サイコバグなお兄ちゃん、Vtuberになる。 作:にいるあらと
雑談を挟みながらもゲームは進んでいく。
朱莉と美月が進路の障害物を排除し、俺がノンアクティブの野生動物を狩っていると、ゲームの仕様を確かめていたジンが口を開いた。
『これ僕のキャラクターもトラックを運転できるのなら、運転は僕がやって壊斗さんが野生動物を狩りに行ったほうがいいかもしれませんね』
「んー、それもそうだな。トラック動かしといてもらえたら俺も資材運べるしな。クラフトする時間も作れるし」
『そういえばクラフトもあるんでしたね。ちょっと確認しておきます』
〈日が落ちないとやることのない教授〉
〈ランタンなくても松明でいいんだよなー〉
〈たしか教授だと資材少なくクラフトできる〉
〈スキル上げてなかったらやれることない〉
「へー。〈資材少なくクラフトできる〉……か。リスナーさんきゅー。クラフトもジンにやってもらったほうが得になるっぽいな」
『リスナーさん、情報提供ありがとうございます。それではクラフトも僕がやっていきますね。……斧とかピッケル、弓も作れるんですね』
「作れるぞ。修復しなかったら壊れるし、加工することに気を取られて斧とかピッケルが影に呑まれることもあるからな。そういう時はしゃあなしでクラフトしたりする」
〈クラフト安くなるのは助かるか〉
〈作れる種類も多くなる〉
〈デフォだとそれぞれ一個ずつしかないから教授もやろうとするともう一個作らないといけない〉
〈二つ作って使い回すほうが修復もやりやすいんじゃない?〉
〈草〉
〈何回か前に呑まれたなw〉
〈二敗してる〉
〈修復忘れと置き忘れで二デスしてる〉
『しゃあなしってなんなのーっ! 文句があるならはっきり言いなよーっ!』
『ふふっ、経験があったんですね』
『うん。あったよ。朱莉が一気に木を切って一気に加工してたら気づいた時には斧がどこかいってたのと、斧の耐久値見ないで木を切ってて壊したのと』
『や、やめてよみっき! じんくんにばらさないでっ!』
「自分のヘマを隠そうとしてんじゃねーよ。あと道具のアップグレードとかあるぞ。もしかしたらそれも必要になる資材減ってるかもな」
〈かわいい〉
〈かわいいけど実際そうだしw〉
〈ゲームオーバー済みなんだ〉
〈リークw〉
〈背中撃たれた〉
〈まさかの美月からw〉
〈道具の修復も強化も安くなる〉
〈言ったら教授はサポート役か〉
ジンが教授を選んだのはクリアを目指す上でも当たりだったのかもしれない。運転とクラフト全般をジンに任せられるのなら、俺は野生動物の狩りをしながら指示出しと木材や石材の回収ができるし、この先出てくるギミックに足場を置く余裕も残る。
「ジン、手が空いたら朱莉と美月が加工した資材をトラックに詰め込んどいてくれ」
『おや、トラックに溜めておけるんですね』
「溜めておけるってか、トラックに資材入れて、トラックで谷とか沼のギミックを越える時に必要な足場をクラフトするわけだからな。トラックに入れとかなきゃいけねーんだ」
『なるほど。それなら早めにこの荷台というのも作っておきたいですね。トラックに積載できる資材の量が増えるみたいですし』
「そうそう、そうなんだよ。斧とかの道具を強化していったら、後々トラックのデフォルトの積載量を超える量を要求されっからな。作っておきてぇな」
〈おー〉
〈提案いいよ〉
〈はやくもサブIGLだ〉
〈資材溜めときたいしな〉
ゲームのシステムとだいたいの流れを把握しただけでもう理解できているようだ。ジンは発想も考え方も柔軟だし、俺から説明しすぎないようにしたのは正解だった。
