サイコバグなお兄ちゃん、Vtuberになる。   作:にいるあらと

96 / 102
二章『exodus』
〈あかいつき〉


「だからっ……朱莉! 先に木ぃ切らねーと動けねーんだって!」

 

『うるさいなーっ! かいとくん細かすぎるんだけどーっ! 加工しないと木材動かせないでしょーっ!』

 

「原木の状態でもトラックは通れるから! すぐ後ろに影迫ってんだからまずは木ぃ切って通れるように……美月ぃっ! サボんなーっ!」

 

『いや、もう詰んでるでしょ。それなら体力回復しとこっかなって』

 

「最後まで諦め……あぁ、呑まれた……」

 

〈草〉

〈このメンツで協力は無理ゲー〉

〈詰んでるんだよな〉

〈草〉

〈諦めは草〉

〈クリアできる未来が見えないw〉

 

 どこまでも要領の悪い朱莉と諦めの早すぎる美月に文句を言っている間に、俺が運転するトラックは後方から迫っていた影に呑み込まれた。ゲームオーバーだ。

 

『ちょっとーっ! トラックはかいとくんしか運転できないんだからさー、ちゃんとやってよー』

 

「やってただろうが! 一番働いてたわ! お前がちゃんと道作らねーからだろ!」

 

『うわー……出た出た。失敗したら自分は悪くない、自分はちゃんとやってた、って言い訳するやつだ。みんなちゃんとそれぞれ働いてるんですけどー』

 

「言い方はよくなかったかもだけど実際その通りだろうが! てか、朱莉はやることの順番が間違ってただけで働いてはいたけど、美月はマジで最後働いてなかったじゃねーか! 諦めてただろ!」

 

『みっきのこといじめないでよ! みっきは砕ける岩がもうなかったからスタミナ回復してただけじゃん! やることがなかっただけなのに働いてないなんてひどいよ!』

 

『ちょっと。朱莉は間違ってないんだけど。木材作れなきゃ結局あの先に進めなかったんだよ。それに手持ち無沙汰になったわたしにやることを作ろうと思って朱莉は加工してたの』

 

「うるせーうるせー! 二人で肩組んでんじゃねーよ!」

 

『もっと言い方優しくすればいいのにっ!』

 

『壊斗、わかってる? これ協力ゲーなんだけど』

 

「ならちょっとは俺にも協力して優しく言えやっ!」

 

 俺は今日生意気な後輩二人、蛍火(ほたるび)朱莉(あかり)宵闇(よいやみ)美月(みつき)とコラボ配信していた。

 

 やっているゲームは『exodus(エクソダス)』というリアルストラテジーとかローグライクの要素のあるパーティゲームだ。護衛対象のトラックを守りながら、山を越え谷を越え、木を切り岩を砕き、時には襲ってくる野生動物を狩り、這い寄ってくる影からどこまでも逃げていくゲームである。

 

 それぞれ木を切る役だったり岩を砕く役が決まっていて、各々協力し合いながら進めるゲームなのだが、この後輩二人とのコラボに協力ゲームを選んだのがそもそもの間違いだった。前にやった『Practice of evolution』ではどんな目にあったか、俺には経験があったはずなのに。

 

 いつもなら多少進みが悪かったとしても口うるさく言うことはしないが、今日は困るんだ。今日はだらだら進められると困る。

 

 明日は案件が入っていて、午前中に打ち合わせがある。早めに寝ておきたい。

 

 なのにこいつらときたらいつまで経っても真面目にやろうとしない。この間どこに出かけただの、最近これにはまってるだの、前遊びに行った時に立ち寄ったカフェのケーキがとてもおいしかっただの、ゲームの報告や情報共有そっちのけで雑談を繰り広げる。それを俺が注意すれば二対一の構図を作って口数で反抗してくる。

 

 このままだとクリアできるまで延々と続ける耐久配信になってしまう。さすがにやってられない。

 

「もういい。お前ら不真面目過ぎる。助っ人呼ぶわ。あいつならきっとすぐにきてくれるはずだ」

 

 二人足してようやく一人前みたいな後輩二人を抱えてもクリアまで導いてくれそうな友人は、俺には一人しかいない。

 

 憤怒の悪魔、ジン・ラースである。

 

