サイコバグなお兄ちゃん、Vtuberになる。   作:にいるあらと

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お兄ちゃん視点、後半ちょこっと別視点です。


「先輩……待っててね」

 

 こそこそルートで安全地帯を目指した僕らは、幸いなことに南東のコンテナ集積場でも敵パーティに遭遇せず、その先の岩山と岩山の一本道でも待ち伏せされなかった。

 

 順調に歩みを進め、僕らは三回目の安全地帯収縮も乗り切ることができた。

 

 最終安地はマップの南西に位置する港湾都市、ここのおそらく北か東になる。

 

 化け物スナイパーライフルのブレイカーに最初から搭載されている高倍率スコープで有利になりそうなポジションを確認する。しかし安地内に入ったのが遅かったため、高所や守りやすい建物の中は取られていた。

 

 ここまでは覚悟していたので潔く諦め、次いで安全に立ち回れそうなポジションへ移動する。

 

 移動していた、その最中だった。

 

「っ! 北東。近くまできてます」

 

 周辺でも銃声が間断なく鳴り響いているせいで気づくのが遅れた。

 

『うっお……まっずいな』

 

『わっ……え、壁にっ』

 

「ロロさん、戻っちゃだめ。南西から射線通る。前に行きましょう。倉庫の壁沿いに奥進んで」

 

『は、はいっ』

 

『だぁっ! 見つかった! そっち行けん!』

 

「わかりました。こっち、左の倉庫の中にも一パーティいるんで、窓には気をつけてください」

 

『おっけ』

 

〈どこで気づいたんだ?〉

〈相変わらず耳いい〉

〈ここで戦いたくないな〉

〈上からの射線怖い〉

 

 戦況はかなりまずい。

 

 移動中に敵に発見されたので壊斗さんは手近な遮蔽物、左と右で二つ並んでいるうちの右の倉庫の東側に隠れるしかなかった。

 

 僕たちは左側の倉庫の西の壁に張りつく。分断されてしまった。

 

 敵が一パーティだけなら離れてしまっていても射線を広げるという考え方で組み立てられたけれど、敵は一パーティだけではない。

 

 平原を抜けて入ってきた北東のパーティと、僕とロロさんが隠れている左の倉庫の中にいるパーティ。そしてもう一つ、南西の建物の二階に陣を構えているパーティ。最悪の場合、三パーティから狙われることを想定しないといけない。

 

 特に、体を出しすぎると南西のパーティから確実にちょっかいをかけられるのが厄介すぎる。動きがかなり制限される。

 

「まずは北東のパーティを狙います。倉庫の北側には窓があるんで倉庫内のパーティも牽制してくれるかもしれません。壊斗さんは南西の射線は通らないので左倉庫の東にある窓からの射線だけ注意を。被弾は最小限に。現状、そちらまでカバー行けません」

 

『了解』

 

「ロロさんは南西、建物の二階からの射線に気をつけましょう。倉庫内のパーティは、きっと僕たちか北東のパーティのどっちかが負けるまで出てきません。ロロさんは倉庫内は無視でいいです」

 

『はいっ』

 

 安全地帯の収縮の四回目が始まっている。

 

 北東のパーティは安地外ダメージで死ぬくらいなら華々しく戦って散ってやる、という気概で攻めてくる。多少の不利は無視して突っ込んでくる。

 

「撃ちます。先頭」

 

 河港水門戦から武器を変えることができていないのが痛い。

 

 僕の今の装備はスナイパーライフルのブレイカーと、ショットガンのビースウィーパー。近すぎず、離れすぎずというこの距離で戦うのは苦しい。

 

 倍率を最小限にしたブレイカーで狙う。

 

『やった! ダウン取った!』

 

「ナイスです、ロロさん」

 

『おお! ロロナイス!』

 

 倉庫の角から顔を出してブレイカーを撃った。先頭のプレイヤーの胴体を貫いてコートを剥ぎ、壊斗さんとロロさんの射撃でとどめを刺した。キルはロロさんに入ったようだ。これが自信に繋がってくれると嬉しい。

 

〈武器やべえ〉

〈あてるんだよなぁ!〉

〈新兵ナイス!〉

〈新兵が取り切った!〉

〈ロロさん!〉

〈ないすうう!〉

 

