鬼殺隊監査役・東雲麟矢   作:SS_TAKERU

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新年明けましておめでとうございます。

御年玉代わりにもなりませんが、拾壱之巻を投稿させていただきます。
お楽しみいただければ幸いです。


拾壱之巻 -最終選別本番‐

麟矢視点

 

 特注のナイフが届いてから5日。最終選別の当日がやってきた。

 俺は書生スタイル*1外衣(クローク)という服装に着替えると、前以って準備しておいた物品を詰め込んだ背嚢と桑島様から授けられた刀を収めた刀袋を背負い―

 

「それでは、行ってきます!」

 

 両親と後峠さん、女中の皆さんに見送られて最終選別の会場である藤襲山へ出発した。

 途中、()()()()()()()()()()()が、特にトラブルに見舞われる事もなく、昼過ぎには藤襲山の麓に到着。

 近くの村に馬を預け、集合場所になっている山の中腹へと登っていく。それにしても…

 

「原作読んでわかっちゃいたけど、すごいね。これは…」

 

 今は雪のちらつく12月。本来なら藤の咲く時期ではないが、この山だけは麓から中腹にかけて無数の藤が咲き乱れている。

 

「1本や2本なら狂い咲きで済むが、これだけの数となると…品種改良? はたまた魔術とか呪術的なやつ?」

 

 そんな事を口にしながら山道を進み、石段を登って集合場所へと到着。時刻は夕暮れ前。どうやら俺が一番乗りのようだ。

 俺は手頃な岩に背嚢を置くと、刀袋から取り出した刀をもう一度点検したりして時間を潰す。30分もすると徐々に人が集まりだし―

 

「全部で18人…か」

 

 日が沈み、空に三日月が昇った頃には、俺を含む受験者総勢18人が勢揃い。あまね様と輝利哉(きりや)くん。そして監視役兼護衛を務める隊士達も姿を現し、いよいよ最終選別が始まった。

 

 

あまね視点

 

「皆様。今宵は最終選別にお集まりくださって、ありがとうございます」

「この藤襲山には、鬼殺の剣士様方が生け捕りにした鬼が閉じ込めてあり、外に出る事は出来ません」

「山の麓から中腹にかけて、鬼共の嫌う藤の花が1年中狂い咲いているからでございます」

 

 私の声に続き、澱みなく口上を述べていく輝利哉。一言一句間違えずに言えている事は良いのですが、無意識の内に麟矢様を注目してしまっているのは良くありませんね。

 

「しかし、ここから先は藤の花は咲いておりませんから鬼共がおります。この中で七日間生き抜く」

「それが最終選別の条件でございます。なお、今回より(つちのえ)及び(つちのと)の階級にある隊士五名が、皆様の監視役兼護衛として同行いたします」

「皆様が自ら棄権の意思を示した場合、重度の負傷など、生命の危機に繋がる事態に陥った場合、そして著しい反則が確認された場合。以上三点に該当しない限り、隊士は皆様の前に現れません。あくまでも緊急時の備えとご理解ください」

「では、行ってらっしゃいませ」

 

 無事に口上を終え、出発していく受験者と隊士の皆さんを見送り、私は輝利哉に視線を送る。輝利哉も自らの失態を悟っているのでしょう。神妙な顔で私の言葉をまっているようです。

 

「輝利哉。麟矢様を慕う貴方の気持ちはよくわかります。しかしながら、このような場では自重しなければなりませんよ」

「申し訳ありません、軽率でした」

「その事が理解出来ているのなら、これ以上は強く言いません。これからは気をつけなさい」

「はい!」

 

 しっかりとした返事を返す輝利哉に頷き、私達は山を下りていく。

 ………輝利哉にはこう言いましたが、ひなきの為にも…麟矢様、ご無事をお祈りしております。

 

 

麟矢視点

 

「さてと…」

 

 刀片手に勇んで山を登っていく他の受験者を尻目に、俺は周辺を念入りに調べながらゆっくりと進んでいく。

 それにしても、俺以外の参加者はどいつもこいつも()()()()()()()()()だ。

 俺の様に防寒着代わりの外衣(クローク)を羽織っているなら上出来。殆どが体一つ、刀のみを持って参加だ。

 

布の服(着物)鉄の剣()って、ド〇クエの初期装備じゃないんだから…」

 

