参拾伍之巻を投下します。
お楽しみいただければ幸いです。
2023/07/22
後書きの大正コソコソ噂話を追加
炭治郎視点
「………十二鬼月がいるわ。気を付けて…!」
頸を刎ねられ、灰と化していく鬼が最後に残した言葉に、俺は驚きを隠せなかった。
十二鬼月!? この山には十二鬼月がいるのか?
十二鬼月の血は、鬼舞辻の血もかなり濃いはず…血を奪えれば、禰豆子が人間に戻る薬の完成に近づく!
「ッ!」
ここまで考えたところで、俺は肝心なことを思い出した。
「伊之助!」
俺を先に行かせる為、1人で頸の無い鬼に立ち向かった伊之助。大急ぎで戻ってみると、そこには―
「フハハハッ! 勝ったぜ!」
多少の傷を負いながらも、頸の無い鬼を倒して勝ち誇る伊之助の姿があった。良かった、無事だったんだな。
「伊之助、あの鬼を倒したんだな」
「おぉ! 全身細切れにしちまえば、どうってことなかったぜ!」
「傷は大丈夫か?」
「俺に対して、細やかな気遣いすんじゃねえ!」
「いいか! 俺はもっと強くなるんだ! 頭だってお前の頭より硬くなるし、欣也だって超えてやるんだからな! それからな…」
鼻息荒く喋り続ける伊之助を見ながら、俺は内心反省し続けていた。
結局助けられたのは、あの女性隊士1人だけ。もっと上手く立ち回ることが出来たら、もっと多くの隊士を助けられたかもしれない…。やっぱり、俺はまだまだだ。
それにしても、あの
この山は一体どうなっているんだろう? 十二鬼月がいて…鬼の一族が棲む山? でも…鬼は群れないんじゃなかったか…
大丈夫だと嫌がる伊之助を宥めて、血止めの塗り薬を塗りながら、俺は答えの出ない思考を続けていた。
玄弥視点
あの村田って隊士に促されて、俺と善逸は先行した炭治郎と伊之助を追いかけた訳だけど…
「いないな…」
「あぁ…」
既にかなりの距離を進んでいたのか、あるいは俺達の進んでいる方向とは別の方向へ向かったのか、2人はなかなか見つからない。
「善逸、何か聞こえるか?」
「…駄目だ。風の音と無数の蜘蛛が這い回る音が邪魔をして、他の音がよく聞き取れない」
こういう時頼りになる善逸の耳も、この状況じゃ役に立たないか…それにしても、この蜘蛛が這い回る音。俺の耳でも聞き取れるなんて…一体何百匹集まればこうなるんだ?
そんなことを考えながら更に進んでいくと―
「この臭い…酷いな」
「鼻が利く炭治郎なら、もっと辛いだろうな…」
さっきから微かに感じていた刺激臭が、一気に強くなった。喉や目が痛くなるほどの臭い。とてもじゃないが、鼻が利く炭治郎が長時間留まれる環境じゃない。俺は善逸の肩を叩き―
「一旦、この場から―」
離れよう。そう告げようとしたが、その言葉を最後まで紡ぐことは出来なかった。
「………」
「………」
「………」
だって、俺達の目の前にある茂みから、
「なん、だよ…あれ…」
「お、れに…聞くな」
驚く俺達を尻目に、カサカサと音を立てながら向こうへと這っていく人面蜘蛛。
「ま、待て!」
我に返った俺達は直ぐ様追跡した訳だけど…それは失敗だったのかもしれない。
「なっ…」
人面蜘蛛を追う内に辿り着いた三十間*1四方程度の開けた場所。その頭上には巨大な蜘蛛の巣が張られており、十数人の人と一軒のあばら家が吊り下げられていた。
そして、吊り下げられた人々は皆、程度の差はあれ…体が蜘蛛へと変わりつつある。
「玄弥!」
「あぁ、わかってる!」
あまりに異様なその光景。善逸の声に答えながら、背中に掛けていた小銃を構えた瞬間…あばら家から巨大人面蜘蛛が姿を現した。
俺達が追いかけていた人面蜘蛛とは、大きさも漂わせている雰囲気も別物。おそらく、蜘蛛の姿をした鬼なんだろう。
「くふっ…また来た。お前達、もう逃げられないぜ。周りを蜘蛛が囲んでいるからな」
「俺の合図一つで、蜘蛛達は一斉にお前達へ襲いかかる。蜘蛛の牙には毒があってな。嚙まれたら最後、四半刻で蜘蛛に変わる。わかるか? 四半刻後には俺の奴隷になって―」
自慢気に喋り続ける蜘蛛の鬼だったが、そのお喋りは乾いた破裂音によって強制的に打ち切られた。
「………」
「麟矢さんが言ってたよ。獲物を前に舌なめずりをするのは、三流の証だってな」
