鬼殺隊監査役・東雲麟矢   作:SS_TAKERU

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お待たせいたしました。

お楽しみいただければ幸いです。




参拾陸之巻 -その鬼、下弦の伍-

伊之助視点

 

「………」

 

 脱皮を終えて、木の上から飛び降りた鬼を見て、俺は言葉を失っていた。

 敵からこれほどの『圧』を今まで感じたことがない。欣也やそとかげのジジイに鍛えられて強くなれたけど、それでも届かねぇ。

 だめだ、勝てねぇ…俺はここで死ぬ。殺される…

 

 -伊之助、死ぬな!-

 

「ッ!?」

 

 -なんとか俺が戻るまで、いや善逸達と合流するまで、死ぬな!!-

 

 諦めかけたその時…思い出したのは、健太郎と―

 

 -どのような時でも誇り高く生きてくださいませ。ご武運を…-

 

 あの屋敷で会ったババアの声。誇り高く…どういう意味なのかまだわからねぇけど…このまま黙って殺されてたまるかよ!

 俺は負けねぇ、絶対負けねぇ! 自分自身にそう言い聞かせ、俺は刀を構え直す。

 

「俺は鬼殺隊の嘴平伊之助だ! かかって来やがれ、ゴミクソが!!」

「グァァァッ!」

 

 威嚇を兼ねてそう叫んだ瞬間、繰り出される鬼の攻撃。なんとかギリギリで避け―

 

「ッ!」

 

 いや、ホンの僅かに掠っちまった! 俺は蹴られた鞠みたいに吹っ飛び、木に叩きつけられる。

 

「グォォォッ!」

 

 そこに放たれる追撃。立ち木を一発で倒すほどの威力で、喰らっていたら危なかったが…

 

「俺はここだ!」

 

 間一髪、俺は上に跳んで攻撃を回避していた。無防備なその頸、刎ねてやるぜ!

 

「参ノ牙、喰い裂き!」

 

 鬼の頸を挟んだ2本の刀を振り抜こうと力を籠めると、刃が頸に食い込み、切り裂いていく。勝利を確信した次の瞬間―

 

「折れっ…」

 

 鬼の頸を3割ほど斬ったところで、俺の刀が中程から折れた。その事に気を取られ、僅かに隙を晒した瞬間、鬼の攻撃が叩き込まれる。

 

「ごふっ…」

 

 完全に無防備な状態で木に叩きつけられ、俺は受け身も取れずに地面に落ちる。何とか立ち上がろうとしたけど…

 

「オレの家族に! 近づくな!!」

 

 それよりも早く、鬼が俺の首を掴んで持ち上げながら、物凄い力で締め上げ始めた。熊の首でも圧し折れそうな力に、俺は全力で抵抗。

 

「俺は死なねええぇぇえ!」

 

 壱ノ牙、穿ち抜きを発動して、折れた刀を鬼の頸に突き刺す! そのまま左右に広げて鬼の頸を刎ねようとするが…畜生、刃が動かねぇ!

 

「ぐふっ…」

 

 駄目だ…息が出来ねぇ……目の前が、暗く…

 意識が遠くなる中、権八郎や紋逸、銀太の顔、欣也やそとかげのジジイの顔が浮かんでは消えていく。そして― 

 

 -ごめんね-

 -ごめんね。伊之助-

 

 見覚えの無い…傷だらけで泣いている女…誰だ…お前…誰、なんだ…

 女が誰なのかわからないまま、意識を手放そうとしたその時―

 

「させるかぁ!」

「肆ノ型、遠雷!」

 

 銀太と紋逸の声が聞こえ、俺を締め上げる鬼の力が突然緩んだ。地面に落ちた俺は、半ば無意識で鬼と距離を取り、何が起きたか確認する。

 そこには額に風穴が開き、後頭部が半分程吹っ飛んだ上に、左腕を斬り落とされた鬼と―

 

「なんとか…間に合った」

「伊之助、大丈夫か!」

 

 紋逸と銀太の姿があった。こいつら…俺を助けに来たのか!?  

