肆拾陸之巻を投下します。
お楽しみいただければ幸いです。
麟矢視点
産屋敷邸でのやり取りから四日が経ち、遂に無限列車での作戦に臨む日となった。
「先行している炎柱、煉獄杏寿郎様から送られた最新情報によると、無限列車の始発駅界隈で『切り裂き魔事件』を起こしていた鬼の討伐には成功したものの、この鬼は無限列車の車内で乗客を襲っている鬼とは別個体である可能性が極めて高い。との事です」
俺は煉獄様の鎹鴉である『
「私と玄弥君は、現在こちらへ向かっている助っ人が到着次第、後から追いかけます。それまでは煉獄様の指示に従い、決して無理・無茶・無謀なことはしないように。良いですね?」
「「はい!」」
「お、おう」
最後に幾つかの注意事項を伝え、出発する三人を俺は後峠さん、玄弥君と共に見送る。そして、三人の姿が見えなくなったところで―
「では、こちらも最終準備に取り掛かりましょう」
後峠さんと玄弥君にそう告げて行動を開始した。さぁ、煉獄様の運命を変える為にも、万全の準備を整えて戦いに臨むとしよう。
善逸視点
途中休憩を挟みつつ、最初の目的地である無限列車の始発駅へ到着したんだけど…
「なんだあの生き物はー!!」
停車している機関車を見た途端、伊之助の鼻息が荒くなった。伊之助! 麟矢さんに言われたこと、もう忘れたのかよ!
「こいつはアレだぜ、土地の主…この土地を統べる者。この長さ、威圧感、間違いねぇ…今は眠っているようだが油断するな!」
「いや、麟矢さんが言ってただろ。これが汽車だよ」
「シッ! 落ち着け!」
「いや、お前が落ち着けよ」
「まず俺が一番に攻め込む」
極力穏便に済ませようと伊之助に声をかけるが、伊之助の興奮は収まらない。それに…
「伊之助、これはこの土地の守り神かもしれないだろう? それから急に攻撃するのは良くないと思うぞ」
炭治郎まで真面目な顔でズレたことを言い始めた。勘弁してくれ!
「いや汽車だって言ってるじゃんか。列車わかる? 乗り物なの、人を運ぶ」
俺は必死に冷静さを保ちながら、炭治郎へ声をかける。伊之助はともかく炭治郎なら、話せばすぐにわかって―
「猪突猛進!!」
そうしている間に列車へ頭突きを仕掛ける伊之助。何やってんだよ!?
「やめろ恥ずかしい!」
「よせ伊之助。落ち着くんだ!」
必死に伊之助を抑えていると、我に返った炭治郎も伊之助を宥め始めた。ここでこんな騒ぎを起こしたら、色々と面倒なことになる。なんとか伊之助を宥めて、ここを離れないと!
「何してる貴様ら!」
だけど俺の予想よりもはるかに早く、異変に気付いた駅員が笛を吹きながら、こちらへ向かってきた。となると、次の反応は…
「あっ! 刀持ってるぞ…! 警官だ、警官を呼べ!」
「待って! 待ってください!」
予想通りの反応を見せる駅員に俺は声を張り上げ、出発前に麟矢さんから預かり、懐に忍ばせておいた封筒を差し出す。
「ま、まずはこれ、これを見てください。警官を呼ぶのは、その後に」
俺の声に怪訝な顔をしながら、封筒に入れられていた書類に目を通す駅員。変化はすぐに訪れた。
「し、失礼しました!」
書類を読み終えると同時に、深々と頭を下げて俺達に謝罪する駅員。周りの人達は何が起きているのか解らないみたいだけど、それはこの際どうでもいい。
「今、極秘の任務中でして。ここで起きたことは何卒内密に」
「は、はいっ!」
俺は駅員にそう告げると炭治郎、伊之助を連れて急いでその場を離れる。あぁ、大事にならないでよかった…。
炭治郎視点
「鬼殺隊は政府公認の組織じゃないから。あくまで黙認してもらってるだけ。だから人の少ない田舎ならまだしも、こんな人の多い場所じゃ本来、堂々と刀持って歩けないんだよ」
人の少ない場所で列車を待つ間、俺と伊之助は全員分の切符を買ってきた善逸から、さっきの件について説明を受けていた。
「鬼がどうのこうの言っても、
「一生懸命頑張ってるのに……」
「麟矢さん言ってたよ。『世の中には知らないほうが幸せな真実もある。そういう風に割り切っていくしかない』ってな」
「そう、か…」
知らないほうが幸せな真実。麟矢さんが言うのなら、それが正しいのだろう。だけど頭では正しいと思えても、心のどこかに引っ掛かりを覚えてしまう…
「あ、さっき見せてた書類は何だったんだ?」
俺はそんな思いを頭の隅に追いやり、善逸が駅員に見せていた書類について問う。あれには何が書かれていたのだろう?
