鬼殺隊監査役・東雲麟矢   作:SS_TAKERU

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お待たせいたしました。

お楽しみいただければ幸いです。

2023/05/12 19:05追記

サブタイトルの修正を忘れていたため、修正実施。


弐拾捌之巻 -鼓と埋葬と猪突猛進-

麟矢視点

 

 重傷の男性を背負い、山奥の屋敷を後にした俺は、男性の容態に影響しない範囲ながら、可能な限り高速で山道を駆け下り―

 

「すみません! 急患です!」

 

 1時間と経たないうちに、麓の町の診療所へ駆け込む事が出来た。受付をしていたご婦人を少々驚かせてしまったのは失敗だったが、人命尊重を最優先にした結果なので、許してもらいたい。

 

 

「かなりの深手でしたが、彼は運が良かった。貴方の応急処置が的確だったので、命を繋ぎ留めましたよ」

「それは何よりです」

 

 数十分後、一通りの治療を終えた医師から話を聞き、胸を撫で下ろす。原作では地面に叩きつけられ、亡くなってしまった男性を助ける事が出来たのは、幸運の一言だ。

 だが、ここでゆっくりしている訳にもいかない。俺は当面の費用として3円*1を支払い、診療所を後にする。

 

「さて、最高速で向かうとしますか」

 

 行きは怪我人を担いでいたが、今は違う。町を一歩出たところで俺は一気に加速。猛烈な勢いで山道を駆け上がっていった。

 

 

善逸視点

 

 俺と炭治郎が屋敷の中に入ってすぐ、あの兄妹が追いかけてきた。背負い箱の中から聞こえる音を怖がったのが理由だったけど…それ、禰豆子ちゃんだから! 全然怖くないから!

 

 -だっ…!! だからって置いてこられたら切ないぞ-

 -あれは俺の命より大切なものなのに…-

 

 予想外の事態に焦った声をあげる炭治郎に同調して、俺も声を上げようとしたけど―

 

「なっ!?」

 

 あの鼓の音が聞こえた瞬間、俺と正一君より数歩だけ前にいた炭治郎とてる子ちゃんが姿()()()()()

 

「て、てる子!?」

「待って! 正一君!」

 

 慌てて部屋の中へ入ろうとする正一君を何とか押し留め―

 

「正一君、出来るだけ俺のそばから離れないでくれよ。離れられたら、守り抜ける自信が無いから…」

「は、はい!」

 

 彼を背後に庇いながら、慎重に部屋の中へと移動していく。

 

「ッ!」

 

 そこへまた聞こえる鼓の音。次の瞬間、俺と正一君は()()()()()()()()()()

 

「正一君! 廊下の方へ走って!」

「は、はい!」

 

 俺の声が響いた瞬間、弾かれる様に廊下に出る正一君。ほぼ同時に鼓の音が聞こえるけど…今度は何も起きない。

 

「そういう事か」

 

 あの男性と炭治郎達、そして今回…大体わかった。これは何らかの血鬼術。多分部屋の中にいる者を自由に移動させる類の術なんだろう。

 鼓の音は術が発動する合図で…恐らく、廊下や土間は術が適用されない。だとすれば―

 

「ぐひ、ぐひ…子供だ。舌触りがよさそうだ」

 

 俺の思考を打ち切ったのは、床下から這い出てきた鬼の声。見たところ、血鬼術を使う鬼とは違う鬼みたいだ。

 

「ぐひ、ぐひ…二人もいる。食い溜めさせろぉ!」

 

 酷く下品な笑みを浮かべながら、その長い舌を鞭のように伸ばしてくる鬼。

 

「雷の呼吸…弐ノ型。稲魂!」

 

 俺は日輪刀を抜くと同時に五連斬を放ち、鬼の舌を五つの肉塊へと変えていく。

 

「ぎゃぁぁぁっ! お、俺の舌、舌がぁ!」

 

 舌を斬り落とされ、のた打ち回る鬼。この隙を逃す手はない。俺は日輪刀を鞘へと納め―

 

「シィィィィ…」

「雷の呼吸…壱ノ型。霹靂一閃!」

 

 踏み込みと共に、鬼へと肉薄。その横をすり抜ける瞬間に抜刀して、鬼の頸を刎ねた!

