サイコバグなお兄ちゃん、Vtuberになる。   作:にいるあらと

95 / 102
「礼ちゃんのほうが大切だよ」

 

「……アドミニストレーター。なるほどね」

 

「え? なになに?! なにがなるほどなの?!」

 

「それは進めてからのお楽しみだよね。人間様も一緒に、みんなでストーリーを楽しもうね」

 

「なんでなんで?! なにか見当ついたんでしょ! 教えてよお兄ちゃん!」

 

「きっと最後のほうには説明してくれるだろうし、僕の口から説明するよりよっぽどいいよ」

 

「教えてよーっ! この進み具合だと最後のステージはまた次の配信になっちゃうじゃんっ!」

 

〈なにがわかったんだ〉

〈教えてー〉

〈頭回るとかってレベルじゃない〉

〈マジで読めたんか?〉

〈やばすぎ〉

〈戦闘中によく考えれるな〉

〈今日最後までは難しいか〉

 

「それじゃあ次の配信も礼ちゃんにはきてもらうことになるね」

 

「むーっ、んーっ、むーっ!」

 

「ちょ、ちょっとっ、礼ちゃんっ。腕、腕揺らさないでっ。エイムが、エイムが乱れるっ……」

 

〈レイラ嬢次回も内定〉

〈お嬢次もやねw〉

〈結局アドミニ配信全部くることになりそうで草〉

〈かわいいw〉

〈かわいすぎ〉

〈だだっこw〉

〈お嬢かわいい〉

〈草〉

〈かわいい〉

 

 ピークしてきた隊員の頭を弾き、礼ちゃんを落ち着かせ、投げ込まれるスタングレネードを壊し、礼ちゃんをあやし、侵入してこようとした隊員を撃ち殺し、礼ちゃんを宥める。

 

 別に嫌がらせで隠しているわけではない。僕から中途半端に教えてしまったらラストの感動が薄まってしまうだろうからという配慮なのだ。ここまで観続けてくれたリスナーさんにも申し訳がないので黙っておきたいだけなのだ。理解してもらいたい。

 

「はい、礼ちゃん静かに」

 

「あうゅっ……っ、んんっ……」

 

 冷静になってもらうために、というよりも暴れないようにさせるために、コントローラーを礼ちゃんのお腹に密着させ、背中を丸めて礼ちゃんの側頭部に僕の顔を寄せる。強引に動けないようにさせた。あんまり暴れると礼ちゃんが椅子から落ちるかもしれないからね。

 

〈どうなんてるんせう〉

〈なになになに?〉

〈なにやってるんですお二人?!〉

〈どういう体制か教えても粗利りえ〉

〈てぇてぇ〉

〈てl〉

〈てぇてぇ〉

〈悪魔兄妹しか勝たんのよ〉

〈ずっと仲良くしてもろて〉

 

「礼ちゃんが暴れるので動かないように抱きしめてるだけですよ。……遠くでアサルトライフルの銃声がしますね。数も多い。元人間様が大挙して押し寄せてくるという例の件がようやく始まったのかもしれません。そろそろここを出る準備をしましょうか」

 

〈だきしめ?〉

〈だっは〉

〈?〉

〈リスナー何人かしんでないか?w〉

〈これは破壊力がすごい〉

〈ゆきねさんここ頼みます〉

〈『ゆきね:手描き切り抜きチャンネル』描くしかない〉

〈だれかイラスト描いてくれ!〉

〈ファンアートたのむよ!後生だから!〉

〈大丈夫だ我々にはゆきねさんがいる〉

〈ゆきねさん!〉

〈頼もしい神がいた!〉

 

「んー……。がんばれー……」

 

「礼ちゃん? 寝ないでね?」

 

「んー……ねないよー……」

 

〈お嬢おねむw〉

〈かわいい〉

〈レイラ嬢かわいい〉

〈安心感がちげーのよ〉

〈兄悪魔の懐で寝落ちw〉

〈かわいすぎ〉

〈『ゆきね:手描き切り抜きチャンネル』くふっ……〉

〈ねむねむw〉

〈とろけてて草〉

〈ゆきねさんやられたw〉

〈死因尊死〉

〈威力高すぎ〉

〈ゆきねさん殉職w〉

 

