お楽しみいただければ幸いです。
麟矢視点
さて、耀哉様から許可を頂いた俺は、さっそく保管庫での調査を再開しようと立ち上がった訳だが…
「あぁ、麟矢君。その調査だが…
次の瞬間、耀哉様から爆弾が投げ込まれた。
「…耀哉様。この件を輝利哉君達に話すのは、些か時期尚早かと愚考しますが…」
「麟矢君が輝利哉やひなきのことを案じてくれているのは、よく解っているよ。だけどね、
「………」
「たしかに、時期尚早という君の意見も至極もっともだ。私自身、そういう思いが無い訳ではない」
「私だけが認識し、ギリギリまで胸の内に秘めておこうかとも思った。でもね…私の跡を継ぐ時になってこの事を知るよりも、私が支えてやれる今の内に知っておいた方が良いようにも思うんだよ。まぁ、勘なんだけどね」
時期尚早では? という俺の意見に対し、自身の考えを口にされる耀哉様。そこまで考えられている以上、俺はこれ以上口出し出来そうにない。
「わかりました。私も可能な限り2人を支えさせていただきます」
「よろしく頼むよ、麟矢君」
耀哉様へ挨拶を済ませた俺は、保管庫へと移動。
「麟矢様。調べもの、お手伝いさせていただきます」
「何なりとお申し付けください」
輝利哉君、ひなきさんと合流すると―
「では、ひなきさんは棚から取り出した報告書の束を10ね…いえ、5年毎に仕分けしてください。とりあえずは、30年分ほど」
「かしこまりました」
「輝利哉君は私と一緒に報告書を確認していきましょう。書かれている表現に比喩…例えや、婉曲…回りくどいものがあったら、そこにこの紙片を挟んでいってください」
「わかりました」
「今は13時半。まずは…15時まで作業を行っていきましょう」
二人に指示を下して、調査を再開した。
「麟矢様、回りくどい表現とはこういったものでしょうか?」
「ちょっと拝見…そうですね。こういう類のものです」
「麟矢様、仕分けの後は何をすればよろしいですか?」
「そうですね…調査が終わった分の報告書を風に通してもらえますか? 良い機会なので虫干しもしてしまいましょう」
「かしこまりました」
そんなやり取りを交わしながら、調べていくこと1時間。
「やはり、5年に1回程度は起きているか」
2人に手伝ってもらったおかげで、1人で調べていた時よりも倍は早く20年分の報告書を調べることが出来た。
出来たのだが…調べれば調べるほど原作を読んでいた時には
こいつは文字通り、
「麟矢様…また、凄く怖い顔をされています。今調べられていることは、そんなに…恐ろしいことなのですか?」
「父上から、今麟矢様がお調べになっていることは、将来鬼殺隊を率いる立場となる私達も知らなければならないこと、背負わなければならないことと言われております。どうか、私達にも話していただけませんか?」
そんな俺の様子に何かを察したのか、そう問うてくるひなきさんと輝利哉君。仕方がない。俺も覚悟を決めるとしよう。
「わかりました。お2人にお話します。ただし、今から話すことは文字通り、鬼殺隊の闇。相応の覚悟をしてください」
「は、はい」
「わかりました」
俺の言葉にそう答えた2人へ頷き、俺は今調べていることについて話していく。その内容は、当然のことながら2人にとって大きな衝撃だったようで…
「そう、だったんですか…」
「そんな事が…」
2人とも青い顔でそう呟くのがやっとだった。
「お2人とも…気が進まないのなら、ここから先は私1人で作業しますが…」
「…いえ、大丈夫です。産屋敷の家に産まれた以上、逃げるわけには参りません。正面から受け止めます」
「私も…輝利哉と同じ意見です」
それでも、2人は真実の重さに必死で耐えようと言葉を紡ぎ…俺は、そんな2人を静かに受け入れて作業を再開するのだった。
その後も2人に手伝ってもらいながら調査を続けた俺は、結局夕飯をご馳走になる羽目になり…帰宅出来たのは21時を少し過ぎた頃だった。
「さて、風呂に入って少し横になるか…」
そんなことを呟きながら歩いていると、楽しげな話し声が聞こえてきた。時間帯から考えて、住み込みの女中さん達が寝る前のお喋りを楽しんでいるのだと思ったが…
「この声は、炭治郎君と善逸君…それに玄弥君か?」
