鬼殺隊監査役・東雲麟矢   作:SS_TAKERU

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お待たせいたしました。

『異世界食堂』とのクロスオーバー外伝の最終回をお届けします。

前回、前々回同様、肆拾肆之巻から分岐するパラレルワールドの物語となります。クロスオーバーやパラレルワールドなどが苦手な方はご注意ください。

それでは、お楽しみいただければ幸いです。


外伝其之参 -扉の向こうは(後編)-

「おう、それじゃあ昼飯にしようか。東雲さんも厨房で申し訳ありませんが…その代わり、一食奢らせてもらいますよ」 

「それは…ありがとうございます。それでは遠慮なくいただきますね」

 

 マスターが差し出したメニューを受け取り、その内容に目を通していく。さて、何を食べるか…

 

やはりここは定番のカレーやオムライス、ハンバーグあたりに…いや、向こうでは暫く食べられそうにない変わり種を攻めるのも捨てがたい

 

 ずらりと並ぶ魅力的なメニューの数々。この中から一つを選ぶのは正直言って苦行に等しい。

 ここは追加料金を払って、数種類注文するのがベターか…

 

「ん?」

 

 その時目に飛び込んできたのは()()()()と銘打たれた一つのメニュー。今の俺にぴったりのメニューはこれだ!

 

「マスター!」

「お決まりですか?」

「トルコライス*1をお願いします」

「組み合わせは?」

「基本のエビピラフ、ナポリタン、豚カツで。あと…飲み物でコーラを」

「かしこまりました」

 

 俺の注文に一礼し、調理を開始するマスター。俺は背後からその光景を見ていた訳だが…

 

「うん、動きに全く無駄がない。例えるならば歴戦の古兵(ふるつわもの)だね」

 

 お金を取っても構わないのでは? と考えてしまうほど、マスターの動きは見事の一言だった。

 

 

アレッタ視点

 

「お待たせいたしました。トルコライスとコーラになります」

「ありがとうございます」

「こっちも出来たよ。今日の賄はライスコロッケを作ってみました」

 

 リンヤさんの前にマスターが作ったトルコライスが運ばれたのに少し遅れて、サキさんの作ったまかない…ライスコロッケが運ばれてきました。

 

「えっと、コロッケがジャガイモ(ダンシャクの実)を潰して揚げたもので、ライスは…あのライスですよね?」

「そう、簡単に言うと味付けしたライスに衣をつけて揚げたものがライスコロッケだね。さっ、冷める前にに食べよう。アレッタちゃん、目が釘付けになってるし」 

「ッ!?」

 

 サキさんの声で、自分がライスコロッケをジッと見つめていたことに気づきました。そして顔が赤くなるのも…あぁ、またやってしまいました。

 

 

「「「いただきます」」」

 

―いただきます

 

 マスターとサキさんとリンヤさん。そしてクロさんの、簡潔な食事への祈りを捧げる声を聞きながら、私も感謝の祈りを捧げます。

 

「我らを見守る魔族の神よ。今日も糧をお与えくださった慈悲に感謝いたします」

「はい、アレッタちゃん」

「ありがとうございます」 

 

 大皿に盛られたライスコロッケ。サキさんが手ずから小皿に移してくれたそれを受け取った私は、ナイフとフォークを手にして、早速食べ始めました。

 まだ、熱々のライスコロッケをナイフで半分に切り、フォークで刺してから…

 

「あっつ!? ………でも、美味しいです!」

 

 息を吹きかけて冷ましたつもりだったけど、まだまだ熱々だったライスコロッケ。

 ケチャップ(マルメットのソース)で味付けされたライスには、ベーコン(燻製肉)とチーズが混ぜられていて、外側はサクサクだけど、中はトロリとしていて…凄く美味しい!

 

「…美味い。すごく…美味いです」

 

 その時聞こえてきたリンヤさんの声。ふと気になった視線を送ると…リンヤさん、泣いてる!?

 

 

麟矢視点

 

「いただきます」

 

 食膳の挨拶を済ませた俺は、まずスプーンを手に取り、エビピラフを一口。

 『異世界食堂(ねこや)』のピラフは、炒めた米に具やブイヨン、香辛料を加えて炊き上げる正式なピラフではなく、まずフライパンで具を炒めてから、バターライスを加えるタイプ…いわば炒飯に近い、洋食風ピラフだが、パラっとした仕上がりといい、塩加減といい、まさに絶品だ。

 次はスプーンをフォークに持ち替えて、ナポリタンを一口分巻き取って口へと運ぶ。うん、敢えて茹で置きしたスパゲッティをバターで炒め、ケチャップなどで味付けした定番のナポリタン。だが、プロが作るとここまで違うものなのか。

