サイコバグなお兄ちゃん、Vtuberになる。 作:にいるあらと
「さて! それでは『practice of evolution』を始めていきたいと思いまーっす!」
『はい。頑張っていきましょう』
『う、うんっ! がんばってこーっ!』
「二回目のサバイバル生活一日目でーっす!」
『くふふっ』
『ごめんってばぁっ! ロロだって悪気はなかったんだもんっ! 許してよぉっ!』
「だーっははははっ!」
ロロが離席して、俺とジンでだらだらと雑談して十数分。もっと時間がかかるかと思われたが、ロロは案外すぐに戻ってきた。
戻ってきたロロはテンションも戻っていた。開いたとか
『いえ、ロロさんは悪くありません。僕が悪ふざけしすぎたのが悪いんです。それで時間の大部分が浪費されましたし、ロロさんが笑い苦しんでいた原因の八割は僕にあると壊斗さんも言っていました。僕が悪いんです』
『違うよっ! ジンさん悪くないよ! ロロがちゃんと締めてなかったのが悪いの!』
『いえ、僕の責任です。それはそれとして、締めてなかったという言い方はやめていただいて』
「そうだぞ。漏らしたのはロロ自身の責任だぞ。ロロが悪いんだ」
『壊斗くんはなんでそうなの?! っていうか漏らしたって改めて言わないでくんないかなっ?!』
「お前だって締める云々言ってるだろうが」
『もうやめましょうよ、壊斗さん。触れずに流しましょうよ』
「おしっこはトイレに流せなかったのにか?」
『くふっ、ふふっ』
『やめてよぉっ! なんでロロは推しと一緒にゲームしてる時に漏らしたとか言っちゃったんだぁぁっ?! うわああぁぁっ!?』
『壊斗さん、壊斗さん。これ以上はロロさんの心が壊れてしまいそうです……やめてあげましょうよ』
「仕方ない。ジンに免じて許しておいてやるか」
『ジンざん゛ぅぅ……』
『はい、はい。大丈夫です、大丈夫ですよ、ロロさん。誰にでもミスはあるものですからね。程度の大小はあれど、誰にだってミスはあるんです。気にしちゃだめですよ。切り替えていきましょう』
「そ、そうだよね? そうだよねっ!」
「……大のほう漏らしたらミスではすまないような……」
『う゛わ゛あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛っ! ジン゛ざん゛ぅ゛ぅ゛っ゛!』
『壊斗さんっ! やめてあげてって言ったのに!』
「いや違っ……さっきのはお前の振りが悪いだろ!?」
『振ってませんよ!』
〈草〉
〈草〉
〈こいつ最低だw〉
〈クズで草〉
〈最低でくさ〉
〈さすがのノンデリw〉
〈悪魔より人間のほうが悪魔じゃねぇかw〉
〈ロロ……〉
〈すまんロロおもろいわw〉
〈悪魔を見習えよ人間〉
〈すまんやで悪魔〉
一応俺だって、さすがにロロ可哀想だしな、とは思ったよ。でも、ジンが振ってくるから。
さっきのは確実にジンのアシストだった。ロロをフォローするふりしてパスを俺に出してきていた。ゴール前でパスを受け取ったら、そんなもんシュートするしかないじゃないか。
ジンが振ってきたのになぜか俺が怒られて、なぜかリスナーからもこき下ろされている。
一番不可解なことになぜかジンの評価が上がっている。納得いかない。ロロが漏らした原因の八割はジンだぞ。
貴弾でもコミュニケーションでも立ち回りが上手いな、などと不公平な世の中を嘆きながら、やっとゲームを始めていく。
ムービーは前回観たのでスキップ。
「はい、帰ってきました俺たちの海岸線」
『ほんとにロロたち動いてなかったんだね』
「そうだぞ。動いてたのはジンだけだ。あいつキメラント倒してたしな」
〈とてもよく見た気がする海岸線〉
〈海綺麗だなw〉
〈深い森だなーw〉
〈今回は肉きてないなw〉
〈悪魔に洗脳されてるリスナーもいます〉
『えーっ!? ジンさんすごい! どうやったの? 武器持ってないよね?!』
「もうその話やったんだわ」
