少し短いですが、お楽しみいただければ幸いです。
麟矢視点
特訓開始から2週間。炭治郎君達の実力は、こちらの想定以上の伸びを見せていた。
型の洗練を例に挙げるならば、初日は全ての型を500回やり終えるのに、6時間から7時間程度かかっていたが、3日目あたりから徐々に時間が短くなり、現在では4時間半から5時間で行えるようになっている。
また、全集中・常中の方も、善逸君と伊之助君は原作通り9日で、炭治郎君は原作よりもはるかに早い13日で体得することが出来た。
ちなみに指導を受けて尚、炭治郎君の体得が善逸君達より4日遅かったのは、才能云々よりも
折を見て、ヒノカミ神楽について話をしないといけないな。
「拾ノ型。
などと考えている間に、型の数が一番多い炭治郎君*1が500回をやり終えた。うん、昼食と1時間半の休息を挟んで4時間27分。また少し時間を短縮出来たね。
「それじゃあ、30分休憩を取ってから最後に…試合をしましょうか」
「よぉし! 今日こそ俺が勝つからな! ひななめ欣也!」
「伊之助! あの人はひななめ欣也じゃなくて東雲麟矢さんだ! 人の名前をいつまでも間違えるのは、良くないことだぞ!」
「……ゴメンネ」
俺の名前を間違える伊之助君と、それを叱る炭治郎君。炭治郎君と伊之助君が15歳で、善逸君と玄弥君が16歳だった筈だけど、こうして見ると炭治郎君が長男で、玄弥君と善逸君は次男三男、伊之助君は末っ子という感じだな。
善逸視点
「弐ノ型、
「雷ノ型。弐ノ段、異端・稲魂!」
俺が稲魂を放つと同時に放たれた麟矢さん流の稲魂。互いの連撃は正面からぶつかり合うけど―
「くぅっ!」
競り負けたのは俺の方。同じ稲魂…いや、麟矢さんのそれは本人が自嘲していたとおり模倣なのに、どうして?
「たしかに、技の完成度自体は善逸君の方が上と言えます。善逸君の稲魂を100とするなら、私のそれは、模倣であることを含めても80に届くかどうか…と言ったところでしょう」
俺の心の声を察したかのように、静かに話し始める麟矢さん。俺は油断無く木刀を構えながら、その声に耳を傾けていく。
「しかし、戦いの勝敗を左右するのは、技の冴えだけではありません。心技体という言葉がある通り、心の在り様や体の強さも大きく影響します」
「技の冴えで負けていても、心の在り様や体の強さで勝っていれば、総合力で上回ることが出来る。私が先程競り勝てたのは、そういうことです」
麟矢さんの言葉に、俺は内心同意する。全集中・常中を体得して1週間も経っていない俺達と、体得して優に1年は経っている麟矢さんじゃ、体の強さに圧倒的な差があるのは至極当たり前。
心の在り様だって、どうしても自分に自信を持ちきれない俺じゃ、麟矢さんには遠く及ばないだろう。だけど…
「麟矢さん。俺は次の一撃に全てを込めます。最後の…勝負!」
麟矢さんへそう宣言した俺は、ゆっくりと前傾…居合の構えを取る。何をやるのか、麟矢さんはお見通しだろう。だから、勝負に乗る義理は無いんだけど…
「受けて立ちましょう」
麟矢さんはそう言って両手の木小太刀を軽く振るい、構えを取ってくれた。俺はそんな麟矢さんに感謝の言葉を呟き、思いっきり床を蹴る!
「壱ノ型・霹靂一閃・六連!」
最終選別前に手合わせした時の
技で劣っていても総合力で勝ることが出来るのなら、
「炎ノ型。肆ノ段、異端・盛炎のうねり!」
6回の踏み込みが1回に重なって聞こえる程の超速度連撃と、自らを中心に全方位を薙ぎ払う斬撃。2つの技はぶつかり合い―
「ぐはぁっ!」
競り負けて床を転がったのは俺の方。やっぱり届かないか…
「まさか霹靂一閃を6連発してくるとは…想定外ですよ。善逸君」
感嘆の声を上げる麟矢さんへ顔を向けると、その両手に握られた木小太刀は2本とも刀身部分が砕け散っていた。
「私の技が少しでも甘かったら、私自身がこうなっていたでしょう。勝ったとはいえ紙一重です」
紙一重か…だとしたら、随分と厚い紙一重だよな…
玄弥視点
「………」
麟矢さんと試合を行う伊之助、善逸、そして炭治郎の姿を見ながら、俺は焦りを感じずにはいられなかった。
全集中の呼吸への適性が低く、剣術の才能にも恵まれていない俺は、麟矢さんから筋交として歩んでいく道を提案され、元軍人である後峠さんから、銃の扱いを始めとする
「今の俺に…あんな戦いが出来るのか?」
強くなれたという自信はある。最終選別の頃と比べれば、少なくとも倍は強くなれている筈だ。
だけど、伊之助みたいに麟矢さんへ十回も試合を挑むほどの体力はあるか? 善逸みたいな凄い技を振るえるのか? 鬼にされた妹を人間へ戻そうなんて無茶なことを実現させようとする炭治郎みたいな心の強さはあるのか?