 北東から走ってくるパーティの一人がダウン。北東のパーティは残り二人。倉庫内のパーティも北を向いている窓から撃ってくれているのは助かる。

 

 ブレイカーから持ち替え、ビースウィーパーで狙う。弾が拡散して大ダメージは期待できないけれど、たとえ少なくてもダメージを与えることができれば今の敵のヒットポイント状況を知ることができる。

 

 近くで撃った時と比べればダメージは塵に等しいけれど、被弾が重なっていたのか運良くコートを剥ぎ取れた。

 

 しかしこちらの倉庫からの弾幕が厚すぎたせいで、北東からのパーティは壊斗さんがいる右の倉庫へと進路を取ってしまった。

 

「壊斗さん。そっち二人行きました。一人はコートないです。SMGとSGは見えました」

 

『んんっ、マジか……おっけ』

 

「ロロさん、窓に近づきすぎなければ北には移動しても大丈夫です。投げ物は飛んでくるかもしれませんので注意を」

 

『はいっ!』

 

 ロロさんには、壊斗さんがいる右倉庫へ向かう生き残り二人を狙ってもらう。こちらには目もくれずに右の倉庫へ急いでいるので落ち着いて狙えるだろう。

 

 僕はブレイカーの再装填をしつつ、南西のパーティの様子を確認する。

 

 有利な位置にいることに笠を着てちょっかいをかけてきていたけれど、あのポジションは奪い合いになりやすい。こちらに目を向けて警戒が薄くなっていたのか、あちらはあちらで襲撃されている。南西の射線はもう考慮しなくていい。

 

 ここで一気に攻勢をかけるべきだ。

 

「ロロさん、壊斗さんのカバーへ。南西の射線はもう大丈夫。北側の窓はスライディングで、あとはまっすぐ走ってください」

 

『えっ、でも、倉庫の東側にも窓があるって……』

 

「それはこっちで防ぎます」

 

『あ゛あ゛あ゛無理ごめん! 一人やって一人三十九! 最後SMG!』

 

「ナイスです!」

 

『うわぁ! すごい!』

 

〈壊斗さんつええ!〉

〈一人持って行ってる!〉

〈強い!〉

〈壊斗もほんとはつえーんだから!〉

〈おおおお!〉

 

 倉庫内の敵は三人ともが北と東の窓に張りついている。扉側は警戒されていなかったのでこっそりと倉庫の扉を開き、フラググレネードを東向きの窓付近に、扉にはインセンディアリーグレネード──通称火グレを投げつける。北側の窓はスライディングで通り過ぎれば射線が切れるし、グレネードを警戒して東の窓から撃つことはできなくなるし、火グレの効果で炎が噴き出し続けている扉から出ることに抵抗が生じる。

 

 これで壊斗さんのいる右の倉庫に北側から向かうロロさんも、南側から向かう僕も安全にカバーに行ける。南西のパーティがバトルになっていなかったら、こうは動けなかった。

 

「ロロさん同時に。イチ、ゼロ」

 

 倉庫の角から体を出してビースウィーパーを一発。ダメージを受けた敵がSMGを乱射する前に僕は身を隠して再装填。

 

『んっ……やった! やったやったぁっ!』

 

 僕に警戒していた敵の残りのヒットポイントをロロさんが背後から削り取ってくれた。

 

『ナイスぅぅ! よくやった! よくやったぞロロ!』

 

〈さばいた!〉

〈取ったああ!〉

〈まじで脳みそ二つあるんちゃうか……〉

〈ロロさん大活躍やん!〉

〈オーダーえぎぃ〉

〈投げ物うまい〉

〈つよすぎいいい!〉

 

 北東から入ってきたパーティの最後の生き残りは僕とロロさんの挟撃により倒れた。コミュニケーションアプリのラグも踏まえて少し早く出たのがいい具合に敵の注意を逸らした。

 

「ナイスです! ロロさんは壊斗さんのダウン回復を。倉庫内のパーティはまだ出てきては……」

 

 倉庫内の敵パーティが無理に出ようとすれば、扉で燃え続けている火グレにひっかかる。ダメージが入ればサウンドも発生するしダメージの数字も出てくる。漁夫にこようとしているかどうかがそれで判断できる。