 炒められた麵の香ばしさ、熱を加えられたケチャップの柔らかな酸味、バターの塩気。具として加えられた玉葱、ピーマン、マッシュルーム、ベーコン。全てが渾然一体となり、この美味さを生み出している。

 そして、デミグラスソースのかかった豚カツを…

 

「…美味い。すごく…美味いです」

 

 一口食べた瞬間、俺はそれだけを絞り出し…涙を零していた。

 

「え、えと…リンヤさん、大丈夫ですか!?」

 

 その姿に驚いたのだろう。アレッタさんの焦ったような声が響く。俺は慌てて涙を拭い―

 

「すみません、お見苦しいところを見せてしまいました。いやぁ、あまりの美味しさと懐かしさで、つい…」

 

 と、皆さんに謝罪した。

 

「いや…そこまで感動してくれたこと、料理人冥利に尽きるよ」

「麟矢さんにしてみれば、18年ぶりの洋食だからね。懐かしさも一入(ひとしお)だよね…」

 

―私も初めてチキンカレーを食べた時は、衝撃に心を打たれた。気持ちはわかる。

 

 しかし、マスターも早希さんも、そしてクロさんもそう言って、俺の涙に理解を示してくれた。うん、少し向こうの事情も話しておくか。

 

「いやぁ、向こうでも八方手を尽くして色々と再現しているんですけど、やはり材料の差は大きいですね。養殖や栽培の技術は勿論、輸送関係も今ほど発達していませんから」

「それはあるだろうね。たしか、野菜の品種改良に初めて成功したのは大正の終わり*2だった筈だし」

「ええ、向こうで手に入る野菜の殆どは品種改良が進んでいないものばかりですからね。味は蘞味(えぐみ)や渋味が強いし、取れ高*3も現代の品種には及びません。肉類もこの時代のブランド牛やブランド豚に比べると…」

「なるほどな」

「魚介は天然の近海物が頼りですが、輸送の関係でこの時代ほど容易には手に入りません。まぁ、近いうちに東雲商会(父の会社)()()()()()()()()()()()()()()()なので、それが軌道に乗れば状況は大分変わるでしょうね」

 

 そんなことを話しながら、俺はトルコライスを食べ進め―

 

「ごちそうさまでした」

 

 おまけで早希さんの作ったライスコロッケも味見させてもらい、昼食を終了した。さて、そろそろ戻らないといけないな。

 

「マスター、名残惜しいですがそろそろ…それでお手数なんですが、向こうにお土産を持って帰りたいんです。頼めますか?」

「あぁ、構わないよ。ご注文は?」

「では、かなり多くなりますが…メンチカツサンド、エビカツサンド、コロッケサンドをそれぞれ5人前。フルーツサンドを生クリームとカスタードクリームで3人前ずつ。それから『フライングパピー』のクッキーアソートを一番大きいサイズで3つ、カスタードプリンを10個と、パウンドケーキを…味はお任せするので5本ほど。それからウイスキーを瓶で1本いただけますか?」

「…他にお客さんのいない今なら可能か。だが、それだけの量になると、最低30分は待ってもらうことになるが…構わないかい?」

「はい、大丈夫です。あ、支払いはこれで」

 

 マスターの問いに答え、俺は財布から1枚の金貨を取り出す。

 

「新10円金貨*4です。専門店で買い取ってもらえば、最低でも7、8万の価値が付く筈です*5

「金貨での支払いは構わないが…問題はお釣りをどうするかだな。こっちの貨幣や紙幣は意味が無いだろう?」

「それでしたら、おつりはお店のほうで取っておいていただけませんか? 恐らく次の土曜も来店すると思いますので、その時の支払いに使わせてください」

「そうするのが一番か。わかったよ、残高はこちらで預からせてもらう」

「よろしくお願いします」

 

 金貨を受け取って調理へと向かうマスターへ一礼し、俺はお土産が揃うのを静かに待つ。そして40分後。

 

「お世話になりました。また来ます」

「はい。いつでもどうぞ」

「「ありがとうございました!」」

 

―ありがとうございました。

 

 マスター、アレッタさん、早希さん、クロさんの言葉に送られながら、大量のお土産を手にした俺は店の扉を開き、鬼滅の刃世界(元の世界)へと帰還した。

 

 

耀哉視点

 

 麟矢くんが扉の中へと入って行ってそろそろ5時間。私の勘が正しければそろそろ戻って来る筈。

 

「戻りました!」

 

 心の中でそう呟いた瞬間、扉が開き麟矢くんが戻ってきた。両手で抱えるほど大きな皿を持っているし、両腕には輪の付いた白くて柔らかい袋のような物を複数提げている。随分と収穫があったようだね。

 そして、麟矢くんが扉を閉じた瞬間、扉は影も形も無くなってしまった。これはまた…なんとも不思議な扉だ。

 

