鬼殺隊監査役・東雲麟矢   作:SS_TAKERU

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お待たせいたしました。

今回より、麟矢が原作改編の為に動いていきます。

お楽しみいただければ幸いです。


参之巻 -東雲麟矢の鬼殺隊改革その1-

麟矢視点

 

 産屋敷邸でのお見合いから3ヶ月が経ち、元号が明治から大正へと変わった。

 あれから俺は月に2、3回のペースで産屋敷邸を訪れては、ひなきちゃんと交流を重ねている。いや…()()()()()()()と言うのは、厳密には適切じゃないな。ひなきちゃんの弟妹である輝利哉(きりや)君、にちかちゃん、かなたちゃん、くいなちゃんとも親しくさせてもらっている。皆、俺を年の離れた兄のように慕ってくれて、実に喜ばしいことだ。

 

「……また5日後にそちらへお邪魔します。その時には約束していた絵本を持っていくので、楽しみにしていてください。5日後にお目にかかれますことを心待ちにいたしております。敬具っと…」

 

 軽く息を吐きながら、万年筆のキャップを閉め、便箋に書いた内容を確認する。

 耀哉様とあまねさん(ご両親)の教育の賜物か、ひなきちゃんは年に似合わぬ筆忠実(ふでまめ)で、3日に1度は手紙を送ってくれる。

 俺も律儀に返事を返していたら、すっかり筆忠実(ふでまめ)になってしまったよ。

 

「よし…」

 

 そんな事を考えながらも内容の確認を終えた俺は、便箋を綺麗に折って封筒に入れると、蝋で封を施す。

 

「麟矢様」

 

 ノックの音と共に、執事の後峠さんが声をかけてきたのはその時だ。

 

「どうぞ」

「失礼いたします。麟矢様、手配されていた物が届きましたので、お持ちしました」

「来ましたか!」

 

 入室した後峠さんが、そう言いながら差し出した桐箱を目にした途端、俺は勢いよく立ち上がり、桐箱を受けとるとすぐさま中身を確認する。

 

「Perfect」

 

 その出来映えに俺は思わずそう呟きながら、桐箱の蓋を閉める。5日後産屋敷邸へ向かう際に、耀哉様へ良い手土産が出来たよ。

 

 

 5日後。俺は朝食を済ませるとすぐに、東雲家が所有する馬の1頭を駆って家を出発した。

 前々回までは『隠』の皆さんが担ぐ駕籠に乗って向かっていたのだが、詳細な所在地を教えてもらった為、前回からは直行だ。

 それにしても…いくらひなきちゃん()の許婚とはいえ、鬼殺隊の正式な隊士でもない俺に詳細な所在地を教えて大丈夫なんだろうか?

 

 -麟矢君。君には、鬼殺隊について色々と教えておいたほうが良いと思うんだ。まぁ、勘なんだけどね-

 

 ……耀哉様が良いと仰っているから、気にしなくていいか。

 

 

 馬を駆ること暫く。産屋敷邸まであと1km程の地点までやってきたところで俺は馬を降り、待機していた『隠』の方に馬を預けると―

 

「お待ちしておりました。麟矢様」

「「「「「お待ちしておりました」」」」」

 

 徒歩で産屋敷邸へと向かい、あまねさんとひなきちゃん達の出迎えを受ける。

 

「産屋敷は座敷の方でお待ちいたしております」

「わかりました。それではひなきさん、輝利哉(きりや)くん、にちかちゃん、かなたちゃん、くいなちゃん。先に耀哉様とお話をしてきます。また後で」

「はい、お待ちしております」

 

 ひなきちゃん達5人に見送られ、俺はあまねさんの後に付いて座敷へと移動。

 

「やぁ、待っていたよ。麟矢君」

「お待たせいたしました。耀哉様におかれましても、御壮健で何よりです。益々の御多幸を切にお祈り申し上げます」

「うん、ありがとう」

 

 座敷で庭を見ながら待っていた耀哉様と挨拶を交わし、話し合いを始めていく。

 

「ここ数日、何となくだけど、体の調子が良いんだ。君があまねに教えてくれた知識のおかげかな」

「それは…お役に立てて何よりでございます」

 

 まぁ、話し合いと言っても、最初の方は穏やかなものだ。あまねさんが煎れてくれた緑茶を飲みながら、他愛もない会話…今日の場合は、先日耀哉様の体調を少しでも良くする為、先日あまねさんに教えた栄養豊富な食品について話していく。

 

「君が教えてくれた方法で作った玄米と小豆の粥。あれを3食食べているけど、あれは良いね。よく噛んでいると何とも言えない滋味を感じるよ」

「それは結構な事で。玄米は白米に比べて精製度が低い分、多くの栄養を含んでいますから、少量でもより多くの栄養を摂る事が出来ます」

「本当なら肉や魚をしっかり食べて頂きたいのですが…耀哉様の体への負担を考えると無理強いは出来ませんからね。玄米の他に卵や牛乳、乾酪(チーズ)木立花椰菜(ブロッコリー)*1、豆類などを積極的に摂っていただくのがよろしいかと、愚考いたします」