 

 そう、思い込んでいた。油断していた。

 

 このマッチにいるプレイヤーの実力を、過小評価していた。

 

 火グレの燃焼時間が終われば出てくるはずだから、そこを狙い撃とうと倉庫の角から身を乗り出したら、扉の真下で燃え続けている火グレを、ごくごく細い扉の枠の部分で壁ジャンして乗り越えている光景を目の当たりにした。

 

 しかも、そんなキャラコンを披露しているのは一人だけじゃない。もう一人はすでに倉庫を出ていた。僕たちのいる右の倉庫の北側へと回っている。

 

 さっき僕とロロさんがやったのと同じだ。右の倉庫の東側にいる僕らを、北と南から挟み撃ちにするつもりだ。

 

「ごめんなさい出てきてる! 一人北から回ってる!」

 

『ロロ回復間に合わん! リロードして待ち構えろ!』

 

『う、うんっ!』

 

 敵が扉の枠を壁ジャンして火グレを乗り越え、着地したところをビースウィーパーで撃ち()える。再装填してもう一度撃とうとしたけれど、左倉庫の扉から火グレを踏みながらARを構えて出てきたのが見えたので、右倉庫の東側に移動して射線を切る。

 

 再装填したビースウィーパーからブレイカーに持ち替え、角で敵が現れるのを待つ。

 

 スライディングジャンプで勢いよく姿を現した敵のすぐ間近で、ブレイカーを腰撃ちで放つ。ブレイカーはいくらエイムを敵に合わせていても、腰撃ちだと当たるかどうかは運試しみたいなところがある。そんな運試しにならないよう、画面いっぱいに敵が映るくらいのゼロ距離で撃ち放った。

 

「ワンダウン」

 

『ナイスぅぅっ!』

 

『っ……っ!』

 

 ロロさんの声は聴こえなかった。後ろで銃声が鳴り続けているので、北から回り込んだ敵が僕を挟み撃ちにしないように必死で耐えてくれているのだろう。報告できないくらい集中している。頑張って、ロロさん。

 

「もう一人……っ」

 

 さっきダウンを奪ったようにブレイカーは切り札になりうるけれど、ここでブレイカーを再装填する時間はもうない。

 

 再びビースウィーパーに持ち替えて駆け出す。

 

 待っていたら挟まれる。相手は猛者だ、ロロさんだっていつまでも耐え続けられない。逆にこちらからARを構えていた敵に強襲をかける。

 

 倉庫の角ぎりぎりで壁を蹴り、跳び上がりながら角を出る。

 

 上から撃ち下ろすように一発。

 

 僕のほうから攻めにきたのが予想外だったのか、あるいは高く跳び上がりながら出たのが意表をついたのか、相手は反応が遅れている。

 

 着地と同時にスライディングで被弾を減らして再装填し、近距離からの射撃でフルヒット。あと一発でダウンに持ち込める。

 

『うあぅっ……ごめんなさい! ぜんぜん削れてないっ』

 

『ジン! そっち行った!』

 

「っ……よく持ち(こた)えました。ナイスです」

 

 とうとう右倉庫の北側を守ってくれていたロロさんが落ちた。デュークやマークィスなどの最上位帯のプレイヤー相手に、つい最近始めたばかりのロロさんがこれだけ粘ったのは大健闘だ。

 

 あとは僕の仕事だ。

 

 北から回り込んでくる前に、目の前の敵を倒し切らなければならない。

 

 そういう焦りがあったのか、あるいは集中しきれていなかったか。

 

「っ、(はず)……」

 

 (はず)した。

 

 敵の動きを見誤った。壁ジャンで跳び上がるのを予期できず、一発外した。

 

 空中機動を挟んだり左右に小刻みに動いて被ダメージを最小限に抑えながら再装填、胴体に撃ち込んでダウンを取る。

 

 リロードしたかったけれど、その前に北から倉庫をぐるっと回った敵、最後の一人が現れた。

 

「ぐっ……」

 

 たった一発、されど一発だった。

 

 一発外したせいでキルタイムが長くなり被ダメージが増え、最後の一人がくる前にやっておきたかったリロードの時間も失われた。

 

