鬼殺隊監査役・東雲麟矢   作:SS_TAKERU

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お待たせいたしました。

今回は、麟矢が4人のキャラクターと再会し、2人のキャラクターと顔を合わせます。
お楽しみいただければ幸いです。


弐拾弐之巻 -狭霧山での出会い其之弐-

麟矢視点

 

 俺が『梁』に就任して3ヶ月が経ち、試験的に導入されていたシフト表の本格的な運用が決定した頃。

 

「桑島様、お久しぶりでございます」

 

 俺は全集中の呼吸を習得する為、40日の間指導を受けた桑島慈悟郎様の元を訪れていた。

 

「うむ。鬼殺隊に新しく作られた要職に就いた話は、儂も耳にしておる。四十日という極短い期間ではあったが、お主のような俊英を指導出来た事。育手として、誇りに思うぞ」

「恐縮です」

 

 そんな挨拶を交わした後、俺は桑島様に土産として持参した酒、米や燻製肉といった食料品を渡し、茶を片手に世間話に興じていく。

 まぁ、世間話と言っても、耀哉様の体調に関する事だったり、鬼殺隊の近況が主だったりする訳だが…

 それでも、梁として鬼殺隊の中心にいる俺と、育手の桑島様では()()()()()というものが、まるで違ってくる。

 特に、獪岳が隊士となって1年と少しで、階級を(ひのえ)まで上げていた事はまだ伝わっていなかったらしく、とても喜んでくれた。

 

「じいちゃん! ただいま!」

 

 そんな声と共に善逸君が帰ってきたのは、その時だ。

 

「善逸! 儂の事は師範と呼べと言っておるじゃろうが!」

 

 桑島様の一喝に首を竦めたのも束の間―

 

「あ! 麟矢さん!」

「久しぶりです。善逸君。元気そうで何よりです」

 

 俺に気が付き、笑顔で挨拶をしてくれる。ほぼ1年半ぶりに会った訳だけど…うん、随分と逞しくなってるな。

 

「善逸。麟矢…いや、東雲殿は今や柱に匹敵する要職に就かれている。失礼な態度を取ってはならんぞ」

 

 そこへ聞こえてくる桑島様の注意。すると…

 

「えーっ! 麟矢さんって、そんなに偉い人になったのぉ!?」

 

 善逸君は見事な顔芸を見せてくれた。逞しくなっても、この辺りは変わっていないな。

 

「ハハハ、一応偉い人にはなりましたが、ペコペコされるのは性に合いません。善逸君とは年も近いですし、最低限の礼儀さえ守ってくれれば大丈夫です。今まで通りにやっていきましょう。勿論、桑島様も」

「むぅ…まぁ、東雲…麟矢がそう言うのなら…」

「じゃ、じゃあ、これからもよろしくお願いします。麟矢…さん」

「こちらこそ、よろしくお願いしますね。それじゃあ、お昼ご飯にしましょうか。私が作りますので」

「やった! 麟矢さんの作るご飯がまた食べられる! 何を作ってくれるんですか?」

 

 喜びを全身で表しながら、メニューを訊ねてくる善逸君。俺は優しく微笑みながら―

 

「手打ち饂飩。井戸水で冷たく冷やした麺を具沢山の熱い漬け汁で食べます。美味いですよ」

 

 そう言って、持参した木鉢に小麦粉と塩水を入れると、饂飩を作り始めるのだった。

 

 

善逸視点

 

「お待たせしました。冷やし肉汁うどん他2品になります」

「待ってました!」

 

 麟矢さんの声にそう答え、目の前に並ぶ献立を改めて見つめる。一番目を引くのは、山盛りの饂飩。冷たい井戸水で締められていて、見ているだけで涼しくなってくる。

 その隣に置かれているのは熱々のつけ汁が入った器。具材として薄切りの豚肉とざく切りの小松菜、それから椎茸やえのきが沢山入っていて、これだけでも十分御馳走だ。

 それなのに、麟矢さんは―

 

 -饂飩だけでは栄養のバランスが偏りますね。野菜を使った副菜を作りましょう- 

 

 そんな事を言って手早く、冬瓜の煮物と茄子の炒め物をあっという間に作ってしまった。栄養のバランス? が何なのかわからないけど、麟矢さんが気にするって事は何か重要な事なんだろう。

 

「では、いただくとしようかの。いただきます」

「「いただきます」」

 

 じいちゃんの声に続いていただきますと唱え、早速料理を食べ始めたけど―

 

美味(うま)っ!」 

 

 漬け汁に漬けた饂飩を勢い良く啜った直後、思わずそんな声が出る。

 井戸水で締められた饂飩は噛み応え抜群。濃い目の漬け汁相手でも全然負けていない。漬け汁も具沢山で、饂飩を啜る度に口の中が幸せになる。

 冬瓜の煮物や茄子の炒め物も絶品で、下手な店のそれより美味いくらいだ。

 

