鬼殺隊監査役・東雲麟矢   作:SS_TAKERU

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お待たせいたしました。

少し短いですが、お楽しみいただければ幸いです。



弐拾陸之巻 -示された道筋-

玄弥視点

 

 特別遊撃班『離』の一員になる事が正式に決まった後、俺と我妻は―

 

 -宿舎が完成するまでの間、空いている部屋を自由に使ってください-

 

 しのの…麟矢さんの好意で、屋敷の空き部屋を使わせて貰えることになり、女中さんに部屋まで案内されたんだが…

 

「すげぇ…」

 

 部屋の豪華さに思わずそんな呟きが漏れる。3階建ての豪邸という時点で解ってはいたけど、塵一つ落ちていないほど奇麗に掃除された部屋の造りは洋風で…そう、噂に聞くホテルって奴はきっとこんな感じなんだろう。

 

「麟矢様のご指示で、必要な物は一通りご用意しておりますが、もしも不足している物がございましたら遠慮無くお申し付けください」

「あ、いえ、じゅぶ…十分、です」

 

 俺に深々と頭を下げる女中さんに、どもりながらそう返したあと、持参した荷物をクローゼット(観音開きの押し入れ)に直していく。

 まぁ、荷物といっても俺の場合、使い古した(下着)や肌着、それから数着の私服…あとは()()()()()()()()()()くらいだ。

 

 -玄弥。わかっていると思うが、お前は全集中の呼吸への適性が著しく低い。剣術の腕前も、十のうち三に届けば良い程度だ-

 -気力と努力だけでここまでの修行に喰らいついてきたお前の執念は評価するが…最終選別を突破出来ただけでも奇跡と言っていい-

 -悪い事は言わん。隊士の道は諦めろ。命を無駄に散らす必要はない。隠に進むという道もある-

 

「ッ!」

 

 俺を指導してくれた育手の先生から言われた言葉が、不意打ちみたいに頭に浮かんできたのはその時だ。

 

「わかってる、わかってるさ……才能が無いことなんか、俺自身が一番わかってる」

 

 才能が無い事を理由にして諦めれば、楽なのかもしれない。だけど、その道を選ぶことだけは、それこそ死んでも出来ない。

 

「せっかく『離』に呼ばれたんだ。この機会を活かさない訳には―」

「玄弥君」

 

 いかない。そう続ける筈だった呟きは、扉の向こうから聞こえてきた麟矢さんの声で中断される。

 

「夕食の前に、少し話したい事があります。入っても構いませんか?」

「は、はい!」

 

 俺は慌てて麟矢さんを部屋の中へと招き入れる。話したい事…一体何なんだろう?

 

 

麟矢視点

 

「ど、どうぞ…」 

「お邪魔します」

 

 荷物の片づけが終わった頃を見計らって、玄弥君が寝泊まりする部屋へとやってきた俺は―

 

「何か足りない物はありませんか? もしもあったら遠慮なく言ってくださいね」

「あ、だ、大丈夫…です」

 

 そんな会話を交わしながら、部屋に備え付けられた椅子に腰を下ろす。

 

「話自体は真面目なものですが、時間はそれほど長くかかりません。だから緊張せずに」 

「は、はい!」

 

 緊張した様子の玄弥君にそう伝え、軽く深呼吸をした俺は―

 

「実は先日、君の育手である3代前の水柱、白石波乃(しらいしなみの)*1にお会いしてきました」

 

 本題に切り込んだ。

 

「先、生に…」

「えぇ、白石様は君の今後を案じておられました。君は全集中の呼吸への適性が著しく低い上に、剣術の才能にも恵まれていない」

「そ、それは…」

「最終選別を突破出来た事が既に奇跡。余程の事がない限りその先へ進むことは千に一つ、いや万に一つも無いだろう。と」

「………」

「正直に言えば、私も玄弥君を剣士としては、戦わせるつもりはありません」

「……それって、俺に…隠になれって事、ですか? 俺を『離』に呼んだのは、専属の隠が欲しかったからですか?」

 