 商店の中からでも見えるくらい、数体どころか数十体と道路にもゾンビが溢れて、今なお増えている。サウンド的に隊員たちはゾンビの侵攻を喰い止めようとして撃ち続けていたのだろうけれど、とても止められるような数ではない。

 

 これならもう隊員たちは僕らにちょっかいを出せないだろう。ちょっかいを出そうとしてこちらに注意を向けようものなら、その瞬間に横面をぶん殴られるようにゾンビに喉笛を噛み切られることになる。

 

 安心材料としては必要十分なので特殊部隊の方々のお相手はゾンビたちにお任せし、僕は店の奥で待たせていたレイチェルに話しかけてついてきてもらう。

 

「あ、礼ちゃん礼ちゃん。ゆーさん観にきてくれてるよ」

 

「ゆーならどうせ今日も最初から観てるよ。ふだんROMってるだけで」

 

「……それもそうか」

 

〈コメント気づいた〉

〈よくこのコメントの量で見逃さないな〉

〈こんだけ戦っててコメント見る余裕があるの?w〉

〈どうせw〉

〈どうせ草〉

〈なんで小豆先生もゆきねさんもROMってんだ……〉

〈リスナーとしてのエチケットもしっかりしとる〉

〈もっと不用意にコメントしてもろて〉

〈納得しちゃうんだよねw〉

 

 商店の外に出ると、なかなかどうして凄惨な有様だった。

 

 建物の二階や三階でも銃声が轟いている。ぱぱぱっとマズルフラッシュが連続したかと思えば、ぱたりと音沙汰がなくなる。中にいた隊員はやられてしまったのだろう。複数のゾンビと室内戦はあまりにも相性が悪い。

 

「……建物の壁を這うなんてこともできたのか」

 

 建物の高層階にいればかなり時間を稼げるのではと思っていたのだけど、ゾンビは建物の壁に取りついて力任せによじ登っていく。文字通りに人間離れした筋力をしていればできないことはないのか。ゾンビじゃなくてもできる人間だっているのだし。

 

「あんなのもうずるいよね。建物の中に閉じこもることもできないじゃん……」

 

「部屋の中にいるのが隊員さん一人だったとしたら、警戒しなきゃいけないポイントが増えるとどうしたって苦しいね」

 

 違う建物では屋上で戦闘になっている。一体を倒す前に二体、三体と続けて攻め寄ってこられるのでどんどん後退していったようだ。道路から姿が見えるくらいぎりぎりまで下がっている。掴みかかられたところでさらに後ろに下がろうとして、段差に踵が引っかかったらしい。ゾンビに押された勢いに加えて足を引っかけて、バランスを崩して屋上から落っこちた。

 

 落っこちた隊員の真下には、同じく特殊部隊の人たちが三人いた。その三人は壁に背中を預け、分担して銃を構えて死角をなくしていたが、大変不運なことに三人のうちの一人に落下してきた隊員が接触した。そこまで高い建物ではなかったので落ちた隊員も、落ちてきた隊員に押し潰された隊員ももしかしたら死んではいないかもしれない。でも、どちらもそこで死んでいたほうがましな思いをすることになるのは確定した。三人で死角を潰し、フォローし合っていたことでようやく保たれていた均衡が崩壊した。砂浜に作った山が寄せる波で崩れるように、徐々に近づかれて弾切れを起こし、ゾンビの波に呑まれた。

 

「……あらら、なんとも運の悪い……。結局のところ、数があまりにも違うので頭を狙って弾の消費を減らしつつ後退するしかないんですよね。足を止めた時点で肩まで沼に浸かっているのと同じなんですよ。ご愁傷様です。ご冥福をお祈りします」

 

「ヘッドショットが当然みたいな言い方やめて。お兄ちゃんならどうする? あの状況」

 