 相手がスライディングでエントリーしてきたところを撃つもフルヒットならず。再装填中に壁ジャンスライディングで被弾を抑えようにも相手のエイムを振り切れず。

 

 結果、最後の一人のコートを剥いで肉ダメをいくらか与えたところで、あえなく撃ち取られた。

 

 一つのミスショットが明暗を分けた。

 

「くっ、ああっ……ごめん。負けた! やられたっ……」

 

『いやナイファイ! ナイファイだった!』

 

〈惜しいいい!〉

〈いやすげえよ〉

〈なんで勝ちかけてんだw〉

〈ゼロ距離ブレイカーは震えた〉

〈ナイファイだったわ〉

〈あまりにもGG〉

〈ナイスファイト!〉

〈動きやば〉

〈こーれはクラス詐欺ですね〉

 

『うわああぁぁっ……ロロがっ、もう少しっ……っ』

 

「いやロロさんっ! すごかったですよ! あんなに時間を稼いでくれるなんて、正直思ってませんでしたよ!」

 

『いやマッジでそう! 倉庫の角の使い方お前っ、めっちゃくちゃうまかったぞ! よくあんだけ粘ったなぁっ、おいっ!』

 

 ロロさんの声が震えていたことを感じ取ったのか、壊斗さんも続いてくれた。

 

 相手との実力差やプレイ時間の差を考えればロロさんの功績は大金星みたいなものだ。へこむ必要なんて何もない。

 

「音聴いてましたけど、なるべく時間が空かないように撃ち続けて相手が出てこないようにしてたんじゃないですか? あれとてもよかったですよ」

 

『ぐすっ……っ、ん。きっとジンさんならどうにかしてくれるって思って、とにかくロロは足を止めさせようって思って……』

 

『へこむなへこむな! あれマジでよかったぞ!』

 

「壊斗さんの言う通りです。時間を稼いでくれていたおかげで倒しきれたんですから。最後のシーンは僕が外したせいで(しの)げなかったんです。ロロさんは何も悪くありませんよ。やれることを全部やれてました。すごいですよ」

 

『うんっ、ぐすっ……でもっ、ひっぐ……っ、勝ちたかったぁっ! くやしいっ! あんなに、ジンさんがっ……ジンさっ……が、がんばってくれだのに゛ぃっ……』

 

「ふふっ、そうですね……勝ちたかったな。でも、勝てるのは二十もパーティがある中で一つだけですからね。力が及びませんでした。みなさん本当にお強い」

 

『さいご、さいごにどうして怖がっちゃったかなぁ……っ。ジンさんも怖がって尻込みするより強気に前出たほうがいいって言ってたのになぁ……ぐすっ』

 

「その判断が間違っていたかどうかはわかりませんよ。強気になりすぎるあまり、前のめりになって撃ち負ける、なんてこともありますからね。大事なのは、他にどんな方法が自分に残されていたか考えることです。同じようなことがシチュエーションの時に、次はもっと上手く立ち回れるように、次に活かせるように考えることです。ロロさんはそれができてます。とても立派ですよ」

 

『っ……次に、活かすっ。うんっ! あーっ! 一生懸命がんばってると、勝った時うれしい分、負けると悔しいんだ……っ、もっとがんばるっ』

 

〈めっちゃがんばってたよ〉

〈ロロさんがんばってた〉

〈いい子すぎ泣く〉

〈始めたばっかでこんなマッチとか俺ならなんもできないぞ〉

〈初心者でこれはようやりすぎとる〉

〈くやしいよな〉

〈ロロさんはうまくなるタイプだ〉

〈ワンマッチで新兵卒業〉

〈もう新兵とは呼べないなw〉

 

「一緒に頑張りましょう。わからないことがあったら何でも訊いてくれていいですからね。……壊斗さん?」

 

『……いや、最後まで戦ってたお前らがそんな調子だと、その前に死んでる俺の立つ瀬がねーよ……。初心者のロロ抱えて二対三(ツーブイスリー)勝ちかけてんだぞ。俺どんな顔すりゃいいんだよ!』

 