 思わずそんな声が漏れる。始まったばかりで体力に余裕がある今なら良いだろう。

 だが、鬼と戦えば体力は消耗する。喉は乾くし、腹も減る。怪我をすれば治療だって必要になる。

 そして何よりも、今は冬真っただ中。麓はそうでもなかったが、この辺りまで来るとかなり雪が積もっている。これだと相応の対策を講じなければ、体を休める事だって出来やしない。そのあたりをどう考えているのやら…。

 

「おっ、発見発見」

 

 そんな事を考えながら周囲を探索している内に、良い感じの洞穴を見つける事が出来た。幅は3m弱。奥行きは5mってところか。

 

「鬼は…いないな。使っていないか外に出ているか…どちらにせよ、ここをベースキャンプにさせてもらうか」

 

 俺は洞穴の奥に背嚢を置き、刀を左腰に差すと、ナイフ片手に行動を開始する。まずは水と火の確保だな。

 

 

受験者視点

 

「くそっ、話が違うぞ…」

 

 右の蟀谷(こめかみ)あたりから流れる血を左手で拭いながら、俺は歩き続ける。

 7合目辺りまで登ったところで、襲い掛かってきた2体の鬼。そいつらは近くにいたもう1人と手分けしてすぐ返り討ちにした。そこまでは良かった。だが…

 

 -なんで大型の異形がいるんだよ!? 聞いてない、こんなの!-

 

 他の鬼とは明らかに格が違う…明らかに数十人は人を喰っているであろう異形の鬼が表れて、全ての目算が狂った。

 異形の鬼が出現した事に、見苦しく驚いていたもう1人(やつ)は、呆気無く首を圧し折られた挙句、頭から喰われた。

 背中を向けるのは危険と判断した俺は―

 

 -水の呼吸。壱ノ型…水面斬(みなもぎ)り!-

 

 間合いを詰めて攻撃を仕掛けたが、防御を固めた異形の鬼に俺の攻撃は通用せず、それどころか刀の切っ先が砕けてしまった。

 

 -貧弱貧弱ゥッ!-

 

 そして鬼の一撃を受けて吹っ飛ばされ…今に至るってわけだ。

 背後から聞こえてくる声と感じる気配から察するに、異常を察知した隊士があの鬼と戦っているようだ…今の内に少しでも距離を―

 

「ヒャハハハッ! 肉だ! 久しぶりの人肉だぁ!」

 

 くそっ! こんな時に別の鬼か…

 

「怪我してやがるのかぁ? こいつはありがてぇ! 手間が省けるぜ!」

 

 畜生。こんなところで、こんなところで俺は…俺は…

 

「頭から齧ってやrぎゃぁぁぁっ!」

 

 な、なんだ…鬼の頭に()()()()()()…駄目だ、意識が、薄れて………

 

 

「………はっ!」

 

 目を覚ますと俺はどこかに寝かされていた。ここは、洞穴の中…か?

 

「あ、目が覚めましたか?」

 

 声のする方に首を動かしてみると、育ちの良さそうな顔立ちをした男が、こっちを見ていた。こいつに…助けられたのか?

 

「今は…深夜の1時過ぎです。動くにしても夜が明けてからが良いでしょうね」

 

 懐から取り出した懐中時計片手に微笑む男の奥には、俺と同じ様に負傷した男が、寝かされている。見たところかなり的確な応急処置が施されているようだ。こいつは…医者の息子か?

 

「蟀谷の怪我は出血こそ派手でしたが、傷自体はそこまで深いものではなかったです。ただ、肋骨の方は折れてこそいないようですが、かなり深く皹が入ってます。万全の状態で動く事は難しいでしょうね」

「……そうか」

 

 男の説明を聞きながら、俺は体を起こし…キチンと包帯の巻かれた腹の辺りを軽く(さす)る。たしかに多少の痛みはあるが…異形の鬼(やつ)に殴られた後と比べれば、格段に楽になっている。これならば、俺はまだ…

 

「何か、胃に入れておきますか? 一応、こんな物を作ってはいるんですが…」

 

 男が焚火にかけていた鍋の蓋を取ったのはその時だ。直後漂う何とも言えない良い香り。そして、それと同時に鳴り出す俺の腹。

 

「………」

「食欲があるなら、大丈夫ですね」

 

 腹を鳴らすという失態を犯した俺にそう言って、木を刳り貫いて作った器に、鍋に中身を入れて差し出してくる男。そう言えば、名をまだ名乗っていなかったな。

 

