無職転生-魔術を極める- 作:魔術師見習いa
ルディが魔法大学に入学して一年くらいたった。
いつものように研究していると、アリシアが木の箱を持って入ってきた。
「エルシア様、魔道具工房から荷物が届きました」
「ああ、頼んでたの出来たんだ」
アリシアが持って来た木の箱を開ければ、大きい魔石が付いた腕輪が三つと指輪が二つ入っていた。
一緒に箱の中を確認したアリシアは、首を傾げて問いかけて来る。
「これは何ですか?」
「予備の杖、かな?」
「どうして疑問形なんですか?」
「普通の魔術師って杖二つ同時に使えないから、予備か持ち運びが楽な杖くらいの認識なのかなって」
「まあ、普通は無詠唱で魔術を使えませんからね」
子供の頃に慣れてないと、無詠唱で魔術を使うのは難しいみたいだしね。
だから、この腕輪型の杖は予備か身に着けられる杖くらいの認識しかされないでしょうね。
「一応、アリシアとエミリーの分も作って貰ったけど、二人も持ち歩きやすい以上の意味はほとんどないわよね」
「同時に二つも魔術を使うことは少ないですからね」
「同時に使える魔術の数も問題だけど、私の場は出力の方が大きい問題ね」
「……出力ですか?」
アリシアにジトっとした視線を向けられながら問いかけられた。
そんな目で見られても困るんだけどなぁ。
「私の杖、魔力効率は三十倍だけど、最大出力は神級の三倍でしょ。杖無しの出力が神級より多少高い程度だから、杖使ってると出力に余裕が結構あるのよ」
「それで出力の余力を使うための杖を作ったという事ですか?」
「そう。私の限界七つで神級魔術を同時に使うのは、流石に無理だけど五つくらいなら使えるようになるわ」
「世界を滅ぼすつもりですか?」
「そんな物騒なことしないわよ」
全く、アリシアは私のことを何だと思ってるのかしら?
世界を滅ぼしても、私に何の得もないでしょうに。
「これは自衛の為よ」
「一体何と戦うことを想定すれば、神級魔術を五つも同時に使う必要性が出るんですか?」
「七大列強とか、かな。実際に、オルステッドとは戦いそうになったしね」
「そうですか(世界が崩壊する方が、早そうな気がするのは私だけでしょうか)」
アリシアはため息をついて箱に視線を戻す。
そして箱に入っている二つの指輪を見て私に問いかけて来る。
「この指輪も杖なんですか?」
「これはアリシアとエミリーの為の魔道具よ」
「私達の為の魔道具ですか?」
アリシアが風の魔石と同じ色の柄が入った指輪の一つを取り、魔法陣を見ている。
「ちょうどいいから、指輪をはめて部屋の真ん中で魔力流してみて」
「はあ、分かりました」
「ああ、指輪を付けた手を前に出した状態で、魔力流してね」
「?分かりました」
アリシアは不思議そうな顔で部屋の真ん中に移動し、言われた通りに手を前に出して指輪に魔力を流した。
魔力を流して魔道具が発動して、少しするとアリシアが出していた手の少し前に、アリシアが普段使っている杖が召喚された。
アリシアが驚いて目を見開きながらも、杖を手に取ると私を杖を交互に見て問いかけて来る。
「えっと、これは?」
「見ての通り、杖を召喚する魔道具よ」
「まあ、それは分かるのですが、どうしてこれを?」
「前にルディと魔王が決闘したでしょ。あの時、ルディの杖をフィッツが持って来るまで結構時間が掛かってたじゃない。あの時は魔王が待ってくれたからいいけど、緊急時に杖が無いと困るだろうから、召喚できる魔道具を作って貰ったの」
「エルシア様のものはないようですが?」
「私は魔道具無くても召喚できるからね」
「ああ、そうですね」
魔術ギルドに魔法陣を刻んだ対象を召喚する魔術と、杖を召喚する指輪のことは伝えてあるから、杖製作師にも技術は伝わるでしょう。
魔術に関しても活用法は魔術ギルドの方で考えるでしょうしね。
「それにしても、私の魔道具専門の工房があるとは思わなかったなぁ」
「エルシア様が大量に魔術を作るからですよ。魔石の生成も工房でやっているようですよ」
「そうなんだ」
まあ、私だと分からない活用法がある魔術もあるみたいだし、その辺は工房の人達に任せよう。
