サイコバグなお兄ちゃん、Vtuberになる。 作:にいるあらと
拠点最寄の森で細めの木や下草を刈り取り、大木を
幸いなことに浜辺にウミガメが打ち上がっていたので、担いできた木材を一旦下ろし、斧でウミガメを叩く。ただ日向ぼっこしていた無垢なウミガメを処すのは良心が痛むが、しかしこちらも命がかかっている。これも生存競争だ。恨まないでほしい。
ジンが生物に斧を振るっているところを見たのは、ウミガメ相手が初めてだった。使い勝手の悪い石ころを愛用するジンといえど、さすがにウミガメに石ころは使っていなかった。
それもそうか。ジンは安全にキメラントを狩るために石ころを使っているだけ。反撃してこないウミガメが相手なら、時間も手間もついでに
ウミガメをしばき回し、そこからさらに解体して、素材を入手する。
貯水器用の甲羅もしっかりゲット。まだ安心できる量ではないが、飲料水確保の
「うっし。甲羅とついでに肉も手に入ったし、戻るか」
忘れずに木材を担ぎ直す。崖上の拠点設営地へ戻ろう。
『このゲーム、所持数に上限はありますけど、所持重量に制限などはないんですね』
「重量? たぶんないんじゃねーの? 見たことねーよ」
『助かりますね。何度も往復しないで済みそうです』
〈重量?〉
〈そこまで細かくないな〉
〈絶望圏に脳みそ侵食されとる〉
〈ADZ民はこのありがたみに気付ける〉
「はー、なるほど。『絶望圏』には重量制限ってのがあんのか」
『リスナーさんが何か言ってらっしゃったんでしょうか? そうなんです。ADZは所持重量による上限のせいで、アイテムの取捨選択という名の理性と欲のせめぎ合いが行われるんです』
「それ聞いて『わー! やりたくなってきた!』とは絶対ならんぞ……」
『そのシビア加減がいいんですけどね。でも、重量制限というシステムがないのは本当に気が楽でいいです。見つけたものをたくさん持ち帰れるのは気持ちがいいですね』
「お前もわりと嫌がってるじゃねーか」
『貴重な銃やアイテムを見つけても泣く泣く諦めることだってありましたからね。しかしそれもまたADZの
〈うっわわかるぅ〉
〈わかりみが深い〉
〈相当なコアプレイヤーだな……〉
〈黒兎だぞこいつ〉
〈やり込んでるなんてレベルじゃねぇからな〉
〈ソロランキング二位のBlack Rabbitとはこいつのことだ〉
「ギャンブルの感覚に
『うんっ、ありがとー』
崖上に戻ると、建築途中の拠点があるだけでロロの姿は見えなかった。ちゃんと自分で木材を取りに行ったようだ。
『あ、ロロさん乾燥棚作っててくれたんですね。ありがとうございます』
『うんっ! 食べ物取ってきてくれた時、ないと困るかなーって』
〈ロロいないな〉
〈ちゃんと自分で伐採行ってるw〉
〈敵さえいなきゃ行けるもんな〉
〈乾燥棚あんじゃん〉
〈ロロ!〉
〈できる女なのかロロ〉
〈気が利く〉
「すぐに食うなら焼きゃあいいが、それだと保存が利かねーからな。助かる。さっそく肉置いとこうぜ。これ、わりと時間かかんだよ」
『そうですね。置いときましょう。乾燥棚の隣に貯水器も設置しましょうか』
「だな。貯水器は建築一覧表から作れるぞ」
『わかりました。……これで生きる上での最低限のインフラはできた感じでしょうか』
「んー……まぁいいんじゃねーの? 水は心許ないし食料も不安だが、これだけありゃすぐには死なねーだろ」
拠点はまだ建築途中だが、他はなんとかなりそうだ。
水は雨に依存しているせいで安定供給とは程遠いが、脱水の危険域に到達する前に一度くらいは雨が降るだろう。折を見てもう一度ウミガメをしばきに行って貯水器の数を増やしていれば問題はなさそう。
食料も現時点では三人で分けるにはひもじい量しかないが、ウミガメは甲羅と同時に肉もドロップする優秀なmobだ。あれを狩ってれば食い繋ぐことはできる。
まだ余裕はないが、必要最低限のラインには到達しただろう。
『ふむ……。拠点作りのほうはもう少し人手があったほうがよさそうですし、分担しましょうか。僕が森の中を探索しつつ素材集めと食料確保。壊斗さんはロロさんの護衛をしつつ、拠点周りの充実をお願いしていいですか?』
