鬼殺隊監査役・東雲麟矢   作:SS_TAKERU

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お待たせいたしました。

お楽しみいただければ幸いです。


弐拾之巻 -麟矢、柱合会議へ-

麟矢視点

 

 俺が鬼殺隊監査役に就任して3週間の時が流れ…いよいよ柱合会議の日がやってきた。

 俺は早朝の内に準備を整え、家を出発。密かに産屋敷邸に入ると―

 

「暫くの間、この部屋でお待ちいただけますか?」

「わかりました」

 

 あまね様に案内されて、柱合会議の会場である座敷。その2つ隣にある6畳ほどの和室へと移動する。

 

「すぐにお茶を用意いたします」

「恐縮です」

 

 退室していくあまね様に一礼し、ゆっくりと腰を下ろした俺は懐から懐中時計を取り出し―

 

「7時35分。柱合会議は10時からの予定…2時間半ってところか」

 

 時間を確認すると、持参していた鞄からノートと万年筆を取り出す。時間になるまで、来月の試食会に出すメニューでも考えるとするか。

 付書院*1にノートを置き、いざ書き始めようとした時。

 

「麟矢様。入ってもよろしいでしょうか?」

 

 障子の外からそんな声が聞こえてきた。

 

「どうぞ」

 

 そう答えると、ゆっくりと障子が開き…入ってきたのはひなきさんだ。外に感じる気配は…女中さんか?

 

「おはようございます。ひなきさん。良い天気になりましたね」

「おはようございます。麟矢様。あの、不躾な事をお伺いしますが…その、麟矢様。朝御飯は食べられましたか?」

「朝御飯…いいえ、残念ながら。会議が終わってから朝昼一緒に食べるつもりでいましたが…」

 

 ひなきさんからの質問。その意図がイマイチわからないまま、そう答えると…

 

「あ、あの…実はお、お食事をお持ちしました」

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()という実にレアな姿を見る事が出来た。そのあまりの可愛さに、危なくノックアウトされるところだったが、何とか気合いで耐えた。しかし、それはそれとして。

 

「尊い…」

「え?」

「あ、なんでもありません。それよりも朝御飯ですが…喜んでいただきます」

 

 意図せず出てしまった呟きを誤魔化し、ひなきさんにそう伝える。すると―

 

「はい!」

 

 ひなきさんは呟きの事など忘れ、部屋の外で待機していた女中さんから膳を受け取り、俺の前に置いてくれた。

 

「それでは、いただきます」

 

 しっかりと食前の挨拶を済ませ、膳に載せられた献立を確認していく。

 主食は米7麦3で炊かれた麦飯のおにぎり。皿の上に普通よりも小ぶりなサイズで、少々歪な球型に握られた物が3つ載せられている。

 汁物は蕗と豆腐の味噌汁。昆布出汁の良い香りが鼻を擽るな。

 おかずはコゴミの胡麻和えに、筍の煮物、そして卵焼き。うん、朝からごちそうだ。それにしても…

 

「このおにぎり、もしかして…」

「あ、はい。()()()()()()()

「母上やおタキさん*2に教わって、二週間ほど練習したのですが…どうしても三角に握れなくて…」

 

 俺の問いかけに対し、恥ずかしそうに答えるひなきさん。

 

「大丈夫です。おにぎりは必ず三角に握らなくてはならない。なんて決まりはありません。丸でも俵型でも良いんですよ」

 

 俺はひなきさんにそんなフォローを入れながら、おにぎりを手に取って一口。

 

「うん、塩加減がバッチリです。噛むと口の中でホロホロと崩れて…美味しいですよ」

「本当ですか! 塩加減はおタキさんが太鼓判を押してくれたんです!」

「ご飯全体を程良い塩加減にするのはなかなか難しいのですが…お見事です」

 

 そんな事を話しながら、俺は朝食を食べ進めていく。途中、ひなきさんが卵焼き作りにも挑戦していた事が判明し―

 

「実は少し焦がしてしまって…奇麗な部分を切ってきたのですが…」

「ハハハ、こんなの焦げた内に入りませんよ。それに…うん、甘くて美味しいです」

「麟矢様は、甘い卵焼きと塩辛い卵焼き、どちらがお好きですか?」

「そうですね…どちらも好きですが、強いて選ぶなら甘い卵焼きですね」

「私も、甘い卵焼きが好きです」

「それは結構。今度西洋の卵焼きをご馳走しますよ。スフレオムレツと言うんですけどね」

「すふれおむれつ」

 

 なんて事も話したりした。朝食を食べ終えた俺は、改めてノートに色々と書き記していくが…

 

「ひなきさん。俺が書き仕事をしている姿なんて、面白くないでしょう?」

「いいえ、麟矢様がお仕事をしている姿。素敵です」

 

 ひなきさんは俺の近くに座り、ニコニコと俺を見つめていた。ふむ、ひなきさん自身が楽しいなら…まぁ、いいか。

 

 

杏寿郎視点

 

 半年ぶりの柱合会議。柱九人が一人も欠ける事無くこの場に集まれたのは、実に喜ばしいことだ!

