サイコバグなお兄ちゃん、Vtuberになる。 作:にいるあらと
『
あんなマッチにはいられるか俺たちは抜けさせてもらう、ということで違うゲームでコラボを継続することとなった。まぁ、メンテナンスで強制的に抜けざるを得ないわけだが。
ロロはFPSに慣れていない。でもジンは得意なFPSのほうがやりやすいだろう。
得意分野が真逆な二人だが、どうにか二人の条件を満たすようなゲームがないかと考えて、一つ思い当たった。少し前に同じ
「『
『ロロは聞いたことはあるくらいかな。なんかグロいとかって聞いたから……』
『僕もやったことありませんね』
『壊斗くん、これどういうゲームなの?』
「ロロは『
『うん。仲良いの集めてやってるけど、そんな感じのゲームなの?』
「おうよ。ほとんど変わんねーよ。リアリティのあるグロいアイクリみたいなもんだ」
『やっぱグロいんじゃんっ!』
『グロテスクなのが苦手な人でもできるものなのでしょうか? 苦手なのにやっていくというのはつらいでしょうし』
『ジンさんっ!』
「大丈夫大丈夫。グロいアイクリっつったろ? 戦闘分野がグロいだけで、建築のほうに回れば大丈夫だって」
『なるほど。それならロロさんには建築を頑張っていただいていいですか?』
『はいっ! まかせて! 得意だよ!』
『ふふっ、僕は建築などのセンスが欠落しているのでとても心強いです』
「このゲーム一応サバイバルだし、色とか材質とかそんなこだわれないぞ? センスなんて出ねーだろうけど……まぁ、グロが苦手なロロが拠点作りやったほうがいいだろうしな。役割分担すりゃいいか」
〈ロロはグロだめそうだもんな〉
〈解釈一致だわ〉
〈悪魔は全然平気そうで草〉
〈悪魔はこっちでも頼りになりそう〉
このゲームは建築やクラフト要素のあるFPSホラーアクションサバイバル、といったところだ。
FPSやアクションが苦手なロロは拠点作りにあたればいいし、FPSが得意なジンはそのエイムを活かして戦闘要員になればいい。俺は進捗状況を見ながらその都度二人の手伝いをすればバランスが取れるだろう。
そう思って、二人には急遽このゲームをダウンロードさせた。
拠点作りには個性が出るし、戦闘ではプレイヤースキルが出るし、サバイバル生活では性格が出る。プレイする側も楽しいし、リスナーも観ていておもしろいと感じるはずだ。
「ダウンロードできたか? ゲーム開いたか?」
『できたよー』
『はい、開きました』
「そんじゃマルチプレイってあるからそれ選んでくれ」
二人に説明しつつ、俺はホスト側で準備を進める。
『わあ……』
『ん? ジンさん、どうしたんです?』
「なんかわからんことでもあったか?」
『いや、この手のソロもマルチもできるゲームで、ソロを一回も触らずにマルチプレイで遊ぶのが初めてで、感動してます』
『ジンさん……』
「いきなり悲しいカミングアウトすんじゃねーよ……」
〈わかる〉
〈つら〉
〈基本ソロ……〉
〈友だち多そうなのになんでソロでやってんだ〉
『みんなでサバイバル生活、楽しみです』
心なしかジンの声が弾んでいる。ソロ云々の話で俺のメンタルにも刺さったが、楽しんでくれたらそれが一番いい。
「たぶんジンは楽しめるだろうよ。あ、そういや難易度とかあんだけど」
『難易度? ノーマルとかがいい! のんびりやろうよ!』
『そうですね。貴弾では忙しかったですし、こちらではのんびりほのぼのサバイバルでも』
「一番難しいのにしといた」
『事後報告?! そういうのは決める前に言ってよ!』
『初めてやるゲームなんですけど……大丈夫でしょうか?』
「大丈夫だろ。ちなみに前やった時は今と同じ人数で、一つ下の難易度でやった」
『ほあ。その時一個下の難易度だと簡単だったから上げたってこと?』
