鬼殺隊監査役・東雲麟矢   作:SS_TAKERU

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お待たせいたしました。

今回はあのキャラクターが再登場し、あの柱と顔を合わせます。

お楽しみいただければ幸いです。


拾陸之巻 -再会+謝罪=和解の時-

麟矢視点

 

 煉獄様との出会い、そして共闘から一月半。

 俺は東雲商会商品開発部部長付としての仕事をこなしつつ、鬼殺隊の一員としての仕事もこなすという文字通り二足の草鞋を履く生活を続けていた。

 幸いな事に、両方の仕事で成果を上げる事が出来ている訳だが…並の人間だったら過労死間違いなしのハードな毎日。転生特典で得たこの肉体*1の有難さが身に沁みるよ。

 

「まぁ、今日は鬼殺隊としての任務はなし。夜はゆっくり出来そうだ」

 

 朝日を浴びつつ体を伸ばした俺は服を着替え、朝食を食べる為に部屋を出ようとするが― 

 

「ん?」

 

 突然聞こえてきた窓を叩く音に、視線を送ると…

 

「これはこれは」

 

 そこに居たのは1羽の鴉。鎹鴉のモーリアンだ。 

 

「いらっしゃい、モーリアン」

 

 俺はすぐさま窓を開け、モーリアンを室内へ招き入れる。

 

「カァァァ、手紙、持ッテキマシタ。カァァァ」

「手紙…誰からですか?」

「カァァァ、先ノ最終選別ヲ突破シタ者。名前ハ獪岳。カァァァ」

「それはそれは。ありがとう、モーリアン」

 

 モーリアンに一言お礼を伝え、俺はモーリアンが背負っていた風呂敷包みを解き、中に入っていた手紙に目を通していく。

 

「なるほど」

 

 手紙にはまず時候の挨拶。それから本題が書かれていた。本題の内容は―

 

「モーリアン。今から手紙の返事を書きます。それを獪岳に届けてくれますか?」

「カァァァ、わかりました。カァァァ」

「ありがとう。待っている間、何か食べていてください。マヨネーズと…」

「カァァァ。燻製肉(ベーコン)を所望シマス。カァァァ」

「了解。少し待っててください」

 

 モーリアンにマヨネーズをベーコンを用意した後、俺は大急ぎで手紙の返事を書いていく。それにしても、会って話がしたいか。最終選別も無事に突破したようだし、少々派手なお祝いといきますか。

 

 

獪岳視点

 

 最終選別を無事に突破した俺は、先生から―

 

 -獪岳よ。日輪刀が届けばお前は名実共に鬼殺隊の隊士となり、厳しい戦いに身を置く事となる-

 -日輪刀が届くまで暫しの時間がある。もしも、今のうちに会っておきたい人がいるのなら、一目なりとも会ってくると良い-

 

 そう告げられ、結構な額の小遣いまで貰ってしまった。先生には俺の過去は殆ど話していない。話していないが…何かしら感じ取るものがあったんだろう。

 俺は先生に、ここに来る前不義理を働いてしまった人がいる事。許されるかは判らないが、その人に謝罪してくる事を伝え、山を下りた。

 道中、書いた手紙を鎹鴉に託しつつ、以前貰った紙に書かれた住所を頼りに東雲の家へとやって来た訳だが…

 

「豪邸だろ…」

 

 書かれた住所にあったのは3階建ての洋館。文字通りの豪邸だ。 

 

「東雲の奴…いいとこのお坊ちゃんだったんだな」

 

 そんな事を呟きながら、門の前を竹箒で掃除している洋装の女中へ声を―

 

「あ―」

「獪岳様でいらっしゃいますね」

「ッ!?」

 

 かけようとした瞬間、背後から声をかけられた。慌てて振り返るとそこにいたのは、壮年の男。

 でかい…六尺はあるだろうか。それに洋装の上からでも判るほど鍛えられた体。容易く俺の背後を取った身のこなし。相当な使い手だ。

 

