鬼殺隊監査役・東雲麟矢   作:SS_TAKERU

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お待たせいたしました。

少し短いですが、お楽しみいただければ幸いです。


弐拾壱之巻 -ある一般隊士の話其之弐-

茂部野視点

 

 鬼殺隊の隊士になって4年が経ち、階級が(かのと)になった頃、鬼殺隊の仕組みが大きく変わる出来事が起きた。

 お館様の肝煎りで作られた新たな役職『梁』。それに就いた方の主導で、俺達一般隊士は割り振られた地域を担当する班として再編成され、地域内に出現した鬼の探索や処分に取り組むようになった。

 更に西洋のシフト表という仕組みが取り入れられ、7日のうち2日は必ず休みを取るようにもなった事で、これまでのように怪我を押して任務に取り組む事も少なくなり、重傷を負って一線を退く羽目になることや、殉職することも格段に少なくなった。

 『梁』に就かれた方…東雲麟矢様と言うらしいが、是非ともお会いしてお礼を伝えたいものだ。

 

 

 それから一ヶ月ほど経った7月のある日。2つ隣の地域で並の鬼とは一線を画す強力な鬼が出現し、2名の殉職者が出た。との一報が入り、周囲の班から増援が送られる事が決定。俺の所属する班からも、俺や先輩の村田さんが派遣されたのだが…

 

「筋交の都合が付かなかった為、代理で参りました。東雲麟矢です」

 

 表向き東雲商会の職員寮として建てられた詰所*1で、俺達は東雲様と対面を果たした。まさか、こんなに早くお会い出来るとは!

 俺の驚きなど知る由もない東雲様は、恋柱・甘露寺蜜璃様や他の地域から派遣された増援の隊士達とも挨拶を交わし―

 

「被害者が鬼に襲われたのは、こことここと…ここ、それからここと、ここ」

「殉職した2名の隊士が会敵したのは、ここ」

 

 机に広げた地図へ、これまでに得た情報を書き込んでいた。

 

「どれも、この森を中心にした…一里半*2以内に収まっているわね。森に鬼が潜んでいるいうことかしら?」

 

 この集落から二里*3程離れた森を中心として描かれた丸の中に、今回の被害者が収まっていることを確認し、そう呟かれる甘露寺様。東雲様は静かに頷かれ―

 

「この森に…何か建物はありますか? 昼間、日光を凌げるような」

 

 この地域を担当する班の隊士へそう尋ねられた。

 

「…あります! 持ち主の爺さんが亡くなって、ここ2年ほどほったらかしになっている作業小屋が!」

「場所はわかりますか?」

「えーと…この辺りです」

 

 東雲様から筆を受け取った隊士が、地図に丸を付ける。そこは円のほぼ中心だ。

 

「十中八九、ここに鬼が潜んでいますね。今から発てば、日没前に到着出来ます。日没と同時に仕掛けましょう」

 

 東雲様の声に、その場の全員が大きく頷く。恥ずかしいところを見せる訳にはいかないな。いつも以上に気合を入れていこう。

 

 

 それから10分と経たない内に、甘露寺様を長、東雲様を補佐とした討伐隊総勢22名は行動を開始。日没まで四半刻*4の余裕を持って、目的地である作業小屋まで二町*5のところまで来ることが出来た。

 

「まず、私と麟矢君が小屋へと接近。攻撃を仕掛けるわ」

「皆さんは半町の距離を取って小屋を包囲。いつでも飛び出せる状態でいてください」

 

 甘露寺様、東雲様の命令に頷き、俺達はそれぞれ動き出す。そのまま時間は流れ…日が沈み切ったその時!

 

「先制攻撃!」

 

 声と共に東雲様がこんぱうんどぼうを構え、目にも止まらぬ速さで3本の矢を連続で放った。矢は次々と小屋の壁に突き刺さり、ボン! という爆発音を3回連続で響かせて、小屋を木っ端微塵に吹っ飛ばす。

 

「ちぃっ!」

 

 それから3つ数え終わらぬ内に、炎と煙を突っ切って鬼が宙に舞い上がった。その背中には4枚の翼が生え、右目には『下陸』の文字が刻まれている。即ち…

 

「下弦の陸!」

 

 相手は最下位とは言え、鬼舞辻無惨配下の精鋭だ。その事実に、俺を含む隊士達は一瞬怯むが―

 

「恋の呼吸…弐ノ型。懊悩(おうのう)巡る恋!」

 

 恋柱、甘露寺様は違った。翼を羽搏かせて上昇を続ける鬼へ向かって跳躍しながら、自身の日輪刀を振るい、鬼の全身を螺旋状に斬り刻んでいく!

