鬼殺隊監査役・東雲麟矢   作:SS_TAKERU

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お待たせいたしました。

お楽しみいただければ幸いです。


参拾漆之巻 -兄妹の絆-

累視点

 

「十二鬼月である僕に…勝てるならね」

 

 無惨様によって左眼に刻まれた下伍の文字を鬼狩りへ見せつけながら、僕は考える。

 父には父の役割があり、母には母の役割がある。親は子を守り、兄や姉は下の弟妹を守る。何があっても()()()()()

 そう、これこそが正しい家族の形なんだ。それなのに、この鬼狩りは…

 

「僕はね。自分の役割を理解していない奴は、生きてる必要がないと思ってる。お前はどうだ? お前の役割は何だ?」

 

 僕はどんな馬鹿でも理解出来る様、可能な限り解り易く言葉を紡いでいく。

 

「お前は僕に妹を渡して消える役だ。それが出来ないなら、死ぬしかないよ。勝てないからね」

「………」

 

 僕の声に答えることもせず、無言のまま睨んでくる鬼狩り…まったく、これだけ言っても理解出来ないのかい?

 

「………嫌な目つきだね。メラメラと…愚かだな。もしかして…」

「勝つつもりなのかな!!」

 

 僕は腕を振ることで糸を操り、木陰に隠されていた鬼狩りの妹をこちらへと引き寄せ、自らの手中へと収める。

 

「禰豆子!」

「さぁ、もう奪ったよ。自分の役割を自覚した?」

 

 

炭治郎視点

 

「放せ!」

 

 鬼の糸によって禰豆子を奪われてしまった俺は、禰豆子を取り戻す為に最速で鬼へと突進。

 

「逆らわなければ、命は助けてやるって言ってるのに」

 

 当然、ただ真正面から突っ込んだだけじゃ、容易く迎撃されてしまう。でも―

 

「ッ!」

 

 俺の意図を察した禰豆子が、右手を動かして鬼の顔を引っ搔いてくれた! それによって生じた隙を突き、俺は一気に間合いを詰めていく!

 だけど、敵もさる者。禰豆子の攻撃で視界が塞がれているにも拘らず、腕を動かして俺を迎撃してきた。

 咄嗟に後ろへと飛び退き、鬼と距離を取る。あと3歩、いやあと2歩踏み込めていれば…狙い通りにいかなかった事へ秘かに歯噛みするが―

 

「っ!?」

 

 いつの間にか、鬼の手から禰豆子が消えていた。直後、頭上から落ちてくる赤い血。思わず上に視線を送ると…

 

「ねっ…禰豆子!」

 

 禰豆子が鬼の糸で雁字搦めに縛られ、逆さ吊りにされていた。

 

「うるさいよ。このくらいで死にはしないだろ。鬼なんだから」

「でもやっぱり、きちんと教えないとだめだね。暫くは失血させよう」

「それでも従順にならないようなら、日の出までこのままにして…()()()()

 

 鬼の言葉を聞いているうちに、日輪刀を握る力が強くなっていく。落ち着け、感情的になるな。集中しろ。呼吸を整え、最も精度が高い最後の型を繰り出せ…

 集中を高めている最中、禰豆子に変化が起きた。失った体力を回復させる為に、目を閉じて眠りについたのだ。

 

「ん? 気を失った? 眠ったのか?」

 

 そんな禰豆子を興味深そうに見つめる鬼。ここまで隙を見せるなんて…どこまでも俺のことを侮っている。だけど、今はそれがありがたい!

 

「水の呼吸。拾ノ型、生生流転」

 

 再び間合いを詰め、拾ノ型を繰り出す。生生流転。この連撃技は、回転しつつうねる龍のように、一撃目より二撃目、二撃目より三撃目、三撃目より四撃目と回転を増すごとに強い斬撃となっていく!

 

「ッ!?」

 

 防御の為に張った2本の糸を斬った瞬間、ほんの僅かだけど鬼の顔に驚愕の色が浮かぶ。よし、糸を斬れた! このまま距離を詰めていけば勝てる!

 そう確信した俺は、更に回転を加えながら、鬼へと斬りかかる!