「東雲家執事、後峠喜代晴(ごとうげきよはる)と申します」

「あ、獪岳…です」

「麟矢様は離れの方でお待ちです。どうぞこちらへ」

 

 後峠と名乗る男性に案内され、俺は広い庭の一角に造られた離れへと足を踏み入れる。

 

「お久しぶりです。獪岳」

 

 出迎えてくれたのは、洋装に身を包んだ東雲。その颯爽とした姿に俺は圧倒されかけるが、何とか踏みとどまり…

 

「あぁ、久しぶり」

 

 そう言葉を返し、勧められるがまま椅子へと腰を下ろす。すぐに茶と菓子が用意され―

 

「それでは何かありましたら、お呼びください」

 

 執事の人は退室。俺と東雲は話を開始した。

 

 

麟矢視点

 

「紅茶は初めてですか? 慣れない内は渋みを強く感じてしまうかもしれませんから、遠慮なく砂糖を入れて飲んでください」

「あ、あぁ…」

 

 俺の助言を聞き、そっと紅茶を口に含む獪岳。すぐさまその顔が苦々しいものに変わり、スプーンで砂糖を1杯。味を確かめて更に砂糖を入れていく。

 

「美味いな。香りが良い」

 

 合計で2杯半砂糖を入れてようやく良い味になったのだろう。獪岳の顔から苦々しさが消え、紅茶を楽しみだした。

 だが、あんなに砂糖を入れたら相当甘くなっている筈だ。例えるなら…前世で売られていたペットボトル入りの有糖紅茶並だろうか。まぁ、好みは人それぞれだ。

 

「獪岳。まずは最終選別の突破。おめでとうございます」

「あぁ、お前から文を貰っていたからな。生き残る事を最優先に、7日間過ごしたよ」

 

 俺の声にそう返し、微かに笑みを浮かべる獪岳。そう、前回の最終選別を突破した後、俺は桑島様へ文を送り、藤襲山の鬼の中に数十年単位で生き続け、人を喰らい続けた事で、最終選別を受ける程度の力量ではまず勝ち目が無い程強化された鬼がいる事を知らせておいたのだ。

 ちなみに、この情報は耀哉様にも伝えてあり、対策として今回の最終選別から監視役兼護衛を務める隊士の数が5名から10名に増やされていたりする。閑話休題。

 

「日輪刀が届けば、俺も正式に鬼殺隊の隊士だ。だからこそ…」

悲鳴嶼(ひめじま)様との件にケジメをつけたい」

「そういう事だ。事情を知らない人間に、行冥さんの事を聞く訳にはいかないからな。東雲を頼らせてもらった」

「頼っていただき、ありがとうございます。先日、手紙を貰った時点でこういう流れになると思って、悲鳴嶼(ひめじま)様の動向は調べておきました」

「それは…助かる」

 

 そう言って頭を下げる獪岳に微笑みつつ、俺は事前に調べた悲鳴嶼(ひめじま)様の動向について話していく。

 

悲鳴嶼(ひめじま)様は、4日前から遠隔地での討伐任務に当たられていましたが、無事に討伐を済まされ、現在帰路につかれています。何事も無ければ、日没前にはお屋敷に着かれる筈です」

「そうか…東雲、行冥さんのお屋敷、場所を教えてくれ。すぐにでも向かいたい」

 

 カップに残っていた紅茶を一気に飲み干し、今にも飛び出していきそうな獪岳。俺はそんな獪岳を手で制しつつ―

 

「焦って動いても良い結果は招きませんよ。大丈夫、時間の余裕は十分にあります」

 

 落ち着きを取り戻すように諭した。それによって、落ち着きを取り戻したのだろう。獪岳は顔を赤くしながらも再度椅子に腰を下ろしてくれた。

 さて、ゆっくり昼食を食べてから、悲鳴嶼(ひめじま)様のお屋敷へ向かうとしよう。

 

 

獪岳視点

 

 東雲の家で昼食をご馳走になった後、俺は東雲が手配した人力車に乗り、行冥さんの屋敷へと向かった。

 それにしても…あのナポ、ナポタン? とか言う洋風うどんは美味かった。赤茄子*2で作るケチャプと言う汁を味付けに使うと言っていたが、珍しい物を食わせて―

 

