鬼殺隊監査役・東雲麟矢   作:SS_TAKERU

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お待たせいたしました。

お楽しみいただければ幸いです。


肆拾弐之巻 -賢明な判断、愚かな判断-

炭治郎視点

 

 鬼殺隊本部で行われた禰豆子の存在を容認するか否かを決める柱合裁判。それを無事に乗り切った俺と禰豆子は、その後に行われた柱合会議を終えた麟矢さんと共に帰宅。

 

「炭治郎! 禰豆子ちゃん! よかった! 本当によかったよ!」

「柱の大部分が容認してくれたって、凄いな…兄貴も、認めたのかな…?

「何でもいいけどよ! 早く飯にしようぜ! 天婦羅天婦羅!」

 

 善逸と玄弥、そして伊之助に迎えられた後、麟矢さん手づから揚げてくれた天婦羅を心行くまで堪能した。そして―

 

「麟矢さん、炭治郎です」

 

 風呂に入り、他の細々としたことを済ませた後、俺は前以て来るように言われていた麟矢さんの部屋を訪れた。

 

「どうぞ、入ってください」 

「失礼します」

 

 麟矢さんの承諾を得てから扉を開き、部屋の中へと入っていく。

 

「どうぞ、炭治郎君。そこの椅子に座ってください」

「は、はい」

 

 麟矢さんに促され、椅子に座った訳だけど…どうして、執事の後峠さんや女中頭の絹江さんも麟矢さんの部屋(ここ)にいるんだろうか?

 

「さて、炭治郎君にここへ来てもらった理由ですが…()()()()()()()()()()()()()です」

「!」

 

 禰豆子の今後。麟矢さんの言葉に、俺は改めて背筋を正す。一体、何を言われるんだろうか?

 

 

麟矢視点

 

「炭治郎君。もう少し肩の力を抜いてください。今のままでは途中で倒れてしまいますよ」

 

 ただでさえ伸びていた炭治郎君の背筋が更に伸び、ガチガチになりつつあることを察し、力を抜くよう声をかける。そして、炭治郎君の肩から力がある程度抜けたことを確認し…

 

「昼間の柱合会議で、禰豆子ちゃんを鬼殺隊の戦力として組み込むか否かが話し合われました」

 

 俺は本題へと入っていく。

 

「禰豆子を…ですか」

「えぇ、鬼である禰豆子ちゃんに戦場へ出てもらい、実際に鬼と闘う姿を見せることで、一般隊士に人の理性を保った鬼が存在していること、人の理性を保った鬼は味方であることを周知させることが出来る。という意見が出た訳です」

「それは…そうかもしれません」

「しかしながら、『将来的には行う価値があるが、今はまだ時期尚早』『現場に混乱を招くだけ』といった意見も出て、文字通りの賛否両論。最終的には『離』預かりとし、戦場に出すかどうかは私の判断に任されることになりました」

「あの、麟矢さんは…どう考えているんですか?」

 

 恐る恐るという様子で、俺の考えを聞いてくる炭治郎君。俺はそんな炭治郎君に優しく微笑みながら―

 

「私としては…()()()()()禰豆子ちゃんを戦いの場に出すことは反対ですね」

 

 自らの考えを話し始める。

 

「たしかに、禰豆子ちゃんを戦力として組み込めば、鬼殺隊にとって大きな助けとなります。しかしながら…鬼になったとはいえ、禰豆子ちゃんは元々、荒事とは無縁な普通の家庭に暮らしていたお嬢さん」

「戦えると言っても、今のそれは鬼としての身体能力や血鬼術に頼り切ったもので、正直なところ…一定以上の力量を持った鬼には通用しないと考えて良いでしょう」

「ですので最低でも、自分なりの戦い方が構築出来る迄は禰豆子ちゃんは戦いの場に立つべきではないと思います。これが理由の1つ目」

「理由の2つ目は、禰豆子ちゃんの意思が確認出来ていないことです。これまでは禰豆子ちゃんも戦わざるを得ない状況だったり、禰豆子ちゃんを周囲に認めさせる必要があった為戦ってもらっていましたが…それは禰豆子ちゃん自身の意思によるものだとは言い切れない」

「もしも禰豆子ちゃんが戦いを望んでいないのだとすれば…無理矢理戦いの場へ連れ出すべきではない」

「………」

「炭治郎君。これはあくまでも提案ですが、禰豆子ちゃんを東雲家(ここ)で匿うというのはどうでしょう?」

「ここ…麟矢さんのご実家で…ですか?」

「えぇ、ここなら絹江さん達のような気心の知れた人も多いですし、護衛という点でも後峠さんを筆頭に、何人かの実力者がいます。名目上行儀見習*1とでもしておけば、周囲の目も誤魔化せるでしょう」

