サイコバグなお兄ちゃん、Vtuberになる。   作:にいるあらと

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「……どれも違うから」

 

 断続的に銃声が聴こえ続ける工場地帯から距離を取るように、主人公はレイチェルの手を引いて早足で進む。

 

 工場地帯を抜け、主人公が目を向ける先には街が広がっている。しかし、それは平穏な日常とは隔絶された風景だった。自動車はひっくり返り、道端には人が倒れている。どこかで火事が起きているのか、煙も立ち昇っていた。

 

 ここまではなるべくレイチェルには残酷な光景を見せずに進められていたけれど、ここからはそうも言ってられそうにない。主人公は心配そうな表情を見せるが、レイチェルは健気にも微笑んで見せた。

 

 このゲームはサウンドもそうだけど、表情や身振り手振りなどの動作がとても細かくて、その分レイチェルが強がっていることが余計に伝わってきてしまう。すでに疲労困憊だろうに、それでもレイチェルは主人公に心配をかけまいと虚勢を張る。

 

 とてもいい子だ。

 

 絶対に。主人公の身に何があろうと、この子だけは絶対に幸せにしなければならない。

 

 このマップのイベントムービーが終了して、一人称視点になる。

 

〈レイチェルいい子だな〉

〈こんなにいい子だったなんて〉

〈めっちゃ健気……〉

 

「小さい礼ちゃん、本当にいい子だなあ……。絶対に疲れてるはずなのに、心配をかけないようにって僕を気遣って……」

 

「うん……ルートによってこんなにもレイチェルの態度が違うなんてびっくりした。それはそれとして、お兄ちゃんを気遣ってるんじゃなくてこの主人公を気遣ってるんだよ。お兄ちゃんじゃないよ」

 

「小さい礼ちゃんっ、僕が絶対に安全に親御さんのところまで連れて行ってあげるから!」

 

〈お嬢のルートだとわがまま娘だったのに〉

〈他の配信ではヘイトタンクだったぞ〉

〈まじでアクシデント要員なのにな〉

〈妹目の前におるやろw〉

〈頼りになるお兄ちゃんだなw〉

〈安心感ぱないわ〉

〈どこよりも安全な場所やw〉

〈悪魔の隣が一番安全なんだから〉

 

「のめり込んでる……。帰ってきて、お兄ちゃん。お兄ちゃんの唯一にして至高の妹はここにいるよ」

 

「自分で至高って言っちゃうんだ……」

 

「よかった。ちゃんと帰ってきた。でもむかついたからお仕置きね」

 

「痛い痛いっ、ふとももつねらないでっ……。そうです、至高にして究極の妹ですっ」

 

「だよね? よかったー」

 

〈レイラ嬢w〉

〈草〉

〈妹の自負強w〉

〈至高の妹w〉

〈ワードセンスの癖すごいな妹悪魔w〉

〈ところで今二人はどういう体勢でゲームを……〉

〈膝にでも乗せてるの?w〉

〈お仕置き草〉

 

 二人は荒れ果てた街を進む。

 

 精神衛生上よくない光景が広がっているのでレイチェルにはなるべく見せたくない。できることなら抱きかかえて進みたいくらいだけれど、それはシステム上できなかった。

 

 なにしてるんだ主人公の男(ウィリアム)は。小さい礼ちゃんの情操教育に悪影響だろう。疲れも溜まっているはずだし、小さい礼ちゃんをおんぶくらいしてほしいものだ。おんぶしていればこんな地獄のような景色を視界に収めずに済む。

 

「ん……」

 

 こんな地獄絵図をレイチェルに見せない努力をしろよ、と主人公に対して頭の中で悪態をついていたのだけれど、不意に違和感を覚えた。

 

 違和感に気づいたのは僕だけではなかったらしい。礼ちゃんも首を傾げていた。

 

「おかしいねー」

 

「礼ちゃんもそう思う?」

 

「うん。ゾンビが少ないよね」

 

「あ、そこなんだ。でも、それもそっか。礼ちゃんは一度別ルートでやってるわけなんだしね」

 

〈ぜんぜんおらん〉

〈出てこんな〉

〈こんな静かなの怪しい〉

〈絶対後から大量パターン〉

 