「いや、そん時は拠点ぶっ壊されて壊滅した」
『なんで難易度上げたの!?』
『どうやらほのぼのサバイバルにはなりそうにないですね……』
「いけるいける。俺は一回経験してるしな」
〈草〉
〈三人で至難いける?〉
〈前にやった後輩の子たちとのやつなw〉
〈あれは最後ぐちゃぐちゃになったねw〉
〈無謀で草〉
〈これ歯茎出てます〉
〈慢心してんなー〉
前回の失敗の原因は難易度じゃなくて仲間にあったと思う。もちろん敵は強くて難しかったが、それ以上に口ばっかり動かして手を動かさない仲間を連れて行ったのが間違いだった。
今回は前回とはメンツの安心感が違う。
ロロは戦闘にはほとんど参加できないだろうけど、真面目な性格をしているので後方で兵站と拠点固めをしっかりこなしてくれるだろう。
ジンはアーカイブを観た感じだと一旦悪ふざけのスイッチが入ったら止まらないが、戦闘面においては誰よりも信頼できる。強大な敵がラッシュをかけてこない限りは沈まない。
これならいける。なにも問題ない。
「ほい。招待送ったから入ってくれ」
『うぅ……怖いなぁ……』
『ゲームの難易度として設定されているのですから、クリアできないほど難しくはないでしょう。ロロさん、きっとなんとかなりますよ』
『そ、そうです? そうかなぁ……』
「ロロは基本的に後方で拠点を作って、あとは食糧とか水とかの確保だ。俺とジンで前に出るんだから、ロロのとこは安全だぞ」
『そっか……。それなら安心だ。頼りにしてるね──』
「おうよ。任せろ」
『──ジンさん』
「俺じゃねーのかよ!」
『え、ああ、僕ですか? 僕もロロさんと同じく初心者なんですが、はい。ロロさんのところまで敵が……このゲームって敵がいるんですよね? 敵が行かないようにしっかりと仕留めますね』
「おいロロおい! 俺経験者なんだが?!」
『でも……頼りになる感はジンさんのほうがあるし……』
「おまっ…………それはそう」
〈草〉
〈それはそうw〉
〈落ち着きがね〉
〈頼れる男感の差が開きすぎてんだわ〉
〈どっちか選ぶならジンだもんなw〉
『おそらくその感覚は気のせいなんですけどね。あ、始まりましたよ』
用意したロビーに全員が集まったので開始を押す。しばらくロードがあり、ゲームが始まった。
ゲームの冒頭はストーリームービーから始まる。これはスキップもできるけど、初めてプレイする二人がいることだし、せっかくなのでもう一度観ておくことにした。
プレイヤーは捜査官だ。怪しい噂が流れている研究所があるので、その研究所がある島へと向かってくれと上司から命令される、という回想シーンが終わって、船の上。端末に送られてきていた指令が書かれているメッセージに目を通していた途中のこと。乗っている船がぐらりと大きく揺れた。
船の上を見回すと、似たような制服を着た人たちが何人もいて、彼らは揺れる船の上から振り落とされないよう手すりに掴まっていた。
『みなさんで離島に旅行でしょうか。こんなにたくさんいたら賑やかで楽しそうですね』
『明らかに事件の導入ですけどね?!』
「どう見ても旅行の空気じゃねーよ」
ジンは本当に同じムービーを観てるのか疑わしい。
プレイヤー視点の捜査官も手すりを掴んで耐えていたが、船の揺れはいっそう激しくなる。大きな音とともに船体は傾き、捜査官たちは海に放り出された。
『嵐だったってわけでもないのに、なんであんなに船揺れてたのかな? 故障?』
『船に異常が生じる前に爆発音などはありませんでした。ただ、平べったい物体で水面を叩くような音が聴こえたので、もしかしたら大型の
『ほあー、なるほど』
『この規模の船がそう簡単に接触するとも、そう簡単に転覆するとも思えませんが、ゲームのストーリーです。そういうものなのかもしれません』
「ほーん」
