鬼殺隊監査役・東雲麟矢   作:SS_TAKERU

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お待たせいたしました。

お楽しみいただければ幸いです。


2023/07/05

後書きの大正コソコソ噂話を改訂


参拾肆之巻 -慈悲の一閃-

炭治郎視点

 

「僕達家族の静かな暮らしを邪魔するな」

 

 周囲の空気が一変し、その場にいた誰もが言葉を失う中、姿を現した子どもの鬼。

 まるで宙に浮いているようだけど…違う! 空中に糸を張り巡らせて、それを足場にしているのか! それにしても、()()って………

 異常な雰囲気を漂わせる子どもの鬼。その口から出た言葉に、俺は引っかかるものを感じたけど、容赦なく襲い掛かってくる隊士の死体への対応に追われ、考えを纏めることが出来ない!

 そんな俺達を、鬼はまるで虫でも見るような目で見つめ…再び口を開いた。

 

「お前らなんてすぐに、()()()が殺すから」

 

 母さんだって!? 俺は思わず鬼へ問いかけようとしたけれど―

 

「オラァ!」

 

 俺が口を開くよりも早く、伊之助が鬼へ跳びかかった!

 だけど、伊之助渾身の跳躍も、空中に立っている鬼には届かず、伊之助は空しく落ちていく…。

 

「くっそォ! どこ行きやがるテメェ! 勝負しろ! 勝負!!」

 

 まるで俺達を無視するように、どこかへ去っていく鬼へ落下しながら罵声を浴びせる伊之助。

 

「何のために出てきてんだうっ!」

 

 罵声に夢中になるあまり、背中から地面に落ちたけど…すぐ起き上がったし、大丈夫なんだろう。

 

「伊之助! あの子は恐らく、操り糸の鬼じゃないんだ! だからまず先に…」

「あーあーあー!! わかったつうの! 鬼の居場所を探れってことだろ! うるせぇデコ太郎が!」

 

 そんな悪態を吐きながらも、伊之助は持っていた2本の日輪刀を地面へ刺し―

 

(けだもの)の呼吸・漆ノ型。空間識覚(くうかんしきかく)!!」

 

 独自の型を発動して、周囲をくまなく探索。

 

「見つけたァ! そこか!」

 

 すぐに何かを発見して、一目散に走り始めた。

 

「伊之助! 1人で突っ走っちゃ駄目だ!」

「善逸! 玄弥! 村田さんとここを頼む!」

 

 俺は善逸と玄弥にここのことを頼み、伊之助を追いかける為に走り出した。

 

 

善逸視点

 

「ここは俺に任せて、君達も行ってくれ!」

 

 この辺りにいる動く死体全てを再び無力化したところで、年長の隊士…村田さんの声が響く。

 

「情けないところを見せてしまったが、俺も鬼殺隊の隊士! あとは1人で何とかする!」

「糸を斬れば良いことが分かったし、ここで操られている者達は動きも単純だから、冷静さを失わなければ十分に対処出来る! 蜘蛛にだって気を付ける!」

「推測だけど、鬼の近くにはもっと強力に操られている者がいる筈。先行した2人を手伝ってやってくれ!」

 

 再び立ち上がり、動き始めた動く死体を操る糸を斬りながら、尚も叫ぶ村田さん。俺はこの場に残るべきか、それとも進むべきか、ホンの一瞬だけ考え―

 

「わかりました! どうかご無事で!」

「玄弥、行くぞ!」

「あぁ!」

 

 玄弥と共に炭治郎達を追いかける為走り出した。炭治郎、伊之助、無事でいてくれよ!

 

 

炭治郎視点

 

 伊之助に追いつき、並走すること数分。俺達は隊士の死体を操っている鬼が潜んでいる場所。そのすぐ近くまで来ることが出来たけど…

 

「駄目…こっちに来ないで…階級が上の人を連れて来て!」

 

 まるで門番のように立ち塞がったのは、ハッキリと視認出来る程太い糸で操られている隊士達。

 

「そうじゃないと、皆殺してしまう! お願い…お願い!」

 

 涙を流しながら俺達に逃げるよう声を張り上げる総髪(そうがみ)*1の女性隊士。

 だが、その意志とは裏腹に、蜘蛛の糸で操られる女性隊士の体は、俺達に日輪刀を振り上げ、襲い掛かってくる!