 助っ人というか、白状すると救援要請だ。メッセージに『助けてくれ』と書いた。がつがつに助けを求めた。

 

『不真面目ってなにさー! あたしもみっきもがんばってるのにー!』

 

『は……は? 助っ人? し、知らない人?』

 

〈てこ入れかw〉

〈草〉

〈このメンツでやってくれよー〉

〈壊斗も諦めてて草〉

〈せっかくのあかいつきコラボなのに〉

〈助っ人って誰だ英治か?〉

〈三人でいいって〉

〈英治はFPSしかできんだろ〉

〈悪魔だったら最高〉

〈悪魔呼んでくれ〉

〈ゲームなんでもできそうなやつ一人知ってるな〉

〈英治この手の協力ゲーはできねーでしょ〉

〈ちな悪魔配信中です〉

〈悪魔なら許す〉

 

「三人でがんばっても無理だってことは証明されてんだろうが。だからもう一人呼ぶんだよ。美月が知ってるかどうかは知らんけど、今回が初めましてになるだろうな」

 

『初めましてだったら知らない人じゃん……』

 

「名前は知ってると思うぞ」

 

『かいとくん明日用事あるらしいし、クリアするためなら仕方ないけど……みっき、大丈夫そう?』

 

『だ、大丈夫……じゃ、ないかも……』

 

「安心しろって。コミュニケーション能力の高さが人外なやつだから」

 

〈美月はコミュ障だもんな〉

〈仲良くないと喋れない美月〉

〈だめそうw〉

〈このコラボに途中参加ってだいぶ人選ぶぞ〉

〈ぜったい悪魔で草〉

〈確実にジンラースw〉

〈コミュ力もゲームセンスも人外とか悪魔しかおらんくて草〉

〈ついさっき終わったとこだけどきてくれんのか?〉

 

 今日ジンが配信していることは知っていた。でもジンは長時間配信はしないから、メッセージを送っておけば終わったタイミングで手伝いにきてくれるはずだ。

 

『こ、怖い人? 怖い人じゃないよね?』

 

「怖くねーよ。人の心はないけどめっちゃいいやつだから大丈夫だろ」

 

『かいとくんのお友だちはふだんはなんのゲームしてる人?』

 

「貴弾やったぞ。貴弾、知ってるよな? FPSだ」

 

〈根暗がでてもうとる〉

〈朱莉は誰がきても問題ないだろうし余裕だな〉

〈いいやつだけどサイコでもあるんだよね〉

〈人の心がないなら悪魔確定〉

〈人の心はないはそうw〉

〈悪魔きたーー!〉

〈配信終わったばっかだろうけどがんばってくれ〉

〈妹さんの勉強見てるとかはあるかもしれない〉

 

『……FPS? ……怖い人じゃん』

 

「おいおいおい。FPSプレイヤー全員を怖い人のカテゴリーに入れんじゃねーよ。美月の先入観だろ。全員が全員そうじゃねーよ」

 

『全員じゃないの? 一部の人だけが怖い人なの?』

 

「いや一部の人は優しい」

 

『やっぱり大多数は怖い人じゃん……。わ、わたし、場合によっては回線が悪くなって落ちちゃうかもしれないからそのつもりでよろしく……』

 

「逃げようとすんな。大丈夫だって。そんじゃ、助っ人から連絡くるまでもう一回……お、返ってきたわ。はや」

 

〈まぁFPS人格破綻者も多いけど〉

〈心が荒むんだよ〉

〈草〉

〈正しくて草〉

〈たしかに一部だなw〉

〈優しいやつはたしかに一握りだわw〉

〈逃げる気だろw〉

〈回線悪くなる読み草〉

〈悪魔頼む!〉

〈悪魔!〉

 

 多少時間がかかるだろうし、リスタートしてても大丈夫かと思っていたら、想像以上にすぐにジンから返事が返ってきた。まめで几帳面な性格なんだろうな。解釈一致だ。

 

 メッセージを送ってもすぐには返信がなく、数時間経ったあとに『ごめん、今起きた』なんて返ってくるのがめずらしくないこの界隈でこのレスポンスのスピードは奇跡。

 

 ジンからのメッセージには『つい先ほど配信を終えたので大丈夫ですよ。招待もらってもいいですか?』とあった。あいつの物腰の柔らかさは文面でも伝わってくるのが不思議だ。