『うるさい! ロロは知らないの!』
『ほら、ロロさん。このあたり石ころ落ちてるじゃないですか? これを拾って、アイテム欄を開いて石ころのアイコンをキャラクターの手のところにドラッグすると装備扱いになって投げれるようになるんです。六個ほど頭にぶつけると倒せました』
〈ここらの石って装備できたのか〉
〈とりあえずやってみるの精神すげー〉
〈これが差だぞ壊斗〉
〈そういうとこだぞ壊斗〉
『おー! すごーっ! やっぱジンさんしか勝たん! こういうとこなんだよ壊斗くん!』
「そういえばお前椅子とかどうしたんだ? 濡れてないの?」
『そういうとこだっつってんだ壊斗ぉぉっ!』
〈見習えよ〉
〈カスで草〉
〈なんで掘り返したw〉
〈なぜ今それをw〉
「いやごめん。急に気になって」
『気になったこと、どうにかして呑み込めなかったんですか……』
「悪い。呑み込めんかったわ」
『こいつっ……いいけどさっ! 当然だめだったから部屋の隅に寄せてる。今は前使ってた椅子つかってる』
『以前使っていた物は処分していなかったんですね』
『うん。めんどいからまた今度でいいやーって思って、使ってない部屋に置いてたの。まさかまた使う日がくるなんて思わなかったけど』
『いやもう本当に申し訳ないです。配信終わった後、ほしいゲーミングチェアの商品名教えてください。以前言っていたアロマキャンドルと一緒にお送りしますので』
『いやいやっ! いいってば! 気にしないで! アロマキャンドルはしっかり送ってもらいますけどっ!』
「おん? アロマキャンドルってあれか? ロロとの雑談コラボの時に言ってたやつか?」
『そうですよ。材料揃えたんで、近々作ろうと思ってます』
「ジン、俺のも作ってくれよ。俺もほしい」
『なんでよ。壊斗くんはいらないでしょ。アロマキャンドルとか使うような繊細な性格してないじゃん』
「お前に俺のなにがわかるってんだ!」
『あははっ、いいですよ。材料には余裕がありますからね』
『ジンさん優しすぎるよ! こんなのに作らなくていいよ!』
「ほらロロ、こういうとこだぞ。もっと人に優しくなれよ?」
『ぜったい壊斗くんにはそんなこと言う資格ないからぁっ!』
〈悪魔とは思えんほど優しい〉
〈それに比べてこの男は……〉
〈やっぱジンさんかっけーっす〉
〈こんなのw〉
〈アロマキャンドル?〉
〈ジンロロコラボで言ってたやつ〉
〈女子力たっかw〉
〈お前いらんやろw〉
〈こいつら喧嘩しかせんw〉
一回目では足を縫い止められていた海岸線から俺たちは移動し、派手な色の箱まで走る。一回目の時はたったこれだけの道すら踏破できなかったと思うと、二回目の進捗っぷりに感動を覚える。
「んで、この箱を漁れば最低限必要なものはそろう」
『箱の中身ってみんなと共有なの?』
「これに関しては入ってる物資はぜんぶ拾っていい。みんな同じ箱漁ってるけどこれだけは一人一人別になってんだよ」
『よかったー。これ三人で分けるって大変だもんね』
『不思議な箱ですね。あ、食料と水も入ってます。この非常食がなくなる前にサバイバル生活を安定させろ、ということでしょうか』
「そういうこったな。……難易度が高いからか、食い物と飲み物の数が少ないな」
『たくさん準備されてるーって思ってたのに、なんかそれ言われたら急に不満感が湧いてきたよ』
「ばっかお前、これからサバイバル生活すんだぞ。甘えたこと言ってんじゃねー」
『勝手に難易度決めた人の言うセリフじゃないっ! ていうか、一回仕切り直したんだからその時に難易度も変えられたんじゃないの?!』
『はいはいはい、喧嘩はやめましょうねー。これからともに生きていく仲間なんですからねー』
『うぅー……』
〈草〉
〈一回目と大差なくて草〉
〈壊斗さぁ……〉
〈後輩に気を遣わせんなよ……〉
『あーロロさん偉いですねー。我慢できて偉いですよー』
『うんっ……我慢するっ』
「おしっこは我慢できなかったのにな」
