【完結】剣姫と恋仲になりたいんですけど、もう一周してもいいですか。   作:ねをんゆう

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02.狂い始めた○○

結局、何も分からなかった。

自分が誰で、どこのファミリアに所属しているのか。自分が今この時まで、オラリオのどこで何をしていたのか。そんな記憶も記録も何処にも残ってはいなかった。

単純に過去に戻った訳ではなくて、何かが変わっている。それも少しだけ歪な形で。まるで元々自分という存在など、この世界には無かったかのように。

 

……そうして行く当てのなくなった僕は、取り敢えず受け入れてくれるファミリアを探すことにした。それはもちろんロキ・ファミリア以外でだ。ロキ様が断るのは分かっていたから。けれどまだ11歳のレベルも1しかないような子供など、何処も受け入れてはくれない。そんな慈善事業のようなことはしてくれない、探索系のファミリアならばなおのこと。

けれどお金を稼がないと生きていけないから、僕は色々と考えた結果、最終的に規則を破ってダンジョンに潜ることを決めた。正しくはダンジョンで1日生活することにした。もちろん目的はお金なので、ある程度溜めたら地上には戻る。その時は規則違反で色々と言われるだろうけれど、最初の一回くらいは子供ということで許して貰えるはず。悪いことをしている自覚はあるが、僕はお金の稼ぎ方をこれ以外には知らない。それに換金さえ出来れば、そのお金と引き換えに入れてくれるファミリアもあるはずだ。

……そうだ、この街でお金を稼ぐのは難しいことではない。必死になってモンスターを倒せば、それで手に入る。死ぬ可能性はあるけれど、死ぬほどの努力をしなければ、否、そこまでしてもなお僕の願いには届かない。ここで死んでしまうようなら、それ以上の努力に耐えられないということなのだから。それは他ならぬ自分が許さない。死ぬことなんかより、この願いがまた破れてしまった時のことを想像する方がずっと怖い。

 

「大丈夫……ゴブリンなんか何度も狩った。問題は食べ物と飲み物だけど、1日くらいならなんとかなる。1日狩り続ければ、少しはお金も貯まるはずだから。それを持って、例えばヘルメス・ファミリアとかなら雇ってくれるかも」

 

ダンジョンに正式に入れるようになれれば、それでいい。恩恵の更新もしてくれるなら、稼いだ額の半分でも安いくらい。自分の立場がそれくらい弱いことは理解している。

でも時間がないのだ、何もかも足りないのだ。あと3年で以前の自分を更に超えなければならない。明らかに悪くなったこの環境の中でも、求められる結果はより高い。そしてそこまでしても、ベル・クラネルは数ヶ月で追い付いてくるだろう。きっとアイズさんを超えてもまだ足りない。彼にアイズさんを取られないためには、もっともっと優位性が必要だ。

 

……ああ、そうだ。足りていないんだ。

 

たった1日ダンジョンに潜って、お金を稼ぐなんて。そんな甘いことをしている暇なんてないだろう。アイズさんは確かもうこの時期にはレベル5に到達する。そんな彼女は恐ろしいほどに努力していたと聞いた。ならばどうして自分がそんな彼女よりも休んでいられようか。

水も食べ物も魔石で他の冒険者に交換して貰えばいい。浅層には中層から帰ってくる冒険者が多く、それらを持って帰っても邪魔になるため、快く交換してくれるだろう。もしかすれば多少腐っているかもしれないが、そんなことは別にどうだっていい。削れる物は他にもいくらでもある。

 

「強くなって、見た目も良くして、誰とでも会話出来るようになって……あとは何をしたらいいんだろう。あ、偉業も達成しないと。シルバーバックとかミノタウロスとかゴライアスを1人で倒して。レベル2になったら18階層にも行こう。……でも、もっと、もっと凄いことしないと。ただでさえ足りてないんだから。そうでもしないと、アイズさんを取られちゃう」

 

不思議だけど、そう思うだけで、その姿を想像するだけで、身体にいくらでも力が入る。どんな辛いことも我慢出来る気がして来る。

そうだ、僕は本気なんだ。

アイズさんに見てもらうためなら、なんだってする。彼女のことを知り、少しずつ交流を深め、彼女の理想になろう。そもそもの自分では駄目だというのなら、自分を消そう。

ただ闇雲な努力なんてしない。

そんなことをしている時間がないんだから。

彼女が受け入れてくれる自分になるまで、この3年間の間で死に物狂いでやってみせる。……この3年間が勝負なのだから。僕の人生は、この3年間のためにあるようなものなのだから。本当に、死に物狂いで。