「今の装備でああなったら終わりだから、ああいうふうに囲まれないように立ち回りを考えるかな。特殊部隊側で考えるとしたら、元人間様が大量に押し寄せると聞いた時点で撤退するし、撤退が許されないならなるべく部隊の人間を一箇所に集めるかな。元人間様の強みはなんといってもその数なんだ。分散して配置するのは対人間には有効かもしれないけど、元人間様相手には各個撃破されちゃうから悪手だね」

 

「集めて弾幕作るってこと?」

 

「それもあるけど、正面で戦う人と回り込まれていないか様子を見る人、リロードとかで交代する人って感じで役割分担して、隙をなくすために配置したいね。まあ、この光景を見ると殺し切る前に弾が尽きそうだけど」

 

〈ヘッショが常識になっている悪魔は言うことが違う〉

〈まぁ追い込まれた時点で秒読み始まってるよね〉

〈人力チート使いは簡単に言ってくれる〉

〈お嬢の前だとさらにヘッショ速度上がるからなw〉

〈立ち回った結果の今だから説得力ある〉

〈特殊部隊は装備はいいのに腕が悪い〉

〈悪魔の腕が異常定期〉

〈固まってりゃ違ったのかな〉

〈三段撃ちみたいなもんか〉

 

 ゾンビたちに特殊部隊の相手をしてもらおうなどと考えていたけれど、このままでは早々に隊員を全員喰い尽くしてしまいかねない。

 

 主人公のほうが排除する際の優先順位が低いだけであって、優先順位の高い特殊部隊が全員いなくなってしまえばいずれこちらも狙われかねない。早くこのマップのゴールに向かわなければ。

 

「小さい礼ちゃん、ゆっくりでいいから進もうね。こっちだよ。……なんでこういうところに限って選択肢が出ないんですかね、このゲーム。他の部分も細かいんですから『おんぶする』みたいな、小さい礼ちゃんを気遣うような選択肢も出してくださいよ……」

 

「これまで選択肢で怒るところたくさんあったはずなのに唯一怒るところそこなんだ」

 

〈レイチェルへの声優しすぎてとける〉

〈選ばない選択肢でも怒らなかったのにw〉

〈怒るところ特殊すぎんか?w〉

〈レイチェル至上主義過激派〉

〈草〉

〈甘やかすなw〉

〈大事にしすぎやろw〉

〈絶対ここに選択肢いらんくて草〉

〈戦闘になったらどうすんのw〉

 

 指示されたポイントへ進むとガソリンスタンドがあった。ここでどうしろと、と思ったら車が用意されている。どなたの車かは存じ上げないけれど、ここに捨て置かれているということはきっと所有者はすでにお亡くなりされていることだろう。それならこちらで有効活用させていただこう。

 

 しかしなんだろう、次は特殊部隊の人たち相手にレースゲームでもするのかな。

 

「なるほど。車に乗って移動し……ここから先の道が塞がっていないとも限らなくない?」

 

 これなら少しはレイチェルを休ませてあげられる、などと一瞬のんきなことを考えてしまった自分が恥ずかしい。

 

「おー。お兄ちゃんってばすぐ気づいちゃうんだ」

 

「だって、ここまでわざわざ小さい礼ちゃんに歩いてもらったのは、車が横転してて道が塞がってたからだからね。そのせいで無駄に体力を使わせちゃったんだよ。そりゃあここから先、車が通れるだけの道が用意されてるのかって疑うよね」

 

「あははっ。そうなんだよね。車が使えなかったから歩いてきたのにね。私がやった時はまったくなにも思わずに乗ったのになー。でも安心して、お兄ちゃん。車は乗っても大丈夫だよ。ていうか、乗らないとストーリー進まないから」

 

「ああ、そうなんだ。よかった、安心したよ。ありがとね」

 

〈たしかにw〉

〈それはそう〉

〈車使えたらここまで車できてるんだよなw〉

〈俺やった時はなんも思わんかったw〉

〈さすが考察班〉

〈レイチェル守るために神経尖らせてんなw〉

 