『序盤に資材を貯蓄できたほうが後々も良さそうですしね。んー……やはり道具は修復のことを考えるとそれぞれ二つあったほうが時間のロスはなさそうですね。修復のたびに木を切る手が止まってしまうのは非効率ですし、お二人の手間にもなってしまいます』
『そうしてもらえたらこっちも楽かもっ!』
〈交換制はあり〉
〈情報サイトにも載ってたな〉
〈ゲームIQたけー〉
〈センス光ってんねー〉
〈おー気がきく〉
〈優しすぎて草〉
〈悪魔あったけー〉
『朱莉さんと宵闇さんのお仕事は優先順位高いですからね。耐久値が危なくなってきたらその場で道具を交換して、僕が修復している間は予備の道具を使ってもらう、という形でいいですか?』
『それ助かるね。移動したり修復の間待ってるのも手持ち無沙汰になっちゃうし』
〈初プレイのジンがもう引っ張り始めてる〉
〈そうなんだよわかってるなぁ〉
〈木こりと石工の手を止めさせないのがコツ〉
〈教授は強化も修復も安いから二本あってもぜんぜんプラスになる〉
〈草〉
『じんくんはやさしいなぁ。あたしたちのことをちゃんと考えて疲れないようにしてくれてるんだよね』
『ほんと気が利くよね。わたしたちの仕事を尊重してくれてるし。こういう細やかな気配りがモチベーションを上げてくれるんだよ』
〈ちくちく〉
〈ディスってるw〉
〈ちくちくで草〉
〈悪魔と対照的すぎるんだよなw〉
『壊斗さんのオーダーとても助かってますよ。どの道から進んでいくとかって指示出してもらえるのとても気が楽になります。ありがとうございます』
「あーもう、ジンだけでいい。いっそのこと朱莉と美月はミュートにしててもいいかもな」
『そういうことをさーっ!』『何回同じ失言を』
『みなさん頑張ってますからね! 僕もスキル上げたらみなさんのお仕事を手伝えるみたいなので早くスキル上げていきたいところです! あっ、朱莉さん。マップの上のほう、小さな池みたいになっているところに光の玉があるので木を切り開いてもらってもいいですか? 足場持っていきますから』
『おっ? おーっ! まかせてっ!』
〈優しくて草〉
〈味方は悪魔だけ〉
〈誰よりも優しいw〉
〈また余計なことを〉
〈いらんこと言うなw〉
〈ミュートは草〉
〈喧嘩キャンセル〉
〈割って入ったw〉
〈新人に気を遣わせんなw〉
〈先輩三人いるとは思えない体たらく〉
マップの上のほうにちらっとだけ見えた光を目敏く発見したジンは朱莉に指示を出して木を切りに行かせた。よく見つけられたもんだ。
先にジンはクラフトで足場を作っておき、それを抱えて朱莉の近くまで走っていく。まだ教えていなかったダッシュまでいつの間にかしっかり活用していた。いやぁ、ジンだなぁ。
『じんくんできたよー』
『ありがとうございます。これを置いて……はい、取れました』
『ないすーっ!』
『ナイスー』
「うい。ないすー」
朱莉が木を切って作った道を通り、足場板というクラフトアイテムを使って水を越えて光玉をゲットした。
さっきジンがクラフトを確認しておくと言っていたが、本当にしっかりと確認していたらしい。
池とか湖とか水を越える時に使えるクラフトアイテムは、さっきジンが使った足場板と、水上道路の二種類がある。その二つの違いはその上をトラックが通れるか通れないか。もちろんトラックが通れる水上道路のほうが必要になる資材が多い。プレイヤーが光玉を取りに行くだけなら、わざわざコストの高い水上道路を使う必要はない。だからジンはコストの低い足場板を選んだのだろう。俺みたいにアイテムの名前に気を取られて水上道路を使うような失敗はしないらしい。一番最初のステージの時点でもう頼りになっている。
『朱莉さん、斧交換しておきましょうか』