 

 

玄弥視点 

 

 間一髪、同時攻撃で伊之助を助け出した俺達は、伊之助を庇う様に立ちながら、鬼を睨みつける。

 

「大きさは…10尺*1は優に超えてるな。11、いや12尺*2か」

「力も速さも大きさに見合うだけある。そう考えた方が良い…だろうな」

 

 善逸とそう言葉を交わし、俺達は再び同時攻撃を仕掛けようと構える。だけど―

 

「待ちやがれ! お前らだけで戦うんじゃねぇ!」

 

 伊之助が鼻息荒く割り込んできた。

 

「おい、伊之助! 無理するな!」

「うるせぇ! 俺に気を使うな! ホワホワさせるんじゃねぇ!」

 

 思わず声をかけた善逸へ嚙みつかんばかりに吠え返し、両手をグルグルと回していく伊之助。いったい何をしたいんだ?

 

「いいか! 奴を倒す方法が分かったから教えてやる! 奴の頸に刺さりっぱなしになってる俺の日輪刀。あれを使うんだ!」

「どういう事だ?」

「紋逸と銀太で、奴の気を逸らせ! その隙に俺が奴の懐に飛び込んで、もう一回喰い裂きを仕掛けてやる!」

「さっきは首を絞められて、全力を出せなかったからな! 今度は全力でやってやるぜ!」

 

 自信満々で作戦? を口にする伊之助。正直、お世辞でも作戦とは言えないけど…

 

「オレの家族にィィィ! 近づくなァアアア!!」

 

 咆哮と共に攻撃を仕掛けてくる巨漢の鬼を前に、じっくり作戦を練っている時間が無いのも事実。

 

「善逸、やるぞ!」

「やるしかないよな!」

 

 鬼の攻撃を回避した俺達は、伊之助の作戦を実行する為に動き出した!

 

 

善逸視点

 

「くらえっ!」

 

 玄弥が鬼の気を引くようにそう叫びながら、構えた小銃を発砲。さっきと同じ様に、頭を狙って放たれた弾丸を、鬼は再生させた左腕で受けようとするけど―

 

「グガァッ!」

 

 弾丸を受けた瞬間、鬼の左腕は大きく後ろへ弾かれ、それと同時に肘の辺りが爆ぜたように吹き飛んだ。

 

「まだだ!」

 

 玄弥の攻撃は続く。素早く小銃から拳銃へと持ち替え、鬼の腹を狙って素早く連射。

 

「グッ! ギッ! ガァッ!」

 

 小銃程ではないにせよ、相応の威力があるのだろう。銃弾を受ける度に、鬼は苦悶の声をあげながら、僅かに後退していく。その隙に俺は技の態勢を整え―

 

「善逸!」

 

 玄弥の攻撃が終わると同時に、飛び出す!

 

「参ノ型、聚蚊成雷!」

 

 鬼の周囲を回りながら繰り出した連続斬撃で鬼の全身を傷つけ、鬼の意識をこちらへ引きつけていく。よし、準備は万端!

 

「今だ! 伊之助!」

「おう!」

 

 俺の声が響いた瞬間、弾かれたように飛び出す伊之助。注意を俺達に向けていた鬼は、伊之助の接近を簡単に許してしまい…

 

「取ったぁぁぁっ!」

 

 頸に刺さったままの日輪刀の柄を握られてしまう。慌てて伊之助を引き剥がそうとするが…もう遅い!

 

「参ノ牙、喰い裂きぃぃぃっ!!」

 

 叫びと共に伊之助の両手が左右に開かれ、同時に鬼の頸が宙を舞った。

 

「………」

 

 頸を刎ねられ、無言で崩れ落ちる鬼。俺達の勝ちだ。

 

「ウハハハハ! 見たかよ! やっぱり俺が最強だ!」

 

 折れた日輪刀を手に高笑いの伊之助。まったく、俺と玄弥が駆け付けなかったら、どうなってたかわからないって言うのに…

 

「伊之助君、笑う前に言うことがあるんじゃないですか?」

「うぉっ!?」

 

 突然聞こえてきたその声に、慌てて振り返る伊之助。俺達も声の方へ視線を送ると…

 

「麟矢さん!」

 

 そこには麟矢さんの姿があった。

 

「今の戦い見せてもらいました。戦況が不利なら割って入るつもりでしたが…3人ともよく頑張りましたね」

「い、いえ! でも、麟矢さんが来てくれて…こんなに嬉しいことは無いです!」

 

 俺の返答に笑顔で頷いていた麟矢さん。だけど―

 

「それはそれとして…伊之助君」

「な、なんだよ」

「勝ったことを喜ぶのは大いに結構。ですが、助けて貰ったことに対して、お礼の一言も無いのはどうかと思いますよ?」

 

 伊之助に対しては真顔に戻り、淡々と窘めていた。

 

「………ゴメンネ。紋逸、銀太、ありがとう」

 

 麟矢さんに窘められ、しゅんとなった伊之助は俺達に頭を下げ、謝罪と感謝を口にする。うん、これで一件落ちゃ…じゃない!

