鬼殺隊監査役・東雲麟矢   作:SS_TAKERU

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お待たせいたしました。

今回は、麟矢が前回会えなかった炭治郎君と禰豆子ちゃんと顔を合わせます。
お楽しみいただければ幸いです。

なお、本作では年齢が明らかとなっていない竈門家の皆さんの年齢を―

葵枝さん(36歳)、竹雄くん(10歳)、花子ちゃん(8歳)、茂くん(6歳)、六太くん(3歳)と設定しております。


拾肆之巻 -狭霧山での出会い-

麟矢視点

 

 竈門家の皆さんが新しい生活を始めて早10日。

 生業としていた炭焼きから、慣れない接客業への転職で、色々苦労するかと思われた葵枝(きえ)さんだったが、意外にも適性があったらしく、一昨日アポ無しで様子を見に行った際には、スムーズに仕事を熟していた。

 店長曰く、早くも戦力の1人として欠かせない存在になりつつあるそうで、結構な事だ。

 竹雄くん達は葵枝さんが仕事に出ている間、東雲商会社員の子女を対象にした保育所に通っている。

 本来なら竹雄くん、花子ちゃん、茂くんの3人は、尋常小学校へ通っている年齢なのだが、家庭の事情もあり学校に通っていなかった*1為、来年度の尋常小学校編入を目指し、勉学にも励んでもらっている。

 こちらとしては、出来る援助は全てやった訳なので、あとは個々の努力次第と言ったところだろうか。

 それから、冨岡様だが…あれから耀哉様に呼び出され、自身の言葉足らずについて注意を受けたそうだ。

 恐ろしいことに耀哉様に指摘される少し前まで、冨岡様は自分が言葉足らずだとは()()()()()()()()

 

 -自分が口を開くと、何故か皆…特に不死川が不機嫌になった-

 -お館様や姉さん、先生、錆兎は不機嫌にならないのに…と不思議に思っていた-

 

 等と耀哉様に言っていたらしい。無自覚とは恐ろしいものだ。

 とにかく、耀哉様に諭された事で冨岡様も己の言葉足らずを多少は自覚したらしく、今後は改善出来るよう努力すると約束してくれたそうだ。

 これで冨岡様が柱の中で孤立する事は避けられ…いや、あの人、不死川様と仲良くなる為に、おはぎを手渡ししようとか考える人だからな。言葉足らずが多少改善されたくらいじゃ…

 

「……うん、その時はその時で考えよう」

 

 俺は考えを打ち切り、書類仕事を再開する。明日は早朝から出かけるからな。済ませられる仕事は済ませておかないと…。

 

 

 翌朝、俺は早朝から家を出て、馬である場所へと向かっていた。目的地は狭霧山。そう、炭治郎くんが鱗滝左近次様から指導を受け、修行を行っている山だ。

 

「炭治郎くんもご家族に関する心配事が無くなれば、更に修行へ力が入る筈だ」

 

 そんな事を呟きながら馬を駆る事数時間。狭霧山の麓へ辿り着いた俺は―

 

「ごめんくださいませ! 育手の鱗滝左近次(うろこだきさこんじ)様はご在宅でしょうか!」

 

 一軒の板葺き屋根の家へ近づき、板戸を叩きながら、そう声をあげた。待つこと数秒。

 

「どちら様かな」

 

 そんな声と共に板戸が開き、天狗の面を付けた男性が現れた。鱗滝様だ。

 

「突然の訪問、平にご容赦ください。私、こういう者です」

 

 俺は深々と頭を下げ、鱗滝様へ名刺を差し出す。

 

「東雲商会商品開発部部長付、東雲麟矢…商社の方が何用かな? いや、儂を育手と知っているという事は…」

「はい、私は鬼殺隊と関わりを持っております。本日は現在ここで修業中の竈門炭治郎くん、そして()()()()()()()()()()で訪問させていただきました」

「…義勇から聞いたのかな?」

「いえ、冨岡様からは何も。()()()()()()()()()()()()()…とでも言わせていただきます」

「………上がりなさい」

 

 僅かな沈黙を挟み、俺を招き入れてくれる鱗滝様。俺は一礼し、家の中へと入る。そこには―

 

「………」

 

 布団へ横になり、眠り続ける少女の姿があった。禰豆子ちゃんだ。

 

「外は寒かっただろう。生憎茶葉を切らしていて白湯しか出せないが、まずは体を温めるといい」

 

