鬼殺隊監査役・東雲麟矢   作:SS_TAKERU

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お待たせいたしました。
肆拾捌之巻を投下します。
お楽しみいただければ幸いです。


肆拾捌之巻 -夢から抜け出せ-

三つ編みの少女視点

 

 あの人から授けられた縄を、眠りについた男と自分の腕に結び付け、私は男の見ている夢の中へ入り込む。そして命じられた通りに、男の精神の核を破壊しようとしたんだけど…

 

「ッ!」

 

 あるものに気付いた私は、慌てて物陰に隠れてそっと様子を窺った。視線の先にいたのは、そう“本体”だ。

 本体である男は、弟らしき子どもに何か稽古をつけていて、こっちに気づいた様子はない。

 

「今のうちに…」

 

 私は男の視界に入らないよう注意を払いながら、急いで“夢の端”を探していく。あの人が見せているこの夢には範囲に限りがあり、夢を見ている者を中心にした円形をしている。

 そして、夢の外側には無意識の領域というものが存在していて、そこに存在している“精神の核”を破壊すれば夢を見ている者は廃人になる。

 

「…あった」

 

 夢の端はすぐに見つかった。風景は続いているのに壁のようになっていてこれ以上進めないのだ。ここが端で間違いない。

 

「早くコイツの“精神の核”を破壊して、私も幸せな夢を見せてもらうんだ」

 

 私は手にした錐で夢の端を突き破り、無意識の領域へ侵入。したのは良いんだけど…

 

「変な無意識領域…熱くて、燃えてる」

 

 男の無意識領域は、至る所で火が燃えている以外は何もない殺風景な場所だった。こんな無意識領域は初めて。

 

「……見つけた。精神の核!」

 

 でも、無意識領域である以上、精神の核は必ず存在する。赤いのは初めて見たけど…精神の核は脆いから、簡単に壊せる。硝子細工のように。

 私は夢の端を突き破った時のように、錐を振り上げるけど―

 

「かはっ…」

 

 そこで指一本動かすことが出来なくなった。これって、まさか…本体が私を止めている? そんなことが出来るなんて、信じ…られない…。

 

 

善逸視点

 

「はい! 出来たよ禰豆子ちゃん!」

「ありがとう、善逸さん」

 

 俺が白詰草で作った花の輪っかを頭に乗せ、満面の笑みを見せてくれる禰豆子ちゃん。あぁ、なんて素敵なんだ!

 俺は頬がだらしなく緩みそうになるのを必死に堪えながら、よく熟れた桃の皮を剥くと、禰豆子ちゃんに渡して一緒に食べ始める。

 

「善逸さん、とっても甘くて美味しいわ」

「うん、喜んでくれて嬉しいよ」

 

 これ以上無いほどの幸せ。そう…幸せを感じている筈なのに―

 

「………」

 

 何か大切なことを忘れている。そんな気持ちが頭の隅から離れない。

 

「あぁ、やめやめ!」

 

 俺は頭をブンブンと振って、そんな気持ちを無理矢理追い出すと、禰豆子ちゃんに向き直る。

 

「禰豆子ちゃん。桃を食べ終えたら、花の輪っかを作ってくれないかな? 作り方は俺が教えるから」

 

 禰豆子ちゃんに作ってもらった花の輪っかを頭に乗せている自分の姿を想像しながら放った問いかけ。だけど…

 

「善逸さん、私…そんな難しいこと出来ないわ」

 

 返ってきたのは予想外の言葉。そしてそれは…俺に気付かせてしまった。

 

『目を覚ませ! 攻撃されてる! これは夢! 都合のいい夢なんだ!』

 

 少し離れた場所で、必死に叫んでいるもう一人の俺の姿を。

 

『お前が好きになった禰豆子ちゃんは、一人じゃ何も出来ない。そんなお人形みたいな子か? 違うよな! お前が、俺が好きになった禰豆子ちゃんは、自分の足でちゃんと立ってる強い子だよな!』

 

