鬼殺隊監査役・東雲麟矢   作:SS_TAKERU

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お待たせいたしました。

今回、あの柱が登場します。

お楽しみいただければ幸いです。



肆之巻 -東雲麟矢の鬼殺隊改革その2-

麟矢視点

 

 耀哉様にコンパウンドボウを見せてから10日程が経った1912年(大正元年)9月のある日。

 

「ん?」

 

 自室で東雲商会(父の会社)の次なる戦略について意見書を書いていると突然、何かが窓を叩く音が聞こえてきた。不思議に思い、視線を窓へ送ると…

 

「これはこれは」

 

 そこに居たのは足に青い紐が結ばれた1羽の鴉。器用にその場へ滞空しつつ、嘴で窓ガラスを突いている。

 

「いらっしゃい、モーリアン」

 

 俺はすぐさま窓を開け、モーリアンと呼んだ鴉を室内へ招き入れる。

 そう、この鴉はただの鴉じゃない。鬼殺隊の隊士1人1人につけられ、本部からの通達を伝える伝令係を務めている鎹鴉の1羽であり、耀哉様から賜った俺担当の鎹鴉(かすがいがらす)だ。

 ちなみに性別は雌で、ケルト神話に登場する戦女神の一柱から、モーリアン*1と名付けている。

 

「カァァァ、オ館様カラノ手紙、持ッテキマシタ。カァァァ」

「ありがとう」

 

 背中へ背負う形で結びつけられた風呂敷包みを見せながら、来訪の目的を告げるモーリアンに俺は一言お礼を伝え、風呂敷包みを解き、中に入っていた手紙に目を通していく。

 

「なるほど…あまねさんの代筆か」

 

 手紙にはまず、時候の挨拶*2、それから耀哉様の代筆として自分がこの手紙を書いている事への詫びと、了承を求める一文が書かれ…それから本題が書かれていた。本題の内容は―

 

「モーリアン。耀哉様に手紙の件、確かに了解いたしました。手紙に書かれている日時で問題ありません。と伝えてくれるかな?」

「カァァァ、ワカリマシタ。必ズオ館様ニオ伝エシマス。カァァァ」

「お願いしますね。あ、あと帰る前に何かお腹に入れていってください。食べたい物ありますか?」

「カァァァ、マヨネエズヲ所望シマス。カァァァ」

「了解。少し待っててください」

 

 モーリアンの返答に苦笑しつつ、俺は台所にマヨネーズを取りに行く。鴉って本当にマヨネーズが好きだよね。

 

 

 それから3日後。俺は朝から馬を駆り、手紙に書かれていた住所へと向かった。

 そうそう、耀哉様からの手紙には―

 

 -先日のこんぱうんどぼうや弓隊編成の件について、隊士の中で()()()()()()()()()()()()()()へ話したところ、一度会ってみたいと言っていた-

 -今は任務を終えて自宅で休養を取っているから、一度会ってみてほしい-

 

 とあった。そう言った事に最も詳しくて、自宅を持っている隊士。そんな条件に該当するのは、俺の知る限り1人しかいない。 

 

「ここか…」

 

 手紙に記された住所に建てられていたのは、産屋敷邸には劣るもののかなりの豪邸。

 俺は馬を降り、手土産を収めた風呂敷包みを片手に、門を潜ると―

 

「ごめんくださいませ! 宇髄天元(うずいてんげん)様は御在宅でしょうか?」

 

 そう声を発した。

 

 

天元視点

 

「ごめんくださいませ! 宇髄天元様は御在宅でしょうか?」

 

 自慢の嫁3人が作った朝餉を食べ終え、少し経った頃、聞こえてきた若い男の声。

 

「約束の時間5分前か。キッチリした奴だ」

 

 応対に出た須磨(すま)の背中を見ながら、静かに呟く。お館様が俊才と絶賛していたが…どれ程のものか、見極めさせてもらおう。

 

 

「音柱、宇髄天元様。本日は休養中にも拘らず、面会の時間を設けていただき、ありがとうございます」

 

 座敷の上座に座る俺に対し、そう言って頭を下げる男。上背は5尺5寸*3ってところ、年の割にはデカイな*4

 顔立ちも俺程ではないが整っている。上の中に近い上の下ってところか。

 

「私―」

「東雲麟矢、15歳。父親は飲食店経営でここ数年急成長を遂げている東雲商会の社長、辰郎、35歳。母親は琥珀、33歳。訂正はあるか?」

「いえ、合っております」

「色々と逸話を持っているようだな。()()()()()()()()()()。だの、同じく4歳でシェイクスピアのベニスの商人、それも()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だの、7歳で()()()()()()()()()()()()()()()()()()*5だの…正直、眉唾物なんだが…」