『もう作ってたんだ?! あ、でもまだこの斧耐久値残ってるよ?』
『次はいつ朱莉さんの近くまでこれるかわからないので、念のためです』
『念のため! わかった! ありがとっ!』
『いえいえ』
〈交換はや〉
〈まだ結構耐久残ってそうだけど〉
〈仕事が早い〉
〈なにかのついでに修復の交換していくつもりなのか〉
〈効率厨的思考〉
〈むだなこと省いていくつもりだ〉
〈初見でそこまでがちがちに攻略してくの?w〉
〈一回目のやり方じゃないのよw〉
〈かわいい〉
〈二人のやり取りかわいい〉
〈ほほえましいなw〉
そう言ってジンと朱莉は斧を交換した。ついでとばかりに朱莉が加工した木材も抱え、ジンはトラックに戻っていく。動きに無駄がない。
『壊斗ー。アクティブ出てきてるー。倒してー』
「はいよ」
〈お仕事だ〉
〈やっぱ四人だと多いな〉
〈たおしてーw〉
〈だらー〉
〈かわいい〉
美月の要請に応じて俺は弓を握り締めて野生動物を狩りに行く。
野生動物にはアクティブとノンアクティブの二種類がいる。ウサギやシカといったノンアクティブは放っておいてもプレイヤーを攻撃してこないが、美月の近くに出たイノシシや、他にはオオカミやクマといったアクティブの野生動物はプレイヤーを発見するや即座に襲いかかってくる。アクティブは見つけ次第狩りに行かないといけない。
今は昼なので周囲が明るく、野生動物も発見しやすい。だがこれが夜になると発見が遅れやすくなるし、気づいたら隣にいるみたいなこともぜんぜん出てくる。
俺は使ったことがないのでどんなものか詳しくはわからないが、教授のランタンは暗闇でこそ真価を発揮すると聞く。夜を楽しみにしておこう。
ぱしゅぱしゅっ、と矢を放ってイノシシを仕留めた。
忘れないうちにイノシシを解体しておく。解体は木こりや石工で言うところの加工だ。野生動物の死骸はそのままでは使えない。死骸を解体して骨や皮、肉にして始めて資材になる。
「ジンー、矢をいくつか作っといてくれー」
『はーい。わかりましたー。壊斗さんがトラックに入れてくれている骨や皮って、何に使うんです?』
「強化用の素材だな。斧とかピッケル、弓もだけど、最初は木材と石材だけで強化できるけど強化し続けてると骨とか皮も必要になってくんだよ」
道具をアップグレードすれば効率が跳ね上がる。ただ効率と比例して必要になる資材の量も跳ね上がる。
木材や石材は比較的集めやすいが、どのタイミングでポップするかわからない野生動物からしか手に入らない骨や皮は、こまめに集めておかないと枯渇してしまうのだ。
『ほう、なるほど。さっきのイノシシとの戦いを見ていた限りでは、弓はそこまですぐに強化する必要性はなさそうですね』
「んー……まぁ……」
〈先に斧とピッケルやね〉
〈弓は後でええな〉
〈悩むなw〉
〈ちゃんと教えろよw〉
〈楽しようとすんなw〉
ステージが進むにつれて野生動物の体力は増えていくが、まだ序盤なら強化してなくても問題なく狩りはできる。
でもそれはそれとして狩りの労力を減らしたいので早めに強化はしてほしいところ。
『先に斧おねがいしまーっ!』
『それよりも先にピッケルおなしゃー』
『斧が先ーっ! 先におねがいしまーっ!』
『斧よりも先にピッケルおなしゃー』
『斧とピッケル一緒に強化しましょうね』
「くそ……弓は後回しか。お、開通したな。さっさと資材入れて家作んぞ」
〈わがままおるw〉
〈だだっこおるなw〉
〈どうしても先にやってほしい子たち〉
〈どっちでもいいだろw〉
〈競争じゃないんだから〉
〈先生しとるな〉
〈引率の悪魔先生〉
〈声が優しいんだ〉
〈弓後回しは基本〉
〈弓矢は急がんでいい〉