 泣きそうな顔で俺に問いかける玄弥君。あぁ、そういう風に受け取ってしまったか…言い方が悪かったな。

 

「適性が低いこと、才能が無いことは自分が一番わかってます。だけど、才能が無い奴はそれで終わりなんですか? 勝負を挑むことすら、戦いに臨むことすら許されないんですかっ!?」

「落ち着いて、玄弥君。私は()()()()()()戦わせるつもりはない。そう言いましたよ」

 

 泣きながら食って掛かる玄弥君を宥めつつ、俺は先の発言を繰り返す。

 

「剣士として…じゃ、じゃあ…」

「今の鬼殺隊隊士には、日輪刀以外にも鬼への攻撃手段がありますよね?」

「……弓…筋交です、か?」

「ご名答」

「だけど俺、弓なんて扱ったこと…」

 

 やや落ち着いたのも束の間、弓を扱ったことが無いと不安を口にする玄弥君。大丈夫、君の不安は想定の範囲内です。

 

「後峠さん」

 

 俺は声と共にパチン! と指を鳴らし、部屋の外で待機していた後峠さんを呼ぶ。すぐさま入室した後峠さんは―

 

「まずはこちらを」

 

 抱えていた2つの木箱のうち、大きい方を一旦テーブルへ置くと、小さい方を玄弥君へ差し出した。

 

「え…」

「どうぞ、開けてみてください」

 

 俺に促され、木箱の蓋を取る玄弥君。そこに入っていたのは…

 

「こ、これ…ピストル、ですか?」

 

 そう、1挺の拳銃だ。それもただの拳銃じゃない。

 

白国(ベルギー)製の自動拳銃、『FN(エフエヌ) ブローニングM1910(エムいちきゅういちぜろ)』でございます」

「え? ベルギーの…え、FN?」

 

 後峠さんの説明を聞いても、頭の上に? が浮かんでいる様子の玄弥君。

 

欧州(ヨーロッパ)の北西にあるベルギーという国。そこのFN社*2という会社で、ブローニングという職人が1910年に開発した拳銃という意味です。まぁ、無理に覚えなくても大丈夫ですよ」

「は、はぁ…」

 

 俺の細かい解説である程度は理解出来たようだが…まぁ、名前の由来はある意味どうでもいい。

 

「玄弥君。君には今日から銃の扱いを学んで貰います」

「銃の…で、でも、鬼に鉄砲は効かないって先生が…」

 

 俺からの要請に戸惑っている様子の玄弥君。たしかに、鬼に対して銃は効果が無いというのは定説だが…

 

「それについて少々調べてみたのですが、鉄砲は鬼に対して効果が無いとする定説は、約220年前…江戸幕府5代将軍徳川綱吉公の時代に、さる藩の砲術指南役が、領内に現れた人喰い鬼を火縄銃で撃った件が根拠になっているようですね*3。当時の隊士が記録を残していました」

 

 -我々の制止するを振り払ひ、砲術指南役は鬼に対して火縄銃を撃ちき-

 -火縄銃に撃たれし鬼は倒れしもののすなはち立ち上がり、己を攻めし砲術指南役へと襲ひかかりき-

 

「火縄銃で撃たれてもすぐに立ち上がった。これを根拠に銃は鬼に効果が無いと説く。理に適っているようですが…だけど、それって220年前、大昔の話ですよね?」

「昔の常識、今の非常識。当時の火縄銃は前装式*4で滑腔銃身*5のマスケット銃。今の主流は後装式のボルトアクションライフルです」

「威力はもちろん、射程も連射速度も火縄銃の比ではありません。試してみる価値は十分にあると思いますが…玄弥君はどうですか?」

「え、あの、俺…学校に行ってないから、難しいことはよく解らないですけど…やらせてください!」

 

 玄弥君の返答に俺は頷き、後峠さんに視線を送る。すぐさま後峠さんはテーブルに置いていた木箱を抱え上げ―

 