「それにしても、この腕輪と指輪魔力の通りが良いですが、特殊な金属を使ってるんですか?」
「特殊って程じゃないよ。私が生成した高純度の魔石を粉々にして金属に練り込んだだけだから」
「……そうですか」
アリシアはジトっとした目で私を見て、呆れたようにため息をついた。
そんなに呆れられるほど特殊な物ではない。
魔法陣に使用する塗料と似たようなもので、単に魔力の通りを良くしているだけだ。
魔力結晶を粉々にして作る塗料と違うのは、魔力を流しても蒸発して消えないことくらい。
魔力の効率を上げるなら、かなり純度の高いものを練り込む必要があるでしょうけど、魔力の通りを良くするだけなら普通の魔石でも十分でしょう。
「そんな風に次から次に色んなものを作るから、専門の工房が作られたんですよ」
アリシアは呆れたように言うと、何か考えるような素振りを見せる。
それから何か思いついたのか、私に視線を向けて口を開く。
「エルシア様、これから出かけられますか?」
「え?大丈夫だけど、どこに行くの?」
「普段行かない西の工房街です」
「工房街に?」
「はい。エミリーを呼んでくるので、準備してリビングで待っていてください」
「ええ、分かったわ」
私が了承するなり、アリシアは部屋から出て行った。
言われた通りに出かける準備をしてリビングで二人を待つ。
少し待てば二人がリビングに入って来たので、三人で出かける。
「それで工房街のどこに行くの?」
「先ほど話していたエルシア様専門の魔道具工房です」
「どうして?」
「エルシア様、魔道具工房で何を作ってるか知りませんよね。折角だから、自分が作った魔術がどう使われているか知ってもらおうかと」
「魔道具を見るだけなら、商業街の魔道具売ってる店に行けばいいんじゃない?」
商業街で売られないような素人の作品とかならともかく、工房で量産されている物なら普通に売っているでしょうし。
「商業街には一般向けの物しか売ってないんですよ」
「?」
「騎士団や魔術ギルド専用の魔道具を商業街では売られていませんから」
「ああ、流通したらまずい魔道具ね」
「はい。悪用されたらまずいものも結構ありますからね」
どう悪用するんだろう?
攻撃魔術以上に悪用されてまずいような魔術は作ってないはずだけど……
転移魔術みたいに暗殺とかに利用されそうな明らかにまずい魔術は作ってないし、組み合わせまでは考えてないから、組み合わせることで悪用できるものがあったのかな?
「工房に行けば、ほとんどの魔道具は揃っているので、どういう使われ方をしているか分かると思いますよ」
「そう」
三人で工房街の目的の工房を目指した。
移動中にどんな魔術を作成したか考えるが、大体思いつくものは作っていることしか分からない。
一応、私の収入源ではあるけど、数が多すぎてどれがどのくらいの収入になっているかなど、把握する気にもなれない。
どんな魔道具を作っているのか考えながら歩けば、あっという間に工房に着いた。
工房に入れば、職員の一人が私に気づき近くにいた他の職員に声を掛けた後、私の方に近づいて来た。
「エルシア様。工房長を呼びましたので、応接室で少々お待ちください。私がご案内します」
腕輪と指輪の作成を頼んだ時と同じように、応接室に案内されて工房長を待つ。
少し待てば、すぐに工房長が応接室に入ってくる。
「エルシア様。本日はどのようなご用件でしょうか?お送りした魔道具に不備がございましたか?」
「魔道具は問題なかったわよ。今日来た用件は、私よりアリシアが説明した方が早いと思うから、説明よろしく」
私がアリシアに説明を頼めば、工房長がアリシアに視線を向けた。
「今日はエルシア様の魔術で作られた魔道具を見て貰おうと思って連れてきました。エルシア様は魔術の開発はともかく、活用方法を考えるのは得意ではないですから、実際に見て貰うのが早いと思ったのです」
「活用方法を見て魔術開発の参考にしようということですか?」
「まあ、そんなところです」
「分かりました。それでは工房で保管している魔道具を出来るだけ持って来させます」