〈おー〉
〈ステージ一はなにごともなくクリアか〉
なんだかんだで順調に進み、建設予定地まで道が切り開かれた。あとは建設予定地に木材と石材を指定の個数納入してセーフハウスを建築し、セーフハウスにトラックを横づけすればこのステージはクリアになる。
『木材と石材をこの四角い光の枠に持ってくればいいんですよね?』
「そう。その枠の中に落とせば勝手に建築に使ってくれる。先に家作って、余った資材はトラックに放り込んでからトラック移動させんぞ」
『わかりました』
『まだ木は切っといたほうがいい?』
「そうだな……ジン、トラックにはあとどのくらい入る?」
『荷台をクラフトしたのでまだまだたくさん入りますよ』
『荷台? もう作ってたんだ。早いね。必要になる資材が減ってるからかな』
「それもあるし、ジンは資材をぜんぶ拾い集めてっからじゃね? 朱莉と美月が加工したやつぜんぶ回収してんだぞ」
『おー! そういえば後ろに木材取り残されてないね!』
『あ、ほんとだ』
『他にお仕事できませんからね。それくらいはしておかなければ』
「あんだけ話しててなんでしっかり動けてんのか謎だわ。俺とジンでこの周りの資材集めて建築しとくから、朱莉と美月は木と岩やっといてくれ」
ジンの時とはまるで違う二人の生返事を聞き流しながら、散らばっている資材を回収して回る。
ジンが加わってプレイ人数が増えている分、三人でやってた時よりもセーフハウスを建築するのに必要な資材の量は増えてはいるが、ジンがダッシュを使いこなしているおかげでそこまで時間はかからなかった。
朱莉と美月が追加で切った分もトラックに積み込み、このステージを終わらせた。
『これでクリアですね。まずは一つ、お疲れ様です』
『おつかれーっ! なんの問題もなかったね!』
〈まず一面クリア〉
〈おつー〉
〈ないすー〉
〈ナイス〉
〈おつーまぁここはチュートリアルみたいなもんか〉
〈でも三人の時は一回危ない時あったけどな〉
〈一面で危なくなるのは草〉
『ナイス。すっごい順調だね。今回は行けるんじゃない?』
「一回二回は試しでって思ったけど、想像以上にジンの適応力が高かったな」
ジンは一つ教えたらそれに付随して次々と理解を進めていく。途中からは時折ジンから質問が飛んでくるくらいで、ほとんど教える手間もなくなったくらいだ。
『ほんとそうっ! じんくんすごいねっ!』
『すぐに自分で考えて動けるようになってたし。ゲーム理解度が高いんだね』
『ふふっ、ありがとうございます。先輩方が丁寧に教えてくれたおかげですね』
『えへへっ、そんなことないよーっ! えへへっ』
『んふっ……い、いや、へ、ふへへっ……』
「口がうめぇ……。後輩力あったわ、こいつ。詐欺師適性かもしれんけど」
〈今んとこ完璧な働き〉
〈すごい〉
〈一回目とは思えん〉
〈FPSだけじゃないのね〉
〈先輩立てるなぁw〉
〈どっからでも褒めれるのすごい〉
〈先輩たちちょろすぎてw〉
〈かわいいw〉
〈オタク笑い聞こえるw〉
〈おたくみたいな笑い方すなw〉
〈後輩力かは怪しいところ〉
〈詐欺師のほうが似合ってんなw〉
〈外見も詐欺師みある〉
ステージ一をクリアして、ステージ二に行く前にお楽しみタイムだ。
『あ。ステージとステージの間でスキルポイントを振る画面があるんですね』
「おう。楽しいところだ。最初はスキルも上げやすいし」
お楽しみタイムこと、スキルポイント振りだ。
ポイントを振ってスキルを上げて、どんどんやりやすさや効率が上がっていくのを味わうところが、このゲームのおもしろいところの一つと言ってもいい。とても気分が上がる。
『わー! ポイントおいしーっ!』