「御代わりもありますから、遠慮無く言ってくださいね」

「それじゃあ、饂飩の御代わりください。量は…さっきと同じくらいで」

「儂も饂飩の御代わりを貰おうかの…量はさっきの半分くらいで頼む」

「わかりました。漬け汁の御代わりは?」

「お願いします!」

「儂も頼む」

「わかりました」

 

 俺とじいちゃんから皿と器を受け取り、御代わりを盛りに行った麟矢さんを見ていると―

 

「善逸。食休みの後、麟矢と組み手じゃ。胸を貸してもらえるよう頼んでおいたからな」

 

 じいちゃんがそんな事を言ってきた。思わず『そんなの無理!』という声が出掛かるけど…なんとか、それを我慢する。

 

「儂の見立てが正しければ、お前の勝ち目は百に一つも無いじゃろう。じゃが、圧倒的格上の胸を借りる事は、必ずお前の糧となる。負けを恐れずに全力でぶつかっていけ」

「…わかったよ、じいちゃん。やれるだけやってみる」

 

 じいちゃんの声にそう答え、麟矢さんの持ってきてくれた御代りに箸を付ける。勝ち目は百に一つも無いかもしれないけど…今の全力をぶつけてやる!

 

 

麟矢視点

 

「そこまで! この勝負、麟矢の勝ち」

 

 桑島様の声が響いた直後、俺はゆっくりと息を吐きながら構えを解き―

 

「大丈夫ですか? 善逸君」

 

 立ち上がろうとする善逸君へ手を伸ばす。

 

「だ、大丈夫です……やっぱり、麟矢さんは強いなぁ」

「まぁ、それなりに修羅場を潜ってますからね。だけど、善逸君も今の時点でこれだけ戦えるのは、見事の一言ですよ。獪岳とはまた違う…()()()()()()()()()が殆ど形になっている」

 

 実力差に落ち込む善逸君をそう言って励ましながら、何度か共闘した獪岳の戦い方と善逸君の戦い方を頭の中で比較していく。

 同じ雷の呼吸を使う剣士でありながら、2人の戦い方はまるで違っていた。

 壱ノ型・霹靂一閃を()()()()()()()()()獪岳は、本来鬼を牽制し、消耗させる為の型である弐~陸ノ型を独自に磨き上げ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()を確立している。

 一方、長い間()()()()()()使()()()()()()善逸君は、弐~陸ノ型を習得した後も霹靂一閃を磨き続け、()()()()()()()()()()()()()()()使()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()が確立しつつある。

 正直な話、組手の終盤『霹靂一閃・四連』を放たれた時は、本気で焦った。霹靂一閃・六連(それよりも上位の技)を知っていたから何とか反応出来たが、あれを初見で防ぐ事は、余程の使い手でなければ不可能だろう。だが…

 

「麟矢よ。お主は善逸の実力をどう見た?」

「そうですね…あくまでも組手での実力になりますが、(みずのえ)(かのと)の隊士にも引けを取らないかと。最終選別はほぼ間違いなく突破出来るでしょうね」

「えぇ…そう、ですか?」

 

 桑島様からの問いに答えた時の反応から見て、善逸君自身は、自分を低く見積もりすぎているようだ。

 

「善逸! お前には才能があると何度も言っておるじゃろう! そう、無闇矢鱈と己を卑下するでない!」 

「そうですよ、善逸君。謙遜は美徳ですが、それも過ぎれば嫌味になります。君の実力は確かなんですから、もっと自信を持って」

「…はい」

 

 まぁ、原作の輝かんばかりのヘタレっぷりに比べれば、大分改善されているし…師匠である桑島様にお任せするとしよう。 

 

 

 桑島様と善逸君に会ってから数週間が経った1914年(大正3年)9月。俺は休みを利用して狭霧山を訪れていた。

 目的は2つ。1つは炭治郎君達の様子を確認する事。そしてもう1つは…いや、これは()()()だな。

 

「とにかくまずは、鱗滝様に挨拶をするとしよう」

 

 俺は気を取り直し、鱗滝様へ挨拶をしに行ったわけだが…

 

「そうですか、全てを」

「あぁ、儂が教えられる事は全て教えた。あとは炭治郎が教えられたことを昇華出来るかどうかだ」

 

 ()()()()と言うべきか、鱗滝様は炭治郎君に最終課題を与えて、一切の指導を止めていた。

 最終課題を与えたのは約半年前。と言うことは…

 

「炭治郎君は山頂ですか?」

「あぁ…行くのか?」

「ええ、ちょっとしたお節介をしようかと」

 

 そう言い残し、俺は山頂へ向けて歩き始める。彼らに会えるかは別として…何かしらの助言は出来るだろう。

 

 

「いやはや、まさかこの場面に遭遇するとは…」

 

