今回はあの柱が登場し、麟矢と共に戦います。
お楽しみいただければ幸いです。
麟矢視点
狭霧山に出向き、鱗滝様と炭治郎くんに出会ってから5日。俺は耀哉様の仲介を受け、先日
自宅ではなく、東雲軒でというのは…十中八九
そんな事を考えながら、東雲軒へと到着した俺は、引き戸に手をかけるが―
「うまい!」
引き戸を開こうとした瞬間、そんな声が聞こえてきた。
「おぉ、ここであの台詞を聞けるとは…」
あの台詞を聞けたことに感動を覚えつつ、引き戸を開くと―
「うまい!」
空の丼3つを積み上げ、4杯目のラーメンを堪能する
「炎柱、
「おぉ、来られたか!
「いえいえ、もともと定休日でしたので。ご店主に無理を聞いてもらいました」
そんな会話を交わす俺と煉獄様。そう、煉獄邸での面談が不可能となった為、俺は近くの東雲軒に連絡を取り、店長に無理を言って定休日に店を開けてもらったのだ。勿論、人件費など諸々の費用は払っている。
「それにしても、この醤油ラーメンは実にうまい! ご店主! すまないがもう一杯いただきたい!」
「私も一杯いただけますか。あと、そちらの方に焼き飯と餃子を」
「かしこまりました!」
煉獄様と俺の注文に威勢良く答え、調理を開始する店長。
「焼き飯と餃子…醤油ラーメン以外にもお勧めがあったとは!」
「醤油ラーメンと餃子、焼き飯の組み合わせは鉄板です。煉獄様、是非ともお試しを」
「鉄板の組み合わせが存在していたとは…よもやよもやだ! 客として不甲斐なし! 穴があったら入りたい!」
俺の言葉に対し、予想通りの反応を取ってくれる煉獄様。そして、出来上がった餃子と焼き飯を食べた反応も…
「うまい!」
「ごちそうさまでした!」
醤油ラーメン9杯と餃子3人前、焼き飯4人前を平らげ、満腹になったところで、俺はしっかりと手を合わせ食後の挨拶を口にする。
「お粗末様です。いやぁ、こちらが惚れ惚れするほどの食べっぷり。実にお見事!」
「いやいや、こちらのラーメンがそれだけ美味しかったということ! また、食べに来させていただきます!」
「是非とも、お待ちしております」
「店長、申し訳ありませんが30分ほど外へ出ていてもらいますか? 仕事関係で、
「わかりました。近くのカフェにおりますので、終わられたらお声掛けください」
俺の食べ終わった丼や器を下げ、外へ出ていったご店主を見送った俺は、改めて東雲殿へと向き直り―
「こちらの都合で、面談の場を自宅より変更させてもらったこと。改めてお詫びさせていただく! 申し訳なかった!」
そう言って深々と頭を下げる。
「いえ、
にこやかな笑みを崩さず、そう返してくる東雲殿。うむ、宇髄や胡蝶の言う通り、
「君が設立に関わった筋交。俺も何度か任務を共にしたが、素晴らしい働きぶりだった! 隊士の負傷率や殉職率が目に見えて下がった上に、鬼を仕留めるまでの時間も短くなった。実に素晴らしい!」
「それは結構な事でございます。風柱…不死川様も筋交に関して高評価を頂き、安堵しているところです」
「ああ! 不死川は口調こそ荒いが、筋を通せば真っ当な評価を行える男だ!」
そんな会話を交わしたところで、俺は東雲殿に本題を切り出した。
「東雲殿。実は先程、新たな鬼に関する知らせが入ったのだが…少々妙な節があってな」
「妙な節…ですか」
東雲殿の呟きに俺は頷き、懐から取り出した地図を食卓へと広げる。
「昨晩鬼が現れたのは、こことここ。それからここ。この
「3ヶ所はそれぞれ直線距離で…18里から20里*2は離れてますね。流石にこれだけ離れた複数個所を、1体の鬼が時間差無しで襲ったと考えるのは、無理があります。複数の鬼がたまたま同時期に動いた…という事ですか?」
「俺も最初はそう考えた。だが、話はそう単純ではない。鬼が襲った3ヶ所では、それぞれ見世物小屋*3や軽業、芝居の興業が行われていた。そして興行を襲った鬼は、客や興行主は皆殺しにしているが…軽業師や役者、見世物にされていた者達には
「………偶然にしては出来過ぎですね。同一の鬼の仕業…だが、そう考えると距離の問題が立ち塞がるか…難問ですね」