「獪岳、あと少しで悲鳴嶼(ひめじま)様のお屋敷です。ここからは歩きますよ」

「…あぁ」

 

 緊張しないよう他の事を考え続けていたが、東雲の声で我に返る。もうすぐか…

 否が応にも早くなる心臓の鼓動。必死に落ち着くよう己に言い聞かせながら歩く事数分。

 

「ここか…」

 

 遂に行冥さんの屋敷へと辿り着いた。行冥さんは…まだ戻っていないようだな。

 

「カァァァ、岩柱、ココカラ2里*3ノ地点。遅クトモ四半刻*4デ到着。カァァァ」

 

 その時、最新の情報を伝えてくれたのは東雲の鎹鴉。たしか、もりあんとか言ってたな。それにしてもあと四半刻か。

 

「獪岳。余計なお節介かも知れませんが、私が話をしましょうか?」

「いや、大丈夫だ。東雲はただ見届けてくれれば良い」

 

 声をかけてくれた東雲にそう返し、俺は静かに時を待つ。そして…

 

「お戻りですよ」

 

 声と共に東雲が指さした方向へ視線を送ると、そこには9年ぶりに見る懐かしい顔があった。

 

「お帰りなさいませ、悲鳴嶼(ひめじま)様。遠隔地での任務、お疲れ様でございます」

「東雲殿か。お待たせして申し訳ない。火急の用件との事だったが…」

「はい、悲鳴嶼(ひめじま)様にどうしても会って頂きたい人が」

 

 そう言いながら、俺に視線で合図する東雲。俺は覚悟を決めると静かに2回呼吸を繰り返し…

 

「…お久しぶりです。行冥さん」

 

 そう言って、深々と頭を下げた。

 

「その声…まさか、獪岳…なのか?」

 

 行冥さんの動揺した声が響く。ここからが始まりだ。

 

 

行冥視点

 

 六年…いや七年ぶりになる獪岳との再会。流石の私も動揺を隠せずにいたが…

 

「とりあえず、中に入りませんか? ここだと周りの迷惑になりかねませんから」

 

 東雲殿の提案で、とりあえず屋敷の中で話をする事となった。

 

「………」

「………」

 

 東雲殿がお茶と茶菓子を用意し、話をする準備は整ったが…私も獪岳も、口を開かない。いや、開けない。

 聞きたい事は山のようにある。あれからどうしていたのか、どうして東雲殿と一緒にいたのか、そして…あの時、本当は何があったのか…問いただしたい。だが…

 

「獪岳」

「あぁ、わかってる」

 

 なんと…私が躊躇している間に、東雲殿が獪岳の背を押してしまった。我ながら柱として…不甲斐ない。

 

「行冥さん。あの時、何があったのか…そして今日までの事。全てを話します。長くなりますが…聞いてください」

「あぁ、心して聞かせてもらおう」

 

 覚悟を決めた様子の獪岳の声に、私も覚悟を決める。真実がどのようなものであれ、受け入れよう。それが私に出来る唯一の事だ。

 

 

「………そうか、私の渡した勾玉が…」

 

 獪岳の話を聞き終え、私はただそう呟く事しか出来なかった。

 私が渡した勾玉を取り返そうと焦る余り、獪岳は寺の金に手を出してしまった。信太達は私を慕う余り、獪岳の行いを許す事が出来ずに問答無用で寺から追い出した。その結果が…

 

悲鳴嶼(ひめじま)様。獪岳が己の行いを悔い、少しでも償おうとしている事は事実です。どうか、彼の思いを組んであげてください」

 

 黙り込む私に対し、東雲殿が口を開く。私の眼は光を映さないが…それでもわかる。東雲殿は獪岳の為に()()()()()()()()

 

「やめてくれ、東雲。俺はお前から頭を下げてもらえるような人間じゃない」

「良いんですよ。私が好きでやっているんですから」

「よくわかった」

 

 知り合って半年にも満たない東雲殿が、ここまでやっているのだ。

 

「獪岳。庭に出なさい」

 

 私も覚悟を決めるとしよう。

 

 

獪岳視点

 

 庭に出た俺に対し、行冥さんは―

 

「獪岳。お前の覚悟の程を見せてもらう」

 

 そう言って木刀を投げ渡し、静かに構えた。その瞬間、行冥さんが数倍にデカく見えた。発する威圧感で…これが柱か!

