鬼殺隊監査役・東雲麟矢   作:SS_TAKERU

40 / 62
お待たせいたしました。

お楽しみいただければ幸いです。

なお、今回は鬼殺隊の過去についての独自設定と描写。
更に風柱・不死川実弥、蛇柱・伊黒小芭内に対する辛辣な表現が存在します。
閲覧の際はご注意ください。


参拾玖之巻 -激震! 柱合裁判!!(前編)-

しのぶ視点

 

「伝令! 伝令! カァァァッ! 伝令アリ!」

 

 私を足止めする冨岡さんと睨み合う最中に聞こえてきた鎹鴉の声。冨岡さんから目を離さずにその声へ耳を傾けると― 

 

「隊士、竈門炭治郎! 並ビニ鬼ノ少女禰豆子! 両名ヲ本部ヘ連レ帰ルベシ!」

「ナオ、両名ヘノ手荒ナ真似ハ厳禁! 絶対ニ傷ツケルコトナク、本部ヘ連レ帰ルベシ!」

「竈門炭治郎、額ニ傷アリ。鬼ノ少女禰豆子、竹ノ口枷ヲ咥エテイル!」

 

 聞こえてきた内容は、俄かに信じ難いもの。しかし、鎹鴉が嘘を吐くとは考えられませんし、何よりも冨岡さんの言動を考えると…

 

「そういうことでしたか。冨岡さん、貴方もなかなかの策士ですね」

「…何のことだ?」

 

 (とぼ)けた態度を崩さない冨岡さんですが…まぁ良いでしょう。然るべき場でキチンと説明してもらいますからね。

 

 

炭治郎視点

 

 鎹鴉による伝令の後、俺と禰豆子は麟矢さんに連れられて那田蜘蛛山を下山。

 

「炭治郎、禰豆子ちゃんのこと…頼んだぞ」

「何も出来ないけど、2人の無事を祈ってるからな」

「欣也が今日の夕飯は天婦羅だって言ってたからな! さっさと帰って来いよ!」

 

 事情を知っている善逸と玄弥、そしてあまり事情を理解していない伊之助に見送られながら、麓で待機していた隠の人達が担ぐ籠へと乗り込んだ。

 渡された目隠しと耳栓、そして鼻栓をしっかりと装着して、籠に揺られること数時間。

 

「さぁ、炭治郎君。行きますよ」

「は、はい!」

 

 馬で先行し、諸々の準備を整えていた麟矢さんに迎えられ、俺は鬼殺隊本部の中へと入っていく。

 目的地である庭へと向かう途中―

 

「炭治郎君。今のうちに言っておきますが…この先で君を待っているのは鬼殺隊の最高戦力、柱の9人です。前以てお館様が、君や禰豆子ちゃんに危害を加えることを固く禁じてくださっているので、大部分…9人中7人は、少なくとも表面上は理性的な対応を取ってくれると思います」

「ですが…2人程少々厄介な方がおりまして、ほぼ確実に君や禰豆子ちゃんに対して、敵意を向けてきたり…最悪危害を加えようとするかもしれません。勿論、君達は私が全力で守りますが…一応、覚悟はしておいてください」

「…はい!」

 

 麟矢さんとそんな会話を交わし、俺と背負い箱に入った禰豆子は、鬼殺隊本部の庭へと足を踏み入れた。

 

 

麟矢視点

 

 俺と炭治郎君、そして禰豆子ちゃんが庭へと一歩足を踏み入れた途端、九つの視線が一斉に俺達へと向けられる。

 

「お待たせいたしました。竈門炭治郎隊士、並びに竈門隊士の妹である禰豆子嬢を連れて参りました」

 

 視線から感じる様々な感情。俺はそれら一切を無視して、必要な事柄だけを伝えると、柱の皆さんとある程度離れた位置に敷かれた(むしろ)に正座する。

 

「炭治郎君、私の後ろに座ってください」

 

 そして、炭治郎君にも座るように促したのだが…

 

「おい、東雲ェ…てめぇ、何を平然とした顔で座ってやがる!」

 

 早速、不死川様が怒気を帯びた顔で、こちらに嚙みついてきた。

 

「そこの罪人は『離』の一員。即ち、『離』の責任者である貴様も、隊律違反を認識していながら黙認していたということだろう?」

「同じく隊律に違反した冨岡と3人揃ってどう処分する? どう責任を取らせる? どんな目にあわせてやろうか?」

「そもそもの話。罪人を拘束すらしていない様に、俺は頭痛がしてくるんだが…」

 