「あれ? お兄ちゃんもゾンビが少ないことに引っかかってるのかと思ってた」

 

「たしかに元人間様が少ないとは思った。僕が見てたのは死体のほうだけど。元人間様と人間様って、死体になったら見分けがつかないんだよね」

 

「あ、それはたしかに」

 

「それで考えてたんだ。主人公のアパートから研究員さんの家に行くまでの間に見た死体と、この周辺に転がっている死体……その違いを」

 

「え? なにか違う?」

 

「死因が違う。このあたりの死体は出血箇所が首からじゃないんだ。頭や胴体から血を流してる。しかも、おそらく銃創」

 

 この街に入ってからというもの、首から派手に血を流している死体をまだ見ていない。主人公のアパートから研究員の家に向かうまでの道中では、喉笛を噛み千切られたような死体のほうが多く転がっていたのだ。その違いを考えると、この街の死体は異様だ。

 

「それって、どういう……」

 

「このあたりにいた元人間様は……あるいは人間様も、銃火器を装備した人間様に掃討されたってことかな。一番可能性としてありえそうなのは特殊部隊の方たちがこの街に入ってクリアリングしたってところじゃない? だからそのうち」

 

 考察しながら進んでいると、すぐ近くの商店の扉から人影が突然飛び出してきた。

 

「ぴっ?!」

 

「やっぱりきたね」

 

〈さすが考察勢〉

〈めっちゃ見てるな〉

〈気にしたことなかった〉

〈周りのシタイってグラフィック違ったんだ〉

〈読んでる〉

〈読みやば〉

〈どんぴしゃやんけ〉

〈ひよこ踏んだ?w〉

〈小動物踏んだみたいな声w〉

 

 ボタン操作を要求してくるくせに相変わらず猶予時間が短い。とくに不意打ち気味の一回目のアクションは前もって予測しておかないと対応するのが難しい。

 

 僕はそろそろ出てくるだろうと予想できていたので急なアクションにも対応できたけれど、予想してないところでこれをやられると初見では厳しいだろう。

 

「反応はやっ」

 

「建物の中だったからナイフを持ってたのかな? 取り回しが悪いとしても、せめてピストルを持ってワンマガ分吐いてれば主人公のことは殺せただろうにね」

 

 商店の入り口、照明の落ちた暗がりからナイフを構えながら飛び出してきた隊員の手を右手で払う。間を空けずに左の拳で隊員の顔面を強かに打った。

 

「お兄ちゃんの反応速度もおかしいけど、この主人公もたいていおかしいよね?」

 

「反撃まで入れちゃうんだよね。なんたって、元軍人さんだから」

 

〈反応よすぎ〉

〈反応速度二歳児やん〉

〈主人公強すぎて草〉

〈カウンターw〉

〈元軍人だからな〉

〈元軍人の強みや〉

〈元軍人の肩書き便利すぎるだろw〉

 

 いくらボタン入力を成功したにしても、あれだけ不意をつかれた攻撃に対してここまでカウンターを入れられるのは化け物だ。この主人公、死の恐怖とかそういう概念を持ち合わせていないのかもしれない。

 

 しかし相手も()る者、奇襲が大失敗に終わっても動揺した様子はなく、しっかりとナイフを構え直して向かってくる。

 

 奇襲された時よりほんの少しだけゆとりのある猶予時間のおかげで押し間違えることなく、ぽんぽんぽんと軽快に(さば)いていく。刺突を何度も防いだことで()れた隊員が大振りになったところを、主人公は冷静に腕を取って投げた。

 

 アスファルトに背中から叩きつけられていたので一般人ではすぐには動けないはずだけれど、相手は一般人ではない。アーマーで衝撃が緩和されたかもしれないし、受け身も取っているかもしれない。

 

 まだ安心はできない。

 

 ということで地面に叩きつけられて息が詰まって悶えているうちに隊員の首にナイフを突き立てて(とど)めを刺した。

 

「確キル、っと」

 

「の、喉に……容赦ない」

 

「大声出されたら困るからね。……とはいえ、大して変わらないと思うけど」

 