 

「ねぇ…」

「糸の強度は、これが限界だと思ってるの?」

「血鬼術・刻糸牢」

 

 その瞬間、俺の周囲に張り巡らされる無数の蜘蛛の巣。

 

「もういいよ、お前は。さよなら」

 

 鬼の冷たい声が響く中、俺は考える。駄目だ、この糸は斬れない。まだ回転が足りない。さっきまでの糸とはまるで違う匂いだ。

 絶対負けるわけにはいかないのに…このままじゃ、死ぬ。負ける! 死…

 間近に迫った死を意識したその瞬間、脳裏に浮かぶのは禰豆子や善逸、伊之助、玄弥、麟矢さん、冨岡さん、鱗滝さん、錆兎、真菰、珠世さん、愈史郎…禰豆子を人間に戻すと決めた時から今日までに出会ったたくさんの人達の顔。

 記憶はどんどん遡って…子どもの頃、まだ幼かった禰豆子と庭で遊んでいた頃の光景が広がっていく。そして…縁側に座って、俺達を優しく見つめているのは…父さん!

 

 -炭治郎、呼吸だ。息を整えて-

 -()()()()()()()()()()()()

 

 父さんの声が聞こえた瞬間、記憶は更に遡る。これは…そうだ。禰豆子もまだ産まれていない頃。母さんに抱かれていた頃の記憶だ。

 

 -炭治郎。ほら、お父さんの神楽よ-

 -うちは火の仕事をするから、怪我や災いが起きないよう、年の初めは『ヒノカミ様』に舞を捧げて、お祈りするのよ- 

 

 母さんの話を聞きながら、神楽を舞う父さんを見つめる俺。体が弱くて、寝たり起きたりを繰り返していた父さんだけど、神楽を舞う時は凄く元気で…不思議に思った俺は、ある日聞いてみることにした。

 

 -父さんは体が弱いのに、どうしてあんな雪の中で長い間舞を舞えるの?-

 -俺は肺が凍りそうだよ-

 

 俺の問いかけに、父さんは優しく微笑んで―

 

 -()()()()()()()()()()。どれだけ動いても疲れない息の仕方-

 -正しい呼吸が出来るようになれば、炭治郎もずっと舞えるよ。寒さなんて平気になる-

 

 そう教えてくれた。

 

 -炭治郎-

 

 そして―

 

 -この神楽と耳飾りだけは必ず…途切れさせず、継承していってくれ。()()なんだ-

 

 まっすぐに俺を見つめながら伝えてくれたその言葉。それを思い出した瞬間、俺の体は自然に動き出す!

 

「ヒノカミ神楽、円舞!」

 

 放たれた一閃は、目の前の蜘蛛の巣を纏めて切り払い、俺と鬼の間を塞ぐ物は一切無くなった。

 間髪入れずに俺は鬼へと刀を振るうが、瞬時に新たな糸が張られてしまう。

 

「ッ!」

 

 生きているように動く糸。瞬きする間もなく、もう新しい糸が張られた。

 もし、今一旦退いたとしても、水の呼吸からヒノカミ神楽に無理やり切り替えた跳ね返りが来る。恐らく俺がまともな攻撃を放てるのは、これが最後だろう。

 覚悟を決めて攻撃を放った瞬間、今まで見えなかった隙の糸が見えた! このままいけば、腕だけなら頸まで届く!

 ごめん、父さん。だけど今やらなければ、禰豆子を守らなければ、たとえ相打ちになったとしても!

 

 

禰豆子視点

 

 -禰豆子……-

 

 だれかが、わたしをよんでいる。だれ? わたしはいま、すごくねむいのに…

 

 -禰豆子、禰豆子起きて-

 

 よんでいるのはおかあさんだ。おかあさん、なんでわたしをよぶの?

 

 -()()()()()()()出来る…頑張って-

 -禰豆子…お兄ちゃんが死んでしまうわよ……-

 

 おかあさんがなきながらそういって、わたしはめをさました。めをあけてさいしょにみたのは、おにへたちむかうおにいちゃんのすがた。だけど…いまのままじゃ、おにいちゃんは!

 わたしはひっしにてをうごかして、おもいっきりちからをいれる。

 

「血鬼術・爆血!!」

 

 

累視点

 

「血鬼術・爆血!!」

 

 そんな声が響くと同時に周囲が炎に包まれ…違う! 僕の糸だけが燃えているのか!?