 

 

 

 

 

 

 

 

「………う〜ん」

 

その日、エイナ・チュールは真剣な顔をして自分の目の前に広がる幾つかの羊皮紙を睨み付けていた。それは最近噂になっている、とある子供に関しての作成中の報告書。

ダンジョンから戻って来た冒険者達が、浅層で子供から魔石と引き換えに、食料や水、他にも使わなくなった武器や櫛、ハサミなどを求められるというもの。渡される魔石の量がどう見ても多過ぎることから、中層あたりを進む冒険者達からはありがたがられているそうだが、しかし問題はそんな報告が毎日のように上がってくることだ。

その子供自身は愛想も良く、身嗜みも最低限整っているということであるが、それでもやはりダンジョンに住んでいるのではないかという憶測は尽きない。直接聞いてみた冒険者も居るようだが、それも上手いことはぐらかされてしまうらしい。しかしギルドの記録にそういった子供の情報は残っていない。つまりは無断侵入、大きな問題だ。

 

「それに……」

 

報告者の1人が書いてくれた人物像、そこに描かれた子供にエイナはなんとなく見覚えがある。少し前に自分の記録を聞きに来た奇妙な子供のことだ。自分が居たファミリアや主神すらも分からず、色々と調べてみたが記録にないことを伝えると、そのままフラフラと外へ出て行ってしまった。その後は走って行ってしまったために会話をすることは出来なかったが、まさかダンジョンに居たとは全く想像していなかった。

 

「事情……あるに決まってるよね」

 

見たところ、まだ年齢が二桁になったかどうかというような子供。そんな子が誰の助けもなくダンジョンに入るなんて、あのアイズ・ヴァレンシュタインでさえも必ずロキ・ファミリアの誰かと一緒に潜っているのだ。生きていることが奇跡だし、生きているのなら普通じゃない。

そして今日まで彼に関するような捜索依頼も出ていない。犯罪に巻き込まれていたか、それとも本当に何らかの理由で身寄りが消えたのか。どちらにしても彼は1人ぼっち、放っておくことなんてエイナには絶対に出来ない。

 

「珍しく厳つい表情をしているな、エイナ」

 

「っ!リヴェリアさま!?」

 

受付でそんな表情をしていたからだろうか、どうやら変に目立ってしまっていたらしい。ギルドに入って来たリヴェリアの存在にも今の今まで気が付かず、それを直接指摘されてしまい顔を赤らめた。

 

「も、申し訳ありません。少し気になる事案がありまして……」

 

「気になる事案?」

 

「あ、はい。リヴェリア様は最近ダンジョンに子供が住み着いているという話をご存知でしょうか」

 

「……ああ、あの話か」

 

やはりリヴェリアもそれについては多少は耳に挟んでいたらしい。それほどには冒険者の間で広まっている話なのだ。妖精なのか、イカれた子供なのか。どちらにしても普通ではないし、冒険者達はそういう話が大好きだから。嫌でも耳には聞こえて来る。

 

「お前の反応を見るに、あの話は事実だったのか」

 

「はい、ここ数日で報告がかなり多くありまして。人物像も一致していることから、ほぼ間違いないと思われます」

 

「ふむ……ロキ・ファミリア内でそういった子供と遭遇した者は居なかったからな、単なる噂話かと思っていたが。しかし本当の話であれば、確かに問題だな」

 

「ええ、ですので一度信頼出来る冒険者にお願いして連れて来て貰おうと考えていたんです。本人は『まだやることがある』と言っていたそうなんですが、流石に看過できませんので」

 

「そうだな、それがいいだろう。……いかんな、アイズの影響か子供がダンジョンで戦っていると聞くと妙に反応が過敏になる。無事に保護出来るといいんだが」

 

「ふふ、そうですね。事情は分かりませんが、私もギルドの職員としてしっかりと子供の保護を…………っ!」

 

そこまで言い掛けた時だった。

何やらざわつくギルドの外。不審を感じて目を扉の方へと向けてみれば、開け放たれた扉から大きな荷物を抱えた人影が入って来ているところだった。気付いたリヴェリアも振り向き、それを見る。

……その顔を知っている。

以前見た時よりも更に異様な雰囲気を纏っていて、けれどその時よりも容姿が整っているのがまた奇妙で、そして。

 