〈確キルの精神〉

〈取れる時に取っとくの大事〉

〈喉いくんか……〉

〈声出させないよう声帯ぶった斬るの草〉

 

 銃声などのわかりやすい音は立たせていないけれど、死体が転がっていること以外は至って普通の閑静な住宅街で殴り合いは十分騒音だった。

 

「あっ! 建物の窓!」

 

「うん。うーん……。思ったより、多いかな……」

 

〈ないす〉

〈めっちゃおる〉

〈こわ〉

〈一気にこっちみんな〉

〈ホラーかよw〉

 

 異音を聴きつけた隊員たちがそこら中で顔を出してきた。高所を取られているし、こちらにはめぼしい遮蔽物もない。

 

 装備にも劣り、地の利もなく、人数でも負けている。不利にもほどがある。

 

 ここで選択肢が表示された。『銃を構える』と『逃げる』と『建物に入る』の三択だ。

 

 たとえ銃を構えて一人二人倒せたところで、見える範囲だけでも他にも隊員は四人いるし、おそらく今見えてないところにも隠れているはずだ。どうやっても相手が撃ち始める前にこれだけの人数の頭を弾くのは不可能だ。この場で反撃するのは無謀でしかない。

 

 『逃げる』と『建物に入る』で選択肢が分けられているということは、『逃げる』というのはこのまま歩道を走って逃げるということなのだろう。歩道には遮蔽物は街路樹や植木くらいしかない。高所を取られていて、かつ射線が複数通っているこの歩道を走って逃げたとして、銃弾の雨を躱し切るのは奇跡が起きない限り不可能だ。

 

 選択肢はもはや一つだった。選択肢の中から選ぶのではなく選ばされるというのは、あまり気分の良いものではない。

 

「お、お兄ちゃんっ!」

 

「これは立て篭もるしかないかな……。援軍もない戦況で籠城したって未来はないんだけど……」

 

〈他に逃げ道ない〉

〈射撃の腕を過信しない〉

〈ここは延命やね〉

〈外に活路はない〉

 

 裏口から出れるかどうかも確認できていない状態で建物の中に入るなんて追い込まれたも同義だけれど、外にいたら確実に蜂の巣にされる。

 

 仕方なく、奇襲してきた隊員がいた商店の中へとレイチェルを連れて入った。

 

 身を隠したとほぼ同時に四方八方から銃声が鳴り響く。商店の中に入らなければ確実に死んでいただろう、そう確信できるくらいの轟音だった。

 

「扉の近くだと危ないから奥に……っ」

 

「ぞっ、ゾンビっ……」

 

〈びくりしあ〉

〈びっくりした〉

〈なんでおんねん〉

 

 流れ弾や跳弾が怖いのでレイチェルを商店の奥へと移動させようと近寄ったら、連れて行こうとした商店の奥からゾンビが姿を現した。

 

 ふざけてる。何をしていたんだ、さっきの隊員は。どうしてちゃんとクリアリングしていないのだ。

 

 いや、商店の中で待機するなら必ずクリアリングはしていたはず。もしかしたらこの商店にはすぐには気づかない侵入口があるのかもしれない。だとしたらそこから脱出できるかも。

 

 そこまで現実逃避していると、またもや選択肢が現れた。

 

 今回は『レイチェルを隠す』と『ナイフを隠す』の二択だった。

 

「どういう……っ」

 

 ゾンビからレイチェルを守るのなら確実に『レイチェルを隠す』を選ぶべきだ。選択肢が『ナイフをしまう』なら銃に持ち替えるのかなと次の動作を想像もできるけれど、そうではない。ゾンビを排除するのに『ナイフを隠す』を選んでしまうとワンテンポ遅れる。

 

 理解に苦しむ選択肢が現れて思考にノイズが混じるが、これまで組み立ててきていた推測とゾンビの習性、選択肢の傾向を合わせて考え、決断する。

 

「ええっ?! ナイフ選ぶのっ?!」

 

「きっと……大丈夫なはず」

 

〈選択ミスか?〉

〈あえて選んだのか〉

〈アーマーも回復もないんだぞ〉

〈一発でも喰らったらやばい〉

 

