜きは出来過ぎてました。ちょうど重なってたんで、あれに関しては完全に偶然ですよ」

 

『一人目を一発で倒したのは偶然じゃない……んです?』

 

「一人目はしっかり狙いました。壊斗さんがヘイトを買ってくれてましたからね。あれで当てられなきゃ僕にブレイカーを持たせてくれている意味がなくなってしまいます」

 

〈神ショット〉

〈二枚抜ききもちいい!〉

〈草〉

〈壊斗さんの褒め方気持ちいいなw〉

〈兄悪魔の分もテンション上がってるw〉

〈しっかり狙いました……?〉

〈狙って当てれたら苦労しないんだよ!〉

 

『どんだけ自分にプレッシャーかけてんだよ。もっと気楽にやってくれ。そのためのカジュアルだぞ』

 

『す、すごぉ……。ろ、ロロも、いつかこんなふうに……』

 

『おい、ロロ。あんまこいつ参考にすんなよ。こいつを基準にすると求めるハードルが上がりすぎる。最初の目標は一対一で勝てるようになるとかそんなもんでいいんだ』

 

〈カジュアルのひりつきじゃないんだよな……〉

〈ほぼデュマ帯だからな〉

〈兄悪魔は見習うべきじゃない〉

〈ロロさん引き返せ〉

〈教官には最適だけど目標にするにはあまりにも不適切〉

〈壊斗さんありがとう〉

〈これ目指すとかプロシーン目指してんのかって話よ〉

 

「そうですよ。目の前の階段を一段一段丁寧に上っていけば、いつかいろんなことができるようになりますよ。それに自分一人でなんでもできるように、なんて思う必要もありません。苦手なところは仲間にカバーしてもらえばそれでいいんです」

 

『はいっ! がんばりますっ!』

 

「とてもいいお返事ですね。一緒に頑張りましょう」

 

『……一人でなんでもできるやつがそれ言うのか?』

 

「なんです? 壊斗さん?」

 

『ああいやごめんごめん、なんでもない』

 

「そうですか。それでは次に進みましょう」

 

『水門のボックス漁りてーな』

 

「補給したいところなんですけどね。ここはやめておきましょう。遠回りになりますし、あのパーティも僕たちとの戦闘で物資はおそらく枯渇しています。警戒しながら進んで漁り残しを拾っていくほうが生き残れる可能性は高そうです」

 

『それもそうだな。節約しながら進むか』

 

〈新兵がんばれ〉

〈ゆっくりうまくなったらいいんだから〉

〈たしかになんでもやってんな〉

〈IGLやってワンブイツー返してブレイカーで二枚抜きするバケモン〉

 

『あ! 残りの部隊数九だ! 一桁順位!』

 

「おー、案外他のエリアでもバトルしてるみたいですね。減りが早いです。まさかこんなに生き残れるだなんて思ってませんでした」

 

『なに言ってんだジン』

 

『そうだよ! なに言ってるのジンさん! 弱気はだめだよ!』

 

『俺は降下軌道見た時にはすでにこのマッチを抜けてやろうかと考えてたぞ』

 

「ふふっ、あははっ。誰よりも諦め早い人いません?」

 

〈とうとう折り返しだ〉

〈ようやっとる〉

〈生き残れてるのやばいな〉

〈弱気発言絶対許さない新兵〉

〈ロロさんの元気は万病に効く〉

〈壊斗さん草〉

〈たしかに抜けたくはなるw〉

 

『壊斗くん! 弱気じゃ勝てないよ!』

 

『なんだよ。今は勝つつもりでやってんだからいいだろ』

 

『それならいい!』

 

「素直ないい子もいます。さて、ここからですが──」

 

 僕の計画では河港水門の敵をどうにか一枚落として牽制しつつ、橋に移動。安全に回復してから川の対岸に渡り、回り込んで河港水門のパーティとバトル、と目論んでいた。

 

 想定以上にうまくことが運んでしまったのでかなり計画からは外れてしまった。でも手間が省けたのでよし。時間をかけすぎて漁夫に襲われるリスクを消せたのはよかった。

 

 全体マップの南西に寄っているリング収縮を考えると、北東の端にいる僕らがこれから取れるルートは三つある。

 