 

「これまでの鍛錬でお前が培ってきたもの。その全てをぶつけてこい。もしも生半可なものであったなら…私は容赦なく叩き潰す!」

 

 行冥さんの全身から発せられる強烈な殺気。気の弱い人間なら、これに中てられただけで死んでしまうだろう。正直言って、俺も全身の震えが収まらない!

 だけど、逃げる訳にはいかない。俺はもう二度とあんな惨めな思いをする訳にはいかないんだ!

 

「………」

 

 俺は無言のまま木刀を構え、これから放つ一撃に全てを籠める為に集中していく。

 

「これは稽古でも試合でもない。実戦と思え!」

「わかりました。いきます!」

「獪岳…何を聞いていた? 実戦と思えと言った筈!」

「ッ! わかった…いくぞ!」

「来い!」

「シィィィィィ…」

 

 今放てる最高の一撃を行冥さんにぶつける。今はそれだけを考えろ!

 

「全集中。雷の呼吸…壱ノ型。霹靂一閃!」

 

 渾身の力で踏み込み、一気に間合いを詰めて横一閃に木刀を振るう。今までの中で最高と断言出来るほど上手く出来た霹靂一閃。これが今の俺の全力だ!

 

「ムン!」

 

 対する行冥さんは、渾身の力を込めて木刀を縦一文字に振り落とし…二つの刃は真正面からぶつかり合った。そして…

 

「ぐはっ…!」

 

 次の瞬間、俺は庭の隅まで吹っ飛ばされ、壁に叩きつけられていた。桁が…違いすぎる。

 

 

行冥視点

 

「………」

 

 庭の隅まで吹き飛んだ獪岳へ東雲殿が慌てて駆け寄るのを感じながら、私は己が右手に握った木刀を確認する。私の感覚に狂いがなければ、木刀は中程から折れている筈。これほどとは…

 

「よくぞここまで鍛え上げた…よくぞここまで練り上げた」

 

 私は東雲殿の肩を借りて立ち上がった獪岳へ近寄り…

 

「獪岳よ、お前の覚悟。これまで培ってきたもの。しかと感じさせてもらった」 

「行冥さん…」

「だが、お前の行為が子ども達の命を奪った事実は消えない。そしてその罪はとてつもなく大きく、そして重い。その事はわかっているな?」

「………はい」

「ならば鬼殺隊の隊士として、その命尽きる時まで戦い続けろ。鬼を倒し、一人でも多くの人を救う。それがあの子達に対してお前が出来る…ただ一つの償いと知れ」

「行冥さん…俺、俺……力の限り、頑張ります!」

「うむ!」

 

 嗚咽交じりに決意を新たにする獪岳に頷きながら、私は数珠を手に合掌し…あの子達へ祈る。願わくば、獪岳の行く末を見守ってほしい。心の中でそう呟きながら。

*1
病気に罹りにくい。怪我の治りが早い。疲労が早く抜ける

*2
トマトの旧称

*3
約7.9km

*4
30分




最後までお読みいただきありがとうございました。


※大正コソコソ噂話※

東雲家執事の後峠さん。本名後峠喜代晴(ごとうげきよはる)さんは、東雲家に仕えて17年になるベテラン。
東雲家が所有する土地や資産、屋敷の鍵の管理の他、全部で14人いる使用人の監督、時には東雲家当主である辰郎の護衛までこなす文字通りのスーパー執事。
鍛えぬいた肉体と身のこなしから、東雲家に来る前は何かしら危険な仕事に身を投じていたようですが、詳細は不明です。
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