鬼殺隊監査役・東雲麟矢   作:SS_TAKERU

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お待たせいたしました。

お楽しみいただければ幸いです。


拾玖之巻 -麟矢、監査役就任-

「風ノ型。弐ノ段、異端・爪々(そうそう)科戸風(しなとかぜ)!」

 

 左右の手に持った小太刀を時間差で振るい、牙のような2つの激風を二組放つ。

 

「ぎゃぁぁぁっ!」

 

 合計4つの激風に晒され、全身を切り刻まれた鬼との間合いを詰めると―

 

「水ノ型。壱ノ段、異端・水面斬り!」

 

 その頸を刎ねる。

 

「鬼3体、討伐完了」

 

 小太刀を鞘に納めた俺は近くの立ち木へと近づき、結び付けていた稀血の染み込んだ晒を解くと、マッチで火を点けて灰へと変えていく。

 稀血を染み込ませた晒を使って鬼を誘き寄せた後、コンパウントボウで先制攻撃をしかけ、ダメージを与えてから日輪刀で討伐する。やはり、このやり方が一番効率的で確実だ。

 傍から見れば、卑怯だとか誇りが無いとか言われるかもしれないが…命を懸けた戦いに卑怯も糞もない。そう考えるのは、俺が元々令和の世界に生きていた人間だから…だろう。

 

「さて、そろそろ良いかな」

 

 そんな事を考えている間に半刻が経過したようだ。異常はなし。隣村にある藤の花の家紋の家へ向かうとしよう。

 

 

 隣村の藤の花の家紋の家に到着したのは、まもなく20時になる頃だったが、家の人達は暖かく俺を迎えてくれた。

 

「鬼狩り様、すぐにお食事を用意します。出来上がるまでの間、お風呂など如何でしょうか? ちょうど湯が沸いておりますので」

 

 聞けば、俺が訪ねてくる少し前にもう1人隊士が訪ねてきたらしく、現在入浴中との事。

 ふむ、隊士が誰かは知らないが、風呂であったら挨拶をしておこう。

 

 

「と思ったんだけどな」

 

 生憎と風呂ではその隊士と会う事は出来なかった。この家は旅館のように男湯と女湯に分かれているから、もう1人の隊士とは女性だったんだろう。

 そんな事を考えながら汗を流し、身を清めた俺は、家の人が用意してくれた浴衣と半纏に袖を通して客間へと移動。そこには―

 

「あ! 麟矢君!」

 

 国清汁(こくしょうじる)*1や新巻鮭を使った鮭大根、厚焼き玉子、金平蓮根をオカズに、大盛りの丼飯をモリモリ食べている恋柱・甘露寺蜜璃(かんろじみつり)様の姿があった。

 

「これは甘露寺(かんろじ)様。任務お疲れ様でございます」

「麟矢君もお疲れ様。私は東に三里離れた村で任務だったけど、麟矢君は?」

「私は北西に四里程離れた村で。それほど強くない鬼で助かりました」

 

 俺は膳が、甘露寺(かんろじ)様はおかわりが来るのを待つ間、そんな話を交わしていく。それにしても…

 

「不躾ながら甘露寺(かんろじ)様。何か良い事でもありましたか? なにやらいつもより、雰囲気が明るいように思いますが」

「え!? や、やっぱりわかっちゃう!?」

 

 俺の指摘に顔を真っ赤にする甘露寺(かんろじ)様。ふむ、これはもしかして…

 

「じ、実はね。三日前に()()()()()()()()()()

「お話、ですか」

「ええ、伊黒さん。自分の過去の事を話してくれたわ。そしてね」

 

 -俺は今でも、自分に流れているこの穢れた血が嫌いだ。穢れた血筋に生まれた自分自身が嫌いだ-

 -君に愛される資格など本当は無いのかもしれない。それでも…君が俺を好いていると知った時、本当に嬉しかった-

 -もしも赦されるのなら…君と……君と一緒にいたい-

 

「って、言ってくれたの!」

 

 そう言うと両頬に手をやり、恥ずかしそうに体をくねらせる甘露寺(かんろじ)様。ほぅ、あのヘタ…臆病だった伊黒様が、ねぇ。

 

「それはそれは、おめでとうございます。それで、下世話な質問になりますが…お2人の祝言は、いつ頃のご予定ですか?」

「えっ!? しゅ、祝言!?」

「はい祝言です。祝言という響きがお嫌いなら、結婚式でも、wedding(ウェディング) ceremony(セレモニー)*2でも、Matrimonio(マトリモーニオ)*3でも、La() cérémonie(セレモニー) de() mariage(マリアージュ)*4でも構いませんが」

