お楽しみいただければ幸いです。
「風ノ型。弐ノ段、異端・
左右の手に持った小太刀を時間差で振るい、牙のような2つの激風を二組放つ。
「ぎゃぁぁぁっ!」
合計4つの激風に晒され、全身を切り刻まれた鬼との間合いを詰めると―
「水ノ型。壱ノ段、異端・水面斬り!」
その頸を刎ねる。
「鬼3体、討伐完了」
小太刀を鞘に納めた俺は近くの立ち木へと近づき、結び付けていた稀血の染み込んだ晒を解くと、マッチで火を点けて灰へと変えていく。
稀血を染み込ませた晒を使って鬼を誘き寄せた後、コンパウントボウで先制攻撃をしかけ、ダメージを与えてから日輪刀で討伐する。やはり、このやり方が一番効率的で確実だ。
傍から見れば、卑怯だとか誇りが無いとか言われるかもしれないが…命を懸けた戦いに卑怯も糞もない。そう考えるのは、俺が元々令和の世界に生きていた人間だから…だろう。
「さて、そろそろ良いかな」
そんな事を考えている間に半刻が経過したようだ。異常はなし。隣村にある藤の花の家紋の家へ向かうとしよう。
隣村の藤の花の家紋の家に到着したのは、まもなく20時になる頃だったが、家の人達は暖かく俺を迎えてくれた。
「鬼狩り様、すぐにお食事を用意します。出来上がるまでの間、お風呂など如何でしょうか? ちょうど湯が沸いておりますので」
聞けば、俺が訪ねてくる少し前にもう1人隊士が訪ねてきたらしく、現在入浴中との事。
ふむ、隊士が誰かは知らないが、風呂であったら挨拶をしておこう。
「と思ったんだけどな」
生憎と風呂ではその隊士と会う事は出来なかった。この家は旅館のように男湯と女湯に分かれているから、もう1人の隊士とは女性だったんだろう。
そんな事を考えながら汗を流し、身を清めた俺は、家の人が用意してくれた浴衣と半纏に袖を通して客間へと移動。そこには―
「あ! 麟矢君!」
「これは
「麟矢君もお疲れ様。私は東に三里離れた村で任務だったけど、麟矢君は?」
「私は北西に四里程離れた村で。それほど強くない鬼で助かりました」
俺は膳が、
「不躾ながら
「え!? や、やっぱりわかっちゃう!?」
俺の指摘に顔を真っ赤にする
「じ、実はね。三日前に
「お話、ですか」
「ええ、伊黒さん。自分の過去の事を話してくれたわ。そしてね」
-俺は今でも、自分に流れているこの穢れた血が嫌いだ。穢れた血筋に生まれた自分自身が嫌いだ-
-君に愛される資格など本当は無いのかもしれない。それでも…君が俺を好いていると知った時、本当に嬉しかった-
-もしも赦されるのなら…君と……君と一緒にいたい-
「って、言ってくれたの!」
そう言うと両頬に手をやり、恥ずかしそうに体をくねらせる
「それはそれは、おめでとうございます。それで、下世話な質問になりますが…お2人の祝言は、いつ頃のご予定ですか?」
「えっ!? しゅ、祝言!?」
「はい祝言です。祝言という響きがお嫌いなら、結婚式でも、
「あ、いや、祝言でいいの。と言うか、さっきの聞き慣れない言葉は…英語?」
「順番に英語、イタリア語、フランス語で結婚式を意味する単語になります。まぁ、それはさておき…いつ頃をご予定で?」
「え、えっと…伊黒さんと話したんだけど、お互いに責任ある地位にいるし、当面は柱としての職務に専念しようって」
「なるほど。では、今すぐ行う訳ではない。ということですか」
「ええ、私が成人してから話を進めていく予定なの」
「そうですか。余計なお世話かもしれませんが、挙式の時には全力で協力させていただきます。会場や料理の手配はお任せください。あと…ウェディングケーキも」
「ウェディングケーキ?」
俺が口にしたウェディングケーキという単語に首をかしげる
「ウェディングケーキと言うのは、結婚式で用いられるケーキの事です。
「た、互いに、食べさせ…あうの?」
「はい、
「ファーストバイト…」
そう呟き、うっとりとした表情になる
「あの…
「え? あ、あぁ!? ごめんなさい! でも、すごく良いと思うわ! ウェディングケーキ!」
「それでは、式の際には必ず手配しますね」
「お願いするわ!」
キラキラした瞳で念を押してくる
それからすぐ、俺の膳と
-2人のお付き合いはすごく純粋で、聞いていると胸がキュンキュンするの!-
との事だ。特に変わった事はしていないんだがなぁ。
無一郎視点
「霞の呼吸…肆ノ型。移流斬り」
低い体勢で滑るように鬼の足元へ潜り込み、斜めに斬り上げる様に日輪刀を振るう。
「………」
それだけで鬼の頸は体から離れ、瞬く間に灰になっていく。
なんだろう。斬る前に何か喚いていたけど…まぁ、いいか。どうせすぐに忘れるし。
「
そんな事を考えていると1人の隊士が声をかけてきた。名前は…えーと、そうそう。
「お疲れさま。
あれ? 転びかけた。会ったらいつも甘いお菓子をくれるから、お菓子の人。間違ってない筈だけど。
「
「しののめりんや…うん、覚えた。だから、お菓子」
「…こちらになります」
苦笑いしながら、懐から取り出した木箱を差し出してくるお菓子の人。中身は…四角くて茶色いお菓子。これ、なんだっけ?