「お、おい。あの坊主が持ってるの、ミノタウロスの角じゃないか?」

 

「そ、そんな訳ねぇだろ……その、アレだろ。父親の代わりに換金に来たとか、そういう」

 

エイナもリヴェリアも、その少年が歩みを進めて来る中でも身動きひとつ取ることが出来なかった。少年は一瞬リヴェリアの方を見て目を見開いたような気もするが、一度頭を丁寧に下げると、背負って来た荷物を横に置いてエイナに向き直る。背の高さはエイナよりもかなり低い。本当に小さな身体。けれど纏っている雰囲気が、子供のそれとは思えない。滲み出る僅かな悪寒。

 

「ダンジョンに勝手に入ってしまいました、ごめんなさい」

 

「え?あ……」

 

「謝罪します、罰も受けます、罰金だって支払います。……その代わり、これだけは換金させてください。お願いします」

 

そんな雰囲気を持っているのに、彼は綺麗な姿勢で頭を深々と下げて懇切丁寧に謝罪をした。それまでヒソヒソと何かを話していた周りの者達も、それを見て言葉を詰まらせた。だってそんな光景は、この場に居る誰も想像していなかったから。

エイナだって、少しの抵抗があるかと思っていた。話は色々と聞いていたが、もっと年相応の跳ねっ返りのある子だと思っていたのだ。それこそアイズのように。けれど目の前の彼は下手な大人よりも人が出来ていて、この狂気とも言える量の魔石を持ち帰って来た人間とは思えないほどに誠実で。

 

「こ、これは……君が取ってきたものなの?」

 

「はい。この身ひとつでは何処のファミリアにも入れて貰えなかったので、せめて纏まったお金が必要だと思いルール違反を犯しました。十分な金銭を支払い、ミノタウロスを倒したという証拠があれば認めて貰えると、そう思いました」

 

「……レベル1、だったよね?」

 

「はい」

 

「どうやって、倒したの……?」

 

「ミノタウロスの体力を削って、弱ったところを倒しました。幸いにも単体で上層に来ている個体だったので、運が良かったです」

 

「…………」

 

違う、それは違う。そう声を大にして言いたい。

だってミノタウロスはそんなことで倒せるような相手ではないから。ミノタウロスの体力を削る前に普通のレベル1ではこちらの方が先に疲弊してしまうし、そうでなくとも咆哮による強制停止効果なんかもあって、レベル2であっても単独で倒せる者は限られるのだ。そんな簡単な話ではない。

……もしこの場に神が居たのなら、少しは違っただろう。しかしここには神は居ない、故に彼の言葉の真偽が分からない。だからエイナはリヴェリアに助けを求める。彼女なら少しは彼のことを探れるのではないかと、そんな勝手な期待を持って。

 

「……すまない、少し良いだろうか」

 

「大丈夫です」

 

「私のことは知っているか?」

 

「知ってます」

 

「そうか、余計な口出しをしてすまないが……君はそのお金を持ってファミリアを探すと言っていたな?あてはあるのか?」

 

「ありません。ただ、僕の願いはダンジョンに潜ることと恩恵を更新して貰うことだけですから。それが出来るなら何処でもいいです。ヘルメス様あたりが拾ってくれないかとも思っています」

 

「神ヘルメスか……君の目的はなんだ?」

 

「……それは、言えません」

 

「言えないようなことなのか?」

 

「言えないですし、言いたくありません」

 

「家族や仲間はいないのか?」

 

「居ないみたいです。少なくともギルドで調べて貰った限りでは」

 

その言葉に、エイナは頷いてリヴェリアに伝える。彼については調べた、ここ数日も。しかしやはり彼に関する情報はギルドのどこにも存在しては居なかった。‥‥彼の記憶がおかしいのか、ギルドの記録がおかしいのかは分からないが。それでも彼自身がそう言っているのなら、そうなのだろう。彼は本当に1人ということだ。つまり、頼れる相手が居ないといつことだ。

 

「……君はまだ幼い、他者の庇護を受けるべきだ。少なくとも1人でダンジョンに潜るというのはやめた方がいい」

 

「それは困ります、時間がありません」

 

「時間?」

 

「…………………これからはルールも守りますし、勉強も努力も自分で頑張ります。だから1人でダンジョンに潜らせてください。お願いします。我儘言ってるのは分かっています、それでもそうしないといけないんです。お願いします。お願いします。お願いします」

 