『そうだね。先生が……あ。ち、違くて、ラースさんが光玉を……』
〈ボーナスおいしい〉
〈スキルけっこう上げれそう〉
〈ポイントうまうま〉
〈悪魔が光玉見逃さなかったおかげだ〉
〈先生てw〉
〈先生呼びw〉
『はいはい先生ですよー』
「とうとう先生って呼び始めてんじゃねーか」
『ラースさんっ! ラースさんがっ! 光玉をっ……』
『あははっ、みっきっ、ふつうにせんせーって呼んでたっ! あははっ、きゃははっ!』
『朱莉っ! 違うっ! あ、あるでしょっ?! 呼び間違えることくらい!』
「女の先生のこと『お母さん』って呼んじゃう男子小学生かよ」
『んーっ、だからーっ! もうっ!』
『ご自由にお呼びくださいと言ったのは僕なので構いませんよ?』
『それじゃあたしもせんせーって呼ぶーっ!』
『はいどうぞー』
〈先生w〉
〈ふつうに先生って呼んだなw〉
〈小学校に帰ってきたw〉
〈悪魔先生馴染んでるんだよなw〉
〈自由すぎて草〉
〈朱莉はなんでやw〉
〈草〉
〈それでいいんだw〉
「センセ、スキルでわからないやつとかあるか?」
『なんで壊斗までラースさんのこと先生って呼んでんの! もういいってばっ』
「いや乗っかっといたほうがいいかなって」
『いいから! 乗っからなくて!』
〈壊斗のイントネーション草〉
〈完全にセ↑ンセ↓やったやんw〉
〈ここぞとばかりにいじるなぁw〉
〈隙見せたやつが悪いw〉
〈天丼は礼儀〉
『あれ? 宵闇さん、僕のこと先生とは呼んでくださらないんですか?』
『なぅっ……ラースさんまで!』
「なんでお前は呼ばれたがってんだよ」
〈草〉
〈こういう時畳みかけるのが悪魔〉
〈なう草〉
〈かわいいw〉
〈まさか悪魔にまでいじられると思わんかったんやなw〉
『あだ名みたいでいいじゃないですか。そういうのに憧れがあります』
『じゃ、じゃあ……先生、で……』
〈いじりじゃなかったw〉
〈シンプルに呼んでほしかったんだな〉
〈悪魔はこういうとこがかわいいのよ〉
〈美月の言い方かわいすぎだろ!〉
〈なんか青春っぽい〉
〈甘酸っぱいやりとりで草〉
『はい、美月さん』
『ふひっ……ふへへっ』
〈ここでしれっと名前呼びする悪魔かっけー〉
〈イケボやめろw〉
〈女心もてあそぶなw〉
〈ふひマジ?〉
〈青春閉店〉
〈オタク笑い草〉
〈台無しすぎるw〉
〈笑い方終わってるw〉
「……オタク笑い出てんぞ」
『みっきはかわいいけど、その笑い方はかわいくない……』
『わっ、わたしだってっ、出したくて出してるんじゃないし! 勝手に出てくるんだから仕方ないじゃん!』
『あははっ、ふふっ……くふっ、あはははっ』
『先生笑い過ぎでしょ! これまで見せた上手なフォローを見せるとこだったじゃん!』
『いやっ、ふふっ……っ、か、かわいい、と……あははっ』
『最後までフォローしてよ!』
『あははっ、せんせーずっと笑ってるーっ!』
「さすがにジンでも拾えなかったか。んで、いつまでジンは笑ってんだよ」
『だって、お、お手本みたいなオタク笑いでっ……』
『んーっ! もうっ、先生!』
『はい、ごめんなさい。……ふうっ、失礼しました』
〈悪魔ツボってて草〉
〈やめろつられるw〉
〈こんな薄っぺらいかわいいはないw〉
〈美月がこんなにすぐに仲良くなるとは〉
〈勢いで先生呼びしとる〉
〈今日初めて話したとは思えんw〉
〈空気うめー!〉
俺と朱莉と美月の三人が集まった時の『あかいつき』コラボでは毎回やかましいが、初対面のジンが加わったら多少は落ち着いてくれるんじゃないかと思っていた。朱莉はあほだし天然だが礼儀知らずではないので一定のラインを守って喋るだろうし、美月は人見知りだからコミュ障を