これでこのムービーを観るのは二回目なのに音にはまったく気づかなかった。なんでこんなでかい船がひっくり返るんだとは思ったが。
〈なんだこの悪魔耳よすぎだろ〉
〈ここでフラグはあったわけか〉
〈耳いいな〉
コメント欄を見ると、意味深なコメントがちらほらあった。ストーリーに関わってくるのかもしれない。
俺は一度プレイしたことがあるとはいえ、途中でゲームオーバーになっているのでストーリーをすべて把握しているわけではないのだ。いずれ解き明かされるのだろうか。
ムービーでは、捜査官が海に放り出されて波に揉まれているところでブラックアウト。目を覚ますと、目的地の島に漂着していた、というところでストーリームービーは終了する。
ここからはプレイヤーが操作できるようになる。
『わっ、島! 島にきてるよ!』
ロロが元気に騒いでいる。
無人島、ではないか。離島の海岸線でゴミのように打ち上げられていたプレイヤーは起き上がった。
近くにロロとジンの姿も見える。早めに集まっておきたい。前回は後輩の一人が勝手に歩き回ったせいで合流するだけで手間取ったのだ。あんなタイムロスはしたくない。
「ロロ。こっちだ。説明するから集まってくれ」
『島に流れついたみたいですね。船上にも同じ制服を着た人たちがいたのに、生きて流れ着いたのは僕たち三人だけのようです』
海岸線に視線を振って、ジンが含みのあることを言う。実際言葉通りだ。
「ソロでやると一人で流れ着くぞ。三人助かっただけ多いほうだな」
『なるほど。あの大きさで、あの船が客船だったとすると……乗員乗客合わせて百五十人前後くらいでしょうか。あの状況で二パーセントも助かったと考えると幸運な部類ですね』
「残りの九十八パーセントを目の前にして、やったー助かったぜラッキー! とは言えんわ」
俺の近くの波打ち際にその九十八パーセントのうちの一人が流れ着いている。諸手を上げて喜ぶのは人としてどうだろう。
『ねぇねぇ! なにしたらいいの?!』
「はいはいはい。まずは持ってるアイテムの確認を……」
『わあっ、大変です! 見てください!』
「なんだっ、どうした?!」
開いていたインベントリを急いで閉じて、ジンが操作するキャラクターに視点を合わせる。ジンは海の方向を見ていた。
『海がとっても綺麗ですよ!』
『わー! ほんとですっ!』
「遊びにきたんじゃねーんだよ!」
〈草〉
〈旅行気分やw〉
〈エモい〉
〈三人並んで海岸線はエモい〉
〈青春やなぁw〉
沈んでいく船でも見えるのか、それとも違う生物でも見えたのかと思ったら、ジンがのんきなことを言い出した。
さっきもムービー鑑賞中に『旅行でしょうか』みたいなことを言っていた。こいつもしかしたらサバイバルを離島旅行かなにかと勘違いしているかもしれない。
「大変ですじゃねーよ! 島に流れ着いたことのほうが大変だろーがよ! 『うわぁ、大変だ……これからどうしたら……』ってなるとこだろが!」
『壊斗くんっ、小芝居っ……くふふっ。「うわぁっ……」あははっ』
「お前もうるせーなぁ!」
〈小芝居草〉
〈ロロかわいいなw〉
〈うわぁw〉
〈草〉
〈草〉
『これから……あっ。もしかして枕が変わると眠れないタイプですか?』
「枕より先に考えることあるだろうがぁっ!」
『あははっ、枕っ、はははっ、きゅぃっ……くふっ、あははっ』
「なんだよ『きゅぃっ』って……イルカかお前は」
『ははっ、ふふっ……。ロロさん、もしかして、流されている時にイルカ飲んじゃいましたか?』
「海水飲んだ? みたいな言い方すんじゃねーよ」
『あはははっ! ふふぃっ、きゅふふっ……いるかっ、のんでないっ』
「わかっとるわ。言わんでも」
〈ジンラースwww〉
〈貴弾の時の頼り甲斐どこいったw〉
〈トロールスイッチ入っとるw〉
〈草〉