 メタ読みになってしまうけれど、このゲームは戦闘になる時の選択肢はボタン入力のタイムリミットがとても短い。いつもよりタイムリミットが長かったということは、これは戦闘になるタイプの選択肢ではない、はずだ。

 

 体の後ろにナイフを隠す。

 

 これでゾンビに襲いかかられると確実に一手遅れる。アーマーも装備していないこの主人公であれば、ゾンビに先手を譲った時点で致命傷みたいなものだ。

 

 自分の推測は信じているけれど、それはそれとしてどんな操作を要求されるか画面を注視する。きっとゾンビが襲ってきてもアクションに移行してボタン入力になる、はずだ。信じてる。

 

「きゃあっ! やっぱりだめだったっ!」

 

 レイチェルと主人公の前にいるゾンビは弾かれるような速度でこちらに駆け出す。

 

「…………っ」

 

 信じた通りに選択肢が表示されるが、その内容はさらに頭を悩ませるものだった。

 

 選択肢は『銃に持ち替える』と『ナイフを振る』と『タックルする』の三つ。僕の組み立てていた推測からは外れる内容だった。

 

 しかし、前回に引き続き今回も選択肢を選ぶタイムリミットは長い。これまでの傾向と照らし合わせると、必ずしも戦闘に入るとは限らない。

 

 ぎりぎりまで悩み抜いて、覚悟を決めて、そして選んだ。

 

「え、ちょっ、お兄ちゃん?! なにしてるの?!」

 

「……どれも違うから」

 

〈おいおいおい〉

〈どうした悪魔〉

〈時間切れや〉

〈終わったか〉

〈違うてなんだ〉

 

 僕は悩み抜いて、そして選んだ。

 

 三つある選択肢のどれも選ばないという選択をした。

 

 だめなんだ。僕の考えている通りだとすると、()ゾンビに攻撃しちゃだめなんだ。

 

 何も選ばなかったらどうなるのかわからないが、僕は時間が切れるまでそのまま放置した。

 

「違うって……え?」

 

 放置したままでもイベントは進んだ。

 

 ゾンビはそのまま駆け寄り、棒立ちしている主人公を手で払いのけ、商店の出入り口へと全速力で向かう。そして、出入り口から侵入してこようとしていた特殊部隊の隊員へと掴みかかった。

 

「……っ、はあっ……よかった」

 

〈?〉

〈?〉

〈は?〉

〈どういうこと〉

〈選ばないとかあんのこのゲーム〉

〈まじかよ〉

〈見たことない〉

〈なんだこれ〉

 

「ど、どういう……? なんでゾンビに襲われなかったの?」

 

「元人間様には知能がある、っていうのは前回ショッピングモールでも話したよね? それの延長線の話なんだ。元人間様は、攻撃する相手に優先順位をつけてるんだと思う」

 

「優先順位? 主人公よりも先に兵隊を狙うように、って?」

 

「うん。おそらく、隊員さんたちはこれまで大量に元人間様たちを倒してきたんだよ。だから元人間様は何をおいてもまず真っ先に、隊員さんを排除しなきゃいけないって考えた。その結果、目の前にいる丸腰の主人公よりも、主人公の奥にいた銃を構えている隊員さんに襲いかかったんだ」

 

「……お兄ちゃんは、後ろにいた兵隊には気づいてたの?」

 

「え? うん。足音してたし」

 

「あの状況で足音聴いてたの……?」

 

「常に音を意識するのはね、ADZでは必須技能なんだ」

 

「マルチタスクにしかできないゲームなのかな?」

 

〈ゾンビに襲われないとかあんのか……〉

〈前回言ってたな〉

〈ゾンビの知能を利用して爆破してた〉

〈優先順位?〉

〈でも兄悪魔もやりまくったよな〉

〈悪魔も爆破で大量にぶちころがしたのに〉

〈なんでそれを共有できんだ〉

〈足音〉

〈あの状況で音にまで注意できねーよw〉

〈目の前のゾンビで精一杯だわ〉

〈黒兎の発言で一般獣涙目です〉

〈無茶言うなw〉

〈ADZのハードル爆上がり〉

〈黒兎の影響でADZ民は超人集団みたいな扱いされてるんですよ!?〉

〈ADZやってればこうなるのか?〉

〈ADZ民もこの風評被害には苦笑い〉

 