それだけ言うと、工房長は応接室から出て行った。
「魔術開発の参考なんて話だっけ?」
「まあ、実際に参考になるでしょうから、間違ってはいません。それにただ見に来ただけというのも説明が大変ですから」
「私は何でもいいけどね」
そんなことを言っていると、工房長が戻ってきた。
工房長が応接室にある道具で紅茶を淹れようとすると、アリシアとエミリーが止めて代わりに紅茶を淹れて茶菓子を出してくれた。
茶菓子を食べて紅茶を飲みながら待っていると、工房の職員が大量の木箱を持って応接室に入ってきた。
運び終わると、職員の人達は応接室から出て行った。
「すぐに用意できる魔道具は、これくらいですね」
「これくらい?」
一つの木箱に何個魔道具が入っているか分からないけど、一つに一個だけだとしても明らかに木箱の数が多い。
十数個という話じゃない、数十個と木箱だけでも数えるのが面倒な量ある。
「では、一つずつ説明させてもらいますね」
「ええ、よろしく」
工房長は手近な木箱を開いて中から魔道具を二つ取り出した。
掌サイズの透明なガラス玉が付いた台座に魔石と魔法陣が刻まれている。
見たところ同じものにしか見えない二つの魔道具を机の上に置いて工房長は説明を始める。
「これは離れた相手に合図を送る魔道具です。片方の魔道具に魔力を流せば、紐づけられている魔道具のガラス玉が光るようになっているんです。光色を何種類か用意して、光らせる色の順番や組み合わせで、離れた相手と連絡を取れるようになっています」
「ああ、関連付けの魔法陣と光の魔法陣で作ったのか」
「その通りです」
七大列強の石碑を参考に作った関連付けの魔法陣。
予め決められた条件を満たした時に、魔法陣で関連付けられた別の魔法陣を起動させるだけの単純なもの。
関連付けられた対象の魔法陣も合図があるまで、起動状態を維持して待機する必要があるけど、大気中の魔力を吸収して補える。
石碑のように本体に書いた文字をそのまま書き込むようなものと違って、予め込められた魔力を使って魔法陣を起動させる合図を出すだけだから、待機中に要求される魔力は少ないから魔力が濃い土地以外でも普通に使える。
それに足りなければ込められた魔力の一部を利用して待機状態を維持するようにできているのかな。
その場合、魔力を込める頻度が多少増えそうだけど、光のに必要な魔力量も少なそうだし、一度込めれば何回かは光りそうね。
「お気づきかもしれませんが、こちらの魔道具は一度魔力を込めれば十回程度は光らせることが出来ます」
「しかし、随分と単純なもので連絡を取るんだね。七大列強の石碑のように文字でやり取りできるものを作ればもっと複雑な連絡も取れるでしょうに」
「確かに、文字でやり取りが出来た方がよいでしょうが、複雑で量産には向きませんし、必要な魔力量も増えます。それに比べてこちらは単純な構造で関連付けられていれば、どちらからでも光らせるように作れる」
工房長はそういうと、先ほどとは違う方の魔道具に魔力を流して先ほど魔力を流していた方を光らせる。
確かに、七大列強の石碑は一方通行だったわね。
あれと同じものを作ると、連絡を受ける用と送る用の二つがいるわけね。
それに持ち運びも難しそうだし、単純でも量産出来て持ち運びが楽なこっちの方が良いのかな。
「単純なものでも使いようってことね」
「ええ。では次の魔道具の紹介に移りますね」
「ええ、お願い……」
工房長は先ほどの魔道具を木箱に片付け、別の木箱から魔道具を取り出して説明を始める。
今度はローブのようだ。
「こちらのローブは熱を通さない魔術的加工をしてあります。エルシア様の家の木材と同じ処理をしています。寒い場所では熱をほとんど逃がさないので暖かく、熱い場所では熱を通さないで熱くなりにくいように出来ています」
「周囲の影響を受けにくいのは分かったけど、受けにくいだけで熱くなったり寒くなったりはするわよね」
「ええ、普通のローブよりは優れていますが、外部の気温の影響を僅かには受けます。ローブ内の温度が快適でなくなった場合に使うのがこちらです」
工房長がローブを木箱に戻すと、すぐに違う木箱から二つの魔道具を取り出した。