〈草〉
〈イルカw〉
〈喉にイルカ住んでる〉
〈この悪魔w〉
〈ふざけ倒しとるw〉
〈進まんw〉
ロロのキャラクターがぷるぷると小刻みに動いているし、なぜか空を見ている。たぶん笑って操作すらおぼつかないんだろうな。息も絶え絶えだし。スポーン地点から動いてないのにロロが激ローだ。ダウンしそうになっている。なにも進んでないのに。
『大変です壊斗さん! 見てください!』
「お前の『大変です』は信用ならねーのよ……」
ずっとぷるぷるしているロロからジンに視線を動かす。今度は海と反対側を見ていた。
浜辺から数十メートル離れると、そこからは鬱蒼と繁った森が広がっている。
その手前に、人影があった。
「ってキメラントきてるじゃねーか!? マジでたいへ……」
『とても深い森です! 奥には山もありますよ! 自然が豊かですね! 綺麗な海に深い森、高い山! 楽しそうな場所が多くて大変です!』
「節穴かお前は! 森の前に! 文字通りに森の前にっ! 大変なもんが見えてるだろうが! あれ敵だから! キメラミュータント! あいつらは襲ってくるんだよ!」
『あはははっ、ははふふっ、きゅひぃっ……ひっ』
「お前はいつまで笑ってんだロロぉっ!」
〈のんきすぎるw〉
〈キャンプにきたんかw〉
〈おるおる!〉
〈キメラントきてるやんけ!〉
〈草〉
〈敵より観光で草〉
〈楽しみ尽くす気やんw〉
〈ロロw〉
〈ロロずっとわろとる〉
〈引率大変だなこれw〉
深く暗い、広大な森の手前に見える人影。あれはプレイヤーを見るや襲いかかってくる敵、キメラミュータント。長いので略されてキメラントだ。
プレイヤーを発見すれば襲いかかってくるのはキメラントにおいて共通事項だが、奴らにも種類はある。森の前に見えているシルエットが人影なのでキメラントの中ではもっとも倒しやすいヒト型だ。
ヒト型は個体によって足が多かったり腕が多かったり、どこかしら人間よりもパーツが多くなっている。今視界に入っている奴は腕が二本、足が一本多い。キメラントの中でもヒト型は一番倒しやすいが、増えている部位によって危険性も上昇していく。操作に慣れていない段階ではたとえ一体だとしても油断はできない。
ということを、どこまでも旅行気分のジンに殴りかかるように説明した。ロロにも向けているが、おそらく聞こえてはいないだろう。ロロはどうせ戦わないし、聞いてなくてもいい。
『わあ……大きな声。……何をそんなに怒ってらっしゃるのでしょう。お腹が空いて苛立ってしまっているのでしょうか』
「ふぅっ、ふぅっ……そうだな。でかい声出してすまんかった。あー、でもそうだな。まだ腹は減ってないけど、食料と水の確保は急がねーと……」
〈大きな声びっくりするよねw〉
〈かわいいw〉
〈怖いよね〉
〈やめたげてよ!〉
〈苛立ちの原因がそれ言うんかいw〉
『ちょうどいいところに肉がいますよ? 食べますか?』
「キメラント!? しかもヒト型だぞ!? ヒト型を指さして肉って言うなよ! あれを食うか考えるのはもっと食い物探した後だろ?!」
〈水と食いもんありゃまずなんとかなる〉
〈肉www〉
〈草〉
〈草〉
〈悪魔で草〉
ジンはまるで『バッグにチョコレートが入ってたけど、食べる?』と
早すぎる。この島に順応するのがあまりにも早すぎる。なんだこいつ。人じゃないな、さては。
まずは生き物を殺さなくても空腹を凌げるようなものを探して、それだけじゃ足りないから動物を狩って、動物が見当たらないけど今にも空腹で倒れそうでどうしようもない、というくらいの窮地に陥ってようやくあのヒト型に目を向けろよ。生き抜く努力を尽くしてどうにもならなくなった時の最後の砦だろ。少なくともスタート地点の海岸線で吐くセリフじゃない。
『ジンさっ……っ、きゅひゅっ……』