話し声に混じる炭治郎君達の声が気になり、顔を出してみることにした。
炭治郎視点
「お仕事お疲れ様です」
そんな声と共に麟矢さんが顔を見せると、それまでお喋りを楽しんでいた女中さん達は一斉に立ち上がり―
「お帰りなさいませ、麟矢様!」
「お出迎えもせず、申し訳ありません!」
そんなことを言いながら、慌てて頭を下げていく。
「いえいえ、就業時間は終了して今は自由時間。何も問題はありませんよ」
そんな女中の皆さんに麟矢さんは優しくそう告げると、そのまま僕達へと視線を送り―
「それはそれとして、炭治郎君達は…皆さんといつの間に仲良く?」
そう問いかけてきた。
「あぁ、それはですね」
代表して俺が説明しようと口を開いたその時―
「その件につきましては、私から説明させていただきます」
女中頭*1の絹江さんが、そう言いながら禰豆子を連れて部屋へと入ってきた。
麟矢視点
「その件につきましては、私から説明させていただきます」
その声と共に、女中頭の絹江さんが
原作では、炭治郎君に好意的だった胡蝶様、神崎さん、蝶屋敷の3人娘…きよちゃん、なほちゃん、すみちゃん達ですら、禰豆子ちゃんとは一定の距離を取っていた。唯一とも言える例外は、甘露寺様くらいだ。
それなのに、絹江さんは何でもないことのように禰豆子ちゃんと共に行動し、禰豆子ちゃんも絹江さんにとても懐いているようだ。
これは理由次第では、炭治郎君達に取って有利な情報になるかもしれない。俺はそんなことを考えながら、絹江さんの言葉に耳を傾け―
「あれは1週間ほど前…私が不寝番を務めていた時の夜でした」
頭の中で情報を手早く纏めていく。
1つ…1週間前の深夜。不寝番をしていた絹江さんは見回りの途中、廊下の窓から月を眺めていた禰豆子ちゃんと偶然出会った。炭治郎君の補足によると、たまたま目覚めて箱の中から出た時に、炭治郎君が熟睡していたので、退屈しのぎに部屋の外へ出たのだろうとのことだ。
2つ…禰豆子ちゃんが1人でいることを心配した絹江さんが声をかけ、禰豆子ちゃんを見回りに同行させた。
3つ…見回り終了後、絹江さんは禰豆子ちゃんを自分達の控室へと招き入れ、禰豆子ちゃんの不在に気付いた炭治郎君が探し始めるまで、一緒に過ごした。その間、禰豆子ちゃんは
4つ…これまでお世話になってばかりであったことを気にしていた炭治郎君。禰豆子ちゃんがお世話になったことへのお礼という名目で、鍛練の後に力仕事などを手伝うようになり、結果として女中さん達と親しくなった。
大体こんなところか。しかし、顔合わせと一応の事情説明はしていたとはいえ、そんなことになっていたとは…夜は自分の部屋で書類仕事に没頭していたから全く気付かなかったよ。
「しかし、絹江さん。不安は無かったんですか? 人を襲わないとはいえ、今の禰豆子ちゃんは鬼、ですよ?」
「全く不安には感じておりませんでした。あの時、月を見つめていた禰豆子さんは不安げな幼子そのもの。多少見た目が異なるかもしれませんが、大した問題ではありません」
やや意地の悪い俺の問いかけに、キッパリとそう答え、大切なのは内面ですと付け加える絹江さん。そういえば、絹江さんの弟さんは…
だがその点を加味しても、これは喜ぶべきことだ。禰豆子ちゃんは人を襲わないどころか、こうやって心を通わせることも出来る訳だからな。
ひなき視点
「…これで、保管されていた報告書全ての調査と情報の纏めが終了しました。輝利哉君、ひなきさん、手伝っていただき、ありがとうございました」
お手伝いを始めて5日。調べ物は無事に終了し、麟矢様は私と輝利哉に笑顔でお礼を言ってくださいました。
いつもなら喜びで胸がいっぱいになるのですが…今回は喜んでばかりもいられません。
麟矢様から教えられた鬼殺隊の闇…父上は仰っていました。
-本来なら、鬼という怪物を滅ぼすのは人間でなければならない-
-でもね、ひなき。怒りや恨みに飲み込まれず、己を律して戦い続ける人間ばかりではない-
-多くの
-麟矢君がこのことを明らかにすれば、きっと大きな混乱が起きるだろう。でも、鬼殺隊が本当の意味で人を守る組織になる為には…その混乱は必要な痛みなのだと、私は思うよ-
鬼殺隊が変わる為に必要な痛み。だけど、それを齎した麟矢様はどのように思われるのでしょう?
