【完結】剣姫と恋仲になりたいんですけど、もう一周してもいいですか。   作:ねをんゆう

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04.彼への○○

それから彼が帰って来たのは、更に8日後のことだった。

合計15日間もダンジョンに潜り続け、まるでちょっとした遠征である。それも18階層には僅か1時間程度しか滞在していなかったというのだから、これもまた恐ろしい。

 

「…………っ、凄まじいな」

 

「どうですか?」

 

「合計上昇値が600を超えている。耐久の値は既に200を超えた」

 

「それなら同じことをあと3回……いえ、5回くらい繰り返せばいいんですね。年内にレベル3までいけるといいんですが」

 

「お、おいおい。基本的に1年に1つ上がれば早過ぎるくらいだってのに、最短記録をいったいどれだけ更新するつもりだい?」

 

「そうでもしないと追い付けないので」

 

「……追い付けない、か」

 

「それに僕が強くなればヘルメス様の戦力にもなります、悪いことではないと思いますが」

 

「まあ、そうだな。それはそうだ」

 

そう言って、改めて服を着直した彼と向き直る。

……不思議なものだ。たった2週間顔を合わせていなかっただけなのに、彼は確かに以前とは雰囲気が違っている。というより、上手くその雰囲気を隠す術を覚え始めていると言っても良い。以前感じたような異様な狂気や圧力というものが格段に減っており、笑顔も自然で柔らかいものになった。未だに何か暗い物が広がる瞳はあるけれど、それでもそれを無視すれば、彼はとっつき易い人間に"見える"。

 

……そう、見えるのだ。

つまりは、そういう演技が上手くなった。

髪も何故か少し伸びていて、綺麗に切り揃えられている。衣服もなんとなく女性らしいものに変わっていて、側から見ても可愛らしいという感想を持ってしまうくらい。

……それくらい、隠す技術が上達している。

いくらなんでも帰って来た初日にアスフィがここまで手を入れるとは思えない。つまり、彼自身がこの自分を作って来たのだ。ロキが好みそうな少女のような姿を。ダンジョンから戻って拠点に戻って来る間に、何よりも優先して。

 

「それで、その服はどうしたんだい?」

 

「……あの様な格好で街中を彷徨くわけにはいきませんので、ダンジョンを出て直ぐに身嗜みを整えました。探索中に何度か髪を引きちぎられたりしたんですけど、ちゃんと元に戻って良かったです」

 

「髪まで戻るのか……しかし髪は伸びている。それも少し伸び過ぎなくらいに」

 

「?」

 

「君のこのスキルは、どういう理屈なんだろうな。回復速度が上がるとは書いてあるが、しかし何のデメリットもないとも思えない」

 

「?」

 

つまり、簡単な話。

 

「この脅威的な回復力は、君の寿命を削っている可能性がある」

 

「……」

 

「"死なない"とは書いてあるが、"老けない"という訳ではない。つまり君のその回復力は、何らかの形で君の時間を引き換えにしている可能性がある。髪が異様に長く伸び始めたのも、もしかしたらそれが理由なのかもしれない」

 

「……それは、恩恵を触った神様だからこそ分かる感覚ですか?」

 

「多少な、まだ予想の段階ではあるが」

 

全知無能の神と言えど、無軌道な子供達の何もかもが分かるわけではない。しかしこれだけのスキル、そして回復能力。何の対価もなく実現しているとは思い辛い。恩恵により向上した肉体の強度や回復力を考慮したとしても、彼の中の何かは削られているだろう。それこそ老化を早めているとか、寿命を削っているとか、そういう類の形で。

 

「……その分、早く身長が伸びたりしますでしょうか」

 

「それは分からないが……君の身体の成長速度も早まっているという考え方は、まあ出来なくもないのか?」

 

「ふふ、それだと嬉しいですね。やっぱり背が欲しいです、身体が大きくならないと言葉に説得力が出ません。……ああでも、大き過ぎると圧を与えてしまいますね。適度に、平均的なくらいあれば十分です。筋肉もそれほど必要ありませんね。回復力のおかげなのか見た目は健康的で居られるのが救いです、髪の質も良いですし。そうですね、ダンジョンから帰って来たら3日くらいは地上で身嗜みを整える時間を作ります。その間はなるべく身体を動かさないようにして……あ、身体を柔らかくして体格を整える方法とかあるんでしょうか。そういうのに詳しい神様を探すのもいいかもしれません。やっぱりこういうことは神様の知恵をお借りするのが1番ですよね。ああ、口調も整えないと。やること多いなぁ、やっぱりダンジョンに潜ってるだけじゃ駄目ですよね。それだけで済むならどれだけ簡単なことか。こればかりは耐えて我慢するだけではどうにもなりませんから。そうだ、ある程度形になってきたらリヴェリアさんに連絡を取って時間を取って貰わないと。最初からアイズさんに会えるわけなんてないし、まずはリヴェリアさんの信用を得るところから始めないと。ロキ様に会うには心の準備もしていないといけないし、もう少し時間がかかるかも。今のこんな滅茶苦茶な心のままに会いに行っても絶対拒絶されちゃいますからね。でもそれは一先ず置いておきましょう。まずは目の前のことから一つずつ。……ああ、本当に、寝る間も惜しい」

