サイコバグなお兄ちゃん、Vtuberになる。 作:にいるあらと
「まずはキャラ選択だな。四種類ある。ジン、どれでもいいぞ」
『ランバージャック、ストーンメイスン、レンジャー、プロフェッサー……なかなか異色な役職が並んでますね。プロフェッサーが浮いてますけど……。みなさんはどれをされてたんです?』
〈ようやくゲーム開始〉
〈初心者は木か石だな〉
〈こんなん狩人か教授の二択やんw〉
〈朱莉と美月は固定だしな〉
「俺はレンジャーだな。このゲーム野生動物が出てくるんだよ。その野生動物を狩ったり、防衛対象のトラックを運転したりクラフトしたり、まぁやることはいろいろだな」
『エイムって関係あります?』
「いやー……マップを上から見てキャラを動かす感じのゲームだから、あんま関係ねーな」
〈レンジャー忙しい〉
〈シングルタスクには厳しい〉
〈悪魔ならいけんことないか〉
〈経験ある壊斗のがいいぽいな〉
〈エイムw〉
〈FPSじゃないのよw〉
『なるほど。それなら僕はあまり貢献できそうにありませんね……。朱莉さんはどれを?』
『あたしは木こりやってたよっ! 木を切るのが仕事でー、加工したり、あと……邪魔になる木も切るんだよ!』
〈エイム自信ニキ〉
〈木こり(半人前)〉
〈切る(二回目)〉
〈切ってしかないw〉
〈運んで……〉
木を切るという説明が二回行われているが、これはツッコミ待ちなんだろうか。朱莉のことだからボケでもなんでもなく本気で言ってそうだ。トラックの邪魔になっている木と、それ以外の資源としての木でわけて考えてるんだろうな。
『木こり、なるほど。ランバージャックとかわかりにくいですもんね』
『らんばー……それは知らないかも。木こりだよ!』
『ふふっ、ええ。木こりですね』
〈わからないんだよねw〉
〈木こり!〉
〈かわいい〉
〈自信まんまんw〉
〈かわいい〉
「すまんな。朱莉にランバージャックとか通じるとは思わなかったから木こりって説明したんだよ」
『なに? なんなの?! 木こりだよっ!』
『ほら壊斗が言わなくていいこと言うから朱莉が拗ねちゃった。朱莉、朱莉は悪くないよ。壊斗が悪い』
『ランバージャックなんてわかりにくいですよね。最初から木こりとか、せめてウッドカッターとかって書いておいてほしいものです』
『そうっ! そうだよ! わかりやすくしといてほしいよ! あたしまちがってないよねっ!』
「おーいーっ! 甘やかすなーっ! お前らが甘やかすから朱莉がこんなんになったんだぞっ! リスナーもだぞーっ!」
〈草〉
〈通じるわけないしなw〉
〈木こりだけわかりにくいんよ〉
〈おこっちゃったw〉
〈美月と朱莉のラインが強いw〉
〈フォローw〉
〈悪魔のカバーあったけーw〉
〈こうやってモンスターが生まれるんだ〉
〈朱莉甘やかされがちw〉
〈愛されキャラやからなw〉
〈しゃあない〉
〈草〉
〈かわいいもんw〉
朱莉と美月が常に徒党を組んでたからジンを呼んだけど、忘れていた。ジンはどこまでも中立の立場を維持するやつだった。どちらかの肩を持つということがない。客観的に見て正しいと思ったほうの意見を尊重するんだ。
くそ、無条件に俺の味方をしてもらおうと思っていたのに。
『それでは宵闇さんがストーンメイスン、石工さんなんですね』
『そ、そうだよ。邪魔な岩砕いたり……あ、あとは石材を加工して道作ったり、とか……する』
『なるほど。……みなさんそれぞれの役職を使い慣れているでしょうし、僕は余っているのにしておきましょうか』
「べつにプロフェッサーじゃなくても、レンジャー二枚積みもありだぞ」
〈教授はなぁ〉
〈器用貧乏なんだよな〉
〈正直代用きくしな〉
〈なんでもできてなんにもできない〉
〈レンジャーが手堅いな〉
『でもみんな違う職のほうが面白そうですよね。どんなことができるのか気になりますし』