「残念ながら、全て事実です。論語とベニスの商人に関しては、父の書斎にあった物を読んでおりましたし、高等学校の試験については、父の友人が()()()()()数年前の試験問題を受けさせてくれました」

「…そりゃ、大したもんだ」

「恐縮です」

 

 半ば呆れたような俺の呟きに、そう返してくる東雲麟矢。ずば抜けて頭が良いと言うのは…間違いないようだ。

 

「こう見えても俺は―」

「元忍、でいらっしゃいますね? 宇髄天元様、10月31日生まれの御年20歳。身長6尺5寸3間*6、体重25貫333匁*7。趣味は3人の奥様との温泉巡りと秘湯探し。好きな物はふぐ刺し。奥様の名前は、雛鶴(ひなつる)さん、まきをさん、須磨さん。訂正はありますか?」

「………いや、ない」

 

 辛うじて声を絞り出した俺だが、内心穏やかじゃいられない。こいつ、俺達について()()()()調()()()()()()()…だと!?

 

「宇髄様には、釈迦に説法でしょうが…如何なる場合においても情報収集能力というものは大切です」

「元忍の宇髄様も、情報収集能力には相応の自信をお持ちだと思いますが…商人には商人の情報網というものがございます。甘く見ると…思わぬ竹箆返(しっぺがえ)しを受ける事になりますので、ご注意ください」

 

 そう言って笑顔を見せる東雲麟矢。俺はそれまで抱いていた『頭が良いが荒事は苦手そうな坊々(ぼんぼん)』という評価を『凄まじく頭が切れる。敵に回すと危険な男』というものに切り替える。

 考えてみれば、ただ勉強が出来るだけの男を、お館様がひなき様の許婚にする訳がない。こいつは…なかなか面白い付き合いが出来そうだ。

 

 

麟矢視点

 

 俺を見る宇髄様の目が変わった事を察し、俺は内心『作戦通り』と呟く。

 俺の事をどう聞いているかはわからないが、耀哉様がどんなに良く評価していたとしても、自分の目で見て最終的な評価を下そうとする。

 そう考えて幾つかパターンを想定していたのが功を奏したわけだ。

 

「宇髄様、順序が逆になってしまいましたが…こちらをお納め下さい」

 

 ここからは好感度を上げていくとしよう。俺は風呂敷包みを宇髄様の前に差し出し、包みを解いていく。

 

「こいつは…」

 

 包みの中身は、2本の一升瓶と2つの木箱。どれも知る人ぞ知る逸品だ。

 

「こちらの2本は、灘の生一本(きいっぽん)*8。それも生酒*9でございます」

「灘の……生酒…」

 

 ゴクリと唾を飲み込む宇髄様だが、それも無理はない。日本一の酒処である灘の酒。それも、生一本(きいっぽん)で生酒ときた。

 冷蔵技術や輸送技術が凄まじく発展していた令和の時代ならまだしも、今は大正時代。現地に行かなければ、まず口に出来ない幻の逸品が目の前にあるのだ。目を奪われて当然だろう。

 

「それから木箱の中身ですが…こちらは長崎産のカラスミ。こちらは、石川産()()()()()()()()()*10でございます」

「河豚の卵巣の糠漬けだとっ! 珍品中の珍品じゃねぇかっ!」

 

 続けて見せた木箱の中身。特に河豚の卵巣の糠漬けへ反応を示す宇髄様。流石は派手好き、知っていたか。

 

「つまらない物ですが、お近づきの印です」

「いやいやいや、こいつはまた結構な物を! おーい! 雛鶴! まきを! 須磨! 酒だ! 酒盛りの準備をしてくれ!」

 

 満面の笑みを浮かべ、酒盛りの準備を3人の奥さんに告げる宇髄様。まだ、午前中なんだけど…

 

「おい、東雲。お前、()()()()()?」

「…年の割には」

「よし、お前も飲め! 固めの盃って奴だ!*11

 

 ………まぁ、良いか。

 

 

天元視点

 

 薄皮を剥いてから薄切りにしたカラスミを、これまた薄切りにした大根で挟んだもの。

 箸で摘まんだそれを一口噛り、カラスミのほどよい塩気と深い旨味が口の中に広がったところで、ぐい飲みに注いだ生酒を一口。

 

「ふぅ…」

 

 今度は、薄切りにした河豚の卵巣の糠漬けを少量箸で摘まみ、口へと運ぶ。直後感じる強烈な塩気、そして濃厚な旨味を堪能し、生酒で洗い流す。

 

「くぁぁぁ、たまんねぇな! 控えめに言って最高だ!」

「それは何よりです」

 

 生酒と珍味を堪能する俺にそう返し、盃の酒をゆっくりと飲んでいく東雲。酒の飲み方はまだまだ地味みたいだな!