「参考にさせてもらうよ。さて…そろそろ()()()()()()()

 

 暫く雑談を楽しんだところで耀哉様がそう呟き、俺達は互いに思考を切り替える。ここからが本番だ。

 

「先日君が提案してくれた最終選抜の改革についてだが、次回より(つちのえ)もしくは(つちのと)の階級にある隊士若干名を、監視役兼護衛として派遣することが決定したよ」

「自ら棄権を表明した場合や監視役が続行不可能と判断した場合、受験者は監視役の保護下に入り、会場である藤襲山から直ちに下山。最終選抜は不合格となる」

「再受験は可能だが、その機会は2度まで。3度不合格となった時点で、鬼殺隊への入隊そのものを諦めるか、『隠』として働くかを選んでもらう」

「それから、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()という道も設けることにした。これは育手(そだて)が判断し、本人が承諾した場合に限るけどね」

「それは…御決断、感謝いたします!」

「一部から反対意見もあったが、人手不足の解消や適材適所を見極めるという理由で、納得してもらったよ」

 

 そう言って微笑む耀哉様。鬼殺隊と関わりを持たない俺に、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。それが話し合いの本番にして真の目的だ。

 最終選抜については『このレベルの試練を突破出来なければ、鬼と戦う事などそもそも出来ない』という意見もあり、それを否定する気はないが…そもそもの話、鬼殺隊に入ろうと思う人間は―

 

 1つ…この大正の時代においても少数派である『鬼』の存在を信じている。

 2つ…『鬼』に恨みを抱いている。

 3つ…『鬼』への恨みを自ら晴らそう。抹殺しようと思っている。

 

 通常、この3つの条件全てを満たしている訳だが…そんな人間がどれだけいる?

 原作でも人材難と描かれていた鬼殺隊。前途有望な若者が()()()()()()()()()()()は、何としても改善しなくてはならない。それから、()()()()()()にも…。

 

「耀哉様。本日ですが…このような物を持参いたしました」

 

 そんな事を考えながら、俺は耀哉様に持参した桐箱を差し出し、その中身を披露した。

 

 

耀哉視点

 

 麟矢君の差し出した桐箱に顔を近づけ、かろうじて見えている右目でその中身を確認する。

 

「これは…弓、かな? 随分変わった形をしているようだけど…」

 

 そこにあったのは一張(いっちょう)の弓。だが、その形は私の知る和弓とは随分と異なっている。

 和弓で言うところの末弭(うらはず)本弭(もとはず)*2の部分にあるのは…滑車?

 

「これはコンパウンドボウ。日本語に訳するならば、化合弓とでも言えばよろしいでしょうか」

「化合弓、コンパウンドボウ…西洋にはこのような弓があるのかい?」

「はい、アメリカの方で熊や大型の鹿を狩る為に開発されたものです。弦の引き初めこそ和弓より強い力を必要としますが、ある程度引いてしまえば滑車の働きによって弱い力で引き絞ることが出来ます」

「これによって力みが少なく済み、矢を持つ指先のブレが減少。それによって射程と命中精度が高められます」

「また矢を放つ際、効率的に力を乗せる事が出来るため、金属製の矢を使うことと相まって、一射で大鹿を仕留めることすら可能。と言われています」

 

 麟矢君の説明を受けながら、私は目の前のコンパウンドボウを見つめる。たしかに、弓としては破格の威力を持つのだろう。それに対しては何の疑いもない。だが、鬼に対して有効かどうかは…

 

「もちろん、私もコンパウンドボウ(これ)単体で、鬼に有効打を与えられる等とは思っておりません」

「ッ!」

 

 私の心に生じた疑問。まるでそれを読んでいたかのような麟矢君の言葉に、思わず息を飲む。そこまで考えていたとは…

 

「正直な話、コンパウンドボウが弓として破格の威力を誇ると言っても銃には劣ります。しかしながら、弓には銃には無い利点が()()()()()()

「1つ、銃に比べて発生する音が小さく、隠密性に優れている。2つ、相応の技量を必要としますが、銃には出来ない曲射が出来る。3つ、矢に()()()()()()()()()()()()()()()()

「仕込む物ですが…例えば()()、例えば…()

 

 ここまで聞いて、私は麟矢君がコンパウンドボウを私に見せた真の理由を察した。

 

「麟矢君、君は…()()()()()()()()()()()。そう言いたいんだね?」

「ご明察の通りです。鬼への先制攻撃として、爆薬や毒を仕込んだ矢を撃ち込んで弱らせてから日輪刀で頚を斬る。隊士の犠牲を食い止めるには、ある程度有効だと愚考いたします」