時間が経てば、好奇心旺盛な子犬みたいな性格の朱莉はジンにはすぐ懐くだろうとは予想していたが、しかしまさか美月までこんなにも早く心を開くとは予想外だった。
予想外だし、計算外だ。もう少し仲良くなるまでに時間がかかると思っていた。
まずすぎる。仲良くなればなるほど雑談に興じるのがこいつらだ。
無駄口を叩く才能だけはある朱莉と美月に、スイッチが入ったら悪ふざけしかしなくなるお喋り好きのジンが組み合わさったら終わってしまう。明日の俺が死んでしまう。
どうにか話を戻す。寄り道回り道をしようとするこいつらの腕を引っ張って強引に本筋に戻らなければ、本当にずっと雑談し続けるかもしれない。
雑談はまた後日、雑談配信として枠を取ってやってほしい。今雑談しないなら俺もその雑談配信観させてもらうから、なんなら俺もその雑談配信に参加してもいいから、せめて今日はやらないでほしい。
「この画面でよかったわ……ステージ中にこんなんなってたらゲームオーバーなってたって……」
『あははっ、たしかにー! でもまだ二十二時前だし、時間はいっぱいあるよ!』
『そうだね。まだ何回かゲームオーバーしても大丈夫そう』
「そんな何回もゲームオーバーしてたまるか。ジンは配信終わりに駆けつけてくれてんだからな」
〈それはそれでおもしろかったな〉
〈草〉
〈笑ってゲームオーバーは草〉
〈見たかったなw〉
スキルポイント振る画面は時間制限はないので、いくら時間をかけようと問題ない。ステージ中にジンが笑い転げてしまっていたら、クラフトや資材の回収が追いつかなくなって終わっていただろう。なんでゲームと関係ないところでひやひやしないといけないんだ。
『僕のことはお気になさらず。リスナーさんをお待たせしてしまっているでしょうし、早く次のステージに行かないといけませんね』
「話脱線させにかかってたお前が言うのかよ」
『ふふっ、すみません。楽しくなってしまって』
〈待ってないよー〉
〈ずっと話してくれていいぞw〉
〈こっちは気にせず喋っててくれ〉
〈気にすんなw〉
〈聞いてて楽しいからええよw〉
〈途中で終わったとしても楽しかったらそれで満足だそ〉
〈盛り上げてくれてんだよ〉
〈そんな真面目に進めんでいい〉
〈喋ってるだけでおもろいならそれでいいんだよ!〉
〈そのままでいいぞ悪魔〉
〈楽しいのが一番なんだからw〉
『えへへっ、楽しいよねっ! あたしも楽しいよっ!』
『そうそう。楽しんでやるのが一番いいの』
「お喋りだけじゃなくてゲームにも集中力割けるんなら俺も文句は言わねーよ」
違う事務所の人間しかいないコラボに急に呼んだのにきてくれて、こうして『楽しい』とジンが言ってくれるのは俺としても嬉しい。楽しく配信できるんならそれが一番いい。
ただ、ジンは喋りながら並列的にゲームもできるだろうけど、シングルタスクの朱莉と美月は口を動かすと手が止まるんだ。
楽しんでくれるのはもちろんうれしいが、それでクリアが遠のいてしまうと元も子もなくなってしまう。ちっとも喋らないより万倍もいいのはわかっているし、盛り上げてくれてるのも助かるんだけどもう少し、もう少しだけ控えめにお喋りしてもらえるとありがたい。
『スキル……どれにしましょうか。スキルを上げた先の効果を知らないので難しいですね』
「んー……教授のスキルなー。俺も使ったことねーからわからんな。ジンの好きなように上げりゃいいぞ。ジンの立ち回りだったらスキルなくても役に立ってんだし」
『五つもあると迷ってしまいますね』
「ん? 四つじゃねーの?」
『え? 五つありますよ?』
『ほえー。せんせーは五つなんだね。たしか他は四つなんだよね?』