『う゛わ゛あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛っ! ジン゛ざん゛ぅ゛ぅ゛っ゛』
『壊斗さんっ!』
「いや、だって……お前が振ってくるから……」
『だから振ってませんよ!』
〈草〉
〈天丼はマナー〉
〈クズすぎるw〉
〈性格終わってんのかよw〉
〈なんも成長しとらんw〉
〈天丼で草〉
〈お前はほんとにもう……〉
〈どうしようもねぇなこいつw〉
今回も確実にジンがトスを上げていた。コート際でそんなに綺麗に高くボールを上げられたら、俺としてはスパイクを打つしかないだろうさ。
絶対にジンが振ってきていたのに、なぜかまた俺が怒られている。おかしい。こんな理不尽あっていいのか。
『うぐっ……えぐっ……うぅっ』
『ロロさん、ロロさん。大丈夫です、大丈夫ですよ。僕もわかってますし、リスナーさんもみんなわかってますから、大丈夫です。本を正せば僕が悪いんですからロロさんは気にしなくていいんです。気を取り直しましょう。拠点、どこに作りたいですか? ロロさんの好きなところに作りましょうよ』
「あ、拠点作るんならキメラントに攻められにくくて資材の回収しやすいとこが……」
『ロロさんの好きなところに作りましょう』
「おいジン。拠点作りは大事なんだぞ」
『味方の精神状態安定のほうが大事です』
「…………それはそう」
『だそうです。ロロさん、どこがいいですか?』
『うん……えっとね』
〈ロロ……〉
〈ロロかわいそう〉
〈ロロいじめんなよ〉
〈悪魔のメンタルケア手厚いな〉
〈ジンの優しさしみるわ〉
〈こんなの好きになる〉
〈見習えよ〉
〈【悲報】唯一の経験者ハブにされる〉
〈それはそうw〉
〈それはそう草〉
『あ、ロロさんロロさん。あの崖の端とかどうです? 見晴らしいいですよ。オーシャンビューです。あそこにお家建てたらきっと気持ちがいいですよ』
『おーしゃんびゅー! あそこがいい!』
『ふふっ、そうですね。あそこに拠点を築きましょう』
「……おー」
感嘆のため息がもれた。
こいつ、人の扱いがばかほどうまい。
ジンがロロに勧めた場所は、ジンが言っていた通り崖になっていて、キメラントが攻めてくる方向を限定できる。それはつまり、拠点防衛用の柵とか罠の設置箇所の節減に繋がるわけだ。一方向に重点的に資源を回せる分、防備を固められるしトラップも充実させられる。松明とかを設置しておけば夜間に見張っておく場所も少なくて済む。
防衛に適した立地であることに加え、海が近いのも飲食料確保に好都合だ。波打ち際で魚を取ってくることもできるし、雨水を溜めるためのアイテムをドロップする生き物もいる。海岸線には漂着物としてクラフト用のアイテムも湧きやすい。
メインとなる拠点を構えるのに好ましい地形だ。
その都合のいい場所へと、まるでロロが自分で望んだように誘導した。これが悪魔の技か。
〈オーシャンビューw〉
〈別荘建てるんじゃないんだから〉
〈いいとこ見つけたな〉
〈誘導うめー〉
〈口がうまいんだ〉
〈ロロかわいいw〉
〈サバイバルなんだがw〉
〈旅行気分で草〉
〈一瞬悪魔いた〉
『それでは拠点は崖の上に築くとして、資材集めですね。壊斗さん。資材はどうやって集めればいいんですか?』
「んっ、おう。さっき箱から斧拾っただろ? それで木をしばけばいい」
『なるほど。人手が必要になりそうですし、ロロさんも一緒に行きましょうか』
『うんっ。かわいいお家建てたいです!』
「いずれ、な? 物資が整ってからにしてくれ? 最初は生活基盤を整えるためにいろんなことに資材使うから大変なんだよ」
『ぷぇー……しかたないなぁ……』
『斧……これで敵、キメラントでしたか? こういう武器でキメラントと戦うんですね』
「そう。本来はな。武器も早めに整えたいところだな。斧はダメージはそこそこなんだが、連続して振れねーんだよ。ダメージだけ狙うんなら棍棒使ったほうがいいし、安全にキメラント倒すんなら槍使ったほうがいい」