 

「ぐへっ…」

 

 そんな声を漏らしながら、鬼の頸は畳の上に落ち、瞬く間に灰に変わっていく。

 

「ふぅ…なんとか上手く出来た」

 

 無事に正一君を守れた。その事に安堵しながら、ゆっくりと振り返ると―

 

「な、なんですか善逸さん。自信無いみたいな事を言いながら凄く強いじゃないですか。さっきのあれは謙遜だったんですか? 過度な謙遜は嫌味にしかならないって言われなかったんですか?」

「ぐっは…」

 

 凄い切れ味の言葉をぶつけられてしまった。

 

「だけど、守ってくれてありがとうございます」

 

 でも、無事に守れたから…良かった。 

 

 

炭治郎視点

 

「俺はこの部屋を出る」

「「えっ」」

 

 ある部屋で偶然合流する事が出来た正一とてる子の兄である清。そしててる子にそう告げて、俺はゆっくりと立ち上がる。当然、2人は不安げな顔を見せるけど―

 

「落ち着いて、大丈夫だ。鬼を倒しに行ってくるから」

「いいか、てる子。兄ちゃんは今、本当に疲れているから、てる子が助けてやるんだぞ」

 

 ゆっくりと諭すように、2人へ言葉をかけていく。

 

「俺が部屋を出たら、すぐ鼓を打って移動しろ。今まで清がしていたように、誰かが戸を開けようとしたり、物音がしたら、間髪入れずに鼓を打って逃げるんだ」

「俺は必ず迎えに来る。2人の匂いを辿って。戸を開ける時は名前を呼ぶから」

「…もう少しだけ頑張るんだ。出来るな?」

 

 俺の言葉に無言で、だけど力強く頷いてくれる清とてる子。

 

「えらい! 強いな」

「じゃあ、行ってくる」

 

 2人にそう告げた直後、あの鼓の鬼の匂いが近づいてきた。俺は一足飛びで部屋の外へと飛び出し―

 

「叩け!」

 

 力の限り叫んだ。直後、鼓の音が響き、清とてる子はどこか別の場所へと移動する。よし、これで2人は暫くの間安全を確保出来た。

 警戒すべきは鼓の鬼。そして猪の皮を被って、日輪刀を持った乱暴で変な男だ。

 

 -この人をお医者さんに預けたら、すぐに戻ります。2人とも決して無理はせず。攫われた人を助ける事、そして生き残る事を最優先に立ち回ってください-

 

 麟矢さんが言い残した言葉を心の中で繰り返しながら、俺は走る。麟矢さんのくれた痛み止めのおかげで、体は随分楽になっている。このまま油断せずにいくぞ!

 

 

麟矢視点

 

 さて、最高速で山道を駆け上った俺は、行きの約3割の時間で屋敷まで辿り着いた訳だが…

 

「猪突猛進! 猪突猛進!!」

 

 様子を窺っていたのではないかと思うほど見事なタイミングで、猪の皮を被った半裸の男性…そう、彼が扉を蹴破って外へと飛び出てきた。

 

「アハハハハハ!!」

「鬼の気配がするぜ!!」

 

 飛び出して早々、鼻息も荒くそう吠えた彼は、茂みのそばに放置された背負い箱を一目見るなり―

 

「見つけたぞォォォ」

 

 一直線に向かっていく。本来対応する善逸君はまだ屋敷の中みたいだし、ここは俺が対応するとしよう。

 俺は接近する彼と、背負い箱の間に移動すると右手を突き出して、彼の動きを制し―

 

「この箱に手出しをすることは、やめてもらえませんか?」

 

 丁寧な口調で背負い箱への手出しをしないよう、彼に問いかける。

 

「オイオイオイ、何言ってんだ!?」

「その中には鬼がいるぞォ。わからねぇのか?」

「わかっていますよ。でも、この中にいる鬼は少々訳アリなんです」

「………」

 