 予想外の事態に、流石の僕も驚いてしまったけど…それでも瞬きにすら満たない時間。何も問題は無い。ほら、鬼狩りが僕の張った糸に突っ込んだ。すぐにあいつの頭は細切れに―

 

「ッ!?」

 

 馬鹿な! 糸が焼き切れっ…

 

「ぐっ…」

 

 衝撃と共に鬼狩りの刀が、僕の頸に叩きつけられる。あぁ、ここまではよくやったね。褒めてあげるよ。

 だけど、奇跡はここまでだ。糸を切ったところで、僕の頸は斬れない。鋼糸よりも僕の体の方が硬いんだ。

 中途半端な奇跡で喜んでいるその顔を、徹底的に切り刻んで―

 

「ッ!?」

 

 鬼狩りの刀が火を噴いたのはその時だ。馬鹿な…どういうことなんだ!? 刀が僕の頸に喰いこんでいく…このままじゃ拙い。頸を切り離して―

 

「俺と禰豆子の絆は!」

 

 駄目だっ、切り離しが…間に合わない!?

 

「誰にも引き裂けない!!」

 

 馬鹿な…この、僕が……こんな、ことで………

 

 

姉蜘蛛視点

 

 しくじった…しくじった。()()()()今までしくじったことなかったのに…この()()()()()()を…!

 累の糸で切り落とされた頭を繋げ、全速力で走りながら、あたしはこの状況をどうやって乗り切るかを必死になって考えていた。

 家族は皆寄せ集めだ。血の繋がりなんかない。鬼狩りが怖くて、仲間が欲しかった。

 能力は全部、累のもの。私達は弱い鬼だったから、累の能力を分けてもらった。累は()()()のお気に入りだったから、そういうことも許されていた。

 ここに来たら、まず一番に顔を変えなければならない。累に似せる為に顔を捨てる。母親役の女は、子どもの鬼だった。

 最初の頃はまだ人間だった時の記憶があって、よく泣いていた。当然、母親のふりも下手だった。顔や体の変形も上手く出来なくて、毎日叱責された。

 累の意味不明な家族ごっこの要求や命令に従わない者は、切り刻まれたり、知能を奪われたり、吊るされて日光に当てられる。

 私は自分さえ良ければいい。アイツらは馬鹿だけど私は違う。それなのにしくじった。

 

 -累…累! 母さんがやられた。多分兄さんも……- 

 -どうするの? 鬼狩りがそこまで来てる。どんどん集まってる-

 -ねぇ、ねぇ!-

 

 こっちが必死に訴えているのに、無視を続ける累に対して…つい、口が滑ってしまった。

 

 -逃げた方がいいんじゃない?-

 

 顔を切られたくらいで済んだのは、まだマシだったのかもしれない。顔が元に戻ったりするのを累は一番嫌う。

 そして、『守る』だとかそういうくだらない言葉をアイツは好むのだ。

 

「ッ!」

 

 そんなことを考えながら走る内に、1人で戦っている鬼狩りの姿を見つけた。向こうもあたしに気づいたようだけど、先に気づいた私の方が圧倒的に有利!

 

「溶解の繭!」

 

 手から放った糸で、人1人を包み込む大きさの繭を作りだし、その中に鬼狩りを閉じ込める。鬼狩りも何とか脱出しようと藻掻いているようだけど…

 

「無駄よ。切れやしない」

「あたしの糸束はね。柔らかいけど硬いのよ。まず溶解液が邪魔な服を溶かす。それからアンタの番よ。すぐどろどろになって、あたしの食事になる」

 

 そう、私はアイツとは違う。有能であると、役に立つと累に認識させて―

 

「わぁ、凄いですね。掌から糸を出しているんですか?」

 

 ……え?

 

「こんばんは。今日は月が綺麗ですね」

 

 女の鬼狩り!? そんなさっきまで気配すら感じなかったのに!?

 あたしは咄嗟に距離を取りながら、糸を次々と放っていくけど…

 

「ッ!?」

 

 当たらない! 繭糸を少しも触れずに避けている!

 

「私と仲良くするつもりは…無いみたいですね」

「ひっ…」

 

 息の詰まるような圧迫…累から感じるのとは違う。でも、このゾッとくる身の竦む感覚は同じ。

 『死』が…すぐ傍に来る気配。拙い…これは拙い!

 

「待って! 待ってお願い!」

「私は無理矢理従わされてるの! 助けて! 逆らったら体に巻き付いている糸で、バラバラに刻まれる」

 

 あたしは恥も外聞もかなぐり捨てて、鬼狩りに命乞いをする。死ぬわけにはいかない。あたしは生きていたいのよ!