『なるほど。回復手段に乏しい今は槍のほうが良さそうですね。遠距離武器ってないんですか?』
「弓矢があるぞ。ただ、矢が消耗品だからな。なるべく早く作りてーけど、まずは槍だけ作っとこうぜ。最低限必要な武器だけ作って先に飲みもんと食いもん、とくに飲みもんの確保を優先しとかねーとマジで簡単に死ぬ」
『そのために、木を
『こり?』
『木を切りに行きますよーってことです』
『ほえぇ……』
三人全員斧を握り締め、建設予定地から一番近いところの木を切り倒していく。
「木を切り倒す時気をつけろよ? 倒れた方向に建築したものがあったらぶっ壊れるし、プレイヤーがいたらダメージ入るんだよ。だから人がいない方向に切り──」
『あっ……』
こつんこつんと使い勝手の悪い斧で木の幹を叩きながら説明していると、ロロの情けない小さな声が聴こえた。
なんだ、と思ってロロのいる方向に視線を向ければ、視界いっぱいに木。
倒れてきた大木が、くちゃっ、と俺のキャラクターを踏み潰した。
「ロロぉぉっ!」
『ごめんなさぁぁいっ! でも、どこに倒れるかなんてわかんないしっ……』
『ほう、なるほど。こんなふうに事故になる、と。そして倒れた仲間に近づけばダウンを回復させるためのボタンが表示されるんですね。安全な時に知れてよかったです』
〈さっそく事故発生〉
〈言ってるそばからw〉
〈これ事故か事件かわかんねぇなw〉
〈ロロw〉
〈やらかすと思ってた〉
〈怨恨からの犯行かw〉
ジンは倒れた俺にすぐに駆け寄り、ダウン状態を回復してくれる。仕事が早い。
ちなみに加害者のロロは犯行現場でおろおろしているだけだった。助けろよ。
『そ、そうだよね? ダウンの回復の仕方をここで知るためにやった、みたいなところもあるにはあるよ』
「ねーよ。人の命を対価にするほどのでかい情報じゃねーよ」
『壊斗くんが教えるの遅いのが悪いよ! 切り終わった時に言われたってどうすることもできないじゃん!』
「俺のせいにすんのはどう考えてもおかしいだろ! まず謝れよ!」
『最初に謝ったじゃん! ごめんなさいって!』
『はいはいはい。喧嘩やめましょうねー。せめて拠点を作ってからにしましょうねー。まだ木を切ってしかないですからねー』
「だってジン! こいつが人のせいにしてくるんだぜ?!」
『ジンさんっ! ロロ悪くないよ! 教えてもらってないことで怒られたってロロもどうしようもないもん!』
『そうですね。誰も悪くないですからね。ロロさんは頑張って伐採していただけですし、壊斗さんはまさに説明していたところだったわけですから。誰も悪くないんです。ちょっと運が悪かっただけですね。さ! ある程度伐採できましたし拠点作りに行きましょう! 使いやすい武器とかも作れるといいですね!』
『うんっ! 拠点作りに行こ!』
「そうだな! 材料あったっけか?」
〈すーぐ喧嘩〉
〈仲良しかw〉
〈だいたい皺寄せはジン〉
〈悪魔の仕事多いなぁw〉
ジンに
三人そろって伐採した木材を担ぎ、建設予定地へと向かう。
『海見えるところにベンチ置きたいなぁっ!』
「ばかやろうが。まず拠点だっつってんだよ」
『言い方おかしくないっ?! いいじゃん! すぐ作るよ拠点もっ!』
「寝るとこもない。飲みもんもない。食うもんもない。なのにまずベンチはおかしいだろ」
『うっ、うぅっ……。も、もっと優しい言い方っていうのがっ、人にはあると思う!』
「優先順位どうなってんだよ。お前絶対テスト勉強する時部屋掃除してたタイプだろ」
『なっ、なにそれっ! 関係ないよね今それ! いいじゃん! 部屋掃除したほうが集中できるんだから!』
「やっぱそうだ。絶対ショートケーキのイチゴはすぐに食うタイプだ」
『だっ、だからなんなの?! だめなの?! 食べたい時に食べるのが幸せなんだよ! なんなのさっきからちくちくちくちく! ぜぇったい壊斗くん彼女いない!』