 俺の視線が禰豆子ちゃんに向けられているのを察したのか、そう声をかけてくる鱗滝様。いかんいかん、匂いで俺に敵意が無い事はわかってくれている筈だが、余計な警戒感は抱かせないに限るな。

 

「お心遣い感謝します。これはつまらない物ですが…」

 

 俺は鱗滝様に笑顔を見せつつ、持参した手土産を差し出す。

 

「これは、ご丁寧に…中身を伺っても構わないかな?」

「はい、羊羹です」

「羊羹!」

「あ、もしかして、羊羹はお嫌いでしたか?」

「いや、嫌いではない。むしろ好物だ。ありがたく頂戴する」

 

 手土産が好物の羊羹*2と知り、どことなく嬉しそうな様子の鱗滝様。うん、これで平和的に話が出来るだろう。

 

 

「なるほど。筋交と言う名の弓隊が新たに設立された事は聞いていたが、君がそれに関わっていたとは…」

 

 鱗滝様の入れてくれた白湯と俺の持参した羊羹をお供に話を続ける中、感心したような声を上げる鱗滝様。

 敵意が無いとはいえ、初対面且つ自分と冨岡様しか知らない筈の事を知っている俺をどうしても警戒していた鱗滝様だったが、俺がひなきちゃんの許婚である事や、鬼殺隊の改革に着手している事などを話しているうちに、その警戒心は殆ど無くなったようだ。さて、そろそろ本題に移るとしよう。

 

「それで、鱗滝様。禰豆子ちゃんは今、どういった状態なのですか?」

「うむ、ここに来てからずっと眠り続けている状態だ。信頼出来る医者にも見せたが、特にこれといった異常は見受けられない。強いて言うならば、熊や亀、蛇が行う冬眠に近い状態との事だ」

「冬眠、ですか」

 

 鱗滝様の説明にそんな声をあげながら、俺は眠り続ける禰豆子ちゃんを見る。原作通り、禰豆子ちゃんは人喰いの衝動を睡眠欲へと変換。眠りによって体力が回復するように自らを変質させているようだな。

 

「単刀直入にお伺いします。禰豆子ちゃんについて、どのようにお考えでしょうか?」

「はっきりとした確証が在る訳ではない。だが、これまで見てきた幾多の鬼とは違う…そう感じさせる何かがある。こうやって眠り続けているのも、人を喰わずに己の力を回復させる為…と考えれば、説明がつく」

「なるほど…」

「義勇が信じたように、儂もこの二人を信じようと思う」

「それを聞いて安心致しました。私も二人に害が及ばぬよう、出来る限りの手を尽くしていきます」

 

 禰豆子ちゃんに対する認識を共有し、ガッチリと握手を交わす俺と鱗滝様。よし、ここからは炭治郎君について聞いていくとしよう。

 

「そういえば、炭治郎くんはどんな具合ですか?」

「目的が目的だけに頑張っておる。最初は覚悟が甘く、()()()()()()()()()()()()、指摘すればすぐに修正するだけの柔軟さもある」

 

 判断が遅い…か。おそらくそれって…

 

「鱗滝様。その判断が遅い点についてですが、炭治郎くんの覚悟が甘かった為…とは、一概に言い切れないかもしれません」

 

 俺は言葉を選びつつ、葵枝(きえ)さんや竹雄くんから聞いたあの日の事を鱗滝様へ伝えていく。即ち―

 

「冨岡様が炭治郎くんに対し、鱗滝様に会うよう伝えた事は間違いありませんが…その他に伝えるべき事を一切伝えていないんです」

「何っ!?」

「1つ、鬼化した(禰豆子ちゃん)を人間に戻す為には、他の鬼との接触が必要である事」

「2つ、鬼と接触した際、そして万が一にも禰豆子ちゃんが暴走した際、適切に対処する為には鬼と戦えるだけの力が必須である事」

「3つ、鬼と戦えるだけの力を得る一番の方法は、鬼殺隊に入る事であり、禰豆子ちゃんの事も考えた場合、優秀且つ理解のある育手に会う必要がある事」

「この3つの事を一切伝えていないんです…正直、これだけの情報を一切与えられず、ただ鱗滝様に会え。だけ言われたら…鱗滝様に会えば、禰豆子ちゃんを何とかしてくれるのでは? と勘違いしてしまいますよね。覚悟以前の問題かと…」

「義勇…昔から口下手なところはあったが、そこまで言葉足らずになっていたとは…」

 

 俺の話を聞き、ガックリと肩を落とす鱗滝様。

 