「お、おい……君……」

 

「お願いします」

 

突然の地面に頭を擦り付けるようなその勢いに、リヴェリアは酷く困惑する。まだ10歳程度の子供が、ダンジョンに1人で入りたいとここまで必死にお願いしてくる。その異常さが分かるだろうか。これならアイズのように無理矢理にでも抜け出してダンジョンに行く方がよっぽどマシだ。こんなことをされてしまっては、リヴェリアもどう対応すればいいのかが分からない。別に責めていた訳でもなかったのに。こんな小さな子供にここまで頭を下げさせて、まるで自分が悪者になったかのようだ。

 

「へぇ、いいんじゃないか?少なくとも俺は歓迎するぜ、少年」

 

「!!神ヘルメス……!」

 

「……!」

 

だから、偶然であったとしても神ヘルメスがここで現れてくれたのは、リヴェリアとエイナにとっても救いであった。

彼はいつものように背後に頭を抱えるアスフィ・アル・アンドロメダを連れて、飄々とした雰囲気でギルドの中に入ってくる。いったい何処から何処まで話を聞いていたのか。しかしそんな彼の言葉に、少年はバッと頭を上げた。それを喜んで良いのかどうかは、リヴェリアとエイナには分からない。

 

「少年、君の名は?」

 

「ノアです、ノア・ユニセラフ」

 

「そうか。ならノア、俺は君の願いを受け入れてもいい。だが逆に、君は俺に何を齎してくれる?君は何を代償にして俺を利用するつもりだい?」

 

「……お金と、力と、未知を」

 

「へぇ」

 

「稼いだ額の半分を納めます、必要があれば深層にだって着いていきます。そしてこれから3年間、きっと貴方を飽きさせはしません」

 

「なるほど、それは随分と魅力的な話だ。3年間というのは?」

 

「そこで僕の全てが決まります。そこが僕の目的の全てです。なので3年後には、ファミリアを抜けることを許してください」

 

「君の事情を教えてもらう事は出来ないのかい?」

 

「それも含めて教えない方が、きっと楽しんで貰えると思います」

 

「……なるほど、嘘は言っていないな」

 

「はい」

 

「君はもう3年後までの予定を立てている。それまで決して死ぬつもりはない。そういうことでいいんだな?」

 

「はい、問題ありません」

 

「……よし、いいだろう」

 

リヴェリアからしてみても、そのやり取りは神に願うに十分なものだった。特に暇を持て余し下界に降りてきたような神々に対しては、ヘルメスのような神に対しては、暇をさせないという提案は何より深く突き刺さる。

そうでなくとも、稼いだ額の半分を納めるというのは、普通の冒険者にとって相当酷い条件なのだから。ヘルメス・ファミリアのような中規模のファミリアにとっては、それなりに影響が出て来るライン。恩恵で縛っておくだけでもお金が入る。1人の冒険者が生み出すファミリアへの利益としては、十分過ぎるもの。

 

「そういうことでエイナちゃん、彼は俺のところで引き受けるよ。色々迷惑かけるかもしれないが、まあ多めに見てやってくれ」

 

「……!ほ、本気ですか神ヘルメス!そんな小さな子を1人でダンジョンに行かせるなんて!!」

 

「本気だよ、だってそういう約束をしたんだ。1柱の神として、たとえそれが口約束であったとしても、俺は約束は守る」

 

「だが神ヘルメス、条件は緩和すべきだ。最低でも1人は見張りを付けるべきだし、稼いだ額の半分を納めるというのもやり過ぎだ」

 

「何度も言わせるなよ九魔姫、これが俺達の交わした約束だ。それに、どうしてもって言うならそっちで預かるかい?俺は別にそれでもいい。適当な俺なんかより、君達に引き取って貰った方がよっぽど幸せだろう。……もちろん、最近は大人しくなって来たとは言え、あの剣姫と一緒に育てられるならの話だが」

 

「っ」

 

その言葉に対して、リヴェリアは首を縦に振る事は出来なかった。何故ならヘルメスの言う通り、そんな余裕がないからだ。

少しずつアイズも落ち着いて来たとは言え、それでも未だに無茶をする。そんな時に過去のアイズ以上に無茶をしそうな彼を近付けようものなら、アイズにどんな影響が出てしまうか分からない。それに2年前にアストレア・ファミリアが壊滅してから、少しずつではあるがロキ・ファミリアの負担も増えて来た。そして先日もレフィーヤ・ウィリディスというリヴェリアの後釜候補が入団して来たばかり。……今のロキ・ファミリアに子供につきっきりになる人員を割く余裕はない。特に彼のような地雷に成りかねない存在を簡単に受け入れるということは、リヴェリアの独断では決して出来ない。