「麟矢様! ご無事だったんですね!」 

 

 そう言いながら、今にも飛び出していきそうなひなきを手で制し、私は麟矢くんに報告を促す。 

 

「報告いたします! 例の扉の先には、異界の料理屋が存在しておりました! これは、お土産です!」

 

 笑顔でそう告げた麟矢くんは、私の許可を得た上で座敷へと上がり、座卓へ土産だという異界の料理を次々と並べていく。

 

「皆様、色々と疑問に感じておられると思いますが…まずはお食べになってください! 味は私が保証します!」

「そうだね。麟矢くんを待っていて、私も少々空腹だ。異界の料理、味見させてもらおうかな。皆も遠慮なく座敷に上がりなさい」

「ははっ! では遠慮なく!」

「私も! ご相伴に預からせていただきます!」

 

 率先して私が声を上げると、すぐさま杏寿郎と蜜璃が声を上げ、それを切っ掛けに他の皆も座敷へと上り始める。

 うん、麟矢くんが持って帰ってきた異界の料理。皆で食べるとしよう。今日は無礼講だよ。

 

 

杏寿郎視点

 

「これが異界の料理か! 見た目は洋食なのだな!」

 

 東雲が持って帰ってきた異界の料理。白くて妙に薄く、しかも軽い割に丈夫な大皿に盛られ、極薄で透明な膜のような物で覆われているのは、パンに具を挟んだ…たしかサンドイッチとかとかいう洋食。

 他にも料理を持って帰ってきたそうだが、残りは焼き菓子の詰め合わせなど甘いものらしい。

 

「ええ、異界と言っても西洋の物語に出てくるような異世界ではありません。100年以上未来の日本です」

「なんと! 100年以上先の未来!」

 

 そんなことを考えている最中に東雲が発した言葉。その内容に俺を含む全員が大いに驚いた。すぐさま詳細を聞こうとするが―

 

「お話ししますので、冷める前にお食べになってください」

 

 東雲から再度料理を勧められる。たしかに、冷めてしまっては料理作ってくれた料理人にも申し訳ないな!

 皆を代表して、俺が大皿を覆う透明な幕を剥がすと、膜によって封じられていた香りが一気に室内へと広がっていく。この香り…実に食欲を誘う!

 

「どうぞ、こちらをお使いください」

 

 何気なく差し出された白い皿を受け取ったが…これは紙で出来た皿か?

 

「紙製ですが、水も油も弾く加工が施してあります。それなりに丈夫なので、安心してお使いください」

 

 なんと! 未来の日本にはこのような物が存在しているのか! 内心驚きながら、俺はお館様の希望を聞き、海老の揚げ物が挟まれた…エビカツサンドなるものを1つ皿に載せると、あまね様を経由する形でお渡しする。

 

「ではまずは…このメンチカツサンドを頂こう!」

 

 そして自分の分として、挽き肉の揚げ物が挟まれたサンドイッチ。メンチカツサンドを1つ取り―

 

「いただきます!」

 

 まだ仄かに暖かいそれを一口!

 

「美味い!」

 

 一口齧ると肉汁が溢れ出す挽き肉の揚げ物(メンチカツ)! 衣が真っ黒に染まるほど塗られた甘辛いソース! 揚げ物の熱でしんなりとした甘藍の千切り! そしてそれらを受け止めるフワフワとしたパン !

 全てが組み合わさった味わいは、これまでに食べたことが無いほどの美味!

 

「以前『ビストロド東雲』で食べたメンチカツも美味かったが、これは桁違いだな!」

「100年以上未来の料理。材料の質も調理技術も格段に進歩している訳ですから、桁違いに美味くて当然です」

 

 思わず口から出た言葉にそう答えて笑う東雲。同時に、越えるべき壁が出来た。とも言っていた。うむ! 高い目標を持つことは良いことだ!

 

 

しのぶ視点

 

「伊黒さん! このフルーツサンド、とっても美味しいわ! 一緒に食べましょう!」

「か、甘露寺…わかった、わかったから…もう少し周りの目を気にしてくれ…

 

 数種類の果物と、卵や牛乳、砂糖などで作られたカスタードクリームを一緒にパンで挟んだフルーツサンド。その美味しさに満面の笑みを浮かべて、伊黒さんに薦めている甘露寺さん。

 伊黒さんは困った様子ですが、面と向かって拒否をしていないあたり、満更でもないのでしょうね。

 

「それにしても、異界の料理屋…異世界食堂のねこや、ですか」

 

 扉の向こうについて、東雲さんから聞かされた内容。それはその場にいた誰もが驚きを隠せないものでした。

 まさかあの黒い扉が、約110年先の…それも()()()()()()()()()()()()()()で営業している食堂に繋がっているだなんて、誰が想像出来たでしょう?