 湿っぽい空気を取り払うように壊斗さんが自虐っぽく言う。へこんだロロさんを元気づけるためだろう。

 

 壊斗さんは煽ったりもするし言葉遣いも荒っぽいところがあるけれど、落ち込んでいる人がいたら慰めようと思える優しい心を持っている。しかも、慰めたいと思うだけではなく、自分を下げてでも励まそうと行動できる人だ。

 

 ならば、僕も壊斗さんのやり方に付き合おう。

 

「あははっ、壊斗さん生きてたら勝ててましたね」

 

『ジンさんっ?!』

 

『傷に塩塗り込んでんじゃねーよぉっ! ロロの活躍を地面にへたり込みながら見てた俺に言う言葉かそれがぁっ! 俺だって思ってたわ! 「あれこれもしかして俺が生き残ってたら勝ってたんじゃね?」って思ってたわ!』

 

『……ああ。二人して……もう。ひっく、ふふっ、ぐすっ……あははっ。でも、壊斗くんの指示で冷静に対処できたんだよ。ありがとね』

 

「その前に壊斗さんは一対二をやってましたからね。そこで奮闘してたんですから十分に活躍してますよ。あそこで一人落としてたの、とても大きかったんですから」

 

『そ、そうか? そうだよな? 俺もがんばれてたよな? 健闘を称えあってるお前らの輪に俺も入っていいんだよな?!』

 

『あははっ、くふっ、ふふふっ。うん! 壊斗くんもとてもがんばってた! すごかったよ!』

 

「格好よかったですよ。一人落としただけにとどまらず、もう一人もコートを剥ぐくらいにダメージ与えてて」

 

『そうだよな?! ああよかった! ナイファイ! 俺もナイファイ!』

 

〈壊斗さんも強かったw〉

〈めちゃ気にしてたw〉

〈壊斗さんかっこよかったよw〉

〈強かったよ壊斗さんw〉

〈なんだかんだで一人落としてもう一人も削ってんだからな〉

〈向こうの配信も開いてればよかった〉

〈同時に戦闘起きすぎて目が足りない〉

 

「ナイスファイトでした。それにしてもカジュアルとは思えない熱さでしたね。限界バトルの連続でした」

 

『ナイファイです! カロリー高すぎですよね。これが一戦目って信じられます? 敵強すぎですよ』

 

『ジンがいなけりゃあのマッチには放り込まれてないわけだけど、ジンがいなけりゃあそこまで生き残れてなかったよな。お前さっきのマッチだけでいくつ切り抜き作る気だよ。クリップ見てーよ』

 

「僕の配信の切り抜きをやってくれてる方にも少々苦労をかけてしまうかもしれませんね」

 

『あ、めろニキさんです? あの切り抜き師さん、すごいですよね。ロロとジンさんのコラボも切り抜きたくさん作ってくれてましたけど、ぜんぶ字幕ついてるし色分けされてるし注釈入ってるし、概要欄でしっかり誘導もしてくれてるし』

 

「しかも仕事が早いんです。いつ休んでるのかわからない人です」

 

『いい切り抜き師だな』

 

〈今も観てんのかな〉

〈ぜったい観てるだろうなw〉

〈『mellow:ジン・ラース切り抜きch』こんなのどこ切り抜けって言うんだ〉

〈絶対いる〉

〈やっぱりいたw〉

〈切り抜くとこないw〉

〈ぜんぶ名シーンだったからw〉

〈たしかに〉

〈アーカイブ観たほうがはやいわw〉

 

「やっぱり観てくれてますね、めろさん」

 

『あははっ、さすがめろニキ! いつもいる!』

 

『なんか言ってたんか?』

 

「〈こんなのどこ切り抜けって言うんだ〉って言ってます」

 

『あははっ、ふっふ、あははっ!』

 

『だはははっ! ああ、たしかにな! ほとんど見どころだわ! 逆に切るシーンのほうが少ないかもしれねーくらいだ! だははっ!』

 

〈『mellow:ジン・ラース切り抜きch』お前の切り抜き作るの難しいよ……〉

〈くさ〉

〈草〉

〈草〉

〈切り抜き師泣かせだなw〉

 

「〈お前の切り抜き作るの難しいよ……〉……僕に言われましても、まあそうですよねとしか言えないです……」

 