『ラースさん配信映えまで意識してるんだ……』
『かいとくんなんか二枚積みもあり、とかって意識低いこと言ってたのにっ!』
「う、うううるせーよ……。ゲームのクリアしか視界に入ってねーんだよ……」
〈配信映えw〉
〈配信してねーのにw〉
〈悪魔配信してないやんw〉
〈枠ないのにw〉
〈草〉
〈新人が一番意識高いw〉
明日のスケジュールで頭がいっぱいになっていて配信のことは二の次になっていた。たしかに同じ役職が二枚よりも全員ばらばらのほうが観ている側はおもしろいかもしれない。
でもリスナーも言っている通り、教授は役割的に微妙なんだ。こういうのは満遍なくできるゼネラリストよりも、一つの分野のスペシャリストのほうが使い勝手がいい。
安定してクリアするならレンジャーのほうがいいはずなんだよなぁ。言われてみればたしかに配信的に見栄えは悪いけど。
配信の枠も取ってない一番の新人が一番配信のこと考えてるの、ほんとどうかと思う。箱は違えど三人も先輩が雁首並べてるっていうのに情けない。
『いえいえ、僕が単純に教授はどんなことができるんだろうなって気になっただけですからね。ただの好奇心ですよ。お待たせしました、それではいきましょうか』
「ういー。いくぜー。このゲームがどんな感じで進めるのかっていうのをジンに教えるためにこの回はお試しって感じだけど、べつにこのお試し回でクリアしたっていいんだからな! 手は抜くなよ!」
〈これは新人らしくねーわw〉
〈新人は自分のことだけでいっぱいいっぱいになれw〉
〈気遣いまでできる〉
〈先輩たち情けないなぁw〉
〈いくぜー〉
〈やるぜー〉
〈始まるぜー〉
〈別にこれでクリアしてしまっても構わんのだろ?〉
〈フラグ草〉
『はい、手は抜きません。気は抜いていいんですよね?』
「気も抜くんじゃねぇよ! 集中してけや!」
『あははっ! そうだよーっ、どっちかは抜かせてよーっ!』
〈それ無理なやつやw〉
〈草〉
〈そんなん言うやつは気が抜けてるんよw〉
〈悪魔ダメモードかもw〉
〈プラエボ幻の一日目の悪魔かもしれんw〉
〈若干未来見えて草〉
とんでもなく恐ろしいコメントを見つけてしまった。〈プラエボ幻の一日目の悪魔〉とかいう、これからまともにプレイできそうにない不吉な言葉を発見してしまった。
いやだ、あんなことになったら絶対朱莉も美月も共鳴しておふざけしかしなくなる。クリアする頃には朝日を拝むことになってしまう。最悪の場合クリアできずに諦める可能性すらある。
「引き締めてくれよーっ! 頼むぞーっ! 俺の明日がかかってんだぞおおぉぉっ!」
『それならいっか』
「美月てめええぇぇっ!」
キャラを選び終わり、しばしのロードを挟んでマップに出た。
このゲームには一応ストーリーがある。とある怪しげな研究機関に囚われていた子どもたちをトラックに乗せて脱出させて逃げる、みたいな感じだったはず。ストーリーなんてそこまで大事じゃないからうろ覚えだ。
大事なのは子どもたちを乗せているという設定のトラックを守って逃げ続けることだ。
『あ、始まりましたね。ところでこれは何をどうすればクリアになるんです?』
「急に真面目になんじゃねーよ……。えっとな、進行方向の先に四角く光ってるとこが……」
『木を切ってもらわなきゃわたし仕事できないよ』
『あれ? あれ? 斧どこー?』
『このトラックはいったい何に使うものなんですか? キャンピングカーでしょうか?』
「光ってるとこ……キャンプしにきてるんじゃねーよ。キャンプはプラエボだけにしとけ。このトラックに子どもたちが乗ってて、これを守るっていうストーリーで……」
『プラエボはキャンプにはなりませんでしたけどね』
「野生動物がトラックを攻撃……プラエボの話はすまんかったって! で! えーっと、なんだったか……」
『ねー、朱莉ー、木切ってよー。わたしいつまで経っても仕事できないんだけどー』
