竈門炭治郎立志編の最終話となります。
お楽しみいただければ幸いです。
炭治郎視点
蝶屋敷に泊まり込んで行われた特別集中訓練。
俺達とカナヲはしのぶさんや麟矢さんの指導を受けながら、ひたすらに鍛錬に励み…自らの実力を可能な限り高めていった。
予定していた2週間という時間はあっという間に流れ、遂に最終日。訓練の総仕上げは初日と同じくカナヲとの試合だ。
「よぉし! まずは俺だ!」
最初に挑んだのは伊之助。カナヲと一進一退の攻防を繰り広げ、4対4で迎えた9本目。
「そこまで!」
「……ちくしょう! あと一歩届かなかったかよ!」
伊之助が繰り出した『参ノ牙・喰い裂き』を紙一重で避けたカナヲの一撃が、伊之助の胴に入り、勝負あり。
「次は俺! 伊之助、敵は取ってやる!」
次に挑んだのは善逸。伊之助との戦いを見て、長期戦は不利だと考えたのだろう。『壱ノ型・霹靂一閃』を軸にした戦いで、続けて3本を先取。
このまま勝負を決めるかと思われたが、カナヲも負けていない。すぐさま3本を取り返す。
その後更に1本ずつ取り合った後―
「そこまで!」
「………紙一重か!」
カナヲの剣が、ホンの一瞬だけ早く善逸を捉えて勝負あり。よし、最後は俺だ!
俺とカナヲの試合は、2本取られては2本取返すを繰り返し…最後の9本目。
「うぉぉぉぉっ!」
カナヲの連撃を俺は必死に凌ぎ続ける。そして、連撃が僅かに途切れた瞬間、俺は攻撃に転じ―
「はぁぁぁっ!」
「!?」
カナヲの手から木刀を弾き飛ばした! でも、その代償として、俺の木刀も中程から折れてしまう! いや、そんなのは些細なことだ!
「うぉぉっ!」
半ば無意識に俺は折れた木刀を投げ捨て、カナヲの手を掴む! そのまま足を払い―
「そこまで!」
倒れたカナヲの腹に拳を寸止めし、勝利することが出来た。
「勝った…炭治郎が勝った!」
「うぉぉぉっ! 権八郎がやりやがった!」
「炭治郎! お前ならやってくれるって信じてたぞ!」
試合が終わり、カナヲと互いに礼をした直後、善逸達が駆け寄って俺を揉みくちゃにしていく。その光景を麟矢さんも暫く嬉しそうに見つめ…
「さぁ、喜ぶのは一旦終わりにして。2週間お世話になった感謝を込めて、訓練場を奇麗に掃除しましょう!」
俺達にそう声をかけてきた。綺麗に掃除か…よぉし、やるぞ!
2時間かけて訓練場を徹底的に掃除した後、善逸達は寝床にしていた部屋へ荷物を取りに戻っていった。俺も荷物を取ってこないといけないけど…
「しのぶさん、最後に一つ聞きたいことがあるんですけど…」
どうしても気になっていたことをしのぶさんへ聞くことにした。
「何でしょうか?」
「『ヒノカミ神楽』って、聞いたことありますか?」
「ありません」
「!? えっ、あっ、じゃっじゃあ…じゃあ、火の呼吸とか…」
「ありません」
えっ!? どういうことなんだ? ヒノカミ神楽は火の呼吸じゃないのか!?