『あはははっ、めろニキかわいそっ……ふふっ』

 

『っ、っ、ふぅっ、ふぅっ……腹痛えっ! なんでそんな他人事でっ……いっつつ』

 

「そういえば、お二人ともリザルト画面見ましたか? 僕たち四位ですよ。すごいですね。あれだけ強い人たちがいた試合で四位なんて」

 

『んっ、ふふっ。はい、すごいです。負けたのは悔しいですけど、それでも四位はうれしいです。なにげにロロの最高順位更新です! やったー!』

 

『このマッチで四位はよくやれたほうだな。全力で勝ちには行ってたけど、正直ここまで勝てるとは思ってなかったし。ただ……次はもうちょっとクラス差のないマッチでやりてーよ……一マッチの疲労感じゃねーよこれは』

 

「そうですね……お散歩カジュアルなんて言ってた頃が懐かしいです」

 

『まさかお散歩が望まれるだなんて思いませんでした。つ、次は、大丈夫……ですよね? さっきの試合は、マッチングがおかしかった、だけ……ですよね?』

 

 二人とも、先のマッチでの疲労が抜けていない印象だ。それもそうだろう。どの戦闘シーンを振り返っても、一歩間違えれば落とされていた戦闘が多すぎる。毎戦毎戦綱渡りだった。

 

 手に汗握るひりつく試合はリスナーさんにとっては観応えがあったろうけれど、やる側は体力を使う。特にロロさんはどう抗っても実力差に開きがあるのでつらいところだろう。

 

「次の試合はもっと気楽に、それこそカジュアルに楽しめるはずですよ。さっきの試合は、きっと振り分けで上振れてしまっただけです」

 

 マッチングには内部レートも影響するけれど、パーティの人数でも振り分けられていると聞く。

 

 パーティメンバーが全員ソロのパーティと、意思疎通のできる三人組のパーティでは、よほど大きな要因がない限りは意思疎通できるパーティのほうが強い。貴弾は三人一組で戦うチーム戦だ。フォーカスする相手を決めたり、攻めるタイミングを合わせるだけでも戦いやすさ、勝ちやすさは段違いになる。ソロ三人とフルパーティでは差が大きいのだ。

 

 おそらくさっきのマッチでは、カジュアルを選んでいる三人組のパーティが僕ら以外におらず、仕方なく僕らが振り分けられたのだ。きっとそのはずだ。

 

 だから次のマッチはもう少し穏やかに、ロロさんにも手解きしながらプレイができる。そのはずだ。

 

 仄かな不安をみんなで感じながら、カジュアルマッチに並ぶ。

 

 しばし待つとマッチングが完了し、マップを眼下に収める飛行機の中に移動していた。

 

 目的地を目指し、飛行機を降りた僕たちが目にしたのは、飛行機から散開してマップの各地へと降りていく赤と黒の禍々しい色や、青みがかった金色をした神々しい光の尾。デュークやマークィスといった最上位勢の降下軌道。

 

 集中力の切れていた僕たちは近くに降り立っていたパーティと戦闘になり、実に呆気なく全滅した。

 

 *

 

『勝てるかーっ! 誰が勝てんだよあんなんっ!』

 

『正面から戦ったらどうにもならないよぉぉっ!』

 

 二試合目を驚きの早さで終わらせ、ロビー画面に帰ってきて放った第一声がこれだった。

 

 一試合目で死力を尽くせたのは、あんなマッチはあの一試合だけだと思っていたからだ。壊斗さんもロロさんも一試合目で自分の実力以上の力を振り絞って精も根も尽き果てていた。僕だってどこか精彩を欠いていた気がする。

 

 一試合目わりと行けたみたいだから次もよろしく、みたいな感じで二試合目も同じパフォーマンスを期待されるのは困る。

 

「いやあ、小細工を挟む隙もありませんでした。それに、僕もそうだったんですけどみんな明らかに集中力が切れてましたからね。仕方ないです。また最高位帯でしたし」

 

『そこが一番の問題だろ! なんでずっとデュマ帯に連れてかれんだよ!』

 

『ほんとだよっ! ロロみたいな初心者抱えて入っていいとこじゃないよっ!』

 

