お楽しみいただければ幸いです。
麟矢視点
あれから新しく3人の柱が就任し、それぞれに手土産持参で挨拶へ行ったりもしたが、俺は基本的に昼は東雲商会商品開発部部長付として働き、夜は鬼殺隊の一員として働く二足の草鞋を履く生活を続けている。
東雲商会の業績は、おかげさまで右肩上がり。新たに新潟、宮城、秋田、広島、福岡、長崎に進出し、店舗の合計は200*1に迫る勢いだ。
鬼殺隊隊士としての働きも順調で、階級を
自分としては、かなり早いペースで昇格出来ていると思うが…まぁ、世の中には
一方のプライベートだが…お見合いから1年半。ひなきさんとの関係はそれなりに進展している。と言っても16歳と7歳のお付き合い。健全以外の何物でもない。
それに、ひなきさん自身気軽に外を出歩ける立場でもないからな。月に数回、産屋敷邸で会う以外はもっぱら文通だ。
「これで良しっと」
明日提出する分の書類仕事を終えた俺は、鬼殺隊隊士としての身支度を整え、家を後にする。今日は大崎町*2周辺か。今から出れば夕暮れ前には到着出来るだろう。
翌日、夜明け前に鬼の討伐を終わらせた俺は、最寄りの藤の花の家紋の家で風呂を借り、体を清めてから産屋敷邸へと直行した。
今日は10日ぶりにひなきさんと会う日。万が一にも遅刻など出来ないと判断しての行動だったが…
「少し早く着きすぎたな」
思っていたよりもスムーズに移動出来た事もあり、約束の時間より四半刻ほど早く到着してしまった。
「まぁ、遅れるよりはずっとマシだ」
そう考えなおし、適当に時間を潰そうとしたその時―
「よぅ、東雲」
俺に声をかけてきた長身の美丈夫。宇髄様だ。
「これは宇髄様。おはようございます。耀哉様への御報告ですか?」
「あぁ、まあ色々とな」
「お疲れ様でございます」
短くそうやり取りを交わし、別れようとしたのだが…
「宇髄、それに…東雲か」
そこへもう1人姿を現した。セミロングのおかっぱ頭で青緑と黄のオッドアイの持ち主。そう、彼だ。
「伊黒様。おはようございます」
年上であり、蛇柱でもある
「…ふん」
しかし、伊黒様はそんな俺へ鼻を鳴らすと、鋭く睨みつけてきて…
「東雲…貴様、
殺気混じりの声で、そう詰問してきた。
「
伊黒様の詰問の意図。俺はそれを理解しているが、敢えてわからないふりをする。すると―
「店と上得意…そういう関係ならば良い。いや、そういう関係である事を忘れるな。
伊黒様はその身に纏う殺気を強めながら、俺に対してネチネチとそう言ってきた。やれやれ、冨岡様や不死川様とは別ベクトルに面倒な人だ。
だが、こちらに何の落ち度もないのに、好き勝手言われるのも腹立たしい。
「あの、伊黒様。一つお聞きしたいのですが…伊黒様と
「ッ!? そ、それは…」
「それは?」
「お、俺と
「んー、見たところ兄妹という感じではありませんね。となると遠縁の親族か、あるいは…恋人同士?」
「ちっ、違っ…俺と
恋人であることを速攻で否定し、まるで自分に言い聞かせるように同僚である事を強調する伊黒様。でも残念。そう返してくることは把握済みだ。
「あぁ、伊黒様と
「ッ!?」
俺の指摘に虚を衝かれた様子の伊黒様。ちなみに宇髄様は、伊黒様の死角になる位置でー
-コイツ、
と言わんばかりの表情を見せているが、華麗に無視しておく。閑話休題。
「例えば、
「………貴様らが理解する必要は無い。いいか、俺は
「お前達はただ黙って目の前の任務を熟していれば良い。柱の言動に疑問を挟むなど不届き千万」
俺の言葉に殺気を増しながらそう断言する伊黒様。うーん、伊黒様が気難しい性格なのは原作通りだが、ここまで頑なだったか?