犬塚剣蔵(いぬづかけんぞう)*2だ。助けてくれた事、感謝する」 

 

 器を受け取る前に俺は自らの名前を名乗り、深々と頭を下げる。

 

「東雲麟矢です。さぁ、冷める前に」

「かたじけない」

 

 東雲から器を受け取り、中身を覗き込む。汁物か、美味そうな匂いだ。

 

「野兎の骨を煮込んで作ったスープです。塩と生姜で味付けしてます」

「…そうか」

 

 説明にそう返しながら、汁に口をつける。熱い汁が喉を通り、胃に留まると全身がポカポカと温まっていく。

 

「…美味い」

 

 五臓六腑に染み渡るとは、まさにこの事だな。

 

「干し芋もありますが、食べますか?」

「…少し貰おう」

 

 腹一杯になるのは拙いが、もう少しくらいなら食べても大丈夫だろう。だが…東雲(こいつ)の準備の良さは何なんだ?

 

 

麟矢視点

 

 干し芋とスープで軽い食事を済ませた犬塚氏は、再び眠りにつき…俺はその間に、ここに来てから作った弓の手入れを進めていく。

 近くに生えていた山桑の枝と麻紐から作った即席の弓。矢も削った枯れ枝に前以って作っておいた黒曜石の鏃を組み合わせた即席の物だ。

 正直言って普段使っているコンパウンドボウに比べれば玩具同然だが、この山に閉じ込められている鬼程度が相手なら十分に使える。

 少なくとも多少の()()()()()()()()し、目や喉といった急所を狙えば、暫く行動不可能にも出来る。

 

「…よし」

 

 麻紐を張り替え、矢も作れるだけ作った。無理しない様に立ち回れば、7日間生き延びる事は十分可能だろう。

 

「う、うぅ…」

 

 そうしている間に、犬塚氏の後にここへ連れてきた受験者が目を覚ましたようだ。

 

「大丈夫ですか? ここがどこかわかりますか?」

 

 まずは状態を確認して、場合によっては近くで監視しているであろう隊士に引き渡すとしよう。

 

 

剣造視点

 

 結局、もう1人の負傷者は夜明けと共に監視役の隊士に引き渡され、下山していった。右足が折れて立つ事も出来なかったから無理もない。

 そして俺は、東雲と行動を共にすることにしたのだが…

 

「東雲麟矢。本当に妙な奴だ…」

 

 最終選別が始まって3日目の朝。俺は飲み水を作る為の雪を集めながら、ふと呟く。

 奴は鬼殺隊の隊士を目指していながら、刀を殆ど使わない。使うのは(もっぱ)ら弓矢や小刀で、刀は必要に迫られた時にしか使わない。

 戦いにおいても負傷した受験者の救助を優先し、鬼を倒すのはあくまでも()()()()()と言わんばかり。その姿勢に、鬼殺隊隊士としての誇りは無いのか? と問うた事もあったが…

 

 -犬塚氏…何を馬鹿な事言ってるんですか?-

 -鬼というのは、体力も力も速さも人間を遥かに上回る存在。人間は全集中の呼吸という技術を用いて何とか食らい付けている状態です-

 -わかりますか? 鬼にしてみれば、人間というのは格下の存在なんですよ-

 -格下が格上に挑む。そんな勝負に本気で勝ちたいなら、誇りだなんだと拘っている場合じゃないでしょう-

 -飛び道具だろうと罠だろうと使える物は全部使う。それのどこに問題があるんですか?-

 -私に言わせれば、刀に拘って無駄な犠牲を増やしている現状の方が、よほど異常だと思いますよ-

 

 逆にぐうの音も出ないほど言い負かされてしまった。だが…東雲の言う事にも一理ある。

 鬼の脅威を無くそうと心から考えるのであれば、刀のみに拘るのは…恐らく間違っているのだろう。だが…

 

「俺は…剣術(これ)しか知らん」

 

 曾祖父の代から続く剣術道場を継いだ父が、鬼に殺されて2年。風の噂を頼りに見つけ出した鬼殺隊の育手(師匠)の下で修業して1年半。

 ようやく最終選別(ここ)まで来た。何としてでも突破して…正式な隊士とならねば。

 

「犬塚氏! もうすぐ朝食が出来ますよ! 献立は(ほしい)とユリ根の雑炊に、野兎肉と野蒜の炒め物です」

「あぁ、すまん。すぐに行く!」

 