『安心しろ、ロロ。あのクラス帯のマッチなら俺だって初心者に毛が生えたみたいなもんだ。まともにやり合えるのはジンだけ……ん?』

 

「壊斗さん? どうかしました?」

 

『なんか今日、カジュアルだけじゃなくてクラスマでもマッチングおかしいらしい。リスナーが言ってる』

 

『へー、そうなんだ? クラスマッチでもこんなことになってるんだとしたら大変だよね』

 

〈SNS見てる限りはここまでひどいのはそうはないみたいだけどね〉

〈不具合出てるみたいだ〉

〈クラスマッチでこんなんなったら禿げるわ〉

〈しかもデュマ帯プレイヤーもクラス差ありすぎたらポイントまずいっていう地獄〉

〈メンテ入るっぽい〉

 

「一試合目の降下の時にそう仰ってる人間様もいらっしゃいましたね。おや〈メンテ入るっぽい〉ですか。情報ありがとうございます。僕も運営会社のホームページやSNSを確認してみますね」

 

 配信画面はロビーの待機状態のまま放置して、別のページで検索する。

 

『おー、ジン頼むわ。しっかし、メンテ入んのかー。カジュアルはともかく、クラスマはポイントかかってるからしゃあないか』

 

『メンテ……メンテナンスって入ったら、ゲームってできないよね?』

 

『まぁ、できんわな』

 

『それじゃあこれからどうするの? 一試合目の濃さで忘れがちだけど、まだ一時間ちょっとしか経ってないんだけど。もうおしまい?』

 

『せっかく集まったのにちっと早すぎるよな。んー……なんか探しとくか』

 

〈もう終わりは早いよー!〉

〈公式HPに出てるぞリンク置いとく〉

〈SNSに投稿されてるわ〉

〈不具合のことSNSのトレンド乗ってたぞ〉

〈やっぱ緊急メンテみたいだ〉

〈雑談でもいいからやってほしいなー〉

 

 公式のホームページにも、SNSのアカウントにもメンテナンスについて発表されていた。

 

 自分の目でも確認したし、リスナーさんも同じ内容のコメントをしてくれている。間違いないだろう。

 

「やっぱりメンテナンスに入るみたいですね。教えてくれた人間様、ありがとうございます。助かります」

 

『やっぱメンテかー』

 

『ジンさんもジンさんのところのリスナーさんも、調べてくれてありがとうございます!』

 

〈ほかに三人でもできるゲームってなんかあるのか?〉

〈かまへんで〉

〈いいってことよ〉

〈リスナーの動き早かったな〉

〈いい子やねぇ〉

〈情報の集まり方すごかった〉

〈ロロさんいい子〉

 

「ふふっ、構いませんよ。人間様も〈いいんだよー〉って言ってくれてます」

 

『ありがとーっ』

 

『なぁ、ジン。こんな時間で解散ってのも味気ないよな?』

 

「え? そうですね、人間様も〈まだ観たいよ〉って言ってますし」

 

『ロロもまだ時間あるよな?』

 

『うんっ、ぜんぜんいっぱいあるよ!』

 

『そんならいいゲームがあるんだけど、やらね? 今日のカジュアルで荒んだ心を癒せるようなゆったりしたゲームがあんだよ』

 

「なるほど。ADZですね?」

 

『はっ倒すぞ。あのゲームのどこが癒しなんだよ。リスナーからは〈ストレス耐性テスト〉って言われてたんだぞ』

 

〈ADZですねは草〉

〈なわけねぇだろw〉

〈ADZは心荒ませるほうのゲーム〉

〈ホラーゲームなんよ〉

〈なにがなるほどなんだw〉

 

『あははっ、しかもなんで「ADZですか?」じゃなくて「ADZですね?」なんです? まるで決定事項を確認するみたいにっ、ふふっ』

 

「ADZ以外となると……すぐに思いつかないですね」

 

『お前は「絶望圏」やりたいだけだろ……。自然豊かな島でサバイバル生活を過ごしながら……うん、サバイバルしながらあれやこれやするゲームがあるんだよ。「Practice(プラクティス) of(オブ) evolution(エボリューション)」っつうゲームなんだけど』