『や、だって……あたしだって斧なかったらお仕事できな……みっき! みっきが持ってるのピッケルじゃなくて斧だよっ!』
『あ……。あははっ、ごめんごめん。ずっとピッケルだと思ってた』
『いくら探しても見つからないはずだよー! あはははっ!』
『あははっ、ふふっ、あははっ。持ってたわ、わたし。ごめん朱莉っ、あははっ』
『僕のキャラ、ランタン持ってますよ。これ明るい時に役に立つんですかね?』
「ああぁぁっ! うわああぁぁっ! 一回黙れお前らああぁぁっ!」
〈草〉
〈www〉
〈草〉
〈これむりやw〉
〈こんなんクリアできんw〉
〈道具の見分けついてないの草〉
〈フラグ回収はやすぎwww〉
〈ボケモードの悪魔だったw〉
〈壊斗の負担倍増〉
〈明日の壊斗を壊しにきてるw〉
〈これ寝れません〉
〈耐久確定演出〉
ジンは初心者だからいろいろ気になってるだけで悪気はないのかもしれない。俺の返答を待たずに矢継ぎ早に被せてきてる時点で悪ふざけな気がしてならないけど、まだいい。
だけど朱莉と美月はふざけてる。確実にふざけてる。こいつらはすでに何回もやってるんだ。これが初めてとか二回目三回目ってわけじゃないんだぞ。なのに斧とピッケルの区別もつかないとか前途多難なんてもんじゃない。
『あはははっ、ふふっ、あははっ。すいません、つい……ふふっ』
『あははっ、きゃははっ! だってっ、みっきがぁっ! あははっ!』
『わ、わたしゅふふっ……わたし悪くないでしょ! ただの勘違いじゃん!』
「いいいいっかい黙れええぇぇっ! 朱莉とっ、美月はっ! 作業しとけええぇぇっ! 俺がジンに説明しとくからああぁぁっ!」
〈めっちゃわろてるしw〉
〈つられるわやめれ〉
〈終わる未来見えんw〉
〈最高すぎ〉
〈幸先いいなw〉
〈不憫な壊斗を見るのが一番いいんだw〉
〈叫んでる壊斗は輝いてるw〉
〈テンションやばすぎて草〉
〈振り回されてる壊斗からしか摂取できない栄養がある〉
『い、勢いっ……ふふっ、声どうしたんですかっ……あははっ』
『あはははっ、はいっ、はいいぃぃ……っ、いははっ』
『くふふっ、ふふっ……。うるさすぎでしょっ、何時だと思ってんの!』
「お前らがうるさいからだろうが! だから声張ってんだ! なんで案件前日に喉使わなきゃいけねーんだよ!」
このままだと俺、もし万が一早く寝れたとしても終わる頃には声嗄れてんじゃないかな。
『わかっ、ははっ、わかった! やるよっ! あたしとみっきで道切り開いとくから、かいとくんはじんくんに説明してあげてて!』
「ふぅ、ふぅっ……最初からそう言ってんだよ……」
『ぶふっ、ふっ……。もう疲れてるじゃんっ』
「そら疲れもするわ……」
『あははっ、お疲れ様です。それではご指導ご鞭撻のほどよろしくお願いします』
「……ああ。もうちょっと真面目モードに切り替えるのが早かったら俺も体力持ってかれずに済んだんだけどな……」
〈やっとやる気になったw〉
〈ばかほど時間かかってて草〉
〈この回は説明して捨てやねw〉
〈壊斗過労死するんじゃねーかなw〉
〈案件の時声枯れてたらおもろい〉
ようやくゲームの説明をするフェイズに入った。おふざけを挟まないと話を聞く姿勢にすらならないとか、スタート地点から心折れそうだ。
息を整えながら、俺はジンに解説し始める。
この『exodus』というゲームはマップの先にある四角く光っている建設地点と呼ばれるエリアに木材と石材を一定量持って行ってセーフハウスを建て、そのセーフハウスに隣接するように護衛対象のトラックを止めることで一つのステージをクリアしたことになり、次のステージに進めるようになる。
セーフハウスを建築できるゾーンまでの間には木や岩が行く手を塞いでいるので、それらを木こりや石工の人に切ってもらったり砕いてもらったりしてトラックを進める。
