鬼殺隊監査役・東雲麟矢   作:SS_TAKERU

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お待たせいたしました。

お楽しみいただければ幸いです。


参拾之巻 -分析と理解、そして鍛練-

麟矢視点

 

 さて、昼食を終えた俺達は1時間半の休息を挟んだ後、再び鍛練場へと集合。

 

「では、伊之助君。先の組手で君が負けた理由を話してみてください」

 

 早速、炭治郎君達(4人)が強くなる為の特訓を開始した。まずは座学から始めていこう。

 

「そんなもん…俺が弱かったからだろう。さっきそう言ってたじゃねえか…」

 

 俺の問いかけに対し、むすっとした顔でそう答える伊之助君。うん、予想通りの答えだ。だけど…

 

「その答えじゃ20点。文句無しの赤点です」

「なっ…」

 

 それじゃあ、大切なことを幾つも見落としている。

 

「弱かったから、即ち実力差があったから負けたというのは、ある意味当然のことです。それだけを負けた理由にするのは、何も解っていないのと同じですよ」

「………」

「負けたことを振り返る。それはとても辛く、勇気のいることです。でも伊之助君。それを行えば、君は必ず強くなれる」

「……強く、なれるのか?」

「はい。敗北は時として、勝利よりも多くのことを学ばせてくれる。強くなれることは私が保証しますよ」

 

 私の言葉に小さく頷き、考え始める伊之助君。だが現時点ではお世辞にも知性派とは言えない伊之助君。すぐに行き詰まり、唸り始めてしまう。

 

「炭治郎君、善逸君、玄弥君。伊之助君に知恵を貸してあげてください。他人の戦いを分析することも、立派な鍛練になりますよ」

 

 そこで俺は炭治郎君達に助太刀を許した。炭治郎君達も気を揉んでいたのだろう。すぐさま伊之助君へ駆け寄り、4人で議論を開始する。

 

「15分後に答えを確認します。しっかり話し合ってくださいね」

 

 懐中時計片手にそう告げると、俺は4人から距離を取り、議論の様子を観察するのだった。

 

 

善逸視点

 

 麟矢さんから許可を貰い、俺達は伊之助に知恵を貸すために駆け寄った訳だけど…

 

「やっぱり、後峠さんが特別打たれ強かったとか?」

「いや、いくら打たれ強くても、少しの痛みも感じないなんてことは…あり得ないだろう」

「ジジイがやせ我慢していたんだ! そうに決まってる!」

「…伊之助。自分を後峠さんの立場に置き換えてみろ。あれだけの攻撃を受け続けて、お前…やせ我慢出来るか?」

「………出来ねぇ」

 

 4人がかりでも答えは出ないまま、時間だけが過ぎていく。残り時間はあと5分も無いだろう。どうすれば…

 

「待てよ…もしかしたら」

 

 その時玄弥が何かに気づき、ブツブツと呟きながら考えを纏め始めた。そして―

 

「後峠さん、伊之助が()()()()()()()()()()()()のかもしれない」

 

 纏まった自分の考えを口にしていく。

 

「どういう意味だ? 銀太!」

「玄弥だ! あぁ、それは置いておいて…組み手が始まる前、後峠さんが言ったこと…覚えてるか?」

「あぁ? たしか…そうだ! 3分間攻撃も反撃もしないから、好きに攻撃しろって!」

「不思議だったんだよ。はるかに年下の俺達にすら、敬語を欠かさない。そんな礼儀正しい後峠さんが、なんで相手(伊之助)を侮るようなことを言ったのか…」

「たしかに…」

「言われてみれば…」

「あれって、()()()()()()()()()()()()()だったんじゃないか? 後峠さん、前に言ってたんだよ」

 

 -玄弥様。戦いにおいて最も大切なことをお教えしましょう。それは『心は熱く、頭は冷静に』-

 -これは、戦う意思は熱く燃え滾らせながらも、行動はよく考えて冷静に行わなければならない。という意味です-

 -戦場において、冷静さを欠いた行動は即、死に繋がります。努々(ゆめゆめ)お忘れなきように-

 

「俺も同じようなことを鱗滝さんから言われた。怒りを露にすることは体に無駄な力を込めさせ、全力を発揮出来なくする。だから、怒りは心に秘めて戦えって」

「俺も同じことを爺ちゃんから言われた。そうか。後峠さんは伊之助をわざと怒らせて、全力を出せないように仕組んだのか…」

「それに怒りで冷静さを欠いた伊之助は、後先考えずに攻撃を仕掛けたから、いつも以上に消耗した…いや、これだけじゃ、多分正解には足りない」

「ああ、伊之助が全力を出せなかったとしても、あれだけの攻撃を受けて何ともなかった理由、それから後峠さんの攻撃を防げなかった理由には…」

 