 

「麟矢さん! 炭治郎がまだ!」

 

 慌てて炭治郎のことを伝えようとする俺に、麟矢さんは優しく微笑み―

 

「その件は心配いりませんよ。()()()()()()()が向かっていますから」

 

 そう教えてくれるのだった。

 

  

炭治郎視点

 

「お前は一息では殺さないからね。うんとズタズタにした後で刻んでやる

「でも、()()()()()()を取り消せば、一息で殺してあげるよ」

 

 自身から出した糸を両手で玩びながら、俺にそう告げてくる子どもの鬼。そう、糸だ。

 あの隊士の右腕を隊服ごとバラバラに切り刻んだのも、今俺の体に幾つもの傷を付けているのも、全て鬼の両手、その指先から出ている糸によるもの。その切れ味から見て、その硬度は鋼並と考えたほうが良いだろう。

 俺は、全身の傷から生じる痛みを堪えながら立ち上がり―

 

「取り消さない! 俺の言ったことは間違ってない! おかしいのはお前だ!」

 

 鬼の言葉を再度否定。

 

「間違っているのはお前だ!」

 

 放たれた糸による攻撃を回避しながら、間合いを詰めていく。

 わかる! 刺激臭が薄まってきたから、糸の匂いもわかるぞ!

 糸による攻撃を掻い潜りながら、俺は攻撃の態勢に入る。長期戦はこっちが不利。一気に勝負をかけないと!

 

「壱ノ型、水面斬り!」

 

 間合いに入ると同時に、俺は渾身の力を込めて刀を振るう。俺を侮っているのか、攻撃を防ごうとも避けようともしない鬼の頸を刎ねようと、刀は一直線に向かっていく。だけど―

 

「ッ!?」

 

 たった1本、たった1本張られた糸に触れた途端、俺の日輪刀は嫌な音を立てて…折れてしまった。

 信じられない! この鬼の操る糸は、さっき斬れなかった鬼の体よりも尚硬いのか!?

 すみません、鱗滝さん、鋼鐵塚さん。俺が未熟なせいで、刀が折れてしまった…いや、今はそんな場合じゃない!

 考えろ考えろ! 俺は自分にそう言い聞かせ、この状況を打開する方法を模索する。

 糸が斬れないなら間合いの内側に入れば…と考えたが………駄目だ! 生きているように動く糸の攻撃。致命傷を避けるのが精一杯で、とてもじゃないが完全回避は出来そうにない。

 それに、あの鬼はまだ本気を出していない。俺を()()()()()()()()()()()()()んだ。それなのに、これだけ追い詰められている。悔しいけど、実力差は圧倒的だ。

 圧倒的な実力差に歯噛みした瞬間、糸の動きが変わった。四方を囲まれ、逃げ場がない…避けられないっ!

 

「ッ!」

 

 深手を覚悟したその時、箱から飛び出した禰豆子が俺を庇う様に立ち塞がり―

 

「禰豆子!!」

 

 糸で全身を切り裂かれた。俺は禰豆子を抱き抱え、無我夢中で鬼と距離を取ると、木陰に禰豆子を寝かせると必死で呼びかける。

 

「禰豆子…禰豆子!」

「兄ちゃんを庇って…ごめんな…」

 

 傷が深い…左の手首が千切れそうだ…頼む、早く治れ、治ってくれ!

 

「……その鬼、お前達…兄妹か?」

「だったら何だ!」

 

 鬼からそう問われるが、ゆっくり答える余裕も無い。頼む、禰豆子…しっかりしてくれ!