「今俺に彼女いないの関係ないだろ!」
『ぜぇったい壊斗くん彼女できないっ!』
「これから俺に彼女できないかはわからないだろっ!」
『あーもう……。どこからでも口喧嘩できる天才なんですかお二人は。木材運ぶだけのことでどうやったらそんなに言い合いできるんですか……』
〈初手ベンチは草〉
〈はじまったw〉
〈どっからでも喧嘩始まるやんw〉
〈まーベンチは使えるけど〉
〈彼女できんw〉
〈たしかにこれは彼女できないw〉
〈こんなに口うるさいやつに彼女いるわけないんだからw〉
『ジンさんっ! ベンチいいよね?! 海見ながらゆっくりくつろげるベンチいいよねっ?!』
「ジンありえないよなぁっ?! まず作るとしたら拠点か、効率アップのための作業台だよな?! な?!」
『支給品でもらった建築一覧表を見るとベンチはそこまで資材を使いませんし、スタミナの最大値を回復させる効果もあるようです。これからたくさん動けば最大値も減少するんじゃないでしょうか。それなら回復用としてベンチはあってもいいでしょう』
『やったぁっ! ジンさんっ! わかってくれると思ってた!』
「はああぁぁっ?! おかしいって! たしかにまだ飲みもんも食いもんも薬草とかもねーから、無駄にはならねーだろうけどさぁっ!」
『疲れたらベンチで休憩しましょう。でも他にも必要な建築物はたくさんありますから、今はベンチだけで我慢してもらえますか? ロロさん?』
『うんっ! わかったっ! 今はベンチだけでいいよ! ベンチに座って今後の快適な無人島ライフに思いを馳せることにします!』
『ふふっ、そうですね。楽しみは後に取っておきましょう』
「……大人だ」
〈選ばれたのはロロでした〉
〈折衷案〉
〈バランスとるのうめー〉
〈悪魔いないと進まねーなw〉
〈一回目は悪魔のせいで終わったのにw〉
島から突き出たように伸びている崖の、その先端部分。大海原を眺望できる絶好のポジションに、このゲーム初の建築が行われた。
ベンチである。拠点でもなく、焚き火でもなく、作業台でもなく、ベンチである。効率厨が観たら発狂しそうな配信だ。ちゃんと海を向くようにベンチの方向もしっかり整えているのが憎たらしい。
『なるほど。建築はこのガイドブックに載っているものを選んで、どこに建設するかを指定して、資材を持ってくるという形で作るんですね』
〈建築を学ぶって意味ではベンチはありだったな〉
〈ロケーション最高で草〉
〈エモいw〉
〈初建築がベンチw〉
「そうそう。おいロロ、どんなもんが作れるかぱらっと見とけよ。一回配置したやつは動かせないからな。どこにどんなものを建築していくかざっくり考えながら建てていってくれ」
『はーい。あっ! 畑も作れるんだ! 家庭菜園作りたいなー!』
『家庭菜園ですか。いいですね。自給自足の生活って感じがしてきます』
「実際畑はありだな。そこで薬草とか育てたら回復アイテムも作れるようになる。まぁ、種拾ってこなきゃ植えらんねーけど」
『それじゃ種が手に入ってからだね。まずこのあたりに拠点作ってー、作業台は適当なところに置いといて……〈乾燥棚〉? リスナーから乾燥棚ってのを作るといいって聞いたんだけど、これってなにができるの?』
「乾燥棚は保存食作るやつだ。肉とか魚とかをそこで乾燥させると腐らなくなる」
『それならその乾燥棚もいくつか置きたいですね。食料はそれで当面解決として、飲料水はどうすれば?』
「海岸にはたまにでっけーカメがいんだよ、ウミガメ。そいつをしばいたら甲羅が手に入るから、甲羅を使って雨水を溜める貯水器ってのをクラフトする。貯水器は置いとけば雨が降った時に勝手に溜まる。これもいくつか作って並べておきたいな。こまめにウミガメいないか見といてくれ」
『おー、壊斗くん詳しい!』
『とても頼りになりますね』