「あ、いや、祝言でいいの。と言うか、さっきの聞き慣れない言葉は…英語?」

「順番に英語、イタリア語、フランス語で結婚式を意味する単語になります。まぁ、それはさておき…いつ頃をご予定で?」

「え、えっと…伊黒さんと話したんだけど、お互いに責任ある地位にいるし、当面は柱としての職務に専念しようって」

「なるほど。では、今すぐ行う訳ではない。ということですか」

「ええ、私が成人してから話を進めていく予定なの」

「そうですか。余計なお世話かもしれませんが、挙式の時には全力で協力させていただきます。会場や料理の手配はお任せください。あと…ウェディングケーキも」

「ウェディングケーキ?」

 

 俺が口にしたウェディングケーキという単語に首をかしげる甘露寺(かんろじ)様。これは説明が必要だな。

 

「ウェディングケーキと言うのは、結婚式で用いられるケーキの事です。欧州(ヨーロッパ)の方では永遠の愛を誓う儀式として、このケーキを夫婦共同で切り分けたり、切り分けたケーキを互いに食べさせあったりするそうです」

「た、互いに、食べさせ…あうの?」

「はい、First(ファースト)byte(バイト)と言うそうです*5

「ファーストバイト…」

 

 そう呟き、うっとりとした表情になる甘露寺(かんろじ)様。きっと幸せな想像をしているのだろう。

 

「あの…甘露寺(かんろじ)様?」

「え? あ、あぁ!? ごめんなさい! でも、すごく良いと思うわ! ウェディングケーキ!」

「それでは、式の際には必ず手配しますね」

「お願いするわ!」

 

 キラキラした瞳で念を押してくる甘露寺(かんろじ)様。伊黒様の知らない内に、とんでもない事になっているが…まぁ、いいか。

 それからすぐ、俺の膳と甘露寺(かんろじ)様のおかわりが運ばれ、俺達は食事に取り掛かった訳だが…食事中の話題は、なぜか俺とひなきさんのお付き合いだった。

 甘露寺(かんろじ)様曰く―

 

 -2人のお付き合いはすごく純粋で、聞いていると胸がキュンキュンするの!-

 

 との事だ。特に変わった事はしていないんだがなぁ。

 

 

無一郎視点

 

「霞の呼吸…肆ノ型。移流斬り」

 

 低い体勢で滑るように鬼の足元へ潜り込み、斜めに斬り上げる様に日輪刀を振るう。

 

「………」

 

 それだけで鬼の頸は体から離れ、瞬く間に灰になっていく。

 なんだろう。斬る前に何か喚いていたけど…まぁ、いいか。どうせすぐに忘れるし。

 

時透(ときとう)様。お疲れ様でございます!」

 

 そんな事を考えていると1人の隊士が声をかけてきた。名前は…えーと、そうそう。

 

「お疲れさま。()()()()()

 

 あれ? 転びかけた。会ったらいつも甘いお菓子をくれるから、お菓子の人。間違ってない筈だけど。

 

時透(ときとう)様。東雲です、私の名前は東雲麟矢です!」

「しののめりんや…うん、覚えた。だから、お菓子」

「…こちらになります」

 

 苦笑いしながら、懐から取り出した木箱を差し出してくるお菓子の人。中身は…四角くて茶色いお菓子。これ、なんだっけ?

 

「本日は生キャラメルをご用意いたしました*6。普通のキャラメルよりも生凝乳(クリーム)牛酪(バター)を多く使い、非常に柔らかく仕上げています。包んでいるオブラートごと召し上がってください」

「生キャラメル…」

 

 説明を聞いた後、生キャラメルを一つ摘まむ。指先の熱で蕩けるほどの柔らかさに驚きながら、口の中へ放り込むと…

 

「美味しい」

 

 濃厚で蕩けるような甘さが口の中に広がった。これは…凄く美味しい。

 

「気に入っていただけましたか?」

「うん、気に入った。この味は、ずっと覚えておきたい」

 

 そう言うと、お菓子の人…東雲麟矢は凄く優しい目で僕を見てきた。何か、変な事言ったかな?

 

 

 麟矢視点

 

 月日は流れ、柱合会議まで3週間ほどとなった1914年(大正3年)4月上旬。

 

「麟矢君。よくやってくれたね」

「耀哉様の期待に応える事が出来、安堵しております」

 

 俺は鬼殺隊監査役就任の条件である()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()を達成した。もちろん、今の階級は(きのえ)だ。

 

「条件を完全に満たした上での就任。これなら、柱の皆も納得してくれるだろう」

 

 そう言って耀哉様は優しく微笑み―

 

「東雲麟矢」

 

 初めて、俺の名前をフルネームで呼んでくれた。俺は改めて姿勢を正し、耀哉様の言葉を待つ。

 

「君を鬼殺隊監査役に任命するよ。今後も鬼殺隊の為、無辜の人々の為に、その力を役立ててほしい」

「この度の任を、謹んで拝命いたします。今後も不撓不屈*7の精神で、隊士として不惜身命*8を貫く所存でございます」

 