『えっ?! ジンさん一人で森入るのっ?! 危ないよっ、怖いよ! ロロのことはいいから、壊斗くんと一緒に行ったほうがいいよ!』
〈ロロは戦えないからな〉
〈このままじゃ間に合わんか〉
〈まぁジンならいけるやろ〉
〈たぶん一人で根絶やしにできる〉
〈ロロいい子だ〉
〈建築回ったほうがいいか〉
『いえ、ロロさんのためだけ、というわけでもないんです。日が暮れるまでには拠点作りを終わらせたくて。今のところ夜にも活動できるような光源もないことですし。木を切って、運んで、建築して、となるとロロさんお一人では手が回らないでしょうから、そこを壊斗さんにも手伝ってもらうんです』
「んー……そうだな。どっちか一人が森に入るってなるんなら、まだ武器の更新ができてねーわけだし石ころで安全に戦えるジンのほうがいいだろうな」
『で、でもっ、森の中だよ? 木がいっぱいあるのに、石ころで戦えるの?』
『遮蔽物がたくさんある貴弾でも動き回るプレイヤーに弾を当てれますし、問題ないかと』
『…………たしかにっ!』
「実際にやっちまうんだからやべーよな」
〈草〉
〈草〉
〈たしかになw〉
〈デュマ帯のプレイヤーに比べりゃ怖くねぇわw〉
〈パンチしかしてこないようなもん〉
〈ヒト型くらいなら石ころでワンブイスリー返せそう〉
拠点作りとウミガメしばきに専念する間は他の素材を取りに行くゆとりがない。使い勝手のいい武器を作るにも、森を進んだところで拾える素材を使うのだ。
拠点を完成させて、その後でみんなで森に探索に入って素材を集めて、一度拠点に戻ってクラフトして、装備を整えて森のさらに奥に探索となると時間がかかる。
ここで作業を分担して行えたら時間の短縮になる。
単独行動するとなったら、戦闘力と生存力に秀でたジンが適任だろう。
「そんじゃ、ジン。任せた」
『ジンさん、気をつけてね。危ないって思ったらすぐ帰ってきてね』
『ふふっ、はい。ありがとうございます』
〈ロロが尊い〉
〈生きて帰ってこいよ〉
〈ロロの可愛さ限界突破してる〉
〈ロロが愛くるしい〉
〈まぁ悪魔はやられんやろ〉
「マジで引き際大事だぞ。このゲームは拠点にリスポーンが設定される。まだ拠点が作れてねーから、確死入れられたらリスポーンできねー」
『おお……なかなかハードですね……』
「ダウンしてから確死までのリミットはそこそこ
『先にそれを聞けてよかったです。よく注意して進むことにします』
〈くそみたいな難易度だな〉
〈リスポン不可ま?〉
〈誰かが確入ったら即終了か〉
〈まぁジンならいけるか〉
〈きっつ〉
〈この悪魔がmob相手に負けるとも思えんけど〉
〈逆に悪魔のいない拠点が危ない〉
乾燥棚で干していたカメ肉の加工が間に合ったので非常食として干し肉を持たせ、森へ単独調査に向かうジンを俺とロロは二人で見送った。
ふつうに考えれば、拠点もできてないうちにこの難易度でキメラントが
並のプレイヤー二人分くらいの戦闘力を誇るジンですら森の中を探索できないのなら、端的にこの難易度のクリアは不可能ということになる。さすがに人間にクリアできるくらいの難易度には調整されているだろう。まぁ、この難易度の推奨プレイ人数と俺たちの人数には開きがあるが、それはそれだ。
コメント欄を見る限り、リスナーも心配していない。口さがないリスナーに至っては、一人で森に入るジンより、拠点と海岸と森の入り口を行き来するだけの俺とロロのほうが危険だと思ってやがる。俺のところのリスナーだというのに、なんて舐めくさった奴らだ。
「森の資源収集はジンに任せて、俺たちは拠点の完成を目指すぞ」
『おー!』
「ロロは基本、森で木材を確保して建築だ。大量に必要になるから、先に木ぞりを作ったほうが効率上がると思うわ」
『うん、わかった。壊斗くんはなにするの?』
「俺もほとんど同じだな。ついでに海岸に立ち寄るくらいだ。漂着物とかウミガメとかいないか見る。キメラント出てきたら言ってくれ」
『はーい!』
