鬼殺隊監査役・東雲麟矢   作:SS_TAKERU

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お待たせいたしました。

少し短いですが、お楽しみいただければ幸いです。


拾捌之巻 -監査役を目指して-

麟矢視点

 

 耀哉様から鬼殺隊監査役(仮称)への内示を受けて3日。俺は監査役就任への条件である(きのえ)への昇格を果たす為、鬼殺隊隊士としての任務に励んでいた。

 正確な条件はわからないが、これまでの討伐数と昇格のタイミングを考慮すると…今までの約3割増しのペースで鬼を討伐していけば、春に行われる柱合会議までに条件を達成出来る筈だ。

 もっとも、不測の事態というものは十分に考えられる。そのあたりも考慮して討伐のペースを上げていかないといけないな。

 

「ここか」  

 

 そんな事を考えながら歩いている内に、目的地である村外れの田んぼへ到着。俺は水が抜かれ、稲刈りも終わった田んぼへ足を踏み入れると、ポツンと立っている1体の案山子の手に新品の晒を結びつけ―

 

「あとはこいつを…」

 

 懐に忍ばせていた試験管の中身。()()()()()()()()()()()()()を染み込ませていく。

 

「日没まであと30分。急ぎますか」

 

 俺は田んぼから出ると、少し離れた場所に作られた藁塚*1の陰に身を隠し、村で購入しておいた蓑を纏う。

 藁で作られた蓑を纏い、藁塚の陰に隠れた事で、迷彩の効果は十分にある筈だが…極力動かずに待つとしよう。

 

 

 待つ事暫し。日没から30分ほど経った頃…状況が動いた。

 

「…来たか」

 

 視線の先にある案山子へ近づいていく黒い影。数は…2!

 

「稀っ! 稀血っ! 稀血の匂いっ!」

「ど、どけっ! 俺が喰う! 稀血は俺が喰うんだっ!」

 

 互いに互いを押し退けながら、()()()()()()()()()()()()()へ向かっていく2体の鬼。そう、俺が案山子に結び付けた晒に染み込ませていたのは、東雲商会の医務室(個人的な伝手)で入手した稀血だ。

 猫に木天蓼、鬼には稀血。そう言っていたのは不死川様だったと記憶しているが、まさにその言葉通りだな。2体の鬼は稀血の匂いに我を忘れ、進む先にあるのが案山子である事にも気づかずにいる。

 俺は静かに立ち上がり、コンパウンドボウへ矢を番えると…

 

「稀血! 稀血ぃっ! って、こいつは…案山子じゃぎゃぁぁぁっ!」

 

 最初に案山子へ辿り着いた鬼へ矢を撃ち込む。脳天に矢が突き刺さった鬼が悲鳴を上げた直後、爆発音が響き、鬼の首から上を木っ端微塵に吹っ飛ばす。

 

「な…わ、罠か!」

 

 目の前で起きた異常事態に、稀血の匂いが自分達を誘き出す為の罠と悟る鬼。すぐさま180度方向転換し、逃げ出そうとするが生憎と逃がす訳にはいかない。

 

「ぎゃぁぁぁっ!」

 

 矢を連射して、鬼の両足を射抜いた俺はコンパウンドボウを地面に置くと―

 

「全集中…(まがい)の呼吸」

 

 蓑を脱ぎ捨てながら、鬼達へ走り出す。まず狙うのは、頭を再生する為棒立ちになっている方だ!

 

「雷ノ型。壱ノ段、異端・霹靂一閃!」

 

 最高速で接近した俺が鬼とすれ違う瞬間。左腰に差した鞘から逆手持ちで小太刀を抜き、一閃!

 

「な…ば……」

 

 頸を刎ねられ、半ば再生した鬼の頭が地面に転がると同時に灰と化していく鬼の体。俺は止まる事無くもう1体へ接近し―

 

「炎ノ型。参ノ段、異端・気炎万象!」

 

 左右の手で順手に持った小太刀を上から下へと弧を描く様に振るい、鬼の頸を刎ねる。

 

「…よし、鬼2体の討伐完了」

 

 小太刀を鞘に納めた俺は、案山子へと近づき、結び付けていた晒を解くとマッチで火を点け、完全に灰へと変えていく。

 こうしておけば、稀血の残り香が残る事は万が一にもあるまい。

 念の為、半刻程その場に留まり異常が無い事を確認した後、俺は近くの藤の花の家紋の家へと向かうのだった。

 