『ロロさん? 大丈夫ですか? 先程から呼吸が荒いですが』
「お前が言うなよ。原因の八割お前だろ」
笑い続けていて気息奄々といったロロが、呼吸困難になりながらもなにかを伝えようとしていた。
『じ、ジンさ……うみにもおどろいて、もりや、やまにもおどろいたのにっ……ひぇふっ、あのてきには、ぜんぜんっ……あははっ、ひぁっ!』
〈ロロしゃべれてないw〉
〈どうすんだよこれw〉
〈もうめちゃくちゃだよw〉
〈くさ〉
〈草〉
〈景色驚いて敵驚かんの草〉
〈観光客だよもうw〉
「お前そうじゃねーか! 海と森に『大変! すごーい!』とか言ってる場合じゃねーだろ!? まずキメラントの姿に一番驚けよ! 腕も足も多いじゃねーか!」
『もしかしてさっきの「大変! すごーい!」というのは僕の真似……ですか?』
「ばっ……そ、そこは拾わんでいいんだよばかがぁっ!」
『い、いや……えっと。あはは……と、とても似てるなあって……』
〈似とらん〉
〈似てねぇw〉
〈絶望的に似てない〉
〈笑い声乾きすぎだろw〉
〈苦笑いw〉
「気ぃ遣ってんじゃねーよ!! 気ぃ遣うんならっ! ボケずに一回ちゃんと話を聞けよぉっ!」
『あはははっ! くふっ、はははっ!』
『かはっ、はぁひっ、はひゅっ! きゅぃーっ!』
「イルカ吐けぇぇっ!」
〈草〉
〈草〉
〈勢いwww〉
〈くっそw〉
〈進まんw〉
〈イルカw〉
〈こんなんむりやんw〉
ばんばんばんっ、とテーブルを叩く音が聴こえる。しゃくり上げるような呼吸がイルカの鳴き声と一緒に聴こえているから、たぶんロロだ。テーブルを叩くくらい笑い転げているのか。
なに笑ってんだ。こっちはずっと説明しようとしてんだぞ。
『はっ、ふふっ……うん、はい。そうですねっ、多いですっ……腕も、足もっ、あははっ!』
「半笑いで言ってんじゃねーよ」
『可食部位が多そうで何よりです』
「あくまーっ! 急にっ、急に冷徹にっ! あくまーっ!」
『はい、当方悪魔です』
『っ、っ……ぃっ、きひゅっ』
人間の口と倫理観から出てくるとは思えない発言に思わず叫んだ。
怖いよ、こいつと話するの。ロロは相変わらず笑ってて使い物にならないし。
「おまっ、人の心がないのかお前はぁっ! まだサバイバル始まってもねーのに順応早すぎんだよ!」
『人の心、ですか。しかし旅のしおりの持ってくる物のところにはそんなこと一言も……』
そう言いながらジンはインベントリを開いた。ジンのキャラクターの両手の上にはツールキットが広がって、まるで旅のしおりを確認するみたいに見える。
もうやめてくれ、ここからの物ボケは追いつかんって。
「おっまははっ! インベントリ開いてんじゃねーよ! だはははっ! かっはっ……ひぐっ! それっ、旅のしおりじゃねーっへっはっははっ! 作ってねーよ! 旅のしおりなんかぁっ!」
『もっ、やめっ……っ、ジンさっ……っ。しぬっ、ロロしんじゃぬっ……』
『死んじゃぬ?』
『きひゅっ──』
テーブルを叩く音がどんどん弱々しくなってきている気がする。このままだと本当にロロが死んじゃ
「ロローっ!? ジンお前っ、だはははっ! ロロ殺す気かよぉっ?! 人の心はないのかぁっ!」
〈だw〉
〈kすあ〉
〈この悪魔やべーってw〉
〈ロロやばいw〉
〈しんじゃぬw〉
〈ぬってなんやねんw〉
〈ろろー!〉
〈だめだ壊斗w〉
〈もう進まんw〉
『そうは仰られても……僕今持ち合わせがないんですよね』
「現金下ろし忘れたみたいに言うんじゃねーよ! みんな最初から持ってんだよ!」
『現地調達でも大丈夫ですか? ちょうどいいところに人の形をした生き物がいますし。あれの心臓で代用って
「あくまーっ! このっ、このっ……あくまーっはははっ! だーはははっ!」