トラックを運転できるのはレンジャーと、一応教授もできることはできる。ただ教授の場合はレンジャーが運転する半分くらいの速度しか出せないから、基本はレンジャーの手が空いていない時に代理で進めておくくらいの認識だ。
というのを、実演しながらざっくり教えた。
「とりあえずこのくらいわかってりゃ、あとはなんとなく感覚でできるだろ」
『ありがとうございます。スキルとかもあるんですね』
〈大雑把だ〉
〈まぁ伝わるか〉
〈実際にやってみるのが一番早いしな〉
〈スキルどれから上げてくかは大事〉
〈教授はどれからあげんのが正解なんだ〉
〈教授のテンプレは確立してないな周り次第〉
〈必須キャラじゃないから〉
「そうそう。ステージ一つクリアするごとにポイントもらえて、いくつかある項目のどれかに振れんだよ。ちなみにステージのどっかに光ってる玉が最低一つはあって、それ拾うとプラスでスキルポイントもらえるぞ」
『なるべく忘れずに拾っておかないと後半が厳しくなってしまうんですね』
「そういうことだ。ただステージの端っことか取りに行くのが大変なとこにあっから、作業の進捗と資材のゆとりを見ながらになるな」
光る玉は建設地点とは離れた方向に配置されがちだ。建設地点までの道と、セーフハウス用の資材を用意できてから光る玉を目指すのが安全ではある。取るのを忘れなければ。
でもなぁ、
〈ゲームIQ高いしすぐ理解できそう〉
〈ボーナス取れるかで後半のやりやすさ変わってくる〉
〈三人の時は半分くらい取れんかったw〉
〈先にセーフハウス作ると忘れがち〉
『取りに行くのが大変……このステージだと木と岩を排除すれば建設地点につけそうですが、やはりステージが進んでいくと難しくなっていくんですね』
「そうなんだよ。谷があったらそこは橋を
トラックが通れるほどの道幅が確保できていないからといって木を切っても、ギミックの先で岩が大量に道を塞いでいたら結局岩を砕くのに時間がかかる。そうならないようにするために、先にキャラが通れるだけの道を作って石工を向かわせて同時並行で岩を砕かせて木を切っていく、というふうに道の先の障害物も見据えて考えなければならない。
朱莉も美月も目の前のことしか考えられないから、ギミックのたびに俺が、先にああしろその次にこうしろ、と指示を出さないととても効率が悪くなる。でも俺がそうやって指示を出しているととても機嫌が悪くなる。どうしろってんだ。
『そうじゃないとゲームが単調になってしまいますもんね。……木や岩を破壊した直後の素材は加工しないといけない、と仰ってましたよね』
『そうだよじんくん! 木を切ったら原木っていうのが出てきて、原木を加工したら木材っていうのになるの! 木材にしとかないとクラフトとか足場とかにもできないんだよ!』
『とてもわかりやすく教えてくれてありがとうございます。やっぱり朱莉さんは木こりに慣れてるだけあってお仕事早いですね』
『えへへっ、頼りにしていいよっ! じんくんのお勉強が終わるまではあたしとみっきで進めとくから任せといて! ね、みっき!』
『うん。任せといて』
『ふふっ、ありがとうございます。頼りにさせてもらいますね』
〈褒めんのうまw〉
〈よいしょうまいw〉
〈かわいい〉
〈ちょろすぎw〉
〈かわいい〉
〈頼もしくなった〉
〈先輩風すごいw〉
〈先輩だもんねw〉
「……態度違いすぎん? 俺が言った時なんか二言目には文句が出てきてたのに」
俺がやれって言ってもぜんぜん熱心にやらなかったし、仕事のスピードもめちゃくちゃに遅かったくせに、なんだこいつら。初対面のジンからの印象をよくしようとしてんのか。アーカイブ観られたら一発でばれるぞ。
『これが言い方のちがいだよっ!』
『この機に人との接し方を学んだらいいんじゃない?』
「人見て態度変えてるお前らのほうが醜いぞ」