 

「逃げてェ!」

 

 声と共に放たれた一撃を咄嗟に飛び退くことで回避する。速い!

 

「操られているから、動きが全然違うのよ! 私達…()()()()()()()()()()!」

 

 まともに当たればどころか、掠めただけでも致命傷になり兼ねないほど鋭い攻撃を放ち続ける女性隊士。   

 だけどその攻撃には、人間の関節可動域を明らかに無視したものが混ざっていた。やがて、限界を超えた体は悲鳴を上げ―

 

「アアアァッ……」

 

 嫌な音と共に骨が折れ始めた。だけど、糸で無理矢理動かされているから、本人の意思では止められない。なんて酷いことを!

 

「うぅっ!」

 

 右足の骨が折れると同時に繰り出された突きを、紙一重で回避したところで、周囲の隊士も動き始めた。だけど、さっきと違う点が1つ…この辺りにいる隊士は、皆まだ生きている!

 

「こ…殺して、くれ……」

「手足も…骨、骨が…内臓に刺さって…るんだ……動かされると…激痛で……耐えられない……」

「どの道…もう…死ぬ……助けてくれ……止めを…刺してくれ!」

 

 虫の息の状態で無理やり動かされ、泣きながら介錯を求める男性隊士達。どうすれば良い…どうすれば良いんだ!?

 

 

鬼視点

 

 周囲に張り巡らせた蜘蛛の糸で作った足場に立ちながら、僕は僅かに雲に隠れた月を見つめ…両手で蜘蛛の糸を玩ぶ。

 

「誰にも邪魔はさせない…」

「僕達は、()()()()で幸せになるんだ。僕達の絆は、誰にも切れない」

 

 静かにそう呟いた後、僕は密かに母さんのもとへと移動。

 

「ウフフフ」

「私に近づけば近づく程、糸は太く強くなる。お人形も強くなるのよ」

「母さん」

 

 死体や死にかけの人間を人形にして操っている母さんへ、背後から声をかけた。

 

「る、累…」

「勝てるよね?」

「………」

「ちょっと時間がかかりすぎじゃない?」

「早くしないと…父さんに言いつけるからね」

「だ、大丈夫よ! 母さんはやれるわ! 必ず貴方を守るから! 父さんはやめて! 父さんは…」

「だったら早くして」

 

 震えながら僕の問いかけに答えた母さんへそう言い残し、僕は蜘蛛の糸の足場を使ってその場から離れていく。

 

「ハァ…ハァ…ハァ……」

「うううう! 死ね! 死ね! さっさと死ね! 出ないと、私が酷い目にあう…!」

 

 途中風に乗って母さんの声が聞こえてきた。まったく…最初から真剣にやればいいんだよ……。

 

 

 伊之助視点

 

「よし! わかったァ!」

 

 虫の息で殺してくれと頼んできた奴らの願いを叶えてやろうと、両手に持った日輪刀を構えた途端―

 

「駄目だ! 伊之助!」

 

 権八郎が声を張り上げた。あぁぁぁっ! またかよ!

 

「本人が殺せって言ったんだぞ! それにほっといてもすぐに死んじまう! だったら、少しでも早く楽にしてやれば良いじゃねぇか!?」

「それとも、殺す度胸がねぇのかよ! だったら―」

「違う! そうじゃない! 助けられないなら、少しでも早く楽にしてやりたい。俺だってそう思ってる! 覚悟もしている! だけど、今介錯したって、彼らの死体が利用されるだけだ!」

「死んだ後まで、体を操られて…彼らの誇りまで弄ばせる訳にはいかない!」

「ッ!?」 

 

 炭八郎の叫びに、俺は言葉を失っちまう。誇り云々はよくわからねぇけど、死体を操られたら何の意味もねぇ…くそっ、どうすりゃいいんだ!