 そうだ。俺が知っている本当の禰豆子ちゃんは、鬼に変えられても人としての意識を失わない。それどころか、鬼と戦う道を自ら選んだ強い子だ。

 

「後峠さんとの鍛錬を見たけど、素手じゃ絶対敵わないよなぁ…」

 

 自嘲するようにそう呟き、俺は立ち上がる。そして不思議そうな顔をしている禰豆子ちゃんの頭を撫でると―

 

「だけど、こんな禰豆子ちゃんも素敵だったよ」

 

 そう言い残して、俺はその場を後にした。

 

「善逸さん、どこへ行くの? 私を置いていかないで」

 

 背後から聞こえる禰豆子ちゃんの声に後ろ髪を引かれるけど…振り向くな! 前だけを見て、この夢から抜け出す手段を見つけるんだ!

 

 

伊之助視点

 

「フハハハッ! 勝ったぜ!」

 

 洞窟の一番奥にいた巨大な百足の化け物。今はもう、ひっくり返って動かなくなっているこの洞窟の主の腹の上に立ち、俺は勝ち誇る。

 

「すげぇ! 流石は親分だポンポコ!」

「親分は無敵ですチュー!」

 

 そして子分その一とその二からの称賛を聞きながら、手にした刀を頭上に掲げ―

 

「俺がこの山の王だっ!」

 

 そう宣言した。洞窟の主を倒した今、俺の言葉を否定する奴は誰もいない。俺こそが最強だ!!

 

 -伊之助君。猪や熊に勝った君は、たしかに山の王かもしれない。でも、その強さは、君が暮らしていた山の中という狭い世界でしか通用しない。言うなれば偽りの強さです-

 

「ッ!」

 

 その瞬間、頭の中に響いた声。今のは…前に誰かから言われたような…くそっ、何だってんだ。

 何か大事なことを忘れている…そんな気持ちにモヤモヤしていると―

 

『オイ! 何やってんだよ!』

 

 目の前に現れたのは…俺?

 

『欣也の奴が言ってただろうが! そんなのは本当の強さじゃねえって! 本物の強さを目指すんだろうが!』

「本物の…強さ」

 

 そう呟いた瞬間、俺は思い出した。本当の俺を、そして…

 

「くっそぉ! よくわかんねえが、こんなことしてる場合じゃねえ!」

 

 本当にやらなくちゃならないことを!

 

「子分達! 俺にはやらなきゃならないことがある! ここでお別れだ!!」

「親分! 行かないでポンポコ!」

「オイラ達を置いていかないでチュー!」

「俺は本当の強さを目指すんだ!」

 

 引き留める子分達を振り払い、俺は走り出す。何とかして、ここから外へ出てやるぜ!

 

 

炭治郎視点

 

「あれ? 禰豆子は?」 

 

 家の仕事を熟している最中、姿が見えない禰豆子のことを尋ねると―

 

「姉ちゃん、山菜採りに行ってるよ」

 

 竹雄から返ってきたのは驚きの内容。禰豆子が外に!?

 

「えっ!? 昼間なのに!?」

「?」

「?」

「だめなの?」

 

 思わず大きな声を出してしまった俺を不思議そうな顔で見つめる竹雄、花子、茂。三人を見ていると、なんで大きな声を出してしまったのかわからなくなる…。

 

「あっ…いや、あれ?」

 

 なんで禰豆子が外に出たことを俺はあんなに驚いたんだろう?

 

「炭治郎、お風呂の準備をしてくれる? こっちがまだかかりそうなの」

「あっうん、わかった。すぐやる」 

 

 母さんが声をかけてきたのを幸いとばかりに、俺はその場を離れ、川で水を汲む為に外へ手桶を取りに行く。

 それにしても、この前から変なことばかり言ってしまう。母さんの言う通り、疲れてるのかな?