 更に伊黒様が不死川様に同調して、ネチネチと嫌味を言ってきた。まぁ、俺自身は何を言われても聞き流すだけだが、炭治郎君が酷く気にしている様子だからな…。

 

「炭治郎君…竈門隊士が罪人かどうかを判断するのが、今回行われる柱合裁判の目的だった筈。判決が出てもいないのに、彼を罪人呼ばわりするのはやめていただきたい」

 

 言うべきことは言っておこう。

 

「あァ? 鬼を庇ってる時点で罪人確定だろうがァ! 裁判なんて必要ねェ…鬼諸共首を刎ねてやらァ!」

「同感だな。鬼と同じ空間にいること自体不愉快極まりない。即刻首を刎ねるべきだ」

 

 俺の発言に対し、予想通りの反応を返す不死川様と伊黒様。だからこそ―

 

「失礼ながら…お2人とも裁判という言葉の意味を辞書で調べて、100回ほど紙に書き取られた方が宜しいかと存じます」

 

 こっちも前以て考えておいた反撃が出来るってもんだ。

 

「あァ?」

「どういう意味だ…」

「国家ないし公権力の法、もしくは組織内の規律に基く刑罰権を発動することなく、個人または集団によって執行される制裁。それはただの私刑に過ぎません」

「鬼殺隊は悪鬼の手から無辜の民を守る組織であり、柱は隊士の模範となるべき立場。そのことをくれぐれもお忘れなきよう」

 

 淡々とした俺の声に、言葉を無くす不死川様と伊黒様。すると―

 

「ハッハッハッ! これは一本取られたようだな! 不死川! 伊黒!」

「東雲の発言は俺にとっても少々耳が痛い! 柱として、今以上に己を厳しく律さなければならないな!」

「それに竈門隊士と鬼の少女に対して、手荒な真似を禁ずる旨、お館様からお達しがあったこと、お忘れではないですよね? 不死川さんも伊黒さんも、勝手な真似は慎んだ方が良いと思いますよ」

「お館様が何を考えて、そんなお達しを出したか…皆目見当がつかねえが、だからこそ色々と解る迄は下手に動かねえのが得策だろうな」

「わ、私も! お館様がお越しになるのを待った方が良いと思います!」

「最高戦力である柱の暴走。これだけは何としても避けなければならないこと…不死川、伊黒、お前達の気持ちは重々承知している。だからこそ短慮な行動は慎め」

 

 煉獄様が高らかに笑いながらそう言ったのを皮切りに、胡蝶様、宇髄様、甘露寺様、そして悲鳴嶼様が次々と口を開き、不死川様と伊黒様を宥め、窘めていく。

 ちなみに、冨岡様は無言を貫き、時透様はボンヤリと空に浮かんだ雲を眺めていたりする。

 そして、不死川様と伊黒様が黙り込んで少し経った頃―

 

「「お館様のお成りです」」

 

 ひなきさんとにちかちゃんの声が聞こえてきた。

 

「炭治郎君。私の真似をしてください」

 

 素早く姿勢を正しながら発した俺の声に、炭治郎君が慌てて反応した直後。襖が開き、耀哉様が姿を現した。

 

 

天元視点

 

 ひなき様とにちか様の肩を借り、ゆっくりと座敷の中へと進まれるお館様。衣擦れの音から判断して…2ヶ月前にお会いした時よりも、僅かにだが歩く速度が落ちているな。

 東雲や胡蝶が中心になって、お館様を蝕む呪いの進行を何とか食い止めてはいるが…呪いが解けた訳ではなく、呪いの進行も完全に止まった訳でもない。

 何か劇的な変化でも起きなければ、あと2年程でお館様は寝たきりになる。それが東雲と胡蝶の共通した見解らしい。まったく、地味に厄介な呪いだぜ。

 

「よく来てくれたね。私の可愛い剣士(子ども)達」

「今日はとても良い天気だね。空の青さが眩しいほどだよ」

「顔ぶれが変わらずに、半年に一度の柱合会議を迎えられたこと、嬉しく思うよ」

「お館様におかれましてもご壮健でなによりです。益々のご多幸を切にお祈り申し上げます!」

「ありがとう、実弥」

 

 おっと、考え事に気を取られて、お館様へのご挨拶を不死川に取られちまったか…それにしても、あの竈門…炭治郎だったか? なんて顔をしてやがる。

 大方『知性も理性も全く無さそうだったのに、きちんと喋りだした』とでも考えているんだろう。まぁ、気持ちは解らなくもないな。

 