「炭治郎様。私達女中一同は、いつでも禰豆子さんを迎え入れる用意があることをお伝えしておきます」

 

 俺の話を補足するように、口を開く絹江さん。少しの間、部屋を沈黙を包み…

 

「…禰豆子を連れてきます」

 

 そう言って、炭治郎君がいったん部屋を後にした。そして待つこと数分。

 

「禰豆子。出てきてくれるかい?」

 

 炭治郎君に呼ばれ、背負いはこの中から出てくる禰豆子ちゃん。さて、ここからが本番だな。

 

 

絹江視点

 

「禰豆子。麟矢さんが、お前をこの家で匿ってくれると仰っているんだ」

「うー?」

「絹江さん達もお前を歓迎すると言ってくださっている。ありがたいことだよな」

「むぅ…」

 

 禰豆子さんに微笑みながら説明をしている炭治郎様。心の中で何を考えているか…同じ弟妹を持つ者として、手に取るようにわかります。

 

「禰豆子…俺はな。出来ることなら、お前には安全な場所にいてほしい。戦ってなんか欲しくない」

「だから……ここで俺の帰りを待っていてくれないか?」

 

 やはり…長男と長女の違いはあれ、弟妹を持つ者がまず考えることは弟妹の無事。そのこと自体は素晴らしいことと言えるでしょう。

 

「…むぅ!」

「ね、禰豆子!?」

 

 ただし、その思いが一方的なものでないなら…ですが―

 

「禰豆子、俺の言っていること、わかるよな? ここにいれば、痛い思いや怖い思いをする必要はない。心配することなんて無いんだ。俺がお前を必ず人間に戻してみせるから、お前は何も心配せずに―」

「やー!」

「ね、禰豆子…どうしたんだ? 何がそんなに嫌なんだ? 麟矢さんがこんなに―」

「炭治郎様。申し訳ありませんが、禰豆子さんとお話しさせていただいても宜しいでしょうか?」

 

 一番身近であるが故に、気付かないものもある。ここは私が橋渡し役となりましょう。

 

「禰豆子さん。炭治郎さんが言っていることは、貴女を思いやっているが故。これはわかりますよね?」

「………」

 

 私の問いかけに無言で頷く禰豆子さん。私は更に問いかけを続けていきます。

 

「これは私の考えですが…禰豆子さんは、自分だけが安全な場所にいるのが嫌。炭治郎さんだけが危険な戦い赴くことが嫌。そう思っているのではありませんか?」

「むぅ!」

 

 私の問いに何度も頷く禰豆子さん。やはり、そういうことでしたね。

 

「禰豆子…そうなのか?」 

「むー!」

「で、でも…禰豆子は、鬼に変えられてしまった被害者で、本当なら戦う必要なんて…」

「例えそうであっても、兄だけが危険に身を晒すことを受け入れられないものなのですよ。弟妹というものは」

「まぁ、兄という立場にいるとなかなか気づかないものでしょうね。特に何処かの誰かさんは、その辺りを盛大に拗らせてますが

 

 私の言葉に補足してくださる麟矢様。最後のほうに何かを呟かれていましたが…気付かないふりをしておきましょう。

 

「禰豆子…麟矢さんが仰ってたんだ。禰豆子が戦いを望んでいないのであれば、戦いの場に連れ出すべきじゃないって…でも、禰豆子は自分の意志で戦いに挑むんだな? 一緒に、戦ってくれるんだな?」

「むぅ!」

 

 炭治郎様の言葉に笑顔で頷く禰豆子さん。この一件はこれで解決…ですね。

 

 

麟矢視点

 

「炭治郎君。禰豆子ちゃんの意思を確認出来たところで、進めておきたいことがあります」

 

 禰豆子ちゃんの意思を確認出来たところで、俺は炭治郎君に改めて声をかける。

 

「先程も言ったとおり、禰豆子ちゃんの戦い方は未熟。鬼の身体能力頼みの戦い方では、すぐに限界が来ます。そこで…」

「私が、禰豆子さんに戦い方を指導させていただきます」

 

 俺の声に続き、そう言って頭を下げる後峠さん。俺が指導することも考えたが、今の立場と状況を考えると流石に手が回らないからな。後峠さんにお任せするとしよう。

 

「後峠さん…禰豆子をよろしくお願いします!」

「むー!」

 

 炭治郎君の真似をして、後峠さんに頭を下げる禰豆子ちゃん。その可愛らしい姿に微笑みながら、俺は炭治郎君に声をかける。

 