地図を見つめながら僅かに考え込んだ東雲殿は―
「煉獄様」
5つ数を数えるか数えないかの内に口を開いた。
「人食いを重ねた鬼は、血鬼術という物を行使出来るようになると聞きました。例えば分身を作る血鬼術が使えると仮定すれば、距離の問題については解決可能ですね」
「たしかに1ヶ所を自分で襲い、残り2ヶ所を分身に襲わせるようにすれば、その点は解決出来る。では、殺す人間と殺さない人間に分けたのは?」
「単純に考えれば、選り好みした…でしょうか。興行を生業とする人を見下す輩は一定数存在します。そういう輩が鬼になったとしたら…」
「説明はつくか…よし!」
東雲殿の推理に、俺は大きく頷き―
「東雲殿、すまないが今晩、俺と共に鬼狩りに出てほしい!」
高らかにそう宣言した。
「私が…ですか?」
「ああ! 筋交は全員他の任務で出払っていてな。お館様から君を推薦された! 何よりも俺自身が君の力を見てみたい!」
「…私で宜しければ、喜んでお供させていただきますが…今夜、鬼が何処に出るかを突き止めない事には…」
「その事ならば心配はいらない!」
「え?」
「今晩鬼が現れるのは…浅草公園六区の見世物小屋だ!」
うむ! 俺と東雲殿なら、鬼が見世物小屋を襲う前に仕留める事が出来るだろう!
麟矢視点
「あの時は勢いに押されたが…」
東雲軒でのやり取りから時は経ち、今は夜。周囲で一番高い建物の屋根に上った俺は、見世物小屋へと向かう幾つかの経路。その中でも、鬼が通る確率が最も高いと思われる経路の警戒を行っていた。
「府内で見世物小屋の興業が許可されているのは、この浅草公園六区のみ。関東近郊では明後日の晩まで見世物小屋の興業はなし。落ち着いて考えてみれば、ここを襲うのは明々白々だったな」
そんな事を呟きながら、背負った矢筒から1本の矢を取り出した俺は、いつも通りの動作で矢を番え―
「通行人が多い他の経路にも、念の為に藤の花の匂い袋を仕掛けておいたし…ここを通るのは…ある意味当然!」
夜の闇に紛れ、こちらに高速で近づいてくる気配へ向けて発射! 矢は一直線に飛んでいき、見事に気配の主=鬼へと命中。
「んぎっ!」
大型の鹿や熊をも仕留める威力の矢を真正面から受ける形となり、派手に転倒する鬼。すぐさま起き上がり、刺さった矢を抜こうとするが…
「ぎゃぁぁぁっ!」
それよりも早く矢が爆発し、矢が刺さった左肩から先と、矢を掴んでいた右手を吹っ飛ばす。
「ご、ごっ、ごのぐらいでぇ!」
それだけの威力でも、鬼に対しては決定打にならない。だが―
「炎の呼吸…壱ノ型。不知火!」
「でぇ…」
一定以上の力量を持った隊士が、鬼の頸を刎ねるのに必要十分な隙を生み出すことは出来る。煉獄様の一撃で頸を刎ねられ、頭と体が別れ別れとなる鬼。その姿は全身毛むくじゃらで、まるで前世の特撮映画で見た獣人のようだ。
「あ、あぁ…」
頸を刎ねられ、その体が徐々に灰と化していく鬼。これで終わりかと思われたが…
「に、にいぢゃぁぁぁん! ぢっぢゃい、に、にいぢゃぁぁん!」
鬼が俄かには信じられない言葉を吐いた。直後、近づいてくる2つの気配。
「まさかとは思うが!」
「分身ではなく、
思わずそう口にしながら、俺と煉獄様が後方へと下がったところで、姿を現す2体の鬼。その姿は先程の鬼とまさしく瓜二つ。なるほど、
「あぁ、お、弟よ!」
「許せ! お前だけを先に行かせたのは、兄達の失敗だった!」
「にいぢゃん…ぢっぢゃいにいぢゃん…」
兄達に看取られ、完全に灰と化す鬼。巻き起こる風が灰を空へと巻き上げた直後―
「「うぉぉぉぉぉぉぉっ!」」
人目も憚らず慟哭する兄鬼達。やがて、その慟哭は収まり…
「よくも! よくも弟を!」
「許しはせんぞ! 鬼狩り!」
兄鬼達は殺意に満ちた眼で俺達を睨みつけた。俺はコンパウントボウをゆっくりと地面へ置くと―
「煉獄様。片方の鬼は任せます。もう片方は俺が」
「心得た」
両腰に差していた鞘から小太刀を抜き、右を順手、左を逆手で持つ独自の構えを取り、同時に走り出した!