 

輝利哉(きりや)視点

 

 新年まで2週間を切った師走のある日。今日は朝からひなき姉様が落ち着かない様子だ。

 10分に1回は時計を確認したかと思えば、髪に乱れはないか? 服装に乱れはないか? と頻繁に母上へ問いかけている。

 問いかけが10を超えたあたりから、母上は苦笑いを抑えきれない様子だし、にちか姉様やかなた、くいなは顔を合わせて、あらあらうふふ。と笑っている。

 ちなみに、僕が先程もう10回以上同じ問いかけをしている事を指摘したら、ひなき姉様から恐ろしい顔で睨まれてしまった。解せない。

 

「そろそろ時間です。お出迎えに出なければ」

 

 そうしている内に約束の時間が近くなっていた。さぁ、麟矢様をお迎えに行こう。

 

 

ひなき視点

 

「お待ちしておりました。麟矢様」

「「「「「お待ちしておりました」」」」」

 

 母上の声に続き、輝利哉(きりや)達と共に大きな背嚢を背負った麟矢様へ頭を下げる。2週間ぶりにお会いする麟矢様は、前回お会いした時と変わらずお元気そうです。

 

「それではひなきさん、輝利哉君、にちかちゃん、かなたちゃん、くいなちゃん。先に耀哉様とお話をしてきます。また後で」

「はい、お待ちしております」

 

 先に屋敷の中へと入っていく麟矢様を見送り、私達も屋敷の中へ入ります。もう少し、もう少しで、麟矢様とお話出来る。本当に楽しみです。

 

「ひなき姉様。頬が緩んでますよ」

「うるさいですよ。輝利哉(きりや)

 

 まったく…輝利哉(きりや)はもう少し、女心というものを学ぶべきです。

 

 

麟矢視点

 

 耀哉様との話し合いを終え、ひなきさん達の待つ部屋へ移動した俺はまず、完成したばかりの新しい絵本『14ひきのさむいふゆ』の読み語りを行い―

 

「さぁ、何をして遊びましょうか?」

 

 それから紙風船、お手玉、おはじき等々。ひなきさん達と色々な遊びを行っていく。お手玉に関しては前世の経験を活かし、お手玉5個でのジャグリングを披露すると、ひなきさん達はとても喜んでくれた。

 

「麟矢様は、何処でこのような技を磨かれたのですか?」

「大体は本で読んだ知識を基に…まぁ、我流ですね。あとは横浜等で見かけた大道芸人のそれを見て覚えました」

 

 なお、にちかちゃんからの問いかけにはそう答えた。まさか、前世の知識ですとは言えないからな。

 さて、そうしている間に時間になったようだ。

 

「そろそろ時間…みたいですね」

「えっ、もうそんな時間なのですか…」

 

 俺の声に寂しそう声を上げるひなきさん。輝利哉君達も声こそ出さないものの寂しそうな表情を見せている。いかんいかん、勘違いさせてしまったな。

 

「あぁ、そうじゃありません。実は今日、ひなきさん達に夕食をご馳走しようと思っていまして」

「夕食を…ですか?」

「はい、耀哉様とあまね様からは既に許可を頂いています。取って置きの洋風夕食。ご期待ください」

 

 洋風夕食という言葉に、目をキラキラと輝かせるひなきさん達。さぁ、ここからは調理の時間だ。

 

 

 2時間半後。調理を終えた俺は、産屋敷家に長年仕えている女中さん達の手を借りて完成した料理を耀哉様達が待つ座敷へと運んでいく。

 

「お待たせいたしました」

 

 俺が運ぶ膳は耀哉様に、女中さん達が運ぶ膳はあまね様、長男である輝利哉君、ひなきさん、にちかちゃん、かなたちゃん、くいなちゃんの順に供されていく。

 

「僭越ではございますが、メニュー…献立の説明をさせていただきます」

 

 全員の配膳が終わったところで、俺は下座に正座し、献立の説明を行っていく。

 

「左手前がオムライス…マッシュルーム(ツクリタケ)の薄切りと共に牛酪(バター)で炒めた麦飯を薄焼き卵で包み、玉葱とシメジの入ったクリームソース…牛乳や小麦粉で作る洋風のタレをかけた料理になります」

