お楽しみいただければ幸いです。
なお、今回も鬼殺隊の過去についての独自設定と描写が存在します。
閲覧の際はご注意ください。
また、掲載に伴い参拾漆之巻 -兄妹の絆-を極々一部改訂しております。
具体的には胡蝶しのぶ様が姉蜘蛛に放った蟲の呼吸、
しのぶ視点
「禰豆子嬢と同じように人としての理性を保った鬼は、過去300年間で最低でも68人存在し…鬼殺隊は、その全員を抹殺しています」
「更には、そんな鬼を庇い、匿っていた家族や友人をも、鬼と結託した極悪人として殺害した事例も…数件ですが確認出来ました」
東雲さんの報告で周囲が静まり返る中、私は無言を貫きながら…4年前鬼との戦いに敗れて亡くなった姉、胡蝶カナエのことを思い出していました。
姉さんは生前、『鬼は哀れで悲しい存在』『人だけでなく鬼も救いたい』と常々言っていました。もしかしてそのような考えに至ったのは…
「この人としての理性を保った鬼ですが、平均すると大体5年に一体の割合で出現しており…直近だと4年半前、殉職された花柱…胡蝶カナエ様が遭遇しています」
やはり…東雲さんの言葉に、私は自分の予感が正しかったことを悟る。
東雲さんによると、姉さんは4年半前…柱になった直後と、6年前、それから7年前の三度、人としての理性を保った鬼と遭遇していた。
人としての理性を保った鬼と遭遇するのは極めて稀。1人の隊士が3度も遭遇するのは、文字通り天文学的な確率…例えるならば、サイコロを振って、10回連続で6を出すようなもの*1だと東雲さんは言っていました。
姉さんはきっとそう言う星のもとに生まれていたのね。
「胡蝶カナエ様の鬼をも憐れむその考え方は、鬼殺隊の中でも特に異端とされていた為、報告書は比喩や婉曲的な表現を多く用いて書かれていましたが…そうであると理解していれば、容易く読み取ることが出来ました」
そう言って、姉さんが書いた報告書を纏めた物の一つ、姉さんが初めて人としての理性を保った鬼と遭遇した際の報告書を読み上げていく東雲さん。その概要は―
一つ…7年前、当時
二つ…鬼の少女は、奇跡的に人としての理性を保っており…それ以上近づくな。貴女を傷つけてしまう。殺してしまう。と泣きながら姉さんを威嚇してきた。
三つ…鬼の少女から何かを感じ取った姉さんは、自分が鬼狩りであることを告げ、少し話をしようと声をかける。鬼の少女も、そんな姉さんの態度に警戒を僅かに解き…2人は話始めた。
四つ…鬼の少女は10日前に家族を皆殺しにされた上に、自身は鬼へと変えられたのだが、今日まで強烈な飢餓感と頭の中で響き続ける『人を喰らえ』という声に必死に抗い、怪物と化した己が他人を傷つける前に…と自殺を繰り返していた。しかし、大木の天辺から飛び降り、岩に頭を叩きつけ、自らの爪で喉を切り裂き、胸を貫いても死ぬことは出来なかった。それどころか、『人を喰らえ』という声が大きくなるばかり。絶望しかけた時にやってきたのが姉さんだった。
五つ…鬼の少女は姉さんに己を殺すように懇願。姉さんは懇願を受け入れ、その頸を刎ねた。
と言うものだった…。
「嗚呼…カナエは常々、『人だけでなく鬼も救いたい』と言っていた…当時は理解出来なかったが…人の理性を保った鬼と出会っていたのであれば、そのような考えに至るのも無理からぬことか…」
「胡蝶カナエ様本来の気質による部分も大きいと思われますが、実際に人の理性を保った鬼と出会ったことも確実に影響していたでしょうね」
数珠を持った手を合わせ、涙を流しながらそう呟く悲鳴嶼さんに対し、そう言葉を返す東雲さん。
姉さんを知っている宇髄さんや冨岡さんも、姉さんを悼むように目を閉じて、祈りを捧げてくれている。
「人としての理性を保った鬼が過去にも存在していたことはわかった! しかしながら今の話を聞く限り、10日程度で限界を迎えてしまうようにも思われるが…そのあたりについて、わかるのであればもう少し詳しく知りたい!」
その時声を上げたのは煉獄さん。だけど、その問いかけも東雲さんにとっては想定の範囲内だったのでしょう。
「その点につきましては、
何でもないことのようにそう答えられていますが…100年とは、とんでもない長さですね。
杏寿郎視点
「その点につきましては、記録として残されている中でという条件がつきますが…約100年というのが最長になるでしょうか」
俺の問いかけに対し、平然と答える東雲。それにしても100年とは! まさしく予想の範疇を超えているな!