「善逸君達には明日話す予定ですが…君達の怪我が治り次第、特別訓練を行います」

「特別訓練…ですか?」

「えぇ、蟲柱・胡蝶しのぶ様と話をつけてきました。胡蝶様の邸宅である蝶屋敷に泊まり込み、特別集中訓練を行います」

 

 特別集中訓練という言葉に、ゴクリと唾を飲み込む炭治郎君。大丈夫、今の君達なら、原作のように心がバッキバキに折れることは無い筈です。多分ね。

 

 

釜鵺視点

 

「!?」 

 

 な、なんだ? ここは…今の今まで、隠れ家にしている屋敷にいたはずなのに、琵琶の音が聞こえたと思ったら…

 

 ベンッ

 

「!」

 

 ベンッ ベベンベン ベンッ

 

 あの女の血鬼術か? あの女を中心に空間が歪んでいるようだ。そして、琵琶の音が響く度に鬼が一体ずつ

呼び寄せられている。

 これは…十二鬼月の()()()()集められている。こんなことは初めてだぞ。下弦の伍は…まだ来てない。

 

 ベンッ

 

 移動した! また血鬼術!!

 それに、何だこの女は…誰だ?

 

(こうべ)を垂れて(つくば)え。平伏せよ」

「!?」

 

 その声を聞いた途端、俺は心臓と脳を鷲掴みにされたような感覚に襲われ、即座に平伏した。他の鬼達も同じだ。

 それにしてもこの声…無惨様だ……無惨様の声。わからなかった。姿も気配も以前と違う。凄まじい精度の擬態…。

 

「も、申し訳ありません。お姿も気配も異なっていらしたので…」

 

「誰が喋って良いと言った?」

「貴様どものくだらぬ意思で物を言うな。私に聞かれたことにのみ答えよ」

 

 下弦の肆である零余子の声を一蹴する無惨様。俺達はただガタガタと震えながら、無惨様の言葉を待つ。

 

「累が殺された。下弦の伍だ」

「私が問いたいのは1つのみ…『何故(なにゆえ)に下弦の鬼はそれ程までに弱いのか』」

「十二鬼月に数えられたからと言って終わりではない。そこから始まりだ。より人を喰らい、より強くなり、私の役に立つための始まり」

「ここ100年余り、十二鬼月の上弦は顔ぶれが変わらない。鬼狩りの柱共を葬ってきたのは常に上弦の鬼たちだ」

「しかし、下弦はどうか? 何度入れ替わった?」

 

 怒りに満ちた無惨様の声が周囲に響き渡る。だが、俺は下弦の陸になってまだ二年も経っちゃいない。そんなことを言われても…

 

「“そんなことを言われても”、何だ? 言ってみろ」

「!?」

 

 し、思考が読めるのか? まずい…

 

「何がまずい? 言ってみろ」

「ひぃっ!」

 

 次の瞬間、俺は巨大化した無惨様の腕に掴まれ、逆さ吊りにされてしまう。

 

「お許しくださいませ! 鬼舞辻様、どうか! どうかお慈悲を!」

 

 嫌だ! 俺はまだ死にたくない!

 

「申し訳ありません! 申し訳ありません!」

 

 あぁ、嫌だ! 嫌だぁ!

 

「申し訳―」

 

 

病葉(わくらば)視点

 

「ギャッ」

 

 短い悲鳴を残し、無惨様の腕に全身を貪り食われていく釜鵺。

 なんでこんなことに? 殺されるのか? せっかく十二鬼月になれたのに… 

 何故だ…何故だ…俺はこれから、もっと…もっと…

 

「私よりも鬼狩りの方が怖いか」

「!」

 

 無惨様の声にビクリと震える零余子。次はあいつか…

 

「…い、いいえ!」

「お前はいつも、鬼狩りの柱と遭遇した場合、逃亡しようと思っているな」

「いいえ! 思っていません! 私は貴方様のために命をかけて戦います!」

「………」

「お前は私が言うことを否定するのか?」

 

 一際怒りの感情を浮かべながら、腕をゆっくりと動かしていく無惨様。あと瞬きほどの時間であいつも殺される。そう思った次の瞬間―

 

「ち、違います! む、無惨様! お、鬼狩りについて、新たにわかったことがあります! せ、せめてそれを報告させてください!」

 

 零余子が予想外のことを口にした。

 

「………よかろう。言ってみろ」

 

 それに何らかの興味が湧いたのか、腕を下ろして零余子の発言を許す無惨様。

 

「は、はい! 鬼狩りはここ一年ほどの間に、新たに弓隊を組織した模様でございます」

「弓隊?」

「は、はい! 奴らは弓矢と爆薬を用いることで、卑劣にも我らの攻撃が届かない位置から攻撃を仕掛けてまいります。その厄介さは―」

「もういい」

 