「あれは、俺達が
「…お金」
「『余計なゴタゴタを避けられるなら安いもんだ』って笑ってたけど…やっぱり凄いなぁ、麟矢さん」
どこか遠い目をした善逸に頷きながら、俺は改めて麟矢さんに思いを馳せる。そうしている間に、無限列車が発車する時間がやってきた。
俺達は念の為日輪刀を背中に隠し、列車へと乗り込んでいく。まずは炎柱、煉獄さんと合流しよう。
善逸視点
「ぅおおおお! 腹の中だ! 主の腹の中だ! うぉおお! 戦いの始まりだ!」
「うるせーよ!」
乗車した途端また騒ぎだした伊之助を一喝し、俺は炭治郎に視線を送る。
「炭治郎、炎柱の煉獄さんだけど…この前の裁判で一回会っただけだけど、顔とか覚えてるのか?」
「うん、派手な髪の人だったし、匂いも覚えているから。だいぶ近づいて…」
「うまい!」
炭治郎の声を遮り、俺達の全身を震わせた大声。その声の出所へ視線を走らせると―
「うまい!」
「うまい!」
「うまい!」
「うまい!」
「うまい!」
「うまい!」
大声でうまいを連呼しながら、幾つもの弁当を凄い勢いで平らげていく人の姿が…聞いていた特徴から見て、あの人だとは思うんだけど、間違いないよな?
「あの人が炎柱?」
「うん…」
「ただの食いしん坊じゃなくて?」
「うん…あの…すみません」
俺の問いを戸惑いながらも肯定してくれた炭治郎が声をかけると…
「うまい!」
「あ、もうそれは、すごくわかりました…」
本当に…大丈夫、なのか?
炭治郎視点
最初こそ驚かされたけど、煉獄さんは柱だなんだと偉ぶることもない明るく快活な人柄の持ち主で、俺達はすぐに心を通わせることが出来た。
最初は鼻息の荒かった伊之助も、なんだかんだで心を開いている。本当に凄い人だ。山ほどあった弁当を分けてもらったことは、それほど関係していない…筈だ。
まぁ、それはさておき…煉獄さんの隣の席に座らせてもらった俺は、無限列車が発射する前に伝えるべきことを伝えようと口を開く。
「あの、煉獄さん。裁判の時は俺と禰豆子を真っ先に信じてくれて、ありがとうございました!」
「あれは君と君の妹の行い。そして東雲が見つけ出した諸々の事柄を総合的に判断した結果だ。礼を言われる程の事をしたわけではない」
「それでも…ありがとうございました!」
「そうか! では、礼はありがたく受け取るとしよう!」
煉獄さんにお礼が言えて、どこかスッキリとした気持ちになる中、煉獄さんは―
「そういえば、胡蝶と東雲から話を聞いた。ヒノカミ神楽なるものについて知りたいそうだな」
俺が今一番知りたいことを口にしてくれた。
「は、はい! しのぶさんから聞きました。炎の呼吸を使う煉獄さんなら、何かを知っているかもしれないって!」
「うむ! だが、ヒノカミ神楽なるものについて、俺は何も知らん! 胡蝶に聞いたのが初めてだ!」
「そ、そうなんですか…」
「しかし君の父が使っていた神楽が、鬼との戦いに応用出来たことは実にめでたく、そして興味深い! 仮定の話だが、そのヒノカミ神楽は
「失伝してしまった呼吸…ですか」
「あぁ! 千年を超える鬼殺隊の歴史において、鬼との戦いで使い手が絶え、失われた呼吸は決して珍しいものではない。竈門少年、この任務が終わったら、俺の家に来るといい! 俺の家には代々の炎柱が書き記した書物がある。もしかしたら、それにヒノカミ神楽についての手掛かりが記されているかもしれん!」
「いいんですか!?」
「遠慮することはない! 好きなだけ読むといい! それから、君が望むのであれば、俺の継子になるといい。君の妹共々面倒を見よう!」
「え…あ、いや、ちょっと待ってください。ありがたいお話ですけど、俺はもう麟矢さんのお世話に―」
「違う師の教えを受けることは、決して珍しいことではないぞ! なにより炎の呼吸は歴史が古い! 得るものが必ずある筈だ!」
「は、はぁ…」
「たしか君は水の呼吸だったな! 炎と水の剣士は、どの時代でも必ず柱に入っていた。知っているとは思うが、炎・水・風・岩・雷が基本の呼吸だ。他の呼吸はそれらから枝分かれして出来たもの。霞は風から派生している! そういえば、君の刀は何色だ!」
「えっ、刀の色は黒です」
「黒刀か! それはきついな!」
「きついんですか!?」
「黒刀の剣士が柱になったのを見たことがない! さらにはどの系統を極めればいいのかもわからないと聞く! だが、刀の色は所詮目安! 努力によって道が開けるだろう!」
煉獄さんの押しの強さに圧倒されながらも、その面倒見の良さに感動していると―
「おっ、動き出した」
発車時刻となり、無限列車が動き出した。
「うぉぉぉぉ! すげぇすげぇ速ぇええ!!」
「危ない馬鹿! この!」
「俺外に出て走るから! どっちが速いか競走する!」
「馬鹿にも程があるだろ!」
「危険だぞ! いつ鬼が出てくるかわからないんだ!」
二人を
「切符…拝見……致します…」
変化が起きたのはその時だ。声をかけてきたのは顔色の悪い男性。切符を拝見?