 

「おっけおっけ! きてくれるって! ちょっと待っといてくれ!」

 

『おー、どなたなんだろー? GGの人、じゃないんだよね?』

 

「違う箱のやつ。GG所属だったら名前出してるわ」

 

『べつの事務所……うっ、なんかお腹痛くなってきた……』

 

『みっきーっ?!』

 

「回線は冗談ってわかるけど、腹痛くなってきたってのは冗談なのかマジなのかわからんって」

 

 コミュニケーションアプリのサーバーにジンを招待するとすぐに電子音が鳴る。ジン・ラースの名前がサーバーのメンバー参加リストに追加された。

 

『お疲れ様です』

 

「おー! ジンお疲れー! 悪いな急に呼んで。もう配信終わったのか?」

 

〈悪魔きたああああ!〉

〈くっそイケボ〉

〈やっぱ声いいなw〉

〈仕事から帰った時に聞きたいセリフ〉

 

『はい、終わりましたよ。終わってすぐにメッセージがきたので、タイミングよかったです』

 

「終わってたのか。こっち配信ついてんだけど、ジンはどうすんの?」

 

『閉じてしまったので枠なしでやろうと思うんですけど、いいですか?』

 

「おっけ。そんじゃ、ジンのリスナーの中にも観たいってリスナーはいるだろうし、SNSでこの配信にいるっての投稿しとけよ? 壊斗の配信に遊びに行ってますーとかって言ってりゃたぶん伝わるだろ」

 

『壊斗さんのお名前借りてもいいんですか?』

 

「おう、使え使え。俺がむりやり引っ張ってきちまったんだしな」

 

〈悪魔いつも配信時間短いけどこっからできるのか?〉

〈もう閉じてたんだな〉

〈悪魔の配信おもしろかったよ〉

〈悪魔兄妹めっちゃよかった〉

〈二窓してたリスナーもいますと〉

〈悪魔枠なしか〉

〈壊斗数字稼ぎかよw〉

〈今日同接伸びるぞーw〉

〈同接稼ぎで草〉

〈爆速タイピングw〉

〈キーボード壊れるw〉

 

 ジンはキーボードの悲鳴のようなタイプ音を掻き鳴らしながら、おそらくSNSに投稿する用の文章を入力する。すぐにSNSに投稿された。

 

 ついさっき『配信を観ていただきありがとうございました』的な投稿がされていたのだが、その投稿から五分もしないうちに『壊斗さんのチャンネルにお邪魔させていただいてます』の投稿が続いている。少しおもしろい。ジンのリスナーからすれば『何事?!』って感じだろうけど。

 

『お待たせいたしました。自己紹介が遅れて申し訳ありません。初めましての方もいらっしゃいますのでご挨拶させていただきます。「New Tale」の四期生、憤怒の悪魔のジン・ラースと申します。よろしくお願いいたします』

 

 俺から紹介しなきゃいけないところだったのに、いらんことを考えていたせいで失念していた。

 

『わっ、うあっ……。か、かいとくんのお友だちって聞いたから、もっとおちゃらけた人を想像してたっ……。めちゃめちゃしっかりしてる人だっ……』

 

「どういう意味だ、おいこら朱莉」

 

〈よそいき悪魔〉

〈悪魔はだいたい丁寧だぞ〉

〈親密度合いによって敬語の中でも変えてるんだな〉

〈壊斗から紹介してやれよ〉

〈もうちょい砕けた喋り方するもんな壊斗には〉

〈ロロにもたまに敬語なくなってた〉

〈草〉

〈壊斗の友人にしてはできすぎてるかw〉

 

『あ! あたしは蛍火朱莉ですっ! 一応かいとくんの後輩です! よろしくお願いしますっ!』

 

「一応ってなんだよ。ぜんぜん後輩だろうがよ。三年違うんだからな?」

 

『三年もデビューが違うのにこんなに親しげに接することができるのは壊斗さんの人徳のなせる(わざ)ですね』

 

〈朱莉は初対面関係ないなw〉

〈物怖じしねーw〉

〈草〉

〈一応な〉

〈三年も違うのか〉

〈この人懐っこさがいい〉

〈カバーうめーw〉

〈物はいいようだw〉

 

