鬼殺隊監査役・東雲麟矢   作:SS_TAKERU

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お待たせいたしました。

お楽しみいただければ幸いです。


弐拾参之巻 -最終選別本番其之弐-

麟矢視点

 

 狭霧山で炭治郎君と再会し、錆兎君と真菰ちゃんと出会ってから半年が経ち、春の最終選別まで残すところあと10日となった1915年(大正4年)3月。

 

「やぁ、待っていたよ。麟矢君」

「お待たせいたしました。耀哉様におかれましても、御壮健で何よりです。益々の御多幸を切にお祈り申し上げます」

「うん、ありがとう」

 

 俺は耀哉様からの呼び出しを受け、産屋敷邸を訪れていた。

 

「今日呼び出した理由だが…一つ頼みたい事があってね」

「頼み…私に出来る事でしたら、何なりとお申し付けください」

 

 俺の声に微笑みながら頷き、頼み事の詳細を話していく耀哉様。果たして、その内容は…。

 

「実は次回の最終選別から、子ども達のみで進行させようと考えていてね」

「輝利哉とかなたには、既にその旨を伝えているが…()()()()()が起きないとも限らない」

「麟矢君、済まないが二人の補佐として、最終選別に同行してはくれないだろうか?」

 

 不測の事態か…耀哉様の勘がどこまで把握しているかはわからないが、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「かしこまりました。お2人の補佐、全力で務めさせていただきます」

 

 ()()()()()()()()()()()、輝利哉君達の補佐を全力で頑張るとしよう。

 

 

炭治郎視点

 

 錆兎と真菰に出会って半年。この半年の間、毎日のように錆兎に挑み、打ちのめされた。毎日のように真菰に己の悪い部分を指摘され、無駄な動きや癖を直していった。

 そして、月に一、二回訪ねてくる麟矢さんからも指導を受けた。

 毎日毎日、腕が、足が、千切れそうな程、肺が、心臓が、破れそうな程に刀を振った。それでも、錆兎には勝てなかった。だけど、今日は違う。

 

「半年でやっと男の顔になったな」

「今日こそ勝つ」

 

 この半年で初めて真剣を持っている錆兎にそう返し、俺は刀を構える。

 真正面からの勝負は単純だ。より強く、より速い方が勝つ。

 

「うぉぉぉっ!」

「はぁぁぁっ!」

 

 一瞬で勝負は決まった。この日、この瞬間、初めて俺の刃が、先に錆兎へ届いた。錆兎の着けていた狐の面が真っ二つに斬れ、地面へと落ちていく。

 そして露になった錆兎の顔は、笑っていた。泣きそうな、嬉しそうな、安心したような笑顔だった。

 

「……勝ってね。炭治郎。()()()にも」

 

 真菰のそんな声が聞こえた瞬間、気づくと錆兎も真菰も消えていて…錆兎の面を斬った筈の俺の刀は、岩を斬っていた。

 

 

「お前を最終選別に行かせるつもりはなかった」

 

 大岩を斬った事を伝えると、鱗滝さんはそう言って、俺に頭を下げてきた。

 

「もう子供が死ぬのを見たくなかった」

「お前にあの岩は斬れないと思っていたのに…」

 そして鱗滝さんは、あの岩を斬るように命じた真意を話し―

 

「よく頑張った。炭治郎。お前は凄い子だ……」

「最終選別。必ず生きて戻れ。儂も妹も此処で待っている」

 

 俺の頭を優しく撫で、強く抱きしめてくれた。

 

 

 夜、肩まで伸びていた髪を切り終えた俺に、鱗滝さんが狐の面をくれた。

 厄除(やくじょ)の面といって、悪いことから守ってくれるそうだ。だから、錆兎や真菰も着けていたのか。

 そして、眠り続ける禰豆子は連れて行けないので、鱗滝さんに預かってもらう事になった。

 

「炭治郎、出来たぞ」

 

 眠る禰豆子の手を握り、最終選別へ行ってくる事。鱗滝さんとここで待っていて欲しい事を伝えていると、鱗滝さんから声をかけられた。

 

「はい」

 

 囲炉裏の傍へ行くと、山菜と茸がたっぷり入った山鳥の鍋に、川魚の塩焼きというご馳走が用意されていた。

 

「明日は最終選別。腹を満たし、一晩ゆっくりと休んで英気を養うといい」

「はい!」

 

 鱗滝さんの心遣いに感謝しながら、俺は椀を受け取る。この食事、疎かには食べられない。

 

 

 翌朝、日の出と共に俺は最終選別へと出発した。

 

「鱗滝さん、行ってきます! 錆兎と真菰によろしく!」 

 

 そう言い残して、全力で駆け出した俺は―

 

「炭治郎。なぜ、お前が…死んだあの子達の名を知っている」

 

 鱗滝さんの呟きに気が付く事が出来なかった。

 

 

麟矢視点

 