返事は二重丸のロロの声で、俺たちも作業に戻る。
森の入り口までジンの見送りにきていたので持ち運べる分だけ木材を確保し、ロロは拠点へ、俺は海岸へ行く。
ウミガメが一匹リポップしていたのでありがたくいただいて、海岸線を眺める。ジンのように景色を楽しんでいるわけではなく、漂着物の有無の確認だ。
漂着物からはクラフトで使う頻度の高い素材だったり、クラフトでは作れないような素材、他では手に入らないアイテムが取れる。まめに回収にくるのが大事だ。
俺たちが今やっている難易度だと、早め早めに装備をアップグレードしていかなければ、いずれキメラントに蹂躙されることになる。
漂着物を一つ回収して、建築途中の拠点へと帰宅する。
「お、早速木ぞり作ってんじゃん」
拠点の近くに担いできた木材を下ろすと、少し離れたところでロロがクラフトしているのが見えた。さっき言っていた資材運搬用の道具だ。
『うん。すぐにもう一つ作るから、壊斗くんそれ持ってっていいよ』
〈ウミガメはほんと序盤の救いだな〉
〈ウミガメ優秀すぎる〉
〈漂着物あんじゃん〉
〈ゴミ拾いだ〉
〈酒がありゃラッシュも安心なんだけど〉
〈ロロ働き者だ〉
〈ロロはいい子だなぁ〉
「さんきゅー。ジン、そっちどんなもん?」
『はい。ワンパやりました』
「強すぎて草」
『ほんとに一人で勝ってた……』
〈悪魔強すぎ〉
〈草〉
〈言えよw〉
〈つよすぎてくさ〉
〈バケモン混じっとるw〉
〈ワンパは草〉
〈まじでワンブイスリー勝ってたw〉
『先ほど発見したんですけど、これ後ろ向きにもダッシュできるんですね』
「そうそう。前向いてようが後ろ向いてようが走る速度に大差ねーんだよな」
『そういうの先に言っといてよ壊斗くん! ジンさんの生死にかかわるんだからっ!』
「お、おおう……ごめん」
〈後ろダッシュは弓使いの基本ムーブだな〉
〈教えてないの戦犯だろw〉
〈知ってたのに伝えてなかったのはアウトw〉
〈ロロも怒るよそりゃあ〉
『お気遣いありがとうございます。大丈夫ですよー。それで、後ろ向きにも走れることに気づいて試してみたんですが、後ろ向きに走っていても不思議なことに走り投げできたんですよ』
『そうなの? 逃げながら投げれるならもっと安全になるね!』
「それは知らんかった。え、じゃあお前最強じゃん。引き撃ちしてるようなもんじゃん」
『はい。引き撃ちしてました。今のところヒト型は脅威ではありませんね』
「おいおい、石ころナーフ入っちまうぞ」
〈後ろ走り投げw〉
〈そもそもそんなに投げる奴おらんのよ〉
〈草〉
〈メインアーム石ころ〉
〈石ころで無双すんなよw〉
〈悪魔止めらんねぇ〉
〈ヒト型程度じゃ相手にならん〉
〈石ころナーフは草〉
〈石ころつえー〉
『でも、ヒト型、と呼んでいるということは、ヒト以外のキメラントもいるということですよね?』
「おう。オオカミだったりクマだったりイノシシだったり、トリ型ってのもいるぞ」
『それら相手に石ころがどこまで通用するか……楽しみです』
〈天敵はクマとイノシシあたりだな〉
〈クマは体力多いのがだるい〉
〈防御硬いイノシシも面倒なんだよなー〉
〈序盤のうちは勝ちそうだなw〉
〈草〉
〈石ころへの信頼たかw〉
「石ころ握り締めて戦いに行こうとすんな。お前だと勝ちそうでいやだ」
『だめだよジンさん! せめて弓矢作ってからだからね!』
『ふふっ、冗談ですよ。石ころでは時間効率が悪そうですし』
〈中盤でもイヌやネコ相手には勝ってそう〉
〈勝ちそうで草〉
〈弓矢あってもしんどいんよw〉
〈時間があれば勝つぞこいつw〉
〈敵は時間だけだった〉
自分が負けることを一切考慮していないあたり、強者の風格が漂っている。やっていることは石ころ投げてるだけなのに。一芸を極めたらここまで強くなるんだな。
『そうだ、ウサギやシカも倒して
「おー! ナイス! そこらへんの動物の皮はアーマーにはならんが、クラフトに使える。素材の所持上限が上がるアイテム作れんだよ」
『持てる量が増えたらもっと効率よくなるね!』
『ほう、袋に。だとすると人数分ほしいところですが……』