「そんなとこまで拾えんだお前? すっげーよそのカバーリング意識。じゃ、はい、次。美月」

 

『うぇっ……え、あ……。あ、よ、宵闇、美月……す。おじゃじゃしゃす……』

 

『宵闇美月さん。よろしくお願いしますね。急にお邪魔してしまってすみません』

 

『あ、い、いや、はい……よろしく、おにゃしゃす……』

 

〈FPSで培われたカバーリング〉

〈草〉

〈守備範囲広すぎw〉

〈美月だめそうw〉

〈声出てなくて草〉

〈かみかみだしw〉

〈きてくれた悪魔に気ぃつかわせんなよー〉

〈壊斗なんとかしろ〉

 

「ジン、気にしなくていいぞ。美月は人見知りなんだ。誰に対しても慣れるまではこんな感じだから、べつに嫌われてるとかじゃねーよ」

 

『そうなんですね、よかった……。お三方のグループ「あかいつき」のコラボに突然割り込んでしまったので、もしかしたらお気を悪くされたのかもしれないと思ってしまって』

 

『ぜ、ぜんぜんっ……そ、そういうの、ないんで……はい』

 

〈美月はこれが平常運転〉

〈初対面のスタートラインがこれ〉

〈初めましての距離遠くて草〉

〈悪魔リサーチ済みなのか〉

〈あかいつきw〉

〈そんなんあったなw〉

〈ちなみに朱莉も美月も配信タイトルにあかいつき入ってます〉

〈壊斗だけだぞ入れてないの〉

 

「そういやそんなコラボ名もあったな……」

 

『あるよっ! ずっとあるよっ! 「あかいつき」大事にしてないのかいとくんだけだよっ!』

 

「人聞き悪いこと言うんじゃねーよ! 美月、そんな緊張することねーぞ。所属してる事務所こそ違うが、配信歴はお前のほうが長いんだ。歴だけは先輩だぞ」

 

〈忘れんなよw〉

〈グループ大事にしろ〉

〈コラボしてくれる友だち少ねぇ理由こういうとこだろ〉

〈配信歴はな〉

〈壊斗は歴だけは長い〉

〈悪魔が新人って聞いて驚いたわ〉

〈これでも意外とデビューしたばっか〉

〈大型新人すぎるだろw〉

 

『そうですよ。僕なんてデビューしてから一ヶ月ちょっとしか経ってないど新人なんですから、敬語も敬称も必要ありません』

 

「そうそう。ジンなんか一ヶ月しか経ってな……え? デビューそんな最近だったっけ? マジでど新人じゃねーか……嘘だろ……」

 

『ジン・ラースさんデビューして一ヶ月なのっ?! 落ち着き方がベテランだよっ!?』

 

『……一ヶ月? わたし、デビューして一ヶ月の頃なんてまともにコラボする相手もいなかったんだけど……』

 

『いろいろと……そう、荒波に揉まれるという経験をしたものですから。なので雑に扱っていただいて大丈夫ですよ』

 

〈?〉

〈?〉

〈いっかげつ?〉

〈新人詐欺じゃなかったのか……〉

〈貫禄ありすぎやろw〉

〈こんな新人いてたまるかw〉

〈まじでベテランみたいな落ち着き〉

〈配信慣れしすぎとらんか?〉

〈確実に美月よりかは配信者しとる〉

〈話に安定感あるしなw〉

〈新人感なくて草〉

〈風格出すぎw〉

〈数字も持ってるしな〉

〈ああ……〉

〈悪魔はいろいろあったね〉

〈だいぶ揉まれたな〉

〈こんな態度のやつ雑に扱えるわけなくて草〉

 

『そう? それじゃー、じんくんね! あたしのことも朱莉って呼んでいいよ!』

 

『ふふっ、ありがとうございます。では朱莉さんで』

 

『わ、わたしは……すぐ名前呼びは無理なんだけど……』

 

『大丈夫ですよ。ジンでもラースでもジン・ラースでも、お好きな呼び方をご自由にどうぞ』

 

『そう? そ、それじゃ……ラースさんって呼ぶ』

 

『はい。では僕は宵闇さんとお呼びさせてもらいますね』

 