 さて、最終選別の日を迎えた俺は、今回の担当である輝利哉君とかなたちゃんに同行して藤襲山へと移動。

 

「全部で17人…いや18人か」

 

 既に集合していた受験者17人を素早く確認していく。うん、原作通り炭治郎君に善逸君、カナヲちゃん、それから彼も参加しているな。この場にいない1人は、既に動き出したと考えていいだろう。 

 面識の無い彼はともかく、炭治郎君や善逸君は俺に気が付いたようだ。もっとも周囲の目があるから、反応は最小限だが。

 そうしている間に諸々の準備が整ったようだ。俺は輝利哉君とかなたちゃんの傍に控え、2人の口上を待つ。

 

「皆様。今宵は最終選別にお集まりくださって、ありがとうございます」

「この藤襲山には、鬼殺の剣士様方が生け捕りにした鬼が閉じ込めてあり、外に出る事は出来ません」

「山の麓から中腹にかけて、鬼共の嫌う藤の花が一年中狂い咲いているからでございます」

「しかし、ここから先は藤の花は咲いておりませんから鬼共がおります。この中で七日間生き抜く」

「それが最終選別の条件でございます。なお、(つちのえ)及び(つちのと)の階級にある隊士十名が、皆様の監視役兼護衛として同行いたします」

「皆様が自ら棄権の意思を示した場合、重度の負傷など、生命の危機に繋がる事態に陥った場合、そして著しい反則が確認された場合。以上三点に該当しない限り、隊士は皆様の前に現れません。あくまでも緊急時の備えとご理解ください」

「「では、行ってらっしゃいませ」」

 

 口上を終えた輝利哉君とかなたちゃんが頭を下げたのを合図に、17人の受験者は一斉に動き出した。監視役兼護衛の隊士10人も少しの間を置いて動き出し、この場に残るのが俺達だけになったところで―

 

「輝利哉君、かなたちゃん。お疲れさまでした。見事な口上でしたよ」

 

 俺は緊張から解放された2人に、優しく声をかける。

 

「麟矢様、ありがとうございました。麟矢様が傍にいてくれて、心強かったです」

「ありがとうございました」

「いえいえ、そう言っていただけて歓喜の極みです。さぁ、下山しましょうか。今日泊まる藤の花の家紋の家に材料を預けていますから、今日の夕食は私が作りますよ」

「えっ! 麟矢様がですか!」

「嬉しいです! 何を作ってくださるんですか?」

 

 俺が夕食を作ると聞き、満面の笑みを浮かべる2人。年相応の姿を見せてくれた2人に、俺は優しく微笑み―

 

「スモークサーモン…鮭の燻製を作ってきました*1ので、それと小松菜を使ったピザを作ろうかと」

 

 そんな事を話しながら、一緒に下山するのだった。

 

 

 さて、時間はあっという間に流れ、最終選別の最終日となった。俺は7日前同様、輝利哉君とかなたちゃんに同行して藤襲山へと移動する。

 連絡によると、受験者18名の内13名が脱落。全員骨折などの怪我を負ってるものの、死者は0との事。うん、合格者5名で原作通りだ。

 そんな事を考えながら、待つこと暫し。最後まで生き残った4人が姿を現した。

 これは余談だが、残る1人は俺達が到着する少し前に降りてきて、そのまま去って行ったそうだ。閑話休題。

 

「お帰りなさいませ」

「おめでとうございます。ご無事で何よりです」   

 

 輝利哉君とかなたちゃんの口上を聞きながら、俺は素早く4人の様子を確認する。

 カナヲちゃんは無傷、善逸君はかすり傷程度、炭治郎君は左の側頭部を怪我しているが、それ以外は問題なし。

 

「で? 俺はこれからどうすりゃいい。刀は?」

 

 残る1人は全身傷だらけ。重い怪我は無さそうだが…キチンと治療を受けさせたほうが良いだろうな。

 

「まずは隊服を支給させていただきます。体の寸法を測り、その後は階級を刻ませていただきます」

「階級は十段階ございます。(きのえ)(きのと)(ひのえ)(ひのと)(つちのえ)(つちのと)(かのえ)(かのと)(みずのえ)(みずのと)。今現在皆様は、一番下の(みずのと)でございます」

 

 粛々と続けられる説明の中―

 

「刀は?」

 

 彼はイラついた様子で再度日輪刀について問うてきた。俺は秘かに体勢を整え、いつでも飛び出せる準備を整える。

 

「本日中に玉鋼を選んでいただき、刀が出来上がるまで十日から十五日となります」

「さらに今からは、鎹烏をつけさせていただきます」

 

 かなたちゃんの声、そして手を鳴らした音と共に、4羽の鎹烏…もとい3羽の鎹烏と1羽の鎹雀が飛んできて、1羽1羽受験者の肩に止まっていく。

 

「え? 鴉? これ…雀じゃね?」

 

 善逸君の肩に止まったのは、原作通り鎹雀か。うん、お似合いだと思うよ。

 