「お、おお! まぁ、一回やってっからな! 任しとけ! 雨が降らないと飲めるくらいに水が溜まらねーし、ほっといたら乾いてなくなるから、早いうちに水筒とかもほしいな!」
〈最初はやること多いよなぁ〉
〈いっちゃん楽しいとこや〉
〈経験者みたいなこと言ってる〉
〈すぐ調子乗るw〉
〈のせられやす〉
〈草〉
〈二人とも褒め上手なんだからw〉
なんだかようやく経験者らしいことができた気がする。頼られると気分がいい。器用でいろんなことができるジンに言われると自己肯定感が爆上がりする。
『飲み物が特に重要と言ってましたよね?』
「そうそう。限界まで空腹になっても死ぬまでは時間がかかるんだけど、脱水になったら体力ががんがん減ってくんだわ。だからまずはウミガメを探しに……」
『ぴゃあっ?! も、森っ! 森のほうに、なんかいる?!』
『森のほう……一回目に僕が倒したのと同じヒト型のキメラントですね』
「んー……けっこう出てくるんだな……」
〈水は最優先〉
〈カメは肉も取れるしちょうどいい〉
〈いくつか用意したいよな〉
〈鳴き声草〉
〈湧くのはやいな〉
〈ヒト型ならセーフ〉
俺が前回後輩たちとやった時よりもキメラントの出現頻度が高い気がする。
前回は足手纏い二人のせいでかなり時間がかかったのに、それでも一体目とエンカウントしたのは拠点の設営が終わってからだったはずだ。
ジンが倒した一回目でもゲームが始まってわりとすぐ、海岸線近くの森から出てきていた。そして今回、事故で時間は食ったとはいえ伐採してすぐ拠点作りを始めた。それなのにもう出てくるとは。
難易度によってキメラントの出現率が変わっているのかもしれない。
『それではあれは僕と壊斗さんで
『だ、大丈夫? ろ、ロロも手伝ったほうがいい?』
『ふふっ、大丈夫ですよ。僕たちだけで手は足りてます。拠点作りのほうが大事なので、ロロさんはそちらをお願いします』
〈そのまま解体しそうな言い方w〉
〈ロロは行かんほうがよさそう〉
〈バトルに強いのが二人いるしな〉
〈悪魔やさしい〉
〈声がもうやさしい〉
〈ロロ無理すんな〉
〈悪魔あったけぇな〉
『う、うん、わかった。……気をつけてね』
『ご心配なく。石ころをぶつけるだけで勝てる相手です』
「だははっ、発言が
『ええ、行きましょう。貴重な食料です』
「食う気かよ」
〈ロロかわいい〉
〈かわいい〉
〈ロロってこんなにかわいかったんか〉
〈めちゃいい子〉
〈実際石ころで勝ってんだよなw〉
〈安心させるためなのかただの事実なのか〉
〈食うなw〉
〈もう少し葛藤を見せろw〉
まだ新しい武器はクラフトしていないので、俺たちの武器は支給品の斧だ。
連続して攻撃することはできないが、俺とジンでヒト型を挟み込んで、一発斧で殴ってスイッチを繰り返せばおそらくノーダメージで倒し切れる。
「ジン、挟んで交互にあいつしばくぞ。先に俺が……」
作戦を伝えようとしていたら、進行方向にいるキメラントへと勢いよく飛翔する物体が視界に入った。
『ほう……なるほど。こういうテクニックもあるんですね』
「おいジン! 俺のすぐ横をなんかが通り過ぎてったぞ!」
『ダッシュ中に物を投げるとモーションと勢いも変わるんですね。ダメージのほうも調べたいのでやらせてもらっていいですか?』
「お、おう……」
〈石投げとる〉
〈真横通ったw〉
〈あぶねぇw〉
耳元でひゅんっ、ひゅんっ、と風切り音が続く。恐ろしい。俺に当ててくれるなよ。フレンドリーファイアがデフォルトなんだぞ、このゲーム。
怖いのでジンの隣に移動した。
『ダッシュと投擲で二重にスタミナを消費するのは痛いですが、弾道が山なりになりにくい分だけ狙いやすくなりますね』
「ほー……ん?」
キメラントは石ころに怯みながらもこちらへ接近し続けているが、ロロの発見が早かったおかげでかなり距離がある。かなり距離があっても、びしっ、びしっ、と一発も外すことなく、ジンは石ころをヒト型に命中させていく。エイムが活きるゲームならなんでもうまいのかこいつ。