「うん、検討の価値は十分にあるね。次回の柱合会議の議案にさせてもらうよ」

「よろしくお願いいたします」

 

 こうして、今日の話し合いは無事終了。退席し、ひなき達の元へ向かう麟矢君を見送りながら―

 

「柱の皆と麟矢君を会わせるのを、前倒ししても良いかもしれないね」

 

 私はそんな事を呟くのだった。

 

 

麟矢視点

 

「うん、現時点では最良の展開と言って良いだろうな」

 

 耀哉様との話し合いを終え、ひなきちゃん達の元へ向かいながら、俺は小さくそう呟く。

 父さんに無理を言って、市場に出回り始めたばかりのジュラルミン*3を取り寄せたり、本来の歴史を前倒ししてコンパウンドボウを開発した*4のは、鬼殺隊側の犠牲を少しでも少なくする為だ。

 特に柱の殉職と産屋敷家の自爆だけは何としても阻止しなくてはならない。耀哉様の自爆…物語として観れば、鬼舞辻無惨との最終決戦。その幕を開ける為にどうしても必要だったのだろうが…今、この世界で生きている人間の立場から言えば、ふざけるなの一言だ。

 犠牲を最小限に食い止めつつ、鬼舞辻無惨との戦いに勝利する…物語の体裁を無茶苦茶にする行為だろうが、文句は現世の記憶と知識を持たせたまま、俺をこの世界に転生させる羽目になるほどのポカをやらかした死神に言ってくれ。 

 

「お待たせしました。さあ、楽しい時間の始まりですよ」

 

 ここで俺は思考を一気に切り替え、ひなきさん達の待つ部屋へ入っていく。

 うん、俺の力が及ぶ限り、この子達の笑顔を守らなくてはな。

 

 

ひなき視点

 

「はい、これが約束の絵本です」

 

 そう言って、麟矢様が鞄から取り出された1冊の絵本に集中する私達5人の視線。

 麟矢様が手作りされた世界に1冊だけの特別な絵本。10日前に頂いた第1号『14ひきのあさごはん』に続く第2号は…

 

「『ぐりとぐら』、どんなお話なのですか?」

「はい、双子の野ねずみ、ぐりとぐらが出てくるお話です。さあ、始まりますよ」

「「「「「はい!」」」」」

 

 返事と共に、私達は横一列に並んで座りー

 

「野ねずみのぐりとぐらは、大きな籠を持ってー」

 

 麟矢様の読み語りに、暫し耳を傾けます。

 

 

「さぁ、この殻で、ぐりとぐらは何を作ったと思いますか?」

 

 絵本の一文として書かれた問いかけ。そこから暫しの間を置いて見せられた一枚絵に、私達は大いに驚き…そして精一杯の拍手を送りました。

 なんて素敵なお話なんでしょう!

 

「いかがでしたか?」

「はい、とても面白かったです。それに…」

「それに?」

「大きな卵で作るカステラが…美味しそうでした」

 

 麟矢様の問いに照れながらそう答えると、同感だと一斉に首を縦に振る輝利哉達。

 すると、それを見た麟矢様は…

 

「たしかに、あのカステラはロマンですよね………食べてみますか?」

 

 予想もしない提案をしてくださいました。

 

「こんな事もあろうかと、()()()()()()()()()()()()()()()()()。台所を使う許可をあまねさんから頂ければ、作ることは出来ますよ」

 

 笑顔でそう言ってくださる麟矢様。私達の答えは決まっていました。

 

 

 その後、母上から許可を得た麟矢様が、私達の見ている前で作ってくださったカステラは…甘く、フンワリとしていて…とても美味しかったです。

 だけど、お手伝いを名乗り出た時に、着ている着物が汚れてしまうから…と断られてしまったのは、不覚でした。

 次の機会までに、割烹着を用意していただくよう、母上にお願いしなくては………。

*1
ブロッコリーは明治時代初期に海外から渡来している。ただし、当初は観賞植物扱いだった

*2
和弓では弓幹(ゆがら)と呼ばれる弓の本体。その上下にある弦を掛ける部分の事。末弭が上側で本弭が下側。本弭は下弭(しもはず)とも言う(

*3
1906年9月にドイツで開発され、1909年から一般販売されている

*4
本来の歴史では、1966年アメリカのミズーリ州で開発され、1969年に特許が認められている




最後までお読みいただきありがとうございました。




※大正コソコソ噂話※

麟矢の前世であった大学生は、月に2回街の図書館で行われている乳幼児向けの絵本読み聞かせ会に、ボランティアで参加していました。
手先が器用で、工作なども得意だった為、読み聞かせ会に参加した子ども達からも慕われていたようです。

ちなみに、転生前から得意だった料理やイラストの腕前は、転生してから更に上昇し、今では玄人はだしになりました。
これが所謂転生特典なのかは…まだ不明です。
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