 玄弥の考えで正解を導くことが出来たと思ったのも束の間、まだ足りないものがあることに、俺達は頭を抱える。

 

「時間です」

 

 そして告げられる時間切れ。こうなったら…

 

 

麟矢視点

 

「さて、答えを聞かせてもらいましょう」

 

 懐中時計を懐へ戻した俺は、伊之助君達4人の顔を見回しながら、返答を促す。この15分でどこまで分析することが出来たかな?

 

「ジジ…そとかげ、さん、が…俺をわざと怒らせた。怒った俺は本当の力を発揮出来なかった」

「まず1つ正解ですね。それから?」

「怒りで冷静さを欠いた伊之助が、後先考えずに攻撃を仕掛けて、激しく消耗した…」

「2つ目の正解。答えはあと2つありますよ」

「すみません、麟矢さん。今の時間ではこの2つを見つけ出すのが精一杯でした。後峠さんが伊之助の攻撃を受けても何ともなかった理由と、伊之助が後峠さんの攻撃を防げなかった理由がどうしてもわからなくて…」

「多分、何かしらの技、技術を使っているんだとは思うんですけど…」

 

 そう言って項垂れる炭治郎君と善逸君。玄弥君も唇を噛み締めているし、伊之助君も強がってはいるが、悔しさを隠せていない。

 

「うん、2つ正解を導き出せたので、正答率3/5で60点。今の段階では合格としておきましょう。残り2つに関しては、今から解説していきますね」

 

 俺は4人にそう告げると、後峠さんと向き合い、互いに構えを取る。そして―

 

「まず、伊之助君の攻撃が効かなかった理由ですが…原理自体は単純です」

「組み手の序盤に伊之助君が放った金的は!」

 

 伊之助君の動きを可能な限り模倣した状態で、後峠さんに金的を放ち、後峠さんには伊之助君の時と同じように対応してもらう。

 唯一の違いは、炭治郎君達が理解しやすいよう、動きを敢えて大袈裟にしてもらっている点だ。

 

「え…上に、跳んだ?」

 

 善逸君のどこか呆然とした声が響き、残る炭治郎君達も驚きを隠せずにいる。俺は不敵な笑みを浮かべながら4人の顔を見回し―

 

「そう、後峠さんは伊之助君の金的に合わせて跳び上がることで、衝撃の殆どを受け流しました。恐らくですが、軽く押された程度にしか感じていないでしょう」

 

 後峠さんの取った行動について説明。

 

「次に、伊之助君の連打が効かなかった理由ですが」

 

 そのまま次の説明へと移っていく。先程同様、俺は伊之助君の動きを可能な限り模倣し、後峠さんには大袈裟な動きでそれに対応してもらう。

 

「後峠さん、前後に細かく動いている!?」

「ご名答。攻撃の瞬間、僅かですが前後に動くことで、伊之助君の距離感を狂わせていたんです。これによって伊之助君自身は全力で攻撃しているつもりでも、その威力は大幅に減衰していた訳ですね」

「信じられねぇ…」

「言っておきますが、鬼殺隊の最高戦力である柱は、全員この程度のこと朝飯前です。あと(きのえ)(きのと)の階級に就いている隊士にも、実行出来る者が多くいます」

「「「「………」」」」

 

 最高戦力である柱やそれに準ずる隊士達の力量を知り、言葉を失う4人。うん、君達が越えるべき壁は果てしなく高く、そして険しいのだよ。

 

「最後に、伊之助君の防御が無効化された件についてですが―」

「「「「ッ!?」」」」

 

 その瞬間、4人が弾かれたように俺や後峠さんから距離を取った。うん、良い反応だ。

 

()()()()()()です。後峠さんは攻撃の前に殺気を威嚇として放ち、それに反応した伊之助君が防御を固めるように誘導した」

「そして、防御を固めた側と真逆の方向から攻撃を放てば、それは防御不可能の攻撃に極めて近いものとなる。という訳です」

「以上が、解説となりますが…何か質問は?」 

 

 質問が無いか確認するが、4人は何も言わず…ただ無言で俺と後峠さんを見つめてきた。その目に宿っているのは、そう…例えるならばやる気の炎だ。

 