「この報告書は、今から約180年前*2。当時の水柱が書かれたものです」
「報告書自体は、通常のものと何ら変わらない内容ですが…当時のお館様直々の注釈が付けられており…それを基に調べた結果、この手紙が見つかりました」
そう言って、一通の書状を取り出す東雲。察するに、表沙汰に出来ない内容故に書状という形を取った…ということか。
「この書状には、秩父山中にある村を襲った鬼を討伐した際、その村で荒神様と崇められ、村人と共存していた鬼とも遭遇。紆余曲折の末鬼の頸を刎ねた。鬼は全て邪悪と決めつけ、村人達から心の支えを奪ってしまった己の愚行を強く恥じる。と書かれています」
東雲の説明の後、書状を受け取った俺はその内容に素早く目を通していく。うむ、たしかにそう書かれているな!
「信頼のおける人物にこの村へと向かってもらい、追加で調査を行ったのですが…この村には今でも昔話という形で、当時のことが語り継がれていました。内容はこのようなものとなります」
“その昔、この村の近くにある大きな洞穴には荒神様が住んでいました。この村が出来る前から洞穴で暮らしていた荒神様はとても背が高く、そして恐ろしいお顔をしていましたが、とても優しい心の持ち主で、嵐で倒れた樹が村へと続く道を塞いだ時や、村で火事が起きた時などに、まるで風の様にやって来て村人達を助けてくれました”
“村人達も季節ごとに畑の作物や仕留めた猪や熊の肉、川で捕まえた魚などをお供えしたり、秋のお祭りの時には荒神様を讃える歌を歌ったりして、荒神様に感謝を捧げていました”
“ある日、村に恐ろしい人食い鬼が現れ、村人達を襲いました。荒神様はすぐさま駆け付け、鬼と戦ってこれを退けてくれたのですが、そこに旅の侍が表れて、荒神様に刀を向けました”
“村人達は口々に荒神様を庇うのですが、旅の侍は『そんな邪悪な風体をした輩が善良である筈がない』『俺はこれまでもこいつのような邪悪な化け物を成敗してきた』と聞く耳を持たず、村人達にも刀を突き付けてきます”
“それを見た荒神様は「村の者に手を出すな。私を斬りたければ斬れ」と、自ら侍に斬られる道を選びました。荒神様が斬られたことに村人達は怒り狂い、鍬や鎌を手に侍を取り囲みますが、それを止めたのはまだ息のあった荒神様でした”
“荒神様は村人達へ言いました。自分は100年前怪物に襲われ、家族を皆殺しにされた上に自らも怪物へ変えられてしまった人間であること。心だけは怪物にならず人のままだったが、このような姿では人里では生きていけない為、已む無く洞穴で暮らし始めたこと。数年経ってこの村が出来た時、最初は係る気など無かったが、困っている村人を見て、つい手を貸してしまったこと。そして、自分を荒神様と慕う村人達に本当のことが言えず、荒神様として振舞っていたこと”
“怪物となって百年。自分の前にこのお侍が現れたのは、何かの天命なのだろう。命を絶たれることに何の不満も無い。だから、このお侍を憎むな。息も絶え絶えの中、懸命に紡がれる荒神様の言葉を泣きながら聞く村人達。そして荒神様は村の子ども達を呼び、最後の言葉をかけました”
“優しさを失うな。弱い者を労わり、互いに助け合い、例え異国の者であろうとも心を通わせる気持ちを忘れないでくれ。例えその気持ちが何十回、何百回裏切られようとも。それが私の最後の願いだ”