 

「っ……………」

 

正直、ヘルメスは背筋が冷えた。

人間はここまで冷静に狂うことが出来るのかと、ここまで理知的に狂うことが出来るのかと。それくらいに彼はアイズ・ヴァレンシュタインに対する懸想を叶えるために全身全霊を懸けていて、そのために自分という存在を外から内面すらも徹底的に改造するつもりでいる。……否、改造どころか、改良どころか、作り替えようとすらしている。

 

「あ〜、やっぱり君の目的は剣姫だったのか」

 

「……あ、やっぱりバレてしまいましたね。直ぐにバレてしまうとは思っていましたが、これはヘルメス様の楽しみの一つにしておこうと思ったのですが」

 

「いや、大丈夫さ。十分に楽しませて貰っているよ。……それに、うん、俺もアスフィもそのことについては邪魔するつもりはない。それこそ"こういう神や人を紹介して欲しい"なんてお願いがあれば、知っている限りで紹介しても良いと思っているくらいさ」

 

「本当ですか!?ありがとうございます!!……良かった、これで余計な時間を使わなくて済みます。本当にありがとうございます!ヘルメス様!!」

 

「お、おう……」

 

そこまで感謝されるようなことだったかと思ってしまうが、彼にとってはそれほどのことだったのだろう。……というより、そこまで期待をされていなかったというところにも文句を言いたいところだ。正直既に扱いには困っているし、ロキのところへ押し付けようとも思っているが、それも彼がこれ以上に無茶をして魂まで崩壊させないようにするため。決して自分が面倒だという理由ではないし、確かに大変ではあるが、嫌だなんて全くもって思っていない。

 

「……ん?」

 

そしてそこでヘルメスは気付く。

もしかすれば生じてしまっている、小さくはあるけれど、その実あまりにも大き過ぎる、このほんの僅かな認識のズレを。

 

「……ノア、君は俺のファミリアに入った。そうだな?」

 

「?そうですね」

 

「これは決して一時的な物ではないし、確かに君の意志で抜けて貰うことは可能だが、仮初の契約というわけではない」

 

「はい………?」

 

確かに自分は興味を満たすという理由で受け入れたが、それは決して彼との契約を受け入れたというわけではない。彼という存在を受け入れ、その上で交わした約束と条件を守るという意味だ。つまり……

 

「ノア、多分君は勘違いしていると思うが……君はもうこの俺、ヘルメスの眷属であり、俺の血を分けた家族の一員なんだぜ」

 

「………!」

 

「確かに稼いだ金の半分は納めて貰ってるし、これからもなるべく俺の興味を引いてくれると嬉しい。……だが、だからと言ってそれは義務じゃない。別にどちらも果たせなくなったとしても、俺は君を追放しようとは思わない。むしろ金を貸して欲しいと言われても、俺はまあ貸すだろう。理由にもよるけどな」

 

「でも、それだと……」

 

最初に関した契約を果たせない。

きっとそう言いたいのだろう。

しかしそれが既に間違っている。

 

ヘルメスはそんな契約などした覚えはない。

 

「ノア、君が最初に会った時にした俺に対する提案。俺はあれを正式に契約した覚えはない、約束はしたと言ってもいいが」

 

「え」

 

「あれは君の俺に対するただの売り文句だ、そして俺はそんな君を気に入って自分のファミリアに入れた。だから正式に契約していない以上は、破っても罰はない」

 

「で、でもそれだと……!」

 

「そうだな、俺がその条件を破る可能性もある」

 

実際、場合によっては破るだろう。

1人でダンジョンに潜る、時にはそれを強引に止めなければならない時もある。しかし……

 

「だが俺は子供達との約束はなるべく守る、神様だからな」

 

「ヘルメス様……」

 

「いいかノア、間違えるな。契約なんかしていない、君とは一時的な雇用関係なんかじゃない。俺は君を家族の一員として受け入れた、君と俺との間にあるのは契約ではなく約束だ。互いにそれは"なるべく"守り合うもので、必要なら破ってもいいものだ」

 

「必要なら……」

 