俺は父のこと、那田蜘蛛山でのこと、その他関係ありそうな事柄をしのぶさんへ洗い浚い説明。
「なるほど。何故か炭治郎くんのお父さんは、火の呼吸を使っていた。火の呼吸の使い手に聞けば、何かわかるかもしれないと。ふむふむ…『炎の呼吸』があることはご存じですよね?」
「はい、麟矢さんも使っていらっしゃるので…あの、『炎の呼吸』と『火の呼吸』は同じものじゃないんですか?」
「私も仔細はわからなくて…ごめんなさいね。ただ、その辺り呼び方についてが厳しいのですよ」
「『炎の呼吸』を『火の呼吸』と呼んではならない。詳しいことは炎柱の煉獄さんか…あるいは東雲さんに尋ねてみるといいかもしれません」
「麟矢さんに、ですか?」
「東雲さんは先日の柱合裁判を迎えるにあたって、鬼殺隊本部に保管されている報告書などを片っ端から読まれています。もしかしたら、何かご存知かもしれませんよ」
「そうですね! 麟矢さんに聞いてみます!」
「煉獄さんには私の方からお願いしておきましょう。多忙な方なので、すぐには返答が来ないかもしれませんが」
「よろしくお願いします!」
俺はしのぶさんに一礼し、荷物を取りへ部屋へと急ぐ。荷物を纏めたら、お世話になった人達に挨拶してこよう。
アオイ視点
「そうですか! もう行かれるんですね」
私などの為にわざわざ挨拶へ来てくださった竈門さんに、私は
「2週間という限られた時間でしたが、同じ
「ありがとう」
「お気をつけて!」
「アオイさんにはたくさんお世話になったなぁ。忙しい中、本当にありがとう。おかげで俺達強くなれたよ」
笑顔でそう言ってくださる竈門さん。だけど、私にはその笑顔が眩しくて…まっすぐ見ることが出来そうにない。
「皆さんに比べたら、私なんて大したことはないので…お礼など結構です。私は選別を運良く生き残っただけ…その後は恐ろしくて戦いに行けなくなった腰抜けなので」
自分を卑下するようにやや早口で呟き、竈門さんから視線を逸らす。まったく…自分が情けなくなります。
「そんなの関係ないよ。俺達を手助けしてくれたアオイさんは、もう俺達の一部だから。アオイさんの思いは俺が、俺達が戦いの場に持って行くし」
「えっ…」
竈門さんの言葉に私は胸が熱くなり、慌てて彼の顔に視線を送りますが…
「また、
それに気づかず走り去ってしまう竈門さん。
「どうか、ご無事で」
私の呟きは誰にも聞かれることなく、風に乗って何処かへと飛んでいきました。
炭治郎視点
アオイさんへの挨拶を済ませた俺は、もう1人挨拶をしておきたい人を探し―
「あっ、いたいた。カナヲ!」
縁側に座っていたカナヲを見つけると、手を振りながら駆け寄り、声をかけた。
「俺達、そろそろ出発するよ。2週間、色々とありがとう」
「………」
「君は凄いね。同期なのにもう『継子』で。俺達も頑張るから」
「………」
俺の問いかけに何も答えず、ニコニコと笑顔を見せているカナヲ。どういうことなんだろう?
「………」
「………」
「………」
「………」
どうするべきなのかわからずに戸惑っていると、カナヲは那田蜘蛛山の時のように銅貨を取り出すと、それを指で弾き、受け止めて何かを確認。
「貴方達と共に鍛錬することが私の為になる。師範がそう指示したから、それに従っただけ。実際、私にも得るものがあった。お礼を言われる筋合いはないから。さようなら」
その直後、カナヲはまるで流れる水のようにスラスラと言葉を紡ぎ…また静かになった。だけど、喋ってくれた!
「今投げたのは何?」
「さようなら」
「それ何?」
「さよなら」
「お金?」
カナヲから冷たくあしらわれながらも、俺は隣に座って声をかけ続ける。
「表と裏って書いてあるね。なんで投げたの?」
「………」
「あんなに回るんだね」
やがて、カナヲも根負けしたのだろう。掌の銅貨を見つめながら、ゆっくりと口を開いてくれた。
「指示されていないことは、これを投げて決める。今あなたと話すか話さないかを決めた。『話さない』が表、『話す』が裏。裏が出たから話した。さよなら」
そして再び口を閉ざすカナヲ。だけど、それで引く俺じゃない。
「なんで自分で決めないの?」
「………」
「カナヲはどうしたかった?」
「…どうでもいいの。全部どうでもいいから。自分で決められないの」
しつこいと思われることを承知で、カナヲに声をかけ続け…カナヲの思いを引き出すことが出来た。自分で決められない…か。いや、そんなことは無い筈だ。
「この世にどうでもいいことなんて、無いと思うよ」
「………」
俺の声に黙ったままのカナヲ。俺はカナヲに伝わるよう言葉を選びながら、思いを伝えていく。
「全部がどうでもいいと思っているなら、しのぶさんやアオイさん、なほちゃん達と話をしている時に笑ったり、麟矢さんが作ってくれたご飯を食べて美味しいと思ったりしない筈だよ」
「………」
未だ黙ったままのカナヲ。だけど、瞬きの回数が増えたりして、微かに反応している。
「きっと、カナヲは心の声が小さいんだろうな。うーん……指示に従うのも大切なことだけど…」
俺は腕を組んで少しの間考え…
「
「えっ? うん。あっ…」
「ありがとう!」
カナヲから銅貨を受け取って、庭へと向かう。
「よし! 投げて決めよう!」
「何を?」
「カナヲがこれから、自分の心の声をよく聞くこと!」
その声と共に、俺は思いっきり銅貨を空へと弾き、落下地点を予想しながら動いていく。
「表! 表にしよう! 表が出たら、カナヲは心のままに生きる!」
そう言いながら落下地点で落ちてくる銅貨を待ち構えていると、突然の突風! 銅貨の落下地点が大きくずれた!
「わっ、あれっ、どこ行った!?」
俺は慌てて落下地点を再予測。
「おっとっと…ここだ!」
なんとか銅貨を受け止めることが出来た。
「取れた取れた! カナヲ!」
俺はそのままカナヲの元へと走る。さぁ、結果はどうなった?