 ゾンビに襲いかかられた隊員はアサルトライフルを盾にしながら必死に抵抗して、その隙にピストルを抜いてゾンビの腹を撃っていた。だがその程度ではゾンビの力はそう簡単には衰えない。数発撃って動けなくなるまで損傷させれば絶命するだろうけれど、たとえ致命傷であろうと即死する傷でなければゾンビはすぐには行動不能にならない。腹部では足りない。

 

 片手で防いでいたせいで力比べに負けた隊員はアサルトライフルを払われ、首元に噛みつかれた。あとはもう、主人公のアパートの隣人と同様の末路だろう。死出の旅だ、行ってらっしゃい。

 

 隊員を旅立たせたゾンビもただでは済まなかった。追い討ちをかけるようにしばらくがぶがぶと噛んでいたが、出血量が限界に達したらしく隊員に重なるように倒れ込んだ。

 

「なんとかなったね。こんな賭けはなるべくならもうやりたくないや」

 

「なんでお兄ちゃんがそんな危ない賭けをやろうとしたのかわかんないけど……。お兄ちゃんなら銃を持ってゾンビ倒して、反転して兵隊もやれたんじゃないの?」

 

〈賭けで試すな〉

〈どんな度胸してんだ〉

〈銃でどっちも倒せそうw〉

〈ハート強すぎで草〉

 

「元人間様を攻撃したくなかったんだ。少なくともさっきの状況ではね」

 

「なんで今さら優しいっぽいことを。ショッピングモールで大量虐殺したのに……ていうか、そうじゃん! 大量虐殺したのになんでゾンビはお兄ちゃんを襲わなかったの? 兵隊たちがどのくらい倒してきてるかはわかんないけど、一人でショッピングモールのゾンビ全滅させるくらいに倒す人間なんて一番危ないでしょ!」

 

「あれをやったのは僕、というか主人公じゃないからね」

 

「……え? いやいや……そうはならないでしょ」

 

〈そうやん〉

〈モールで惨劇生んどるんよw〉

〈一番の危険人物で草〉

〈一人で全滅させるやつが一番ヤベェのよ〉

〈などと供述しており〉

〈犯行を認めないw〉

〈あの時は悪魔に囁かれて……悪魔本人やったわ〉

〈リスナーに指示されたからなw〉

 

「あの大量虐殺の惨劇を生み出したのは『フードを目深に被った恰幅の良いポンチョ姿の男』であって、主人公じゃないんだ」

 

「……ああ! そういえばそんなこと言ってた! ゾンビからのヘイトを全部受け持ってもらうとかなんとか!」

 

「そういうこと。元人間様目線なら、あの危険人物はショッピングモールで自爆したんだ。だから主人公自身にはヘイトは向いていないんだよ」

 

「そこまで考えてたの?!」

 

「いや、あの時はショッピングモールを抜けることだけを考えてたから偶然だよ。結果的にこうなったってだけ。僕だって知らないことまではわからないんだから」

 

「ほんとかなあ……」

 

「どうして疑うのさ。本当だよ」

 

〈祭りを望んだリスナーの責任〉

〈フード!〉

〈被ってたなぁ!〉

〈繋がんの?〉

〈どんだけ読んでんだよ……〉

〈ぜんぶわかってそうなんだよな〉

 

「またイベントだね」

 

「このあたりって礼ちゃんがやった時とストーリーは同じ?」

 

「ステージ自体は同じだけど、話は私の時とは違う展開になってる。どうなるのか楽しみっ!」

 

「ハッピーエンドで終われると良いよね」

 

〈進み具合的にはもうちょいか〉

〈なにエンドになるんだ?〉

〈縛りプレイにもほどがある〉

〈こんなんほかに誰ができんねん〉

 

 息絶えた隊員から何か装備を漁れないだろうかと近寄ると、また新たなイベントが発生した。このゲームも終盤に差しかかっているらしいし、イベントラッシュなのかもしれない。

 

 隊員が持っている無線機から声が聞こえていた。覆い被さっているゾンビを横たわらせ、無線機を手に取る。

 