〈朱莉は距離の詰め方はえーなw〉

〈踏み込み早くて草〉

〈美月がんばれ〉

〈この流れでジン呼びしとけ〉

〈名前の呼び方は最初が重要って〉

〈ラースw〉

〈声ちっせーw〉

〈誰それ感すごい〉

〈声細くて草〉

 

 朱莉は初対面相手だと多少言葉は丁寧になるくらいで、わりと誰に対しても変わらず平気で接していける。人によっては馴れ馴れしいと思われかねないが、相手はジンだ。心配はいらない。ジンからすればこうやってがんがん詰めてきてくれる相手のほうが好ましく思ってそうだ。

 

「一人だけ距離遠いな……。てか、マイクも遠くなってね? うるせー状態を基準にして音量調整してっから声小さくされたら聴こえねーよ」

 

 美月は初めましての人だと露骨に違ってくる。話し方もそうだし、なにより声量があからさまに下がる。ジンと話している時の声に合わせると、朱莉と組んで俺を叩く時の声が大きくなりすぎる。もうちょい声を張ってほしいところだ。

 

『ほんとかいとくんってデリカシーとか優しさとかそういうのないのっ?! みっきががんばって話してるのにさっ!』

 

『壊斗はこういうところがほんとにダメ。だからロロさんにもモテないって言われるんじゃないの?』

 

「モテないとは言われてねーよ! 彼女できないって言われただけだ!」

 

〈美月の精一杯だった〉

〈いらんことしか言わんな!〉

〈がんばってるだろ〉

〈確かに声は小さいけど!〉

〈デリカシーとか壊斗に求めるな〉

〈壊斗に期待するほうが間違ってるまである〉

〈モテないw〉

〈草〉

〈絶対モテませんw〉

〈言われてそうなんだよなw〉

〈言ってた気がしてくる〉

〈脳内再生余裕〉

 

 この前ジンとロロと三人でやったプラエボ配信観てるのかよ。うるせえよ。あのコラボでロロに『彼女できない』って言われた後、優空にも『そんなんじゃ彼女できないよー』とかってからかわれたんだぞ。

 

 モテるわ、俺だって。彼女は作れないんじゃなくて作らないだけだ。

 

『くくっ、ふふっ……やっぱり「あかいつき」のみなさんは仲良しですね。「モテない」とか「彼女できない」っていうのはあの時のですよね? 僕と壊斗さんとロロさんで「Practice of evolution」やった時の』

 

『あ、そ、そう。わたし、き、切り抜きで観ておもしろかったから……アーカイブ、観た。よ』

 

「なんで最後カタコトなんだよ」

 

『かいとくんだまっててっ!』

 

 俺を叩く時は引くほど舌が回るくせに、ジンと話している時はたどたどしくなる美月にちょっとちょっかい入れただけで朱莉から怒られた。

 

 配信中に黙れだなんて言われる日がくるとは思わなかった。

 

 朱莉的には、ここはジンと美月が仲良くなるためのお喋りパートなのかもしれない。

 

『面白いと思っていただけたのなら嬉しいです。どなたの視点で観られました? 視点によってだいぶゲームの印象が変わると思いますけど』

 

『あ、切り抜きのコメントでロロさんの視点が三人の中では一番平和っていうのを読んだから、ろ、ロロさんのを……』

 

「いや俺のじゃないんかい」

 

『かいとくんっ!』

 

〈ロロ視点は画的に平和だった〉

〈視点まとめおもしろかったんだよなー〉

〈悪魔の視点が基本グロなの笑った〉

〈先輩の視点は観ない美月〉

〈そりゃロロ視点よ〉

〈だぁってろ〉

〈静かにしてて〉

〈微笑ましいお喋りしてるんだからさぁ……〉

 

 ツッコミを入れるのもNGなのか。なんなら朱莉だけでなくリスナーからも黙ってるように言われている。

 

 なんてやつらだ。俺のチャンネルのリスナーとは思えない。いや、俺のチャンネルのリスナーらしいか。いつもこんなもんだったわ。

 

『ロロさんの視点もとてもいいと思います。何もなかった崖の上に拠点が作られて、どんどん大きく立派になっていくところは観ていてとても楽しそうです。壊斗さんの視点だとキメラントとの戦闘もあり、素材回収もあり、拠点のお手伝いもありというバランスのいい視点になっていますので、まだご覧になっていない方はそちらも是非どうぞ』