「畏れながら。柱合会議の前に、この竈門炭治郎なる鬼を連れた隊士について、ご説明いただきたく存じますが、よろしいでしょうか」

 

 不死川の問いかけと同時に、俺を含む柱9人、そして東雲達の視線が一斉にお館様へと向けられる。果たして、お館様のお考えは…

 

「そうだね。驚かせてしまって、皆にはすまないと思っているよ」

「実は炭治郎と禰豆子のことは、()()()()()()()()。そして、皆にも認めてほしいと思っている」

「ッ!?」

 

 お館様の口から出た言葉。その内容に、冨岡と東雲を除く俺達は驚きを隠せない。

 

「嗚呼…お館様のお考え、隊士と鬼の少女を傷つけずに連行しろという先の伝令の内容からして、何かしらの深い事情があるものと推察いたしますが…私は承知しかねる…」

「俺も派手に反対する。鬼殺隊にとって鬼は敵。(てき)を連れた鬼殺隊士など認められない。もっとも、()()()()()()()()()()()()()()、考えを翻すことも吝かではありませんが」

「私は全てお館様の望むまま従います」

「僕はどちらでも…すぐに忘れるので…」

「………」

「………」

「鬼とは心まで腐った存在。信用しない、信用しない。鬼は大嫌いだ」

「心より尊敬するお館様であるが、理解し難いお考えだ!」

「鬼を滅殺してこその鬼殺隊。竈門、東雲、冨岡の3名に対し、厳しい処罰を願います」

 

 次々とお館様へ声を上げる俺達。冨岡はともかく、胡蝶が無言なのは気にならなくもないが…まぁ、一旦置いておこう。

 お館様は俺達の声全てに耳を傾けた後―

 

「ひなき、手紙を」

「はい」

 

 ひなき様に予め持たせていた手紙を代読するように命じた。俺達が清聴の体勢を取る中、ひなき様の声が響き始める。

 

「こちらの手紙は()()()である鱗滝左近次様から頂いたものです。一部抜粋して読み上げます」

「“――炭治郎が、鬼の妹と共にあることをどうか御許しください”」

「“禰豆子は強靭な精神力で、人としての理性を保っています”」

「“飢餓状態であっても人を喰わず、そのまま2年以上の歳月が経過いたしました”」

「“俄には信じ難い状況ですが、まぎれもない事実です。もしも禰豆子が人に襲いかかった場合は”」

「“竈門炭治郎及び鱗滝左近次、冨岡義勇が腹を切ってお詫び致します”」

 

 ひなきさまが手紙を読み終えた後、その場を暫しの間沈黙が支配し…

 

「……切腹するから何だと言うのか。死にたいなら勝手に死に腐れよ。何の保証にもなりはしません」

「恐れながら、不死川の言う通りです! 人を喰い殺せば、取り返しがつかない! 殺された人は戻らない!」

「そもそもの話。二年の間人を喰っていないと言うのも眉唾だ。元柱とはいえ、鱗滝左近次は冨岡の師。弟子を庇って虚偽の報告をしている可能性も捨てきれない」

 

 不死川、煉獄、伊黒が声を上げた。だが、それもお館様の予想の範疇だったのだろう。

 

「たしかにそうだね。この文だけでは人を襲っていないという証明が出来ない。人を襲わないという保証も出来ない」

「だからこそ、私は麟矢君に協力を頼み…『離』を設立した」

 

 何事も無いようにとんでもない情報が投げこまれた。

 

「なんと! お聞きしていた設立の理由は偽りだったのですか!?」

 

「それらの理由*1も偽りではないよ。ただ、それらの理由を隠れ蓑にして、竈門炭治郎、禰豆子兄妹の監視と審査を行う様、麟矢君には密命を与えていた訳だ」

「なるほど! いやはや、お館様の深いお考え、我々等では足元にも及びません!」

 

 煉獄の感心したような声に、お館様は小さく頷き、東雲へと視線を送る。

 

「では、麟矢君。皆に報告を」

「畏まりました」

 

 お館様の声に答えた東雲は一礼し―

 

「では、『離』設立から本日までの調査結果を報告させて頂きます。まずはこの資料を」

 

 俺達に紙の束を渡し、説明を始めていく。

 