「獲物探してあんま奥行きすぎても帰ってくんのが大変だろ。空腹も水分もフルにしてから探索行ったわけじゃねーし、動き回ってると減りも早い。キリのいいとこで一回戻ってこいよ」
『そうですね。無理をするところではありませっ……お』
「ん? なんか見つけたのか?」
〈ナイスー〉
〈仕事人かよ〉
〈袋作れたらいいな〉
〈仕事がはえーんだ〉
〈マタギやん〉
〈銃なしで猟師やってるw〉
〈悪魔がダウンしたら終わりみたいなもん〉
〈安全第一でな〉
〈もう帰ってもええやろ〉
〈十分仕事した〉
木ぞりを使って木材運びの効率を上げたおかげで、拠点はもう完成間近だ。日が暮れる前には完成するだろう。
一度ジンには帰ってきてもらい、俺たち三人が持っている素材を全部かき集めてクラフトして、装備をアップグレードしていったほうがいい。探索の効率も上がるし、安全にもなるはずだ。ジンが回収できたらしい皮から袋をクラフトすれば、ロロの後方支援もできることが増える。
なにか発見したみたいだし、それを回収したタイミングで戻ってきてもらおう。
『イノシシが出てきました。牙がとてもご立派です』
「イノシシ型じゃねーか! 逃げろ逃げろ! アーマーなしだと三発も耐えらんねーぞ!」
『ジンさん逃げてっ!』
〈なんか見つけたか〉
〈住居跡か?〉
〈まっずい〉
〈あ〉
〈言ってる場合かよw〉
〈まずいまずい〉
〈草〉
〈牙立派じゃねぇんだよw〉
〈フラグになったか〉
〈一日目で出んの?〉
〈ごみくそみたいな難易度だ!〉
〈突進一撃で瀕死だぞ〉
ついさっき話していたヒト型以外のキメラント、それが現れてしまった。しかも単独行動中のジンが遭遇する最悪の事態だ。
ヒト型のキメラントよりも、動物型のキメラントは単体性能が段違いに高い。ヒト型は斧を適当に振り回しているだけでも勝てるが、動物型はそうはいかない。本来ならもっと装備を整えるか、頭数を揃えるかしてから戦う相手だ。
森の中に足を踏み入れているからといっても、まだ今日はゲーム内時間一日目だ。まさか本当に初日から動物型が出てくるなんて思わなかった。
前回後輩らとやった時に初期装備でもイノシシ型は倒したが、三人で囲んでターゲットを取りながら回復を回してどうにか倒した。一人で戦うのは無謀極まりない。
逃げることを勧めたが、当の本人は平静そのものだった。
『んー……動き自体は単調なんですよね。危なそうなら引き返しますね』
「なんでそう冷静か? ちょっとは慌てろ?」
『た、戦っちゃだめだよジンさん! 怒らせちゃうよ!』
『ですが、目と目が合った瞬間から彼、いえ牙が立派なだけでもしかしたら彼女かもしれませんが、すでに怒ってらっしゃるんですよね』
「性別はどうでもいいわ! なるべくイノシシの正面に立つなよ! そいつの突進ばか速えぞ!」
『平野では出会いたくない敵ですね。森の中では大木が壁になるので非常に戦いやすいです。はい、はい。パターン読めてきました』
なんでこいつ一人で戦えてるんだろ。
難易度によってプレイヤーが受けるダメージも違うらしく、前回やった時は突進二回喰らうとヒットポイントがミリになっていたが、リスナーが言うには今の難易度だと一撃で危険域に達するようだ。そんな生きるか死ぬかの瀬戸際で、どうしてこうも平然としていられるんだ。
『か、壊斗くん! ジンさんのとこ向かってあげて! ダウンしちゃったらジンさん助けられなくなっちゃうよ!』
『戦っている最中に漁夫がこないとも限りませんし、カバーお願いできますか?』
「おう、すぐ行く。漁夫って言うな」
〈なんでこんな余裕そう?〉
〈ジンの画面やばくて草〉
〈向こうもはや作業だw〉
〈パターン読み切ってて草〉
〈漁夫w〉
〈カバーいるんかこれw〉
〈草〉
『突撃二回で大木を倒してしまうんですね。恐ろしい威力です。でも攻撃のパターンは多くありませんね。近づいたら右に左に頭を振って、最後振り下ろし。はい』
『ジンさんがんばって!』
『ご心配なく、大丈夫ですよー。……ん? 岩……なるほど』