一定のリズムでヒト型から発生するダメージエフェクトの小気味よい効果音は、もはやヒーリングミュージックだ。
音に意識を傾けすぎて気づくのが遅れたが、ダメージエフェクトはずっと頭に出続けている。俺が見学し始めてから、ずっとだ。
「お前っ、ずっとヘッショしてんのかよ!」
『いえ、ダッシュ投擲一投目は外しましたよ』
「それ走り投げ知らなかっただけだろ……。走り投げ知ってからは外してないのかよ」
『まあ……空中機動もしない、回避行動も取らない、ただ一直線に近づいてくるだけ。これだけ条件が揃っていれば外しません』
「そんなぎゅいんぎゅいん動くキメラントいたらキモすぎるな」
空中機動とかのキャラコンは貴弾みたいな人間のシルエットでもぎりぎりなんだ。『practice of evolution』の敵は総じて見た目がキモいのに、空中で急に方向転換したり左右に小刻みに揺れだしたらキモさ倍増どころじゃない。
『今日はすでにエイムが暖まっていますからね』
「貴弾やったあとだもんな、それもそうか。……いや、んなわけあるか」
〈ただでさえキモいのにキャラコンしてきたらさらにキモいわw〉
〈キャラコンしてくる敵とかいてたまるかw〉
〈エイムやばいw〉
〈ずっと頭〉
〈ヘッショ率たっか〉
〈もう武器石ころでいいやんけ〉
『五発ですね。威力も変わるようです。ただ、一回目の時と距離が違うので検証は中途半端ですね。このゲームに距離によるダメージ減衰があるのなら数値が変わってきてしまいます』
「あーあ、また石ころの犠牲者が……」
『倒せたのっ? 二人とも怪我はない?』
『ええ。ご心配ありがとうございます。僕も壊斗さんも無傷ですよ』
「ああ。ジンのエイム力の前ではヒト型なんて無力だった」
二人で挟めば斧でもノーダメージで勝てるとは思ったが、まさか斧を振る距離にもならないとは思わなかった。
〈ばかつええ〉
〈銃どころか弓矢もいらんのかw〉
〈これ弓矢持たせたら敵おらんやろw〉
〈石ころ強くてくさ〉
〈ロロだけが心のオアシス〉
〈結構当てにくいのに〉
〈ダメージ減衰ないぞ〉
〈絶望圏の住人だわ〉
『二人とも怪我がないのはよかった! 気をつけて帰ってきてね!』
『ふふっ、ありがとうございます。ついでに伐採して、あと海岸見てから戻りますね』
『はーい』
「ん? おおー。ジン。〈ダメージ減衰ない〉ってリスナー言ってるわ」
『そうなんですか? とても有用な情報ですね。壊斗さん、壊斗さんのところのリスナーさんもありがとうございます』
「……ところでダメージ減衰ってなんだ?」
『銃とかだと、弾丸を発射した直後と、しばらく飛翔してからだと速度が違うので殺傷力や貫通力が変わってしまうんです。ゲームによっては距離が離れれば離れるほどに与えるダメージが減ってしまうシステムが導入されてるんですよ』
「ああ! 距離によるダメージ減衰ってそういうことか!」
『はい。ADZだとそのダメージ減衰がしっかりと働いておりまして、いろいろ大変なんです。ですがこちらのゲームではないようなので安心しました』
「なるほどな。近かろうが遠かろうが、ダメージはおな、じ……ジンお前、はちゃめちゃに遠投しようとか考えてないか?」
『…………ふふっ』
妙な間を置いて、ジンは不敵に笑った。
距離でダメージが変わらないのであれば、ジンからすれば実質射程距離無限みたいなものだ。
キメラントがどれだけ攻撃力が高かろうと、奴らは貴弾の敵のように銃を持っているわけではない。手の届かない距離のプレイヤーを攻撃する手段は持ち合わせていない。
ジンなら、想像を絶するほどの遠距離から、一方的にキメラントを攻撃できる。
しかも投擲用の小さな石ころはこの島中、どこにでも落ちている。弾もいくらでも補充できる。
こいつ、エイムだけでこの島の頂点に立つ気かよ。石ころで。
「やばいって! こいつと遠距離武器の相性やばいって!」