 自分の体調に僅かな不安を覚えながら、外へ出ると―

 

「ん?」

 

 勝手口の前、そこに生えた木の根元へ無造作に置かれた背負い箱が視界に入った。あれは…

 

「おっと」

 

 何かを思い出しそうになった瞬間、俺は誤って手桶を蹴っ飛ばしてしまった。慌てて倒れた手桶を元に戻すけど、次の瞬間何故か背負い箱は消えていた。

 

「あれ?」

 

 何だったんだろう…見間違いなのか? どこか釈然としないまま、俺は両手に手桶を持ち、川へと向かう。そして、水を汲もうと川面を覗き込む。

 

「ッ!?」

 

 そこには、もう一人の俺がいた。まるで透明な壁を叩くような動作をしながら、俺に何かを訴えかけようとしているようだ。

 

「………」

 

 思わず、俺も川面へ手を伸ばすと、もう一人の俺は俺の手を掴んで川の中へと引き擦り込み―

 

『起きろ! 攻撃されてる! 夢だ! これは夢なんだ!』

 

 そう告げてきた。これが…夢!?

 

『目覚めろ! 起きて戦え!』

 

 そうか…そうだ。俺は…汽車の中だ!

 真実に気付いた俺は、気持ちを集中して、体を川底へと沈めていく…これで、夢から覚められるか?

 

 

「兄ちゃん、たくあんくれよ」

「ッ!」

「だめだってば! やめなさいよ!」 

「何でそんなお兄ちゃんから食べもの取るのよ!」

「何だよ!」

「さっきおかわりしたでしょ!」

 

 竹雄と花子の声、そして目の前で始まった二人の口喧嘩に、未だ夢の中であることを悟る。

 どうすれば…どうすれば出られる!? せっかく夢だと気付けたのに、どうすればいいんだ!!

 

 

禰豆子視点

 

「?」

 

 目がさめたわたしは、せおいばこからころがり出たんだけど…目のまえにいる男の人はたったままねむっている。それに女の人のくびをつかんでいるし…なにをしているんだろう?

 

「!」

 

 すぐちかくにいたおにいちゃんもねむっている。だけど―

 

「起きないと…夢だ。起きないと…はぁ、はぁ、はぁ…」

 

 なんだかすごくくるしそう…。おにいちゃん、だいじょうぶ?

 わたしはおにいちゃんをおこそうと、からだをゆするけど、おにいちゃんは目をさまさない。いつもならすぐにおきて、わたしのあたまをなでてくれるのに…わたしはなんだかいらいらして…

 

「ムーッ!」

 

 おにいちゃんのおでこにずつき!

 

「………」

 

 ものすごくいたい…おにいちゃんが石あたまなの忘れてた…なみだがぽろぽろ出てとまらない。

 

「ムムーッ!」

 

 わたしはすごくかなしくなって、おもわずけっきじゅつをつかってしまった。

 

 

炭治郎視点

 

「!?」

 

 竹雄と花子の口喧嘩を止めようとした瞬間、体が炎に包まれた。

 

「お兄ちゃん!!」

「どうしよう火が! 兄ちゃん!!」

 

 炎に包まれた俺を見て、慌てふためく二人を尻目に、俺は冷静だった。これは禰豆子の匂いだ。禰豆子の血だ。禰豆子!

 

「!?」

 

 次の瞬間、炎に包まれていた俺の姿が変わった。日輪刀! 隊服! 覚醒している! 少しずつ…少しずつ!

 

「お兄ちゃん、大丈夫?」

「兄ちゃん……」

 

 俺を心配する花子や竹雄、茂達の視線から逃げるように俺は下を向き…振り絞る様に言葉を紡ぐ。

 

「……ごめん…行かないと…早く戻らないといけない。ごめんな」

「お兄ちゃん!」

 

 皆の声を振り切るように、俺は縁側から外へと飛び出す。俺に夢を見せてる鬼が近くにいるなら、早く見つけて斬らなければ…!