 山頂に到着した俺は、約30m先で繰り広げられている()()()()()()()と炭治郎君の戦いに、思わずそう呟いた。まさか今日が炭治郎君と彼らが出会った日だったとは…

 

「進め! 男なら、男に生まれたのなら、進む以外の道などない!!」

「かかって来い!! お前の力を見せてみろ!!」

「あぁあああ!!」

 

 雄叫びと共に攻撃を行った炭治郎君の顎にカウンターの一撃を叩き込み、その意識を刈り取る狐面の少年。

 あの煽りは、炭治郎君の戦意消失を防ぐ為であり、厳しい姿勢は鱗滝様の教えを頭だけでなく心でも理解させる為。

 わかっちゃいる…わかっちゃいるが、炭治郎君があまりに不憫だと思ってしまうのは、どうしても令和の価値観で考えてしまうから…だろうな。

 

「あとは任せるぞ」

「うん」

「それから、そこのお前! 男なら隠れて覗き見などせず、姿を見せたらどうだ!」

 

 おっと、気付かれたようだ。

 

「こちらに敵意は無いので、警戒しないでもらえますか?」

 

 俺は両手を上げた状態で姿を見せ、にこやかにそう呼びかけたのだが…

 

「………」

「………」

 

 どういう訳か、気絶した炭治郎君を除く2人の男女は緊張した表情のまま、こちらへの警戒を解こうとしない。

 

「貴様…何者だ!」

「何者…あぁ、申し遅れました。私、鬼殺隊で『梁』という役職に就いております。東雲麟矢と申します」

「『梁』、だと…そんな役職は聞いた事がない。出任せを言うな!」

「出任せじゃありません。つい3ヶ月ほど前に新設された役職になります。鱗滝様もご存じですよ」

「鱗滝さんが…いや、だとしてもお前は()()()()()()()()()()()! 微かにだが、()()()()()()()()()()()ぞ!」

 

 山頂に響く狐面の男の声。俺は炭治郎君がまだ目覚めていない事を確認し―

 

「炭治郎君に聞かれると少々厄介なので…場所を変えましょう。錆兎君」

 

 狐面の少年…錆兎君へそう呼びかけた。

 

 

錆兎視点

 

 気絶した炭治郎を真菰に任せ、俺は東雲麟矢なる男と共に一町程離れた場所へ移動。話を聞いた訳だが…

 

「百十年ほど未来の日本で生きていたが、死神の手違いで死ぬ羽目になり、過去に遡って転生した…そんな話を信じろとでも?」

 

 東雲麟矢の話はあまりに荒唐無稽で、とても信じられるものでは…

 

「いや、藤襲山で死んだ君や真菰さんが、狭霧山(ここ)にいることも十分荒唐無稽でしょう」

「………信じざるを得ないようだな」

「話が早くて助かります」

 

 俺の呟きに満面の笑みを見せる東雲麟矢。人前でこうも笑顔を見せるとは…未来の日本に生きる男は、皆このような有様なのか!?

 

「それはそうと、何故俺や真菰の名前、藤襲山での事を知っている? 何か絡繰りがあるのか?」

「うーん…それは秘密です」

 

 人を食ったような態度を取る東雲麟矢に、思わず顔を引きつるのを感じるが―

 

「確実なのは、俺は炭治郎君の味方であるという事。最終選別を突破してほしいという事です。錆兎君も同じでしょう?」

「…無論だ。炭治郎は云わば俺達の弟弟子。強くなってほしいという思いに偽りは無い」

 

 一転して真面目な態度を取った東雲麟矢に、俺は大きく頷く。

 

「さっきの見たか?」

「凄い一撃だった! 無駄な動きが少しもない。本当に奇麗だった!」

 

 意識を取り戻した炭治郎の声が聞こえてきたのはその時だ。俺は、その声を聞きつつ、炭治郎のいる方向とは逆に歩き出す。

 

「おや、声をかけてあげないんですか?」

「炭治郎は男だ。男たるもの、余計な言葉など不要」

「あぁ、そうですか」

 

 どこか呆れたような声を上げる東雲麟矢を残し、俺は歩き続ける。

 

「私も出来る限り、炭治郎君に力を貸すつもりですが…主な指導は君達2人に任せますよ」

「………任せておけ」

 

 そう言い残して。




最後までお読みいただきありがとうございました。

次回、炭治郎君。最終選別へ


※大正コソコソ噂話※

 この後麟矢は真菰ちゃんが姿を消した後に、改めて炭治郎君と合流。
 何も知らない体を装いながら、炭治郎君に幾つかの助言を行った後、鱗滝様のお宅へ戻って夕食を振舞いました。
 そして帰宅の途に就いた訳ですが、途中で錆兎君に冨岡様の件を相談すべきだった。と思い至ります。
 ですが、冨岡様は炭治郎君に任せようと思い直し、そのまま帰宅しました。決して、冨岡様のお世話が面倒になったわけではありません。
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