「ジン、あんま攻めすぎんなよ! 命大事に、だからな!」
『はい。命は大事にいただきます』
「くふっ、そっ、そういう意味じゃねーよっ! だははっ!」
〈ロロの応援効くw〉
〈読み切っとる〉
〈草〉
〈草〉
〈圧倒的捕食者目線〉
〈意味変わってもうとるw〉
〈狩る側の思考なんよw〉
〈そんな物騒な意味にw〉
森の中を駆け抜けると木材が散らばっている開けた空間に出た。
中央に大きい岩があり、その岩を挟んでジンとイノシシ型が対峙している。
ジン視点だとイノシシ型は岩の真裏にいるので見えないはずだが、ジャンプしながら岩の横に出て、空中で石ころを投げて、再び岩の裏に戻って着地していた。
このゲームでそんなキャラコンあんのかよ。
「おまっははっ、だはっはっ! ジャンピすんなよ! このゲームに必要ねーだろ!」
〈ジャンプピークwww〉
〈いらねぇだろw〉
〈余裕かよw〉
〈キャラコン化け物だな〉
〈ちゃんとイノシシの鼻にあててる〉
〈弱点わかってんのかよ〉
『あ、壊斗さん。もうきてくれたんですね。ありがとうございます』
「だははっ、お前っ、よそ見すんな! ははっはっ! こっち見なくていいんだよ! あはははっ! お辞儀すんなっ! 集中しろよ!」
俺がきたことに気づいたジンはイノシシ型から視線を外してわざわざ俺に向いて視線を下げた。その動作が『ありがとうございます』と同時に行なわれたせいで、俺の視点からだとまるでお辞儀したみたいに見える。どんだけ余裕あるんだよこいつ。
〈こっち見るなw〉
〈お辞儀www〉
〈おじぎすんなw〉
〈戦闘中にやることじゃねぇw〉
『壊斗さん、手伝ってもらっていいですか? 突進が岩で止まるとイノシシは少し怯むんです。その時に足を斧で攻撃してください』
「お、おお! おっけーっ!」
『何回かジャンプピークで攻撃しているとたまに突進するので、そのタイミングでお願いします』
再びジャンプピーク──遮蔽から一瞬顔を出して、イノシシ型を捉え、石ころをあてて、ジンは岩に戻る。
「このゲーム、ジャンピとかできたんだな。くふはっ、はははっ! はたから見てるとおもろいわ」
『やってみたらできて僕も驚きました。いいですよ、これ。突進は完全に防げますし、こっちは一方的に攻撃できますし。このゲームは走っててもジャンプ中でも弾が真っ直ぐ飛んでくれるのでありがたいですね』
「だはははっ! くははっ……石ころのことっ、弾って言うなっ」
『僕にとってこの石ころは、威力が低くて射程距離の短い銃みたいなものです。入りました。突進きます』
「おけ!」
『二人ともがんばれーっ!』
『はい。もう少し待っててくださいね、晩御飯は
「今日の晩飯はご馳走だ!」
三度目のジャンプピークでイノシシ型がこれまでとは少し違う鳴き声を発した。ジンに言われなければ気づけない程度のかすかな違いだ。イノシシ系モンスターの定番みたいな後ろ足で地面を蹴るような予備動作じゃないのに、よく突進の予備動作を見つけられたものだ。
横から見てるととてもよくわかる。イノシシ型がほんの一瞬静止し、その巨躯が霞むほどの速さで前方へと突貫する。
人間が直撃すれば掠っただけでばらばらになりそうな衝撃だろうが、しかしその運動エネルギーはジンが遮蔽物に利用している岩にすべて受け止められた。
遠雷のような衝突音があたりに響いた。
『ここです』
「よっしゃあっ!」
安全なところから眺めていた俺はここぞとばかりに参戦する。
岩に突進したイノシシ型は二、三歩よろめいてへたり込んだ。あの勢いでぶつかったのだから当然だろう。逆にあの速度で頭から岩に突っ込んで死んでいないのが不思議なくらいだ。なんて強靭な頭蓋骨をしているのだろう。
起き上がって暴れ出すまでにできるだけダメージを稼いでおこうと斧を振り回していると、ちょうど俺の一撃でヒットポイントの底に届いたようだ。イノシシ型が断末魔のような鳴き声を上げた。
俺が援護にくるまでの間に相当なダメージをジンは一人で与えていたらしい。イノシシ型はその絶叫を最後に動かなくなった。ほぼ一人で倒したじゃん、こいつ。