金属の棒状の魔道具で、それぞれ水の魔石と火の魔石が付いている。
「こちらは魔力を込めれば周囲の気温を下げる魔道具と上げる魔道具です。魔術師以外でも使えるように効果はかなり落としてあります。これでローブ内の温度を調節するんです」
「その魔導具は私の魔術関係ないよね」
「そうですね。魔法陣の方はエルシア様にあまり関係ないですが、魔石の方はエルシア様の魔石生成の魔術で作成したものですよ」
「ああ、魔石の方ね」
「はい。品質が安定した各属性の魔石を確保できるようになったので、こういった物も量産できるようになりました」
確かに、天然の魔石だと安定した品質を求めるのは厳しいものね。
迷宮や魔物から取れるものだけだと、大量に量産する物には向かなそうね。
大きい魔石を作るのは流石に難しいみたいだけど、ある程度の品質の物なら量産出来ているのね。
それからも似たように、魔石を生成できるようになったからこそ量産できるようになった魔道具をいくつも紹介された。
他にも私が開発した魔術を利用した魔道具も紹介された。
基本的には、音、光、重さに関する魔道具がほとんどで、特殊な魔術を利用したものは少なかった。
まあ、特殊な魔術に関しては複雑で必要な魔力量も多いものが大半だから、あまり魔道具にしても使うものがいないのでしょう。
結界魔術もミリス教団が権利を持っている為、魔道具の製作や販売が出来ないらしい。
魔術の権利を主張するとは、変な教団よね。
そんなことを思っていれば、魔道具の紹介が終わった。
「これで終わりです。エルシア様が関わっている魔道具はまだまだたくさんあるのですが、今見せられるのはこれだけですね」
「もう十分よ」
私と関係が深いものから浅いものまで、少しでも関係していれば紹介してるんじゃないかってくらい量があった。
私との関係が一番深いのは量産が難しい特注品の魔道具らしいけど、それは工房には無いため紹介されなかった。
工房には魔石生成用の魔道具や魔力付与品を生成するための魔道具があるらしい。
むしろ、そちらの方が私との関りが深い。
魔導神としての私の立場を考えてか、少しでも関りがあれば関わったことにされている気がする。
「ちなみに、それらの収益でどのくらい私に入ってるの?」
「そうですね。一番多いものでも一割あるかないか程度です。本来ならもう少し多いのですが、エルシア様が大部分を魔術ギルドなどに寄付していますので、多いものでも一割を超えないのです」
「そういえば、収益のいくつかは何割か寄付してたような」
「そういう重要なことは覚えておいてください」
工房長の言葉に私が呟くと、アリシアが呆れたようにため息交じりに言葉を挟む。
工房長も苦笑して反応に困っているような顔をして話を続ける。
「そ、それでも数が数なので、魔道具だけでもかなりの収益になっているはずですよ」
「そう」
正直、収入に関しては十分すぎる程あるから気にしては無いのだけど、これ以上増えることがあるのだろうか?
まあ、ある程度広まれば売れなくなる魔道具も出て来るだろうし、増えても収入は変わらないかな。
工房長にお礼を言って家に帰る。
その日は、家の魔術訓練室で結界を張り、三人で腕輪型の杖を使う練習をする。
アリシアとエミリーは、指輪を使って杖を召喚する練習もしてある程度慣れたら、普段通り従者としての仕事に戻った。
二人が訓練室からいなくなった後、私は周囲に被害が出ない神級魔術を五つ同時に扱う練習をする。
帝級以下なら七つ同時に術を生成できるけど、神級はそこまで簡単ではないわね。
一応五つ同時に生成できるけど、慣れた魔術以外だと少し時間が掛かる。
腕輪は結界と治療だけに絞った方がいいかな。
腕輪と杖でそれぞれの役割を決め、夕食の時間まで練習を続けた。
エルの性能がおかしすぎて自衛が何なのか分からなくなる。
武装的には自分の身を守る程度のものだけど、本人の性能が広範囲殲滅兵器に変えるのはどうにもならない。
ルーデウスの魔導鎧のような敵を倒すことを目的とした武装を作らせたら、どうなるか本当に分からなくて怖い。