 

「こいつら速ぇから、もたもたしてたらこっちがやられるぞ!」

「何とか方法を考える! だから少しだけ持ち堪えるんだ!」

 

 攻撃を避け続けながらそう叫ぶ権八郎。やがて、相手に背を向けて…全速力で走りだしたぁ!?

 

「てめっ…なーにをグルグルと逃げ回ってんだァ! ふざけん―」

 

 ふざけんじゃねぇ! そう叫ぼうとした瞬間、炭五郎は方向転換。日輪刀の一撃をギリギリで搔い潜りながら相手にぶつかっていき、そのまま近くの樹へと投げ飛ばした!

 

「よし! うまく絡まってくれた!」

 

 権八郎の声が響く。そうか、あいつらを操っている蜘蛛の糸を樹の枝に絡ませて、動けなくしやがったのか…

 

「なんじゃああそれぇぇ! 俺もやりてぇぇ!!」

 

 俺は興奮を抑えきれないまま、炭五郎と同じように動いていく。

 

「ウハハハハハハハ!」

 

 相手に背中を見せて走り回った後、一気に方向転換!

 

「どらァ!!」

 

 ぶつかりながら一気に投げ飛ばす! これで一丁上がりだぜ!

 

「見たかよ! お前にできることは俺にもできるんだぜ!」

「すまない! ちょっと見てなかった!」

「なァにィー!!」

「状況が状況だから!」

 

 炭八郎の奴、見てなかったのかよ! 仕方ねぇ! もう1回やってやるぜ!

 

 

炭治郎視点

 

 何とか考えついた方法で、隊士の皆さんを傷つけることなくその動きを封じていき―

 

「よし、あと1人! 俺がもう1回やるからちゃんと見とけ!」

 

 とうとうあと1人まで持ち込むことが出来た。

 

「わかった、それでいい。とにかく乱―」

 

 乱暴にするな。伊之助にそう伝えようとした瞬間、俺の鼻が何かを嗅ぎ取った。怒り、焦り、恐怖と…殺意!

 

「ッ!」

 

 俺は咄嗟に、携行している手斧を手に取り―

 

「フッ!」

 

 一番近く…最初に動きを封じた女性隊士へと手斧を投げつける。頼む、間に合ってくれ!

 

「も、もう必要ないわ! 脆い人間の人形は! 役立たず! 役立たずっ……!」

 

 次の瞬間、まるで泣きだしそうな声が聞こえたかと思うと…隊士達の首が、嫌な音と共に折られていく。

 俺の投げた手斧で、首に巻き付いていた糸を切ることが出来た女性隊士だけは何とか助けられたけど…

 

「畜生! ほとんど殺られたじゃねーか…よ…」

 

 伊之助が怒りの声を上げる中、俺は殺された隊士達を地面へと下ろし、せめてもの弔いとして、その瞼を下ろしていく。

 

「これ、痛み止めです。もう少しで救援が到着する筈ですから、何とか頑張ってください」

「えぇ…あ、ありがとう……」

 

 そして唯一生き残った女性隊士に痛み止めを渡すと、俺は静かに立ち上がり―

 

「行こう」

「……そうだな」

 

 伊之助と共に、奥へと進んでいく。

 

 

「こっちだ! かなり近づいているぜぇ!」

 

 伊之助の声を聞きながら一町程進んだところで風向きが変わり、鼻が利くようになってきた。臭いは…あと2つ。そのうち1つは…近い!

 臭いのする方向に視線を走らせると、木立の間に…いた!

 

「伊之助!」

「俺の方が先に気づいてた!」

 

 無言のまま動こうとしない鬼へ、俺達は近づいていく。けど…

 

「ッ!?」

 

 その体躯全てが確認出来るほど近づいた時、俺達は驚きを隠せなかった。この鬼には頸が…無い!