カナヲ視点
「取れた取れた! カナヲ!」
そう言いながらこちらへ走ってくる竈門隊士。私の目の前で、手をゆっくりと動かしていく。どっちだろう…落ちた瞬間が背中で見えなかった。
そして、竈門隊士の手で隠されていた銅貨が姿を現した。見えていたのは…表。
「表だぁぁぁぁぁっ!」
その瞬間、まるで自分のことのように大喜びする竈門隊士。その姿を見て呆気に取られていると…
「カナヲ! 頑張れ! 人は心が原動力だから、心はどこまでも強くなれる!」
竈門隊士は私の手を握り、目を見ながらそう言ってきた。
「………」
「じゃ、またいつか!」
突然のことで、私は全く反応出来ずにいる私に手を振り、竈門隊士は走り出した。その後姿を見送った私は我に返り―
「なっ、なんで表を出せたの?」
必死に声を絞り出した。投げる手先は見ていた。小細工はしていなかった筈…単なる偶然? そうだとしても、何故あそこまで表が出ると信じられたの?
「偶然だよ。それに裏が出ても、表が出るまで何度でも投げ続けようと思ってたから」
「え…」
あっけらかんとそう言って、去っていく竈門隊士。
「………」
私は無言で手の中の銅貨を見つめ…
-カナヲ! 頑張れ! 人は心が原動力だから、心はどこまでも強くなれる!-
竈門隊士の言葉を心の中で繰り返す。気が付くと私は銅貨を抱きしめていた。どうして、こんなことを?
「カナヲさん! しのぶ様がお呼びです!」
その理由を考える間もなく聞こえてきたきよの声。思わず縁側から転げ落ちてしまったけど…どうしてだろう?
炭治郎視点
蝶屋敷から麟矢さんのお宅へと戻った俺達は、鬼殺隊隊士としての生活へと戻った。と言っても那田蜘蛛山で日輪刀が折れてしまった俺と伊之助は、任務には出られずに鍛錬の毎日だ。そして1週間の時が流れ―
「伊之助伊之助! もうすぐ打ち直してもらった日輪刀が来るって!」
ようやく打ち直された日輪刀が届くことになった。
「ほんとか!?」
「うん、今鴉が知らせてくれたんだ!」
伊之助に声をかけ、日輪刀を持ってくる鋼鐵塚さんを迎えようとするけど―
「炭治郎くん、ちょっと待ってください」
麟矢さんに止められてしまった。
「なんだよ欣也! 邪魔すんのか!」
「いえいえ、邪魔するつもりはありませんが…鋼鐵塚さんをここで迎えるのは、少々問題があります。別の場所で
怒る伊之助にそう言いながら、鎹鴉のもおりあんを呼ぶ麟矢さん。迎え撃つって…どういう意味だろう?
15分後、麟矢さんのお宅からほど近い空き地へとやってきた俺達は、間もなく到着する鋼鐵塚さん達を待っていた訳だけど…
「あ、見えた!」
5分もしないうちに、道の向こうに人影が見えた。あの背格好、間違いない鋼鐵塚さんだ!
「おーいおーい! 鋼鐵塚さーん!」
俺が声を上げると向こうも気が付いたのだろう。こちらへ近づく速度が速くなったようだ。
「ご無沙汰してまーす! お元気でしたー…か…」
その瞬間、2つの目でハッキリと確認したものを俺は信じられなかった。近づいてくるのは、包丁を手にした鋼鐵塚さん!?
「危ないっ!」
あまりに異常な姿を見たせいで、硬直した俺に声を張り上げる麟矢さん。おかげで俺は我に返り―
「ギャアアッ!」
ギリギリで包丁を避けることが出来た。
「はっ、はが…」
「よくも折ったな、俺の刀を…よくもよくもォオ!」
殺意全開で俺ににじり寄る鋼鐵塚さん。俺は咄嗟にその場で土下座し―
「すみません! でも、本当にあのっ…俺も本当に死にそうだったし、相手も凄く強くって…」
「違うな! 関係あるもんか! お前が悪い! 全部お前のせい! お前が貧弱だから刀が折れたんだ! そうじゃなきゃ俺の刀が折れるもんか!」
必死に謝罪したけど、鋼鐵塚さんの怒りは収まらない。どうすればいいんだ!?
「炭治郎くん。そこまでで良いですよ」
その時、割って入ってきたのは麟矢さんだ。
「なんだお前! 俺はこいつに文句があるんだ! 邪魔するな!」
「いや、邪魔しないわけにはいかないでしょう。目の前で殺人が行われかねないのに」
激高する鋼鐵塚さんに対し、淡々とした様子の麟矢さんは、俺の方を向くと―
「炭治郎くん、君は刀を雑に扱って折ってしまったんですか?」
そう聞いてきた。もちろんそんな訳はない。俺は全力でそれを否定する。
「ですよね。正当な使い方をして折れてしまったのであれば、それは使い手ではなく、
俺の否定する声を聞いた麟矢さんは、満面の笑みを浮かべて鋼鐵塚さんにそう告げる。だけど、そんなこと言ったら!