 耀哉様の言葉に対し、俺はそう答えて頭を下げる。これから、鬼殺隊監査役としての日々が始まるわけだ。

 

「まずは来月の柱合会議で、君の就任を正式に発表する。その時に役職名も発表するよ」

「役職名…監査役ではないのですか?」

「監査役でも構わないが…『柱』や『隠』、『筋交』のように鬼殺隊独自の名前があった方が良いと思うんだ。まぁ、勘なんだけどね」

「左様でございますか。全ては耀哉様のお心のままに」

 

 俺が再び頭を下げた後、幾つかの確認を行い、話し合いは終了。さぁ、ひなきさん達に会いに行くとしよう。

 

 

ひなき視点

 

 父上との話し合いを終えられて戻って来られた麟矢様。いつもなら、麟矢様手作りの絵本を読んでいただく流れなのですが―

 

「麟矢様」

 

 今回だけは麟矢様が口を開くよりも早く、私が声を上げました。

 

「ひなきさん。どうかしましたか?」

「是非とも麟矢様にご覧になっていただきたい物があります。何も言わず、そこの(ふすま)を開いてください」

「襖…わかりました」

 

 私の言葉に首を傾げながら、襖を開く麟矢様。そこにあったのは、衣紋掛(えもんかけ)に掛けられた一領の羽織。

 

「これは!」

「麟矢様。鬼殺隊監査役就任、おめでとうございます。この羽織は私達五人からのお祝いの気持ちです」

「これはまた…予想外です」

 

 そう言いながら、羽織を見つめている麟矢様。紺地に鮫小紋の柄を施したそれは、麟矢様にお似合いだと思うのですが…

 

「紺色は昔褐色(かちいろ)と呼ばれ、勝ちに通じる色として、武士の道具によく用いられている色です。それにこの鮫小紋。鮫の肌に似ている事が由来ですが、硬い鮫肌を鎧に見立てる事で、魔除けの意味も持っています」

 

 私達がこの羽織に込めた想いを正確に読み取ってくださる麟矢様。その事で密かに胸を熱くしていると…

 

「ひなきさん、輝利哉(きりや)くん、にちかちゃん、かなたちゃん、くいなちゃん」

 私達5人の名前を呼びながら、麟矢様が振り返り…私達をギュッと抱きしめてくれました。

 

「ありがとうございます。これ以上無いほどの贈り物。大切にしますね」

 

 麟矢様に喜んでいただけて、抱きしめてもらえて…本当に嬉しかった。だけど、出来る事なら…私一人を抱きしめて欲しかった。

 そんな気持ちを心の底に隠し、私は麟矢様の温もりを感じるのでした。

 

 

耀哉視点

 

「来月の柱合会議。麟矢君を参加させようと思うんだ」

 

 麟矢君が帰路に着いた後、あまねの淹れてくれた緑茶片手にそんな事を呟く。

 独り言の体を装っているが、実質あまねへの相談だね。

 

「よろしいと思います。監査役に就任された麟矢様なら、地位の面でも実績の面でも、何ら問題はない筈です」

 

 あまねもそれを理解しているのか、すぐにおかわりを出せるよう用意しながら、静かにそう言ってくれた。

 たしかに今の麟矢君なら、柱合会議に参加する資格は十分にある。十分にあるが…

 

実弥(さねみ)小芭内(おばない)は…良い顔をしないだろうね」

 

 2人と麟矢君はお世辞にも相性が良いとは言えない。表向きには何も無くとも、裏で揉めるような事になるかもしれない。

 

「行冥と天元あたりに、話をしておいた方が良いかもしれないね」

 

 そう呟くと、あまねは無言で頷いてくれた。うん、2人の都合が着き次第、話をするとしよう。

 そう心に決め、湯呑みに残った緑茶を飲み干した私は―

 

「あまね。おかわりを貰えるかな?」

 

 緑茶のおかわりをお願いするのだった。

*1
味噌仕立てのけんちん汁の別名

*2
英語で結婚式

*3
イタリア語で結婚式

*4
フランス語で結婚式

*5
新郎が新婦に食べさせることで『食べる物に困らせない』、新婦が新郎に食べさせることで『美味しい食事を作る』という意味がある模様

*6
本来の歴史では、生キャラメルが誕生したのは2006年。北海道のノースプレインファーム株式会社が開発した

*7
どんな困難に遭っても挫けないこと

*8
仏道修行のためには身命も惜しまないこと。転じて、自分の身を顧みないこと




最後までお読みいただきありがとうございました。


※大正コソコソ噂話※

時透様から『お菓子の人』として記憶されている麟矢。
会う度に甘いお菓子を提供していた事がその理由ですが、ここ最近は麟矢も色々と考えているようで、洋菓子店『パティスリー東雲』で販売する予定の洋菓子、その最終試作品を食べさせて反応を見ていたりしているようです。
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