「よくも! よくも弟を殺したな! 3人だけの家族だった! 家族だったんだぞ!」
「家族を殺されて悲しむ気持ちがあるなら! 殺した相手を憎む気持ちがあるなら! 何故大勢の人を殺した!」
鋭く伸ばした両手の爪で切りかかってきながら、怒りをぶつけてくる兄鬼。その攻撃を防ぎながら、俺は負けじと言い返す。すると―
「俺達は悪くねぇ! あいつは俺達を見世物にした! 棒や鞭で叩いた! あいつらは俺達を見て気味悪がった! 嘲笑った! 悪いのはあいつらだ!」
「全身に毛が生えてた。それだけで、俺達は化け物扱いだ! 俺達が何をした! 何もしちゃいねぇ! だから、あのお方が力をくれたんだ!」
「『理由も無くお前達を傷つけ、嘲笑った者達へ復讐しろ。これは正当な権利だ』ってな!」
泣きながらそう喚き散らす兄鬼。なるほど…そういう事か。
「せっかく、せっかく…俺達を傷つけた奴らに復讐して、兄弟3人で楽しく生きていく筈だったのに…お前らの、お前らのせいでぇ!」
駄々っ子のように両腕を滅茶苦茶に振り回し、向かって来る兄鬼。もう
「せめて、一瞬で終わらせます」
俺はバックステップで距離を取り、一気に終わらせる為構えを取る。使うのは俺独自の呼吸。その名も―
「全集中…
桑島様が『出来の良い贋物を見ているような呼吸』と評した通り、この呼吸は模倣に特化している。間近で見た呼吸と型を模倣し、我が物とする呼吸。だから
「水ノ型。壱ノ段、異端・水面斬り!」
俺は踏み込みと共に一気に間合いを詰め、交差させた両腕を勢い良く水平に振るい、左右の手で順手持ちにした小太刀二刀で斬撃を叩き込む。
「あ、あぁ…」
「………次に人として生まれる時は、その人生が穏やかなものでありますように」
頸を刎ねられ、灰と化していく兄鬼へそう呟き、心の中で冥福を祈る。見れば、煉獄様の方も勝負がついたようだ。
「煉獄様、お疲れさまでした」
「ああ。東雲殿も見事でした」
そう言葉を交わしたまま俺も煉獄様も黙り込む。鬼となり、多くの人を殺した事は決して許されることじゃない。だが、そこに至ったまでの経緯を考えると…な。
「…俺は、良き母に恵まれた」
煉獄様が口を開いたのはその時だ。
「良き父にも恵まれた。今は躓き、正しき道を見失われているが、必ず立ち直ってくださる。そう信じられるだけのお方だ」
「友にも、主君と敬うべき方にも恵まれた。だから鬼となり、他人への復讐に走るほどの憎しみを抱く者の気持ちは…理解出来ないのかもしれない」
「だが、それでも、理解しようと努力する事は出来ると思っている。もっとも、こう考える事自体、恵まれた者の傲慢かもしれないがな」
ゆっくりと言葉を選びながら、己の考えを口にする煉獄様。本当にこの人は、立派な人だ。
「傲慢などではありませんよ。昔、ある人が言っていました。人より強く生まれた者、優れて生まれた者にとって、弱き人を助けること、他者の手本となることは当然の責務だと」
「煉獄様の様に、他者の不幸や苦しみを理解しようと努力する者がもっと増えれば、世の中はもっとマシになるのですが」
「うむ、なかなか儘ならぬものだ!」
そんな会話を交わしながら、俺達は帰路に就く。こうして、俺の初陣は終わりを告げるのだった。
最後までお読みいただきありがとうございました。
※大正コソコソ噂話※
今回登場した三つ子の鬼。同族嫌悪の呪いがかかっていないように見えますが、兄弟以外の鬼に対しては、しっかり同族嫌悪の感情を抱いています。
兄弟に対して同族嫌悪の感情を抱かない理由は、三つ子であるが故にそれぞれがそれぞれを自分と同一の存在であると認識している為だと思われますが、詳細は不明です。