 心の中でそんな事を考えながら、悲鳴嶼さんや宇髄、胡蝶達と話していると―

 

「お館様のお成りです」

 

 襖の向こうからひなき様の声が聞こえてきた。俺達はすぐさま姿勢を正し、頭を下げて、お館様を迎える体勢を取る。

 ひなき様とにちか様の肩を借り、ゆっくりと座敷の中へと進まれるお館様。この二年、呪いがお館様を蝕む速度はかなり緩やかになってはいるが、止まった訳ではない。

 牛歩のようにゆっくりとだが、お館様の体は弱っておられる。今はまだ自らの足で歩まれているが、それもあと数年で不可能となるだろう。お労しい限りだ…

 

「よく来てくれたね。私の可愛い剣士(子ども)達」

「今日の日差しは昨日よりも暖かく感じるね。空には雲一つなく…実に気持ちが良い天気だ」

「顔ぶれが変わらずに、半年に一度の柱合会議を迎えられたこと、嬉しく思うよ」

「お館様におかれましてもご壮健でなによりです。益々のご多幸を切にお祈り申し上げます!」

「ありがとう、杏寿郎」

 

 他の皆に先んじて、お館様への挨拶を行い、改めて頭を下げる。うむ、周りから少々視線を感じなくもないが、気にせずにいこう!

 

 

 天元視点

 

「今日はまず、皆に紹介したい者がいる。彼には今後、柱合会議に参加してもらうつもりだ」

 

 会議が始まって早々。お館様からの投げかけられた言葉に、俺と悲鳴嶼さん以外の面々が僅かにどよめく。

 まぁ、俺と悲鳴嶼さんは事前にお館様から話を聞いていた訳だが…こいつら、驚くぞ。

 

「さぁ、入ってきなさい」

「失礼いたします!」

 

 お館様の声に答え、開かれる襖。座敷の中に入ってくる者が誰かを悟った時―

 

「お、お前は!」

「何故、お前が…」

 

 不死川と伊黒が揃って、声を上げた…のは良いんだが、なんて顔をしてやがる。

 

「皆も知っていると思うが、改めて紹介するよ。先日鬼殺隊監査役に任命した、東雲麟矢だ」

「耀哉様より、監査役の大役を仰せつかりました。東雲麟矢でございます。浅学菲才の身ではありますが、鬼殺隊の為、無辜の人々の為、粉骨砕身の努力を傾注いたしてまいりますので、何とぞご指導ご鞭撻を暘りますよう、お願い申しあげます」

 

 不死川と伊黒(そんな二人)をさらりと流しつつ、東雲を紹介するお館様と丁寧な挨拶を述べる東雲。

 煉獄や胡蝶は、監査役という役職が何なのか疑問に感じていたようだが、お館様と東雲からの説明を受け―

 

「なるほど! 監査役とは即ち、鬼殺隊の風紀秩序を維持する為の役職という事か! そのような大役に任じられるとは、誠に天晴れ! 俺も柱として、及ばずながら力を貸そう!」

「東雲さんの才覚は疑いないものですし、お館様から課された条件を達成しての就任ならば、何の問題もありません。私も出来る範囲ではありますが、お手伝いさせていただきますね」

 

 東雲を歓迎する態度を見せてくれた。甘露寺と時透はどうかというと…

 

「凄いわ麟矢君! お互い、責任ある立場として頑張りましょうね!」

「お菓子の人、偉くなったんだ。うん、お館様がお認めになったのなら、良いと思う」

 

 こちらも好感触のようだ。残るは冨岡だが…

 

「………特にない」

「って、おい」

 

 ずっとだんまりで、ようやく口を開いたらそれか?

 

「…すまない、言葉が足りなかった。全てはお館様がお決めとなった事。俺ごときに口を挟む権利は無い。だから、言う事は特にない。そう言いたかった」

 

 ……あぁ、そうかい。本当に言葉が足りない奴だ。 

 

「さて、麟矢君の監査役就任に伴って、役職名を考えてみたんだ」

 

 お館様の声と共に、横に控えていたひなき様が手にした紙を広げていく。そこに書かれていた文字は…

 

(はり)。今後は監査役の事をこのように呼称してくれるかな?」

「かしこまりました! 本日只今より、役職として梁を名乗らせていただきます!」

 

 お館様にそう答え、再び頭を下げる東雲。こうして、柱合会議の参加者が一名増える事になった訳だ。

 

 

麟矢視点

 

 俺の紹介が済んだ後、会議は通常の進行へと戻り、各柱からの報告や鬼の動向等に関する情報の共有が、恙無く行われていく。

 そして一通りの議題が片付いたところでー

 

「最後に、よろしいでしょうか?」

 

 俺は挙手と共に、本日最後となる議題を挙げさせてもらった。

 

「まずは、こちらの資料をご覧ください」

 

 事前に作っておいた資料を配り、東雲商会(会社)の会議でやっているように報告を行っていく。

 