「よろしい! では早速鍛練を始めていきましょう!」

 

 

炭治郎視点

 

「これから君達にやってもらう事は3つ。1つ、己の使う()()()()()()()こと、2つ、()()()()()()()()()()()こと、3つ……まぁ、これは先に挙げた2つが達成出来たら、挑戦してもらいましょう」

 

 俺、善逸、伊之助の前に立ち、これから俺達が行う鍛錬について説明してくれる麟矢さん。ちなみに、玄弥は俺達とは鍛練の内容が異なるとかで、後峠さんが指導を行うそうだ。

 

「型の洗練と、全集中の呼吸を強化する…一体、どうやれば?」

「内容自体はそう難しいものではありません。まず型の洗練は、各々が使う呼吸の型。それを()()()()()()()()()()()()()()()、尚且つそれを()()()()()()()()貰います」

「えぇっ!? ご、500回ですか!?」

「はい、本当は千回と言いたいところですが、流石に厳しいと思ったので、五百回にオマケしました。あ、千回の方が良かったですか?」

「い、いえ! 500回、頑張ります!」

 

 笑顔の麟矢さんに対して、直立不動で叫ぶ善逸。それにしても、型の全てを正しい形で行った上で、五百回繰り返すか…これはかなり大変だぞ。

 

「次に全集中の呼吸の強化ですが、こちらも内容は至極単純です。これまでのように型を使う時だけ全集中の呼吸を使うのではなく、可能な限り全集中の呼吸を使い続けてもらいます。睡眠時を含む…文字通りの四六時中、全集中の呼吸を維持出来るようになれば、理想的ですね」

「ぜ、全集中の呼吸を四六時中…そんなこと、出来るんですか?」

「出来ます。と言うか出来なければ、上の領域に足を踏み入れることも出来ません」

 

 思わず口から出た疑問の声に即答し、話し続ける麟矢さん。

 

「四六時中維持出来るようになった全集中の呼吸を、全集中・常中と言います。柱は勿論、ある程度の実力を持った隊士なら、出来て当然の技術ですが、会得には相応の努力が必要です」

「相応の努力が必要ですが、会得出来れば並の全集中の呼吸を凌駕する効果を得られるでしょう」

「鬼殺隊隊士として、至高の領域に辿り着きたいなら、会得は必須。ですが、君達なら必ず会得出来ると信じていますよ」

 

 麟矢さんの言葉に俺達は大きく頷き、鍛練が開始された。

 

 

「ヒュゥゥゥゥ…」

 

 俺は水の呼吸の呼吸音を響かせながら、木刀を構え―

 

「水の呼吸。壱ノ型、水面斬り」

 

 そして壱ノ型・水面斬りの動作を行うと、そのまま間を置かずに次の型へと繋げていく。

 

「弐ノ型。水車(みずぐるま)

「参ノ型。流流舞(りゅうりゅうま)い」

「肆ノ型。()(しお)

「伍ノ型。干天(かんてん)慈雨(じう)

「陸ノ型。ねじれ(うず)

「漆ノ型。雫波紋突(しずくはもんづ)き」

「捌ノ型。滝壷(たきつぼ)

「玖ノ型。水流飛沫(すいりゅうしぶき)(らん)

「拾ノ型。生生流転(せいせいるてん)」 

 

 壱ノ型から拾ノ型まで繰り出し終えたところで、木刀を構え直し、再び壱ノ型から繰り返していく。

 同時に全集中の呼吸も限界寸前まで行っては、一度深呼吸を行い、再度全集中の呼吸を行っていくけれど…これは想像以上に負担が大きい!

 喉や肺、耳に激痛が走るし、少しでも気を抜いたら倒れそうだ!

 

「炭治郎君! 陸ノ型に乱れがありますよ! 壱ノ型からやり直し!」

「は、はい!」

「急いでやる必要はありません。時間がかかっても正しい形を体に刻み付けることを最優先に行うように!」

「はい!」

 

 麟矢さんの叱咤に答え、俺は壱ノ型からやり直していく。500回、何としてでもやり遂げてみせる!




最後までお読みいただきありがとうございました。


※大正コソコソ噂話※

炭治郎君達同様、伊之助君も宿舎が完成するまでの間、麟矢の自宅で寝泊まりすることになりましたが、洋風な部屋の作りがどうしても受け入れられず、ひと悶着起こしています。
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