 

「ぎゃぁぁぁぁっ!」

 

 全身を斬られた上に、背中の翼も4枚中2枚斬り落とされた鬼は、悲鳴を上げながら落ちていく。その落下地点で待ち構えているのは…東雲様だ!

 

「全集中…(まがい)の呼吸」

「風ノ型。肆ノ段、異端・昇上砂塵嵐(しょうじょうさじんらん)!」

 

 両手に小太刀を持ち、空中に向けて連続で斬撃を繰り出す東雲様。直後、落下していた鬼は五体ばらばらとなり、灰と化していく。

 

「討伐完了」

 

 静かに呟き、小太刀を鞘へと納める東雲様。こうして、今回の討伐任務は終了するのだった。

 

 

 翌日、諸々の後始末を終わらせた俺達は、本来配属されている地域へ戻る事になったのだが―

 

「さぁ! 今日は私の奢りだから、遠慮なくお腹一杯食べてね!」

 

 その前に甘露寺様と東雲様のご厚意で、昼食をご馳走になることとなった。『焼肉処東雲』か、どんな物が食べられるのか楽しみだ。

 

 

蜜璃視点

 

「お待たせしました。こちら突き出しとなります。『甘藍*6の塩昆布和え』と『胡瓜の一本漬け』です」

「炭の用意が出来次第、お肉をお持ちしますので」

 

 そう言った後一礼して店の奥に戻っていく藤色の割烹着を着た女性の店員さんを見送り―

 

「それじゃあ、いただきます!」

 

 私は目の前に置かれた二つの器と対峙する。前以て話が通っていたのか、私の分は他の皆よりも三倍は大きい器になっている。少し恥ずかしいけれど…ありがたいわ。

 

「まずは…こっちね」

 

 まず手を伸ばしたのは胡瓜の一本漬け。蔕を切り落とされ、皮も半分ほど剥かれた胡瓜は、程良く漬かっているのが見ただけでわかる。

 串に刺さっているそれを持ち上げて、一口。感じるのは、しゃっきりとした歯触りに程良い塩気。そして塩気の奥にあるうま味。

 

「うん、うん。これは止まらないわ」

 

 あっという間に1本を完食した私は、2本目に手を…伸ばすのを必死に堪えて、隣の器に箸を伸ばす。甘藍の塩昆布和え、これは…

 

「これは…危険だわ」

 

 塩昆布の塩気とうま味。散らされた煎り胡麻と胡麻油の香ばしい香り。そして甘藍の心地良い歯触り。胡瓜の一本漬け同様、食べるのを止められない。

 

「はっ…」

 

 気が付くと、2つの器は空になっていた。動揺を必死に抑えながら周囲を見ると、他の皆の器も空になっている。良かった、私だけじゃなかったのね!

 

「失礼します。七輪と最初のお肉、牛たんをお持ちしました」

 

 そこへ作務衣を着た男性の店員が真っ赤に焼けた炭を入れた七輪を持ってきてくれた。私は意識を切り替えて、七輪とお肉の盛られたお皿に集中する。

 円形に切り揃えられた牛タン…牛の舌を専用の箸で摘まみ、七輪に乗せられた網の上へ…

 

「焼けたら、塩と檸檬で…うん! この歯応え!」

 

 薄く切られているのに、このざくりとした歯触り。塩と檸檬が良く合っているわ!

 

「甘露寺様。よろしければ、こちらをお試しに」

 

 麟矢君が器を差し出してきたのは、3枚目の牛タンを焼いている時だったわ。器の中に入っているのは…葱?

 

「葱の微塵切りに塩とごま油、少量のレモン果汁を加えて作った葱塩ダレです。焼いた牛タンで包んでご賞味ください」

 

 麟矢君に勧められるまま、私は焼いた牛タンの上に葱塩だれを乗せ、一口。

 

「………この味は、革命的だわ」

 

 

茂部野視点

 

 焼肉。炭を入れた七輪で牛の肉を焼いて食べる。最初は単純な料理だと思っていたが、こいつはなかなか奥が深い料理だ。

 牛タン、カルビ、ロース、ハラミ、それから内臓肉(ホルモン)。牛の様々な部位の肉はそれぞれ細かい下処理が施されているし、味付けも醤油ダレ、味噌ダレ、塩ダレの三種類のタレに加えて、塩と胡椒に檸檬と豊富だ。