 俺の訳アリという言葉に、彼は黙り込む。うん、地頭は良い彼の事だ。上手く理解して―

 

「あぁぁぁっ! 何が訳ありだ!」

「戦う気が無いんなら、そこを退きやがれ! この愚図が!!」

 

 前言撤回。この頃の彼は悪く言ってしまえば、野蛮な戦闘狂だったな…。

 

「仕方ない。それなら私が相手をしましょう」

「アハハハッ! やる気になったかよ!」

「えぇ、ただし素手での勝負です。鬼殺隊の隊士同士で(いたずら)に刀を抜くのは御法度ですし、人殺しにはなりたくないですからね」

「あぁ、わかった! じゃあ素手でやり合おう!」

 

 両手に持っていた二振りの日輪刀を地面に刺し、彼はグルグルと腕を回しながら庭の方へと歩いていく。

 さて、上手くやれると良いんだが…

 

 

炭治郎視点

 

「君の血鬼術は凄かった!」

 

 鼓の鬼から伸びる隙の糸が見えた瞬間、半ば無意識に口から出た賞賛の言葉。

 

「………」

 

 その瞬間、鼓の鬼が纏っていた殺気が僅かに緩み、俺は無事に鬼の頸を刎ねる事が出来た。

 

「ふぅぅぅ…」

 

 着地と同時に、ゆっくりと息を吐いていく。痛み止めのおかげでだいぶ楽になっているけど、激しく動いたせいで、呼吸する度に鈍い痛みが全身を走る。もう少し戦いが長引いていたら、良くない結果になっていたかもしれない。

 

「小僧…答えろ…」

 

 畳に転がる鬼の頭が声を発したのは、その時だ。

 

「小生の…血鬼術は………凄いか……」

「……凄かった。でも、人を殺したことは許さない」

「………そうか」

 

 俺の返答に、一言そう呟く鼓の鬼。その目はとても穏やかで、まるで憑き物が落ちたみたいだ。

 俺は少しずつ灰に変わっていく鼓の鬼。その強い腐臭の奥から漂う別の匂いを感じながら、愈史郎さんから受け取っていた短刀を鼓の鬼の骸へと投げつけた。

 短刀は鬼の骸へ刺さると同時に血を吸い上げ、柄の部分に血を溜めていく。

 刺すだけで自動的に血を吸い上げる短刀。こんな物を作るなんて、愈史郎さんは本当に器用だ。

 

「ニャー」

 

 そこへやってきた1匹の猫。突然現れた事に驚いたけど、身に着けているお札には見覚えがある。

 

「君が、珠世さんの所へ届けてくれるんだな? ありがとう、気をつけて」

 

 猫に短刀を託すと、猫はすぐさま走り去っていった。そして…

 

「成仏してください…」

 

 目に薄らと涙を浮かべながら完全に灰と化した鼓の鬼へ祈りを捧げ、俺は清とてる子の待つ部屋へと急いだ。

 

 

 それから数分と経たない内に、俺は清達と合流。怪我をしている清を背負って屋敷の外へと出た訳だけど…

 

「えぇ…」

 

 そこには大の字になって伸びている猪の皮を被った男と、その横で黙々と穴を掘る麟矢さんの姿があった。いったい何が起きたんだ?

 

「な、何が起きてるんだ?」

 

 背後から善逸の戸惑ったような声が聞こえるけど…ごめん、俺も説明出来ないよ。

 

 

麟矢視点

 

「ッ!?」

「うわっ! 起きたァ!!」

 

 善逸君の驚いた声で、俺は彼が目を覚ました事を察し、ゆっくりと振り返る。

 そこに立っていたのは、筋骨隆々な体躯と整った顔立ちを併せ持った美少年。うん、流石は公式イケメンだ。

 

「何してんだァ! お前ら!」

「埋葬ですよ。目を覚ましたのなら君も手伝ってください。屋敷の中には、まだ被害者の遺体が沢山あるんですから」

「はぁ? 生き物の死骸なんて埋めて何の意味がある! やらねぇぜ、手伝わねぇぜ! そんな事より、もう一回俺と戦え!」

 