 もし車に乗って進んだ場合、後ろから特殊部隊の方々に追いかけられ、進路は横転した車に阻まれ、挟まれてゲームオーバー、みたいなことが起きるんじゃないかと疑ってしまった。さすがにそんな血も涙もない初見殺しのような所業はしてこないか。それはそうか。

 

「いいの。ただ……えっと、教えてあげたからってわけじゃないんだけど……その、奥のほう、見てもらえない?」

 

「奥?」

 

 視点をすっと動かすと、ガソリンスタンドの奥にバイクがあった。

 

「バイクで……やってみてくれない?」

 

「バイク? いいけど、何か違いがあるの?」

 

「攻略サイトとか見た限りでは……結果にはなにも影響しないって話だね」

 

「バイクでも車でも変わらないんだ。操作感が変わるだけなのかな」

 

「操作方法もそうだし、難易度も変わる……かな?」

 

〈バイクやらすんかw〉

〈見てみたくはある〉

〈悪魔なら行けそうなんだよな〉

〈むずいぞ〉

〈まぁミスってもやり直しできるし〉

〈ノーミスクリア見たい気持ちとバイクルートやってほしい気持ちどっちもある〉

 

「……まあ、運転するところもプレイヤーがやるってなったら……きっとそういうことだよね? ある程度カーチェイスチックなあれこれがあったり、運転しながらの銃撃戦があったりなかったり?」

 

「そうだね。まるっきりそういうのがあるね」

 

「……じゃあ車のほうが良いんじゃない? 絶対に車のほうが安全だよね? バイクだと後ろに乗ることになる小さい礼ちゃんも寒い思いをするだろうし」

 

〈たしかにレーシングってよりカーチェイスだわなw〉

〈バイクのほうが銃狙いやすいって利点はある〉

〈バイクだと銃撃ちやすいほかはデメリットしかないからなー〉

〈草〉

〈レイチェルの心配で草〉

〈バイクは寒いぞーw〉

〈冬のバイクは地獄だからな……〉

 

 ゲームの結末にも影響がなく、ただ危険度が上がるだけなのであれば、僕は車を選びたい。

 

 今のルートはわりと難しめのルートらしいけれど、僕は難しいルートをやりたかったわけではなく、やりたいようにやったら結果的に難しいルートになっていたというだけなのだ。僕は限界ぎりぎりくらいの難易度に挑戦しないと生の実感が得られないとかそういうタイプではない。

 

 簡単快適に進める方法があるのならそちらを選ぶ。

 

「そう、そうなんだけど……。バイクでクリアするお兄ちゃんを見たいってだけで……」

 

「それならバイクで行こうか」

 

〈お嬢しょんぼり〉

〈レイラ嬢が尊い〉

〈意見変えるのはえーw〉

〈さすが兄悪魔よ〉

 

「えっ! いいの?! なんにも、ほんっとになんにも変わらないらしいよ? 銃撃ちやすかったり障害物躱しやすくはあるけど、車と違ってぶつかってこられたらすぐこけるし、撃たれても防げないし……」

 

「デメリットばっかりじゃないならいいんじゃない? 一長一短あるってことでしょ」

 

〈障害物も避けやすいか〉

〈バイクの操作に慣れてりゃいけるけど〉

〈むずいぞー?〉

〈相当細かいぞ操作〉

〈ギアチェンジくそ大変だけど大丈夫か〉

〈銃防げないのがきついんよ〉

〈兄悪魔ならやってくれるんじゃないかっていう勝手な期待〉

 

「で、でも……お兄ちゃんが大切にしてるレイチェルが寒がるかも……」

 

「レイチェルより礼ちゃんのほうが大切だよ」

 

「……あ、あり……あ、ありがと」

 

「どういたしまして。といっても、ここから先は次回に持ち越しかな」

 