 

 

累視点

 

「兄妹…兄妹……」

 

 禰豆子という名前らしい鬼に必死で呼びかけている鬼狩り。隙だらけで、今なら目を瞑っていても殺せるが…そんなことはどうでもいい。

 

「妹は鬼になってるな…それでも一緒にいる……」

「る、累…」

「妹は兄を庇った…身を挺して……」

 

 今大事なのは、目の前で繰り広げられている光景。これこそ正に!

 

「本物の『絆』だ! 欲しい…!」

 

 探し求めていた最上の宝。それが遂に見つかった!

 

「ちょっ、ちょっと待って!」

「待ってよ、お願い! 私が姉さんよ。姉さんを見捨てないで!」

 

 こいつは…最高の気分にどうして水を差すんだ!

 

「うるさい! 黙れ!」

 

 怒りの声と共に右手を振るい、周囲の立ち木諸共姉の役割を与えていた役立たずの頭を切り落とす。

 

「結局お前達は、自分の役割をこなせなかった…いつも、どんな時も…」

「ま、待って…ちゃんと私は姉さんだったでしょ? 挽回させてよ……」

 

 怯えた表情でそう懇願する役立たず。まったく…どこまでも僕を苛つかせる…。

 

「だったら、今山の中をチョロチョロしている奴らを殺して来い。そうしたら()()()()()()も許してやる」

「わ、わかった…殺してくるわ」

 

 切り落とされた頭を抱え、慌てて走り去る役立たず。あぁ、やっと静かになった。

 僕は心を落ち着けると、鬼狩りの方へ向き直り…務めて冷静に声を出していく。

 

「坊や、話をしよう」

「僕はね、感動したんだよ。君達の『絆』を見て…」

「体が震えた。この感動を表す言葉は、きっとこの世に無いと思う」

「………」

「でも、君達は僕に殺されるしかない。悲しいよね? そんなことになったら…」

「だけど、回避する方法が一つだけある」

 

 どんな馬鹿でも理解出来るよう、僕は可能な限り丁寧に話を続けていく。そして、ここからが本題だ。

 

「君の妹を僕に頂戴。大人しく渡せば、命だけは助けてあげる」

「……何を言ってるのか、わからない」

 

 …やれやれ、ここまで丁寧に伝えても解らないのかな? 仕方ない…

 

「君の妹には、僕の妹になってもらう。今日この時から」

 

 ここまで伝えれば、いい加減理解出来たよね? 僕はそう確信していたんだけど…

 

「そんなことを承知する筈ないだろう。それに禰豆子は物じゃない! 自分の思いも意思もあるんだ」

「お前の妹になんて、なりはしない!」

 

 やれやれ、ここまで言っても理解出来ないのか?

 

「大丈夫だよ、心配いらない。『絆』を繋ぐから。僕の方が強いんだ」

「恐怖の『絆』だよ。逆らうとどうなるか、ちゃんと教える」

「ふざけるのも大概にしろ!」

「恐怖で雁字搦めに縛りつけることを家族の『絆』とは言わない!」

「その根本的な心得違いを正さなければ、お前の欲しいものは手に入らないぞ!」

 

 こいつは何を言っているんだ? 僕がここまで丁寧にお願いして、命を助けるという譲歩だってしているのに…

 

「鬱陶しい。大声出さないでくれる? 合わないね、君とは」

「禰豆子はお前なんかに渡さない」

 

 やれやれ…交渉決裂か。

 

「いいよ、別に。殺して()るから」

「俺が先にお前の頸を斬る」

 

 頸を斬る? 面白いことを言ってくれるよ…

 

「威勢が良いなぁ…出来るならやってごらん」

 

 そう言って僕は髪を掻き上げ、隠していた左目を露にする。そこに刻まれている文字は…下伍。

 

「十二鬼月である僕に…勝てるならね」

 

 この文字を見せるということの意味…君、楽には死ねないから。覚悟するんだね。

*1
約3.03m

*2
約3.636m




最後までお読みいただきありがとうございました。


※大正コソコソ噂話※

麟矢の援助もあり、一年前から尋常上学校へ通い始めた竹雄君、花子ちゃん、茂君。
編入間もない頃は、その物珍しさもあり級友達から遠巻きにされていましたが、すぐに打ち解けることが出来、多くの友人に恵まれました。
また、竹雄君は今年から高等小学校へと進学。ますます勉学に励んでいます。
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