「俺は時には君に酷い我儘を言うだろう、だから君も俺に対して我儘を言っても良い。『知り合いを紹介して欲しい』程度の小さな頼み事なんか、小石を蹴る感覚でしてくれていいんだ。そんなことで大袈裟に感謝なんてする必要なんかない。俺だってそうする」

 

「…………ですが」

 

「それが家族ってもんだ」

 

「!!」

 

そんな小さなお願い事もし合えない仲になど、なる気はない。

アスフィだってそうだ。彼というあまりに衝撃的な人物をヘルメスが引き入れたことに愚痴を言ってはいたが、しかし既に彼のことは身内だと認識している。彼に関して色々と苦労することは目に見えているが、嫌な顔はするが、断りはしないし、突き放しもしない。彼女だってもう受け入れてくれているのだ。

……ファミリアの一員として。

 

「だからまあ、あんま余所余所しくしてくれるなよ。色々大変そうではあるが、引き入れたことを後悔したことは全くないんだ。気張ってこうぜ、剣姫を落とすために」

 

この日、神ヘルメスは最高にイカしていた。

それこそノアが今この瞬間、神ヘルメスという男の懐の広さに感銘を受けてしまうほどに。そして彼のその行動は、ノアに憧れをも与えたのだった。ノアの理想とも言える像の中に、彼は要素を付け加えた。

 

 

 

 

 

 

 

もしかしたら、あの子の恋を壊してしまったのは私だったんじゃないかと。今更ながらに思ってしまう。

まだ12歳で、子供で、小さくて、可愛らしくて。弟みたいで、妹みたいで、姉妹みたいで。アイズと違って、すごく素直で可愛げのある子だったから。すごく可愛がってしまったし、すごく揶揄ってしまった。嫌がってはいても、けどちゃんと頼ってくれてるのも分かって、それが嬉しくて、もっと可愛がった。

 

多分、入れ込み過ぎていたんだろう。

 

だからあの時、いつもみたいに揶揄ってやろうと好きな女の子について聞いてみた時、彼の口からアイズの名前が出て来て、ちょっと嫉妬してしまった。いつも以上に揶揄ってしまった。

彼はそれまでそんな話を誰にもしたことがなかったから、きっと彼なりに計画とか、考えていたこともあったんだろう。けれどそれを私が無理矢理聞き出して、壊してしまった。

そんな私の揶揄いを見ていた人がいて、その話が次の日にはもう広まってしまったのだ。正直しまったと思ったし、その時はもちろんちゃんと謝った。……でも、他人の恋を壊しておいて、どうして謝罪だけで済むと思うのか。彼が気にしていない様子をしているなら、それで許されるのか。アイズにもその話が伝わってしまって、『私も(家族や友人として)好きだよ』なんて言われてしまって、彼は一体どういう気持ちだったんだろう。

 

彼は最後のあの瞬間、知っていたのだろうか。見えていたのだろうか、聞こえていたのだろうか。先頭を走っていた私の後ろに、アイズも着いて来ていたことを。彼が殺されたことに怒り狂い、ヴァレッタを滅多刺しにしたことを。

 

頑張ったね、って言っても。

かっこよかったよ、って言っても。

どれだけ語り掛けても、その言葉は届かなくて。そこに居た誰よりも小さかったのに、誰よりも惨い殺され方をされて。

なんでこの子だったんだろう、別に自分でもよかったじゃないか。こんな殺され方をされるために生きてきたわけじゃない。最後に好きな人に一言も想いを伝えられずに殺されてしまうほど、彼は悪いことなんて何もしていない。もっともっと、もっと報われるべき子だった。これからたくさんの幸福を受けるべき子だった。アイズに追い付こうと懸命に努力していたその姿は、もっと報われるべきものだったはずだ。

 

‥‥あれから、リヴェリア様とリーネと一緒に、彼の部屋の掃除をしている。けれどそこから彼の懸命な努力の跡を見つける度に、涙が溢れて手に付かなくなる。団員全員の誕生日を覚えていて、プレゼントの準備がされていたのを見て、溢れ出してしまう。

手帳に私の誕生日もしっかりと丸が打ってあって、何処から聞いて来たのか、私が欲しがっていたものをしっかりとメモしてあるのを見つけてしまって、どうしようもなくなってしまう。謝っても帰ってこないのは知っているけど、何度でも謝るから返して欲しい。あの子はこんな風に殺されていい子ではないのだ。

 

……こんなことでは顔向け出来ない。

 

あの子より先に天界に帰ってしまった、あの子のことをなにより大切に思っていた、あの女神様に。




同時並行でオリ小説も投稿してます。
https://syosetu.org/novel/303308/
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