〈わあ〉

〈くわ〉

〈死んで成仏して転生したあともう一回死ねるくらいの威力〉

〈言われたい〉

〈うわああああああああ!〉

〈自分もこんなん言ってくれる兄がほしかっただけの人生だった〉

〈レイラさんお兄さんを私に……いえどうかお幸せに〉

〈少女マンガやん〉

〈二人で完成されてる〉

〈世界はこんなにも美しい〉

〈なんでその速さで返せる〉

〈当然みたいに言うな惚れる〉

〈慣れたと思ってたのにイケボが刺さった〉

〈悪魔兄妹は心臓に悪い〉

〈ここまできて次回?!〉

〈この気持ちどう処理したらいいの〉

 

 配信時間もいい具合に経っているし、もう一マップ進むと長くなってしまうだろう。このあたりで終わっておいたほうがきりがいい。

 

「それじゃあ小さい礼ちゃんをバイクに乗せ……ん?」

 

 妙に強調されていた気がする足音を聴き取り、そちらへと目を向ける。

 

 特殊部隊の隊員、その生き残りが目測七十から八十メートルくらいの距離にいた。

 

 聴覚の鋭敏さには自信があるけれど、さすがに付近でこれだけ大勢のゾンビが走り回っている状況下で、八十メートル弱も離れた足音を的確に拾う自信はない。これはゲーム制作側の何かしらの意図なのか、それとも単純にサウンド面のバグなのか。

 

 よくわからないけれど、とりあえず銃を構え、撃った。

 

「この距離をピストルで狙撃……すごいけど、倒さなくても逃げれてたよね? どうしたの?」

 

「これといって理由はないんだけどね。小さい礼ちゃんを安全にこの街から脱出させられるのは一応元人間様のおかげだから、手が届く分くらいは恩返ししておこうと思ってね」

 

〈ついでみたいに遠距離ヘッショすなw〉

〈見かけたから摘んだw〉

〈弾道完璧か〉

〈恩返しだったんだ〉

〈兵隊への嫌がらせかと〉

〈籠城してた時にいじめられたから仕返しかと思ったw〉

〈悪魔の手は長い〉

 

 視線の先の隊員が手にしていたピストルでゾンビを撃とうとしていたから、先に僕が隊員の頭を撃ち抜いておいた。

 

 ヘッドショットで一発すこんと撃たれた隊員は、頭だけでなく体ごと仰け反った。引き金は引かれていたが仰け反ったせいで銃口が上がり、ゾンビの頭をぎりぎり掠めただけに留まる。

 

 気持ちの問題でしかないけれど、これで義理は果たせたと言ってもいいだろう。

 

 満足して銃をしまうと、撃たれそうになっていたゾンビがこちらに振り向くのが見えた。

 

「こ、こっち見ちゃったよ! お兄ちゃんっ!」

 

「睨まれちゃったね。はい、逃げます」

 

〈うわ〉

〈草〉

〈完全に目が合った〉

〈こっち見てて草〉

 

 余計なお世話はここまでにして、そそくさとレイチェルをバイクの後ろに乗せる。そういえばこのバイクの鍵持ってないや、と内心焦ったが不用心なことに鍵はささったままだった。

 

 探しに行く手間は必要ないようだ。気の利いたゲームである。

 

「お兄ちゃん急いで!」

 

「大丈夫大丈夫。わ、ギアチェンジもやらなきゃいけないんだこれ。これがアクセルで、こっちがブレーキで、ギアチェンジがこれで、クラッチが……」

 

「あ、あっ、足音近づいてないっ?! お、おにっ、おにっ……」

 

「鬼じゃないよ、ゾンビだよ」

 

「知ってるよ! 前も聞いたよ!」

 

〈お嬢テンパるw〉

〈ホラー苦手だもんねw〉

〈兄はマイペースで草〉

〈操作方法は確認しとかんとね〉

〈半クラだるすぎ〉

〈足音したかな?〉

〈レイラ嬢恐怖で幻聴が聞こえる〉

〈鬼w〉

〈前も言ってたなw〉

〈好きだねそれw〉

 

「自分のバイクでもないしクラッチが壊れたっていいんだけど、後ろに小さい礼ちゃんが乗ってるからゆっくりスピード上げていこうかな」

 