「まず、伊黒様が疑問の声を挙げられていた鱗滝様からの手紙についてですが…鱗滝様が居を構えておられる狭霧山を中心とした半径2里の範囲内に存在する村や町では、この2年、鬼の被害によると思われる死者は1人も出ていないことが確認されています」

「何だと…」

「あぁ、お疑いでしたら幾らでもお調べになってください。もっとも…捏造でもしない限り、何も出てきませんが」

「………くっ!」

 

 東雲にしてやられる形になり、黙り込む伊黒。東雲の説明は続く。

 

「『離』へ招集する前、竈門隊士には単独での任務を数件与え、その行動を監視しましたが、いずれの任務においても竈門隊士は、鬼殺隊士としての任務を立派に果たしており…その内1件では、禰豆子嬢も戦闘に参加し、鬼と戦っていることが確認出来ています」

「鬼でありながら、鬼と戦った…東雲、間違いないのか?」

「間違いありません」

「うぅむ…」

 

 鬼の少女が鬼と戦ったという事実に、悲鳴嶼の旦那も唸りながら考え込み始める。こいつは…流れが変わり始めたかもな。

 

 

麟矢視点

 

 浅草の一件で、禰豆子ちゃんが鬼…朱紗丸と戦ったことを知り、考え込む悲鳴嶼様。俺はその姿に一定の手応えを感じながら、報告を続けていく。

 直近の任務であった那田蜘蛛山においては下弦の伍と戦い、炭治郎君の下弦の伍撃破に多大なる貢献をしたこと。

 そして、禰豆子ちゃんが絹江さんを始めとする我が家の女中さん達と心を通わせていることを話すと、柱の皆さんからどよめきが生じた。

 

「以上の点から、禰豆子嬢がこの2年人を襲っていないことは事実であり、これから先も人を襲う確率は限りなく零に近いと考えられます」

 

 この言葉を最後に俺は報告を終え、周囲を再び沈黙が包む。

 

「百歩…いや千歩譲って、その鬼がこれまで人を襲わなかったこと、喰わなかったことは認めてやろう」

 

 その沈黙を破ったのは伊黒様だ。

 

「だが、これから先人を襲わないという保証は無い! 限りなく零に近い? 零でないということは。起きるかも知れないということだ」

「第一、これまで人としての理性を保っていたというのが、本来ならば()()()()()()()なのだ。そんな奇跡頼みで、鬼を放置するなど危険極まりない」     

 

 禰豆子ちゃんの入っている背負い箱を睨みながら、そう捲し立てる伊黒様。有り得ない奇跡…か。

 

「その言葉を…待っていました」

「何?」

 

 俺の呟きに怪訝な表情となる伊黒様。俺は何も言わずに新たな紙の束を取り出し―

 

「皆様、何も言わずにこちらの資料をご覧下さい」

 

 柱の皆さんへと渡していく。全員の視線が資料へと向けられ*2

 

「東雲! ここに書かれている内容は…事実なのか!?」

 

 珍しく動揺した煉獄様の声を皮切りに、まさか…、こんなことが…といった声が聞こえてきた。そう、これこそが柱合裁判における切り札にして、鬼殺隊の闇。

 

「過去300年分の報告書や、その他の記録を精査して判明した事実です」

 

 俺はここで一旦言葉を切り…数回深呼吸をして、一気に言葉を紡いでいく。

 

「禰豆子嬢と同じように人としての理性を保った鬼は、過去300年間で最低でも68人存在し…鬼殺隊は、その全員を抹殺しています」

「更には、そんな鬼を庇い、匿っていた家族や友人をも、鬼と結託した極悪人として殺害した事例も…数件ですが確認出来ました」

 

 俺の言葉の後、誰もが黙り込む。さぁ、どんな反応を返してくる?

*1
①担当地域を持たない班を敢えて作り、1つの班では対応しきれない強力な鬼が発生した場合や、比較的近い範囲で同時多発的に鬼が発生した場合の増援等を担当する。②上位の階級に就いている隊士が新人隊士と行動を共にすることで、殉職率の低下と実力の向上を両立させる。

*2
悲鳴嶼様は鎹鴉『絶佳』による代読




最後までお読みいただきありがとうございました。


※大正コソコソ噂話※
 
麟矢が最終選別に向けて用意したナイフ。
現在も日輪刀、コンパウンドボウに次ぐ第三の武器として任務の際には欠かさず携帯していますが、近頃改造が施され、誰もがアッと驚くような機能が追加されたらしいです。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。