「お、俺の刀に、問題があるだと…」
麟矢さんの声にわなわなと震えだす鋼鐵塚さん。いけない、このままじゃ麟矢さんが!
「打ち直してきたっていう日輪刀も、どうせ大したことのない
「鈍なんかじゃない! 俺の刀は最高だ!」
「じゃあ、見せてくださいよ。最高の刀とやらを」
「あぁ見せてやる! 俺の最高傑作を見て、慄くがいい!」
そう言って、荷物を預けていたひょっとこのお面を被った男性からひったくるように刀を取り、麟矢さんに突きつける鋼鐵塚さん。
「拝借」
麟矢さんはその日輪刀を手に取ると―
「はっ!」
突然、宙に放り投げた!
「なっ!?」
「えっ!?」
「はぁっ!?」
誰もがその意図が分からず、変な声を上げる中、麟矢さんは構えを取り―
「炎ノ型。弐ノ段。異端・昇り炎天!」
己の小太刀を下から上に向けて弧を描く様に振るい、日輪刀を真っ二つにしてしまった!
「折った!」
「嘘ぉ!」
「ぬぁぁぁぁぁっ!」
目の前で最高傑作を真っ二つにされ、声をあげながら崩れ落ちる鋼鐵塚さん。麟矢さんはそんな鋼鐵塚さんに笑顔のまま近寄り―
「俺ごときの一撃で折られる程度の代物が最高傑作とは、片腹痛い。さっさと作り直してください」
真っ二つになった日輪刀を投げ渡していた。いや…今まで動揺して気づかなかったけど…麟矢さん、相当怒ってる!?
「う、うぅぅ…」
「
「ち、ち…ちく…畜生っ! 覚えてろっ!」
真っ二つになった日輪刀の残骸を抱え、泣きながら走り去っていく鋼鐵塚さん。これで良かったんだろうか…
「ま、まぁ…鋼鐵塚さんは情熱的な方で、人一倍刀を愛していらっしゃいますから…あ、私は
15分後、困ったように鋼鐵塚さんを擁護する鉄穴森さんを連れ、俺達は麟矢さんのお宅へと帰宅。
「伊之助殿の刀を打たせて頂きました。戦いのお役に立てれば幸いです」
鉄穴森さんが打ったという伊之助の日輪刀を見せてもらった。
「おぉ…」
伊之助が握った途端、その色を変えていく日輪刀。
「あぁ、奇麗ですね。
日輪刀の色を見て、うんうんと頷いている鉄穴森さん。やがて、何かを思い出したように手を叩き―
「実は東雲殿から連絡を受け、伊之助殿の刀にはある工夫を施しています。峰の方にご注目ください」
その声に、俺達の視線が伊之助の日輪刀。その峰に集中する。
「峰が…鋸みたいになってる!」
善逸の声が響く中、その通り! と言わんばかりに再度手を叩く鉄穴森さん。
「伊之助殿が使う型に、日輪刀を鋸のように扱うものがあるとお聞きしまして、
鉄穴森さんの説明を聞きながら、握り心地を確認する伊之助。声は出していないけど、相当喜んでいるのが匂いでわかる。
「こいつはいいぜ! ありがとよ! えーと…」
「鉄穴森です。鉄穴森鋼蔵」
「ありがとよ! 鉄穴森のおっさん!」
珍しく相手の名前を間違えずにお礼を言った伊之助。だけど…
「おっさん…おっさん……おっさん………まだ26なのに…」
おっさん呼ばわりが良くなかったみたいだ。鉄穴森さんはどこかしょげた様子で帰っていった。でも、麟矢さんが用意していた焼き菓子の詰め合わせは受け取ってくれたから…きっと大丈夫だろう。
とにかく、伊之助も任務に復帰出来て何よりだ。あとは俺の日輪刀が届けば…届く、よな?
最後までお読みいただきありがとうございました。
1話もしくは2話外伝を投稿した後、無限列車編へと突入します。
※大正コソコソ噂話※
この一件から10日後。無事に炭治郎くんの日輪刀が届けられ、無事に任務へ復帰することが出来ました。
日輪刀の出来そのものは素晴らしく、麟矢もこれなら合格と言うほどでしたが…
添えられていた手紙には『刀に罅一つでも入れたら殺してやる』といった文言と、麟矢への罵詈雑言が山のように綴られていて、麟矢は「何も学習していない…」と頭を抱えたそうです。