「後ろのレイチェルよりもまず前にいる私に優しくしてっ!」

 

〈他人のバイクだからってw〉

〈考え方が悪魔で草〉

〈お嬢必死の嘆願w〉

〈妹悪魔を優先しないとw〉

〈レイチェルの優先度が高いのよw〉

 

「はーい出発しまーす。しっかり掴まっててねー」

 

「う、うっ、はあーっ……抜けれたー……」

 

 バイクで勢いよく発進して、そこで画面が切り替わる。ここでオートセーブがされているはずなのでセーブの完了を待ってからタイトル画面に戻った。

 

「今日の配信はここまでですね。『administrator』でした。おそらく次やる時には最後まで行けるかな? もうだいぶ終盤らしいし」

 

「そうだね。あとはもうカーチェイスと……っと危ないっ。ネタバレするところだった!」

 

「ストーリーの展開自体は細部が変わっているみたいだし、そこまで気にしなくてもよさそうだけどね。人間様も、内容を知っている方もいらっしゃったでしょうに自制してくださりありがとうございます」

 

〈あー終わりかー〉

〈次でアドミニもラストか〉

〈シリーズでいつまでも続いてほしかった〉

〈悪魔兄妹のアドミニ楽しいんだよ〉

〈FPSより雑談の比率も多いしな〉

〈危ないw〉

〈ネタバレはだめだぞー〉

〈こんなルート知らないからネタバレもできない〉

〈ちなみに知らない〉

〈わざわざ礼言ってくれるとこ悪いけど知らないんだ〉

〈知ってるやついなくて草〉

 

「んー、リスナーさんも知らないみたいだね。ある意味ネタバレが絶対に起きない状況だよね」

 

「あははっ、そんなことないよ。きっと僕に気を遣わせないように『知らない』って言ってくれてるんだよ。情報サイトや他の配信者さんのところで観た人は絶対にいるはずだからね」

 

「そうかなあ?」

 

〈草〉

〈まじで草〉

〈マジで知らんくて草〉

〈他のとこでもこんなルート選ぶやつなんていなかったんだよな〉

〈ただでさえむずいのにこんなルートできるわけねーのよ〉

〈悪魔が涼しい顔でクリアしてんの信じられん〉

 

「さて、時間が遅くなっちゃうしこのあたりで配信を閉じようかな。今日も配信を観てくださりありがとうございました。次『administrator』をやる時にもきていただけると嬉しいです」

 

「お兄ちゃんの配信にきてくれてありがとうございました! きっと次の『administrator』配信でも私がお邪魔することになると思います! よろしくお願いします!」

 

「おもしろかったなーと思っていただけましたら兄妹ともどもチャンネル登録や高評価、SNSのアカウントのフォローなどよろしくお願いいたします」

 

「そうだそうだ。概要欄のところに専属切り抜き師のmellowさんのチャンネルのリンク置いてます。手描き切り抜きをやってくれてるゆーのチャンネルも並べて貼ってますので、一度動画を観てみてください! よかったなーって感じたらチャンネル登録などお願いします!」

 

「それじゃ、いつもの挨拶かな?」

 

「やったー! こほんっ……『New Tale』の悪魔兄妹! 妹のほう! レイチェルよりも私のほうがお兄ちゃんに愛されてることを再確認できて内心ご満悦の嫉妬の悪魔、レイラ・エンヴィと! 使えるものはゾンビでも使う、バケモンにはバケモンをぶつけんだよの精神で結果的にどちらの勢力も削って一人勝ちしたー……こちら!」

 

「『New Tale』の悪魔兄妹、兄のほう。敵の命は必要経費がモットーの憤怒の悪魔、ジン・ラースでした」

 

「わーっ! ありがとうございましたー! おやすみなさーい!」

 

「ご視聴ありがとうございました。またお会いしましょう。それでは良い夢を」

 

