鬼殺隊監査役・東雲麟矢   作:SS_TAKERU

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お待たせいたしました。

お楽しみいただければ幸いです。


参拾捌之巻 -功績と罪過-

累視点

 

「俺と禰豆子の絆は!」

 

 駄目だっ、切り離しが…間に合わない!?

 

「誰にも引き裂けない!!」

 

 馬鹿な…この、僕が……こんな、ことで………

 頸を刎ねられ、切り離された頭が宙を舞う感覚を味わいながら、僕の怒りは最高潮に達した。

 首を刎ねられた僕の体は、あと10も数えないうちに灰と化してしまうだろう。だけど、ただで死ぬものか!

 あの鬼狩りとその妹…殺す、殺す、あの兄妹だけは必ず……殺す!

 灰と化す寸前の体をなんとか動かそうと、残る力の全てを注ぎ込もうとした瞬間…僕は見てしまった。互いを庇いあう様に抱き合う兄妹の姿。そして思い出した。

 

 -累は何がしたいの?-

 

 母を演じさせていたあの鬼の言葉を。その問いに、僕は答えられなかった。人間の頃の記憶が無かったから…。

 本物の家族の絆に触れたら、記憶が戻ると思った。自分の欲しいものがわかると思った。

 そうだ…僕は、俺は…思い出した。

 

 

 人間だった頃は体が弱かった。生まれつきだ。走ったことがなかった。歩くのでさえも苦しかった。そう、無惨様が現れるまでは…。

 

 -可哀想に。私が救ってあげよう-

 

 無惨様に救われたことを、両親は喜ばなかった。強い体を手に入れた俺が、日の光に当たれず、人を喰わねばならないから。

 

 -何てことをしたんだ…累…!-

 

 人を喰らった俺を叱責する父と、崩れ落ちて泣いている母。2人を見ながら、俺は昔聞いた素晴らしい話を思い出していた。

 川で溺れた我が子を助ける為に死んだ親の話。俺は感動した。何という親の愛、そして絆。川で死んだその親は見事に『親の役目』を果たしたのだ。

 それなのに、何故俺の親は俺を殺そうとするのか? 母は泣くばかりで、殺されそうな俺を庇ってもくれない。だから…

 

 

 偽物だったのだろう。きっと俺達の絆は…本物じゃなかった。俺を殺そうとした親を返り討ちにした後、そんなことを考えながら縁側で月を眺めて少し経った頃。

 

 -………る、累…-

 

 とっくに事切れていてもおかしくなかった母が、何か言っていることに気が付いた。何故か無性に気になって、耳を澄ましてみると―

 

 -じょ、丈夫な体に…産んであげられなくて……ご、ごめんね……-

 

 その言葉を最後に母は事切れた。死んだ。

 

 -大丈夫だ、累。一緒に死んでやるから-

 

 殺されそうになった怒りで、理解出来なかった言葉だったが…父は、俺が人を殺した罪を共に背負って、死のうとしてくれていたのだと…その瞬間、唐突に理解した。

 本物の絆を、俺はあの夜俺自身の手で切ってしまった。

 自分のしてしまったこと。その罪深さに震える俺を、無惨様は優しく励ましてくださった。

 

 -全ては、お前を受け入れなかった親が悪いのだ。己の強さを誇れ-

 

 そう思うより他、どうしようもなかった。自分のしてしまったことに耐えられなくて、たとえ自分が悪いのだと思っていても…。

 

 

 毎日毎日、父と母が恋しくてたまらなかった。偽りの家族を作っても、虚しさがやまない。

 結局俺が一番強いから、誰も俺を守れない。庇えない。

 強くなればなる程、人間の頃の記憶も消えていく。自分が何をしたいのか、わからなくなっていく。俺は何がしたかった?

 

 

「………」

 

 気が付くと俺は、自分の体をあの兄妹のもとへと歩かせていた。どうやってももう手に入らない絆を求めて…

 必死で手を伸ばしてみようが、届きもしないのに…

 

「……あ…」

 

 力尽き倒れた俺の体。それを不憫に思ったのか、鬼狩りが背中にそっと手を当ててくれた。

 温かい…。離れていても感じる。陽の光のような優しい手。改めてハッキリと思い出した。僕は…謝りたかった。

 ごめんなさい。全部全部僕が悪かったんだ。どうか、許してほしい…。

 

「でも、山ほど人を殺した僕は…地獄に行くよね……父さんと母さんと…同じ所へは…行けないよね…」

 

 灰となり、ボロボロと崩れていく中、僕はそう呟いて……気付くと、何も無い真っ白な場所に蹲っていた。そして―

 

「一緒に行くよ。地獄でも」

「父さんと母さんは、累と同じところに行くよ」

 

 父さんと母さんが優しく僕を受け入れていくれた。僕は、両目からボロボロと涙を流しながら、父さんと母さんに抱き着き、必死になって謝っていく。

 

「全部僕が悪かったよう! ごめんなさい!」

「ごめんなさい、ごめんなさい……ごめんなさい……!」

 

 周りが炎に包まれていく中、僕は最後の最後まで謝り続け、父さんと母さんは最後まで僕を抱きしめてくれた。

 