俺はそう呟きながら、硝煙を漂わせる小銃を操作し、空になった薬莢を輩出していく。頭上に張り巡らせた蜘蛛の巣からぶら下がっていれば、俺達の攻撃が届かないと思ったんだろうが…いくら何でも油断しすぎだ。
「………」
額に風穴が開き、後頭部が半分程吹っ飛んだ蜘蛛の鬼は、少しの間力無く揺れていたが、徐々に傷を再生し始めた。放っておけばすぐに動き出すだろう。まぁ、俺達が黙って再生させる訳がない。
「壱ノ型・霹靂一閃!」
樹を蹴ることで斜め上方向へ跳び上がり、蜘蛛の鬼との間合いを詰めた善逸が霹靂一閃を叩き込み、見事に頸を刎ねた。
「……ば、か…な」
僅かにそう言い残し、灰と化す蜘蛛の鬼。周囲の人面蜘蛛も皆ひっくり返って動かなくなってしまった。
「死んだ…のか?」
「いや、微かにだけど鼓動が聞こえる。多分、気絶したような感じだと思う」
善逸の言葉に秘かに胸を撫で下ろしつつ、蜘蛛の巣に吊り下げられた人達を見回す。蜘蛛の鬼を倒したことで何か変化が起きたのか、蜘蛛への変化は止まったように見える。だが、俺達では彼らを人へ戻すことは…
「玄弥」
善逸も同じことを考えているのだろう。 不安気な顔で俺を見ている。
-玄弥君。君に頼みたいことがあります-
麟矢さんに言われた言葉が浮かんできたのはその時だ。
-炭治郎君と善逸君は、他人を思いやることが出来る優しい子です。ですが、思いやりが強いことは時として、やるべきことを見失わせる原因にもなりかねない-
-もしも二人が、その思いやる心故に動けなくなった時は、背中を押してやってください-
麟矢さんはきっと…こんな時のことを想定していたんだな。
「善逸…行こう。ここで俺達が出来ることは、きっと…ない」
「この人達のことは、麟矢さんと合流して考えよう。多分、死んだりすることはないんだろ?」
「…多分、心臓の音はハッキリしているから、すぐにどうこうなることは無い…筈だ」
「だったら炭治郎達と合流して、鬼を倒すことを優先しよう」
「……わかった」
俺の言葉に頷いた善逸と共に、俺は改めて炭治郎達を探して走り出した。きっと、こことは逆方向にいる筈だ。
炭治郎視点
「おおお! ぶった斬ってやるぜ! 鬼コラ!!」
「伊之助!」
さっき俺が頸を刎ねた女の鬼に似た顔立ちの鬼を見た途端、鼻息荒く川を渡り始める伊之助。何か嫌な予感を感じた俺は、咄嗟に止めようとしたけど―
「お父さん!」
女の鬼がそう叫んだ途端、巨漢の鬼が樹の上から跳び下りてきた。でかい! 8…いや9尺*2はある!
「オレの家族に! 近づくな!!」
「ッ!」
叫びと共に放たれた一撃。川底を砕く程のそれを飛び上がって回避した俺は―
「弐ノ型、水車」
間髪入れずに反撃を試みた。回転の勢いを加えて威力を増した一撃が、巨漢の鬼が無造作に突き出した腕とぶつかり合う。
「ッ!?」
まるで鉄の棒を叩いたような感触。俺の振るった刃は、巨漢の鬼の腕を八割がた切り裂いたところで止まっていた。これ以上は…刃が通らない!
「ガァッ!」
そこへ放たれたのは巨漢の鬼の追撃。攻撃を止められた俺は、成す術なく食らう所だったけど…
「うぉりゃぁ!」
間一髪、伊之助が両手に持った二振りの刀を巨漢の鬼へ叩き込み、攻撃を止めてくれた。
「硬えええ!」
だけど、伊之助の攻撃も巨漢の鬼の左腕、その半分程を斬ったところで止まっている。この鬼は今までに戦った鬼とは、格が違う!
-藤襲山に閉じ込められていた鬼や、これまでに討伐した雑魚鬼で、鬼の強さを測っているようでは、いつか本物に遭遇した時…成す術なく殺されますよ-
その瞬間、思い出される麟矢さんの言葉。そうか、これが本物の鬼なのか!
「「ッ!」」
次の瞬間感じた猛烈な寒気。俺達は咄嗟に巨漢の鬼を蹴り、その反動を使って距離を取る。回避を選択したことが正しかったのはすぐに証明された。
「ガァァァッ!」
何故なら距離を取った直後に、鬼が攻撃を繰り出していたから。危なかった…瞬き程の時間でも動くのが遅れていたり、下手に防御の態勢を取っていたら、俺や伊之助は文字通り粉砕されていただろう。
「グォォォッ!」
距離を取った俺に向けて、咆哮をあげながら向かってくる巨漢の鬼。今の俺達じゃ、型を使っても倒しきれない! どうする…どうする!?