「その隣にありますのが、汁物。本日はかぼちゃのポタージュをご用意させていただきました。ポタージュは、軟らかくなるまで煮た野菜を裏ごしし、出汁や牛乳を加えて味付けしたトロミのある汁物の総称とご理解ください」

「続きまして、主菜は2種類。肉料理はハンバーグ、魚料理は芝海老のフリッターでございます。ハンバーグは捏ねた挽肉に玉葱などを加え、成形して焼いたもの。芝海老のフリッターは洋風の天婦羅になります」

「ハンバーグにはデミグラスソースがかかっております。フリッターには味を付けておりますので、そのままお召し上がりください」

「副菜は牛蒡のフライと人参のラペ…仏国(フランス)風のサラダをご用意いたしました」

「拙い料理ではありますが、どうぞお召し上がりくださいませ」

 

 説明を終えた俺は一礼し、そのまま退室しようとするが―

 

「麟矢君。良かったら、君も一緒に食べないかい?」

 

 耀哉様からそう声をかけられた。予想外の一言に、俺は一瞬フリーズし…

 

「いや、ご家族の団欒をお邪魔するのは…」

 

 再起動と同時に、何とか声を絞り出す。だが、その答えは耀哉様の予想の範疇だったようだ。

 

「麟矢君なら構わないよ。それにあと何年かすれば、君と私達は家族になるんだから…ね」

「………皆さんのご迷惑でなければ」

 

 ここまで言われてしまうと、嫌とは言えない。俺は大急ぎで自分の分を用意。産屋敷家の皆さんと食卓を共にするのだった。

 

 

ひなき視点

 

 麟矢様の作ってくださった洋風夕食。家では殆ど食べる事のない洋食がズラリと並び、私達は無言でいながらも心の中で拍手を送りました。

 

「僭越ではございますが、メニュー…献立の説明をさせていただきます」

 

 そして、麟矢様の説明を聞いていたのですが…

 

「拙い料理ではありますが、どうぞお召し上がりくださいませ」

 

 麟矢様は説明を終えると一礼し、そのまま退室しようとされます。仕方の無い事ですが、出来る事なら一緒に…と言うのは我儘なのでしょうね。

 

「麟矢君。良かったら、君も一緒に食べないかい?」

 

 父上がそう言ってくださったのは、その時でした。麟矢様は遠慮されていましたが―

 

「麟矢君なら構わないよ。それにあと何年かすれば、君と私達は家族になるんだから…ね」

「………皆さんのご迷惑でなければ」

 

 最終的には、承諾してくださいました。それにしても…あと何年かすれば。それはつまり…

 

「ひなき姉様、お顔が赤くなってますよ」

「…にちか、意地悪を言わないでください」

 

 どこかからかうようなにちかの言葉に、思わずむくれてしまう。そうしている間に、麟矢様はご自分の膳を持って戻ってこられ、用意された座布団に座られました。

 

「それじゃあ、いただくとしようか。いただきます」

 

 父上の声に続き、私達も食前の挨拶を唱え、夕食に箸をつけていく。その味は…最高でした。

 

 

麟矢視点

 

「長々とお邪魔いたしました」

 

 夕食の後も暫く雑談を楽しみ、20時近くになったところで俺はお暇することにした。

 

「麟矢様…隊士としての任務。どうかお気をつけて」

 

 門の前まで見送りに来てくれたあまね様達だが、ひなきさん達の目が少しトロンとしてきている。いつもなら入浴を済ませて、そろそろ寝床に入る頃だからな。無理もない。

 

「はい、またひなきさん達へ会いに来る為にも、十分気を付けますね」

「またお会い出来る時を、楽しみにしております。」 

「私もです。それでは、おやすみなさい」

 

 あまね様達への挨拶を済ませ、俺は帰路に就く。帰りが遅くなった理由を両親にどう話そうかと考えながら…

*1
稲穂から籾を取った後に残る藁を、保存の為塚状に積み上げたもの




最後までお読みいただきありがとうございました。


※大正コソコソ噂話※

この日、産屋敷邸で提供したメニューとその反応を参考に、麟矢は後日子ども向けの定食メニューを考案。
重役による試食会を満場一致で突破し、年明けからビストロド東雲の新メニューとして提供される事が決定しました。
これが、この世界におけるお子様ランチの始まりとなり、後の世で語られる東雲商会の功績の一つとなりました。
 
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