 

「ところで宇髄様。例の件なのですが…」

「ん? あぁ、わかってるわかってる。酒に飲まれて忘れるような馬鹿はしねぇよ」

 

 真面目な顔の東雲にそう返した俺は、ぐい飲みに残っていた酒を飲み干し…

 

「あのコンパウンドボウって弓、()()()()()()()()()()()()()和弓(わきゅう)とは勝手が違うから、最初こそ戸惑ったが…慣れてしまえば、威力も射程も和弓とは大違い。お前の言ったように爆薬や毒を併用すれば、少なくとも()()()()()()()()()()()()()()だろう。鬼殺隊の中に弓隊を作るという話、俺は賛成させてもらう」

 

 伝えるべき事を伝えた。

 

「ありがとうございます!」

「だが、問題がある。鬼殺隊は慢性的な人材不足。弓隊の人員を隊士から引っ張ってくるのはまず不可能だ」 

「その事ですが、『隠』の皆さんから参加者を募ろうと思っています。『隠』の皆さんは、()()()()こそありませんが、最終選抜を生き残る事が出来た方々ばかり。弓の才能に恵まれた方も探せば必ず見つかる筈です」

「なるほど、その辺りも考慮済みか」

 

 俺の挙げた懸念に対し、僅かな澱みもなく答える東雲。俺は静かに笑いながら、ぐい飲みへ生酒を注ぎ―

 

「雛鶴、まきを、須磨。お前達もしっかり飲んどけ。生酒なんてそうそう飲めるもんじゃねえぞ」

 

 嫁達にも生酒を進めていく。すぐに明るく返事を返し、生酒を堪能していく嫁達だったが…

 

「あ、忘れてました」

 

 東雲が急にそんな声を上げ、脱いで脇に置いていた背広。その懐から封筒を取り出した。

 

「奥様方にもお土産があったのをうっかり忘れていました。よろしかったら、お納めください」

 

 そんな言葉と共に差し出された封筒。代表して雛鶴が受け取り、了解を得た上で中身を確認すると―

 

「こ、これって!」

 

 俺も殆ど聞いたことない程上擦った雛鶴の声が響いた。

 

「パティスリー東雲の商品券1円分と、レストラン東雲の食事券4人分*12です。東京府内の店舗ならどこでも使えますので」

 

 平然とした顔でそう答える東雲に対し、興奮と喜びの入り混じった声を上げる嫁達。須磨に至っては―

 

「て、てて、天元様! 良い人です! 東雲さんは良い人です! ハッ!? 天元様が祭りの神なら、東雲さんは食事の神!?」

 

 訳のわからない事を口走って、まきをから一撃を食らっていた。

 東雲の奴、うっかり忘れていたとか言っていたが…実際はわざとだな。嫁達もすっかり心を許しているし…油断出来ない奴だぜ。

 俺はそんな事を考えながら、ぐい飲みの中身を一気に飲み干し…これから色々と起きるであろう派手な事に考えを巡らせるのだった。

*1
モーリアン(Morríghan)、もしくはモリガン(Mórrígan)。ケルト神話で語られる半神半人の英雄クー・フーリンの補佐を務めていた事で知られる

*2
挨拶状で最初に書く季節を表す言葉を用いた文章の事。拝啓の後ろに付く『○○の候』『暑中お見舞い申し上げます』など。

*3
約166.7cm

*4
明治43年当時、17歳男性の平均身長が160cm弱と言われている

*5
この高等学校は、旧制高等学校のことを指し、現在の大学教養課程を意味する

*6
約198cm

*7
約95kg

*8
米、米麹、および水を原料とし、一ヶ所の製造所だけで造られた純米酒のこと

*9
『火入れ』と呼ばれる60℃ほどの加熱処理を一度もしない酒のこと

*10
猛毒テトロドトキシンを含んだ河豚の卵巣を1年から1年半塩漬けにした後、米糠や唐辛子、魚醤に半年から1年漬け込む事で解毒。食用可能にした珍品中の珍品

*11
大正11年まで未成年者の飲酒は特に禁止されておらず、儀礼その他で飲酒する事は当たり前とされていた

*12
ディナーコース1円25銭×4人分




最後までお読みいただきありがとうございました。

次回はあの柱が登場予定!



※大正コソコソ噂話※

後日、雛鶴さん、まきをさん、須磨さんの3人は商品券片手にパティスリー東雲へ突撃。
様々な洋菓子を大人買いして、心行くまで堪能したそうです。
ただし…甘い物を食べ過ぎた結果、いつもより少しばかりハードな鍛錬を数日間行う羽目になったそうです(笑)
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