『わたしも四つだよ。スタミナ消費軽減と採掘効率強化、加工効率強化、アビリティ』
〈教授は一つ多いんだよ〉
〈他の職のカバーのぶん〉
〈ちょっと特殊だからね〉
〈アビリティがないんだったか〉
〈アビリティの代わりにランタン強化があるね〉
『教授だけ一つ多いんですね』
「木こりも石工もレンジャーもスキルは似たようなもんなんだよな。スタミナ軽減と、それぞれの仕事の効率強化と加工の時間短縮、あとアビリティって感じで。教授はなにがあんの?」
『えー、ランタン性能強化、クラフト効率強化、あと皆さんの職業のサブとしてのスキルがありますね』
『それって、たとえば木こりのサブのスキルを取るとするでしょー? そしたらせんせーも斧持ってたら木を切れるようになるってことなのかな?』
『そうなんじゃない? 加工ってどうなんだろ? 加工もできるのかな』
〈ランタンそこそこクラフトをメインにってのが一番いいみたいだけど〉
〈サブは加工まではできねーんだよな〉
〈夜にはいいけど松明置いたらカバーできるのがな〉
〈サブ職取っても本職には届かないからレベル一か三止めでいいらしいよ〉
〈好きに上げても問題ないでしょ〉
〈使ってる悪魔がうまいからどうとでもなりそう〉
俺たちが今やっているこの『exodus』というゲームは、難しい操作はないのに奥が深くておもしろいので幅広い層から人気がある。だからリスナーにも経験者が多くいるようだ。リスナーの中でコメントを頻繁にするのは一部分だが、その一部分の中だけでも詳しいリスナーが多くいるようだ。訊いた時に教えてくれるのは助かる。
「おっ、有識者さんきゅー。〈サブは加工まではできない〉らしい。結構レベル上げても〈本職には届かない〉って言ってるやつもいるし、サブはポイントに余裕があったらでいいんじゃね?」
『そうですね。有識者の方、ありがとうございます。木や岩が多くなってきたらサブを取ってもいいかもしれませんけど、今は手が回っていますし後でも良さそうですね。役割的にサポートに回ることが多いのでクラフトと、あと気になっているランタンを強化しておきますね。最後まで上げるとどうなるんでしょう? とても興味があります』
〈かまへんで〉
〈自分で調べろ〉
〈悪魔のためならまあええか〉
〈クラフト優先は失敗がないな〉
〈クラフトなら損はない〉
〈理解が早いんだから〉
〈役に立てたならよかったよ〉
〈悪魔の時だけリスナー優しすぎん?w〉
〈壊斗との態度の差でかすぎて草〉
〈悪魔好きよ〉
〈不快感ないしな〉
〈嫌う理由ないもの〉
〈ランタン気になってんのかわいいw〉
〈でもランタンあんま役には……〉
「ジンがクラフト上げんだったら、俺たちは先に加工効率とアビリティ上げてったほうがいいな」
『どれから上げてもいいけど、どうして?』
『先生がクラフトの効率上げたら道具を強化してもらいやすくなるじゃん? 道具の強化で仕事しやすくなるんだから、先に加工のスキルレベル上げといたほうが進むのが楽になる。ってことなんじゃない?』
「そういうこと。スタミナ余らせるのももったいねーからアビリティも取っとくぞ」
〈せやね〉
〈ないす〉
〈ナイスオーダー〉
〈切るほうはあとでいい〉
〈加工とアビリティとって後からスタミナと作業上げが効率いいんじゃない?〉
『皆さんにはアビリティなんてものがあるんですね。それはどういった効果が?』
『あたしだと一直線にずばぁって切ったり、周りの木をしゅいぃんって切ったりするよ!』
〈そういや教授はアビリティなかったな〉
〈教授はランタンと一緒になってる〉
〈朱莉w〉
〈擬音w〉
〈かわいい〉
〈伝わるならええかw〉