“子ども達へ最後の言葉をかけた直後、お亡くなりになった荒神様を村人達は丁重に弔いました。そして荒神様を斬った侍も己が間違っていたと改心し、村を去っていきました”
東雲の語る昔話を聞きながら、俺は己の…鬼殺隊隊士としてのこれまでを振り返る。
一隊士として、柱として、俺はこれまでの行いに恥じることは一つも無いと自信を持って断言出来る。
だが、昔話に出てきた水柱と同じ立場に立った時、鬼の本質をキチンと見抜き、討伐の対象にするか否かを間違えずに判断出来るだろうか? うぅむ…これは柱としてとてつもない難問を突き付けられたのかもしれんな!
行冥視点
「………」
東雲の口から語られる様々な事実を聞く度、思わず溜息が漏れてしまう。
人としての理性を保った鬼が、過去に相当数存在していたこと。過去の鬼殺隊は、そんな鬼を尽く殺していたこと。そして…人としての理性を保った鬼を庇い、匿っていた家族や友人をも、当時の鬼殺隊は鬼と結託した極悪人と決め付けて殺害していたこと。
「これは今から約110年前*3。5名の『隠』が、
書状片手に東雲が話してくれた事例は以下の通りだ。
一つ…鬼に変えられた息子を、町医者を営んでいた父親が自宅の蔵に匿っていることを当時の鬼殺隊が察知。階級
二つ…派遣された隊士は
三つ…隊士は任務後、『両親は息子可愛さの余り、鬼を匿うだけでなく、人を喰わせていた。だから斬った』と弁明した。
四つ…しかし、『隠』が事後処理を行った際、討伐された鬼が人を喰った形跡が全く見つからないこと。父親が付けていた日記に、鬼が人としての理性を保っている事が何度も書かれていたこと。そして、父親は自身が習得した医術を用いて、息子を人間に戻す研究を行っていたこと。が次々と判明。
五つ…事実を知った『隠』は連名で告発状をお館様へ提出。その隊士は守るべき無辜の人々を殺害した咎で、切腹を命じられた。
………なんとも後味の悪い話だ。鬼殺隊内部の混乱を防ぐ為、当時のお館様が人としての理性を保った鬼が存在するという事実を揉み消したことも、後味の悪さを強めている。
鬼が人を喰らうという事実。これは否定しようがない。だが、その事実の陰に人を喰らわない鬼も存在しているという事実も存在していた。
この隠された事実に気付かぬまま…気づいていても気付かぬふりをし続け、今に至る訳か。
嗚呼…隠された事実を知った以上、柱として為すべきことを為さなければ…。
蜜璃視点
「以上が一通りの説明となります。何かご質問等はございますか?」
麟矢君の説明が終わると同時に、周囲は沈黙に包まれる。私は他の隊士みたいに、鬼への恨みや憎しみが戦いの動機になっている訳じゃない。だから、質問する資格は無いのかも知れないけど…
「麟矢君…」
どうしても気になることがあった私は、静かに手を上げた。
「甘露寺様、何か?」
「あの…人としての理性を保った鬼は、どうして生まれるのかな?って…あ、ごめんなさい! 私、あんまり頭が良くないから、変な質問しちゃったわね!」
質問を口にした後で、私は慌てて質問を取り消そうと両手をあたふたと動かしてしまう。あぁ、他の皆はこんなどうでもいいこと、考えもしないわよね…
「甘露寺様、素晴らしい着眼点です」
「……え?」
だけど、麟矢君は私の質問を素晴らしいと言ってくれた。