 

炭治郎視点

 

 蜘蛛の巣柄の着物だけを残し、完全に灰となった子どもの鬼。俺は抱きしめていた禰豆子を促して、2人で正座をすると、鬼の遺品である着物に向けて手を合わせ、その冥福を祈った。

 この鬼が抱えていた事情はわからないし、沢山の人を殺し、喰らったことは許せない。それでも、最後に嗅ぎ取ることが出来た悲しみ。小さな体では抱えきれないほどの大きな悲しみを無視することは―

 

「人を喰った鬼に情けをかけるな」

 

 突然聞こえてきた声と共に、誰かの足が着物を踏みつけたのはその時だ。慌てて顔を上げると―

 

「冨岡…さん」

 

 そこには冨岡さんの姿があった。

 

「………」

 

 冨岡さんは、一見何を考えているのかわからない…表情の乏しい顔で、俺と禰豆子を見つめ…

 

「もう一度言う。人を喰った鬼に情けをかけるな。子どもの姿をしていても関係ない。何十年何百年生きている醜い化け物だ」

 

 感情が容易には読み取れない。抑揚の無い声で俺にそう告げてきた。

 冨岡さんには冨岡さんの信念がある。言っていることも決して間違ってはいないのだろう。それでも…

 俺は冨岡さんの目をじっと見つめながら―

 

「殺された人達の無念を晴らす為、これ以上犠牲者を出さない為…勿論俺は容赦なく鬼の頸に刃を振るいます」

「だけど、鬼であることに苦しみ、自らの行いを悔いている者を踏みつけにはしない」

「麟矢さんも言っていました。鬼との戦いの中で、怒りや憎しみに駆られることもあるだろう。その感情を否定はしない。だけど、人倫に(もと)*1ことだけは、やってはいけない。と」

「鬼は人間だったんです。俺と同じ人間だったんです。足をどけてください」

「醜い化け物なんかじゃない。鬼は虚しい生き物だ。悲しい生き物だ」

 

 静かに、だけどハッキリとした口調で言い切った。

 

「お前は………」

 

 俺の気持ちが通じたのか、着物からゆっくりと足を離していく冨岡さん。だけど―

 

「ッ!」

 

 次の瞬間、冨岡さんは俺と禰豆子を庇う態勢を取り、高速で向かって来た女性の隊士が振るう刃を防いでみせた。

 

「あら? どうして邪魔するんです。冨岡さん」

「………」

「鬼と仲良くするのは無理だなんて言ってたくせに、何なんでしょうか。そんな風だから、皆から誤解されたり、悪く思われたりするんですよ」

 

 困った顔をしながら、冨岡さんと対峙する女性の隊士。俺より一回りほど小さいけど、纏っている気配から、相当な実力者だということが解る。多分、冨岡さんや麟矢さん並だ。

 

「……この鬼は普通じゃない。だから、斬らせない」

「………冨岡さん。それで私が、はい、わかりました。なんて言うとお思いですか?」

「…すまない、また言葉が足りなかった。この鬼と出会ったのは、約2年前―」

「そんなところから長々と話されても困りますよ。もしかして嫌がらせですか? もしかして、さっき斬りかかったことを怒ってます?」

「………」

 

 冨岡さんとの噛み合わない会話に苦笑した女性は、俺へと視線を移し―

 

「坊や…と呼ぶのも失礼ですね。あなた」

「は、はい!」

「あなたが庇っているのは、鬼ですよ。危ないですから離れてください」

 

 そういって、俺に禰豆子から離れるよう促してきた。どうしよう、この女性は俺と禰豆子の事情を知らない。何とか、上手く説明しないと!

 

「ちっ…! 違います! いや、違わないですけど…あの、妹! 妹なんです! 俺の妹で、それで―」

「まぁ、そうなのですか。可哀想に…では、苦しまないよう、優しい毒で殺してあげましょうね」

 

 普通の日輪刀とは違う…特殊な形の日輪刀を構え、そう告げる女性隊士。あぁ、駄目だ。上手く事情を説明しないといけないのに、焦って言葉を上手く紡げない!

 

「行け」

「えっ…」

 

 冨岡さんが再び口を開いたのはその時だ。

 

「少しは休めて、体力も回復しただろう。妹を連れて逃げろ」

「冨岡さん……すみません! ありがとうございます!」

 

 俺は冨岡さんへお礼を言うと同時に禰豆子を抱き抱え、一目散に走りだす。何とかこの場を…切り抜けないと!

 

 

しのぶ視点

 

「冨岡さん……すみません! ありがとうございます!」

 

 そう言うと、妹だという鬼の少女を抱き抱えて、一目散に走り去る少年隊士。あの必死さからみて、あの鬼が妹だというのは間違いなさそうですが…

 

「これ、隊律違反なのでは?」

「………」

 

 当面の問題は、富岡さんへの対処ですね。私個人としては、冨岡さんと事を構えるつもりは無いのですが…場合によっては―

 

「…炭治郎は」

 

 ん?