 集めた雪を持ち、洞穴へ戻る。残りの期間、油断せずに生き延びよう。

 

 

麟矢視点

 

 さて7日間に及んだ最終選別は無事に終了。俺と犬塚氏、そして犬塚氏と同じ経緯で途中から行動を共にするようになった4人の受験者。総勢6人は五体満足で初日に集まった山の中腹に降り立った訳だが…

 

「俺達だけか…」

 

 最後まで残ったのはこの6人だけのようだ。俺達の手で救出し、途中で離脱した受験者は全部で4人。犬塚氏達の話から、確実に鬼に喰われたと判断出来るのは3人。受験者は全部で18人だったから、残る5人は隊士の皆さんに助けられた…そう考えて良いのか?

 そんな事を考えている内に、あまね様と輝利哉くんが姿を現した。うん、諸々が済んだ後、あまね様に聞くとしよう。

 

「おかえりなさいませ」

「おめでとうございます。ご無事で何よりです」

「まずは隊服を支給させていただきます。体の寸法を測り、その後は階級を刻ませていただきます」

「階級は十段階ございます。(きのえ)(きのと)(ひのえ)(ひのと)(つちのえ)(つちのと)(かのえ)(かのと)(みずのえ)(みずのと)。今現在皆様は、一番下の(みずのと)でございます」

 

 粛々と続けられる説明の中―

 

「さらに今からは、鎹鴉をつけさせていただきます」

 

 あまね様の声と共に、輝利哉くんが手を鳴らすと6羽の鎹烏が飛んできて、1羽1羽受験者の方に止まっていく。と言っても、俺に止まったのはモーリアンだけどね。

 

「鎹鴉は主に、連絡用の鴉でございます」

「では、あちらから刀を造る鋼を選んでくださいませ。鬼を滅殺し、己の身を守る刀の鋼はご自身で選ぶのです」

 

 輝利哉(きりや)くんの声の後、俺達は順番に鋼を選び、隊服の寸法を測るなど諸々の事柄を終わらせ―

 

「刀は10日から15日で出来上がります。それまでは各自、育手の下での待機をお願いいたします」

「「それでは皆様、お疲れさまでした」」

 

 最終選別は終了した。

 

「今回は色々と世話になった。またいつか、共に戦える事を祈っている。それまではお互い、死なないように頑張ろう」

「ええ、犬塚氏もお元気で」

 

 そう挨拶を交わし、己の育手の元へと戻っていく犬塚氏達。もうそろそろ大丈夫…かな。

 

「ふぅ、流石にハードな7日間でした」

「麟矢様、お疲れさまでした」

「ありがとうございます。輝利哉くんも見事な進行ぶりでしたよ。あまね様もお疲れ様でございます」

 

 肩の力を抜き、あまね様や輝利哉くんと気楽な会話を交わしていく。この7日間は殆ど気が抜けなかったからな。こんな時間は本当に素晴らしいものだと実感出来るよ。

 

「それでは家に戻り、汗を流してから御宅へお邪魔します。耀哉様には自分の口から報告をしたいですし、ひなきさん達も安心させてあげたいですからね」

「はい、そうしてあげてください。ひなき(あの子)は私と共に禊祓をするほど思い詰めていましたから」

「………可能な限り超特急で準備を整えます。それでは、失礼します!」

 

 あまね様からひなきさんが禊祓をしていた事を聞き、俺は大急ぎで下山する。あんな小さな子が禊祓だなんて、とんでもない!

 しっかりと話をしよう。俺は山道を駆け下りながらそう決心するのだった。

*1
スタンドカラーシャツに着物、馬乗り袴(股の分かれたズボン状の袴)

*2
本作オリジナルキャラ




最後までお読みいただきありがとうございました。

拙い作品ではありますが、本年もよろしくお願いいたします。


※大正コソコソ噂話※

この後、大急ぎで帰宅し準備を整えた麟矢は、昼過ぎには産屋敷邸を訪問。
耀哉様に最終選別を突破した事を報告し、ひなきさんと話をしたそうです。
「まだ6歳のひなきさんがこんな無理をする事はありません。体を大事にしてください」と説く麟矢に対し、ひなきさんは「私が麟矢様のご無事を祈る事は、心配をする事は、ご迷惑ですか?」と涙ながらに反論。
話し合いの結果がどうなったかは、ご想像にお任せします。
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