 急所が無ければ倒しようが…いや、そんな事はない筈だ。必ず何処かに―

 

「よぉしっ! コイツは俺の獲物だ!」

 

 って、伊之助!? 

 

「頸が無ぇ鬼なんて、初めて見たぜ! だから俺が倒してやる!」

「何を言ってるんだ! 敵を甘く見ちゃいけない。ここは二人で協力して―」

「うるせぇ! これ以上俺をホワホワさすんじゃねぇ! もう一体は譲ってやるから、こいつは俺に任せやがれ!」

「………」

 

 一見乱暴な伊之助の言葉。だけど、匂いでわかる。伊之助は、『ここは自分に任せて、奥にいるもう一体の鬼を倒せ』。そう言いたいんだ!

 

「わかった。ここは任せたぞ、伊之助!」

「へっ! モタモタしてたら、そっちも俺が倒しちまうからな!」

 

 短く言葉を交わし、俺は更に奥へと進んでいく。死体を操る鬼を一刻も早く倒さないと! 

 

 

母鬼視点

 

「来る…来る…」

 

 一番速くて強いあの人形で足止め出来なかった。あと少しで鬼狩りが来る…!

 そもそも、累が脅しに来たのが悪いのよ! それで焦って…焦って……

 

「ッ!」

 

 気づいた時には鬼狩りが、私へと飛び掛かっていた。殺される……! 頸を斬られる…考えて、考えるのよ……!

 ああ…でも……死ねば解放される。楽になれる……鬼狩りの刀が迫る中、そう考えた私は一切の抵抗を                                                                                                                                                                                                         やめたけれど…  

 

「………え?」

 

 何故か鬼狩りは刀を寸止めし…ゆっくりと刀を下ろしていた。ど、どうして?

 

「君から恐怖と苦痛の匂いがした。死を切望するほどの…」

「………」

「さっき、君は一切の抵抗をやめたね。俺に斬られることを望んでいた」

 

 鬼狩りの言葉に、私はただ無言で頷く。そうよ、死ねばこの地獄から解放されるの。

 私は半ば無意識のうちに、鬼になった後のことを泣きながら話始めていた。

 この偽りの家族で、無理矢理母親としての役割を与えられたこと。家族を支配する鬼の期待に応えられなければ、容赦なく暴力を振るわれたこと。以前逃亡を図った鬼が制裁を受けて殺害された為、逃げ出すことも出来なかったこと。

 その全てを鬼狩りは黙って聞いてくれた後…

 

「鬼殺隊の隊士として、人を喰ってしまった君を見逃すことは出来ない。だけど痛みなく君の頸を刎ねることは出来る」

 

 そう言ってくれた。私は黙って己の頸を差し出し―

 

「水の呼吸。伍ノ型、干天の慈雨」

 

 鬼狩りの刀で、頸を刎ねられた。あぁ、まるで優しい雨に打たれているような感覚。

 少しも痛くない。苦しくもない。ただ温かい…こんなにも穏やかな死が来るなんて…これで、解放される…。

 

「………」

 

 鬼狩りの、あの目…優しい目、透き通るような。

 人間だった頃、誰かに…優しい眼差しを向けられていた気がする。あれは…誰だった?

 思い出せない…いつも、私を大切にしてくれた人。あの人は今、どうしているのかしら…

 あぁ、目の前が真っ暗になっていく。だけど、これだけは伝えておかないと…

 

「………十二鬼月がいるわ。気を付けて…!」

*1
ポニーテールの漢字表記




最後までお読みいただきありがとうございました。


※大正コソコソ噂話※

炭治郎君の手斧は、麟矢が刀鍛冶の里へ依頼したもので、作者は麟矢の日輪刀を作成した鉄条甲士郎さん。
日輪刀ではない為、“猩々緋砂鉄“と“猩々緋鉱石”は使用されていませんが、かなり高品質の玉鋼を材料に作られており、その強度と切れ味は相当なものです。
主な使用目的は投擲ですが、通常の斧としても十二分に使用出来ます。
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