 

「………」

 

「ま、そういうことさ。さあ、そういうことだから早速いこうかノアくん!俺達の拠点に案内しよう!」

 

「はい。……そうだリヴェリアさん、今度アイズさんにもご挨拶をさせてください」

 

「え?」

 

「歳の近い、でも僕より遥かに強い冒険者さんですから。一度だけでも挨拶がしたいんです」

 

「……機会があればな」

 

「ありがとうございます。それではまた」

 

丁寧にお辞儀をして、子供らしい笑みを浮かべて彼はヘルメスのあとを追う。その様子を見れば、本当に彼はただの子供のよう。けれどリヴェリアは彼とアイズを会わせたいとは思わなかった。言葉ではああ言ったが、そんな機会を作るつもりもなかった。……せめてもう少しまともな少年だったらまだしも、あそこまでの異常性を見せ付けられては、易々とは受け入れ難い。

 

「「……………」」

 

残されたリヴェリアとエイナは顔を見合わせる。そしてヘルメス達が出て行った後、アスフィだけはギルドに残り、少年が持っていた魔石等の換金をし始めた。故に2人の会話にアスフィが参加してくるのも、また当然の話。

 

「……この度はヘルメス様がご迷惑をおかけしてしまい申し訳ありませんでした、リヴェリア様」

 

「いや、いい。……ただ、本当に大丈夫なのか?」

 

「分かりません、ヘルメス様が何を考えて彼を受け入れたのかは私にも予想がつきません。しかし私個人の考えとしても、彼のことは受け入れるべきだと思いました」

 

「アンドロメダ氏もですか?」

 

「……というより、誰も受け入れようとしない以上、誰かが受け入れてあげないといけないでしょう。大人として」

 

「それは……」

 

「あの少年が何処かおかしいのは分かっていますが、だからと言って誰もが突き放すというのも間違っています。リヴェリア様が、ロキ・ファミリアが保護をしないという立場を取った以上、他の誰かが手を上げない限り、彼はまた孤独を深めてしまいます」

 

「………そう、だな」

 

あの年齢であそこまで歪んだ何かを持っている。

しかしそれは本当に彼の責任なのだろうか?

それを彼の責任だとして突き放すのであれば、人でないのはどちらだろう。

実際あそこまで口を出したのなら、説教だけで終わりというのはあまりにも無責任過ぎる。あれでは本当にただ説教をしただけで、事情を掘り荒らしただけで、彼の心を傷付けただけだ。そういう意味では神ヘルメスは一瞬も躊躇うことなく自分の懐に入れて彼を救ったのだし、感謝することはあれど、リヴェリア達にそれをどうこう言う権利はない。

……その異常さにばかり目を奪われてしまって、彼もまた子供であるということを忘れていた。彼はヘルメスがその手を取ってくれるまで、このギルド内においても孤独だったのだ。彼をその立場に追いやったのは、今思えばもしかして自分達だったのかもしれない。

 

「……アンドロメダ氏は、彼のことをどう思いましたか?」

 

「そうですね……奇妙で、狂気を抱えてはいますが、それでも十分に善人の部類には入ると思います。彼の態度には相手に対する敬意がありましたから。少なくとも彼の目的は、都市に刃を向けるような物ではないと思われます」

 

「そうだな……ああ、確かにそうだ。あの異様な雰囲気とは別に、確かに彼はこちらの警戒を解こうと笑顔や誠実さを意識していたように思える」

 

「何者なんでしょう、彼は……」

 

「分からないが……少なくとも私は一度、彼に謝る必要があるようだ」

 

アイズを思うあまりに、不要な疑いをかけてしまったことに。

 

それでも彼等三人は、この後再びその認識を考え直すことになる。それは他でもない彼の、並々ならぬ執着と執念によって。

少なくとも拠点を紹介されて恩恵を更新した直後、直ぐに受け取った半分の金額を持って出て行ってしまい、それから10日も帰って来なくなってしまえば、アスフィだって心配になって他の団員にダンジョンを覗きに行かせたりしてしまっても仕方がない。

 




同時並行でオリ小説も投稿してます。
https://syosetu.org/novel/303308/
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