「今月1日時点での鬼殺隊隊士の数は、総勢581名*3。この内、柱と私を除いた一般隊士が337名。筋交が現在訓練中の者を含めて42名。隠が202名となっております」

「図の1番に纏めておりますが、隊士の数は毎年減少を続けており、30年前と比較すると約25%…2割5分減少している計算になります」

「減少の要因といたしましては殉職率の高さに加え、最終選別を突破し、隊士となる人材の少なさが挙げられます」

「一昨年12月の最終選別より対策を施したことで、選別参加者の死亡率低下と、再挑戦が可能となったことで選別を突破する人数の増加が確認出来ておりますが、依然新規入隊者より殉職者の方が多い状態です」

「ここまでの段階で、ご質問等はございますか?」

 

 俺1人で話し続けている状態なので、一旦言葉を切り、柱の皆さんを確認する…質問は無いようだな。

 

「それでは、続けさせていただきます」

「このような要因から、鬼殺隊は慢性的な人材不足の状態にあり、その結果動ける人間は多少怪我をしていても次の任務に向かわせなくてならず、それが殉職率の高さにも繋がっています」

「図の2番にあります通り、筋交の投入は殉職率の抑制に効果を上げております。ですが、未だ絶対数が足りない為、全ての隊士が恩恵を受けられる訳ではないというのが現状です」

「また、強力な…十二鬼月級の鬼が出現した場合の対応でも、人材不足が影響を与えております」

「柱の即時投入が行えれば問題ありませんが、それが出来ない場合…十分な数の隊士を投入出来る機会は非常に少ないと言わざるを得ません。送り込んだ戦力が全滅し、再び同等規模の戦力を送る…戦力の逐次投入という愚を犯す。犯さざるを得ない。この点は早急に改善が必要だと愚考いたしております」

 

 静まり返った室内で、俺だけが話し続けている中―

 

「その問題については、我々としても認識している」

 

 悲鳴嶼様が静かに口を開いた。

 

「しかしながら、人材の育成は一朝一夕で行えるものではない。改善と言っていたが、東雲は何か妙案を持っていると言うのかな?」

 

 悲鳴嶼様からの問いかけに、柱の皆様の視線が集中する。特に不死川様と伊黒様は『お前に出来るのか?』と言いたげな目付きだ。

 

「資料の2枚目をご覧ください」

 

 だが、俺だって無策でこの会議に臨んだ訳じゃない。この程度は想定内だ。

 

「なんだ? この表は…名前に日付、それから〇や×が書かれているが…」

「それはシフト表です」

「シフト表?」

 

 聞き慣れない単語に首を傾げる宇髄様。他の皆様も同様だ。

 

「大雑把に言ってしまえば、隊士の任務体制を纏めた物…ですね」

 

 俺はシフト表について簡単に説明し、話を続ける。

 

「一般隊士、筋交、隠を戦力が均等になるよう割り振った班を複数作り、地域ごとに配置します」

「班は割り振られた地域をそれぞれ担当し、交代で任務に当たります。とりあえずその表では、1週間のうち5日を任務に、2日を休息に当てる計算で作っております」

「なるほど…これならば、離れた地の任務に向かわせる必要はなくなるか……隊士が重傷を負うなどして、欠員が出た場合は?」

「周辺地域の比較的余裕がある班から一時的に人員を補充します。これまでに得た情報から、鬼には縄張り意識のようなものがあり、一定以上の距離を取って活動している可能性が極めて高いので、この方法で対応可能と思われます」

「強力な鬼が出た場合の対応は?」

「鬼が出現した地域を担当する班に加え、周辺の班から人員を派遣させます。班の数にもよりますが、20人程度の部隊は問題なく編成出来る筈です」

 

 悲鳴嶼様や胡蝶様から投げかけられる質問もそつなく答えていく。

 不死川様や伊黒様は、苦虫を噛み潰したような顔をしているが…難癖を付けたりしてきた訳じゃない。流しておこう。そして―

 

「ふむ、現段階では特に問題は見当たらず…試験的にしふと表を導入し、現場での評価を行いたいと思うが…どうだろうか?」

 

 悲鳴嶼様の提案が賛成多数で可決され、柱合会議は終了するのだった。

*1
床の間脇の縁側沿いにある開口部のこと。元々は読書などをする際に机代わりとして造られていた

*2
産屋敷家女中の1人。本作オリジナルキャラ

*3
本作オリジナル設定




最後までお読みいただきありがとうございました。


※大正コソコソ噂話※

鱗滝様から叱責の手紙が送られてきた事や、耀哉様に諭された事で、己の言葉足らずを多少なりとも自覚した冨岡様。
自分の出来る範囲で言葉足らずを直そうと努力していますが、なかなか上手くいかずに周囲を困惑させたり、怒らせたりしています。
それでも、周囲の反応を見て言葉が足りなかった事を察する事が出来るようにはなっている為、その都度言葉不足を謝罪し、発言の真意を説明しています。
その為極々僅かずつではありますが、冨岡様の好感度は上がっているようです。
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