力も、技も、心も、俺が一番劣っている…このままじゃ、差をつけられる一方―
「玄弥様」
悪い方、悪い方へと考えが進んでいく中、声をかけてきたのは後峠さんだ。
「不躾ながら申し上げます。玄弥様が炭治郎様達と戦った場合…勝敗は玄弥様のお考え通りになるでしょう」
「しかしながら、日輪刀を用いて戦う炭治郎様達と、銃を用いて戦う玄弥様では、求められる
「例えるならば…そう、海を泳ぐ鮫と空を飛ぶ鷲のどちらが強いかを決めるようなもの。最初から無理があるのです」
「鮫と鷲…」
後峠さんの例え話を聞いた途端、何かが腑に落ちた。そうか、そうだよな。求められている役割が違うんだから比べること自体馬鹿らしいのかもしれないな。
「大切なことは適材適所。努々お忘れなきよう」
そう言うと一礼して俺から離れていく後峠さん。その背中に俺も一礼し―
「麟矢さん! もう一本お願いします!」
「えぇ、喜んで」
さっきまでとは違う気持ちで、麟矢さんと炭治郎の試合を見つめるのだった。
麟矢視点
特訓開始から3週間が経過し、恐らく数日以内に那田蜘蛛山へと向かう緊急指令が下されるだろうと思われる頃。
早朝から産屋敷邸を訪問した俺は、耀哉様に許可を得た上で邸宅の一角に作られた保管庫へと足を踏み入れていた。
「報告書は年毎に纏め、保管しておりますので、年代さえ分かっていれば、見つけ出すのは容易だと思われます」
「ありがとうございます。あまね様」
「麟矢様、お1人で大丈夫ですか? 人手が必要でしたら、輝利哉やひなき達を手伝いに呼びますが…」
「いえ、お気持ちだけありがたく頂いておきます。調べたい事はそれほど多くありませんし…詳しくはお話出来ませんが、あまり大っぴらにしたくないことでもあるので…」
「そうですか…では、終わられましたら声をお掛け下さい」
「恐縮です」
保管庫の鍵を開けてくれたあまね様とそんな会話を交わした後、俺は第1の目標として当たりをつけておいた年代…蟲柱・胡蝶しのぶ様の亡くなった姉上である花柱・胡蝶カナエ様が現役だった頃に提出された報告書の束に片っ端から目を通していく。
「………やっぱりな」
報告書の束を調べ始めて10分足らず。
直接的な表現ではなく、比喩や婉曲的な表現が使用されているが、そうであると解っていれば100%そう読み取れる形で、
「この情報は、炭治郎君と禰豆子ちゃんに対する柱合裁判では有利に働くが…使い方によっては、
妙薬にも猛毒にもなるであろう情報に対し、俺はそんなことを呟きながら、更に過去へと遡って報告書に目を通していく。
「-様」
ざっと40年。明治時代初期の頃まで遡ったが…該当したのは9件で5年に1件程度…確率に直すと約1/1400といったところか。
「-矢様」
偶然かもしれないが、遭遇している隊士は、水の呼吸もしくは花の呼吸を使う隊士が大半で約8割5分。残り1割5分は、他の呼吸を使う隊士達で均等にバラけている感じだな。
「麟矢様!」
「は、はいっ!?」
思考に没頭していたところに投げかけられた声に、思わず変な声が出てしまう。慌てて保管庫の扉を開けると―
「あぁ、良かった…麟矢様、ご無事だったのですね」
そこにいたのは一瞬だけ驚いた表情を見せ、すぐに安堵した様子のひなきさん。
「あぁ…すみません、ひなきさん。調べ物に夢中になっていて…何か、ご用ですか?」
「もうお昼、です。ご飯の用意が出来ておりますが」
「え…昼?」
ひなきさんの言葉に慌てて懐中時計を確認してみれば、時刻は正午を少し過ぎた辺り。いつの間にか4時間近く経っていたのか…。
「何度お呼びしてもお答えにならないので、中で何かあったのでは…と、つい大きな声を出してしまいました。申し訳ありません」
「いえ、こちらこそ余計な心配をさせてしまいましたね。申し訳ありませんでした」
お互いに謝罪をした俺とひなきさんは揃って歩き出した訳だが…
「麟矢様、何か…あったのですか?」
「どうして、そんなことを?」
「いえ、部屋から出てこられた時の麟矢様…
「……失礼しました。少々厄介なことを抱えてしまったので、ですがもう大丈夫です」
ひなきさんからの指摘で、動揺や苛立ちが顔に出ていたことを気付かされる。いかんな、ポーカーフェイスを貫かなければ。
食卓へ向かいながら、俺は秘かに反省するのだった。
耀哉視点
昼食の後、私は麟矢君と2人きりで話をした訳だが…
「たしかに、この情報は毒にも薬にもなるね」
麟矢君から齎された情報は、文字通り
「現時点では約40年分の調査しか終わっておりません。可能であれば、更に遡って調査を行ないたいのですが…」
「……毒であれ、薬であれ、この情報は今後の鬼殺隊にとって必要な物となるだろう。私が全責任を負うから、存分に調べてくれたまえ」
「心得ました」
頭を下げる麟矢君を見つめながら、私は頭の中で考えを纏めていく。
勘が正しければ、恐らくこの4、5日の間に竈門炭治郎、禰豆子の兄妹は柱合裁判にかけられることになる。
その結果がどうなるか…麟矢君の調査が鍵となるだろうね。期待しているよ、麟矢君。
最後までお読みいただきありがとうございました。
※大正コソコソ噂話※
ルーツは1000年以上前に遡る鬼殺隊ですが、歴史上何度も壊滅の危機に陥った為、失伝してしまった知識や技術も多く存在しています。
麟矢が調べていた報告書も例外ではなく、現在の産屋敷邸には約300年分…江戸時代初期頃の分からしか情報が蓄積されていないそうです。