「鎹鴉は主に、連絡用の烏でございます」

 

 そして、輝利哉君が鎹鴉について説明をしている時、トラブルが起きた。

 

「どうでもいいんだよ! 鴉なんて!」

 

 彼が自身の肩に止まった鴉を叩き落とし、鬼の形相で輝利哉君達へ向かって歩き出したのだ。やれやれ、耀哉様の言っていた不測の事態が起きてしまったよ。

 俺は一足飛びで輝利哉君達と彼の間に立ち、かなたちゃんの髪を掴もうと伸ばされた彼の手を払いのけると―

 

「セイッ!」

 

 彼の鳩尾へそれなりに手加減した掌打を打ち込んだ。

 

「ごほっ…」

 

 鍛えようのない急所である鳩尾を打たれ、苦悶の表情を浮かべる彼。少々可哀想だがキッチリ罰を与えておかないと、後々彼の立場が悪くなる。

 

「許せよ、少年」

 

 俺は間髪入れず、彼の足を払って転倒させると、ハンマーロック*2を仕掛けて、動きを封じる。

 

「ぐぁぁぁっ!」

 

 腕と肩の関節を極められる激痛に、苦悶の声を上げる彼。俺はある程度のところで力を緩めて解放し―

 

「君の焦る気持ちはわかるが、もう少し視野を広く持った方が良いね。不死川玄弥君」

 

 彼の名前を呼びながら、そう諭した。

 

「な、なんで俺の名前…アンタ、誰だよ?」

「階級甲。鬼殺隊監査役『梁』の東雲麟矢。よろしく」

「監査役? 『梁』? そんな役職聞いたこと…」

「1年前に新しく設立された役職だから、まだ知らない人もいるかな。まぁ、それはさておき…俺の仕事はね。君のような鬼殺隊の風紀秩序を乱す隊士を処罰する事だったりする訳だ」

「なっ…」

「君が手を上げようとした女の子はね。鬼殺隊当主産屋敷耀哉様御息女の1人、かなた様だ。万が一にも彼女に手を上げていたら、君だけでなく()()()()()()()()()()()()()()()()()よ」

「え…」

 

 俺の言葉に顔面蒼白となる玄弥君。うん、脅しはこのくらいで良いかな。

 

「君の事情は把握しているし、焦る気持ちも理解出来る。だけど、鬼殺隊という組織に属する以上、それ相応の振る舞いを心掛けていないと、いつか痛い目を見るよ」

「…す、すみませんでした」

「俺に謝るより先に、謝る相手がいるんじゃないかな?」

「……はい」

 

 俺に諭された玄弥君は青い顔のまま、輝利哉君とかなたちゃんへ近づき―

 

「その…すみませんでした!」

 

 2人に土下座で謝罪した。

 

「わかりました。謝罪を受け入れます」

「気にしておりませんので、頭を上げられてください」

 

 2人が謝罪を受け入れた事で、周囲の張りつめた空気も和らいでいく。うむ、これでよし。

 

「では、あちらから刀を造る鋼を選んでくださいませ」

 

 その後も粛々と説明会は進み、全ての行程が終了。炭治郎君達はそれぞれの育手の元へと帰っていった。

 

「輝利哉君、かなたちゃん。お疲れさまでした」

「お疲れさまでした。麟矢様。色々とありがとうございました」

「お守りいただいた事、生涯忘れません」

「ハハハ、当然の事をしたまでですよ。さぁ、帰りましょう。昼前には到着しますから、特製の昼食を振舞わせていただきますよ」

「本当ですか!」

「今日は何を作っていただけるんですか?」

「この前がピザでしたからね。今日はてりやきバーガーにフライドポテト。なんてどうでしょうか?」

「「てりやきバーガーにフライドポテト」

 

 そろって呟く輝利哉君とかなたちゃん。そんな2人に俺は微笑み、下山を開始するのだった。

*1
本来の歴史では1958年。東京都内のホテルで初めて国産のスモークサーモンが客に供されたと言われている。ちなみに国内で本格的に製造が開始されたのは、1967年と言われている

*2
相手の腕を相手の背中側に引っ張り、捻り上げることによって相手の腕と肩関節を極める関節技




最後までお読みいただきありがとうございました。


※大正コソコソ噂話※

 産屋敷邸へ輝利哉君とかなたちゃんを送り届けた麟矢は、風呂を借りて汗を流した後早速調理を開始。産屋敷家の皆さんに『てりやきバーガー』と『フライドポテト』をメインにした昼食を振舞い、絶賛されました。
 なお、食事中にひなきちゃんが「このてりやきバーガーの具…てりやきハンバーグは、ご飯と一緒に食べても美味しいかもしれません」と呟いた事が切っ掛けとなり、ビストロド東雲で照り焼きハンバーグが販売される事になり、東雲商会の新店舗として『ハンバーガーショップ東雲』がオープンする事になりますが、それは別のお話です。
 
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