 

「………」

「そうなんですか。それは痛ましい。可哀想に…助けてあげます。仲良くしましょう。協力してください」

「た、助けてくれるの?」

 

 私の命乞いにそう返してきた鬼狩りに、私は表向き怯えた様子を演じていく。上手く隙を見出すことが出来れば…

 

「はい、でも、仲良くする為には、幾つか聞くことがあります」

「可愛いお嬢さん。あなたは()()()()()()()()?」

 

 私がこれまでに殺した人数を問う鬼狩り。ここで下手を打つわけにはいかない。あくまでも力の無い弱い鬼を演じないと…

 

「………5人。でも、命令されて仕方なかったのよ」

「嘘は吐かなくても大丈夫ですよ。わかってますから。さっきうちの隊員を繭にした術捌き、見事でした。80人は喰っていますよね?」

「……喰ってないわ。そんなに」

 

 80人!? 冗談じゃない、それだけ人を喰えていたら、累の下なんかにいるものか! 内心そう毒づきながら、私は演技を続けていく。

 

「私は西()()()()()来ましたよ、お嬢さん。西()()()」 

「殺したのは5人よ」

「山の西側では、大量に繭がぶら下がっているのを見てきました。中に捕らわれた人々は液状に溶けて全滅」

「その場所だけでも繭玉は14個ありました。14人死んでるんです」

「………」

「私は怒っているのではないですよ。確認しているだけ。正確な数を」

「……確認してどうすんのよ?」

 

 私はこの鬼狩りが全てを把握した上で、私に問うていることを察しつつ、それでも口調だけは丁寧に返していく。すると―

 

「お嬢さんは正しく罰を受けて、生まれ変わるのです。そうすれば、私達は仲良しになれます」

「罰?」

 

 鬼狩りは俄かには理解し難いことを口にした。

 

「人の命を奪っておいて、何の罰も無いなら、殺された人が報われません」

「人を殺した分だけ、私がお嬢さんを拷問します。目玉を穿り出したり、お腹を切って内臓を引きずり出したり…その痛み、苦しみを耐え抜いた時、あなたの罪は許される。一緒に頑張りましょう」 

「………」

 

 ニコニコと笑みを浮かべながら、鬼畜の所業を口にする女。コイツ…頭がおかしいんじゃないの!?

 

「大丈夫! お嬢さんは鬼ですから死んだりしませんし、後遺症も残りません!」

 

 あぁ、鬼狩りなんかとまともに話ができると思ったあたしが馬鹿だった!

 

「冗談じゃないわよ! 死ね! クソ女!!」

 

 あたしは今出来る全力で繭糸を放ちつつ、鬼狩りから距離を取ろうと足に力を込める。こうなったら、何としてでも逃げ切って―

 

「蟲の呼吸、蟷螂(とうろう)ノ舞。双鎌夜叉(そうれんやしゃ)

「仲良くするのは無理なようですね。残念残念」

「ッ!」

 

 飛び退こうとした瞬間、背後から聞こえた声に思わず振り返ると、そこには開いていた足を閉じつつ、逆立ち状態から元に戻っていく鬼狩りの姿。

 見っ、見えなかった…で、でも、頸は斬られてない。腰に差している刀も抜いていないみたいだし…ただ動きが速いだけなら、手の打ちようは―

 

「えっ?」

 

 どうして? 動いていないのに…周りの景色が動いている…違う。あたしの頭が()()()()()()()()……

 

「頸を斬られていないと思いましたか? 残念ですが、私の蹴りは()()()()()()()()()()()()()程の鋭さがあるんですよ」

 

 何よ、それ…反、則…… 




最後までお読みいただきありがとうございました。


※大正コソコソ噂話※

蟲柱・胡蝶しのぶ様が使用する『蟲の呼吸』。
これまでは特殊な日輪刀を用いた突き技である4種類の『舞』で構成されていましたが、蹴りによる斬撃を用いた4種類の『舞』が新たに加わり、全8種類となりました。
今回披露した『蟷螂(とうろう)ノ舞・双鎌夜叉(そうれんやしゃ)』は、倒立状態で180度開脚し、高速回転。編み上げ深靴(ブーツ)の爪先と踵に仕込んでいた刃で、目標を複数回斬りつける技となります。
後日、この技を見た麟矢は密かに「ス〇ニング〇ードキック? いや、逆〇刹か?」と呟いたらしいです。
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