『あははっ、ふふっ……くふふっ。はい。ごめんなさい。冗談ですよー。本気で言ってませんからねー。冗談ですよー。大丈夫ですよー』
悪魔ロールプレイがハマりすぎている。本気でこいつ悪魔なんじゃないかと思い込むリスナーも現れそうだ。
誤解させないようにか、ジンは冗談ということを強調して触れ回っている。本当に触れ回っている。言いながら俺のキャラクターの周りをぐるぐる歩き回っている。
もうだめだ。俺一人じゃ手が回らん。
こいつと雑談コラボしたロロの苦労がようやく俺にもわかった。身に沁みて理解できた。エンジンがかかったこいつは一人では止められん。
『あ』
「くっふ……だははっ! ふぐぅっ……てっ……腹いてぇっ……」
ジンが小さく呟いていたが、もう俺には確認することもできない。俯きながら、笑いすぎて痛む脇腹を押さえてテーブルをばんばんと叩くことしかできない。ロロもこんな気持ちだったんだな。
『これ、を……こうして、こう』
「ふっ、ふぅっ……くっ、ふぅ……」
一人でジンがなにかやってる音を聴きながら、俺は呼吸を落ち着けて目を擦る。泣くほど笑うとか何年振りだかわからない。
ところでさっきからロロの声を聴けてないのだが、あいつ本当に大丈夫なのか。
「あーっ、くそっ。ばかほど笑った。汗かくくらい笑ったわ」
『あ、壊斗さん動いた。おかえりなさい』
マウスに手があたっていたのか、俺の視点はあらぬ方向を向いていた。
ジンを探して視点を振る。俺がダウンしている間に移動していたらしく、ジンは森の方角から歩いてきていた──
「おー……もう笑い疲れたわ。んでお前はなにだはぁっははっ!」
──ヒト型のキメラントを肩に担いで。
『やっときました』
「なんでキメラントっ……倒してんっ……かっ、ははっ! どうやったんだよお前ぇっ!」
〈こいつw〉
〈草〉
〈自由すぎるw〉
〈ツッコミも追いつかんww〉
〈どうやったんだよw〉
〈武器拾ってないだろw〉
〈やっぱバケモンやw〉
〈ロロしんだ?w〉
砂浜で打ち上げられた直後ではプレイヤーは簡単なツールキットと、あとは防水加工されているらしい端末しか持たされていない。
最低限の武器やら工具やらは船からプレイヤーたちと同じように漂着したボックスの中に入っている。俺たちはまだそれを漁っていないので武器もなにもないはずだ。
『転がっている手頃なサイズの石ころがあったのでそれを投げました。やはり
「お前悪魔だろうが」
『僕が操作しているキャラクターは人類ですからね』
「やってることは悪魔だよ。まぁせっかく確保してきてくれたんだし、持ってくか。……ロロー? 大丈夫かー? 生きてるかー?」
『ロロさーん? 応答がありませんね……イルカを吐きに行っているんでしょうか?』
『もとから飲んでないよ』
「おお、生きてた。よかった」
『おかえりなさい、ロロさん。途中からお声が聴こえなかったんですけど、どうされたんですか?』
『これ以上は命に関わると思ってヘッドセット外してた』
「だははははっ! 外してたぁ?!」
『ふふっ、まさかそこまでしてたなんてっ……申し訳ないですっ。くふふっ』
『うん。配信者としてさすがにそれはどうなんだろうって葛藤はあったけど、さすがに命は惜しかったから』
「ああ、ああ……っ、そうだなっ、だはははっ! ロロ、お前の判断は大正解だ。あのまま聴いてたらっ、たぶんっ、帰ってこれなかっだはははぁっ!」
『よかったよ。また二人に会えて。ただいま』
『あははっ、ふふっ。ロロさん、おかえりなさい』
「あー……。なぁ、どうすんだよ。なんも進んでねーのに日が暮れ始めたぞ」
ジンはキメラントを実に原始的な方法で討伐していたからまだ動いているが、俺とロロに関しては本気の本気でスポーン地点から動いていない。向きが変わっただけで、もしかしたら一歩も動いていないかもしれない。