「孫子曰く、 敵を知り己を知れば百戦危うからず。人としての理性を保った…云わば通常とは異なる鬼がなぜ生まれるのか? それを知ることは、これからの戦いにおいて必ず大きな意味を持つでしょう」
私に向けてそう断言した麟矢君は、一旦言葉を切り…
「そして甘露寺様のご質問に関しての答えですが……あくまでも私個人の推測ですが、鬼の首魁である
質問への答えを話し始めた。
麟矢視点
「力が不完全…麟矢君、どういうことか説明してくれるかな?」
俺の鬼舞辻無惨の力が不完全という発言に対し、その先を促してくる耀哉様。俺は了解の意味を込めて一礼すると、柱の皆さんを見回して、説明を再開する。
「そもそも鬼という存在は、鬼舞辻無惨の血を注ぎ込まれ、適応出来た人間の肉体及び精神が、己の意思に関係無く強制的に変異させられて誕生する超越生物」
「これは言い換えれば、適応出来た人間は鬼舞辻無惨と同じ存在に作り変えられているということになり、同時に鬼舞辻無惨の力が不完全であるということの証明になります」
「考えてもみてください。もしも鬼舞辻無惨の血が持つ人を鬼へと変える力が完全無欠であるならば、人間は血を注ぎ込まれた時点で問答無用で鬼にならなければならない」
「適応出来た極一部の人間しか鬼に変異しない時点で、鬼舞辻無惨の力には限界がある。不完全だと言える訳です」
「なるほど…それは言えているね」
俺の説明に対し、そう言って頷く耀哉様。悲鳴嶼様や宇髄様、胡蝶様も頷いているし、煉獄様に至っては―
「なるほど! 道理だ!」
と、大声を上げている。
「説明を続けさせていただきます。先程申し上げました通り、鬼舞辻無惨の力が不完全である為、適応出来た人間を変異させる際にも極々稀にですが何かしらの不具合が生じ…人としての理性を保った鬼を生み出しているのだと、私は考えております」
説明を終え、俺は耀哉様と柱の皆様に一礼する。
………実のところ、今の説明で俺は敢えて話していない部分があったりする。鬼舞辻無惨が不完全な存在という考察に嘘は無いが、それが
個人的には戦国時代に遭遇した彼に切り刻まれた結果、力に限界が生じたのだと考えたいところだがな。
「東雲、人の理性を保った鬼…それが生まれる確率はどのくらいだ?」
ここで口を開く宇髄様。確率か…。
「過去300年分の記録での計算になりますので、厳密な数字とは少々言い難いですが…およそ、1000分の1から1200分の1程度だと思われます」
「文字通り千に一つか…当然と言えば当然だが、あまり高くは無いな」
「いえいえ、自然界における突然変異の確率は10万分の1から100万分の1。それに比べればはるかに高確率かと」
「そ、そうか…あともう1つ。普通の鬼になるか、人としての理性を保った鬼になるか、その分かれ目は何だと思う? 血筋や性別、年齢か? それとも何かしらの外的要因か?」
「残念ながら、現時点では何の共通点も発見出来ていません。確証は持てませんが…運という可能性も捨てきれません」
「いい加減にしやがれェ!」
宇髄様の問いに答えた瞬間、爆発する不死川様。やれやれ、そろそろ限界を超えると思っていたが…予想通りだな。
最後までお読みいただきありがとうございました。
次回、柱合裁判終結。
※大正コソコソ噂話※
那田蜘蛛山での任務が命じられる前日。麟矢は後峠さんにある物の調達を命じました。
それはこの後に起こるある事件に備えてであり、麟矢にとってもかなり高額な買い物となったようです。