『石工もそんな感じのアビリティだね。あとは少しの間、岩を砕くのが早くなったりとか、加工にかかる時間が減ったりとかかな』
「レンジャーは弓矢の威力が上がったり、射程が伸びたり、野生動物のいる方向を知らせてくれるアビリティがある」
〈ばらけたとこに配置されてる時あるしな〉
〈アビリティの使い分けが後半は大事〉
〈加工がね〉
〈加工にかかる時間もどかしいわ〉
〈ソナーは夜めっちゃ助かる〉
〈射程伸びても射速は上がらんから偏差むずい〉
『アビリティ、面白そうですね。一気に木や岩を壊したりするの、とても気分が良さそうです』
『うんっ! とってもきもちーよ! アビリティ使ったらばらばらーって散らばるのっ!』
『ふふっ、いいですね。今度やる機会があれば、木こりや石工もやってみたいです』
『うん。おすすめだよ。気分いい』
「いや……一緒にやる相手にもよるかもだけど、ジンは教授かレンジャーやったほうがいいんじゃね? お前のIGL腐らせるのはもったいねーよ」
〈一気に切った時気持ちいい〉
〈切った音いいんだよな〉
〈悪魔が木こりはどうだろうなw〉
〈他大丈夫か不安になるけどw〉
〈たしかにw〉
〈それはそうw〉
〈単純作業させるにはポテンシャルが高すぎる〉
視野が広くて臨機応変に動けるジンを一箇所に留めておくのはさすがに惜しい。優秀な人材には就くべきポジションというものがある。
『せんせーにも好きなことやらせたげてよーっ!』
『強制するのよくないんじゃない?』
『教授も楽しいですよ? 楽しくやらせてもらってますからね?』
「いや……俺もやりたいようにさせてやりてーけど、今日はしゃあねーだろ。考えてもみろよ。仮に俺とジンが木こりと石工、朱莉と美月がレンジャーと教授やってみ? たぶん破綻するぞ?」
〈やさしい〉
〈壊斗には見せない優しさ出てきてるw〉
〈忙しいけど教授もいいぞ〉
〈目立たないけど助かる職なんだなー〉
〈終わるわw〉
〈それは終わる〉
〈あかりだったら弓矢当たらん可能性あるw〉
『できるよっ! あたしとみっきのコンビネーションでなんとかなるよっ!』
『……今日はやめとこっか』
『みっきっ?! あたしたちならできるよっ?!』
『……朱莉がオーダー出す光景がイメージできない』
『できっ……で……んんっ』
「はっきり言えよ、おい。できないですって、おい」
〈できるかなー〉
〈できそうにはないなー〉
〈背中刺されたw〉
〈裏切られてて草〉
〈オーダー無理やろなw〉
〈濁したw〉
〈詰めたるなよw〉
『もしかしたら朱莉さんもできるかもしれませんよ? やってない以上、可能性だけはありますからね。さあ、皆さんもスキルポイント割り振れたみたいですし、次のステージ行きましょうか』
『そうだよねっ?! 可能性はあるんだよっ! せんせーはわかってくれてる!』
〈できるかなぁ?w〉
〈無理そうだけどw〉
〈可能性は捨ててないw〉
〈否定はしないんだよね〉
〈カバーの鬼だ〉
〈先生は生徒を見捨てないw〉
〈成長するかもしれないし……〉
『どこからでもフォローできるのすごいね、先生』
『どういう意味かなっ?! みっきそれどういう意味なのかなっ?!』
「できる
『そんなことないよ! ね?! せんせー!? ね?!』
『次のステージも頑張りましょうねー』
『せ、せんせー? せんせー?!』
〈美月w〉
〈明言は避ける〉
〈嘘はつけないもんね〉
〈あか虐はいいもの〉
〈あか虐助かる〉
FPS以外のゲームもうまいジンが加わったのだから、簡単で単純なギミックが多い序盤の数ステージは詰まることなんてないだろう。この先もテンポよくクリアしていきたいところだ。