鬼殺隊監査役・東雲麟矢   作:SS_TAKERU

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3ヶ月半近いお待たせとなり、申し訳ありません。

伍拾弐之巻を投下します。
少し短いですが、お楽しみいただければ幸いです。


伍拾弐之巻 -激闘・上弦の参(中編)-

麟矢視点

 

「さて、上弦の鬼。ここからは四対一だが…卑怯などと言ってくれるなよ?」

「…見れば理解出来(わか)る。お前達三人の強さもかなりのものだ。杏寿郎には劣るが、練り上げられた闘気。至高の領域へ踏み入ることも夢ではない」

 

 俺の投げかけた言葉に対し、獰猛な笑みをますます獰猛にしながら、心底嬉しそうな様子を見せる猗窩座。浮かべているその笑みは、相応の修羅場を潜ってきた俺達ですら、気を緩めたら卒倒してしまいかねない程の狂気を孕んでいる。

 背中に感じる寒気を必死に無視しながら、俺はコンパウンドボウに弓を番え、静かに弦を引き絞る。同様に煉獄様と獪岳は日輪刀を正眼に構え、犬塚氏は右手に打刀、左手に脇差を持つ二刀流の構えを取る。

 互いに何時でも飛び出せる状態で睨み合う俺達と猗窩座。ゆっくり10数えられるだけの時間が流れた頃―

 

「そういえば聞いていなかった。俺は猗窩座だ。お前達も名前を聞かせてくれ」

 

 思い出したように、猗窩座が口を開いた。正直な話、無視しても良いのだが…敢えて乗るとしよう。

 

「鬼殺隊監査役『梁』、東雲麟矢」

「…獪岳だ」

「犬塚剣蔵」

 

 俺の名乗りに一瞬驚いた顔を見せながらも、同じように名乗ってくれる獪岳と犬塚氏。すると猗窩座は嬉しそうに頷き―

 

「そうか。麟矢、獪岳、剣蔵。お前達に素晴らしい提案をしよう。鬼にならないか?」

 

 煉獄様にも行ったであろう提案をしてきた。

 

「人間は老いる。人間は死ぬ。それでは至高の領域に至ることなど夢のまた夢だ。鬼になろう! そうすれば、百年でも二百年でも鍛錬し続けられる。至高の領域まで辿り着ける!」

 

 半ば興奮した様子で己の考えを口にする猗窩座。さて、この考えには幾つか矛盾があるわけだが…

 

「断る!」

 

 俺が何かを口にする前に声を上げたのは、犬塚氏だ。

 

「己が欲のままに無辜の人を襲い! 殺す! そして…敬愛する我が父を殺した! そんな鬼になど誰がなるものか!」

「…嘗て犯した大き過ぎる過ち。それを少しでも償う為、今の俺は生きている。鬼になるなどお断りだ」

 

 啖呵を切る犬塚氏に続き、獪岳もそう断言してくれた。さて、俺も続くとしよう。

 

「たしかに人間は死を恐れる。不老不死を求めるのは、古今東西の権力者にとって()()()と言っても良い。もしも世界中の人間に今の質問を行ったとしたら、最低でも三分の一は首を縦に振るでしょう。私自身、鬼殺隊に身を置いていなかったら、首を縦に振っていたかもしれない」

 

 ここまで言ったところで、俺は一旦言葉を切り…だが、と続けていく。

 

「鬼殺隊の一員として鬼と戦い、鬼について調べていく内に、こう思うようになりました。鬼になるのは、断固お断りだと。いくら不老不死になったって、大切な人と太陽の下のんびり散歩する。そんなささやかな幸せを諦めなくちゃいけないんですからね」

 

 そう言った瞬間、猗窩座の顔から表情が消えていく。()()()()というキーワードが、何かに引っかかったか? まぁ、それはさておき…もう少し時間を稼がせてもらおう。

 

「それに…こちらが調べたところによると、鬼の生殺与奪は鬼舞辻無惨に握られているようですね。どれだけ誠実に尽くそうと、無惨の虫の居所が悪ければ、即抹殺。癇癪持ちと例えることすら馬鹿馬鹿しく思えてくる程のとち狂った独裁者。そんな輩に怯えながらの不老不死に、一体何の魅力があります?」

 

 俺の半ば煽るような発言に、完全な無表情となる猗窩座。そろそろだな。

 

「さぁ、お喋りはこれで終わり。ここからは、戦いといきましょう!」

 

 俺はそう言うと同時に僅かに緩めていたコンパウンドボウの弦を引き絞り、猗窩座目掛けて矢を放つ!