 しかも、その食堂『ねこや』は、また別の異世界とも繋がっており、7日に1度異世界の住人達が食事をしにやってきているだなんて…いくら何でも想像の域を超えています。

 ですが、東雲さんが持ち帰ってきたお土産…特に料理が盛られていた不思議な材質の大皿や料理を覆っていた透明な膜も、今の日本には存在しない物。十分な証拠になるでしょう。

 そしてこのフルーツサンドも、今の日本では()()()()()()()()()()()です。

 

「これほど甘く瑞々しい果物を惜しげもなく…こちらで買い求めたら、一体幾らすることやら…」

 

 白く、蕩けるように甘い生クリームと共に挟まれている果物は、全部で4種類。しかし私にわかるのは唯一苺のみ。

 東雲さん曰く、残りはパイナップル、パパイヤ、キウイという外国の果物。未来の日本では栽培技術と輸送技術が格段に進歩したことで、1年中甘い果物が安価で楽しめるそうです。それだけでも、未来の日本がどれだけ進んでいるかがわかりますね。

 

「あの扉は、今後も7日に1度…土曜日に現れる確率が極めて高い。一度利用させてほしいですね」

 

 フルーツサンドを1つ食べ終えた私は、そんなことを呟きながら2つ目のサンドイッチをどれにするか考えます。コロッケサンドも良いですが、甘露寺さんお気に入りであるカスタードのフルーツサンドも美味しそうですね。

 

 

麟矢視点

 

「では、あの黒い扉…『ねこやの扉』には一切手出ししない。それで構わないね?」

 

 俺が異世界食堂(ねこや)から帰還して1時間後。俺の持ち帰った土産を堪能した耀哉様や柱の皆さんは、『ねこやの扉』について協議。

 一部から若干の反対意見はあったものの、最終的には『ねこやの扉』の排除などは行わず、静観。むしろ、利用出来る時は利用しようという話で纏まった。そして―

 

「次に扉が現れるのは、7日後。まずは君達で使うといい。恐らく、様々な学びを得ることが出来る筈だよ。まぁ、勘なんだけどね」

 

 耀哉さまのご厚意で、まず柱の皆さんが『ねこや』へ訪問することになった。

 だが、全員で一斉に訪問するのは店にも迷惑。ということで―

 

「手っ取り早くクジで組めましょう」

 

 7日後、最初に訪問する3人をクジ引きで決めることにしたのだが…それが良くなかった。何故なら…当たりクジを引き当てたのはあの3人だったのだから!

 

「………」

「おい、東雲ェ…なんで冨岡(こいつ)なんかと一緒に行かなきゃいけねぇんだ、あァ!?」

「まったくだ。東雲、貴様のことだ。クジに何か細工をしたんだろう? きっとそうだ。いや、そうに決まっている」

 

 無言の冨岡様に、声を荒げる不死川様、何故か俺にあらぬ疑いをかけてくる伊黒様。当然クジは引き直しとなったのだが、不思議なことにこの組み合わせが3回連続で成立し…色々と面倒な事態となったのは言うまでもない。

*1
長崎県、主に長崎市を中心としたご当地グルメ。一皿に多種のおかずが盛りつけられた洋風料理であり、基本はピラフ、スパゲティ、豚カツの組み合わせ。別名は大人のお子様ランチ

*2
世界で初めて野菜の品種改良が行われたのは1926(大正15)年。埼玉県に当時存在していた施設で、茄子のF1種(一代雑種)が作られた。

*3
農作物の収穫量のこと

*4
1897(明治30)年から1910(明治43)年まで日本で鋳造され発行、流通した金貨の1つ。

*5
1枚当たりの重さは約8.33g。その9割が金である為、単純な金としての価値も高い




最後までお読みいただきありがとうございました。

次回より本編へと戻り、第参部 無限列車編へと突入します。

※大正コソコソ噂話※
 
今回、麟矢が異世界食堂から持ち帰ったお土産。
その内、サンドイッチ各種は産屋敷家の皆さんと柱一同で分けあって食べたわけですが、残りはー

クッキーアソート3缶のうち、2缶は産屋敷家と蝶屋敷へそれぞれ進呈。最後の1缶は麟矢が持ち帰り、両親へのお土産へ。
プリン10個のうち、7個は産屋敷家へ、2個は胡蝶様と甘露寺様へ進呈。残りの1個は東雲商会の料理長へのお土産へ。
パウンドケーキ5本のうち、2本は産屋敷家へ進呈。3本は麟矢が持ち帰り、実家で働く使用人達や『離』の面々へのお土産へ。
ウイスキー1瓶は宇髓様がGET。

と、なっています。
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