『怖いものなしです。……と、言いたいところなんですが、そう簡単でもないんですよ。どれだけ走り投げで飛距離を飛ばそうとしても、さすがに人間の肩では飛距離に限界があるようですね。残念です。飛距離を伸ばそうとして上を向きすぎると、敵の姿が見えなくなってしまいます。それだとさすがに弾道と偏差を合わせられません』
「姿さえ見えてりゃ合わせれんのかよ……エイムの悪魔だ」
『憤怒の悪魔です』
『ジンさん! 建築で物見……もくぎょ? なんか難しい漢字がついてるけど、見張り台みたいなの作れるみたいだよ! ジンさんにぴったりじゃない?』
『
「一人だけ兵器みたいになってんぞ……」
〈エイムの悪魔w〉
〈たしかに悪魔的なエイム〉
〈もくぎょてなんやねんw〉
〈もくぎょw〉
〈悲報ロロ漢字が読めない〉
〈やぐらは難しいよなw〉
『防衛面も希望が見えてきましたね。さて、倒したキメラントを回収しましょう』
「……そうだな。貴重な資源だ。今はまだ食いもんには困ってねーし、ここで燃やして骨にするか」
『そうですね。ロロさんにお見せするわけにはいきませんし』
『う、うん……。で、でもっ、避けられないならロロもがんばるよっ』
「そこまで切羽詰まってねーからまだいいだろ。資源のほうが大事だ」
〈一人分の戦闘力じゃない〉
〈悪魔ならロロの分も働けるな〉
〈マジでさばく気だったのか〉
〈骨は使うしな〉
『燃やす……火はどうするんです?』
「建築一覧表から焚き火を建築すんだよ。材料はたぶん伐採した時にでもついでに拾えてんじゃないか? 木の棒と木の葉を使う。なかったら森に入って適当に斧振り回してりゃ、このあたりはすぐ手に入る」
『なるほど。たしかに持ってました』
死体を火葬する準備を始める。
建築一覧表から焚き火を選んで、設置場所を適当な場所で決定。消費するアイテムを放り込み、建築開始。
焚き火にも種類があるが、死体一つを燃やすだけなので無駄に高性能なものを用意する必要もない。簡易的なものを選んだ。
「箱から漁ったライターを装備して、建築した焚き火に近づけばキーが表示される。入力すればライターで着火して焚き火完成だ。ちなみにダメージ判定がある。入んなよ」
『そうですね。生きたまま火炙りはもうごめんです』
「経験があるみたいな言い方すんな」
〈燃やすだけならこれでいいな〉
〈森の近くだし材料もたくさんある〉
〈けっこう炎上ダメ痛いんだよな〉
〈草〉
〈悪魔裁判にかけられたかw〉
〈火炙り経験者w〉
〈生きてんの強すぎだろw〉
〈悪魔が言うとブラックジョークやw〉
『……何もボタンの表示は出ないんですけど、これそのまま焚き火の上に放り捨てたらいいんですか?』
「おう。投げちまえ。しばらくしたら骨になる」
ジンが焚き火の上にキメラントを放り込んだ。置いてからちょっとすると火勢が盛んになり、キメラントの色が黒く変色し始めた。順調に火が通ってきている。
ふつうの焚き火だと人間大以上の大きさと重さの物体を放り込めば火が消えてしまいそうだが、まぁゲーム的要素だ。深く考えてはいけない。
『あ、出てきました。骨に、頭蓋骨まで。これらもクラフトに使うんですよね』
「クラフトで武器にも防具にもなるし、なんなら建築でも使う。用途は幅広いな」
『たくさん必要になりそうですね……』
「いることはいるが、拠点にいても探索しに行ってても奴らはそこらへんにうじゃうじゃいるからな。出てきた奴らを狩ってりゃ気づいた時には余ってるくらいだ」
『意識して狩りに行く必要はないんですね。それなら資材集めに戻りましょうか』
「だな。せっかくこっちまできたし、さっきロロに言ってた海岸に立ち寄るルートで戻るか」
『木材足んないよー!』
『はーい、持って帰りますよー』
「足んない、じゃねーよ。お前も伐採しにこい。キメラントはもう片づけた」
『……うぃ』
『ふふっ、嫌そう』
「サバイバル舐めんなぁっ!」
ようやくサバイバル生活が始まりました。