 

「うおお……宣伝まで。さんきゅさんきゅ」

 

〈へー〉

〈観たいな〉

〈壊斗の視点観てたからな〉

〈おもしろそう〉

〈がんばって建築してたから壊された時悲しかったんだろうな〉

〈おー〉

〈さす悪魔〉

〈壊斗はうろちょろしてただけだぞ〉

〈どっちも楽しめるわけか〉

〈気がきく悪魔だ……〉

〈まじで口がうまいな〉

 

 ジンは『Practice of evolution』配信のロロ視点の魅力を伝えるだけにとどまらず、俺の視点のオススメまで流れるようにしてくれた。相変わらず如才ないやつだ。

 

『ほんとにラースさん、デビューして一ヶ月……? 新人感がいい意味でないよね……』

 

『ほんとそうっ! 落ち着き方すごいよねっ! 一ヶ月とかふつうはやっと配信に慣れてくるってくらいなのにっ!』

 

『え? そう、でしょうか? あまり言われ慣れていないので、少し照れくさいですね……』

 

GG(うち)の事務所は人数が多いぶん、新人だと甘やかされがちだしな。ジンはいい意味で新人らしいかわいげがない」

 

〈新人感はないなw〉

〈こんな新人入ってきたらやだなーw〉

〈貫禄すげーよ〉

〈大御所みある〉

〈落ち着きがあるんだよ〉

〈変にテンション上げたりしないしな〉

〈草〉

〈かわいくてくさ〉

〈照れとるw〉

〈新人は声張ればいいと思ってるとこある〉

〈悪魔は新人には酷すぎるハードルを越えてきてるからな〉

〈肝のすわりかたがちげーよ〉

〈かわいげがないは草〉

〈壊斗「ジン・ラースはかわいげがない」〉

〈急に刺すやんw〉

 

 先輩からすれば、知らないことやわからないことで手間取る新人に『ここはこうするといいぞ』って教えたりしたくなるものだ。

 

 俺の前だけかもしれないが、ジンのそういった手間取ったり戸惑ったりするところは見たことがない。配信機材やPCの設定、配信に使う数多くのアプリをしっかり勉強して使いこなせるようにしたんだろう。

 

 先輩や後輩関係なく、対等な配信者として振る舞おうとしているのはえらいとは思うが、先輩風を吹かせることができないことだけは不満だ。ジンにいろいろ教えたりしたかったのに。

 

『可愛げがない……。ま、まあ……たしかに後輩っぽさはないですし、先輩から可愛がられるタイプではないかもしれません……』

 

『かいとくんっ! かわいげがないにいいも悪いもないでしょっ! 悪い意味しかないよっ!』

 

『その失言の多さがコラボ相手を少なくしていることにそろそろ壊斗は気づいたらいいのに。いや、いっそのこと気づかなくていいかも』

 

「お前らと同じようなことしか言ってないだろ!? なんで俺だけ責められるんだよ!」

 

〈しょんぼり悪魔〉

〈かわいそう〉

〈落ち込むなあくま〉

〈これだから壊斗は……〉

〈悪魔は立派だが配信者としてはまだひよこなんだぞ〉

〈いい意味でをつければいいと思ってんだよ〉

〈すべてを誤魔化せる魔法の言葉じゃないぞ〉

〈袋叩きで草〉

〈総スカンw〉

〈これこそ壊斗の立ち位置〉

〈同じこと言ってねーよw〉

〈ぜんぜん違ったぞw〉

 

『あははっ、お二人のフォーカスの速さは見習うべきものがありますね』

 

『ほめられたっ!』

 

『褒められちゃったね』

 

「見習うなこんなもん。褒めてもねーし」

 

〈揚げ足取る時の反応速度野生動物並や〉

〈フォーカスw〉

〈フレンドリーファイアで草〉

〈FPS脳w〉

 

 ジンにはこの二人をあんまり調子に乗せないでほしいな。このばかな後輩二人はどこまでもつけ上がる。

 

『そういえば、朱莉さんと宵闇さんは前に壊斗さんとプラエボをされたんですよね?』

 

『うん、やったよー。かいとくんの小言が多かったのを覚えてる!』

 

「それは朱莉が口ばっか動かして手を動かさねーからだろうが!」

 