「恐らくですが、鱗滝様や同門の方々は冨岡様が口下手である事を理解し、尚且つ言葉以外の方法で冨岡様の真意を理解出来ていたのが、徒となった形ですね」

「うむ、儂は匂いで…錆兎や真菰も、それぞれの方法で義勇の言いたい事を理解していたからな。敢えて口下手を指摘するまでもなかった…今になって思えば、それが誤りだったか」

「でも、ご安心ください。耀()()()()()()()()を受けて、冨岡様もご自身の口下手を認識されましたから!」

「お館様からの、指摘……な、なんと恐れ多い事を…」

 

 天狗の面越しでも判るほど狼狽した様子の鱗滝様。耀哉様の件を伝えたのは、失敗だったかと考えつつ、様子を見守る事約10秒。

 

「す、すぐにでもお館様へ謝罪の文を書かねば! あと、義勇にもだ!」

 

 再起動した鱗滝様は、棚から墨と筆、紙を取り出し、手紙を書き始めた。その全身から漂う雰囲気は圧倒的で、正直近づくのが躊躇われる。

 

「あ、えーと。鱗滝様。お手紙でお忙しそうですので、お昼の用意は任せて頂いてもよろしいですか? 材料は持ってきておりますので…」

 

 なんとかそれだけを伝えると短く、『任せる』とだけ返ってきた。うん、了承は得たから作るとしようか。

 俺は背嚢から材料を取り出し、調理を開始するのだった。

 

 

炭治郎視点

 

「はぁっ、はぁっ、はぁっ…」

 

 無数の罠が仕掛けられている山を下り、乱れた息を整えていく。ここまで来れば鱗滝さんの家まで一町*3もない。もう少し―

 

「何だろう、この匂い」

 

 俺の鼻がその()()を嗅ぎ取ったのはその時だ。刺激的で、どこか甘い匂い。甘い匂いは野菜を焼いたものだと思うけど、刺激的な匂いは何なのかわからない。

 

「鱗滝さんが、何か美味しい物を作ってくれたんだ」

 

 俺はそう判断し、残る距離を一気に駆け抜けていく。

 

「戻ったか、炭治郎」

「おかえりなさい」

 

 戻った俺を迎えてくれたのは、鱗滝さんと眠り続ける禰豆子。そして、初めて会う男の人。この人は…

 

「はじめまして。東雲麟矢と申します」

「あ、はじめまして! 竈門炭治郎です!」

 

 笑顔で挨拶してきた東雲さんに、俺は慌てて頭を下げる。それと同時に嗅ぎ取れたのは…凄く優しい匂い。

 

「東雲殿は、()()()()()を全て把握しており…その上で、お前の助けになりたいと仰っている」

「鬼にされた妹さんを人へと戻す。長く困難な茨の道を敢えて選んだその覚悟。天晴れの一言です。私の出来る範囲ですが、精一杯お力添えさせていただきましょう」

「あ、ありがとうございます!」

 

 東雲さんからの温かい言葉に、思わず涙が零れる。そんな俺を東雲さんは優しく見つめながら―

 

「それから炭治郎くん。君のご家族についてですが、心配は一切いりませんよ」

 

 母ちゃんや竹雄達が、新しい土地で平和に暮らしている事も教えてくれた。

 

「家や仕事を世話してくれただけじゃなく、竹雄達が学校へ通えるように…ありがとうございます! ありがとうございます!」

「ハハハ、当然の事をしたまでですよ。さぁ、顔を上げて。食事にしましょう」

 

 米搗き飛蝗のように何度も頭を下げる俺にそう声をかけて、昼食の準備を再開する東雲さん。その手際は鱗滝さんが唸るほど見事で…

 

「お待たせしました。お口に合うと良いのですが」

 

 そんな声と共に用意されたのは、大ぶりに切られた鶏肉が幾つも入った刺激的な匂いの煮込み料理? それから草鞋みたいな形の何かを焼いた物…これは何なんだ?

 

「東雲さん、これは何という料理なんですか?」

「バターチキンカレーとナンになります」

「え? 東雲さん、ばたちき…かれえと、何ですか?」

「ナンです」

「えっ?」

 

 東雲さんの言っている事がわからず、俺は首を傾げる。何なのか聞いているのに、何です? と返すなんて…

 

「炭治郎。おそらくだが、これの名前が『ナン』と言うのだ」

 

 その時、鱗滝さんが助け舟を出してくれた。そうか、この草鞋みたいな形の物が、ナンって言うのか!