 

「炭治郎は、下弦の伍を討伐した」

「まぁ、それは素晴らしいことです」

 

 予想外な冨岡さんの発言。私は動揺を最小限に抑えつつ、手を叩いて炭治郎という名だとわかったあの少年隊士の功績を手を叩いて讃える。

 

「ですが、隊士が鬼を連れていた事は、立派な隊律違反。功績と罪過は分けて考えるべきですね」

「……あの鬼、禰豆子は普通じゃない。だから、大丈夫だ」

「………冨岡さん。大丈夫だと仰るなら、それを証明出来るだけの理由を提示してください」

「…全ては2年前に遡る」

「冨岡さん…もしかして、わざとやってます?」

「何をだ?」

 

 はぁ…このままでは埒が明きませんね。悔しいですが、完全に足止めされてしまったようです。でも…

 

「冨岡さん。もしかしたら、私を足止めすれば何とかなると思ってます? そうだとすれば…大きな間違いですよ」

「ッ!?」

 

 あちらのことは、()()()に任せましょう。

 

 

炭治郎視点

 

 禰豆子を抱き抱えたまま、俺は森を走り続ける。本当なら背負い箱に入れてやった方が良いんだろうけど…足を止めたら、良くないことが起きる。そんな気がするから、禰豆子を抱いたままで走るしかない。

 

「なんとか、なんとか麟矢さんや善逸達と合流して…」

「むー!」

 

 禰豆子が声を上げたのはその時だ。同時に頭上…樹の上から気配を感じる。しまった! 禰豆子を抱えて走ることに気を取られて―

 

「………」

 

 次の瞬間、気配の主は日輪刀を右手に握り、俺目がけて跳び下りてきた。駄目だ…今、下手に動いたら、禰豆子を危険に晒してしまう!

 俺は咄嗟に禰豆子を抱きしめ、自分自身を盾にする。斬りたければ斬れ! 例え一太刀浴びたとしても、禰豆子は守り抜いてみせる!

 

「………あれ?」

 

 来ると思っていた攻撃が来ない。俺は恐る恐る様子を確認すると―

 

「間一髪…ですね」

 

 そこには、女性隊士の振るった日輪刀を小太刀で受け止める麟矢さんの姿があった。

 

「麟矢さん!」

 

 俺は麟矢さんが来てくれたことに安堵しつつ、促されるまま麟矢さんと女性隊士から距離を取る。それを確認した麟矢さんは微かに頷き、女性隊士に声をかける。

 

「カナヲさん、久しぶりですね。実はそこにいる鬼の少女…少々訳ありでして、刀を納めてもらえませんか?」

「………師範から命じられているのは、鬼の頸を斬ることです」 

「うーん、まだ()()()では難しいか。それならば言い換えましょう。鬼殺隊監査役『梁』として、隊士、栗花落カナヲに命じます。刀を納めなさい」 

 

 普段とは違う、どこか威圧感のある声色で、カナヲという名前の女性隊士に命令する麟矢さん。

 

「………」

 

 すると、女性隊士は隊服の衣嚢*2から何かを取り出して、指で弾いた。あれは…銅貨?

 女性隊士は弾いた銅貨を受け止め、何かを確認すると―

 

「わかりました」

 

 刀を納めてくれた。

 

「カナヲさん、感謝」

 

 麟矢さんもそう言って、小太刀を鞘に納めているし…大丈夫、みたいだ。

 

「伝令! 伝令! カァァァッ! 伝令アリ!」

 

 ホッとしたのも束の間、飛んで来た鎹鴉の伝令を伝える声に、その場の全員が鎹鴉に注目する。

 

「隊士、竈門炭治郎! 並ビニ鬼ノ少女禰豆子! 両名ヲ本部ヘ連レ帰ルベシ!」

「ナオ、両名ヘノ手荒ナ真似ハ厳禁! 絶対ニ傷ツケルコトナク、本部ヘ連レ帰ルベシ!」

「竈門炭治郎、額ニ傷アリ。鬼ノ少女禰豆子、竹ノ口枷ヲ咥エテイル!」

 

 俺と禰豆子を鬼殺隊の本部へ!? どういうことなのかと、麟矢さんの顔を見ると―

 

「流石は耀哉様。見事なタイミングだ」

 

 そう言って、うんうんと感心していた。たいみんぐ? って何なのか解らないけど…きっと、良いことなんだろう。

 こうして俺と禰豆子は麟矢さんと共に、鬼殺隊の本部へと向かうことになったのだった。

*1
人として行うべきあり方、とるべき道に背くさま

*2
ポケットの古い言い方




最後までお読みいただきありがとうございました。
次回、柱合裁判&会議に突入します。


※大正コソコソ噂話※

麟矢が使用する麟矢だけの呼吸『全集中・紛の呼吸』。
他の呼吸の模倣に特化した呼吸であり、現時点では炎、水、風、雷、花、霞の六つの呼吸を模倣可能です。
ただし、五大流派に比べると派生流派は模倣が難しいらしく、花の呼吸と霞の呼吸は未だ実用に耐えうるだけの完成度には至っていません。
また、麟矢は密かに自分だけの切り札を開発しているとか?
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