『そういうこと言うからまた文句言われるってことがなんでわかんないのっ!』
『女の子に醜いとか言う? だからモテないんだよ』
「女同士で肩組んで文句言うやつのほうが絶対モテないけどなぁっ!」
『ひどいこと言った! かいとくんがひどいこと言いましたぁっ!』
『うわー傷つけられましたー先生に言いつけますー』
「じゃあ先生とやらを呼んでこいやぁっ!」
『せんせーっ! じんせんせーっ! かいとくんがーっ!』
『はいはい。壊斗さん、お友だちに乱暴な言い方をしてはいけませんよ』
「先生いんのかよっ?! てかマジで役職も先生じゃねーか!」
〈コントばっか仕上がるw〉
〈たしかに先生だわw〉
〈めっちゃ偉い先生で草〉
〈教授だからな〉
〈いつネタ合わせしたんだよw〉
〈ゲーム外のチームワークはいい〉
〈草〉
〈新人に先生やらすなよ先輩たちw〉
〈悪魔先生〉
『せんせー、かいとくんがー』
『先生、わたし酷いこと言われましたー』
「ジン違うよなぁっ! 俺言われたから言い返しただけなんだけど?!」
『んー……そうは仰いますが、朱莉さんも宵闇さんも壊斗さんに酷いこと言ってましたよね?』
『むぅ、でもぉ……』
『それは……そう』
「ジン信じてたぞっ! お前らが悪いんだよっ!」
『ですが壊斗さんも朱莉さんと宵闇さんに酷いこと言いましたよね?』
「…………」
『ほらーっ!』
『やっぱ壊斗だよ。壊斗吊ろうよ、追放しよ』
「人狼やってんじゃねーんだよ!」
『はいはい、喧嘩しないでくださいね。どちらも酷いことを言ってしまったので、今回はどちらも謝りましょう。さんはい』
『ごめんなさいー』
『……ごめんなさい』
「え、俺も謝んの……? ……さーせんした」
『はい、これで仲直りです。これから一緒に頑張りましょうねー』
『おー!』
『がんばろー』
「小学校の先生かよ……」
〈アドリブ?〉
〈草〉
〈仕込みだろこんなんw〉
〈小学校あるあるやめろw〉
〈ネタ合わせしてただろw〉
〈初めましてでやることじゃねーよw〉
〈草〉
朱莉と美月がへそを曲げかけていたが、ジンの機転のおかげでどうにか収拾がついた。
押さえつけようとすると二人はさらに反発するのだ。こうして二人の暴走を制止してまとめてくれるだけで呼んだ意味はあった。俺も謝らされたのは微妙に納得がいかないが。
『質問なんですけど、このゲームって時間制限もあるんですよね? 制限がなかったら絶対にクリアできるでしょうし』
『そうだよー! 画面の左からねー!』『制限あるよ。黒いのが左から影くるんだ』「もちろんある。元きた道、画面の左側だな。そっから影が迫ってきて」『黒くてどろっとしたのが追いかけてくるよ!』『黒いのにあたったらゲージが減るんだよ』「その影は研究所から漏れてきてるって設定らしい。それに捕まったら体力ががりがり減ってくんだわ」『最初はおそいからいいんだけど、あとのほうだと木も岩も多くてねー』『体力がなくなってもダウンするだけですぐに死んじゃうわけじゃないの。仲間にダウンの回復はしてもらえるんだけど、そのまま黒いのに呑まれちゃうから実質助けられないんだよね』「プレイヤーが影に覆われてもゲームオーバーにはならねーけど、人数が減ったら結局は進めなくなることが多いからほとんどゲームオーバーみたいなもんなんだよ」『そうだ! 谷とかね、湖とか出てきたら進むのも時間がかかるのっ! それで追いつかれちゃうんだー』『進めなくなってプレイヤー全員が呑み込まれたらその時点でゲームオーバーになるよ。あとプレイヤーが生き残っててもトラックが呑み込まれたらゲームオーバーになっちゃう』「護衛対象のトラックには研究所にいた子どもが載ってるとかで、影に覆われた時点で一発アウトだ。だからトラックを運転できるやつはトラックの位置を……同時に喋んなぁっ!」
〈制限あるよー〉
〈最初のステージでは見えないからな〉