 無線機からは逼迫(ひっぱく)した声色で大量のゾンビがその地に向かっている、という報告がされていた。

 

「……まずくない? 今のうちに逃げたほうが……いや」

 

「うん。この場を離れるのはその大量の元人間様がここに到着してから、だね。さっき見た通り、元人間様は主人公よりも先に隊員さんを狙う。この街の至る所にいる隊員さんを元人間様に相手してもらっている間にレイチェルを連れてこの場を離れよう」

 

〈ゾンビに片づけてもらうのか〉

〈バケモンにはバケモンぶつけんだよ〉

〈こんなやり方あんのか〉

〈これってサイトに載ってんの?〉

〈少なくとも配信では観たことないな〉

〈兄悪魔が一番バケモン定期〉

〈バケモンの三つ巴なのよねw〉

〈まさかのゾンビが増援とは〉

 

 ゾンビの群れがきて隊員たちと戦い始めるまではこの商店で籠城だ。レイチェルを店の奥に連れて行って物陰で屈んでいてもらう。

 

 建物の中に逃げ込んだ相手には投げ物を使うと相場が決まっているのだ。グレネードが飛んできても逃げれるような位置を取りつつ、銃を構える。

 

 定石通りで予想通りに小さい物体が投げ込まれた。からんころんと音を立てて転がってくる。

 

「投げ物! グレ?!」

 

「違う。スタングレネードだ。……ん」

 

「わあっ! 撃てるんだ?!」

 

「試しで一発やってみたけど、撃ち抜いたらキャンセルできるみたいだね。良心的なシステムで助かるよ」

 

「いや……当てれるんだって意味なんだけど……」

 

〈立て篭もった敵にはグレ〉

〈FPSの基本だな〉

〈見分けつくのかよ……〉

〈なんでわかんねん〉

〈なんで撃てんねん……〉

〈頭より小さい投げ物をフリック一発は草〉

〈撃てるんだってそういう意味じゃないw〉

〈草〉

〈キャンセルできんだな〉

〈当てれたらの話〉

〈当てにいくより目を逸らしたほうがふつうは安全なんだけどな……〉

〈力業でどうにかする悪魔〉

 

 店内に入ろうとするなら出入り口しかないが、歩道に面している壁はガラスが嵌め込まれている部分もある。銃弾を撃ち込むだけならガラスの部分からでもできる。

 

 どこから顔を出してきても対応できるよう壁の両端のちょうど中間にエイムを置いておく。これなら壁の右端左端どちらからピークされても撃ち抜ける。

 

「フリックでヘッショっ! お兄ちゃんかっこいーっ!」

 

「あははっ、盛り上げ上手だなあ礼ちゃんは」

 

〈反応早すぎて草〉

〈相手が撃ってくる前に撃っとる〉

〈エイムびたびたやんw〉

〈吸いついとる〉

〈チート使ってるって言われたほうが安心すると思ったのは初めて〉

〈オートエイムみたいな吸いつき方で草枯れる〉

〈同時にピークしない特殊部隊が悪い〉

〈そら盛り上がるw〉

〈きゃっきゃしとるw〉

〈お嬢が楽しそうでなによりw〉

〈レイラ嬢はしゃいでらっしゃるw〉

 

 問題なく隊員は退けることができているけれど、どうにも違和感を拭えない。

 

 投げ物はある程度の頻度で投げてきているけれど、どれもスタングレネードだ。フラググレネードは投げてきていない。ただ目撃者を始末したいだけならフラググレネードをぽいぽい投げ込んだほうが早いだろうに。

 

 それにゾンビの大群が押し寄せてきていると連絡があったはずなのに、特殊部隊は撤退しない。どれだけ装備が優れていたとしても、相手は命知らずのゾンビだ。仲間が目の前で倒れようと構わずに迫りくる死の暴徒だ。数で押し潰される。

 

 特殊部隊の任務が目撃者を消したいだけなら放っておいてもゾンビがやってくれる。

 

 だというのに特殊部隊が無理をしてでも攻めてきているのは、下されている任務が目撃者の始末とかそんな瑣末(さまつ)なものではないからだ。

 

「……アドミニストレーター。なるほどね」

 

 だいたい読めてきた。

 

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