「オレの家族にィィィ! 近づくなァアアア!!」
再び繰り出された川底を砕く一撃。咄嗟に飛び退いて回避したのと同時に―
「オラァ!」
伊之助が跳びかかったけど、腕の一振りで吹き飛ばされてしまう。だけど、そのおかげで時間を稼げたし、あいつに一撃を加える方法を思いつけた!
「弐ノ型・改、横水車」
俺は近くに生えていた十分な太さの立ち木を、横水車で斬り倒し―
「ガァアッ!」
伊之助に追撃を仕掛けようとした巨漢の鬼を、倒木の下敷きにした! やった! これなら斬れる!
倒木から抜け出そうと藻掻く巨漢の鬼に俺は駆け寄りながら、俺は今の自分に出来る最強の型を繰り出す!
「拾ノ型!!」
「危ね―」
生生流転の発動と共に聞こえてきた伊之助の叫び声。同時に巨漢の鬼が動き出し、自らを下敷きにしていた倒木を持ち上げ―
「ッ!?」
「ぐぅぅぅぅぅっ!」
咄嗟に背後に飛び退きながら、日輪刀の柄でその攻撃を受け止める。衝撃は大分和らげられたけど…駄目だ!
「健太郎ーっ!」
伊之助の叫びが聞こえる中、俺はまるで羽根突きの羽根のように、遠くへ飛ばされていく。
「伊之助、死ぬな! そいつは十二鬼月だ!!」
「なんとか俺が戻るまで、いや善逸達と合流するまで、死ぬな!!」
まるで矢のような勢いで飛ばされながら、俺は伊之助に向けて声を張り上げる。頼む伊之助、無事でいてくれ!!
伊之助視点
「…くそっ」
健太郎が吹っ飛ばされた後、俺はあの鬼から距離を取った。
こんなところに隠れてるなんて情けねぇが、まともに戦っても勝負にならねぇ…でも、考えねぇと…刀の通らない奴を斬る方法。
どうする…どうする…考えろ、考えろ!
「考え―」
突然感じた悪寒。弾かれるみたいに木の陰から転がり出た途端、鬼の一撃で木が真っ二つにされちまった!
くそっ! アイツが戻るまで何とか………何とか?
「………」
なんじゃああ、その考え方ァ! ふざけんじゃねーぞォ!
「オォオ! クソがァア!」
「豚太郎の菌に汚染されたぜ! 危ねぇ所だったァァ!」
叫びながら俺は刀を鬼に打ち付ける。さっきと同じように刀は鬼の腕半分を斬ったところで止まっちまう。だけどな!
「考える俺なんて、俺じゃねぇぇぇ!!」
さっきと違うのはここからだ! 俺はもう1本の刀で刀を思いっきりぶっ叩く!
「オラァアア!!」
そのまま力を籠めて、鬼の腕を斬り落としてやったぜ!
「しゃァァ! 斬れたァア!!」
「簡単なことなんだよ! 1本で斬れないなら、その刀をブッ叩いて斬ればいいんだよ!」
「………」
「だって俺、刀2本持ってるもん! ウハハハハ! 最強!」
今まで斬れなかった鬼の腕を斬り落とせたことに、俺は笑いが止まらない。このまま鬼の頸を刎ねてやるぜ!
「………」
「は?」
そんな俺を無視して走り去っていく鬼。 思わず見逃しちまったけど…
「何逃げてんだコラァァァッ!」
逃がすわけがねぇだろ! 権八郎が戻ってくる前に、頸を刎ねてやるぜ!
炭治郎視点
巨漢の鬼に吹き飛ばされた俺だけど、いつまでも空を飛んでいられる訳じゃない。少しずつその速度は落ち、立ち木よりも遥かに高かった高度も地面へと近づいていく。
俺はある程度の高さになったところで、日輪刀を構え―
「弐ノ型! 水車!」
水車を発動。体勢を整えて、何とか着地することが出来た。どれほど飛ばされたかはわからないけど、急いで伊之助のところへ戻らないと―
「ギャアア!」
俺の思考を打ち切ったのは、女の悲鳴。慌てて声の方向に視線を走らせると、そこには顔を抑えて蹲る女の鬼と、血の付いた糸を両手で玩ぶ子どもの鬼の姿があった。あいつは…あの時の子供の鬼か!