 

「しかしこのバターチキンカレー、話で聞くライスカレーとは随分と違うような…」

「カレーという言葉は元々、天竺(インド)で一般的に食べられている数々の煮込み料理、その総称として宗主国である英国(イギリス)が使い始めた言葉でして、煮込み料理の一つ*4英国(イギリス)に伝わり、向こうで作り易いように改良された物が、日本に伝わったライスカレーです」

「このバターチキンカレーは、天竺(インド)の北部で食べられている料理で、向こうの言葉に直すとचिकन(ムルグ) मखानी(マカニ)。ムルグが鶏肉、マカニが牛酪(バター)を意味します」

「日本風に言うなら、鶏肉と牛酪(バター)の香辛料煮込みと言ったところでしょうか」

「ふむ…これはいわば本場の料理と言う事か」

「そういう事ですね。そのナンも天竺(インド)北部でよく食べられているパンの一種です」

 

 鱗滝さんへ笑顔で説明する東雲さん。天竺の料理か…どんな味なのか、想像もつかない!

 

「では、いただくとしよう。いただきます」

「いただきます!」

 

 鱗滝さんに続いてそう口にした俺は、東雲さんが用意していた匙を手に取り、バターチキンカレーを一口。

 

「美味しい!」

 

 ピリッと辛いけど、凄く濃厚でコクがあって…こんな味は食べたことが無い!

 

「炭治郎君。ちぎったナンを付けて食べても美味しいですよ」

「は、はい!」

 

 東雲さんに勧められるまま、俺はナンを手に取り、一口大にちぎる。すると―

 

「えっ、これって!?」

 

 ちぎったなんの中に、白くて伸びる物が入っていた! これって…

 

「ナンの中に乾酪(チーズ)を入れています」

 

 乾酪!? そんな高級品が入っているなんて!

 

「ハハハ、何も心配する必要はありませんよ。美味しく食べられて、君の血や肉になるのならば、食材だって本望ってものです」

「その通りだ、炭治郎。今のお前はただ強くなる事を、妹を人間に戻す事だけを考えるのだ」

「…はい!」

 

 東雲さんと鱗滝さんにそう諭され、俺は食べる事に集中する。少しでも沢山食べて、少しでも力を付けないと! 全ては禰豆子を人間に戻す為だ!

 

 

葵枝(きえ)視点

 

「7番テーブル、4名様入られました!」

「5番テーブル、アジフライセットあがったよ!」

「8番テーブルオーダー、目玉焼きハンバーグセット、コロッケ3種盛りセット、マカロニグラタンセット!」

 

 時刻はもうすぐ午後6時。夕食時となる午後5時あたりから、店はお客さんで大賑わい。私の仕事も給仕接客担当から厨房担当へと変わり、出来上がった料理を大急ぎで盛り付けて、給仕担当へと渡していきます。

 

葵枝(きえ)さん! もうすぐ6時だから、時間通りに上がってくださいね!」

「はい、この盛り付けを捌き終えたら上がらせていただきます」

葵枝(きえ)さん! 賄いの残りで悪いけど、ポトフとマカロニサラダ、鍋と容器に入れているから持っていきな! お子さん達も腹減らしてるだろうからさ!」

「いつもすみません。ありがたく頂戴していきます」

 

 本来なら猫の手も借りたいほどの忙しさなのに、店長をはじめとする皆さんは、私にとても良くしてくださいます。

 もう少し生活に余裕が出来たら、働きで皆さんに恩返ししよう。一日の仕事を終える度に、私はそう心に誓い、家路に就くのでした。

*1
オリジナル設定。ちなみに1912年当時の就学率は男子98.8%、女子97.6%、平均98.2%

*2
オリジナル設定

*3
109m

*4
ターメリックライスに野菜と肉のスープをかけた『マリガトーニスープ』と言われている




最後までお読みいただきありがとうございました。


※大正コソコソ噂話※

葵枝さんがビストロド東雲で働くことになった際、麟矢は店長以下スタッフ全員に対し、葵枝さんについて―

・早くして夫に先立たれた後、6人の子どもと力を合わせ、貧しいながらも誠実に生きてきた苦労人。
・少し前に家へ物取りが入り、僅かな金品を奪われたばかりか、長女が重傷を負わされた。
・長女は現在も意識不明で、遠くの病院に入院中。長男は治療費を稼ぐ為に出稼ぎに出た。
・夫の知り合いだった社長(麟矢の父、辰郎)を頼り、街に出てきた。

と説明しています。その為、店のスタッフは葵枝さんに同情的で、賄いを多めに作って持って帰らせる。可能な限り残業をさせないなど、出来る範囲で葵枝さんを助けています。
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