 惜しむらくは思考が獣そのものという事。正直言って、今の…真の強さを知らないままの彼では、直に実力が頭打ちになる。だからこそ―

 

「やれやれ、弱い犬ほどよく吠える。昔の人は良い事を言ったものだ」

「……は?」

 

 少々荒療治になるが、原作よりも早く彼には成長してもらう。

 

「君が気絶してから目を覚ますまでにかかった時間は、四半刻。これが実戦の場だったら、君は軽く20回は殺されていたでしょう。そんな事も理解出来ずにもう一度戦え? 冗談も休み休み言ってください」

「………」

「ハッキリ言います。手伝うつもりが無いのなら、どこか他所に行ってください。あなたの我儘に付き合う暇はありませんので」

「………」

 

 敢えて冷たく言い放ち、俺は穴掘りを再開するが、彼は黙り込み俯いたまま。これは、もう一押しが必要かな?

 

「えっと、麟矢さん。あいつ、きっと傷が痛むから出来ないんだと思います」

「………は?」

 

 ここで爆弾を投下してくれたのは炭治郎君だ。

 

「事情はよく知らないけど、麟矢さんとやり合って怪我したんだろう? 痛みを我慢出来る度合いは人それぞれだ」

「亡くなってる人を屋敷の外まで運んで、土を掘って埋葬するのは本当に大変だ。麟矢さんと俺達で頑張るから大丈夫だよ。この子達も手伝ってくれるし」

「君は何も心配せずに休んでいると良いよ」

「はぁぁぁぁぁん!?」

「舐めるんじゃねぇぞ。100人でも200人でも埋めてやるよ!」

「俺が誰よりも埋めてやるわ!」

 

 炭治郎君の…少々ずれてはいるが、優しい言葉に反応し、彼は埋葬に参加。おかげで、随分と作業が捗った。

 

 

 全ての遺体を埋葬し、その冥福を祈った後、俺達は下山し―

 

「本当にありがとうございました。家までは自分達で帰れます」

 

 途中で清君達3人とも別れる事になった。稀血の持ち主である清君には、鬼除けとして藤の花の匂い袋を渡したし、彼らが住む町を担当する班には情報を共有するから、今後は大丈夫だろう。

 

「麟矢さん、これからどこへ向かうんですか?」

「私の家に帰るには、少々遅くなりましたからね。近くにある藤の花の家紋の家に向かいます」

「藤の花の家紋の家…ですか」

 

 途中、藤の花の家紋の家について詳しく知らない炭治郎君や善逸君に説明したり―

 

「そうか、伊之助も山育ちなんだな」

「けっ、お前と一緒にすんなよ。俺には親も兄弟もいねぇぜ」

「他の生き物との力比べだけが、俺の唯一の楽しみだ!!」

「「そうか…」」

 

 彼こと嘴平伊之助君の身の上を聞いたりしながら、俺達は山道を進んでいく。

 

「今回は俺の負けだ! だが、俺は死んじゃいねぇ! だから、必ずまたお前に挑戦して、今度は勝ってやる!」

「やれるものなら。ちなみに、私の名前は東雲麟矢です」

「ひななめ欣也! 絶対お前に勝ってやる!」

「おい、伊之助! 誰の事を言っているんだ!」

「こいつだ!」

「違う! この人は東雲麟矢さんだ!」

 

 炭治郎君と伊之助君のやり取りをBGMにしながら、歩く事暫し。俺達は目的地である藤の花の家紋の家に到着した。さぁ、ゆっくりと休ませてもらおう。

*1
現代の貨幣価値に換算して、約6万円




最後までお読みいただきありがとうございました。


※大正コソコソ噂話※

今回、清君に渡された藤の花の匂い袋は、原作のように鎹鴉の吐き出した物ではなく、麟矢が持参していたものです。
このような事態に備え、麟矢は常時数個の匂い袋を携帯しています。
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