 

 

 

 

 

 

「あはっ。……やっぱり先輩だ」

 

 戦闘中でも優しくて気持ちを急かさないゆっくりとした、それでいて簡潔でわかりやすいオーダー。敵の頭に張りつくような正確無比なエイム。壁が透けて見えているみたいな相手のピーク読み。マルチタスクにも程があるキルログ管理。神視点でも観ているかの如きエリアコントロール。マップの構造を把握した上で空間認識に長けていないとできないレベルの高精度な射線管理。

 

 観ていて気持ちのいい、でも指示されて動いたらもっと気持ちがいい先輩のIGL。

 

 これまでは回してるクラス帯が低かったからほとんど観られなかったけど、今回は相手が強かった。だからこそ観ることができた、相手を翻弄する壁ジャンプや空中機動。意表をついてエイムを置き去りにするキャラクターコントロール。先輩ならこのゲームでもできると思っていた。

 

 投げ物で射線を潰し、建物の入り口に火グレを置いて漁夫にこさせないよう閉じ込めた発想の柔軟さとセンス。戦況を頭の中で考えていながら自分も撃ち合って、それでいて味方に指示を出せる情報処理能力の高さ。

 

 でもなによりやっぱり立ち回りと味方へのカバー意識、味方が動きやすいようにフォローするところが、先輩の先輩たる所以(ゆえん)だ。

 

 パーティメンバーの実力を引き出し切って、その上でさらに一段押し上げる。

 

 それこそが、先輩の真骨頂だ。

 

「……先輩。またお話ししたいなぁ……。わたし、強くなったよ……。ねぇ、先輩……」

 

 コラボ相手と仲睦まじくお喋りする先輩は、とても楽しそうだった。

 

 たくさん笑って、たくさんお喋りしている先輩を観れるのは幸せだけど、同時に心が壊れそうなほど締めつけられる。

 

 本当なら、そうやって笑ってお喋りしているのはわたしたちだったのに。

 

 先輩の隣にいるのは、もしかしたら──わたし、だったのに。

 

「でも、まだ遅くない……。取り返せる。たしか今回のコラボ相手は……」

 

 代表にお願いして回してもらっている大会の参加メンバー表を見る。

 

 このメンバー表は対外的には知られていない。開催日に近づいてもメンバーが決まっていなければ、チームに所属するストリーマーや参加できると意思表示している配信者をブッキングするためのデータだ。

 

 まだ参加メンバーが決まっていないところは空欄に、すでに決まっているところは配信者の名前が入力されている。

 

 先輩のコラボ相手にはリーダー権が渡されているが、まだメンバーは一つが空欄になっている。絡みがなかったのに突然行われた先輩との今回のコラボは、もしかしたら大会の出場メンバーを決めるための試金石なのかもしれない。

 

 そうであれば、まだわたしにもチャンスがある。

 

 このチームはメンバーだけではなく、コーチも決まってない。すべてのチームがコーチを依頼するわけじゃないけど、チームの平均的なクラスや、他のチームとの相対的な実力差を(かんが)みてコーチをつけることを考えるかもしれない。

 

「ふふっ、んふ……コーチとして出会って、自然な成り行きで仲良くなれば……」

 

 このチームのメンバー最後の一枠に先輩が収まれば、リーダーの人に連絡して他のチームとのポイント差について言及して、コーチをつけるように勧めよう。今からスケジュールが合う人を探すのも大変だろうとかなんとか言って、わたしがコーチとして名乗り出る。それならわたしがこのチームのコーチになれる。

 

 練習期間は長い。配信中でも配信外であっても、練習と言っておけば一緒に遊んでいてもなんらおかしくはない。

 

 今回の大会のチームでお喋りして仲良くなったってことにすれば、これからは先輩と配信でも遊べるようになる。また関係を戻せる。

 

 もしかしたら、もしかしたら。

 

 またもう一度、先輩に会えるかもしれない。

 

「先輩……待っててね」

 

 先輩からもらったプレゼントを撫でながら、わたしは画面の向こうの先輩に呟いた。

 




ということで貴弾配信でした。
次からは壊斗さん視点になりまして、『Practice of evolution』というゲームをします。よろしくお願いします。
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