「こちらを」

 

 玄弥君へ差し出した。玄弥君が木箱の蓋を開けると―

 

「今度は、小銃…ですか?」

 

 入っていたのは1挺のボルトアクション式ライフル。

 

独国(ドイツ)製の小銃、『マウザーGewehr98(ゲベーアきゅうじゅうはち)』でございます」

「はぁ、ドイツ…」 

 

 後峠さんの説明に呆然としながらもそう答える玄弥君。

 

「1898年からドイツ軍の制式小銃として採用されている素晴らしいライフル銃です。特に威力は欧米列強の錚々たるライフル銃の中でも随一と言って良い」

「このライフルと、猩々緋砂鉄や猩々緋鉱石を材料に作った弾丸を併用すれば、弱い鬼なら確実に倒せるでしょうね。狙い所次第では、強力な鬼に対しても相応の痛手を与えられる筈です」

「これで、鬼を…」

 

 拳銃とライフル銃。2挺の銃を交互に見ながら、覚悟を決めた表情になる玄弥君。よし、これで彼が鬼喰いの道を選ぶことは無くなっただろう。

 

「夕食まで2時間ほど時間があります。玄弥君、銃の扱いを少しでも学んでみますか?」

「はい、是非ともお願いします!」

「それでは、後峠さん。お願いします」

「かしこまりました。不死川様、こちらへ」

「は、はい!」

 

 後峠さんに連れられ、退室していく玄弥君。こうなることを想定して、庭の鍛錬場を改築して地下に射撃場を造っておいて良かったよ。

 

 

善逸視点

 

「はぁ、美味しかったなぁ…」

 

 満腹になった腹を摩りながら俺は部屋へと戻り、寝台に腰を下ろす。

 今日の夕食は俺達への歓迎の意味も込めて、麟矢さん自ら腕を振るってくれた。主菜は、桜鯛や芝海老、蛤がたっぷり入ったアクアパッツァという洋風の煮込み料理で、一口食べたら口の中が海になったと錯覚するほど魚の旨味が満載だった。

 何度か麟矢さんの料理を食べたことがある俺や炭治郎はともかく、玄弥は―

 

 -俺、こんな美味いもの、食ったこと無いです-

 

 と、涙を流していた。

 

「それに…禰豆子ちゃん、可愛かったなぁ…」

 

 食後、炭治郎は麟矢さんと相談した上で背負い箱を開き、中に入っていた妹の禰豆子ちゃんを俺達に紹介してくれた。

 彼女を一目見た瞬間、俺は雷に打たれたような衝撃を覚えた。炭治郎が麓の町でも評判の美人だったって言ってたけど、その言葉に嘘はない。と言うか輝いて見えているよ!

 

「鬼だから人とは違うけど…それでも優しい音をしてた。うん、万に一つの可能性、信じてみたいよな」

 

 炭治郎の思いに同意しながら、俺は風呂へと向かう。明日から『離』としての任務が始まる。しっかり体を休めておかないと。

*1
本作オリジナルキャラ

*2
FNハースタル社。1889年に設立された銃器メーカー。1914年当時の正式名称は、ファブリックナショナル社

*3
本作オリジナル設定

*4
火器の装填方式の1つ。砲身や銃身の先端側から弾薬を装填する方式

*5
内部にライフリング(施条)が無い銃身のこと




最後までお読みいただきありがとうございました。


※大正コソコソ噂話※

東雲商会の発展に多大な貢献を果たしている麟矢ですが、その功績は表向きには父辰郎のものとして扱われています。
これは、東雲商会発展の立役者として目立つことで、鬼殺隊としての活動に支障をきたすのを麟矢が嫌った為…というのが、表向きの理由ですが、実際にはそれに加えー

「十六、七の若造が目立つとね。色々といらぬやっかみを受けるんです。それが正直面倒臭いんですよ」

と言う理由があったりします。
なお、2つ目の理由を知る者は、関係者のなかでも極一部。片手の指で数えられる程しかいません。
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