 零余子の発言を遮ると同時に、巨大化した腕を叩きつけ、念入りに零余子だった物を磨り潰していく無惨様。

 

「まったく、新たな情報というから少しは期待したが…弓隊? 爆薬? そんなものを脅威に感じること自体、力を与えてやった私への愚弄。そんなこともわからんとは…」

「貴様など喰い殺す価値すらない。床の染みにでもなってしまえ」

 

 床に擦り込まれた血の染みと化した零余子へ冷たく言い放つ無惨様。だめだ、お終いだ。

 思考は読まれ、肯定しても否定しても、真っ当な理由を口にしても殺される。戦って勝てる筈もない。こうなったら…逃げるしかない!

 その瞬間。俺は全速力で逃げ出した。持てる力の全てを注ぎ込んで、天井を蹴り、壁を走っていく。何とか逃げ切れ! 何とか…

 

「もはや十二鬼月は上弦のみで良いと思っている。下弦の鬼は解体する」

「!?」

 

 やられている? そんな…琵琶の女の能力か? いや、琵琶の音はしなかった…ぐぅぅ、何故だ! 体を再生出来ない!

 

「最後に何か言い残すことは?」

「無惨様! ご無礼を承知で申し上げます! 零余子の物言いには問題があったかもしれませんが、鬼狩りの変化は決して楽観視出来ない脅威だと愚考致します!」

「もしお許し頂けるのでしたら、鬼狩りの変化について、更なる調査を行いたいと思っております!」

「その為にも今暫くのご猶予を!」

 

 額を床に擦り付けながら、必死に言葉を紡いでいく轆轤(ろくろ)。すると―

 

「具体的にどれほどの猶予を? 更なる調査とはどのように行う? 今のお前の力でどれ程のことが出来る?」 

 

 無惨様の雰囲気が僅かに変化した。これは…もしかしたら、いけるのか?

 

「弓隊の存在を知ったばかりなので、猶予に関しましてはこれより考えさせていただきたく…あと、猶予に関しても重要ではありますが、行動の指針にする為にも…無惨様が今後どのように動かれるかを御教授頂き…」

 

 その瞬間、俺は無惨様の手で投げ捨てられ、轆轤の傍へと転がった。あぁ、こうなると思っていたさ。

 

「なぜ私が、お前の指図で今後の行動を話さねばならんのだ。甚だ図々しい。身の程を弁えろ」

「ち、違います! 違います! わ、私は―」

「黙れ。何も違わない。私は何も間違えない。全ての決定権は私に有り。私の言うことは絶対である」

「お前に拒否する権利はない。私が“正しい”と言ったことが“正しい”のだ。お前は私には指図した。死に値する」

   

 次の瞬間、零余子同様床の染みと化す轆轤。

 

「最後に言い残すことは?」 

 

 そして、最後に残った厭夢へと向き直る無惨様。こいつも殺される。この方の気分次第で全て決まる。俺も、もう…死ぬ。

 

「そうですね…私は夢見心地で御座います。貴方様直々に手を下して戴けること」

「他の鬼達の断末魔を聞けて楽しかった。幸せでした。人の不幸や苦しみを見るのが大好きなので。夢に見る程好きなので」

「私を最後まで残してくださって…ありがとう」

「………」

 

 鬼である俺が聞いてもイカレている。そんな厭夢の言葉を聞いた無惨様は無言のまま、奴の首に己の爪を突き刺し…

  

「気に入った。私の血をふんだんに分けてやろう」

「ただしお前は血の量に耐えきれず死ぬかもしれない。だが、“順応”出来たならば、更なる強さを手に入れるだろう」

「そして私の役に立て。鬼狩りの柱を殺せ」

「耳に花札のような飾りをつけた鬼狩りを殺せば、もっと血を分けてやる」 

 

 そう言って、琵琶の音と共にどこかへと去っていった。厭夢も何処かへと飛ばされていった。

 畜生…ああ言えば助かったかもしれないのかよ……もう一度、やり…なおした…い。

*1
未婚の女性が良家の家庭に住み込み、手伝いの傍ら、行儀作法や家事などを習得すること




最後までお読みいただきありがとうございました。
次回、蝶屋敷での特別訓練。


※大正コソコソ噂話※
 
弐拾之巻時点では、訓練中の者も含めて42名だった筋交。
現在ではその人数は68名にまで増加しており。各班に1人程度は配属することが可能になっています。
また、筋交が使用するコンパウンドボウで放たれる矢も、従来の爆薬を仕込んだ矢、毒を仕込んだ矢のに加え、幾つか新しい矢が開発されているようです。
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