〈あかいつきのプラエボはちがうおもしろさがあったw〉

〈壊斗が言ったことめっちゃ憶えてんだな〉

〈壊斗なんかの話をちゃんと聞いてるのか悪魔〉

〈作業効率はごみだったw〉

〈たくさん働いてたぞ口はな〉

〈手の三倍口が動いてたw〉

 

『次やる時にはお二人をお呼びするとも壊斗さんが仰ってましたけど、お話伺ってますか?』

 

『あ、うん。……なんか、そうみたいで』

 

「いや配信のあと言ったじゃん。また今度プラエボリベンジコラボやるからそん時頼むって」

 

『なにも聞かされてなかったもんねー。せめて一言くらい言っといてほしかったよねー?』

 

『そうだよね? 知らない人もいるのに、コラボするからって決まってから言われてもね?』

 

「その時に決まったのに一言言っとけるわけねーだろ……」

 

〈リベンジ楽しみなんだよな〉

〈待ってる〉

〈いつまでもプラエボコラボ待つ〉

〈今度こそお家を守ってほしい〉

〈ロロの笑顔を守ってくれ〉

〈あのタイミングで先に言うのは無理で草〉

 

 あの時は自分の保身のためにプラエボリベンジコラボを約束させたのだ。ロロに笑って配信を終えてもらうための方便でもあった。

 

 リベンジに後ろ向きだったロロをその気にさせることだけに意識を集中させていたのだ、こいつらの予定を聞かないと、みたいなことはまるで考えてなかった。こいつらなら事後報告でも問題ないし。

 

『また今度やる予定のプラエボコラボの時には僕もご一緒させてもらうことになっているんです。なので今日のゲームもそうですが、プラエボコラボの際にもよろしくお願いしますね』

 

『じんくんなら安心だっ! プラエボもよろしくね!』

 

『他の人よりもぜんぜん気楽にできそうでよかった……。よ、よろしゃしゃす……』

 

〈安心最強の悪魔〉

〈丁寧だなぁ〉

〈こういうとこや〉

〈美月w〉

〈コミュ障が出てもうとるw〉

〈草〉

 

「ほんとお前ら俺の時とは態度違うなぁっ!」

 

『それはそうでしょう。僕とお二人は今日が初対面ですし、壊斗さんのように気兼ねなくぶつかっていくのは難しいですよ。どれだけプロレスをしかけてもきっちりやり返してくれるという信頼感あってこそなんですから』

 

〈そら態度も変わるよな〉

〈これフォローできるの?〉

〈言い回し一つでここまで変わるのか〉

〈人騙すの得意そう〉

〈そんな綺麗な解釈できんだ〉

 

『んー……なんだかかいとくんへの信頼って言われると、背中がぞぞぞってするー……』

 

『朱莉、信頼だよ、これは。なに言ってもいいっていう』

 

「なに言ってもいいわけねーだろ。しばき回すぞ。ジン、こいつらは俺を舐めてるだけだ。信頼もくそもねー」

 

〈拒否反応出てて草〉

〈アレルギー出るよ〉

〈ぼろくそやw〉

〈先輩後輩とは思えないよなw〉

 

 わりと大先輩になるはずなのに、こいつらからはリスペクトを感じない。きっと敬意とかいう概念を知らないで育ったんだろうな。後輩的なかわいげがないとジンに言ったが、朱莉と美月にもそういったかわいげはなかったわ。

 

『そんなことないと思うんですけどね。そうやって言葉で殴り合うような間柄、僕はとても羨ましく思いますよ。……さて、お待たせしました。ゲームのインストールができたので、そろそろそちらに合流しますね』

 

「インストールまでの繋ぎだったのかよここまでっ?!」

 

『わぁ……。じんくん、お喋りもうまいんだぁ……』

 

『プロレスするような間柄よりもそのトークスキルのほうがわたしは羨ましい……』

 

〈そういや悪魔の目標は友だち作ることだもんなw〉

〈目標小学生並みで草〉

〈時間稼ぎやったんか〉

〈親睦深めるにしてもえらい雑談するなと思ったら〉

〈そういやずっと話回してたな……〉

〈雑談で繋ぐにしても自然すぎやろw〉

〈さすがお喋りの悪魔〉

〈ずっと雑談してくれていいよw〉

〈俺もほしいわそのスキル〉

〈困んの壊斗だけだしもうちょい雑談しよ?〉

〈初対面二人もいてこんだけ話し続けられんのかよw〉

 