「本日は生キャラメルをご用意いたしました*6。普通のキャラメルよりも生
「生キャラメル…」
説明を聞いた後、生キャラメルを一つ摘まむ。指先の熱で蕩けるほどの柔らかさに驚きながら、口の中へ放り込むと…
「美味しい」
濃厚で蕩けるような甘さが口の中に広がった。これは…凄く美味しい。
「気に入っていただけましたか?」
「うん、気に入った。この味は、ずっと覚えておきたい」
そう言うと、お菓子の人…東雲麟矢は凄く優しい目で僕を見てきた。何か、変な事言ったかな?
麟矢視点
月日は流れ、柱合会議まで3週間ほどとなった
「麟矢君。よくやってくれたね」
「耀哉様の期待に応える事が出来、安堵しております」
俺は鬼殺隊監査役就任の条件である
「条件を完全に満たした上での就任。これなら、柱の皆も納得してくれるだろう」
そう言って耀哉様は優しく微笑み―
「東雲麟矢」
初めて、俺の名前をフルネームで呼んでくれた。俺は改めて姿勢を正し、耀哉様の言葉を待つ。
「君を鬼殺隊監査役に任命するよ。今後も鬼殺隊の為、無辜の人々の為に、その力を役立ててほしい」
「この度の任を、謹んで拝命いたします。今後も不撓不屈*7の精神で、隊士として不惜身命*8を貫く所存でございます」
耀哉様の言葉に対し、俺はそう答えて頭を下げる。これから、鬼殺隊監査役としての日々が始まるわけだ。
「まずは来月の柱合会議で、君の就任を正式に発表する。その時に役職名も発表するよ」
「役職名…監査役ではないのですか?」
「監査役でも構わないが…『柱』や『隠』、『筋交』のように鬼殺隊独自の名前があった方が良いと思うんだ。まぁ、勘なんだけどね」
「左様でございますか。全ては耀哉様のお心のままに」
俺が再び頭を下げた後、幾つかの確認を行い、話し合いは終了。さぁ、ひなきさん達に会いに行くとしよう。
ひなき視点
父上との話し合いを終えられて戻って来られた麟矢様。いつもなら、麟矢様手作りの絵本を読んでいただく流れなのですが―
「麟矢様」
今回だけは麟矢様が口を開くよりも早く、私が声を上げました。
「ひなきさん。どうかしましたか?」
「是非とも麟矢様にご覧になっていただきたい物があります。何も言わず、そこの
「襖…わかりました」
私の言葉に首を傾げながら、襖を開く麟矢様。そこにあったのは、
「これは!」
「麟矢様。鬼殺隊監査役就任、おめでとうございます。この羽織は私達五人からのお祝いの気持ちです」
「これはまた…予想外です」
そう言いながら、羽織を見つめている麟矢様。紺地に鮫小紋の柄を施したそれは、麟矢様にお似合いだと思うのですが…
「紺色は昔
私達がこの羽織に込めた想いを正確に読み取ってくださる麟矢様。その事で密かに胸を熱くしていると…
「ひなきさん、
。
私達5人の名前を呼びながら、麟矢様が振り返り…私達をギュッと抱きしめてくれました。
「ありがとうございます。これ以上無いほどの贈り物。大切にしますね」
麟矢様に喜んでいただけて、抱きしめてもらえて…本当に嬉しかった。だけど、出来る事なら…私一人を抱きしめて欲しかった。
そんな気持ちを心の底に隠し、私は麟矢様の温もりを感じるのでした。
耀哉視点
「来月の柱合会議。麟矢君を参加させようと思うんだ」
麟矢君が帰路に着いた後、あまねの淹れてくれた緑茶片手にそんな事を呟く。
独り言の体を装っているが、実質あまねへの相談だね。
「よろしいと思います。監査役に就任された麟矢様なら、地位の面でも実績の面でも、何ら問題はない筈です」
あまねもそれを理解しているのか、すぐにおかわりを出せるよう用意しながら、静かにそう言ってくれた。
たしかに今の麟矢君なら、柱合会議に参加する資格は十分にある。十分にあるが…
「
2人と麟矢君はお世辞にも相性が良いとは言えない。表向きには何も無くとも、裏で揉めるような事になるかもしれない。
「行冥と天元あたりに、話をしておいた方が良いかもしれないね」
そう呟くと、あまねは無言で頷いてくれた。うん、2人の都合が着き次第、話をするとしよう。
そう心に決め、湯呑みに残った緑茶を飲み干した私は―
「あまね。おかわりを貰えるかな?」
緑茶のおかわりをお願いするのだった。
最後までお読みいただきありがとうございました。
※大正コソコソ噂話※
時透様から『お菓子の人』として記憶されている麟矢。
会う度に甘いお菓子を提供していた事がその理由ですが、ここ最近は麟矢も色々と考えているようで、洋菓子店『パティスリー東雲』で販売する予定の洋菓子、その最終試作品を食べさせて反応を見ていたりしているようです。