もしも、この事が切っ掛けとなり…麟矢様が他の隊士の皆様から恨まれるようなことになったら?
「ひなきさん? 顔色が優れないようですが、大丈夫ですか?」
そんな声が聞こえた瞬間、麟矢様は額と額がくっつきそうなほど、ご自身のお顔を私へ近づけてきて―
「は、はひっ! だ、大丈夫れす!」
慌てた私は変な声をあげてしまいました。あぁ、なんてはしたない姿を! 穴があったら入りたいとは、まさにこのことです!
「もしも体調が優れないようでしたら、遠慮せずに言ってくださいね」
「はい、大丈夫です。少し考え事をしていたので…」
心配してくださる麟矢様へそう答え、私は心に浮かぶ不安を無理矢理奥へと押し込めていきます。そう、こんなことは考えても意味がありません。
「麟矢様」
その声と共にやって来た母上が、麟矢様へ紙を渡したのはそれからすぐのことでした。
「…了解しました」
紙に書かれた内容を読んだ直後、麟矢様は真剣な表情へと変わると、母上に幾つかの事柄を確認され―
「モーリアン!」
指笛を鳴らし、ご自身の鎹鴉を呼び出されます。
「手紙を書いている時間が惜しいので、口頭で。特別遊撃班『離』の面々の許へ向かい、以下の内容を伝えてください」
「1、状況から考えて、那田蜘蛛山にはかなり強力な鬼が…最悪複数体潜んでいる」
「2、私も可能な限り急いで向かいますが、最速でも数時間の遅れとなる」
「3、那田蜘蛛山での行動は、基本個々の判断に任せます。ですが、消息を絶った隊士の捜索と、生き残ることを最優先にすることだけは忘れないように。以上3点を伝えてください」
「カァァァ、ワカリマシタ。必ズオ伝エシマス。カァァァ」
そう言って飛び去って行く鎹鴉。それを見送った麟矢様は―
「それでは、私も準備を整えて、出発いたします」
私達へ一礼し、保管庫を後にされました。麟矢様…御無事と御武運をお祈りいたします。
玄弥視点
俺達それぞれに宛がわれた鎹鴉…善逸は鎹雀だったな。とにかく鎹鴉からの指令を受け取った俺達は、那田蜘蛛山へ向かう為、急いで準備を整えていく。
「玄弥様」
後峠さんから声をかけられたのはその時だ。
「小銃の改造は完了しております。これで存分に戦われてください」
「ありがとうございます。後峠さん」
後峠さんへ礼を言いながら、差し出された小銃を受け取る。これが実質的な初陣…俺を『離』へ呼んでくれた麟矢さんや俺に稽古をつけてくれた後峠さんの為にも、やってやるさ!
「玄弥様。『心は熱く、頭は冷静に』。努々お忘れなきように」
「はい!」
準備を終えた俺達は後峠さんや絹江さん、女中さん達に見送られ、那田蜘蛛山へと出発した。
最後までお読みいただきありがとうございました。
次回より、那田蜘蛛山での戦いが始まります。
※大正コソコソ噂話※
東雲家の女中頭である絹江さん。本名井戸内絹江さんは、執事である後峠さんとほぼ同等のキャリアを誇るベテラン。
使用人としての地位は後峠さんに次ぐ第2位で、後峠さんが不在の際には代理として使用人の監督も務めます。
また、彼女には年の離れた弟がおり、訳あって郊外の療養所で長期療養中ですが…詳しいことはわかっていません。