 

「お兄ちゃん。どこ行くの?」

 

 そこへ聞こえてきた禰豆子の声。

 

「今日は山菜いっぱい採れたよ」

 

 だめだ…止まっちゃいけない。止まっちゃいけないのに…俺の足はその動きを止めてしまう。

 

「あっ、お母さん。六太」

「炭治郎、どうしたの? その恰好は…」

 

 母さんの心配する声が、更に俺の心を抉る。

 

「………」

 

 あんなことが無ければ、ずっとこうして暮らしていた筈なんだ。ここで…。

 あんなことが無ければ、家族一緒に貧しくても、慎ましく誠実に生きていたんだ…禰豆子も鬼になったりせず、日の光の中で、青空の下で生きていたんだ。

 俺もここで炭を焼いていた。刀なんて握ることもなかった。本当なら…本当なら!

 許されるなら、このまま夢の中(ここ)にいたい。振り返って戻りたい。そんな思いを否定することは、俺には出来ない。

 だけど、ここに留まることは許されない。俺には遣り抜かないといけない事があるんだ。

 俺は改めて覚悟を決め、振り返らずに走り出す。

 

「お兄ちゃん、置いて行かないで!」

 

 ごめん、ごめんな六太。俺はここにはいられない…一緒にはいられないんだ。

 夢の中でも、弟を泣かせるなんて酷い兄ちゃんだよな。駄目な兄ちゃんだよな。だけど、いつだって兄ちゃんはお前のことを想っているから。家族皆のことを想っているから。

 一日でも早く禰豆子を人間に戻して、鬼舞辻無惨を倒して、皆のもとに帰るから。だからどうか許してくれ。

 心の中で家族に詫びながら、俺は只管に走る。夢の中(ここ)から脱出するために…。

 

 

結核の青年視点

 

「………」

 

 物凄い勢いで走り去る“本体”の少年を木の陰に隠れることでやり過ごし…俺は覚悟を決める。早く、精神の核を破壊しなければ…。

 

「ここだ…」

 

 直後、見つけ出した夢の端を手にした錐で突き破り、無意識の領域へ侵入したのだけど…

 

「こ、れは…」

 

 少年の無意識領域は、水面と白い雲が浮かぶ澄みきった青空がどこまでも続く世界。なんという美しさ…どこまでも広い。暖かい…

 

 

麟矢視点

 

 自動車を爆走させること約一時間半。前世の記憶や可能な限り収集した無限列車の情報等を総合して導き出した想定通りなら、今頃無限列車の乗客は全て、下弦の壱・魘夢の血鬼術によって眠らされて、夢の中。

 そして、炭治郎君や煉獄様達はそれぞれに夢から覚めようと、行動している筈だ。

 

「このまま計算通りに移動出来れば…」

 

 上弦の参(猗窩座)の出現前後に炭治郎君達と合流出来る。心の中でそう呟きながら、更に車を走らせていると―

 

「ッ!」

 

 数百m先に松明で作られた目印が見えた。無限列車の状況を確認することを目的に、列車が進む線路に沿って数名の隠を前以て配置しておいたのだが、恐らく彼らが設置したものだ。

 

「情報の更新といきますか」

 

 俺は車の速度を落とし。目印へ近づいていく。すると、隠もこちらに気付いたのだろう。急いで駆け寄ってきた。

 

「監査役!」

「ご苦労様です! 無限列車は?」

「約10分前にここを通過しました! 詳細はこれに!」

 

 低速で走る自動車と並走する隠とそんな会話を交わし、俺は差し出された紙包みを受け取る。

 

「ありがとうございます! 皆さんは直ちに撤収を!」

「ご武運をお祈りします!」

 

 隠からの激励を受け取ったところで、俺は再び自動車を加速させながら―

 

「すみませんが、これを読んでもらえますか? 運転しながらだと読めないので」

「なら、俺が読もう」

 

 獪岳に紙包みの内容を代読してもらい、最新の情報を踏まえた状態で想定を修正していく。

 

「よし、今のままなら」

 

 今のところ、修正は最小限で済んでいる。俺は想定外の事態が起きないことを祈りながら、自動車を爆走させるのだった。




最後までお読みいただきありがとうございました。


※大正コソコソ噂話※
 
 後峠さんの戦い方の指導を受け、実力を向上させている禰豆子ちゃん。
 同時に、精神的にも若干の成長が見られており、現時点の精神年齢は小学1年生程度だと推測されています。
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