「何見てるの? 見せ物じゃないんだけど」
「………何してるんだ…! 仲間じゃないのか!」
「仲間? そんな薄っぺらなものと同じにするな。僕たちは家族だ。強い絆で結ばれているんだ」
「それに、これは僕と姉さんの問題だよ」
「………」
「余計な口出しするなら、刻むから」
見た目からは想像出来ないほどの殺気を放ちながら、俺を威圧する子どもの鬼。同時に女の鬼から嗅ぎ取れた匂いで、俺は全てを察することが出来た。そういうことだったのか!
「…家族も仲間も、強い絆で結ばれていれば、どちらも同じように尊い。血の繋がりが無ければ薄っぺらだなんて、そんなことはない!」
「それから、強い絆で結ばれている者は、
「それに、さっき俺が頸を刎ねた女の鬼は、死を切望するほどの恐怖と苦痛の匂いをしていた。恐怖と暴力で、無理矢理偽りの家族を演じさせられていると泣いていた!」
「力ずくで無理矢理結んだものを絆とは言わない! それは紛い物…偽物だ!」
俺の叫びが響いた後、少しの間周りを沈黙が支配した。だけど―
「お、丁度いいくらいの鬼がいるじゃねぇか」
その沈黙は不意に現れた1人の隊士によって破られた。
「こんなガキの鬼なら、俺でも殺れるぜ」
「待つんだ! 目の前にいる鬼は―」
「お前は引っ込んでろ。俺は安全に出世したいんだよ。出世すりゃあ上から支給される金も多くなるからな」
「隊は殆ど全滅状態だが…とりあえず、俺はそこそこの鬼1匹倒して下山するぜ」
俺の制止を無視して、その隊士は日輪刀を手に子どもの鬼へと斬りかかる。
「だめだ! よせ!」
俺は再度静止の声をあげながら、隊士を止めようと動き出す。頼む、間に合ってくれ! 次の瞬間、子供の鬼の右手が無造作に動き、何かが煌めいた。
「ぎゃぁぁぁぁぁっ!!」
右腕全体をバラバラに切り刻まれ、肩口のあたりから血を流しながらのたうち回る隊士。間一髪、俺が体当たりして位置をずらせたから腕一本で済んだけど…そのままだったら、全身が切り刻まれていただろう。
「う、腕! 俺の腕がぁぁぁっ!」
「だ、大丈夫だ! 傷の割に出血は少ない。血止めをすれば十分に助かる!」
腰に付けた小物入れから清潔な晒を取り出し、俺は痛みで喚き散らす隊士の傷口を抑える。なんとか、出血さえ止められれば…
「何て言ったの?」
「ッ!?」
「お前、いま何て言ったの」
そんな俺に怒りの感情をぶつけてくる子どもの鬼。凄い威圧感だ…空気が重く、濃くなった。
「…逃げろ」
「え?」
「早く逃げろ! ここにいたら殺されるぞ!」
「え…あ、ひ、ひぃぃぃっ!!」
俺の叫びで我に返ったのか無事な左手で傷口を抑え、這う這うの体で逃げていく隊士。運良く、子どもの鬼は見逃してくれたけど…俺は見逃してくれないだろう。
伊之助ごめん。頑張ってくれ、もう少し。この鬼を倒したら、すぐ行くから、助けに行くから。
伊之助視点
「くっそォ…あの野郎、どこ行きやがった!」
逃げた鬼を追いかけてきたけど、なかなか見つからねぇ!
「イギイイ! もうウギィイ!」
なかなか見つからないことにイライラが頂点に達したその時、俺は何かを感じ取った。
「そこかァアア!」
声と共に視線を走らせると、鬼の野郎! 木の上にいやがった!
こンのクソバカタレェッ! どこまで登っとんじゃ! まだ俺に頭を使わせようって魂胆だな!
デカい図体してセコイ真似をする鬼に、怒りが増していく中―
「ん?」
俺は鬼が僅かに震えていることに気が付いた。
「フハハ! 俺に恐れをなして震えてやがる!!」
俺よりはるかにデカい鬼が震えている。俺は思わず笑っちまった。でも―
「ッ!?」
鬼が震えていたのは、恐怖していたからじゃなく
そして、俺の目の前に降り立った鬼はさっきより二回りはデカくなってやがる!
いや、デカくなりすぎだろ…やべぇぞ、これは…
最後までお読みいただきありがとうございました。
※大正コソコソ噂話※
玄弥君が使用している小銃『マウザー Gewehr98』。
那田蜘蛛山への任務へ出発する前に、後峠さんの手によって―
・着脱式の光学式照準器(4倍)追加。
・銃身下部に日輪刀を装着する為の部品を追加。
・銃本体の補強。
等々、様々な改良が施されました。
これにより本体重量が1kg程増加していますが、玄弥君は苦も無く使用しているようです。
また、弾丸も通常の物からホローポイント弾へと変更されています。