「何ですか?」
「車掌さんが切符を確認して、切り込みを入れてくれるんだ」
煉獄さんの説明に従い、切符を差し出すと持っていた道具で切符に切り込みを入れていく車掌さん。
「ッ!?」
次の瞬間、俺の鼻が凄く嫌な臭いを察知した。この臭いは!
杏寿郎視点
「拝見しました…」
「車掌さん! 危険だから下がってくれ! 火急のこと故事情は後で説明する! 帯刀ならびに車内で騒ぎを起こすことは不問にしていただきたい!」
いまだ異変に気付いた様子のない車掌さんを背後に庇いつつ、隠していた日輪刀を手にした俺は、正面に現れたそれを睨みつける。
「うわぁ!」
「キャアアッ」
乗客の悲鳴が響く中、姿を現したのは巨躯を誇る異形の鬼。
「その巨躯を! 隠していたのは血鬼術か。気配も探りづらかった。しかし! 罪なき人に牙を剥こうものならば、この煉獄の赫き炎刀がお前を骨まで焼き尽くす!!」
俺の声に咆哮で答え、向かってくる鬼。同時に俺も動き出し―
「炎の呼吸…壱ノ型。不知火!!」
刀の一振りで、鬼の頸を刎ねることが出来た。
「………」
頸を刎ねられ、無言のまま倒れる鬼。念の為に周囲の気配を探るが…この鬼だけのようだな。
「すげぇや兄貴! 見事な剣術だぜ! おいらを弟子にしてくだせぇ!」
「いいとも! 立派な剣士にしてやろう!」
「おいらも!」
「おいどんも!」
「皆まとめて面倒みてやる!!」
俺のことを煉獄の兄貴と呼び慕ってくる竈門少年達を見つめつつ、俺は大きく頷く。これにて一件落着だ!
麟矢視点
炭治郎君達が出発してそろそろ3時間。予定通りにいっているなら、そろそろ始発駅に到着している頃。そして…
「麟矢様。お客様がいらっしゃいました」
「来ましたか。時間通り、流石ですね」
後峠さんの声に答えながら部屋を出た俺は、速足で客人を待たせている応接間へと急ぐ。
今回の任務に万全を期すため、梁としての権限フル活用で参加してもらった腕利き二人。俺の知る限り、最も柱に近い実力の持ち主だ。たとえ上弦の参が相手でもそうそう後れを取ることは無い筈。
「よく来てくれました。お二人の協力に心から感謝します」
応接間に入り、笑顔でそう告げた俺に二人は立ち上がり―
「第21班*1所属。階級甲、犬塚剣蔵。要請により、参上しました!」
「第14班*2所属。階級甲、獪岳。要請により、参上しました!」
高らかにそう答えてくれた。さぁ、やれる準備は全てやった。こちらもそろそろ出発といきましょう。
最後までお読みいただきありがとうございました。
※大正コソコソ噂話※
今回善逸君が使用した証明書は、人口密集地等での鬼殺隊の円滑な活動を可能にする為、お館様が警察上層部に掛け合い、産屋敷家と東雲家が莫大な資金を提供することで発行に漕ぎ着けました。
警察上層部が製造に絡んだ身分証明書という性質上、常時の使用は固く禁じられており、今回のようにトラブルに発展した、もしくは発展しそうな時にのみ使用が認められています。
ちなみに、警察上層部に提供した資金の総額は明らかになっていませんが、東京の一等地に豪邸が5軒は建つくらいの額なのは間違いないようです。
なお、提供の比率は産屋敷家が6、東雲家が4と言われています。