 一つは南西の安全地帯内へと一直線に向かうルート。このルートで行くには見通しのいい平原を突っ切る必要がある。平原にも遮蔽物はあるとはいえ、視線も射線も通しやすい。バトルの起きやすいエリアだ。化け物みたいな猛者たちが闊歩しているこのマッチでバトルが起きやすいエリアに行くということは、つまりほとんど勝ちを諦めているようなものである。

 

 二つ目は北西大回りルート。平原のバトルに巻き込まれないよう、北から北西に伸びている大きな岩山に体を擦りつけながら迂回するルートだ。平原横断よりかはリスクは少ないけれど、平原での戦いに敗れたパーティとムーブが被ったり、そういうルートで安地内に入ろうとしているパーティを狩るために有利なポジションで待ち伏せしているパーティもいる。一つ目よりかは相対的に安全かな、といったルートだ。

 

 三つ目はまたもや安全地帯のリングの(きわ)、リングの(ふち)をなぞるように東から南へとすれっすれを掠めて大きく迂回するルート。平原の南東にあるコンテナ集積場から北上するパーティとぶつかる可能性もあるけれど、うまくやればやり過ごせるし、位置取りとタイミング次第で北に追いやることもできる。このルートだと、平原の南に寝そべるように連なる岩山に肩を擦りながら西へと進むことになる。その先は、岩山と岩山に挟まれた一本道になっているので、ここで待ち構えられたらリングの収縮もあいまって僕たちは大変窮地になるけど、待ち構えているパーティさえいなければ安全地帯内に入ることは容易になる──

 

「──といったところなんですが、どうします? 僕としては三つ目のこそこそルートがお勧めです」

 

『んー、そんじゃ三つ目でいいんじゃねーの?』

 

『ロロも、そう思います。まだ安地はわりと広いのに、残りのパーティ数は九。パーティ数が少ないなら、こそこそルートの先で待ち構えているようなパーティもいないんじゃないかな? って』

 

「ロロさん偉いです。そうですね。どのルートを選んでもどうなるかはわからない。わからない中でも今持っている情報を参考にしてどのルートが安全だろうかと考える。とても大事な考え方です。偉いですよ」

 

『えへっ、いやぁ、そんなっ……えへへ』

 

『おいやめろよ! そんなん言ったら「三つ目でいいんじゃね?」って言った俺がなんも考えてないばかみたいになるだろ! やめろよ!』

 

〈平原は避けたいよな〉

〈クラスマでもカジュアルでも激戦地帯だ〉

〈ロロさん考えてる〉

〈新兵急成長〉

〈やっぱり教官にするには兄悪魔は最適だ〉

〈壊斗……〉

〈壊斗さんw〉

 

「ふふっ、比較的に思考停止した答えではありましたね」

 

『笑いながら言うセリフじゃねーな?!』

 

『ロロが壊斗くんに勝つ日もそう遠くないかもね?』

 

『一対一ではすぐに負けねーだろうけど、パーティとしてなら負ける日近そうで怖いな……』

 

 このマッチがカジュアルということを踏まえれば、ロロさんの考え方は的外れなものではないだろう。

 

 カジュアルマッチはどれだけ早く負けてもポイントの減少はないので、新しいムーブを試してみたり、クラスマッチに行く前にアップとしてプレイする人もいる。シンプルに撃ち合うのが好きな人や、クラスを気にせずに気楽に遊びたい人だっている。

 

 そういう人たちは目の前で繰り広げられているバトルに飛び込んでいきがちである。それが目的でカジュアルマッチをやっているのだから、当然といえば当然だ。

 

 銃を撃って敵の血を浴びにきたトリガーハッピーなバーサーカーさんたちが、あえてリングの端っこでじっと待ち構えている可能性は低いだろう。そんなところで息を潜めて待ち構えてでも勝ち残りたいのなら、安全地帯の内側のもっと有利なポジションを確保しておいたほうが賢明だ。

 

 三つ目のルートは、かなり遠回りにはなるけれど安全度は高いだろう。

 

「それでは三つ目のルートで行きましょう。南東からパーティがきてなければ一番嬉しいですね」

 

『なんで言った? フラグじゃねーかそれ』

 

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