『僕のこれはトークスキルではなくて、ただのお喋り好きなだけなんですよね。以前雑談コラボした時には僕が無駄に喋りすぎて、ロロさんから「胃もたれする」と太鼓判を()されました』

 

「あのお喋りなロロからそんな言葉引き出させんのお前くらいだろうな。ゲームのタイトル画面に行ったらちょっと待っててくれ。ロビーに招待する」

 

〈十分すぎるスキルや〉

〈お喋り好きも高じるとここまでなんのか〉

〈配信者適性高すぎ〉

〈胃もたれw〉

〈言われとったなw〉

〈味が濃いとかなw〉

〈ふだんはロロが言われてるくらいなのに〉

〈雑談コラボの企画を壊すくらい雑談してたぞ〉

 

 休む暇を与えないくらい話をしてくるお喋りモンスターのロロにそこまで言わしめるほどとは、もはや恐怖を覚えるレベルだ。

 

 前回コラボした時は、貴弾では敵が強すぎてIGLで手一杯だったし、プラエボではゲーム内で別行動していたことも多かったのでお喋りは控えていたのか。お喋り好きでも時と場合を選んでくれる分、朱莉と美月(ばかふたり)よりよっぽどいい。

 

『ありがとうございます。そういえばなんだか「助けてくれ」みたいなメッセージで僕呼ばれたんですけど、大丈夫なんですか? さっきゲームをインストールしたことからもお察しの通り、僕やったことないんですけど』

 

「大丈夫だ。何回かやってるこいつらよりもファーストタイムのジンのほうが絶対に動ける」

 

〈なんとかなるやろ〉

〈助けてくれw〉

〈悪魔なら一回二回軽くやればわかるよ〉

〈助けてくれw〉

〈SOS送ってたんだなw〉

〈それはそう〉

〈なんなら朱莉はやるたびに遅くなってたぞ〉

〈お喋りタイムが多すぎるんよw〉

 

『協力ゲームでしょー!? なんでテンション下げるようなこと言うのーっ!』

 

『自分の非を棚に上げてこの物言い。壊斗はチームプレイっていうのを致命的に理解してないね』

 

「うるせーよ! 二人合わせて一人前がよぉっ!」

 

『ふふっ、くくっ、チームワークはばっちりみたいですね』

 

〈協力ゲー(協力するとは言ってない)〉

〈協力ゲーだけど協力できるかどうかは別〉

〈協力w〉

〈これに関してだけは壊斗間違ってないからなぁ〉

〈二人合わせて一人前草〉

〈草〉

〈一人で〇・五人分〉

〈チーム崩壊してんだよねw〉

〈二人と一人と一人やね〉

 

 朱莉と美月の場合、大目に見積もって二人で一人前だ。状況によっては二人で一人前にも満たない可能性がある。甘めの採点をしてやったんだから感謝してほしいくらいだ。

 

「チュートリアルとかもあるけど、まぁいらねーだろ。やってみりゃわかる」

 

『そう、でしょうか? なるべくみなさんに迷惑をかけないよう頑張りますね』

 

『迷惑なんて気にしないでいいよっ! 楽しかったらそれでいいのっ!』

 

『そ、そうです。困るのは壊斗くらいだし』

 

「お前らがそんな態度だから俺はジンを呼んだんだよ、このばかどもが」

 

 このゲームは意外と奥が深いしスキルとかアビリティとか、どの作業を優先するべきかとかいろいろあるから説明をしたほうがいいだろうけど、俺の付け焼き刃な知識で先入観を与えるより、ジン本人が感じ取って理解したほうが効率がよさそうだ。俺もこのゲームを隅から隅まで知り尽くしているわけじゃないし。

 

 それにジンとやったプラエボは最高難度だったが、今回やる『exodus』は上から二番目の難易度。ジンにとってはそこまで手こずるような難しさでもないだろう。

 

「んじゃ、とりあえずジンが合流して一発目、スタートだ!」

 

 





『Practice of evolution』の時にも名前だけ出てきていた壊斗さんの後輩ちゃんずと一緒に『exodus』スタートです。よろしくお願いします。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。