〈影が見えてきたらカウントダウンみたいなもん〉
〈朱莉率先して説明しようとすんのかわいいw〉
〈自分から話しかけにいくなんて美月も成長してる〉
〈おら説明係出番だぞ〉
〈全員で喋んなw〉
〈草〉
〈誰か話すのやめろよw〉
〈みんな説明したがるやんw〉
〈なに言ってんのかわからんw〉
〈頭おかしくなる〉
〈草〉
〈わからんわからん!〉
〈なんでずっと喋り続けられるんだよw〉
〈誰も止まらんw〉
俺がジンに説明するから朱莉と美月は作業しとけって言ったのに、なぜか二人も教えようとしていた。三人が同時に話すせいでわけがわからないことになっている。
でも、少し意外だ。人懐っこくてお喋りな朱莉はともかく、人見知りでコミュ障の美月まで自分からジンに教えようとするとは。
『あははっ、ふふっ、やっぱり仲良いですね。えー、つまり……研究所から湧き出した影が後ろから迫ってくるんですね。プレイヤーはちょっとくらいなら捕まっても戻ってこれるけれど、トラックは影に呑まれたらだめ。ギミックなどで道を作るのが遅れることもあるので余裕を持って進んだほうがいい、ということなんですね。教えてくださってありがとうございます』
『どういたしましたっ!』
『ま、まぁ……ちょこっとだけ長くやってるからね。知ってることなら教えられるよ』
「いやなんでさっきの聴き取れてんだよ……」
〈この配信で切り抜き何個作る気だw〉
〈音重なりまくっててわけわからんかったぞw〉
〈あかいつきの絆()〉
〈聴き取ってて草〉
〈やっぱバケモンです〉
〈聖徳太子か?〉
〈もしかしてAIだったりする?〉
〈悪魔的聴力〉
〈悪魔AI説〉
『ふふっ、僕耳の鋭さにはちょこっとだけ自信があるんです』
『へー! じんくんは耳が敏感なんだねっ!』
『ぶふっ……。あ、朱莉、聞き方っ……』
「くはっ……」
〈めっちゃ耳いいよな〉
〈尖ってるからな〉
〈とがってる草〉
〈いつかの配信で悪魔も言ってたなw〉
〈いいかたぁっ!〉
〈言い方草〉
〈表現が最悪ではある〉
〈意味変わってくるw〉
突然ジンにぶっ込んだ質問をした朱莉に、俺と美月は噴き出した。
朱莉の訊き方だと、なんだかまるで性癖とか性感帯みたいな話にも聞こえてしまう。たぶん本人はそんなつもりは微塵もないんだろうけど。
『敏感というとどこか語弊があるような、ないような……。イエスかノーかで言えばイエスですけど。鋭敏ですし』
『えいびん……敏感とどうちがうの?』
『ほとんど同じです。ほんの少しニュアンスが変わってくるだけで』
『じゃあ敏感でまちがいじゃないんだね!』
〈すまんやで悪魔〉
〈ちょっとこの子天然なんだわw〉
〈この手の話題悪魔に振れるの朱莉くらいだわw〉
〈路線変更ならずw〉
〈言い換えようとしたけど通じなかったw〉
〈悪いな悪魔この子はあほなんだ〉
〈そんな難しい言葉知らないんです〉
『はい、間違いじゃありませんよ、ええ。これがおかしな意味に聞こえる人のほうがおかしいんですからね』
『おかしな意味?』
『耳が敏感だって言うと、おかしな意味に聞こえる人がいるらしいんですよ。不思議ですね?』
『そんな人いるんだ? ふしぎだねー?』
『くっ……』
「…………」
〈ずるいw〉
〈立ち回りうまい〉
〈朱莉側に立つのかよw〉
〈突っ込まれるの封じた〉
〈黙ってるのおるなぁ!〉
〈これは言えん〉
〈なんも言えんなったw〉
〈いやらしく聞こえた人こそいやらしい人だ〉
〈黙っとるw〉
めずらしくツッコミどころを見せたジンを茶化したかったのに、この話題に触れたら逆に自分の立場が悪くなる。カウンターで俺が恥ずかしい思いをしそうだ。
こういう時は沈黙を保つのが正解だ。朱莉や美月とのやり取りを通して、余計なことに手を出したら時に火傷することもあると俺は学んでいる。
俺は静かに作業に集中した。
ちゃんと作業も並行してます。たぶん。