 矢は猗窩座へ一直線に飛んでいき、その額を射抜く筈だったが…

 

「………」

 

 猗窩座は無造作に突き出した左手、その人差し指と中指で矢を挟み、受け止めてみせた。前世、漫画喫茶で読んだ北〇の拳のような芸当に、俺は内心賛辞を贈るが…生憎その矢は()()()()()()()()

 

「ッ!」

 

 俺の表情から何かを察知し、咄嗟に矢を手放した猗窩座だったが…

 

「ぐぁっ!?」

 

 残念、矢を手放すのが少し遅かった。爆薬を仕込んでいた矢は爆発し、猗窩座の左手首から先を吹っ飛ばす。矢を手放していなければ、二の腕辺りまで吹っ飛ばしていた筈だが…まぁ、贅沢は言うまい。

 まぁ、猗窩座の再生能力ならば、あの程度の傷はすぐに再生してしまうだろう。しかし、一瞬の隙を作ることは出来る。そして、ここにいるのはその隙を絶対に見落とさない腕利きばかりだ。

 

「参ノ型。気炎万象!」

 

 正面から、上から下へと弧を描く様に刀を振るう煉獄様の『気炎万象』。

 

「伍ノ型。熱界雷!」

 

 左翼から、下から上へと斬り上げる獪岳の『熱界雷』。そして右翼からは―

 

「壱ノ型。白波!」

 

 オリジナルの呼吸『波の呼吸』を生み出した犬塚氏が繰り出す、相手を挟むように繰り出される二刀での斬撃。三者三様の攻撃が猗窩座へ迫る。さぁ、この同時攻撃をどう凌ぐ?

 

「破壊殺・砕式! 万葉閃柳!」

 

 猗窩座が取ったのは、振りかぶった自らの拳で地面を殴るというものだった。地面を砕き、蜘蛛の巣のようなひび割れを広範囲に生じさせるほどの一撃で、三人の攻撃は強制中断となり、その隙に猗窩座は左手を再生を行いながら、距離を取ろうと宙に舞う。

 相手の攻撃を中断させた上で、距離を取りつつ再生を行う。咄嗟の判断としては完璧に近い。だが、だからこそ―

 

「それは()()()だ」

 

 次の瞬間、闇の中から銃声が響き、空中の猗窩座を狙い撃った。頭の左半分を吹き飛ばされ、受け身も取れないまま地面に叩きつけられる猗窩座。

 

「流石は後峠さん。良い腕だ」

 

 

後峠視点

 

「僅かに外れた…いや、外されましたか」

 

 頭を撃ち抜かれ、無防備のまま地面に叩きつけられたにも拘らず、三秒と経たない内に立ち上がり、半分以上吹き飛んでいた頭を再生させていく鬼。私はその様子を単眼鏡越しに見ながら、静かに呟きます。

 麟矢様のご命令で同行することとなった今回の鬼討伐。麟矢様からの説明や禰豆子様の動き、そして玄弥様の銃や今回の回転式多銃身機関銃(ガトリングガン)を調達する際に使った軍属時代の伝手から入手した機密情報で、重々理解しているつもりでしたが…

 

「些か認識が甘かったようですね」

 

 この『マウザー Gewehr98(小銃)』の有効射程*1、その限界ギリギリからの狙撃。

 完全な意識外からの攻撃で、額のど真ん中を撃ち抜いた筈でしたが…まさか発射から着弾までの、それこそ一秒にも満たない間に異変を察知し、回避行動を取るとは。あの鬼の反射神経と身体能力は、禰豆子様をも凌駕しているようですね。

 

「ですが、それならそれでやりようはあります」

 

 私は目標の動きを当初の想定…禰豆子様と同等よりも大幅に引き上げ、再度小銃を構える。

 

「元帝国陸軍中佐、後峠喜代晴。狙い撃たせていただきます」

 

 

猗窩座視点

 

「参ノ型。千波万波!」

「弐ノ型。稲玉!」

 

 並走して俺へと向かって来た剣蔵と獪岳がそれぞれ放つ連撃。どちらの技もなかなかのものだ。

 

「破壊殺・乱式!」

 

 俺は足を止めて無数の拳打を放ち、二人を迎撃!

 

「くぅぅっ!」

「ぬぅぅっ!」

 

 二対一のぶつかり合いを制し、二人を後退させた俺は、間髪入れずに追撃をかけようとするが―

 

「伍ノ型。炎虎!」

 

 そこへ突っ込んで来たのは杏寿郎だ! 文字通り炎の虎となって向かってくるその姿。素晴らしい技だ!

 

「脚式・飛遊星千輪!」

 

 俺は渾身の力を込めた蹴りを杏寿郎へぶつけ、その反動で互いに吹き飛んでいく。受け身を取ると同時に、前へ出ようと足に力を入れるが―

 

「ッ!」

 

 その時には既に麟矢が動いていた。杏寿郎を庇うように前へ出ると同時に、こちらへ向けて矢を放っている。

 回避は困難。受け止めることは容易いが、あの矢も恐らく先程の物と同じように時間が経つと爆発するのだろう。ならば!