 それから、食べ進める間に色々と話を聞いたのだが、焼肉処東雲(この店)を経営している東雲商会…東雲様のご実家は、農作業に従事して老いた牛を潰して肉にするのではなく、()()()()()()()()()牛を育てており、その為の牧場も運営しているそうだ。

 そうやって育てた牛を1頭丸ごと肉にすることで、仕入れ値を抑え、庶民でも腹一杯肉を喰える値段に設定している。いやはや、頭が下がるとは正にこのことだな。

 

「お待たせしました。麦飯のおかわりとテールスープになります」

「あぁ、ありがとう」

 

 茶碗に山盛りになった麦飯と熱々のテールスープを補充した俺は、再びカルビを焼き始める。焼いてタレに付けたカルビと共に麦飯を掻っ込む!

 

「至福とは正にこの事だ」

 

 結局この日、俺達22人で80人分の焼肉を平らげたらしい。勘定は相当な額になった筈だが…甘露寺様は平然とした顔で支払いをされていた。流石は柱…だな。

 

 

麟矢視点

 

 さて、下弦の陸討伐から3日後。俺はひなきさんに会う為に産屋敷邸を訪れた訳だが…

 

「おぉ、東雲!」

「これは煉獄様」

 

 耀哉様のもとへ向かうと、先客として煉獄様の姿があった。どうやら、任務の報告にいらしていたらしい。

 

「お館様から伺ったが、十二鬼月の一角を討伐したそうだな! 流石だ!」

「いえいえ、甘露寺様の援護があっての事でございます」

「いや、甘露寺も称賛していたぞ。的確な判断と技の冴えだったとな!」

「恐縮です」

 

 煉獄様の言葉に深々と頭を下げる。耀哉様は別格として、この方から称賛されるのは、実に嬉しいものだ。

 

「うん、麟矢君は今回の下弦の陸討伐で、柱への昇格条件も満たした事になる。実弥や小芭内も認めてくれるだろう」

「そうだと良いのですが」

 

 耀哉様の言葉に思わず苦笑が漏れる。不死川様と伊黒様は、表立っての批判こそしてこないが、俺の事がどうもお気に召さないようだからな。今回の件でどうなる事か…。

 

「なに、心配することはない! 不死川も伊黒も根は誠実な男だ。かならず分かり合える!」

 

 煉獄様の真っ直ぐな言葉が胸に沁みるよ。

 

「それで、話は変わるのだが!」

 

 …ん?

 

「甘露寺から聞いたのだが、先の任務の後、隊士達と共に焼肉なるものを食べたそうだな!」

「はい、東雲商会(実家)で経営しております焼肉店で」

「そうか! 実は相談なのだが…その焼肉なるものは店でなくては食べられない代物なのか?」

「いえ、材料や道具の用意さえ出来れば、普通の家庭や…やろうと思えば外でも食べる事は可能ですが…」

 

 煉獄様の問いかけの意図が解らないまま、俺はそう答えていく。すると…

 

「うむ! それは重畳! 実は…出来るなら、お館様に焼肉なる物を召し上がっていただきたいと考えているのだ!」

「あぁ…そういう事ですか」

「甘露寺から聞いたのだが、焼肉なるものは随分と精がつくとの事。少しでもお館様のためになれば…とな」

「わかりました。可能な限り迅速に、最高の物を準備させていただきます」

「ありがとう、麟矢君。期待しているよ」

 

 耀哉様の期待するような声に、俺は改めて深々と頭を下げる。

 今のままの焼肉では、耀哉様には少し重いから…さっぱりと食べられる工夫を施さないといけないな。 

*1
本作オリジナル。近辺に藤の花の家紋の家が存在しない地域に建てられている

*2
約5.891km

*3
約7.855km

*4
約30分

*5
約218m

*6
キャベツの古い呼び名




最後までお読みいただきありがとうございました。


※大正コソコソ噂話※

今回登場した鬼の名前は『驕鷹(キョウヨウ)』。
人間だった頃の彼は、鳥のように空を飛ぶという夢に憑りつかれ、日雇い労働で金を貯めては、滑空機…現代でいうグライダーの研究に勤しんでいました。
しかし、その夢は周囲に理解されないどころか、人心を乱す不届き者として村八分に近い扱いを受けていたようです。
ちなみに鬼舞辻無惨が彼を鬼にした理由は、彼の研究を知り『空を飛ぶ事が出来れば、私はより一層完璧なる存在に近づける』と考えた為だったりします。
その為、空を飛ぶ血鬼術を編み出した驕鷹を秘かに評価しており、近い内に己の血を追加で与えても良いと考えていました。
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