鬼殺隊監査役・東雲麟矢   作:SS_TAKERU

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皆様、お久しぶりです。
4ヶ月以上お待たせしてしまい、申し訳ありませんでした。

今回より『無限列車編』に突入していきます。
少し短いですがお楽しみいただければ幸いです。

また、掲載を休んでいた間について、一部ではありますが活動報告に載せております。
興味のある方は、ご覧になって下さい。


本編第参部 無限列車編
肆拾伍之巻 -運命(さだめ)を変える為に-


麟矢視点

 

「ふぅ…」

 

 明日提出する書類…東雲商会商品開発部部長付としての仕事を済ませた俺は、長時間の書類仕事(ペーパーワーク)で強張った体を解し―

 

「…よし」

 

 もう一つの仕事である鬼殺隊隊士としての身支度を整えていく。

 

「麟矢様」

 

 ノックの音と共に、執事の後峠さんが声をかけてきたのはその時だ。

 

「どうぞ」

「失礼いたします。麟矢様、お命じいただいていた件ですが、進捗状況を報告させていただきます」

「お願いします」

 

 俺の声に後峠さんは一礼し、手にしていた書類を読み進めていく。

 

「一番と三番に関しましては予定通り、明日の昼納入されます。共に納入後の点検が終わり次第、玄弥様には習熟訓練へ入っていただきます」

「わかりました。二番の方はどうなりそうですか?」

()()()()()()()を入手するのは不可能との結論に至った為、次善策として故障した物を複数入手し、使用可能な部品を組み合わせることで完全な状態の物を製作する方法を実施しております」

「…間に合いそうですか?」

「軍時代の伝手を使い、部品は昨日までに全て揃えることが出来ております。現在、部品の最終的な選別と組み立てを行っており、期日までには恐らく間に合う…いえ、何としても間に合わせます」

「わかりました。無理を言って申し訳ありませんが、どうかよろしくお願いします」

「かしこまりました」

 

 一礼し、退室していく後峠さんを見送りながら、俺は考えを巡らせる。

 柱合裁判と柱合会議が終わって、一月半。前世の記憶(原作知識)が確かならば、あと10日前後で無限列車での戦いになる。

 原作では、この戦いで煉獄様が命を落とすことになるのだが…そんなことには絶対させない。俺が打てる手は全て打たせてもらい、運命を変えさせてもらう。

 

「そういう意味では、()()()()の手を借りられる事になったのは幸運だ」

 

 無限列車で現れる鬼が何者かを考えた場合、柱をあと二人は駆り出したいところだが、柱の皆さんはそれぞれ任務があり、参戦は不可能。そこで俺の職権をフルに使い、俺が知る限り()()()()()()()()()()()に助っ人を依頼した。

 シフト調整の関係で、こちらに来るのは当日ギリギリになってしまうが…それでも計算上何とか間に合う筈だ。

 

「あとは、玄弥君の習熟次第…だな」

 

 最後にそう呟き、俺は任務へと出発する。煉獄様の運命を変える為にも、目の前の任務をキッチリこなさなくてはな。

 

 

杏寿郎視点

 

「お館様のお成りです」

 

 襖の向こうから聞こえてくるかなた様の声に、俺と隣に座る東雲は姿勢を正し、頭を下げてお館様を迎える体勢を取る。

 かなた様とくいな様の肩を借り、ゆっくりと座敷を進まれるお舘様。そのままご自身の席へと腰を落ち着けられ―

 

「よく来てくれたね、杏寿郎。そして麟矢君」

 

 微笑みと共に我ら二人へお声をかけてくださった。

 

「お館様におかれましてもご壮健でなによりです。益々のご多幸を切にお祈り申し上げます!」

「ありがとう杏寿郎。遠方での任務を済ませたばかりなのに、休む間もなく呼び出してしまい、すまなく思っているよ」

「勿体無いお言葉でございます! お館様のお呼びとあらば、我ら隊士はたとえ地の果てであろうとも、駆け付ける所存!」

 

 俺の答えに微笑みを浮かべたまま頷かれたお館様は、東雲の方へと視線を送られ―

 

「麟矢君も、東雲商会(もう一つ)の仕事があるのに、無理を聞いてくれて感謝しているよ」

「ご心配には及びません。このような時の為、東雲商会の仕事はある程度の融通が利くようにしております」

「それは何よりだ」

 

 東雲とそんな会話を交わされる。そして…本題が始まった。 

 

「杏寿郎。任務を終えてすぐだが、君と麟矢君、そして特別遊撃班『離』に新たな任務を頼みたい」

「ははっ!」

「拝命いたします」

 

 お館様の言葉に俺と東雲は平伏し、任務の内容を伺う。新たな任務、それは鬼が出没している可能性が極めて高い列車、『無限列車』の調査。

 これまでに四十人を超える数の乗客が行方不明となり、調査に赴いた隊士数名も未帰還とのこと。

 これはそんじょそこらの鬼の仕業とは考え難い。であるならば…

 

「鬼の活動開始と思われる時期と比較して、被害者の数が多い…あくまでも現時点での推測ですが、無限列車に出現している鬼は相当強力な個体。最低でも十二鬼月の下弦上位。下手すればそれ以上の可能性は極めて高いですね」

 

 うむ、東雲も同じ結論に至ったか!