驚異的な進捗具合だ。後輩二人とやった時でさえ、太陽が真上にある状態で合流して作業ができた。あれより酷いことがあるだなんて思わなかった。
〈腹いてぇw〉
〈めっちゃ笑ったわ〉
〈ありがとう壊斗w〉
〈悪魔の真価を垣間見た〉
〈コメント打てんかった〉
〈草〉
〈マジで暮れてるw〉
〈浜から動いてねぇw〉
『まずいですまずいです。まず拠点作りでしょうか? 木を切り出すところからですか? 石……では難しいですよね』
「その石ころでやるつもりか? 石器時代でももう少しマシだろうよ。派手な色した箱が漂着してるはずだからまずそれ探すぞ。そん中にいろいろ道具が入ってんだ」
『あ。向こうにあるよ。ジンさん、こっち』
『夕暮れに溶けるような色味ですね、この箱。ロロさん、ありがとうございます』
『ううん。いいよ』
こいつ、本当にロロだろうか。
一度笑い死にしかけて離席して戻ってからというもの、声のトーンが違う。ジンに対しての距離感も変わっている。
「……なんか、ロロ……調子おかしくね? 落ち着きすぎてるっていうか……」
もしかして、俺たちの知っているロロはさっき笑い死にして、声がそっくりな別人が入れ替わっているのでは。
『そういえばそうですね。僕への敬語も取り払ってくれていますし。どうかされたんですか?』
『…………まぁ、悟り開いたような感じだよ』
「悟り開いたってなんだ? 臨死体験で悟り開いたのか?」
『……配信中にさ。男性二人相手にさ。しかも推しもいるのにさ。こんなこと言うのどうかと思うんだけどさ』
『は、はあ……ひとまず、お話お聞きします』
「なんだよ。もったいぶりやがって」
〈テンション振り切れたのか〉
〈妙に落ち着いてる〉
〈悟りw〉
〈ジンにも敬語使ってないわ〉
〈もとから敬語か怪しかったけどな〉
一つ、ロロは長めに呼吸を挟んだ。
『さっき笑いすぎておしっこ漏らしちゃったんだよね』
「だああぁぁっっははっはっ! ははぁっはひっ、だはっははは!」
ここまで引っ張った時間に見合った強烈な
笑い疲れて今日はこれ以上は笑えないと思っていたのに、簡単に限界点をぶち壊してくる。
『おお……それは、ええと……なんというか、僕も悪ふざけが過ぎましたと言いますか……』
〈草〉
〈草〉
〈草〉
〈なんしとんねんw〉
〈草〉
〈もらしてwさwとwりw〉
『ジンさんは悪くないよ。おしっこ我慢企画とかやってたロロがまさか企画とはまったく関係ない配信で漏らすなんて思わなくて、今精神状態がフラットになってるだけ』
「だぁはぁっははっ! ひぃっ、ひぃっ、死ぬっ……っ。そんでっ、さっきヘッドセット外したって言ってた時に、ぶふはっ……着替えたのかっ?」
〈笑いすぎやろこいつw〉
〈ジンは反省してるってのに壊斗は〉
〈悪魔のほうが人の心があった〉
〈人の心はあってもデリカシーがないw〉
『下ぜんぶ脱いでタオル巻いてるだけ。ノーパンだよ。今のロロはノーパン配信者だよ』
「だぁっははっひ! ははははっ! はっーーっははっ!」
『あの……とりあえずロロさん。ゲームのほうは仕切り直しましょう。それで、ロロさんは一旦席を外して、お着替えしましょう。僕たち待ってますから。ゲームも、他のことも、一旦全部仕切り直しましょう』
「ああ! そうだはぁっ! ひぃひっ……はぁっ……んっ! ジンの言う通りだ! ロロ! 俺たち待っとくから! 雑談でもして繋いどくから! ぱぱっとシャワー浴びるなりして着替えてこい!」
『いい? リスナーからも〈行ってこい〉ってめちゃくちゃ言われてるんだよね』
『どうぞ行ってきてください。こちらは全然大丈夫ですから』
『ごめんね。ちょっと離席するね』
こうして、俺たちのサバイバル生活は一日目のスタート地点で
こんなんクリア無理や。