 

「弾き飛ばせば良いだけのこと!」

 

 俺は飛んでくる矢を弾き飛ばす為、左腕を振るう。瞬きほどの時間も経たないうちに、矢は明後日の方向へ弾き飛ばされていた筈だったが…

 

「ぐぁっ!?」

 

 俺の拳が触れた瞬間矢は爆発し、俺の左肘から下を吹き飛ばしていた。どういうことだ? 先ほど受け止めた矢とは、また違う絡繰りがあるというのか!?

 混乱を無理やり静めながら、体勢を立て直そうとした瞬間、俺の背中に走る寒気。

 

「ちぃっ!」

 

 まるで弾かれるように回避行動を取ったその刹那。俺の右脚に何かが命中し、膝から下を吹っ飛ばす。

 僅かにでも回避行動を取っていなかったら、右脚が丸ごと持っていかれただろう。

 

「ぬぁぁっ!」

 

 残った左脚と両手を使って、俺は杏寿郎達と距離を取り、右脚を再生させていく。

 

「俺が察知出来ない遠距離からの狙い撃ちに、火薬を仕込んだ矢…好かんやり方だが、侮れん」

 

 鉛玉や火薬を仕込んだ矢などで俺を殺すことなど出来はしない。出来はしないが、戦いの天秤を大きく傾ける可能性がある以上、無視するわけにもいかん。

 見通しの甘さを反省しつつ、俺は杏寿郎達と対峙する。さぁ、続きを始めようか!

 

 

麟矢視点

 

「弐ノ型。逆波!」

「肆ノ型。遠雷!」

「脚式・流閃群光!」

 

 犬塚氏と獪岳の同時攻撃と猗窩座の連続蹴りがぶつかり合い、直後、三人は生じた衝撃波と共に吹き飛んでいく。

 

「伍ノ型。炎虎!」

 

 そこへ追撃をかけたのは煉獄様だ。一気に猗窩座との間合いを詰め、日輪刀を振るう。

 

「破壊殺・乱式!」

 

 しかし、猗窩座は瞬時に体勢を立て直し、無数の拳打を放って煉獄様を迎撃。攻撃を凌ぎきる。

 

「そこっ!」

 

 そして、俺が三連続で放った矢も―

 

「破壊殺・空式!」

 

 連続で拳を振るい、放たれた衝撃波の弾幕で撃墜してみせた。

 

「またか…」

 

 三度連続で繰り返された流れに、思わず舌打ちしてしまう。数の有利を活かし、こちらが攻撃の主導権を握り続けてはいるが、あと一歩のところで猗窩座は凌ぎ続けている。

 更に後峠さんの狙撃を警戒しているのか、細かく動き続けており、狙撃の隙を与えようとしない。正直言って、このままでは埒が明かない。

 

「夜明けまであと20分弱…勝負に出るか」

 

 俺はコンパウンドボウと矢筒をその場に置き、小太刀を抜きながら煉獄様達の横に立つ。

 

「麟矢、お前は弓使いだろう? 何のつもりだ?」

「弓を主に使うからと言って、小太刀(これ)の扱いが不得手な訳じゃありませんよ」

 

 猗窩座の問いにそう答えながら、俺は獪岳と犬塚氏に合図を送る。出発前に伝えておいた作戦、それを実行する時だ。

 

「それから…()()()()()()()()()()用意しておいて当然!」 

 

 次の瞬間、俺は周囲に呼吸音を響かせながら、ゆっくりと構えを取る。

 最初は風の呼吸を行い、次に雷の呼吸へと切り替える。そして再び風の呼吸へと切り替え、雷の呼吸へと切り替える。

 

「東雲、その呼吸は!?」

 

 煉獄様は早速気づいたようだな。

 

「俺独自の呼吸、紛の呼吸。その鍛錬を進めていくうちに思いついたものです。模倣した既存の呼吸を掛け合わせ、上の段階に引き上げる。今の段階では、二つの呼吸を組み合わせることしか出来ませんけどね」

 

 風の呼吸と雷の呼吸を間を置かず繰り返す内に、二つの呼吸は混ざり合い、一つの呼吸に変わっていく。まだ名前を付けていないが…

 

「仮に風雷合一とでもしておきましょう!」

 

 夜明けまでもう少し。残る力全てを出し切る!

*1
500m




最後までお読みいただきありがとうございました。
次回、激闘決着。


※大正コソコソ噂話※

後峠さんが使用している小銃は、玄弥君と同じ『マウザー Gewehr98』。
しかし、狙撃の名手である後峠さんに合わせ―

・着脱式の光学式照準器(6倍)追加。
・銃身に狙撃補助用のバイポッドを追加。
・銃本体の補強。
・弾丸を専用の強装弾に変更。

遠距離狙撃に特化した改良が施されています。
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