〈おやすみですー〉

〈お兄ちゃんさんが一番バケモンで草〉

〈おつかれさまでしたー〉

〈やっぱ小さいレイちゃんより大きいレイちゃんよw〉

〈嫉妬の悪魔の面目躍如で草〉

〈楽しかったよー〉

〈いつものきたー!〉

〈お疲れ様っした〉

〈おもしろかった!〉

〈おやすみなさいは言わないの草〉

〈二人のコラボはこれがないと〉

〈必要経費w〉

〈おやすみなさい〉

〈やっぱ悪魔ですw〉

〈次も必ずきます〉

〈おつですー〉

〈おやすみー!〉

〈配信ありがとう!おやすみ!〉

 

 観てくれたリスナーさんへとお別れの挨拶を二人でして配信を閉じた。最近は配信を観にきてくれている人も増えているし、コメント欄も賑わっていた。もしかしたら見逃しもあるかもしれないけれど僕が確認していた限りでは乱暴な、有体に言ってしまえば荒らしのようなコメントもなかった。

 

 一時期はできなかったことだし、こういった平和な配信がいつまでも続けられると嬉しい。

 

「ありがとね、礼ちゃん。配信につき合ってくれて」

 

 いまだに僕の足の間に収まっている礼ちゃんに感謝を伝える。

 

 悪魔兄妹の二人で『administrator』の続きをしてほしいとリスナーさんから要望はあったけれど、何より僕が礼ちゃんと一緒にやりたいと思ったから誘ったのだ。

 

「私も楽しかったからぜんぜんいいよ! お兄ちゃんのプレイは観てるだけでわくわくするからね!」

 

 礼ちゃんは椅子から降り立って、笑顔で僕に振り向いた。艶やかな黒髪がふわりと弧を描くように広がる。天使かな。天使だった。

 

「そう言ってもらえると嬉しいな」

 

「勉強もそこまで切羽詰まってるわけじゃないしね。いい息抜きになったよ」

 

「なにかわからないことがあったらいつでも言ってね」

 

「うんっ! それならさっそくこれから……あ」

 

 礼ちゃんの言葉を遮るように、コミュニケーションアプリにメッセージが入った。

 

 視線がPCのモニターに向かい、礼ちゃんは僕を見て口を閉じた。

 

「いいよ、礼ちゃんの話を聞いてからで」

 

「だめだよ。つい最近できたお友だちからなんだから」

 

 礼ちゃんはモニターに目を向けていたので誰から届いたのか見ていたようだ。

 

 すたたたっ、と軽やかに僕の背後に回った礼ちゃんは、僕の肩に手を置いてゲーミングチェアを回転させてモニターに向けさせた。強引である。

 

「ん、ごめんね。……ちょっと待ってね」

 

 早くメッセージをチェックしろと遠回しに言われた気がしたのでまずは届いたメッセージを確認する。

 

 送り主はやはり壊斗さんだった。

 

 メッセージを読んで、僕は思わず苦笑いを浮かべた。

 

「あ、あの……礼ちゃん。本当に申し訳ないんだけど……」

 

 くす、と礼ちゃんは呆れたように笑う。

 

「うん。私はいいから。勉強で困ってる部分もとくにないし。せっかくなんだから、お兄ちゃんは楽しんできて」

 

 礼ちゃんのお願いならなんでも聞くつもりでほんの十数秒前に『いつでも言って』と口にした手前居た堪れない思いではあるのだけど、礼ちゃんは快く送り出してくれた。

 

 まさかこんなタイミングでくると思わなかった。今回は礼ちゃんの気遣いに甘えさせてもらおう。

 

「ありがとう、礼ちゃん。お呼ばれされたことだし、行ってくるよ」

 

 壊斗さんからのメッセージ。その内容は、とあるゲームへのお誘いだった。

 




ということで、悪魔兄妹による『administrator』配信でした。
正直に言うと読者様からの『administrator』への期待がかなり高かったので期待に応えられるようなクオリティに仕上がっているのかとても不安でした。楽しんでもらえてたらうれしいです。

お兄ちゃん視点はここで終わって、次は壊斗さん視点に変わりまして別のゲームをやります。よろしくお願いします。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。