俺が
「伊黒様のお考えはよくわかりました。正直申し上げまして、貴方が嫌われ役を演じようが、嫌われ者になろうが、どうぞご自由に。と言ったところですが…
「な、ど、どういう事だ! なぜ、
「おわかりになりませんか? 伊黒様が
「そ、そんな…」
青褪めた顔でそう呟きながら、数歩後退る伊黒様。追い打ちをかけるのは気の毒だが…仕方ない。
「他の隊士と合同で任務を行った際に、小耳に挟んだのですが…」
-恋柱との合同任務を終えて、藤の花の家紋の家で休息を取ったのだが、後日恋柱と食事を共にした事について、蛇柱から恫喝を受けた(男性。隊士歴2年。階級己)-
-非番の日に立ち寄った飲食店で偶然恋柱とお会いして、ご厚意で相席にしていただいたら、後日蛇柱からネチネチと嫌味を言われた(女性。隊士歴3年半。階級丙)-
-恋柱の任務後、後処理を行っていると恋柱から労いの言葉を頂けた。しかし、後日蛇柱から分際を弁えろと叱られた(男性。隠歴2年)-
「等々、いやぁ出るわ出るわ…」
「………」
俺の報告に黙り込む伊黒様。ちなみに宇髄様は、何か可哀そうな物を見るような目で伊黒様を見ているが…これは黙っておこう。
「このような事が頻発しているせいで、隊士の間では『恋柱と合同で任務を行うと、こちらに何の非も無くても、蛇柱から叱責を受ける』という噂が広まり始めています」
「恋柱…
「………くっ!」
耐えきれなくなったのか、逃げるようにその場を後にする伊黒様。
俺への好感度は著しく下がっただろうが…これを機に少しは柱としての振る舞いを考えてほしいものだ。
「東雲…お前、本当に恐ろしい奴だな」
宇髄様がそんな事を呟いていたが…聞かなかった事にしておこう。
耀哉視点
「来てくれたね麟矢君。ひなきとの時間を削るような形になって、申し訳なく思っているよ」
「いえ、一刻も早く馳せ参じる事は、鬼殺隊の一員として当然のことでございます。ひなきさんも理解を示してくれております」
私の声掛けに対し、折り目正しくそう返してくれる麟矢君。彼とどうしても話しておきたい事が出来たので、ひなきとの時間を削る形でこちらへ来てもらった訳だが…この埋め合わせは必ず近い内にやらなくてはならないね。
「天元から聞いたよ。
「やりあったと言いますか…理不尽な言いがかりを付けられたので、対応しただけです。伊黒様の方が階級も隊士としての年季も上である事は理解していますが、今回の件に関しては間違った事をしたとは思っておりません」
「うん、その事は承知しているし、君を処罰する為に呼んだ訳でもない。ただ、
「伊黒様の事情につきましては…一通り把握しております。ただ、その点を考慮いたしましても少々問題だと愚考いたします」
小芭内の事情を把握している。麟矢君の言葉に、内心驚きを隠せない。この子は本当に…こちらの想定を超えてくる。
「では、麟矢君。君から見て、
「そうですね……耀哉様の前なので正直に申し上げますが…鬼狩りの実力は、柱として相応しいと思います。ですが、それと同時に…とても臆病で、卑怯な人だと思います」
「詳しく、聞かせてもらえるかな?」
とても臆病で卑怯。
「伊黒様が
「また、漏れ聞くところによると、
「言わば両想い。それなのに、2人は交際していない。何故か? 九分九厘伊黒様が二の足を踏んでいるからです」
「それは…あるかもしれないね」
麟矢君の容赦無い物言いに、思わず苦笑してしまう。だが、行冥も以前同じような事を言っていたから、それが真相なのだろう。
「まぁ、伊黒様は過去に壮絶な体験をしておられます。それが足枷となっている事は間違いないでしょう」
「個人的な推測ですが、伊黒様は『今の自分は
「と言うと?」
「
「それは…」
麟矢君の言葉に、私も
「1ヶ月後? 半年後? それとも1年後? 断言します。今の伊黒様だったら、たとえ10年経ってもなんだかんだと理屈をこねて、先延ばしにするでしょう」
「そうなった時、一番不幸なのは
そう言って頭を下げる麟矢君。これは…私が動く必要もあるかもしれないね。
「うん、よくわかったよ。それで麟矢君。実は君に頼みたい事があるんだ」
「頼みたい事…私に出来る事でしたら何なりとお申し付けください」
「実は鬼殺隊に新たな役職を作ろうと考えていてね。その役職に就いてほしい」
「役職…具体的にはどのような職務を?」
「
「……なるほど、鬼殺隊内部の監査…監査役と言う事ですね」
「役職名はまだ決めていないが、そのように認識してくれて構わない」
麟矢君の呟きに私はそう答え…
「本来なら必要の無い役職なのかもしれないが…」
半ば独り言のように言葉を紡いでいく。
「近年
「勿論、金を稼ぐ事自体は悪い事ではない。だが、そのような考えで鬼と戦う事は死に直結する」
「また、柱とそれ以外の
「鬼殺隊が誕生して千年以上…知らず知らずの内に大きくなっていた組織の歪みを正す時が来たのかもしれない」
「わかりました。不肖、東雲麟矢。浅学菲才の身ではございますが、鬼殺隊監査役の大任務めさせていただきます」
私の呟きにそう答え、再度頭を下げる麟矢君。ありがとう、君ならそう言ってくれると思っていたよ。
「ありがとう麟矢君。だけど監査役へ就いてもらうには、一つだけ条件がある」
「条件…ですか?」
「麟矢君の階級は今
「かなり無茶なお願いをしている自覚はある。それでも、私の顔を立てると思ってやり遂げてほしい」
「かしこまりました。全身全霊を以ってその条件を突破してみせます!」
私の無茶な願いにそう答えてくれる麟矢君。その言葉、信じているよ。
最後までお読みいただきありがとうございました。
※大正コソコソ噂話※
このやり取りから数日後。伊黒様は耀哉様に呼び出され、若干遠回しにではありますが
最初は躊躇っていた伊黒様でしたが、耀哉様に促されて
「
そう伊黒様を諭します。それに対し、伊黒様は必ず答えを出すので少しだけ時間を頂きたい。と答えたそうです。
ちなみに伊黒様は、耀哉様がこのような事を聞いてきた裏には麟矢が係わっていると、超自然的な勘で察知し―
「おのれ! 東雲麟矢ぁ!」
と呪詛の声を上げたとか上げてないとか(笑)