 

「これは私の勘なのだが…今回の任務、本来ならば複数の柱を投入すべき事案のような気がしてならない。だが、杏寿郎以外の柱は全員任務で身動きが取れそうにない。杏寿郎、麟矢君、過酷な任務になると思うが、何とかやり遂げてほしい」

 

 その言葉と共に、深々と頭を下げられるお館様。

 

「お館様! 頭をお上げください! 柱として、鬼殺隊隊士として、過酷な現場に身を置くことは、()うに覚悟していること! 何者が相手であろうと、己の責務を果たしてみせましょう!」

 

 俺は咄嗟にそう声を上げ―

 

「耀哉様、柱の皆様には数段劣りますが、私と特別遊撃班『離』も相応の修羅場を潜ってまいりました。煉獄様と力を合わせ、この任務を成し遂げてみせます」

 

 東雲も力強くそう宣言してくれた。うむ、この任務はいつも以上に気合を入れて、臨まなければならないな!

 

 

麟矢視点

 

「流れとしては、このようなものになりますね」

「うむ、これといった修正点は無いと俺も思う」

 

 任務に関する細々とした話し合いも終わり、俺と煉獄様は僅かに緊張感を緩め、互いに笑みを見せる。

 任務の内容はこうだ。開始は四日後の夜。まず、これから三日間の休養を取った煉獄様が、第一陣として先行。無限列車の始発駅がある地域を管轄としている班と合流し、事前調査を実施。最新の情報を収集。

 作戦当日は炭治郎君、善逸君、伊之助君が第二陣として合流し、無限列車に始発駅から乗車。出現するであろう鬼を迎撃する。

 俺と玄弥君、それから助っ人の二人は増援として、後から合流する予定だ。

 

「それでは! お先に失礼させていただきます!」

 

 そんな声と共に立ち上がる煉獄様。これからご自宅へ帰られて、休息を取られるのだろう。だが―

 

「杏寿郎、槇寿郎は元気にしているかな?」 

 

 耀哉様がまるで不意打ちのように、煉獄様にそう問いかけた。

 

「……お館様にまでご心配をおかけし、心苦しく思っております。しかしながら、父は必ず再び立ち上がる。私はそう信じております! どうか今暫く時を頂ければ!」

 

 僅かな沈黙を挟み、そう答える煉獄様。だが、その僅かな沈黙が状況の悪さを物語っている。

 

「そうか、杏寿郎がそう言うのなら、私も信じよう」

「ありがとうございます! それでは、失礼いたします!」 

 

 耀哉様の声にホッとした様子で座敷を後にする煉獄様。俺は煉獄様の気配が感じられなくなったのを確認した上で、耀哉様へ向き直ると―

 

「耀哉様。正直申しまして人様の家庭環境に口出しするのはどうかと思っておりましたが…私の思った以上に、状況は悪いようです。煉獄様に()()()()()()をしようと思いますが…よろしいでしょうか?」

 

 そう問いかけた。

 

 

杏寿郎視点

 

「おかえりなさいませ、兄上!」

「あぁ、千寿郎。今戻った」

 

 俺の姿を見るなり、大急ぎで駆け寄ってきた千寿郎にそう声をかけ、俺は家へと足を踏み入れる。

 ここ最近は班の詰所で寝泊まりしていたから…家に戻るのは、10…12日ぶりか!

 

「すぐにお風呂の準備をします。それからお夕飯の用意も!」

「すまんな、苦労をかける」

 

 俺が帰宅して余程嬉しいのだろう。弾んだ声の千寿郎に苦笑しつつ、俺は廊下を進み―

 

「父上! ただいま戻りました!」

 

 部屋で横になっている父…煉獄槇寿郎に声をかけた。

 

「煩い! 大声を出すな!」

 

 直後、顔面目掛けて飛んできたのは、父の枕元にあったぐい呑み。

 

「申し訳ありません」

 

 俺は咄嗟にぐい飲みを左手で受け止めると、痺れるような痛みを感じながら、声と共に頭を下げる。

 

「…ふん」

 

 俺に背を向けたまま忌々し気に鼻を鳴らす父に、俺はもう一度無言で頭を下げ、その場を後にする。

 

「…兄上」

「大丈夫だ、千寿郎。前にも言ったが、今の父上は躓き倒れているだけ。必ずまた立ち上がり、前へと歩きだされる。我らはその日を信じよう」

「………はい」

 

 その様子を心配そうに見つめていた千寿郎をそう励まし、共に廊下を歩くが…同時に心の奥底である思いが湧きあがる。

 躓き倒れた父上。千寿郎には必ずまた立ち上がり、前へと歩き出すと言ったが、それは何時になるのだろうか…もしかしたら、二度と………。

 いかんいかん! 俺は何を考えている! このように弱気な事を考える事自体、父上への侮辱だ! 煉獄家長男として、炎柱として、そして千寿郎の兄として、俺は前を見て、止まることなく歩き続けなければ!

 俺は、心の中で再度そう決心し、隣の千寿郎に笑顔を見せるのだった。 




最後までお読みいただきありがとうございました。


※大正コソコソ噂話※
 
この後。3日間の完全休養を取った煉獄様は任務に復帰。
無限列車の始発駅周辺で調査を行った後、無限列車の車庫で切り裂き魔事件を起こしていた鬼と対峙。これを撃破しました。
またその際に、始発駅で弁当売りをしている少女やその祖母と知己を得たようです。

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